巨大迷路にようこそ!(タカトー マスター)

プロローグ

●迷路周辺
 いつできたのかはわからないが、タブロス郊外にはあまり人気のない巨大迷路がある。
 特に風も冷たい冬は、利用者がほとんどいない。
「せっかく作ったのに……!」
 頭を抱えた経営者は、そこでとあることを思いつく。
 カップル向けに、イベントを開催することにしたのだ。

●街
 街中で買い物を済ませたあなたとパートナーの精霊。
 用事も終えことだし帰ろうとすると、進行方向にはなぜか人だかりができていた。
 近づいてみると、若い女性がチラシを配りながらイベントを告知していることがわかる。
「迷路の入り口から出口にいたるまでの、かかった時間を計測するイベントです。
 3日間、巨大迷路にて行われます。
 タイム上位者は、豪華景品あり!
順位によってグレードが変わる、ディナーお食事券をプレゼントしちゃいます!
 二人一組での挑戦をお願い致します。
 参加費用は、一組100ジェールです。
 迷路をただ歩くだけでなく、途中にはペアの互いの理解度を深めるクイズなんてものもご用意しております。
 クイズに正解すればすぐに通過できますが、間違えればペナルティとして数分歩みを止めていただきます。
 仲の良い方とぜひお立ち寄り下さい!」

 配られたチラシにはさらに詳しい情報が記載されていた。
『ちなみに迷路の各箇所に業務員がおりますので、不正行為はすぐばれます。
 正々堂々、挑戦してみてください。
 何度も挑戦できますが、その場合ベストタイムではなく、
 一番新しい記録があなたの記録となります。
 例
 一回目・1時間かかった
 二回目・2時間かかった
 だとすると、あなたの記録は2時間となってしまいます。
 ご注意ください』

 『豪華景品』をエサに、客寄せをし始めた経営者。
 ちょうど、このイベントが開催されるのは明日からだ。
 経営者に乗せられるのもなんだが、巨大迷路の挑戦にはいい機会だった。

解説

●イベントについての補足
 午前10時から午後4時まで参加受付をしております。
 緑と四季の花々で彩られた巨大迷路の、脱出タイムを競っていただきます。
 迷路内にはクイズを実施する業務員、リタイア者を見つける業務員がどこかに隠れています。
 リタイアする際は、入り口で受け取る白旗を頭上で大きく振ってください。
 すぐに業務員が駆けつけます。

●迷路の楽しみ方
 豪華景品を目指して走り回るもよし。
 花々を見ながら、のんびり散歩デートするもよし。
 迷路の遊び方は皆さん次第です。

??イベント後
食事券で食事を楽しんだり、迷路に再挑戦したり。
お好きにお過ごしください!

ゲームマスターより

 はじめまして。タカトーと申します。
 これからどうぞよろしくお願い致します。
 
 巨大迷路、楽しんでいただければ幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信楽・隆良

  目指すは1位だ!

あんま表情変わらないとか紅茶に詳しいとかは知ってるけど
そういえばトウカが自分のこと話すってないな
クイズ不正解は悔しい
そんなの知らねぇよっ

遅れを取り戻そうと走り出したら後ろに気配がない
あれ?
花を見てるトウカに
好きなのか?と

小さく息吐き
仕方ない
1回目はゆっくり見て回るか
その代り次は走るんだからな!

なー、お前の好きなもの教えてくれよ
次は絶対クイズ全問正解してやる
トウカもクイズ間違えんなよ
よし、あたしの好きなものをあげてくから
1つ言ったらトウカも1つ答えるんだぞ

2週目はトウカの手を引き走る
最速記録を更新するんだってば
ほら!
楽しいな
迷路も走るのも
お前と話すのも、さ

…案外悪くないってこと!


朱柄・千奈希
  タイムを競う、そして上位には豪華景品……となれば、やはり狙うはその上位。
1秒でも早い迷路クリアを目指しますよ!
そうなると、迷路を走り回ることになりますから、動きやすい服装にしておきます。

肝心の迷路攻略法……左手法が基本でしょうか。でも、時間がかかるかもしれませんね。
タイムを縮めるとなると勘も必要にはなるかもしれません。
ここは、ウィルトスさんにも訊いてみましょうか。

クイズは正解できるよう、しっかり考えます。

同じ所を何度も通ってしまわないよう、できるかぎりの範囲でどこを通ったか、道の特徴も覚えるように。

納得のいかないタイムならば、再挑戦を。
食事券が入手できたのなら、食事を楽しむことも忘れません。


クローエ・ル・カリエ
  巨大迷路か。
丁度早春の花々も並ぶ頃だろうし、気分転換を兼ねて散策するのも悪くない。
屋外はまだ空気は冷たいかもしれないから、防寒もしていかなくては。

察するに、ゼノン君も案外こういうアトラクションには熱くなるタイプだろうな。
とは言っても頑なな年頃だ。素直に楽しめと言っても聞かなそうだから、『私はただ単に散策を楽しみたいだけから』とでも言って、迷路に入った後のルートは彼に任せてみよう。
クイズはどんなものが出るか判らないから、その時は力を合わせて、だね。

どうしても抜け出せなかった時には、ゼノン君と壁によじ登って颯爽と退場させて頂く事にしよう。
業務員に見つかる?でも、素直に白旗を上げるよりは愉しそうだ!


●迷路の始まり~景品を目指す者~
 『ウィルトス・アルティーガ』と『朱柄・千奈希』は、イベントが開始する15分前にきっちりと受付前に到着した。
 未だ迷路のルールがよくわからないまま適当についてきたウィルトスに対し、イベントのチラシを熟読してきた千奈希。
「はあー。なんだよこの人だかりは」
「ウィルトスさん、説明したじゃないですか! このイベントで上位入賞した方には、豪華景品が与えられるんですよ。
だから皆さん気合が入っているんです」
「豪華景品っつってもなあ……オレは興味ないぜ」
「くっ……!」
 ウィルトスとの温度差に思わずうめいてしまったが、その反応は既に予想済みだ。
 千奈希は持っていたチラシをひらひらとさせながら、声を発する。
「ようするにこれは、タイムを競う『勝負事』ということなんですね」
 千奈希の言葉に、ウィルトスが興味を示した。
「豪華景品を手にしたペアの方が、つまりは勝利者というわけです」
 ここまで言えば十分だった。
「なるほどな。よっしゃあ行くぞチナキ!」
「はい!」
 すっかりやる気になったウィルトスを見て、千奈希は気持ちよく受付へと向かった。

●迷路の始まり~速さを競う者~
 迷路の参加者でにぎわう人々の中に、殊更元気な少女がいた。
「よし! 絶対一位を狙ってやるぞ!」
「……相変わらず元気ですね」
 『信楽・隆良』はイベント開始10分前にはもう迷路の入り口に着いていて、始まりを待ち構えている。
 一方『トウカ・クローネ』は、そわそわと落ち着かない隆良を見つめていた。
 目の前にいる、茶髪の少女と銀髪の少年ペアは互いに迷路に意気込んでいるようだが、トウカはいつものように静かだ。
「はい! では受付をすませてくださいー」
 業務員が現れそう声をかけた途端、隆良は駆け出す。
「行くぞ! トウカ」
「はい」
 業務員から白旗を渡された二人は、名前を記入してさっそく迷路に入っていった。

●迷路の始まり~散策を選んだ者~
 きっと、イベント初日の午前中は人が多い。
 そう予測して昼過ぎに優雅に迷路へとやってきたのは、しっかりと衣服で防寒している『クローエ・ル・カリエ』と『ゼノン・ゼイエル』。
「やはりまだ少々屋外は冷えるね。寒くないかい? ゼノン君」
「俺は大丈夫です。それよりお嬢様が……」
 クローエが風邪でもひいてはいけないと思っているのか、ゼノンの表情は硬い。
 心配げに見つめてくる彼の顔をのぞきながら、クローエはやれやれと小さく笑った。
「イベントの受付をお願いします」
 クローエが業務員にそう伝えると、すぐさま白旗を渡される。
「承りました。それではどうぞー」
 他のイベント参加者が我先にと走り出す中、二人はゆっくりと歩み出した。

●彼は直感を信じる
「迷路といえば、左手法でしょうか。でもそれだと時間がかかってしまうかもしれませんね……」
 走りつつ慎重に考える千奈希だったが、ウィルトスはどんどん進んでいこうとする。
「よし。じゃあ次の分かれ道は……こっちだ!」
「ウィルトスさん! そっちだと戻ってしまいます! こっちです!」
 出来る限り、路の特徴を覚えていてよかった。
 咲いている花が目印となって、なんとか千奈希はたどってきたルートを頭に入れておくことができている。
「行きますよ!」
「……おう」
 ウィルトスは少し不満そうだが、タイムを縮めたい気持ちは千奈希と同じだ。
 ちゃんと後をついてきてくれる。
 だが、そのようなやり取りを何度か繰り返したところで、とうとう千奈希の記憶量が限界を迎えた。
「えっと……次は……」
 数回目の分かれ道で、どちらが正しい路なのかわからなくなってしまう。
 千奈希は困り果ててウィルトスを見た。
 目が合うと、ウィルトスはまっすぐに右を指差す。
「こっちだぜ! チナキ!」
「え、すごいですウィルトスさん! わかるんですかっ!?」
「わかんねえよ! 勘だ!」
「……………………」
 千奈希は絶句してしまったが、ウィルトスはなぜか誇らしげだ。
「……いえ、そうですね。勘も必要でしょう!」
 ウィルトスの明るさにつられ、千奈希も元気が出てくる。
 二人は再び走り出した。

●クイズの楽しみ方
「行き止まり……! トウカ、戻るぞ!」
「はい」
 迷路を進み始めてから、10分ほどが過ぎたころだろうか。
 やみくもに走る隆良と、その数歩後ろをついてくるトウカ。
 黙々と一旦来た道を引き返して、違う道を駆け足で突き進む。
「はいお疲れ様ですー! 最初のクイズですよ!」
「おお!」
 どうやら正しい道を選べていたらしい。
 業務員を見て、隆良が声をあげた。
「ではまず、こちらの紙に書いてある質問に答えてくださいね。もちろん、答えはお互い見せ合ってはいけませんよ」
 業務員に手渡された紙には、自分の嗜好等について書く欄が設けられていた。
 トウカと隆良は渡されたペンでさっとそれに答え、業務員に提出する。
「はい。ありがとうございます。それではさっそくクイズです! トウカさん。隆良さんのお好きな動物はご存知ですか?」
 トウカはまったく動揺せず、あっさりと答えた。
「犬です。特に、大型犬が……」
「すばらしい! 大正解です!」「え! なんでそこまで知ってんだ!?」
 業務員と、隆良が同時に言葉を発する。
「前に、見たことがありましたから」
 隆良は全然覚えていない。
 いつのまにトウカはそれを知ったのだろうかと疑問に思っていると、すぐさま業務員が隆良を見た。
「ではでは、次は隆良さん」
「お、おお! さあこい!」
 意気込む隆良に業務員は笑いかけ、質問を行った。
「トウカさんのお好きな飲み物は」
「それはわかるぞ! 紅茶!」
「……ですが、特に一番お好きな紅茶の種類はなんでしょうか?」
「へっ!?」
 トウカが、紅茶に詳しいことは知っていた。
 だからきっと好きでもあるのだろうと余裕を持って答えたのだが、予想外の質問が続いていた。
「紅茶は紅茶じゃねえのかっ!? 種類とかあるのかっ!?」
 目を白黒させている隆良の横で、トウカは静かにうなずく。
「そ、そんなの知らねぇよっ!……いや、何か前飲んだことあるのが……アッサ?」
「残念でした。一問不正解ですので、ここで5分間立ち止まってくださいねー」
「くっそおおおお!」
 隆良の悔しがる声が、迷路の中で響き渡った。

●お嬢様の考え
 迷路に入った途端、「これはいらないな」と言ってさっさと白旗を放り投げるクローエ。
 それを、ゼノンは慌てて拾った。
「従順なことだね、ゼノン君」
 ゼノンの行動ぶりに、クローエはさてどうしようかと考えを巡らす。
 少し外に出ただけでは、彼は使用人としての振る舞いを崩そうとはしない。
 しかし、今日はゼノンにリフレッシュをしてもらいたい。
「これからどうしようか、ゼノン君。私はただ単に散策を楽しみたいだけなので、進むルートは君に任せたいと思うのだが」
「え。俺が、ですか?」
 通常だと、クローエの気ままな行動にただ付き添ってきたゼノン。
 そのため、急にそんなことを言われて困惑している。
 だが、それと同時に迷路に対してなんだかわくわくもしているように見える。
「私はこの迷路を装飾する、花々を見ているだけで満足なのだよ。花の選択もなかなか凝っていて、いくつも種類があるようだしね」
「わ、わかりました。それでしたら、はい。行きましょう」
 ぎこちなく、クローエの隣に並ぶゼノン。
 本来は後ろにさがる者として緊張してしまうのだが、それでも迷路に目を輝かせている。
 その様子をくすくすと笑いながら観察するクローエ。
 見ていて楽しいのは、花だけではなさそうだ。

●一週目の楽しみ方
「はい、5分経ちました」
「よし! それじゃあ!」
 ようやく業務員がすっと道をあけてくれたので、隆良は勢い良く走り出す。
 トウカは相変わらず、その後ろをゆっくりついていく。
 隆良は遅れを取り戻そうとさらにスピードをあげようとした。
 だが、ものの数分で、背後で聞こえていたトウカの足音が消える
 不審げに振り返った隆良の目に入ってきたのは、花を見つめるトウカの姿だった。
「トウカ?」
 思えば、迷路に入ってからというもの碌に路を飾る花々を見ていなかった。
 トウカは美しい桃色の花にそっと手をかざし、それをじっと観察している。
 隆良が近づいてみると、トウカが花から彼女へ目線を動かした。
「あ……」
 急いでいる隆良に悪いと思ったのか、トウカが何か言いかける。
 だが、隆良はそれを気にせず問いかけた。
「花が、好きなのか?」
 隆良のその言葉に、トウカはほんの少しだけ口元を緩めた。
「……はい」
 隆良はそんなトウカの様子を見て、小さく息を吐く。
 こんな表情を見せられては仕方がない。
「よし。一回目は、ゆっくり見て回るか。その代わり、次は走るんだからな!」
「え?」
 先ほどまで早く出口にたどり着くことばかり考えていたはずの隆良。
 だが、今ではこんな風にトウカとのんびり迷路を楽しむのも良いのではないかと思い始めていた。
「歩いて回ろうぜ。色々、話しながらさ」
「話、ですか?」
「ああ。お前の好きなもの教えてくれよ。次は絶対クイズ全問正解してやる。トウカも、クイズに連続正解しろよ?」
 うなずくトウカに、隆良は満足げに微笑んだ。
「よし、これからあたしの好きなものをあげてくから。1つ言ったらトウカも1つ答えるんだぞ」
 迷路に入ってから数十分。
 ようやく隆良とトウカは、二人並んで歩き始めた。

●彼はクイズが苦手
「はい、お疲れ様ですー。ではさっそくクイズに挑んでいただきます! 
 二人は深呼吸をして、クイズに取り組みはじめた。
「まずはウィルトスさん。千奈希さんの好きなスポーツは何でしょうか?」
 千奈希は小さくガッツポーズをする。
 これは前に、ウィルトスに話したことがあった。
 一問目は無事正解だと千奈希は安心したのだが、ウィルトスの様子がおかしい。
「……なんだったっけ」
「ええーっ!? いえあの」「ヒントはだめですよー?」
 咄嗟に口をはさんでしまう千奈希を、業務員が穏やかに止めた。
 千奈希も不正はいけないと口を噤むが、青色の目で必死にウィルトスに訴えかける。
「ん……?」
 ウィルトスも同じく目をあわせてくるが、どうも通じていない。
「あの、お二人さん……?」
 業務員の声は耳に入っていないかのように、睨み合いを始めてしまった二人。
 事態に取り残された業務員は、傍観するしかなかった。
 
●お嬢様の散策
「ほう、アセビの花が色鮮やかだね」
 ゼノンが真剣に歩みを進める中、クローエは丁寧に花の様子に目を配る。
 花を見ながら、明瞭に話し始めた。
「知っているかい、ゼノン君? あのアセビという花、かわいらしい外見とは裏腹に植物全体が毒を持っているのだよ」
 『毒』という物騒な単語に、ゼノンは慌ててクローエの手を見た。
「ああ、心配はいらないよ。私は花に触れていないし、第一あの毒は食しない限りは効かない。迷路が子どもだけでの利用と、
ペットの同伴を断っている理由がようやくわかった。業務員も、イベント時だけでなく常に配置されているのだろうね」
「そこまでしてなぜ、あの花を迷路内に置いたのでしょうか?」
「美しいからだろう。ゼノン君、アセビは有毒であるからこそ、美しいとは思わないかね?」
 クローエの言葉を理解できないゼノンは、考え込んでしまった。
 そんな姿は彼の歳相応な部分を見せてくれているようで、クローエは満足げに微笑む。
「さて、足を止めてしまっているがいいのかい?」
「あ。で、では次は右に進みましょう」
「わかった」
 曲がり角を過ぎると、クイズの用意をしている業務員が現れた。
「はいどうもー! こちらの紙に、まずはご記入お願い致しますー」
 業務員は手馴れた様子でさっさとクイズを始める。
「はい、ご記入ありがとうございます。それではゼノンさんにクイズ。クローエさんは今朝何を食べたでしょうかー?」
 使用人として、これほどわかりやすい問題もない。
 ゼノンははっきりとそれに答える。
 普段ゼノンをしっかり見ているクローエも、すらすらとクイズに答える。
「見事です。お嬢様」
 クイズに自分が正解できたこと、クローエも自分のことについて答えてくれたことで、ゼノンはとても嬉しそうだ。
 業務員が開いた路を、意気揚々と二人は進んだ。

●彼は一目散に走る
 なんとかクイズを乗り越え、ゴールに向かう千奈希とウィルトス。
「私、前に言いましたよ? 剣道のこと!」
 走る速度は緩めないが、千奈希は少し怒っていた。
「うっせえなあ! 一応真面目に考えただろうがっ!」
「真面目に考えたらわかるはずです!」
 結局クイズにきちんと答えられたのは千奈希ばかりで、ウィルトスは悉く間違えていた。
「その分急げばいいだろうが!」
「なっ……!?」
 クイズに間違えた分は、その場にとどまっておくというルールがある。
 だからこそその時間ロスをできるだけ避けたかったというのに、ウィルトスはまったく理解していない。
 さらに何か言おうと千奈希が口を開いたとき、ゴールが見えてきた。
「あっ! おめでとうございますー! お名前こちらにご記入お願いしますー」
 笑顔の業務員に迎えられ、二人は名前を書いてイベントを終えた。
「今のところ、いいタイムですよ。入賞狙えそうですね」
 記録をとる業務員にそう言われて、ウィルトスは機嫌を直している。
 千奈希も、息を整えると大分落ち着き始めていた。
「明後日の午後四時に結果発表ですので、ぜひこちらにいらしてくださいね」
「はい! ありがとうございます」
 勢い良くそう返事をした千奈希だが、明日明後日で順位はどうなるかわからない。
 また後で迷路に再挑戦すべきかと考えていると、ふと業務員がもつ豪華景品の資料に目がいった。
「……え?」
 景品の資料を見て戸惑う千奈希を、ウィルトスが不思議そうに見ていた。

●お嬢様の脱出
 その後も二人は協力してクイズに次々と正解していったのだが、如何せん迷路は進めば進むほど人を混乱させるものだ。
 最初は次々に正しい路を導けたゼノンも、終盤ではてこずるようになってしまった。
 クローエは大体のルートの検討はついているのだが、ゼノンに口を挟みたくない。
 だが、クローエをあまり長時間迷路に閉じ込めたくないという気持ちからか、ゼノンはすっかり参ってクローエを見つめる。
「申し訳ございません、お嬢様。……俺の持っているこの白旗で」
 心の底から本当に済まなそうゼノンを見て、クローエは目を細める。
「ゼノン君。この迷路、意外と壁が低いとは思わないかい?」
「えっ!?」
「業務員が見張っている? まったく構わないな。行こうかゼノン君」
「えっえっえええっ!?」
「さあ、颯爽とここから退場しようではないか!」
 慌てるゼノンを笑いながら、クローエは壁に手をかけた。

●二週目の楽しみ方
 二人で互いの好きなものについて話しながら歩いた一週目は、案の定タイムも良くない。
 隆良とトウカは迷路の外側からすぐに入り口へと回り、再びイベントの受付を済ませる。
「さあ! 行くぞ」
 トウカの手をとり、隆良は走りだす。
 隆良の様子を少し離れて見守ってきたトウカには、その行動は戸惑いを与えるものかもしれない。
 だが、隆良が手を引けばきちんとついてきてくれる。
 一週目にじっくりと歩いたおかげか、迷路の道筋が大方把握できるようになっていた。
「ほら! もっと急ぐぞトウカ!」
「はい」
 迷路を滞りなく突き進み、クイズも正解する。
 隆良は動きながら、明るい声をあげた。
「……楽しいな!」
「え?」
 隆良のその言葉に、トウカは首をかしげる。
 トウカは、てっきり隆良が迷路を最速記録で脱出することだけを目標にしているのだと思っていたのだが。
 迷路の渦中にいる今、楽しいと告げてきた。
 隆良はトウカを振り返り、自分の言葉が上手く伝わってないことに気付く。
「あー。えっとな。楽しいんだよ。迷路も走るのもお前と話すのも、さ」
 トウカは隆良の質問にただ答えてきただけで、彼女が楽しくなるような話はできていないと思っていた。
 そのため、さらに首をかしげる。
「わかってない、な?」
 隆良は、さらに声を搾り出す。
「だからっ……! こうしているのも……案外悪くないってこと!」
「………………!」
 なぜかその言葉を口にすると共に、隆良の頬が紅潮してきた。
 触れている手を、急に意識してしまう。
 うまく伝わっただろうか、と見上げた隆良が目にしたものは。
「そうですか」
 トウカの、花を見たときのような微笑みだった。

●お嬢様のお礼
 花々に興味を持ったクローエは、イベントが終わる頃に再び迷路の元へやってきていた。
 午後四時の迷路前には、結果発表でにぎわう人々がひしめき合う。
 二人は、景品の食事券を受け取るカップルを見つめながら話をする。
「やっぱりもう一度挑戦したかったかな、ゼノン君?」
「いえ、別に俺は」
「私は、できれば君に食事券を渡したかったのだが」
「え、それならこれやるよ!」
 いつの間にか会話に入ってきた少女に目を見張る二人。
 赤髪の少女が、食事券を差し出していた。
「いや、しかしこれは君の」「いいんだ! あたしはもう、十分楽しんだから!」
 クローエの制止も聞かず、少女は背の高い男性と去っていく。
「これは予想外だ。だが、せっかくいただいたのなら使わなければな」
 クローエは、隣でぽかんと様子を見ていたゼノンに食事券を渡す。
「先日はありがとうゼノン君。私に付き合ってくれたのだから、これは君が使うべきだ」
「え、いえ、でも……」
「誰か自由に誘えばいい。それにしても、イベントが終わっても迷路は意外と盛況だな。迷路に入るのはまたの機会にしようか」
 そう言ってさっさと踵を返すクローエだったが、遠慮気に手をひっぱられた。
「ん? ゼノン君?」
「あ、あの。俺、この券はお嬢様と使いたいです……!」
 ためらいながらも、意志のしっかりとした瞳。
 これもまた予想外だと、クローエは優しく微笑む。
「そのような顔をされては、断れるわけがないよ。私の可愛い子」
 そう言って、クローエは食事券の使える場所を確認した。

●彼は美味しい物が好き
「おい、これで本当によかったのかよ?」
 イベント最終日の夜、千奈希とウィルトスは完全個室の食事処に座っていた。
「はい。だってウィルトスさんは、こちらのほうがいいでしょう?」
 二人の最終順位は4位。
 今日の昼にこの順位はほぼ確定していたのだが、千奈希は迷路に再挑戦はしなかった。
「まあ、そうだな」
 ウィルトスは安くも高くもない肉を、おいしそうにほおばる。
 イベント初日に見た豪華景品の内訳は、1位から3位までが高級レストランでの食事券だった。
 千奈希個人としてはそれが欲しくなかったわけではないが、ウィルトスのことを考えると4位の景品でよかったのだと感じている。
 たとえば、イベント中にすれちがった黒髪の女性と金髪の少年のような落ち着いた二人であれば、高級レストランは似合っていたのだけれど。
 見ていて気持ちがよくなるような、ウィルトスの食べっぷりに思わず笑みがこぼれた。
 そう、自分たちにはこちらの方がよかったのだ。
「おいチナキ。食べ放題なんだから、どんどん食べないと損だぜ」
「そうですね」
 迷路を突き進む中、二人は言い争いをしてしまった。
 だが、今はこうして幸せな気持ちで共に食事ができている。
「おいしいです」
「だろっ?」
 能天気なウィルトスには他にも色々と言いたいことが出てくるが、今はやめておこう。
 二人きりの空間で、千奈希とウィルトスはゆったりと食事を楽しんだ。


 その後、巨大迷路の経営がうまくいったのかは定かではない。
 だが『恋人同士で行くと何かが起こる』という噂が、いつしか飛び交うようになったらしい。



依頼結果:大成功
MVP:なし

エピソード情報

マスター タカトー
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月09日
出発日 03月15日 00:00
納品日 03月22日

 

参加者

会議室

  • [3]朱柄・千奈希

    2014/03/14-16:27 

    挨拶が遅れてしまいましたね。朱柄・千奈希と申します。
    よろしくお願いします。

    こういったものに挑むからには、より良いタイムを目指します。
    そのあとには、他のものも楽しめれば、と。

  • 巨大迷路?
    ふむ、なかなか面白そうだね。
    競争にはあまり興味が無いが、 春の花を愛でながらというのも良い趣向だ。
    というわけで、私ものんびりと参加させて貰うよ。宜しく。

  • [1]信楽・隆良

    2014/03/12-00:23 

    迷路…!面白そうだよなっ!
    豪華賞品も確かに気になるけど、どれだけ早く抜けられるか試してみたい!
    そんなわけで、本気でがんばるつもり。よろしくな!


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