


「何よ」
「そっちこそなんだよ」
先刻些細なことで喧嘩をしたこの二人。視線が合うたびにこんな調子だ。
「用事があるのかと思って」
「別にあんたなんか見てないし」
かちんっ。
精霊の方に青筋が立つ。
「あー、そーですか。じゃあ、俺自分の部屋いくわ」
「あっそ」
それぞれ部屋はあるが、同じ家に住んでいて食卓テーブルは同じだ。
――もう数分もしたら夕飯の時刻なのに。
神人はため息をつく。
――なんであんなこと言っちゃったんだろう。
同じころ、精霊も自室でため息をついていた。
――どうしてあんな態度とっちゃったんだろう……。
一度すれ違うと絡んだ糸はなかなかほどけないもので、二人はそれぞれ頭を抱える。
これからもあの人とは一緒にいるのに。
「あ」
「えっと」
夕食時、リビングで顔を突き合わせ、二人は硬直した。
「何?」
「えっと、そっちからどうぞ」
「あのね――」
そこで出てくるのは謝罪の言葉だろうか。
それとも、他愛ない他の事だろうか。
関係を修復できるのは、他でもない自分達しかいない。
そのことにはとっくに気づいていた。
――ごめんね。
その一言が出てこない。
二人はしばしの間見つめ合った。
「ええと、俺部屋に」
戻るわ。と背を向けた精霊の背中に、神人はこつんと額を当てる。
「あのね――」


●目的:仲直りしましょう
デート代とかなんやかんやで300Jr消費致します。
舞台は家でもお出かけ先でもOK。
なんらかのきっかけで二人は喧嘩をしてしまいました。
どんな他愛の無い事(楽しみにしていたプリンを奪われた)でも結構ですし、
とても重たい事(相手の過去やプライドに関わること)でも結構です。
喧嘩というほど派手なものでなくとも、なにか気まずい空気になった程度でもOKです。
喧嘩の内容と、その状態から二人がどうやって元に戻ろうとするのかをプランにどうぞ。
場合によっては仲直りできないこともあるかもしれませんが、頑張りましょう。
冒頭のウィンクルムは謝ろうとしていますが、
もちろん謝罪しなくてもOKです。
お二人の『方法』で元の関係、元の雰囲気まで戻りましょう。
ちなみに冒頭のウィンクルムの喧嘩の内容は、
「ねー、冷蔵庫に入れといたゼリー知らない?」
「食った」
「はああぁぁ!?」
「そんな怒ることないじゃん」
「あれ限定30食のなんだよ! ふざけんな返せ!」
「うるせーなゼリーくらいで」
「ゼリー くらい ってなんだ! 並んで買ったゼリー返せ!」
みたいな些細な事です。
食べ物の恨みは怖いよ


◆アクション・プラン
リヴィエラ(ロジェ)
|
(AROA本部の一室にて) リヴィエラ: ロジェ、コーヒーを淹れてみましたよ。 良かったらこれを飲んで、仕事の疲れを癒してくださいね。 え、え…? (ロジェの説教を聞きつつ) …ですもの… 私、生まれてからずっと監禁されていて、コーヒーの淹れ方なんて 教わった事ありませんもの! 砂糖と塩の区別すら、わかりませんもの! ロジェのバカっ! わぁぁぁっ!(大泣きしながら外へ) ロジェ… いいえ、私が悪かったのです。 折角ロジェが外の世界へ連れ出してくださったんですもの、 私、色々な事を覚えていきたいなと思っているんです。 本当にごめんなさい… (ロジェに抱きしめられ顔を真っ赤に) …はい、私も愛しています。 |
|
突然振り出した雨に濡れて、近かった彼の家へ シャワーを浴びるように言われて、有難く浴びた後… 羽純くんが濡れた私の服を洗濯してくれたのはいいんですが…し、下着まで!? 恥ずかしさで気が動転して、思わず、羽純くんのバカ!と叫んでた訳で… 彼がシャワーを浴びる間、リビングのソファーで悶々としちゃいます 色気がないなんてヒドイ…でも、真実だよね… 羽純くんは親切でやってくれたのに、酷い事言っちゃった 羽純くんにあんな事言っちゃったの、初めて… やって来た彼の色気にドキッ じゃない、謝らなきゃ あの… ごめんなさい! …怒って…ない? 良かった…って、そ、そう…なんだ(ふええ、恥ずかしい も、もう!見る訳ないよ、羽純くんのバカ! |
|
今日は休日で部屋掃除してたら、勇の本棚から算数のよろしくないテストの答案用紙が。 この前国語のテストは見せたから算数はなかったのか聞いたら、「算数はない」って言ってたよねぇ。 学校から帰ってきたら、勇にお説教。 「ママのバカ」って…家にいないから勉強しないんじゃとあたしが気にしそうだからって思ってそうだけど…問題そこじゃないし。 意地張ってご飯いらないって部屋に篭ったけど、手軽に食べられるサンドイッチ作り、冷蔵庫のゼリーを持って部屋へ。 「勇、ママはウソつかれるのが何よりも悲しい。テストの点が悪いことよりもね。…勇、今、お腹は空いている? 正直に言ってごらん」 「よく出来ました」 ウソをつかない奴になれ、勇。 |
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一緒にご飯 どちらが払うかで揉め喧嘩 無言のまま街を歩く 私の方がお姉さんだもの やっぱりあそこは私が払うべきじゃないかしら でも一番びっくりしたのはあの額を、大した額じゃないって言った事かしら… ちょっと価値観の違いに驚いたわ ちらりと横を見るが目は合わない でもいつまでも喧嘩したままなのは嫌… 何よりお金が原因の喧嘩なんてすっごく寂しいわ このまま気まずくなったら…そんなのイヤ! オリヴァーくん! …し、衝動的に声掛けちゃったけどまだ言いたい事が纏まってなかったわ …うん、私もムキになっちゃってごめんね あ、そういえば 世の中には割り勘ってものもあるんじゃないかしら? 友達いなすぎてようやくその事思い出し いい案!と笑顔に |
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神人宅 自分が床に落とした一枚のメモを精霊が捨てたことに立腹 内容は両親の仏壇にいつも供える近況報告 報告内容は精霊と契約したこと (落とした私も悪いけど…だからってあの態度…!) (また書けば良いだろって…確かにまた書けば済むことだけど) 時計を見ると、喧嘩する前に来ると言っていた約束の時間間近 お夕飯…カイさんの分も思わず作っちゃったけど… 呼び鈴がなり、玄関の扉を開ける えっ、カイ、さん? な、なんで… あ…いえ、なんでも… これって。桃? …あ、い…いえっ…! あの…。私の方こそすみませんでした… えっ? 内容? えっと……秘密、です …あの。カイさん。お夕飯、食べていって下さい。仲直り、しましょう 自然と笑顔に |
●
御神 聖は久々の休日で部屋を掃除していた。掃除機をかけて、服をタンスに入れて、本棚を整理する。――ん?
そこで見つけてしまったのだ。息子である御神 勇の算数の答案用紙。
先日、彼が国語のテストを見せてくれた。その時に算数のテストは無かったのかと聞いたのだが、その時彼は確かに『算数はない』といったはずだ。
――学校から帰ってきたら、お説教だねぇ。
小さくため息をつき、聖は答案をたたんでテーブルの上に置いた。
程なくして。
「ただいまー」
「おかえり勇」
少し、空気が緊張している気がして勇はいぶかしげな顔をした。
「ちょっと、そこに座って」
「え、……うん」
リビングに二人で座り、聖は件の答案用紙をひらりと広げて見せた。
「あっ」
「これなんだけどね」
さぁっと勇の顔色が変わる。どうしても視線を合わせられず、俯いてしまった。
「勇の本棚から出てきたんだけれど」
隠していた悪い点数のテストが見つかってしまった。勇は口をつぐんだまま。
「勇、この点数……ちゃんと勉強しているのかい? 点数も酷いし、それにどうして……」
隠したりしたんだい、と問おうとすると、勇は眉をつり上げて切り返した。
「ママのバカ!」
バカって。聖が何かを言おうとする前に、勇は悔しそうにつぶやく。
「そんなにおこらなくてもいいのに」
「勇、ママは」
(だって、ママは自分がいつも家にいないからなんじゃって気にしちゃうでしょ。ママががんばってはたらいてるの、知ってるから。はたらいてるのだって、ぼくのためだし。だから心配かけたくなかったのに、そんなに怒らなくてもいいじゃない!)
ぐ、と涙が零れそうになるのを堪えながら、勇はそっぽを向いた。そして、勢いよく立ち上がる。
「ごはんいらない」
バタバタと自分の部屋へ走り、勢いよく扉を閉めた。
「勇!」
聖は、小さくため息をつく。
(……あたしが家にいないから勉強しないんじゃとあたしが気にしそうだからって思ってそうだけど……問題そこじゃないし)
母親として、息子のテストの点数が問題なのではない。自分を気遣ってくれていたというのはわかるが、それもただの言い訳にしかならない。聖は少し考えて、手軽に食べられるようサンドイッチを拵えた。
――その頃。
(う、お腹すいたなぁ……)
きゅる、と勇の腹の虫が鳴く。それでも、絶対にこの部屋から出たくなかった。どんなにお腹が減っていても、ああやって啖呵をきってしまったのだ。こちらからノコノコ出ていくわけにはいかない。その時、コンコンと扉を軽くノックする音が聞こえた。
――返事は、しない。
「勇」
「……」
「入るよ」
がちゃ、と扉を開いた聖の顔は、怒っていない。勇は少し安堵したような。いや、でもここで折れるわけにはいかないと、視線を合わせなかった。
聖の手には、さっきつくったばかりのサンドイッチと冷蔵庫でよく冷やしたゼリー。
「聖、なんでママが怒ったかわかる?」
「テストの点がわるかったから」
ぶっきらぼうにぼそっと答える。聖は困ったように眉を寄せた。
「ううん、勇、ママはウソつかれるのが何よりも悲しい」
「え……?」
顔を、上げる。漸く、怒るよりも悲しげな顔をした母親の姿が目に入った。
そう、聖はテストの点数がわるかった『勇』ではなくて、嘘をついて誤魔化して隠していた『勇』を悲しんでいたのだ。
「テストの点が悪いことよりもね。……勇、今、お腹は空いている? 正直に言ってごらん」
じわ、と勇の視界が霞む。
「ごめんなさい、ママ。おなか空いてる」
「よく出来ました」
ぎゅう、と勇を一度きつく抱きしめると、聖は勇の頭を優しく撫でる。
――ウソをつかない奴になれ、勇。
母の思いは、きっと伝わっているはず。
「宿題も勉強もがんばるけど、ウソはやめるね」
顔を上げた勇は、どこかすがすがしい表情をしていた。サンドイッチを受け取ると、美味しそうに食べる。
「サンドイッチおいしいね」
「うん」
分かり合ってから親子で食べるサンドイッチの味は、格別だった。
●
天埼 美琴は、自室でむぅっとむくれたままだった。
(落とした私も悪いけど……だからってあの態度……!)
それは、先日カイがこの家に来たときの事だった。彼はこともあろうか、床に落ちていたメモを確認もせずに勝手に捨ててしまったのだ。それは、美琴にとっては大切なメモだった。内容は、両親の仏壇に供える近況報告だったのだ。大切な事を書いてあるのに、どうしてと怒ったが、それに対してカイは『それぐらいのことで』と言ってきた。
――それぐらい、ではなかったのに。
報告内容は、『精霊と契約をしたこと』だったのだ。
『何を書いていたのかは知らないが、また書けばいいだろ』
そう言われたのが、酷く悲しかった。
時計を見れば、家に来ると喧嘩をする前に約束した時間まであとわずか。
(お夕飯……カイさんの分も思わず作っちゃったけど……)
こんな気分じゃ会いたくないし、向こうだってきっと来ない。無駄になっちゃうな……。
その頃、カイもぼんやりと考えていた。あのとき、何故いつも大人しい美琴があんなに怒ったのか。何と書いてあったのかは見ていないので分からない。後になって考えてみれば、よっぽど大事な内容なのかも知れない――。
(……悪いことしたな……)
神人のことも気がかりだし、仲直りしないと流石にまずい。カイは立ち上がると約束の時間まで時間があることを確認し、急いで家を出た。
仲直りの印に、なんておこがましいけど桃を持って行こうか。
美琴の家のチャイムが鳴る。
「えっ?」
玄関を開けると、美琴は大きく目を見開いた。
「カイ、さん? な、なんで……」
「……なんだよその反応」
約束の時間ピッタリに訪れた精霊に、美琴は驚きを隠せないと言った様子であたふたと慌てた。
「あ……いえ、なんでも……」
平静を装う美琴に、カイは紙袋をずいと差し出した。
「これ、やる。果物、嫌いじゃないだろ」
「これって。……桃?」
ふわ、と甘くみずみずしい香りが玄関先に漂う。頷いたカイは、こう続けた。
「……悪かったな……お前には大事なもんなんだろ」
あのメモ。
ばつが悪そうに謝罪するカイに、美琴は少しだけ慌てて被るようにして謝罪を返す。
「……あ、い……いえっ……! あの……。私の方こそすみませんでした……」
少しだけ、気まずい様なくすぐったいような空気が二人の間に流れる。沈黙を破ったのはカイの方だった。
「なんて書いたんだあのメモ」
「えっ? 内容?」
美琴は少し視線を泳がせた後、小さな声で答えた。
「えっと……秘密、です」
なんだ、そうか。と少し残念そうにカイは苦笑した。――秘密にするような内容だ、やはり『大切な事』を書いていたんだろう。どうしようか、今日はもう帰った方がいいか? 考えていると、美琴が手のひらで部屋をそっと差した。
「……あの。カイさん。お夕飯、食べていって下さい」
「夕飯?」
一呼吸おいて、美琴は自然に笑顔を零す。
「仲直り、しましょう」
「……あ、ああ……」
ふっと、カイがつられるようにして笑った。
さあ、二人で食卓につこう。
あたたかい夕飯を、ふたりで。
●
「わっ……本降り!?」
桜倉 歌菜と月成 羽純は、急に雨に降られてびしょ濡れになってしまった。たまたまその場所から近かったので、羽純の家に行くことにしたが……。
「っくしゅん!」
「歌菜、そのままでいると風邪ひく。……シャワー貸すから、使って」
「うん……ありがとう」
あたたかいお湯を浴びて、ほこほこと湯気を纏いながら脱衣所に出てきた歌菜は頭が真っ白になった。ない。下着が――ない! とりあえず羽純が置いておいてくれた部屋着があったのでそれを着たのは良いが……。ひょこと顔を出し、おそるおそる尋ねる。
「は、羽純くん……? 私の下着……?」
「ん? ああ、洗濯したよ」
全部まとめて。と指さした先は洗濯機。ごうんごうんと音を立ててすすぎにはいったところだろうか。
「羽純くんのバカ!」
――バカ? 歌菜からそんなことを言われたのは初めてだった。折角洗濯してあげたのに、お礼ではなくてバカ? そう思うとムッとしてしまって。
「別に色気のない下着なんだからいいだろう。終わったら、さっさと行け。俺も早くシャワーを浴びたい」
湯上りの彼女の火照った肌、さっき見てしまった下着。恥ずかしさもあり、照れ隠しも混ざってそんなことを言ってしまった。
「わ、わかった!」
ぱたぱたとリビングに走り、歌菜はソファに座る。それを見ることもせず、羽純は浴室へと入れ替わるように入った。
(初めての喧嘩だ。いつも俺に気遣ってばかりの歌菜が、感情を出して怒った)
シャワーを浴びながら、羽純は思った。そこで、今頃になって急に『嬉しい』という感情が募ってきた。
(それだけ、俺に遠慮しなくなったという事だから)
サァァ、とシャワーの音で外の様子は判らない。
(そしてそれは……きっと俺も)
互いに遠慮がなくなってきているという事だ。
(色気がないなんてヒドイ……でも、真実だよね……)
リビングで膝を抱え、歌菜ははぁっとため息をつく。
それもショックだったけれど、何より……。
(羽純くんは親切でやってくれたのに、酷い事言っちゃった……羽純くんにあんな事言っちゃったの、初めて……)
自己嫌悪。
すると、浴室から出てきた羽純が髪をタオルで拭きながらこちらへやってきた。その色気に、歌菜は思わずどきっとしてしまう。
――じゃない、違う。謝らなきゃ!
「あの……ごめんなさい!」
「ごめん」
同時に謝罪の言葉が。重なった声に、羽純はぷっと吹き出した。
「いや、ごめん」
「ううん、私こそ……酷い事言ってごめんなさい。……怒って……ない?」
「あぁ、俺も言い過ぎた」
ごめんな、そう言って隣に座った彼に、ほっとしてしまう。
「良かった……」
「あと」
「え?」
「色気がないなんて、嘘だ。目のやり場に十分困った」
真っ白なプリマコルセット、清楚で女性らしい下着は『色気がない』からは程遠い。
「……って、そ、そう……なんだ」
ぷしゅぅぅぅと湯気が出そうなほど頬を染める歌菜。
(ふえぇぇ恥ずかしいぃ……)
「はは、俺だって男だ。仕方ないだろう?」
仕方ないような、仕方なくないような。
「何なら……お返しに俺のも見るか?」
悪戯っぽく羽純が笑う。びくっと肩を跳ねさせて歌菜は震える声で叫んだ。
「も、もう! 見る訳ないよ、羽純くんのバカ!」
――バカ。
その響きが、妙に嬉しくて。
だって、それは『嫌い』と言う意味では、無いとわかっているから。
●
「ロジェ、コーヒーを淹れてみましたよ」
リヴィエラは、資料を纏めるロジェの元に一杯のコーヒーを運んだ。
「良かったらこれを飲んで、仕事の疲れを癒してくださいね」
にっこりとほほ笑んで彼女が差し出したコーヒーからは湯気が立ち上っている。
「あぁ、コーヒーを淹れてくれたのか。ありがとう、リヴィー」
ロジェは何の疑いもなくコーヒーを口元へと運ぶ。口を付けた時点で、気付いた。
「……って、これ中に入ってるの、砂糖じゃなく塩じゃないか!」
なんというベタなミス! リヴィエラは慌てふためく。
「え、え……?」
そんな、確かに白い粉末状の調味料を入れたはず……!
ゲホゲホと咳き込んだロジェが眉間にしわを寄せて説教を始める。
「全く君は一応貴族だろ?」
そこから、リヴィエラは何も喋らなかった。
「コーヒーの淹れ方ひとつ教わらなかっ――」
ロジェは途中まで言いかけて、ハッとした顔をする。――しまった。
リヴィエラの肩が震えていた。
「……ですもの……」
「リヴィ……」
「私、生まれてからずっと監禁されていて、コーヒーの淹れ方なんて教わった事ありませんもの!」
バッと顔を上げたリヴィエラの大きな青い瞳からはぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちる。
「砂糖と塩の区別すら、わかりませんもの!」
ロジェが何か言い返す前に、まくし立てるように叫ぶとリヴィエラはロジェに背を向け、大きな声で泣きながら部屋を出て行った。
「ロジェのバカっ! わぁぁぁっ!」
「待て、どこへ行くんだ、リヴィー!」
バタバタと外へ向かって駆け出すリヴィエラを追ってロジェは走る。
(クソッ、俺達はマントゥールに追われているんだぞ! あいつを独りで外に行かせるわけには……!)
教団だけではない。精霊とはぐれた神人はオーガたちの恰好の餌だ。しかも泣いていて周囲が見えていない状況なら、なおさら。
「リヴィー!」
彼女が外への扉をくぐる寸前で、ロジェはリヴィエラの腕を掴んだ。
「はなして!」
泣き顔を見られたくないというようにもがくリヴィエラに、ロジェはそっと語りかける。
「……リヴィエラ……その、すまない……」
「ロジェ……」
彼の真摯な声に思わずリヴィエラは振り返る。その真剣な瞳の色に、リヴィエラは次第に落ち着きを取り戻した。
「俺は口が悪い。だから、こうやって君を傷つけてしまう……」
ほんとうに、すまない。
そういって頭を下げる彼に、リヴィエラはたまらなくなって自分からも謝罪を口にした。
「いいえ、私が悪かったのです……」
「リヴィー……」
「折角ロジェが外の世界へ連れ出してくださったんですもの、私、色々な事を覚えていきたいなと思っているんです。本当にごめんなさい……」
あなたの為に、コーヒーを淹れてみたい。あなたの役に立ちたい。そのためにも。リヴィエラがぽつりと呟いたのを、ロジェは聞き逃さなかった。
「君は確かに監禁され、両親から愛情は注がれなかったかもしれない」
そっと、ロジェはリヴィエラを抱き寄せる。彼女が抵抗しないのを確認すると、そのまま腕の中に閉じ込めてその柔らかな髪を撫でた。
「けれど、その分俺が君を愛しているよ」
リヴィエラは頬を真っ赤に染めて、そして頷く。
「……はい、私も愛しています」
口が悪くとも、私は知っている。この人は、愛情深い人だ、と。
●
「私が」
一緒に外食をし、会計時に支払おうとしたルイーゼ・ラーシェリマを制してオリヴァー・エリッドは財布を出した。
「いいえ、大した額ではありませんし」
「え、でも」
俺が支払います、と言うと、オリヴァーはルイーゼがお金を出そうとする間にサッと支払ってしまった。
店を出たはいいが二人とも、ややしばらく無言になってしまう。
「私の方がお姉さんだもの。やっぱりあそこは私が払うべきじゃないかしら」
漸く口を開いたルイーゼの言葉に、オリヴァーは眉を顰める。
「あの状況で、ではよろしくとはとても……」
男にだって、矜持はあるだろう。けれど、その反論にルイーゼはむっと眉を寄せる。目に見えてルイーゼの機嫌がわるくなっていくことに、オリヴァーは火に油を注いではいけないと口をつぐんだ。
(でも一番びっくりしたのはあの額を、大した額じゃないって言った事かしら……ちょっと価値観の違いに驚いたわ)
サッと財布を出して、支払おうとしたことはもちろんのこと。『私が払う』と言ったルイーゼの申し出を断った言葉が、まさか『金額』について触れているなんて。金銭感覚のズレというのは人間関係の拗れの上位を占める理由になるのも、深く頷ける。
オリヴァーもひっかかっていた。
(ルイーゼさんは自分が年上という事に拘りすぎている気がしますね)
二人の話は平行線をたどっていた。どうにかこの重苦しい雰囲気を打開できないものか。ルイーゼは横を歩くオリヴァーをちらりと見遣る。が、彼もなにか思案顔でまっすぐ前を見ていたため、視線は合わなかった。
(初めての喧嘩がお金の事になるとは……)
予想外の事にオリヴァーはぐるぐると考え込んでしまう。何とか互いの妥協点を見つけて仲直りしたいところだが、それが見つからないから困る。
――普段明るい神人だけに、この無言が妙に気まずい……。
その時、まさかルイーゼも同じことを考えているだなんて思いもしなかっただろう。
(……でもいつまでも喧嘩したままなのは嫌……何よりお金が原因の喧嘩なんてすっごく寂しいわ。このまま気まずくなったら……)
ルイーゼはひとしきり考え込んだ後、顔を上げる。
(そんなのイヤ!)
「オリヴァーくん!」
そう思った時には、衝動的に彼の名を呼んでいた。
ビクッとオリヴァーの首が動いてこちらを向く。
「は、はい?」
(……し、衝動的に声掛けちゃったけどまだ言いたい事が纏まってなかったわ……)
ルイーゼはそのままかたまってしまっている。彼女が逡巡しているのを見て、オリヴァーは直感した。今しかない。
「先程は意気地になってすみません」
彼の言葉にルイーゼも自然に頷いて答える。
「……うん、私もムキになっちゃってごめんね」
「もう少し、話し合ってみませんか?」
オリヴァーの提案に、ルイーゼは快く承諾した。そして、あっと何かに気付いたような顔をする。
「あ、そういえば。世の中には割り勘ってものもあるんじゃないかしら?」
ようやくその事を思い出したのは、友人がいなかったからそんな経験もなかったから。
「ああ、そういえば……では次からはそれにしましょうか」
オリヴァーが納得して頷いてくれたおかげで、ルイーゼはようやく笑顔になった。
(我ながらいい案!)
「じゃあ、次からは半分こね」
「はい」
なんとかおさまってよかった。オリヴァーは、ほっと胸を撫で下ろすのであった。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 寿ゆかり |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 女性のみ |
| エピソードジャンル | ハートフル |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 普通 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 06月02日 |
| 出発日 | 06月07日 00:00 |
| 予定納品日 | 06月17日 |


