ホワイトデー作戦

 バレンタイン地方及びショコランドを襲ったボッカの脅威は去った。
捕らえられていたバレンタイン伯爵は無事解放され、チョコレート倉庫のチョコも各地へ出荷されていった。
オーガの襲撃や解放戦で被害を受けたショコランドの三王国とバレンタイン城は、徐々に元の姿を取り戻しつつある。
 それに伴い、ギルティ襲来により緊急体制を敷いていたA.R.O.A.も本来の業務形態へと戻っていった。
そんな最中のある日――



「家令……ですか?」
「左様でございます。厳密に言えば違うのですが、執事のようなものだとお考え頂くと分かりやすいかと思います」
 A.R.O.A.をバレンタイン伯爵の遣いが訪れたのだ。
名はナイジェル。伯爵家の家令らしい。
しっかりと整えられ白髪と白髭、濃紺のフロックコートというナイジェルの上品な身形と執事のようなものという例え。
それにより、家令というものがピンと来ないA.R.O.A.の職員にも、伯爵家にとってかなり上位の使用人だと察することが出来た。
「先日はお世話になりました。主たちは非常に感謝しておりました。主は急務がある為、私が代わってこちらへ伺いました」
「いえ、対オーガ組織であるA.R.O.A.として当然の事をしたまでです。私たち職員だけでなく、ウィンクルム達もそう言うはずです。
ところで……王子達はお元気ですか?」
 A.R.O.A.に顔を出し、ウィンクルム達とも共に戦ったアーサー、ジャック、ヘイドリックの三王子のことはA.R.O.A.の職員としては気になるところだ。
ナイジェルはその問いに、微笑ましさを滲ませつつも困ったような表情を浮かべた。
「実は、王子達は直接感謝の言葉を述べたいと仰っていたのですが……誰が伺うかで揉めてしまわれたのです。
三王子共に感謝の言葉を直接言う為に自分が行くと譲らず、かといって王子全員でという訳には参りません。
埒が明かない為、主は私を遣わしたのです」
「それは……大変ですね」
「はい、困ったものです。王子達は本当に皆様へ感謝しておられましたから」
 伯爵救出を依頼してきた時の彼らの様子を思い出しながら職員は呟いた。
ナイジェルは髭に隠れがちな口元を緩めながら、懐から一通の手紙を差し出した。
「……こちらは?」
「主からの依頼状です。今一度、皆様の力をお借りしたいのです」



「伯爵家からの依頼は大きく分けて2つです」
 会議室に集まったウィンクルム達にナイジェルを紹介した後、職員は集まったウィンクルム達を見渡しながら依頼の説明を始めた。
「まず一つ目は伯爵家の家宝捜索です。
皆さんご存知のように次の伯爵はアーサー王子に決まったのですが、新伯爵の継承式を執り行う為に伯爵家の家宝が必要なんです」
 爵位継承式『幸運の灯火の儀』では、バレンタイン城天守閣にある幸運の灯火という大きな聖火台で燃える炎の下、四つある伯爵家家宝の一つを前伯爵から新伯爵へ手渡すのだという。
 ところが先代、先々代の継承式で使われた宝『盾』が使えなくなってしまったのだ。
『盾』はバレンタイン城の城門に安置されており、その守りの魔力で以って城門を堅牢なものにしていた。
けれど、『盾』は城門もろともボッカに破壊されてしまったのだ。
 残る宝は『王冠』、『錫杖』、『剣』の三つ。
『王冠』は気候に良い影響を与える力、『錫杖』には民心を安定させる力、『剣』には軍事力を強化する力があるのだという。
「残りの三つの宝はそれぞれ別々にダンジョンの奥で安置されているそうなんです」
 ざわり、場がざわめく。
何故そんなところにという疑問はあれど、ここまで来れば自分達が何をするか具体的に読めてくる。
「継承式には家宝が欠かせません。その為、三つの宝の何れか持ち帰る必要があります。
皆さんにはバレンタイン城解放戦の時と同様に、三王子が率いる捜索隊に参加してダンジョンへ向かってください」
 ダンジョンに纏わる噂が四つある。
『一つ。三つのダンジョンはそれぞれ別の地域への入り口で、伯爵家の家宝によって封印されている。
二つ。ダンジョンを抜けた先は、怪物が徘徊する恐ろしい場所
三つ。ダンジョンを抜けた先は、素晴らしい文化を持った高い文明がある
四つ。ダンジョンの封印を解くには『真実の儀式』が必要』
 詳しい情報が無い今の時点では漠然としているが、また後日に改めて詳細が説明されるのでそれまでは待っていて欲しいと職員は言い添えた。


「先程言ったように新伯爵の継承式が行われるんですが、必要なものは家宝だけではありません。
聖火台に灯す為の『幸せの灯火』を集める。これが2つ目の依頼です」
 天守閣で長年に渡り燃え続けていた炎は、中庭に居座っていた巨大ハングリー・ジョーに天守閣を食べられた際、消えてしまった。
継承式を執り行うにはこの炎を再び点火する必要がある。
「それには『幸せのランプ』を使って『幸せの灯火』を集める必要があります。この方法は二つ。
彷徨えるバザー『バザー・イドラ』へ行って、小さな幸せを発見すること。
もう一つは、凶暴化している『幸せの兎』を沈静化して、家族の元へ返してあげることです」
 本来であれば害を為すことはないのだが、ボッカの影響を受けてしまった結果、凶暴化しているのだという。


 どちらも爵位の継承式に大きく影響する依頼だ。
深刻な表情を浮かべるウィンクルム達に、これまで黙っていたナイジェルが柔和な表情のまま口を開いた。
「どちらも継承式に関わることです、実は緊急事態という訳でもないのです。
こういう形で皆さんに依頼することで、慶事を皆様と一緒に盛り上げたいというのが主の意向です。
家宝の捜索も、王子達と共に皆様には宝探しを楽しんで頂きたいと、主は申しておりました」
 実は王子達の息抜きも兼ねているのですが、このことについては王子達には内密に。
ナイジェルは器用なことに小声にならない小声で、ウィンク共に茶目っ気たっぷりに言い添えた。
 情報と準備が整うまで待たなくてはならないが、宝探しという言葉にウィンクルム達は顔を見合わせた。
奥底にある童心や好奇心をくすぐる魔法の言葉だ。
ウィンクルム達も例に漏れずその魔法に魅せられ、俄かに沸き立つ。
 宝はどんな姿なのだろうか、ダンジョンはどんな場所なのだろう。
ダンジョンの奥にはどんな世界が広がっているのだろう、滅多にないことだから継承式も見てみたい。
 そんな風に口々に話し出すウィンクルム達を見て、ナイジェルはそっと微笑みを零す。
継承式は間違いなくいい式になると確信しているような笑みだった。


(シナリオ:こーやGM

第二回プロローグ

 ウィンクルム達は先程までとは違う喧騒の中にいた。
キャンディニア、クッキーラント、マシュマロニアのショコランド三王国をオーガの魔手から奪還する為の戦いは
ウィンクルム達の勝利で終わった。
それぞれの城を取り戻すことでバレンタイン城への秘密の通路も確保できたが、それよりも先にするべきことは山ほどあった。
 医術の心得がある者やライフビショップは負傷した仲間や、オーガの侵入により傷付いた住民達の治療で忙しい。
料理が出来る者は何箇所かに散らばり、炊き出しを行っている。湯気に乗った匂いで食欲を刺激される。
疲れた体に活力を取り戻す為にも必要なことだ。
そういった技術は無い者も、薬品を運ぶ、食事を配る、あるいは念の為にと残っているオーガがいないか確認したりなど、
各々が出来ることで働いている。
 ようやく人心地がつけそうになったところへ王子が戻ってきた。
各国の解放後、三人で集まってこれからのことを話し合っていたのだ。
 彼らの話し合いの結果がどうなったのか、ウィンクルム達には知る必要がある。
仲間同士で声をかけ、ウィンクルム達は王子の下へ集まった。


「皆、聞いて欲しい!」
 キャンディニア王国で、第一王子のアーサーが声を上げた。
陽光のように明るい金の髪にはほんの少し乱れが見られる。
奪還作戦の際、彼もウィンクルム達と行動を共にした為だ。
「まずは城の解放……キャンディニアの奪還をありがとう。皆のお陰で母さん達も無事で、損害も少なく済んだ。
あとは『通路を通ってバレンタイン城に乗り込んで、ボッカを倒したい』ところだけなんだけど……」
 長い睫が伏せられるが、すぐに青い瞳がウィンクルム達へ向けられた。
彼の後ろには戦いの中にあったとはとても思えない、飴細工で飾られた美しい城が見える。
「キャンディニアはまだマシだったけど、クッキーラントとマシュマロニアは城にそれなりに被害が出てる。
このことを考えると、ボッカ相手でそう簡単には行かないだろう。
『ボッカが城のどこにいるかは分からない』し、しかも城には父さんもいる…… 」

 クッキーラントの城に刻まれた戦いの爪痕へ目を向けていた第二王子のジャックは君達へ向き直った。
服には煤のような汚れがついている。
「父上は兄弟の中で最初に城に戻った者に爵位を譲ると言っていたが、今、俺達が先を競って城に入っては統率が取れない。
だから『先陣争いは無しにして、同時に城へ攻め込む』ことになった」
 城のあちこちには戦禍の後が見られる。
Dスケールオーガの大群との戦いだった為、建物への被害は免れなかった。
 しかし、マシュマロニアはクッキーラントよりもさらに被害が大きかったという。
それだけのことが出来る敵がいたのだ。
その事を踏まえると、ボッカがいるバレンタイン城ではより大きな被害が城に、
さらにいえばウィンクルム達にも与えられる可能性がある。
 治療を求めてやってきた住人を見て、ジャックは駆け寄ろうとしたが堪えた。
今は説明が先だと彼にもわかっているのだ。
「その代わり、『兄弟の中で最初にボッカと交戦した者が爵位を継ぐ』。そう決めて、約束してきた。
ただ――」

「バレンタイン城下町からとんでもない情報が持ち込まれたんです」
 ちらちらと不安そうにウィンクルムたちへ向けられていた第三王子へイドリックの視線が、
 上半分が崩れ落ちてしまった塔へと向けられる。
組み合わせた両手をぎゅっと握りしめ、緑の眼差しが足元へと落とされた。
「城の外から『巨大なハングリー・ジョーのような怪物が何度も見えた』そうなんです。
持ち上げられた頭が城壁越しでも見えたということは……どれだけ低く見積もっても30m、いえ、もっとあるはずです」
 ハングリー・ジョーとは大食らいとも呼ばれる、ショコランドの特有種だ。
ワニに似ていて、口がとても大きく、目に入ったものをなんでも食べながら前進する。
人が歩くくらいの速度で移動し、普通のものならば15mほどの大きさだが、その倍以上の大きさとなると……。
「もともと、すごくタフで堅い生き物なんです。頭は良くないですけど、匂いには敏感です。
話を聞いた感じでは中庭にいるみたいで、『突入してボッカのいる場所に出なかったら、
この怪物と戦うことになる』と思います」
 城の構造上、移動の時には一度、中庭に出る必要がある為だ。
 ヘイドリックはおずおずと、上目遣いで君達を見た。
「それと……これは兄様たちと話して推測したことなんですけど……。
もしかしたら、『一匹だけじゃないかも』しれません」



「大丈夫?」
 近くにいた神人から声をかけられ、ヘイドリックはハッとした様子で顔を上げた。
見るからに青ざめており、手も震えているように見える。
「大丈夫、です」
 答える声も震えている。
爵位の継承問題だけでなく、城内の案内役も兼ねている以上、ここに残れと言う訳にはいかなかった。
 別の神人がその背中を柔らかく叩いてやる。
励ましに応じるべく、ヘイドリックは大きく息を吸い、吐き出した。
 ゆっくりと、本棚に並ぶ本へと手を伸ばす。『マシュマロニアとバレンタイン』、この本を押し込んでやれば
秘密の通路が開かれる。
「いきましょう」


「よし、あとは……」
 ジャックは最後の木箱を床に置いて、手を打ち合わせて埃を落とした。
彼が退かした木箱があった場所には、取っ手のようなレバーがあった。
 ジャックが力いっぱいそのレバーを引くと、すぐ側の壁にゆっくりと隙間が生まれ、そこから光が漏れてきている。
これがクッキーラントからバレンタイン城へと繋がる通路だ。
 オーガの出す瘴気があると通路は不安定になってしまうが、城から一掃した今ではその影響もない。
ただの物置を装っている為、荷物を退かす必要性はあったが全員で協力してしまえばすぐだった。
 ウィンクルム達を振り返り、ジャックは力強く声をかけた。
「皆、頼む。絶対にボッカを倒そう」


「うん、大丈夫だ。行けるね」
 肩で息をする精霊達を尻目に、アーサーは通路を確認した。
キャンディニアの通路は調度品――ガラス細工にも似た飴細工で作られた棚の後ろに隠されていた。
勿論、棚を動かしたのは精霊達である。
 そこは一見するとただの壁のように見えたが、アーサーが壁を剥ぎ取ると光が見えた。
壁ではなく、とても巧妙に織られたタペストリーで隠されていたらしい。
 軽薄な印象を与えがちなアーサーの瞳が引き締まる。
集まったウィンクルム達一人一人の顔を記憶に刻み付けるように見つめていく。
「皆、もう一度、改めてお願いするよ。
ボッカを倒して父さんを助ける為に、あともう少しだけ力を貸してくれ」


 アーサーが、ジャックが、ヘイドリックがウィンクルム達を連れて通路を進む。
それぞれが覚悟を決めて進んだ光の通路の先は、果たして――


(シナリオ:こーやGM

第一回プロローグ

「愚かな人間の女共よ!」

 ある朝、タブロス市中のテレビが一斉にそれまで放送していた番組を放棄し大小様々な画面に一人の男を映し出した。

 銀髪を揺らし、長身痩躯で仁王立ちに構えたその姿はその特徴的に尖った耳から、
 一見すると色白なファータにも見えるがその額には立派な三本の角。

「良く聞け!女共!貴様らの世界の風習に則って
 チョコレートはこの世界一のイケメンモテ男であるボッカ様がいただく!」

『ウオオオ!』

 画面に向かってガッツポーズを決める彼(服は着ている)に周囲のオーガ達が野太い声援を上げた。

 彼らはどこかの王城の城門の前にいるようだ。

 30mはあろうかと思われる高い城壁に、巨大で分厚い城門。
 聳える2本の特徴的な門楼で、その城がかの有名なバレンタイン城であるとわかる。

 その門は比類のないほど堅牢で
 数百年間あらゆる攻撃に耐え王族を守っていると有名な門だった。

「世界一かっこいい俺様の姿、見せてやろう!」

 画面の中のボッカがこちらに背を向け強力な魔法障壁と落とし格子に守られた城門に触れる。

『モテビーム!』

 技名らしき台詞と共に眩い閃光が走り、爆炎、轟音と共に広がる黒い粉塵。

 視界が開けた時には門は瓦礫の山に姿を変え門楼は斜めに傾いでいた。

「俺様はイケメン過ぎてモテモテだ
 城内にあるチョコレートは全て俺様の物だ!
 俺様の元へチョコを運ぶ手間を省いた
 俺様のチョコレートよりも甘い優しさに感謝して涙を流すが良い!」

『ウオオオ!』

 野太い歓声に見送られ高笑いと共に入城するボッカの姿を最後に
 画面は暗転しA.R.O.A.本部では受付嬢が呆気にとられていた。


「なんですか、今の……」

 受付にいた人々が口々に呟いた時
 ドアを壊しそうな勢いで一人の青年が駆け込んできた。

「父を助けてくれ!」

 程よく鍛えられた体に、短い黒髪。
 ブラウンの瞳には強い焦燥が浮かぶ。

 青年は、事のあらましを話した。

 ボッカが占領したバレンタイン城は、タブロスより南のバレンタイン地方にある。
 彼―ジャックはその領主の次男、第二王子らしい。

 バレンタイン地方の特産品はカカオと、それからできるチョコレートだ。
 生産量は世界生産量の実に80%を占めており
 出荷前のカカオは全て城内部の倉庫の中にしまわれている。

「城が占拠されたら市場にチョコレートは出回らない
 チョコレートのないバレンタインになっちまうんだ
 このままじゃ世界中の人が困る事になる
 だから俺からウィンクルムに依頼して……」

「抜け駆けは良くないね、ジャック」

 ジャックの言葉を遮り、ブーツを鳴らして男が現れた。

 スラリとした長身に金の髪。その姿はまさに王子。

「アーサー兄さん……」

「ジャック、キミはそうやってウィンクルムの力を借りてオレ達を出し抜いて
 自分が次期伯爵の座に付こうと思ってるんだろう?」

 第一王子・アーサーの碧い瞳が成り行きを見守っていた受付嬢に向けられた。
 甘やかな笑みを浮かべ、彼は受付嬢の手を取る。

「お嬢さん、オレもウィンクルムに依頼させてもらうよ
 ジャックとは別にね
 お嬢さんのためにチョコを取り返してくるよ」

 ぱちん、とウィンクをしたアーサーの隣から、か細い声がした。

「ボクも、依頼を出させてください
 兄様たちとは別に」

 視線を向けると、桃色の髪を揺らした華奢な少年が
 空色の丸い大きな瞳で受付嬢を見上げている。

 彼を見たアーサーとジャックが同時に声を上げた。

「ヘイドリック!」

 彼はアーサーとジャックの弟、第三王子ヘイドリックだ。
 若干14歳にして大学に入学した頭脳明晰な少年である。

「ボクも、父様を助けに行きます」

 三人の話を総合すると

 三人の父バレンタイン伯爵は、老齢で先日引退宣言をした。

 新しい領主には、現在タブロスの大学で勉学に励む息子たちの中から
 一番最初に帰ってきた者を選ぶという。

 その準備中にこの騒ぎ。

 王子達だけではオーガに歯が立たないので
 ウィンクルムに助力を仰ぎに来たところ鉢合わせてしまったのだという。

「兄様達は、どうせ父様より次期当主の座が目当てなんですよね」

 じろり、と兄たちを見るヘイドリックが皮肉っぽく呟く。

「そんなことはない、オレはちゃんと父さんの心配もしているよ」

 アーサーがヘイドリックの頭を撫でようとするが、小さな手に払いのけられた。

「俺だって心配してるぜ
 それにチョコが無くなったら世界中の人が困るしな
 ヘイドリック、一人じゃ危ないぞ
 なんなら俺と一緒に来るか」

 ジャックの申し出にヘイドリックは眉を顰めた。

「嫌だ、ボクは一人で行きます
 兄様達みたいに立派じゃないけど、お菓子がないのは困るんです」

「ヘイドリックは昔から、甘いお菓子が大好きだったね
 おや、あれはショコランドだね」

「まさか、ショコランドに何か……」


 先ほどブラックアウトしたテレビの画面に、新たな映像が映し出されている。
 そこに映るのは見たことのない不思議な場所だった。


 地面は砂糖菓子のパステルカラーに彩られ、流れる滝はチョコレート。
 大きな湖が広がり、そこに川が流れ込んでいる。

「あの湖はシュガーレイクだ、中は全部砂糖水なんだぜ
 流れ込んでるのはソーダ川だ」

 ジャックが解説する。
 三人の瞳には、郷愁の色が感じられた。


「全国一億五千万人のボッカ様ファンの女共!待たせたな!」

 高らかな声と共に、画面の中央に銀髪のイケメン(自称)ボッカが現れた。
 画面の前の三人に緊張が走る。

「ここのチョコレートも、全て!一滴残らず!俺様の物だ!!」

 ボッカが掲げた腕を振り下ろすと
 オーガ達が一斉に雄叫びを上げショコランドに雪崩れ込んでいく。

 オーガ達が触れると、お菓子はその邪悪な瘴気に耐えられず
 プレッツェルの木も、ソーダ水の川も
 ウエハースの橋も、変色し見るも無残な姿となった。

 その光景に三人の王子たちが言葉を失う。

「なんてことを……」

「ひでぇ真似しやがる」

「母様は無事でしょうか……」

 ボッカが水着でチョコレートの滝で滝行をしようとして
 オーガに止められる映像を尻目に

 アーサーが受付嬢に向き直り、懇願する。

「頼む、ウィンクルムの力を貸してくれ」


 城の出入り口の魔法障壁はボッカの攻撃で歪んでしまったようで
 正面からの出入りは不可能だと報告された。

 三人の王子とウィンクルムたちは会議室で対策を考える。

「ショコランドにはバレンタイン城内に通じる秘密の通路がある
 ショコランドの安全を先に確保してそれを使おう

 オレのオススメはキャンディニアにある通路だよ」

「待て、キャンディニアは兄上の母上の国だろう
 俺は、クッキーラントの通路がいいと思う」

「クッキーラントはジャック兄様の母様の国ですよね
 ボクは、マシュマロニアの通路がいいと……

 ちなみに、ショコランドの瘴気を払うには
 ウィンクルムさんの愛のオーラが有効だとか」

「有益な情報をありがとう

 でもマシュマロニアはヘイドリックの母さんの国だね?
 やっぱりここはキャンディニアで」

「クッキーラントだ」

「マシュマロニアです」

 それぞれが自国の通路を推すものだから埒が明かない。
 睨み合った末、アーサーが口を開いた

「じゃあ、オレはキャンディニア、ジャックはクッキーラント、ヘイドリックはマシュマロニア
 三人別の通路を使ってウィンクルムの通路は彼らに選んでもらうっていうのは?」

「そうだな、どんな結果になっても恨みっこ無しだぜ」

「では、ウィンクルムの皆さん」

 ヘイドリックが会議室のウィンクルムに呼びかける。

「ボク達三人の中から誰と一緒にバレンタイン城に向かうか選んでもらえますか?」

(シナリオ:あごGM

◆NPC情報◆

 伯爵の三人の息子たちです。
 前回のボッカとの戦いでは、それぞれの隊を率いて、ウィンクルム達とバレンタイン城を見事奪還しました。
 次期伯爵には、アーサー王子が決まり、3人は戦いの中で少し成長したようです。
 (イラスト:櫻日和 鮎実IL

第一王子 アーサー
 長男、目立ちがり屋で新しい物好き、ちょっとだけお兄ちゃん風を吹かせたい21才です。  母親はキャンディニアの女王です。  ちょっと性格が軽めだけど、父親の安否を心配しています。  ボッカ戦では、最大人数のアーサー隊を編成。ボッカの居場所を当て、ボス戦一番乗りを果たしました。  これにより時期伯爵の座を手に入れました。  
第二王子 ジャック
 次男、行動力溢れる正義漢、困っている人を見ると見境なく助けたくなる癖があります。  母親はクッキーラントの女王です。  細かいことは気にしない18才です。  ボッカ戦では、一人で突っ走ってしまいがちな性格のため、  ウィンクルム達に心配され守ってもらうことも多々ありました。  信頼できる仲間との触れ合いが、人間的な成長につながったようです。
第三王子 ヘイドリック
 三男、頭脳明晰で優秀だけど、引っ込み思案な性格の14才、なんと飛び級で現在大学生です。  母親はマシュマロニアの女王です。  内気で悩みの多い末っ子です。  ボッカ戦では、最初一人で作戦を立てて一人で悩んでいましたが、  ウィンクルムに心を開き、人を信頼することを学んだようです。  今の心配事は、戦いで疲弊したバレンタインの立て直しです。


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