


君にとって、忘れられない日になるだろうか。
僕にとって、忘れられない日になるだろうか。
寂寥を照らすのは、闇に沈む黒き光。
君の心を抉る、無慈悲な刃。
振りかざし、笑いかける。
君はどんな道を歩んできたのだろうか。
光に満ち溢れていたのだろうか。
――だったら。
君を奈落まで突き落としてあげよう。
深淵から伸びる手に搦め取られて、堕ちてしまえばいい。
壊れてしまえ。
狂い、もがき、喉が裂けるほど叫んで、慈悲などないと思い知ればいい。
君の心を屠る白銀の刃に身を委ねてしまえ。
砕け散る、最期の瞬間まで。
ああ、なんと甘美なのだろう。
愛しい君が崩れる瞬間を、どうか僕に刻ませておくれ。
愛しい君が消える瞬間を、どうか僕の手に委ねてくれ。
泣いて――。
苦しめて、追いつめて――。
ねえ、聞いてくれるかい?
愛を歌うには満たされなくて。
恋をするほど切なくて。
守られるほど喜びに満たされるのに。
守りたいと願う心は捻じれてゆく。
――狂おしいほど君を愛しているよ。
頬を伝う涙も、君が愛しいから。
どんな過去も君の生きた時間。
絶望が未来へと続きますように。
未来が、僕の傍に巡りますように。
両手に抱えきれない孤独な闇が訪れますように。
ずっと、側にいられますように――。


『忘れられない日』がテーマであれば、どのようなプランでも大丈夫です。
過去の出来事を振り返りましょうか。
記憶の奥底に眠るトラウマを掘り起こしましょうか。
もしかしたら、忘れられない傷を抉られるかもしれません。
今日が、忘れられない日になるかもしれません。
どんな忘れられない日にしましょうか。
●
アレンジ、アドリブと言った要素が多大に含まれると思われます。
寛容に受け入れて頂けますと幸いです……!
絶対にこれはしないで! と言うものがございましたら、文字数を割いていただくことは大変心苦しいですが、ご記入ください。
放っておくと勢いで泣き出しますので。主に精霊さんが……!
●
基本的に、ウィンクルムさんの古傷を抉ることを目的としています。
実体験に基づくお話でも構いません。
実はこの子には知らない過去があって、と言う回想のようなものでも構いません。
●
黒の書のご利用にあたり、1000Jrが必要です。
ウィンクルムさんを幸せに、と願ってはいますが、多少の意地悪も必要だろうなと考えています。
過去や古傷に触れることに躊躇いがないわけではないのですが、一緒に、抱えている苦しい想いに寄り添わせて頂けたら嬉しく思います。


◆アクション・プラン
華(柘榴)
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温かい梅昆布茶を作り、柘榴に渡す。 曇天を彩る桜を眺めれば、あの日が頭を過る。 恐る恐る尋ねる柘榴に、曇天を見ながら淡々と話した。 「所詮は過去です」 (そしてあれは……忘れ難き暴力) 神人になる前、わたくしはスラムに住み、 余所者という事で好奇の目に晒されていました。 そんな時、その街の開発費と引き換えに売られたんです。 ギルティの一人だと名乗る男に。 目隠しをされて、手足も後ろに縛られて。 その上で食べ物からそうでもない物まで食べさせられて。 反撃の余地もなかった悔しさと悲しさで俯く顔。 流れた髪で隠れる顔の中で沸き上がる怒り。 それを歯を食い縛って抑える。 持っていた湯呑みを握る力が次第に強くなる。 許さない、絶対。 |
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過去のことが分かるの? それなら、自分が生まれた時のことが知りたい どうしてあたしは捨てられることになったのか 怖いけど、レムが傍にいてくれることに安心して書を開く 寂れた駅の中 自分とよく似た女性が赤子を抱えて走っている 服はボロボロになって怪我もしている 愛していた人に裏切られた絶望と、それでも赤子を守るという決意を秘めた表情に思えた 「あなただけでも生き延びて」 そう言って赤子をコインロッカーに… 全て見終わった後、しばし呆然と立ち尽くす あの赤ん坊があたしで、あの女性が母さん… レムのぬくもりではっと我に返る 家族はもういないんだという悲しみをじわじわと実感して涙 泣いて最後に残った感情は… 母さんの、仇を討ちたい |
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神人が高校生の頃 父に「探偵を辞める」と宣言された 探偵を辞めてほしくなく毎日反対していた 結局父が折れ探偵を続行 ある時依頼主が「恋人が姿を消した」とのことで父と探しに 依頼主の恋人が帰ってこないのはオーガの仕業 オーガの足元に依頼主の恋人のお揃いのブレスレットが落ちていた為 「風架ッ!」 自分に落ちる人の物ではない鋭い爪 こちらに駆け寄り抱きしめる父の温もり …生温い赤の液体が頬へ散る 父のもの以外に、自分の赤も混じっていた 左耳に触れれば滴る赤。一瞬で消えた左側の音 オーガは駆けつけたウィンクルムに倒され、誰かに安全な場所に連れて行かれる 「っ……誰?」 暗くて相手の顔は見えない ふと、布かなにかが自分の左耳に触れた |
●
どんな思いがあったのかを知ることはできなかったけれど。
「探偵を辞めようと思う」
父の言葉に、風架は呆然とした。
「どうして?」
何かを言いかけた父に、まだ高校生だった風架は首を横に振る。
「あたしは、辞めて欲しくない」
「風架……」
「だって、そんなの……」
嫌だ。
なぜ反対をするのかと聞かれれば、その一言に尽きる。
感情で決めるべきではないと今なら思えるが、その頃はどうしても納得ができなかった。
父の背中を見ていることが好きだったし、手伝いたいとも思っている。
だからこそ、今辞めて欲しくはない。
その日から毎日のように猛反対をした。
何度言われても、何を言われても、気持ちが納得をしないのだ。
そんなやり取りを繰り返し、数日後。
帰宅した風架は、不思議なものを見たような目でその光景を見つめていた。
「おかえり、風架」
「ただ、いま……」
探偵事務所のソファには、父と、もう一人見知らぬ人物がいた。
「もう十日になるんですね?」
「ええ。連絡もなくこんなに留守にすることはなかったので心配で……」
「では少し時間はかかるかもしれませんが、探してみましょう」
父のその言葉に、風架の鼓動が跳ねた。
(探してみる、って言った……?)
探偵を辞める、としきりに言っていた父の口から漏れた言葉に、心が躍る。
「何か手掛かりはありませんか?」
「お揃いのブレスレットを付けています」
そう言って机に差し出されたブレスレット。少し変わったデザインで、特注品のようだ。
「どうか、よろしくお願いします……っ」
深々と頭を下げ、その人物が帰ると、風架は父に思わず尋ねた。
「探す、ってどういうこと?」
「お前が猛反対をするから、結局続けることにしたよ」
「本当……?」
「ああ。まったく、お前には敵わないな」
苦笑いを浮かべる父の顔を見ると、思わず笑みが零れる。
依頼内容は、十日前から音信不通になっている、依頼主の恋人を探すことだった。
特注品のブレスレットを付けていることから、それを目印の一つにすればいいだろう。
他に手がかりがあるとすれば、郊外まで出かけると言っていたくらいだろうか。
「情報がちょっと少ないね」
「まあ、今ある情報からあたってみればいいさ」
「あたしもついて行ってもいい?」
「だめだと言ってもついてくるつもりだろう?」
仕方ないな、と父は笑う。
「十分気を付けること。それと、傍を離れないこと。いいね?」
「分かってる」
数少ない手がかりを頼りに、捜索を開始する。
*
あと少しもすれば街に出るというのに、突然の雨に急遽足を止められた。
仕方なく宿へ引き返す。
想定外だった。
今日中に村を出るつもりでいたのだ。
この辺りには、あまりいい噂が聞こえない。
東側の村でオーガが出たとか、西側では人が突然消えたとか。
テレンスは窓の外の雨模様に半ばうんざりしていた。
A.R.O.Aへ巡回の要請を出してはいるようだが、だからと言って即日でやってこられるような距離でもない。
壁にかかった絵画を、日焼け跡の位置まで戻し、ふっと息を吐く。
少しして、扉を叩く音がする。
「お客さん、いるかい?」
宿主が、簡素な食事を手に部屋の扉を開ける。
「雨がひどくなってきたねぇ」
先程から比べると、確かに雨粒が大きくなったようだ。
屋根を打ち付ける音が、激しさを増す。
「まあ、大したものはないけど、これでも食べてゆっくりしておくれよ」
出されたものは食欲を誘いはしたが、口に運んでみようとは思えなかった。
どうしてか、落ち着かない。
そわそわと浮足立つような感覚がある。
食器が乗せられたトレーを真っ直ぐに向け、食器の向きを揃える。
僅かな歪みも、気になってしまう性分。神経質と言われればそれまでだが、だからこそ、小さな異変にも気づける。
例えば――今。
テレンスは思わず立ち上がった。
――木の数が減ったような……?
少し先に見える森の、その木の数が先ほどより少ない気がした。
ただの気のせいだと笑われるかもしれないが、思い過ごしではなさそうだ。
木が揺れる。
――!?
影が、村へと向かってくる。
しかもそれは、一つや二つではない。
――なんだ、あれは……。
目を凝らしても、見えるはずがない。日没と雨で、視界は極めて悪い。
ただ、異様なものが迫ってくることだけは分かった。
何かを追うように。
何かを捕まえるように。
*
「風架!」
手をぐっと掴まれ、その勢いのまま転びそうになりながら走る。
父の背中をただがむしゃらに追った。
(追いつかれる……ッ)
頭から角の生えた、得体の知れない何かが風架たちを追ってくる。
激しい呼吸を繰り返し、意識が朦朧とする。
それでも、足を止めると追いつかれてしまう。
捕まってしまう。
(嫌……怖い……)
もう足は動かない。
それでも走り続けるのは、父が手を引いてくれているという、唯一現実から切り離されていない感覚からだ。
(どうして、こんな……)
こんなことになったのだろうか。
視界がぼやけ、歪む。意識がどこか遠くへ行ってしまう気がする。
「風架、あと少しだ、頑張れ」
父の声が聞こえる。
でも、でも……――。
足がもつれ、ぬかるんだ地面に倒れ込む。
「大丈夫か、風架!?」
どうして、こんなことになっているのだろう。
何度目かの疑問符に、ふと思う。
(あの時だ……)
昼間、情報を元に立ち寄った村。そこは既に人の気配はなかった。
オーガが出没しているという噂がなかったわけではないが、仮にそれが真実として、放っておくわけにもいかなかった。
その村で、依頼主が探しているであろう人を見かけたという情報があったからだ。
様子がおかしいと思いながらも、暫く村を歩いて回った。
けれど、それが間違いだった。
扉を開けるたび、凄惨な光景が視界に飛び込んでくる。
そのたび、上げそうになる悲鳴を堪え、目を背けた。
オーガに襲われた村の末路は、考えているよりもずっと惨い。
これで最後にしよう。
そう言って父が扉を開けた、その家で見つけてしまった。
狂気だけを映した残忍な瞳と、足元に転がる見知ったブレスレット。
ッ――!
声にならなかった。
足が震えて、動かなかった。
狂った瞳がこちらに向けられ、急速に距離を詰めた。
父が機転を利かせて突き飛ばしてくれなかったら、今頃この世にすらいない。
引きずられるように手を引かれ、夢中で走った。
頭から角を生やし、決して人間と見紛うはずのないその存在は、迷うことなく二人を追いかけてきた。
どこかで撒けないかと考えたものの、隠れられるような場所はない。挙句、道を進むほどその数を増やしていた。
森を避けた父の判断は正しかったのだろう。
幸いだったことと言えば、追ってくる異形の者たちはさほど足が速くないということ。
懸命に走れば逃げきれそうだと思える速さだったこと。
けれど、結局はそれが一番不幸だったのかもしれない。
「風架! 風架……!」
身体を揺すられ、目を開けると父の顔があった。
「大丈夫か?」
「うん……ここ、は……?」
声を低める父につられ、自然と声を落とす。
「とりあえず木の陰に隠れたが……見つかるのも時間の問題だろうな」
「そんな……」
「いいか、風架。奴らの注意を引くから、その間に逃げなさい。いいね、振り返るんじゃないよ?」
「そんなことしたら父さんが……!」
「大丈夫だ。すぐに追いかけるよ」
ぐっと肩を掴まれ、頷くこと以外を許さない笑顔に、渋々と頷く。
父がオーガの足元に石を一つ投げる。
意識が逸れたところで、風架は走り出した。
一拍――。
二拍後、父の足音が聞こえたことに、少しの安堵を覚えた。
だが、それも一瞬のこと。
直後に続く足音と、低く唸る呻き声に、足が止まりそうになる。
そのたびに気持ちを奮い立たせた。前へ、前へと。
「っ……」
けれど、足は止まってしまった。
無情にも、止められてしまったのだ。
風架の目の前に現れた、その異形の姿によって。
囲まれたと気づくよりも先に、大きく鋭い爪が振り上げられた。
足が震えて動くこともできない。次に何をするべきかが分からない。
ひゅっ、と空を切り、振り下ろされる爪を、呆然と見つめるしかできなかった。
「風架ッ!」
声のすぐあとに、何かがぶつかる衝撃があった。
温かい――。
父の体温。そして、それとは別の生温い感触。
頬に落ちる不快感に手を当ててみる。
暗くてよくは見えないが、ぬるりとした液体だと分かった。
そして、初めて気付く違和感。
オーガは今も呻き声を上げている。
風は緩やかに吹き、木々を揺らしている。
だが、左側からの音がまるで感じられない。
不審に思って左耳に触れれば、そこから溢れ滴る何かに触れた。
「――、っ……」
左側を染める、紅は鮮やかな色と共に音を奪った。
*
宿主が退避を呼びかけたのは、テレンスが異変に気付いて少し経ってから。
だが、その時はもう遅かった。
街へと続く道は一本しかない。
その道を塞がれてしまっていた。
――退路もない。かと言って、村に留まったところで結果は同じ、か。
少しでも可能性のある道を選ぶのは、心理だ。
皆が逃げ惑い、少しでも離れた場所へ。そう、考える。
フードを更に目深に被り、テレンスは塞がれた街道を目指した。
気付けば、雨は上がっていた。だが足元は相当悪い。走れば水を跳ねる。音が立つ。
それに気づいたのか、テレンスを追いかけ、振り上げられた爪が、一気に振り下ろされた。
「ッ!」
爪は、腕を掠めた程度。傷は浅い。
そのまま気にせず走り抜ける。街までたどり着きさえすれば、その後はどうにでもなる。
そう、思った。
走る水音。オーガにさらに追われるだろうか。
だが、追ってこない。ほっと胸を撫で下ろす。
「こっちです、急いで!」
明かりを手に、テレンスを呼ぶ声がする。
街道に蔓延っていたオーガを一掃したのか、姿はない。
駆け付けたウィンクルムが、ようやく到着した瞬間だった。
その姿に、気持ちは落ち着いた。
同時に、彼らのように力があれば、とも思う。
適合する神人がいない今のテレンスには逃げることで精一杯だ。
ウィンクルムが村のオーガたちの元へと向かう。
しばらく彼らの姿を見つめ、街道を進もうとした時だった。
「――架っ!」
突然の叫びに、ぞわりと肌が粟立った。
――なんだ……?
その感覚の意味を、テレンスは知らない。
だが、その叫び声が気になって仕方なかった。
声が木霊すように耳に残っている。
迷って、たまらずその声の方へと走る。
ウィンクルムによって即座に討伐されたオーガの中には、自分を襲ったと思しきオーガもいた。
少し離れた場所に、背中から血を流し倒れている男性と、膝を抱えて蹲る少女の姿があった。
ウィンクルムが何かを話している。この少女のことだろうか。
彼らに任せておけばいい。
そう、思いはするものの、なぜか少女から目が離せない。
放っておきたくなかった。
――力があれば、こんな思いをしなかったのだろうか。
一歩ずつ、少女へと近づく。
「っ……誰?」
よく見れば、ひどく震えている。
そして、突然忍び寄る影に、戸惑いを隠せない様子だ。
左耳から止め処なく流れる鮮血に、目を逸らしたくなる。
――傷つけたりはしない。
そう伝えたくて、紅く染まる少女の左耳に手拭いを取り出し、当てる。
触れた感覚に、一度身を震わせた少女だったが、敵意がないと伝わったのか。
「……、……――」
ごくごく小さな声で何かを呟いた。
まるで聞き取れなかったが、膝に顔を伏せて震える姿に、首を振る。
●
「こんにちは」
西方訛りのある言葉で、扉を開けた華ににこりと柘榴は笑いかける。
「いらっしゃい。中へどうぞ」
華はその姿を認めると、家へと招き入れる。
柘榴と会うのはどれくらいぶりだろうか。
思ってはみるが、考えることはしない。
それを望んだのは華なのだから。
「綺麗に咲いてますなぁ」
窓際に立った柘榴が、誇らしく咲く淡い色彩の花を見て呟く。
「曇ってるのが残念やわ」
「そうですね」
適当な相槌に、柘榴は苦笑い漏らした。
「何か飲みますか?」
桜の見える位置に腰を下ろした柘榴に問う。
「そうやなぁ。ほんなら、梅昆布茶とかあります?」
「ありますよ」
即答すれば、驚いたような顔の柘榴が視界に入った。
気にせず、少し温めの湯で梅昆布茶を作り、湯呑を柘榴に手渡す。
「なんや、準備されてて意外、ちゅうか……」
「無いと思って言ったのですか?」
「いや、そうやないんですけど、鳳はんらしいなぁ思て」
湯呑に口をつけ、絶妙な温度と風味に、柘榴はふわりと笑みを零す。
「桜は嫌いですか?」
「どうして?」
「なんや、反応がいつもより薄いさかい、嫌いなんかなぁと思ただけです」
「嫌いではないです」
好きだ、とも言わない。
華は曇天の空を見上げて、仄暗い空に色を乗せる桜に眉をひそめた。
「鳳はん。聞いてもええですか?」
「なんですか?」
様子を窺うように、柘榴は華の顔を見る。
「なんで、依頼の時しか会うてくれへんのです?」
理由を告げず、それでも華の意向だからと柘榴は了承をしてくれた条件。
気にならないわけではないのだろうし、機会があれば聞いてみたいと思う気持ちも理解できた。
湯呑を握る手に、少しだけ力がこもる。
「所詮は過去です」
そう、切り出す。
淡々と、感情を殺すように。
「神人になる前、わたくしはスラムに住んでいました」
所詮は過去。
それは間違いない。だが、それと同時に、華にとって忘れることのできない暴力の日々だった。
*
余所者――。
そんな理由で、好奇の目に晒され続けた日々。
誰も好き好んでスラムに住んでいるわけではないし、だからと言って部外者を排除するような視線も嫌いだった。
石を投げられることも珍しくなければ、言葉と言う刃を突き立てられるのも、もはや日常だった。
その程度のことで、心が折れたりはしない。
その程度のことで、心が傷つくことはない。
言い聞かせるしかなかった。強く、何度も。
世間は街を見捨てていた。
拓かれることのない道。
積み上がった瓦礫。
淀んだ空気と、荒んでいく人々。
青いはずの空は薄暗く、常に灰色をしていた。
(空は、どんな色だっただろう……)
思い出そうとしても、美しい空を見た記憶すら思い出せなくなっていた。
ぼんやりと見上げる空が翳る。
頭上から影が落ちて、視線とぶつかる。
「お前がこの街の余所者か?」
男の声に顔を上げる。フードを被って良くは分からなかったが、ぎらついた目をしていると思った。
余所者――。
何度目の言葉だろう。
数え切れないほど言われた言葉に、無意識に頷いていた。
まるで刷り込まれたかのように、自分は余所者なのだと思い、信じていた。
「お前を引き取りに来た」
「……え?」
どういうことだろうか。
この街に、救いなどないはずだ。
「この街が、お前を売った」
少しでも、期待が表に出たのだろうか。
男は、言葉を変えた。
思考が止まる。
「どういう……」
「この街の開発を助けてやる代わりに、何かを差し出せと言ったら――」
男はくっ、と喉の奥で笑う。
「お前を差し出してきた」
くつくつと笑いを押し殺しながら、それでも男はぎらついた色を隠しもせず見下ろす。
(差し出した……?)
まっ白になっていく。
頭の中も、視界も、すべてが白に染まる。
問い返すこともできないまま、次の瞬間、強烈な痛みを伴って吹き飛ばされた。
「っう……」
「女子供に手を上げる趣味はないが、気に入らん目だな」
そう言いながら振り落とされる圧倒的な力は、あまりに矛盾していた。
「俺は生きることに縋っているような人間が大嫌いだ。泣き、叫び、許しを請いながら我らの贄となればいい」
壁に叩きつけられ、地面に身体が激しく打ち付けられる。
痛いことも、苦しいこともあったが、今ほど死と言う言葉を噛み締めたことはない。
朦朧とする意識の中、手足を拘束され、視界を遮られ、ふわりと重力から解放される感覚があった。
身を捩れば拘束具がきつく締めあげる。動くほど自由を失くしていくと悟ると、指一本すら動かさなくなった。
しばらく宙を漂う感覚を味わった後、硬い場所へ叩きつけられた。
拘束具は何一つ解かれはしなった。ただ、転がされただけ。
「人間は利口で、狡猾で、愚かだ」
男の声が降ってくる。
「無力で、傲慢で、気位ばかりが高い。俺の前に這いつくばった奴の顔を、お前にも見せてやりたかった。滑稽だったぞ」
かつり、と靴音が鳴る。
男が近づいたと、一瞬で理解できた。
錆びた鉄のような匂い。
獣のような、顔を背けたくなる匂い。
「お前も、俺にひれ伏せ」
嘲るように笑う声が、頭に響く。
(殺される……――)
本気で、そう思った。
この男は本能で生きていて、人を手にかけることに露程の罪悪感もない。
「大人しくしていれば命を取るような真似はしない」
つ、と頬に触れる指先に、背筋が凍る。
嫌悪感とは裏腹に、声は優しい音を滲ませる。だからこそ、余計に芯が震える。
その日から、地獄の時間が始まった。
少しでも抵抗する素振りを見せれば男は容赦なく暴力を振るった。
幾度となく起き上がろうとしても思うように動けない。身を捩ろうとしたところで、強い力で押されるばかり。
(……どう、して)
街は、繁栄のために華を捨てた。
元より余所者と罵られていたのだ。捨てたのではなく、拒絶したというのが正しいのだろう。
抵抗するだけの気力を奪われるまでに、そう時間はかからなかった。
ただでさえ男の力は強い。それに加えて、華を引き取ったと言う男は、並みの男よりも強い気がした。
勝てるわけがないのだ。
男の暴力はそれでも続いた。命は取らないとは言ったが、暴力をやめると言ったわけではない。
かつり――。
この音を聞くたびに、身体が震える。条件反射のように身を強張らせる。
けれど、思っていたような衝撃は何もなく、代わりに唇に冷たい感触が触れる。
口元から流れる、何の味もない液体の正体を、華は知っている。
(水……?)
久方ぶりに与えられる水に、必死に縋ったのは生き物としての本能。
喉の奥、全身が枯渇したように水分を求める。
その後は果物やパンと言ったものが次々と押し込まれる。
どういう理由か。そこまでを察することはできなかったが、生きている以上は伴う食欲に勝つことはできなかった。
美味しいものを口にして。少しだけ満たされた感覚がある。
「これも試してみるか?」
いつもと変わらない男の声。
面白そうに言った後、口に押し込まれたものには、ひどい拒絶を身体が示した。
(何、これ……)
匂い。感触。味。
どれもが知らないもので、どれをも受け入れがたかった。
嘔吐きながら吐き出すと、男の可笑しそうな声が聞こえる。
「やはりダメか」
つまらない、と付け足して。
「これは人間の食い物ではなかったな。俺も、食わなくなったが」
その物言いに、引っかかるものを覚えた。
ただ、食べ物ですらないものを押し込まれたのだと知り、それが何かわからないゆえに、余計に気持ち悪くなる。
精神力だけで耐えて行ける幅が狭まっていく。どんどんと追いつめられていく。
生かされていながら、それがこれほどまでに苦痛だとは――。
視界を遮る目隠しさえ取れれば。
手足を縛る拘束具さえ外れれば。
あるいはもっと、自分が生きていると実感できたのかもしれない。
繰り返し、繰り返し。
男の揶揄を含む笑い声と、もの同然――それ以下として扱われる時間。
苦痛に苦痛を重ねて、華の心は緩やかに切り離されていく。
離れていく自我の中。
ひとつだけ覚えていることがある。
男は、ギルティの一人だと口にしていた。
*
湯呑を握る指先が、白くなっていた。
「許さない……絶対に」
語られる、過去の華との邂逅に、柘榴はゆっくりと目を伏せた。
必死で感情を押し殺している姿に、言葉を探す。
「毎週通院してる言うてはったんは、そん時の……」
「……ええ」
俯いたまま、顔を上げることなく華は頷く。
「解放されて、治療を受けましたが心を抉られた傷は――」
治るはずがない。
物理的に感じない分、痛みに鈍感になってしまう心は、どれほど深く傷つけられただろう。
思うと、柘榴の胸も痛む。それは華よりはるかに軽い痛み。
「何もできなかった……」
抗うことも。
逃げることも。
叫ぶことさえ。
悔しかった。
悲しかった。
傷みに叫ぶ声が聞こえる気がした。
「やられたらやり返さなくては、と……そんな強迫観念にとりつかれていました」
けれど、それは不可避の考えだ。
「長い間、カウンセリングに通い、治療を続けてきました。結果として、淡々とした自分を演じることで抑え続けています」
感情を抑え込むことが一番の治療だとしても。
怒りや悲しみが消えるわけではない。
「柘榴」
「はい?」
「それでも、会いたいですか?」
ゆっくりと目を向けられる。
感情に揺れる瞳に、ふっと笑う。
「会いたいです」
「まだ、治療の途中です。いつか、あなたのことを傷つけてしまうでしょう」
「構いまへん」
華の目が微かに揺れる。
「鳳はんがあっしを傷つけた思ても、あっしは気にしてへんかもしれませんやろ」
「そうかもしれませんが……」
「なんか思うところがありますやろか?」
「わたくしが気にします」
長く息を吐いて、頭を振る。
「やられたらやり返す。感情が暴走する――ええやないですか。誰しもそんなもんちゃいます?」
「ですが……」
「何遍も言うようですが、あっしは鳳はんに、依頼の時以外でも会いたいです」
たとえ傷つけられたとして。
華が抱える過去の傷と比べれば些細なことだ。
過去を語り、曝け出そうと思ったのは、少なからずの進歩だ。
もっと頼ればいい。
一人で抱えて苦しむくらいなら、狂うほど暴れて当たってくれた方がいい。
それでも、華はきっと頷かないだろう。
だから、言葉は慎重に選ぶ。
「それに」
覗き込むように華の顔を見る。
「お互いがお互いを補う。それがウィンクルムと、あっしは思いますさかい」
依存するのではなく。
傷を晒し続けるのではなく。
「補い合う……ですか」
「あっしも鳳はんを傷つけるかもしれませんやろ」
「それは嫌ですね……」
「ははは、えらい率直な感想ですなぁ」
「でも……」
湯呑を置いて、華が窓の外を見遣る。
「――そういうことなら、少し考えてもいいわ」
雲の切れ間から、柔らかな日差しが差し込む。
●
黒の書は、時として見知らぬ一頁を刻むことがある。
「過去のことがわかるの?」
出石 香奈は、半信半疑に本を手にした。
黒い表紙に黒いページ。
もしここに、香奈の知らない出来事が記されるのなら。
「それなら、自分が生まれた時のことを知りたい」
ずっと知りたかったこと。
「どうして、あたしは捨てられることになったのか」
香奈の出生。
知らぬ過去であればなおさら。理由を知りたいと願うのは誰しも同じ。
知りたいけれど、知ってしまうことが怖い。
香奈の手は震えていた。
レムレース・エーヴィヒカイトはそんな香奈に気付き、そっと手を重ねる。
「大丈夫だ」
香奈が見上げると、レムレースがゆっくりと頷く。
「何があっても俺はこの手を離さない」
レムレースが傍にいる。
それだけで、背中を押してもらえたような気持になる。
ゆっくりとページを開く。
*
突然の不躾な来訪者に、驚きを禁じ得ない。
「どうして!?」
掠れた叫び声が上がる。
「聞いていないのですか?」
フードを被った男が数人で女性を取り囲んでいる。
女性は、小さなベッドを背に、男たちに毅然と立ち向かっていた。
「聞いているも何も……」
それはまさに、寝耳に水。
この男たちが何を言っているのかもわからなければ、言われていることそのものが正気の沙汰とは思えない。
「その赤子は、我々に預けて頂きますよ」
「そんなことを了承できるはずがないでしょう!?」
「あなたの意見など、どうでもいいんですよ」
ねっとりとした声が耳にまとわりつく。
男の声はひどく冷静で、告げることすべてが当たり前であるかのようだ。
正気など感じられるべくもない。
それでも女性はベッドの前に立ちはだかった。
相手がいくらおかしなことを事実のように淡々と述べていたとしても、譲るわけにはいかない。
怯んでなどいられない。
「どうでもよくありません」
黒い髪と、強い意志を湛える瞳。
その女性の面差しを知っている気がする。
誰かによく似ている気がした。
「夫が、この子を……あなた方に渡すと言ったのですか?」
確かめるように、開口一番に男たちが放った言葉を反芻する。
「ええ。まさに」
「そんなこと……」
あるはずがない。
夫が、大切な我が子をこの得体のしれない男たちに差し出すなど。
「その子は、オーガ様への供物となるのです。ああ、なんと華々しい運命を賜ったのでしょう……っ」
繰り言のように男はその言葉を口にする。
「供物……ですって?」
耳を疑った。
命ある、愛しい子をまるで物のように言う、そのぞんざいな言葉。
「マントゥール教団が、その子を素晴らしき生贄へと昇華させましょう」
「冗談じゃないわ……」
「ははっ。冗談を言っているのはあなたの方ですよ」
フードの奥から覗く目は、暗く淀んだ光を宿していた。
どこまでも正気ではない。
「夫だって、そんなことを許したりはしないはずです」
そうだ。
仮に口走ったとして、それには何か、止むに止まれぬ理由があったに違いない。
「ではご自身で確かめられますか?」
「え?」
「ご案内しますよ」
夫が連れ去られ、ひどい仕打ちを受けているのだとしたら、この男たちはわざわざ確かめてみろ、などと口にするだろうか。
男たちはここへ来てから、慇懃無礼でこそあったが手荒な真似を何一つしていない。
危害を加えるつもりがないのか。
あるいは、赤子が本当に大事かのどちらかだろう。
女性は、やや躊躇って、それでも頷いた。
大切な我が子をみすみす差し出すわけにもいかない。だからと言って反発をしたところで帰ってくれそうにもなければ、気が変わって力づくで奪うかもしれない。
女性は、後者であると考え、それならばと考え至る。
赤子を両腕に大切に抱いて、男たちに誘われるまま向かう。
この男たちの目的が赤子である以上、赤子に手出しはしないはずだ。
今、唯一女性を守るもの。
(ごめんね……香奈)
こんな風に、身を守る盾のようにはしたくなかったけれど。
真実を知りたい。
あなたを守りたい。
そのために、今は必要な決断。
男たちが乗ってきた車に乗り込むと、徐々に郊外へと離れていく。
人気がなくなったあたりで車を止め、そこからさらに徒歩で進む。
どこをどう歩いたのか。どれくらい歩いたのか。
方向感覚も時間の感覚もなくなるほど歩いたころ、ようやく人に遭遇した。
男たちと同じ、フードを被った人だったが。
「中へどうぞ」
促され、一歩踏み入れると、重苦しい空気に押しつぶされそうになる。
どこを見回しても、フードを被った者たちばかりだ。
まるで、何かの儀式を執り行っているような――決して良い儀式ではないと感じさせる、そんな嫌な空気だ。
その中から、フードをぱさりと外して姿を見せた男がいた。
「あなた……」
良く知っている顔だ。
愛して、結ばれ、命すらをも生み出した相手なのだから。
「この子を生贄に、なんて……う、そ……でしょう……?」
足が、じりと下がる。
この問いかけはあまりに愚かだったと気づいてしまったからだ。
両手を伸ばし、愛したはずの男が腕の中の赤子を抱き上げようとしている。
今までならば疑わず差し出していたが、今は、だめだ。
取り上げられる――。
そんな予感に、後退った。
狂気をはらんだ瞳は、焦点も定まらず、何を見ているのかさえ分からない。
背筋を這いあがる冷たい感覚に、身震いする。
逃げなくては――。
男たちの言っていたことは、何一つ偽りではない。
夫は自分を騙し、子供を産ませ、その子供をオーガの生贄にするつもりなのだ。
信じていたものが、音を立てて砕ける。
来た道を戻ろうと踵を返した。
けれど行く手を、フードを被った者たちが遮る。
「ここはマントゥール教団の一支部にすぎませんが……生贄を捧げればきっとオーガ様も我らを認めてくださることでしょう」
四方から腕が伸ばされ、赤子を取り上げようとする。
必死に庇っても、爪が皮膚を切り裂く。
「その女に用はありません」
「ここの場所も知られてしまいましたし……」
端からそのつもりだったはずだ。
でなければ、目隠しの一つもしただろう。
「消してしまいましょう」
浅い呼吸を繰り返し、懸命に考える。
逃げる術は……。
この場所がどこかすらもわからないのに、逃げることなど無意味かもしれない。
被った外套の裾から、白銀が煌めく。
(香奈……、あなただけは守ってみせる……)
騙されたのはわたしの罪。
あなただけはわたしの宝。
白い軌跡が降り落ちる。
「くっ、ぅ……」
ナイフが肩を掠める。滲む血に、心が砕けそうになる。
それでも、道を探して走る。
それは来た道とは真逆だったが、今は少しでも時間を稼いで逃げ出す方法を考えなくてはならない。
奥へ、奥へと入っているのがわかる。
方向の感覚がなくなっていくのを感じる。
ひたすらに逃げることだけを考えて。――考えて。
(追いつめられた……)
目の前には、行き止まりの壁が立ちはだかる。
絶望的な光景だった。
追いかけてくる足音を振り返り、息を呑む。
「手こずらせないでください」
柔和な物言いだが、ねっとりとした陰湿な声。
気味が悪い――。
色を失くした目が。生気を失くした表情が。愛した男が……。
一歩、下がって。
「――っ!?」
何かを踏み抜いた。
その刹那、辺りに響く轟音。
「爆破装置が起動したのか……。崩れるぞ!」
「なんてことだ……」
慌てて逃げ惑う男たち。
これを好機とみるべきか。だが、脇をすり抜けられるほど甘くはない。
逃げなくては、と考えるほど嫌な汗が伝う。
そして、建物が音を立てて揺れ、崩れ始めた。みしみしと軋む音は次第に大きくなり、爆音とともに沈んだ。
*
これは、奇跡だ。
建物は爆発で崩れてしまったが、生きている。
腕の中の愛しい我が子も無事なことを確認して、女性がほっと息を漏らした。
逃げようと、立ち上がる。体中がひどく痛む。特に足は、どれだけ動くか分からない。
分からないが、一歩でも遠くへ逃げなくてはならない。
(香奈……わたしの愛しい子……)
赤子の額にキスをして、走り出す。
服は破れ、血塗れになっていたが、動けることに感謝をした。
数多くいた教団員も、あの場所にいた者はおそらく――。
否。
生きていても、死んでいたとしても、そんなことはどうでもよかった。
夫に裏切られていたことの方がはるかに衝撃だった。
(騙されていたなんて……)
唇を噛み締める。
「いたぞ!」
「……!」
入り口付近にいた教団員たちは外へ退避し、女性を探していたようだ。
そして、見つかった。
(ああ……どうぞご慈悲を……!)
迂回し続けてたどり着いた場所だ。土地勘などまるでない。
がむしゃらに走って、走り続けるしかない。
息が苦しい。喉が裂けたように、ひりひりと痛む。耳鳴りがする。
(もう、走れない……)
そう、思った時に見付けた建物は、慈悲だったのか。それとも悪夢の再来だったのか。
助けを求めて駆け込んだ。
人影は多くはなかったが、それなりに見受けられた。
ここなら、救われるかもしれない。
思ったのだ。
が。
低い爆音が足下を這うように響いた。
「なに……?」
建物に乗り込んできた教団員たちは、手当たり次第に何かを放った。
一拍ほど後に、耳をつんざく爆音が再び響く。
「ぶっ壊せ!」
「オーガ様の為に!」
もはや、狂っている。
そうとしか思えない。
女性は思わず、建物を走り出した。
入り口があるなら裏口も。そう思い真逆の方向へ走り、その勘は的中した。
足を引きずりながら、建物を抜け出し、少し走った場所に今は使われていない寂れた駅を見つけた。
ここなら――。
一か八か。
賭けにも等しい可能性に縋る。
大切に抱えてきた命。
愛しさが募る。
けれど、ここでお別れだ。
「あなただけでも生き延びて……」
祈って。
願って。
コインロッカーに赤子を託した。
「生きて、香奈……」
その後、女性はさらに逃げ、そして、駅からだいぶ外れた場所で捕らえられた。
その日の出来事は、翌日、新聞の紙面に取り上げられた。
*
レムレースは、言葉が出なかった。
黒い書物に記されたその出来事は、今まで調べてきた曖昧でおぼろげな想像を確かなものへと変えた。
香奈の誕生日に見付けた新聞の記事。その真相。
「母さん……」
香奈の声に、はっとした。
呆然と立ち尽くす香奈の手から書を引き剥がし、隠すように抱き締めた。
香奈に触れる指先が、冷たく震えている。
彼女の父親に対する怒りが、極限まで募る。
「レム……」
香奈が、レムレースを真っ直ぐに見つめる。
「母さんの、仇を討ちたい……」
涙に濡れた瞳は、強い意思を宿している。
家族を失って。
ましてあんな壮絶な失い方をして。
それでもこうも強くあれる香奈に、言葉にできない感情が沸き起こる。
――守りたい。
その意志を。
その心を。
――香奈を守ることが俺の天命だと信じてきていたが……。
守るだけでは足りない。
彼女が過去を乗り越える支えになりたい。
心から、そう思う。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 真崎 華凪 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 女性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | EX |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,500ハートコイン |
| 参加人数 | 3 / 2 ~ 3 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 03月28日 |
| 出発日 | 04月08日 00:00 |
| 予定納品日 | 04月18日 |


