プロローグ
タブロス市の近郊に、廃墟となった村がありました。
廃墟となったのは随分と昔で、その原因は、伝染病とも天災とも、オーガに滅ばされた……はたまた連続殺人があったからとも言われていますが、はっきりとした資料は残っていません。
村の名前すら残っておらず、近くの村人からは『霧の村』と呼ばれています。
『霧の村』と呼ばれる所以は、村を覆う濃い霧です。
日中でも、数メートル先が見えない霧が、常に村を覆っています。
また、「幽霊が出る」、「オーガを見かけた」という噂が真しやかに囁かれ、村に近付く人はほとんど居ません。
けれど、そんな条件だからこそ、近くの村の子供達の間では、霧の村はある儀式の場でした。
所謂、度胸試しです。
『霧の村の中央にある崩れた教会から、その建物の欠片を拾ってくる』
それが、彼らの儀式でした。
拾って来た者は、勇気ある者として、仲間内から尊敬の念を集めます。
しかし、儀式を行わず逃げ出した者は…意気地なしと見なされ、肩身の狭い思いをする事となります。
だから、彼……トニーも、儀式に参加せざるを得ませんでした。
まだ10歳と幼く、臆病な彼は、亡くなった祖父の形見のペンダントをお守りに儀式に望みました。
幸いにも、儀式は彼一人ではなく、二人の男の子も一緒でした。
トニーは怖さに耐え、何とか教会に辿り着き、瓦礫から壁の欠片を拾うことが出来ました。
けれど、その帰り道に事件が起こります。
首から下げていた形見のペンダントが、いつの間にか失くなっていたのです。
トニーは、ショックの余り泣き出してしまいました。
きっと、教会で落としたに違いありません。
取り乱して来た道を戻ろうとした所、少年の一人がこう言ったのです。
「僕が拾ってくるから、トニー達は先に帰るんだ」
少年の明るい笑顔に、トニーは頷かずには居られませんでした。
勇敢で足の早い彼……ジョンなら、きっと直ぐにペンダントを見つけて追い付くだろう。
トニーは、ジョンにペンダントを任せて、もう一人の少年と霧の村を出ました。
しかし、夜になっても、ジョンは戻って来なかったのです。
A.R.O.A.本部に依頼が入ったのは、ジョンが行方不明になった翌日の昼でした。
「お願いです! ジョンを探してください!」
ジョンの両親と、トニーは涙ながらに真摯に訴えました。
「霧の村には、オーガが出るという話が昔からあります。一刻も早く、ジョンを見つけて連れ帰ってください。お願いします!」
両親とトニーの話により、以下の情報が提示されました。
ジョンは12歳。金髪・碧眼で、身長は150cm程。
人懐っこく、笑顔が似合う明るい少年です。
今回の儀式に際し、備えとしてお菓子とジュースを少量持っています。
ジョンを探しに、村の大人が数人、村の入り口まで出向きましたが、村の中から獣の呻き声のようなものが聞こえたため、引き返しています。
狼や犬のような声だったとのことです。
霧の村内部の正確な地図はありませんが、子供達は以下の順路で、儀式を行っていました。
・村の入り口に入ったら、朽ちた柱が倒れている。その柱の倒れた方向へ真っ直ぐ進むと教会に付く。
・教会の前の朽ちた花壇を右手に真っ直ぐ進むと、村の出入口に付く。
果たして、ジョンは何所に居るのでしょうか?
解説
・霧の村の周囲は、錆びた鉄製の柵で覆われており、出入口は一箇所のみです。
霧が濃いため、上記出入口以外は、現在のところ確認ができない状況となっています。
・村の中は、日中でも数メートル先が見えない霧に覆われているため、仲間やパートナーと逸れないよう、工夫が必要です。
※以下はPL情報となります。
・デミオーガ化した野犬(3匹)と野鳥(2羽)が彷徨いています。
・野犬は、中型の痩せ型です。
爪での引っ掻き、牙での噛み付きが攻撃手段で、匂いと音に敏感です。
・野鳥は、大鷲ほどの大きさで、上空から嘴と爪で攻撃してきます。
羽ばたきの際の音で位置を把握できるかもしれません。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、『霧は浪漫ですよね!』な雪花菜 凛(きらず りん)です。
今回は、霧の村の探索です。
視界の悪い状況ですので、道を見失わないこと、物音に注意するなどが重要になるかと思います。
是非、行方不明になったジョンを見つけてあげてください。
皆様の素敵なアクションをお待ちしております!
※ゲームマスター情報の個人ページに、雪花菜の傾向と対策を記載しております。
ご参考までに一読いただけますと幸いです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
アキ・セイジ
(狼或は犬か…) 俺は村人に頼み酢とキッチンタイマーを提供して貰う *無ければ近場で買う 以下の手順で救出を試みる ・一時間後にセットしたタイマーを入口に置く ・歌のとおりに歩き、”静かに”探す ・はぐれないよう手を握る ・耳をすまし警戒は怠らない ・ジョンを見つけたら、安心させてやり手を繋いで帰還 「勇気あるな君は。あと少し頑張れるかな」 襲撃対応 ・ジョンは安全な場所に隠すか庇う ・建物も活用し回避 ・俺は剣で応戦 ・十秒後にセットしたタイマーを遠投し魔物の注意を逸らす等もする ☆犬には酢の瓶を投げる(瓶が割れれば良い 「鼻が良いから辛いだろ」爽 最初のタイマーが目印として鳴る前に帰還したい *その場合「使わず済んだ」と回収 |
ブラック
デミ・オーガが出没するということで、刀を所持。 とにかく少年を探すことに必死(小さいころにオーガに襲われたことがある設定なので)。 被っている中折れ帽がデミ・オーガ化した野鳥に取られて少しイライラする(「あ、俺の帽子っ…。」とか言ってみる)。 それ以来、戦闘中は上ばかり気にしてる。 じいさんにあれこれ指摘されながらも(「はいはい、足元足元…」とか呟きながら)、自慢の軽い身のこなしでアキさん達と協力して戦う。 少年を見つけたら、帽子のことなんかどうでもよくなるくらい、ものすごく気遣う(「辛かっただろ?怪我はないか?痛いところは?…もう安心していいからな。」よしよし、みたいな)。 |
●1
アキ・セイジとヴェルトール・ランス、ブラックと栁じいがその村へ着いたのは、時計の針が15時を過ぎた辺りだった。
「ようこそ、おいで下さいました!」
A.R.O.A.から派遣された来た四人に、村人達は縋るような眼差しを向けて頭を垂れる。
「一つ頼みたい事があるのですが……」
恐縮しながら、最初に口を開いたのはセイジだった。
「『酢』と『キッチンタイマー』をご提供いただけないでしょうか」
「酢とキッチンタイマー……ですか?」
村人達は思わず目を丸くして、セイジの顔を見つめる。
「はい、酢とキッチンタイマーです」
セイジは構わず、真面目に頷いた。
霧の村へ向かう前にここへ寄ろうと提案したのはセイジである。
それはこれを調達するためだった。
「一体何に使うんだ?」
ブラックも首を傾けてセイジを見遣った。
「後で使う際に説明するよ」
セイジがそう返した時、一人の少年が瓶に入った酢と二個のキッチンタイマーを持って彼に駆け寄ってくる。
「これで大丈夫ですか?」
瞳を赤く腫らした少年は、A.R.O.A.へジョンの両親と共に依頼に訪れたトニーだ。
「あぁ、問題ない。有難う」
差し出されたそれらを受け取ったセイジが安心させるように微笑むと、トニーも小さく笑みを返してくる。
「絶対にジョンは無事に連れ帰るから、安心してね」
ブラックは力強い笑みを見せ、トニーの頭を撫でた。
「……お願い……します……!」
何とか微笑もうとして、トニーの瞳から涙が零れ落ちる。
「これでも飲みなさい。気持ちが落ち着きますよ」
そう言って、栁じいが用意してきた水筒から、お手製のお茶をコップに注ぎ彼に渡す。
「俺達に任せておけば、大丈夫だからな!」
ランスもまた、明るい笑顔でトニーの涙を拭ってやった。
彼らの様子を眺め、ジョンの両親も涙ぐんでいる。
-必ず、連れ帰る-
彼らの涙に強い決意を灯して、一行は霧の村へと向かったのだった。
●2
霧の村の入り口に近付くにつれ、霧が辺りを覆い始める。
ぼんやりとした視界の中、威圧するような錆びた鉄製の柵と、その真ん中にそこだけ空気が違うような村の入り口があった。
「一時間後にセットする」
セイジはキッチンタイマーの一つを操作すると、門の柵に立て掛けるように置いた。
「タイマーは目印だ。万一、村の中で迷っても……この音を頼りに帰れるようにな」
「なるほど!」
ブラックは合点がいったと、両手をポンと合わせて頷く。
「準備は万端だね。さぁ、行こうか! 早くジョンを見つけてあげないと」
気合い十分の表情で、愛用の刀の柄を確かめるように撫でた。
「えぇ。ただし、焦りは禁物ですよ。落ち着いていきましょう、ブラック」
やんわりと落ち着いた声音で栁じいが頷く。
「目的は退治ではなく救出……だよな」
ランスが確認するように、セイジを見遣った。
「あぁ。視界も悪いし、魔物の数も判らないから慎重に行こう。まずは、子供達の話の通りに進んでみるとしようか」
セイジのその言葉に一同は頷き、ついに村の中へと足を踏み入れる。
「うわっ……想像以上に白い……!」
ブラックは思わず何度も目を擦った。
しかし視界は晴れる事はなく、真っ白な靄が掛かり、近くに居る筈のセイジ達の姿も気を抜くと見失ってしまいそうだ。
「やはり見晴らしが悪いようですね……ひとまず一杯いかがですか?」
栁じいの落ち着いた声と、彼が渡して来たお茶にブラックは気持ちが落ち着くのを感じる。
落ち着いて、しっかりジョンを探さないと。
ここで自分が焦ってしまうと、ジョンの救出だってままならないのだ。
きっと心細い想いをしている。
幼い頃にオーガに襲われた経験から、ブラックはジョンの身が心配でならなかった。
早く見つけないと!
そう決意を新たに視線を上げた時、微かに羽音が耳を擽った。
「鳥……?」
ブラックが呟くと同時、
「上です、ブラック!」
栁じいの声がしたと思ったら、ブラックの被っていた中折れ帽が空に舞っていた。
「デミ・オーガか!」
咄嗟にランスが振るったマジックスタッフ『ダークブルー』がその影を掠って、ギィと小さな声を上げてそれは空に消える。
「……デミ・オーガ化した野鳥……のようだな」
空に目を凝らしながら、セイジが眼差しを厳しくした。
「あ、俺の帽子っ……」
ブラックは悔しそうに眉を寄せ、奪われた帽子を追うように視界を空に向ける。
「ここからは、静かに行こう」
セイジの言葉に一同は頷いて同意を示した。
「あと、想像以上に霧が濃い。逸れないように……その、手を……」
少し抵抗がある様子ながらもセイジが手を出すと、ランスがスッとその手を握った。
「俺は当然セイジと、だな」
「では、こちらはこちらで」
栁じいも頷くと、ブラックの手を取る。
「……では、行くぞ」
一行は、朽ちた柱の倒れた方向へ真っ直ぐと歩き始めた。
静かな廃墟に四人の静かな靴音だけが響いた。
視界が塞がれているも同然の環境の中、聴覚を鋭敏に研ぎ澄まし、慎重に歩を進めていく。
時折、遠くで羽音が聴こえるが、先ほどのランスの攻撃で警戒しているのか、野鳥が近付いてくる様子はなかった。
(あの帽子、気に入っていたのに……!)
音が聴こえる度、ブラックは空を見上げてしまう。
「ブラック、空ばかりでなく周囲も警戒してくださいね」
「わかってるよ、じいさん」
栁じいに囁かれ、ブラックは少し唇を尖らせてから、周囲に警戒を戻した。
とはいえ、相変わらず霧は濃く、足元を見下ろしても手がかりらしき物は見つからない。
こんな状態で、ジョンは独り、この村の何処かに居る筈なのだ。
どうか無事で居て欲しい。
自然と栁じいと繋いだ手に力が入った。
●3
黙々と歩いた一行の前に朽ちた教会が姿を現したのは、突然の事だった。
不思議な事に、教会がある場所だけは僅かに霧が薄く、その存在をはっきりと主張していた。
誘われるように一行はその場所へ入る。
かつて豪奢な建物であったであろう面影のみを残し、屋根は崩れ、壁も一部を残すのみ。
かろうじて残る十字架のモチーフと、かつては信者が座ったのであろう長椅子、神父が立っていたであろう説教台。
それらが、ここが教会であった旨を示していた。
すべてのものが、触ると崩れ落ちそうな危うい雰囲気を纏っている。
ステンドグラスは割れて果て、床は瓦礫で埋め尽くされ……元々は清らかな場所であった筈なのに、不気味さが際立っていた。
「トニーの話だと……恐らくここでペンダントを落とし、それを探しにジョンが来た筈だ」
油断なく辺りを見渡しながら、セイジが小さな声で呟く。
「セイジ、あそこ……床が抜けたような跡がある……!」
ランスが緊迫した声音でそう告げ、その指し示す先に一行の視線が集中した。
教会の中央部に、床が崩れて暗い小さな空洞が口を開けている。
まさかと顔を見合わせると、急いで空洞の前へと駆け寄り、穴を覗き込んだ。
霧で光が入らないため、穴がどれくらい深いものであるのか判別は付かない。
「おい……誰か居るか……!」
「ジョン、居たら返事をしてくれっ!」
セイジとブラックが穴へ向かって呼び掛けた。
「…………たすけて……」
か細い少年の声が穴の中から聞こえて来る。
「今すぐ、助けるから! 待ってて!」
ブラックは叫び返して、セイジの顔を見た。
セイジは小さく頷く。
「今の声、意外と近かった。そんなには深くないと思う」
「じゃあ、俺が……」
ブラックがそう言った時、
「皆様方、注意してください!」
栁じいが鋭い声を上げる。
グルルルルルル……。
低い獣特有の唸り声が周囲から聞こえて来たのは、それから直ぐの事だった。
「デミ・オーガか……!」
霧の中うっすらと、血走った瞳に涎を垂らした野犬の姿が3匹見えた。
また、上空からの鳥の羽撃き音が聞こえて来る。見える影は2つだ。
「あの鳥、仲間を呼んで来たって訳かよ……!」
ランスは苦々しくマジックスタッフを強く握る。
「決めた。俺が穴へ潜って少年を助けてくるから、セイジ達はアイツらを頼む」
それから、金色の瞳に強い決意の色を浮かべ、真っ直ぐにセイジを見てそう告げた。
「俺の魔法詠唱には時間が掛かるし、こういうの得意だから」
何所からその自信が来るのか、明るく強気にそう言い切る。
「そういう事なら、任せておいてくれ! ジョンの事、頼んだよ!」
ブラックは力強く頷くと、腰の刀を抜き放った。
「安心して任せてください」
栁じいもまた、油断なく獣達を見据え、ゆったりと隙無く構えを取る。
「……慎重に、気を付けていけよ」
少しだけ迷うように視線を彷徨わせた後、セイジはそう言ってランスの胸板に軽く拳で触れた。
「任せとけって!」
ランスはそれにウインクで応える。
そうして、セイジがウィンクルムソードを抜くのを背に、穴の中へ降り始めたのだった。
●4
「この……鳥! 俺の帽子、返せッ!!」
ブラックの刀が、鳥の翼を切り裂くべく一閃した。
翼にその一太刀が掠り、ギィと忌々しげな声を上げ、野鳥が空へと逃げる。
「逃げるなッ!」
追い打ちを掛けようと、ブラックの足が大地を蹴る。
「上にばかり気を取られて、足元がお留守ですよ!」
その背後で、ブラックに飛び掛かろうとしていた野犬が、栁じいによって投げ飛ばされていた。
頭から落下した野犬が地に這い、ピクピクと痙攣する。
「はいはい、足元足元……」
とは言っても、栁じいが居れば気にする必要はない。
ブラックは誰よりも栁じいの事を信頼している。
神人に顕現してから、ずっと栁じいに武術を習ってきたのだ。
「ハァァッ!!」
瓦礫を利用しての三段跳びで、ブラックは野鳥へ迫り刀を振り下ろした。
ギャーッ!
短く声を上げ、力を失った野鳥が地へ落下する。
それを確認しながら、セイジは懐から予備のキッチンタイマーを取り出していた。
素早く10秒後に鳴るようタイマーをセットすると、離れた場所へ向けて投擲する。
ピピピピピピ……!
鳴り響く機械音に、獣達の意識が一瞬そちらに向いた。
その隙を見逃さない。
「これでも喰らえ!」
続いて酢の瓶を、野犬目掛けて思い切り投げた。
キャインッ!
酢の瓶が野犬の鼻先に当たって割れる。強烈な匂いに獣達は悲鳴のような鳴き声を上げた。
「ナイスコントロール!」
それを見たブラックが、思わずグッと親指を立てる。
「鼻が良いから辛いだろ」
それに頷き、爽やかな笑みを見せてから、セイジはウィンクルムソードで野犬を一閃した。
「チェックメイト、ですな」
もう一匹の野犬もまた、栁じいの強烈な四方投げで意識を刈られる。
ギィイイイ!
最後の一匹となった野鳥が、怖気づくように上空へと羽ばたいた。
「おいおい……皆。俺の分も残しておいてくれよな」
明るい声と共に、その場の空気が熱い渦となってその声の方へと集まる。
「あ……」
振り向いたブラックが、パァと瞳を輝かせた。
そこには、少年を支えた状態で杖を前に出し、魔法の詠唱を終えたランスが居た。
「これで……終わりだ!」
ランスの魔力が杖を伝い炎となって、真っ直ぐに野鳥へと放たれる。
炎はあっという間に野鳥を包み、断末魔の悲鳴を上げ燃え尽きたのだった。
●5
ランスによって救出された少年は、間違いなくジョンだった。
「辛かっただろ? 怪我はないか? 痛いところは?」
デミ・オーガ達を全て倒した事を確認してから、ブラックはすぐにジョンへと駆け寄り、心配そうに彼を見つめる。
「かすり傷程度だから、平気です」
安堵から少しの涙を見せながらも、ジョンは気丈に笑顔を返した。
「お茶でも飲んで、落ち着くといいですよ」
「……もう安心していいからな」
栁じいがお茶を渡し、ブラックはそんな彼の頭をよしよしと撫でる。
「大した深さの穴じゃなくて、本当によかったよ」
ランスは心から安堵した表情で、その穴を見遣った。
ジョンが落ちていた穴は2m程の深さで、ランスはそれを確認すると、軽々と飛び降りて助けにいったのだという。
穴の下は、教会の地下室だった。
廃材やそこにあったベッドが上手くクッションとなり、ジョンは幸い骨折など大きな怪我をすることは無かった。
しかし、扉は固く閉ざされており、また周囲から獣の声が聞こえたため、動けずにその場に居たのだという事だった。
ちなみに、扉は脱出時にランスにより蹴破られた。
その手には、大事そうに碧色の宝石が光るペンダントを握りしめていた。
セイジはそんなジョンを見つめ瞳を細める。
「勇気あるな君は。あと少し頑張れるかな」
「……はい!」
ジョンは笑顔で頷いた。
教会を出て、一行は油断なく辺りを見渡す。
「朽ちた花壇を右手に真っ直ぐ進むと、村の出入口に付く……だったな」
「はい、そうです」
セイジの言葉にジョンがしっかりと頷いて同意する。
「まだオーガが居る可能性もある。慎重に行こう」
「何か出ても、俺達が守るから、安心してね!」
セイジとブラックに差し出された手を取り、ジョンは二人と手を繋いで歩き始めた。
その彼らの前後左右を、ランスと栁じいが警戒しながら、村の入り口を目指す。
しかし、もう獣の声も鳥の羽撃きも聴こえる事はなかった。
一行が霧の村を出ると、辺りは夕焼けに包まれていた。
「綺麗な夕焼けだね」
ブラックが眩しそうに目を細めて、小さく伸びをする。
「使わず済んだな」
セイジは入り口に置いていたキッチンタイマーを回収した。
ジョンは不思議そうにキッチンタイマーを見つめる。
「キッチンタイマー、大活躍だったんだよ」
フフフとブラックが人差し指を立てて自慢気に言った。
「キッチンタイマーが?」
「そう、キッチンタイマーが!」
霧の村での探索について話しながら、ジョンはブラックとセイジに手を引かれ、村への帰途へと着いた。
●6
村の入り口では、トニーとジョンの両親、村人たちが一行の帰りを待ちわびていた。
「ジョン!!」
ジョンの姿を見るなりトニーは駆け出し、彼に抱き着くと大粒の涙を零す。
「ごめんね……ごめんね……! 無事で……よかった!」
ジョンはそんなトニーを抱きしめて、何度も首を振った。
「俺は大丈夫だよ。トニー、心配かけて……ごめん。これ、ちゃんと見つけてきたから」
大事に持っていた碧色の宝石が光るペンダントが、ジョンの手からトニーの手に渡される。
「ジョン………! あり……がとう……!!」
トニーはもう言葉にならず、ただただ涙を流すばかり。
「本当に、ありがとうございました……!」
ジョンの両親と村人達が、セイジとブラック達に深々と頭を下げる。
「無事でよかったですね!」
ブラックは晴れ晴れとした笑顔で、照れくさそうに頬を掻いた。
「よろしければ、今晩は村へ泊まっていって下さい。ささやかながら、ご馳走をご用意させていただきます」
「ご馳走!?」
瞳を輝かせ、ブラックは栁じいに視線を向ける。
「ご厚意はありがたく、受け取りましょう」
「やったー!」
ブラックがガッツポーズを取って喜び、その様子を眺めて栁じいもニコニコと笑顔を浮かべた。
そんな遣り取りを見ながら、セイジは隣に立つランスへ口を開く。
「ランス。今回はその……助かった」
「ん? パートナーとして、当然の事をしただけだろ?」
ランスはキョトンとした表情で首を傾ける。
「パートナー……」
その言葉を飲み込むように繰り返し、セイジはランスから視線を逸らした。
「そう、相棒だ。これからも……よろしく」
「!」
ランスは小さく目を見開いてから、嬉しそうに微笑む。
「あぁ、よろしくな、セイジ!」
「……別に、恋人じゃなくても、問題無いんだろ?」
ぼそりと呟かれた言葉に、ランスは大きく瞬きした。
それから、少し悪戯っぽい笑みを浮かべてセイジを覗き込む。
「俺達の強さは愛情に関係するらしいから、問題大有りだと思うけど?」
「……!!」
セイジはぐっと言葉に詰まり、眉根を寄せると頭を抱えたのだった。
Fin
依頼結果:大成功
MVP:
名前:アキ・セイジ 呼び名:セイジ |
名前:ヴェルトール・ランス 呼び名:ランス |
名前:ブラック 呼び名:ブラック |
名前:栁じい 呼び名:じいさん |
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 2 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 03月08日 |
出発日 | 03月13日 00:00 |
納品日 | 03月17日 |