


桜が舞い散るベンチで、うたた寝をしていた。
ふと目が覚める。
辺りを見回し、桜がひどく美しすぎて、もの悲しくなる。
そう、きっと桜が美しすぎるせい――。
ぼんやりとする頭を一つ振って、立ち上がる。
シャラ、ン……――
金属の擦れ合う音が聞こえる。
通りを、行列が進んでゆく。
先導するのはフードを目深にかぶってはいるが、聖職のものだと一目でわかった。
そのあとに続く数人の影。そして……
棺。
ああ……。
お別れを言わなくては。
なぜかそんなことを思った。
ひらり。
花弁が落ちる。一歩、踏み出せと言われている様で、たまらず歩を進めた。
美しい装飾が施された棺の側まで近づくと、先導していた聖職者が足を止める。
シャラ、ン……。
響く音は、聖職者の持つ錫杖の音。清らかで、曇りなく、悲しい音。
――お別れを言ってやってくれ。
聖職者が、淋し気にそんなことを言った。
棺を少し開く。
ああ……。
涙が零れた。
知らない人であればどんなに良かっただろう。
知っているだけの人であれば、どんなに良かっただろう。
静かに眠る、その人の手をそっと包むように握る。
笑うことをやめた君。
ハラリ……。
君の頬を濡らすものが、花びらならばよかったのに。
溢れすぎる涙が、とめどなく零れる。
大切だった。
誰よりも。
だから――
逝かないで……。
●
身体を揺り動かされて、瞼を持ち上げる。
空を仰いだ。
満開の桜が、ふわりと枝の先から零れ落ちていく。
まるで――
はっとして、肩にある温度に目を向ける。
笑顔があった。
大切な君の、いつもと変わらない笑顔。
肩から離れようとする手を取って、その温もりに頬を寄せる。
花に魅せられただけの夢でよかった。


桜の下に置かれたベンチで、温かな日差しに包まれてうたた寝をしてしまう。
その時に見る夢が、聖職者の一行が通り過ぎていく。
そこに、棺を見つけて――
そんなお話です。
プロローグはあくまでも一つの例えとして捉えてください。
眠ったのは神人か、精霊か。
棺を見て、どんな行動を取るのか。
聖職者が棺を誘って通るところまでが共通の前提条件です。
プロローグのように、駆け寄って棺を開けたら、大切な人だったかもしれません。
違う人かもしれませんし、そもそも駆け寄らないかもしれません。
ですが、棺を見て、何かを感じて欲しいと思います。
逃れられない別れに、少しでも立ち向かう勇気を。
今ある幸せを、噛み締めてもらえますように。
※ベンチは広場にありますので、入場料として300Jrが必要です。
プランニングしづらくはないだろうか。
もっと言葉を重ねて、プランを立てるお手伝いはできないだろうか。
考えて、色々と試しましたが、突然リアルが増すので控えることにしました。
夢は無秩序です。
何でもありです。
だから、想うことをぜひそのまま聞かせてください。
神人さんは――精霊さんは、どんな夢を見るのでしょうか。


◆アクション・プラン
月野 輝(アルベルト)
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■眠った人 お別れをと言われてゆっくりと棺を覗いたの そんなはずない、違うって言い聞かせながら いやああああああ!!!!!! 心の中で叫ぶ どうしてアルがこんな事になってるの!? そう、貴方は私を守ろうとして 自分の命を投げ出した 絶対にそんなことをしないって約束したはずなのに 守られて、私は生き延びて この先どう生きたらいいのか分からない そっと頬に手を伸ばす いつもならこちらを見て、ふっと笑うはずなのに その琥珀色の瞳は開くことがなくて ねえ、もう一度 もう一度私を見て、名前を呼んで 涙が止め処なく溢れた 頬に触れる感触に意識が浮上する 目を開けたら間近でアルの瞳が覗き込んでて 無意識に首に抱きついたの 生きててくれて、有難う… |
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リヴィエラ: 『夢の中』 (嫌な予感がして棺に駆け寄ると、中には死したロジェが。 歩く聖職者の中には下卑た笑いを浮かべて歩くリヴィエラの父親の姿が) ロジェッ! お父様…これは…これは一体どういう事ですか…? 父親: ああ、この男か。お前を攫った咎人として、私自ら殺してやったんだよ。 全く、平民の孤児如きが…こうして葬式を出してやっているだけ、有り難いと思って欲しいものだ。 さあ、帰るぞリヴィエラ。お前をオーガ様に捧げなければ、私の身が危険だ。 リヴィエラ: いやぁぁッ、ロジェッ! お父様…貴方…貴方という人は…ッ!(激昂) 『夢から覚めて』 ロジェ…? 良かった、生きてらっしゃる…(涙を溢れさせる) |
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(明らかに雰囲気が浮いてる… ずっと燕尾服だしな、何着あるんだ ?…寝てる (こんな無防備なゲンジ、初めて見た 電話するといつも仕事してる最中で 遅くまでやってるのはクマを見れば解る 疲れてんだろなぁ (極貧で金がないのは解るけど…働き過ぎだろ 訳アリ、なのかな…嘘を異常に嫌ってる所も (…いつか教えてくれるかな ふと前にゲンジに話したことを思い出し この前、婆様に手紙出したら返事が来たんだ 無理してごまかしてたの、解ってたみたい 一人で悩まないで、力になってくれる人を頼りなさいって… (一人で…ゲンジもずっと一人だったな …どんな気持ちで、過ごしてたんだろ 目が合った 気にすんな、もう少し寝てろよ (…野良猫に懐かれたみたいだ |
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☆心情 「やっぱ桜は綺麗だよなぁ… …ディオ? 眠いなら俺の膝貸すぞ? …ふふっ最近疲れてるから眠っちまったか(微笑」 ☆行動 ・膝枕で寝ているディオスの上半身に自身の上着をかける ・寝ている間は1人で鼻歌を歌いながら桜鑑賞 ・暫くするとディオスが魘されているので直ぐに起こす ・起こした後話を聞く 「ディオ? おいディオ! 大丈夫か? 急に魘されてたから心配したぞ? 夢…? (そうか、ディオも家族を殺されたんだ…) ディオ、大丈夫…お前は1人じゃない(優しく抱き締める 何でも1人で溜め込み過ぎなんだよ 少しは仲間を頼れって 皆心配してるんだからさ(微笑 ほら俺がいてやるからもう少し寝な(膝枕で頭を撫でながら優しい音色の子守唄を歌う」 |
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ふふ、遊び疲れて寝ちゃったか こうやって寝てると子どもだなぁ…普段は生意気さんだけど あたしのもう一人の適合した精霊が ひーくんだったのはびっくりしたなぁ 生い立ちについては、施設で育った事くらいしか AROAでは聞けなかったな でも、施設ってことは、保護者が育てられなかったのよね、何らかの事情で あ、あれっ? ひーくんもしかして、泣いてる? 眉間にもしわ寄ってるし、なんだか苦しそう、大丈夫かなぁ? ひーくん、大丈ぶ… (聖の寝言を聞く) ほえっ?どんなって…あ、起きちゃった?ひーくん おはようひーくん、泣きながらうなされてたけど大丈夫? (頭を撫でながら) ウィンクルムはね、きっとこういう時に側にいる関係だと思うよ、多分 |
●
桜が舞い散る。
クロスは、そんな桜を眺めながらぽつりと呟く。
「やっぱ桜は綺麗だよなぁ……」
「あぁ、綺麗だな……」
声がだんだんと小さくなるディオスを見遣る。
「……ディオ?」
眠そうに瞼を持ち上げているディオスに、優しく声をかける。
「眠いなら俺の膝貸すぞ?」
そう促すと、ディオスはクロスの膝を枕に、眠りへと誘われる。
「……ふふっ、最近疲れてるから眠っちまったか」
柔らかく鼓膜を震わせる声は、静かな彼方へと消えていく。
ふわり――。
風が凪いで、意識が引き戻された。
ディオスが身を起こす。
桜の木の向こう側に、列を為す影が棺を運んでいくのを見た。
ディオスは考えるでもなく、自然と棺へと足を向けた。列が、制止する。
棺を開ける。
「……かぁ、さん……?」
そこには実父と正妻、そしてその父の部下たちによって殺された、母の姿があった。
「い、いやだ……逝かないでっ」
縋るように手を伸ばす。母が殺された当時、7歳だったディオスの、小さな手が母を逝かせまいと、懸命に縋る。
「逝かないで、かあさん!」
どっと涙が溢れた。
「かあさんがいたから、おれは……っ!」
そこにある灯りはディオスの心を支え続けた。
「おれはいきてかえってこれたんだ! 闇の中から光ある場所にっ! また、おれは暗い闇の中に……」
――もう、失いたくない……。
棺の側で崩れ落ち、泣いた。
声を上げないように堪えるのが精一杯だった。
シャラ、ン――。
錫杖が鳴る。
棺が再び動き出した。
「……ッ!」
逝かないで。
そんな願いすら、届かない。
耳朶に届くのは、微かな音色――。
ふわりと、再び風が凪いだ。
クロスは鼻歌混じりに舞い落ちる桜を眺めていた。
ディオスの髪をそっと梳きながら、どんな夢を見ているのだろうと、時折考えていた。
「……ディオ?」
静かな寝息を立てていたディオスが、うなされていることに気付き、慌ててその身体を揺する。
「おい、ディオ!」
「ぅ、ぁ……、く、ろ……?」
目覚めたディオスは、額にじんわりと汗を滲ませていた。
「大丈夫か? 急にうなされてたから心配したぞ?」
「すまない……夢を、見ていたんだ……」
「夢……?」
身体を起こし、ディオスは手で顔を覆った。
「母さんが、アイツ等に殺されて……棺の中にいて……っ」
クロスはそっと目を伏せる。
(そうか、ディオも家族を殺されたんだ……)
そんな消えない傷痕が、ディオスに悪夢を見せた。
「また失うのかと思ってっ! おれ、俺っ!」
取り乱すディオスを、そっと抱きしめる。
「ディオ、大丈夫……お前は一人じゃない」
「……っ」
「何でも一人で溜め込みすぎなんだよ。少しは仲間を頼れって。みんな心配してるんだからさ」
ディオスを覗き込んで、クロスが微笑む。
「人を、頼る……? 良い、のか……? 頼って、も……」
「当たり前だろ」
驚いた表情のディオスに、しっかりと頷いて見せる。
「あり、が、とう……」
胸の奥に染み渡る温かな気持ちに、ディオスはそっと目を閉じる。
「ほら、俺がいてやるからもう少し寝な」
もう一度膝を貸すと、あやすようにディオスの頭を撫でる。
幸せな夢が見れますように。
願いながら、クロスは優しい音色の子守唄を歌う。
●
朝方まで追われていた仕事の息抜きに、桜の咲く広場へとやってきた時折絃二郎は、少しずつ微睡みへと意識を沈めかけていた。
海底へと沈むような心地よい感覚に捕らわれながら、ふと、遠くを往く棺が目に留まった。
――あの遺体は幸福な人生だっただろうか。
棺の中に眠るであろう誰とも知らぬ人に、そんな想いを馳せる。
同時に、絃二郎の奥深くにある嫌悪したい記憶が蘇る。
二十年前、絃二郎の両親が詐欺に遭い、自ら命を絶った。
無情にも残された、一億の負債。
未だにその返済は続いている。
両親を死に追いやった元凶は、法で裁かれたが、家族は二度と……。
――嘘で人は殺められる。
心を深く傷つける。
嘘は、残酷なのだと、痛感した。
シャラ、ン。
錫杖の音が小さくなっていく。
去って行く一行の背を見つめ、エリザベータのことが脳裏を過った。
――……ヘイルも本心を偽ろうとした。
大丈夫、と毛を逆立てて威嚇する猫のように虚勢を張っていたエリザベータ。
偽りの言葉の中に生まれる違和感に、絃二郎は敏感だった。
だからこそ、本心を隠して虚勢を張るエリザベータを諫めた。
怪物に一生狙われ続けるのだ。
怖いと言って、それを誰が責められるだろうか。
嘘である必要など、どこにもないのだ。
ただ。
泣かせてしまったのは想定外ではあった。
――吐き出せただけ、気が軽くなったろう。
堰を切るように涙が溢れたのは、張り詰めていた糸が切れたから。
――……何故、あんな小娘を気にかけているのだろう。
思い巡って、そこで思考が止まった。
ふわりと柔らかな風が頬を掠めていった。
(明らかに雰囲気が浮いてる……)
ベンチに燕尾服姿の絃二郎を見つけて、ずっと燕尾服だな、とその所持数が気になった。
近づいてみると、規則正しい寝息が聞こえる。
「? ……寝てる」
正直、驚いた。
(こんな無防備なゲンジ、初めて見た)
いつも仕事に追われて、遅くまで仕事をしていることは、目の下にくっきりとできたクマを見れば分かる。
疲れているのだろうことも。
(極貧で金がないのは分かるけど……働きすぎだろ)
訳ありなのだろうか。
嘘を以上に嫌っていることからも、何かがゲンジの中にあることは明らかだ。
(……いつか教えてくれるかな)
ふと、以前ゲンジに話したことを思い出した。
「この前、婆様に手紙出したら返事が来たんだ」
それは、絃二郎に虚勢だと諫められた時のこと。安心させたい思いで吐いていた嘘。
「無理してごまかしてたの、解ってたみたい。一人で悩まないで、力になってくれる人を頼りなさいって……」
言葉にして、気付く。
(一人で……ゲンジもずっと一人だったな。……どんな気持ちで、過ごしてたんだろう)
ずっと見つめていた視線に気づいたのか、絃二郎の瞼がゆっくりと持ち上がり、目が合った。
「……俺は寝ていたのか」
少しだけ、ぼんやりとした様子の絃二郎に、エリザベータは頭を振る。
「気にすんな、もう少し寝てろよ」
「では……もう少し」
再び微睡んでいく絃二郎に、エリザベータは、まるで、と思う。
(……野良猫に懐かれたみたいだ)
まるで、野良猫の様だ。
絃二郎の側に腰を下ろしたエリザベータの温もりを微かに感じて、絃二郎は穏やかに、思う。
――ああ、落ち着くな……。
●
温かな陽気に誘われるように、アルベルトの隣で月野 輝が眠りに落ちる。
倒れないように、自分へと輝を凭せ掛け、腕で頭を支える。
――こんな所で寝てしまうとは……。
女性として危機感が足りないのでは、と思うものの、自分の側だから安心しているのだろうと思えば、悪い気はしない。
ふわりと、風が花びらを揺らした。
木々の芽吹く匂いがする。
眠りに落ちていた輝が目を覚ますと、遠くで金属の擦れる音が聞こえた。
シャラン、と物悲し気な音。
その音を探そうと辺りを見回すと、列を成す人影が目に留まった。
地平線の向こうまで続いている道を往く、一つの棺。
衝動に駆られるように側に近づけば、列は動きを止める。
先頭を歩く聖職者が、輝に気付いて近づいてきた。そして、告げる。
――お別れを。
最期の言葉をかけてやってくれ、と。
(最期……?)
呆然としながらも、思い直したように棺を開き、覗き込む。
「……っ!?」
そんなはずがない。
違う――。
彼であるはずがない。
もう一度、確かめる。
色を失くした肌。見慣れた顔。込み上げる愛しさと、溢れ出す焦燥。
震えが、止まらなかった。
そこに眠っていたのは、ほかの誰でもない、アルベルト――。
「いやああああああ!!!!!!」
その慟哭に、シャラン、とひとつ錫杖が鳴る。
(どうしてアルがこんなことになってるの!?)
懸命に思い返す。アルベルトが、そこにいる理由を。
(そう、貴方は私を守ろうとして)
アルベルトは自分の命を投げ出したのだ。
絶対にそんなことをしない。そう約束したはずなのに。
守られて、生き延びて――。
(この先どうやって生きたらいいの)
分からない。
アルベルトのいない未来など考えられない。
彼の頬に触れようと、そっと手を伸ばす。
いつもなら輝を見てふっと笑うはずなのに。
その、琥珀色の瞳が開くことはない。
深く優しい色の瞳で――。
愛しさを募らせるその声で――。
「ねえ、もう一度……」
もう一度私を見て、名前を呼んで――。
涙は、止め処なく溢れる。
ふわりと、風が頬を撫でる。
アルベルトは、困惑していた。
隣で眠る輝の表情が悲し気に変わり、涙を流している。
その涙を拭うと、輝はゆっくりと目を開けた。
視線が交わる。
その途端、輝の目から大粒の涙が先程よりも多く零れた。
アルベルトの首筋に抱きつく輝を優しく抱きしめ返し、宥めるように背を撫でる。
「生きててくれて、ありがとう……」
落ち着きを取り戻した輝は、アルベルトについ先ほど見た夢を話した。
すると、アルベルトは優しく笑う。
「こんなに泣かれるのでは、うっかり死ぬこともできないな」
両手で輝の顔を包み込んで真っ直ぐに視線を合わせる。
「――共に白髪が生えるまでの約束だろう」
少し、距離を詰めて、涙の痕を残す頬に柔らかくキスをする。
「違えるつもりはない」
いつか交わした約束。
一緒にいたいと願った言葉。
――置いていくわけがないだろう。
こんなに愛してくれる人を。
こんなに愛しい人を。
「ずっと……」
愛している。
この瞳は、ただ一人を映すためだけのもので在れるように。
●
広場で遊び疲れた聖は、水田 茉莉花の側で眠りに落ちていた。
「ふふ、遊び疲れて寝ちゃったか。こうやって寝てると子供だなぁ……」
普段はとても生意気な子供だが、子供らしい寝顔を見ていると、しみじみと思う。
「あたしのもう一人の適合した精霊がひーくんだったのはびっくりしたなぁ」
適合した際に、聖についてA.R.O.Aで聞けたことは少なく、その生い立ちについては、施設で育ったことくらいしか知らない。
「でも、施設ってことは、保護者が育てられなかったのよね」
聖の頭を優しく撫でる。
少し強い風が、髪を弄ぶように吹き抜けていった。
聖は、通り過ぎる行列を見つめていた。
足が自然とその行列へと向かう。立ち止まって、じっと見つめる。
――ひつぎが、二つ……。
「おわかれ、言うんですよね?」
棺の蓋が静かに開かれた。
二つそれぞれに眠る、人の顔を覗き込む。
「……ほぉら、やっぱり」
どこか淋し気な声音。
「どっちものっぺらぼうだ」
棺の中に眠るそれぞれに、顔はなかった。
つるりとしたものが、そこにあるだけ。
「でも、お父さんとお母さんなのは、何となく分かる。……へんなの」
どうしてか。
聖にはその顔のない人が、両親であると分かった。
迷いも、疑念もない。確かに両親だと、なぜか言える。
「ねぇ」
誰に問いかければいいのか分からない。
だから、一番近くにいた聖職者に問いかけるような形になってしまったけれど。
「二人とも、しんじゃったのは、何がげんいんだったの?」
聖が幼いころに死んでしまった両親。
その原因を、聖は知らない。
「しせつのだれも教えてくれないんだ。ねえ教えてよ……」
知りたい。
顔も知らない両親のこと。
心のどこかに引っかかる、二人のこと。
「ウィンクルムって――」
返事を期待したわけではない。
だから、言葉のないことに何かを思ったわけではない。
聖職者が錫杖を鳴らす。
シャラ、ン――。
「ひーくん……?」
茉莉花は驚いた。
眠っている聖が、眉根を寄せ、苦しそうに泣いていたからだ。
「ひーくん、大丈ぶ……」
「――……どんな、かんけい、なの……」
「ほえっ?」
聖の問いかけが、茉莉花に聞こえた。
「どんなって……」
困ったように思案していると、聖が瞼を持ち上げた。
「あ、ママだ……」
「起きちゃった? ひーくん」
「オハヨウゴザイマス」
「おはよう、ひーくん」
ぼんやりとした様子で言葉を紡ぐ聖に、柔らかく笑う。
「泣きながらうなされてたけど、大丈夫?」
「ないてましたか? ……きっと、気のせいですよ」
そう。
気のせいだ。
「……もう起きちゃいましたからねむくないです、大丈夫です」
聖がそう言えば、茉莉花はしばし逡巡して、言葉を探した。
「ねぇ、ひーくん。ウィンクルムはね、きっとこういう時に側にいる関係だと思うよ、多分」
どんな関係かと、寝言とはいえ尋ねた聖に、茉莉花はそう返事をした。
愛おしそうに、聖の頭を撫でる。
――ママの手が頭を撫でるたびに、なんだかふにゃっとする……きもちいい、なぁ。
こんどは、パパもいっしょに……。
茉莉花に擦り寄るように身を委ねて、聖は再びしばしの眠りについた。
●
ざぁっと、風が花びらを散らすように吹きすさんだ。
まるで、今のリヴィエラの胸の内のようだ。
棺が、目の前を通り過ぎていく。
ざわつく胸の高鳴りを押さえて、棺に近づく。それを察したのか、棺を運ぶ行列がぴたりと足を止めた。
慎重に棺を開く。
「っ……ロジェ!」
見たくなかった。
こんな彼の姿を。
ずたずたに引き裂かれた、ぼろ雑巾のような姿で納められているロジェの姿など、見たくはなかった。
ざり、と地を踏みしめる音がした。
目を向けると、聖職者の中に、下卑た笑みを浮かべるリヴィエラの父親の姿があった。
「お父様……これは……これは一体どういうことですか……?」
「ああ、この男か。お前をさらった咎人として、私自ら殺してやったんだよ」
眩暈がした。
父は今、なんと言っただろうか。
ロジェを、殺した……?
「全く、平民の孤児如きが……」
如き、ではない。
ロジェはずっとリヴィエラを護ってくれていた。
それは、そんな粗雑な言葉で罵られたくない。
愛した人を、そんな風に言われたくはない。
「こうして葬式を出してやっているだけ、有り難いと思ってほしいものだ」
リヴィエラは、ぎり、と唇をかんだ。
「さあ、帰るぞリヴィエラ」
腕を強く掴まれ、ロジェと引き離されそうになる。
「いやぁぁッ!」
ロジェの傍にいたい。
引き離されたくない。
喉が避けるほど叫んで、リヴィエラは父の手を振り解こうと抗う。
しかし、懸命の抵抗も虚しく、ロジェとの距離が遠ざかっていく。
このまま引き離されてしまったら、二度と会うことは叶わない。
「ロジェ! いやぁっ、ロジェ……!」
行かないで――。
逝かないで、ロジェ。
「お前をオーガ様に捧げなければ、私の身が危険だ」
「ッ、お父様……貴方……貴方と言う人は……ッ!」
勝手な言い分で身を守り、勝手な言い分でロジェを引き裂いた。
激しい怒りが、リヴィエラの胸に宿る。
風に花びらが攫われ、ロジェとリヴィエラの間に舞い上がった。
「――ッ!」
はっとして目が覚めた。
「リヴィー、大丈夫か?」
「ロジェ……?」
視界には、心配そうなロジェの顔があった。
ロジェの膝を借りて、眠ってしまっていたようだ。
「随分とうなされていたようだが……うわっ」
「ロジェ……、ロジェ……!」
リヴィエラに抱き着かれて、驚く様子は見せたが、ロジェはあやすようにリヴィエラの頭を撫でる。
「良かった、生きてらっしゃる……」
涙を溢れさせて縋るリヴィエラを見れば、聞かずとも察せるものもある。
落ち着かせるように言葉をかける。
「大丈夫だ、俺は君の傍にいるよ」
――どこへも行ったりはしない。
優しく撫でて、髪に口付ける。
リヴィエラの濡れた瞳を見つめて、もう一度大丈夫だと伝える。
「君の見た夢が悪夢だとしても、予知夢にはさせない」
それに、と思う。
――あいつを置いて逝くことなんてできるものか。
大切な親友を想う。
――それにしても、リヴィエラのこの泣きよう……父親の夢でも見たのか……?
ロジェの胸に走る微かな痛みを隠すように、リヴィエラを強く抱きしめた。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 真崎 華凪 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 女性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 03月08日 |
| 出発日 | 03月16日 00:00 |
| 予定納品日 | 03月26日 |


