選ばれし者ぉ!?(県 裕樹 マスター)

プロローグ


●困惑
 私、メリッサ・フェアチャイルド。16歳。お父さんのパン屋さんを手伝う、普通の女の子だった……つい、この間までは。けど、3日前に現われた男の人と会ってから、私は家に籠るようになってしまったの。だってあの人、ずーっとお店の前をウロウロしてるんだもの。
「こらぁ! 商売の邪魔だ、店の前をウロウロするな!」
「し、しかし! 私と娘さんは宿命の……」
 あー、またやってる。お父さんと例の彼だ。
 そう、初めてあの人と会った時、あの人はいきなり私の手を握って『やはり!』と言っていた。彼が見ていた私の左の手の甲には、いつの間にか浮かび上がっていた紋章のようなものがあるの。洗っても落ちないし、そんなタトゥーを入れた覚えもない。でも痛みは無いし、お仕事に影響は無いからそのままにしてたの。でも、それを見付けた日から間もなく、あの人が現れたの。あの人はしきりに『契約を』とか『神人』とか言って来るんだけど、私には何が何だか分からなかった。そのうちに怖くなって、お店の中に駆け込んだの。それ以来、私は店先にも出られなくなったわ。だって、あの人が見張ってるんだもの。
 私たちの住んでいる世界に、精霊が住んでいる事は知ってる。彼が精霊だって事もすぐに分かった。だって帽子を取ったら、犬のような耳が出て来たんですもの。でも、別にそこに驚いている訳じゃ無いの。私と『契約』するとか、私が『神人』という特別な存在だとか……もう理解の範疇を超えていたわ。だから怖くなって、部屋に閉じ籠るようになっちゃったの。
 ……でも、かなりカッコ良かったのは確かね。人間のボーイフレンドはそれなりに居るけど、容姿では彼がダントツだった。ちょっと……いや、かなり惜しいけど、お近付きになったらいけない気がするの。変な宗教のお誘いだったら困るし。

●手紙
 窓の隙間から、一通の手紙が部屋に押し込まれたのに気付いたのは、5日目の朝を迎えた時だった。カーテンを開けたら、その手紙が窓に挟まっていたの。差出人が例の彼だという事は直ぐに分かったわ。差出人の名前以外は書いてなかったけど、この部屋は二階にある。しかも足掛かりになる物は何もない。そんな場所に外から手紙を放り込めるなんて、人間業じゃないもの。
 ちょっと怖かったけど、私はその手紙を開封して目を通した。そこにはテーマパーク 『マーメイド・レジェンディア』の優待チケットと、彼からのお誘いメッセージが入っていた。契約とか抜きで、純粋に楽しみたい……そう結ばれて。
 彼が言っていた『A.R.O.A.』という組織の事は一応知っている。でも、名前を聞いた事があるぐらいで詳しくは知らない。いや、正確に言うと、お父さんから『関わってはいけない』って止められてたの。だから詳しく知ろうとしなかった。お父さんは何かを知っているみたいだけど、怖くて訊けなかった。
 その手紙に信憑性は無かった、しかし私の心は揺れ動いた。だって彼が必死なのは見て分かるんだもの。でもお父さんが許してくれる筈は無いし、『A.R.O.A.』という組織の秘密も怖い。だから私はその手紙をそっと引き出しに仕舞い、見なかった事にしたの。でも、その日から何日経っても、彼は……アルフォンスはずっと、私の部屋に熱い視線を送り続けている。雨の日も、風の日もずっと。そのうち、私は気が付いてしまった。いつの間にか、彼を目で追ってしまっている自分に……

●不屈
 彼は今日も、メリッサの家の近くに陣取って、彼女が出て来るのを待っていた。だが、昼を過ぎても、日が暮れかけても彼女は外に出て来ない。やがて薄暮の空に星が瞬き始めると、彼は『今日もダメだったか』と諦めて帰ろうとした。すると、意外な人物が背後から声を掛けて来た。メリッサだ。
「……お手紙、ありがとう……あ、あの……で、デートするだけなら……契約とか、そういうの無しで良いなら、私……」
「本当!?」
「シーっ! お父さんに見付かったら大変! ナイショで出て来たの」
「……キミがデートに応じてくれる、それだけで満足さ」
 パチッとウインクをすると、彼はデートの日取りと待ち合わせ場所・時刻を決め、OKを貰うとスッと背を向けた。
 日取りは明後日、日曜日の午前10時。場所は『マーメイド・レジェンディア』正面ゲート前。但し彼の友人を含むカップルを伴っての合同デート、お弁当は各自持参というのが条件となっていた。この時点で、アルは第一関門を突破していたのだった。

●思索
「おススメはシアター・メリーゴーランドにムーンライト・ロードか。ムードを高めるには最適だろうな。レストランはあるけど、高いからな。弁当持参は正解だな。で、ラストは観覧車、ブルーム・フィールで夜景をバックに……いける!」
 アルはガイドブックと首ったけで当日のプランを練っていた。彼にとっても初となるデートなので、念入りにアトラクションや食事の場などをチェックしていたのだ。
「彼女、どんな格好をしてくるかなぁ……」
 メリッサを誘えた、その喜びだけでアルは頭が一杯だった。だが彼は大事な事を失念していた。そう、メリッサは厳しい父に常に監視されているのだという事を。そして、メリッサが未だ全面的には彼を信頼していないという事を。
「合同デートにせざるを得ないのが癪だけど、仕方が無いよな。リードの仕方やムードアップのコツなんか分からないし、もし話題に詰まったらそこで終わりだ。だから彼らにお手本を頼んだんだからな」
 そう、アルはまだ女の子をリードする自信が無い。だから友人たちに声を掛け、集団デートを頼んだのだ。少しだけ先を行く先輩にアドバイスを貰いながら、さり気なく異性の気を惹くにはどうすれば良いかを体得する為に。
「とにかく、15時のティータイムまでにムードを作っておいて、そこでパートナーになってくれと頼むのがベストだ。先輩達には、契約は怖くないという事を仄めかして貰うよう、フォローを頼んである。そして全ての懸念をクリアした後、夜景を観ながら余韻を楽しんで……ラブラブの仲間入りをするんだ! そうすればA.R.O.A.の仕事も貰えるようになる! 完璧だ!」
 ……それが彼のプランの全容だった。午前中で打ち解けて、昼食は手作りのお弁当、午後は更に話しやすい雰囲気を作って、勢いに乗ってパートナーになってもらう、というものである。よって、彼にとっての最重要ミッションはオープンテラスで予定しているティータイムである。ここで失敗したらその日のミッションは失敗と考えても過言ではないだろう。

●父親
「お父さん、今度の日曜日、お友達と遊びに行っても良い?」
「……女の子か?」
 背を向けたまま目線だけを此方に向け、短く答えた父の言に、メリッサはやや萎縮しながらも懸命に嘘を吐いた。
「そ、そうだよ! 皆で『マーメイド・レジェンディア』に行くの!」
「……日暮れまでには帰って来なさい、夜遊びは許さん」
 短く言葉を切ると、父は再びフイと目線を逸らしてしまった。
「ねぇ、お父さん……『A.R.O.A.』って何なの?」
「!! ……命を大事にしたいなら、近寄ってはいけない所だ……」
 父親は右脚に装着された義足に目をやりながら、そう答えただけだった。
 そんな父の姿を見て、メリッサはそれ以上追及する事は出来なかった……

解説

●目的
 プロローグ本文で察しが付くかとは存じますが、アル君とメリッサのデートを成功させ、二人をウィンクルムにしてあげるのが最終目標となります。アドバイスをしたり具体的なお手本を見せたりして、未熟……と云うか不慣れなアル君を手ほどきしつつ、良い雰囲気にしてあげてください。その際、PC各位も自分たちのデートを楽しみ、親密度をアップさせてください。アル君はそれを見て真似をする筈です。
 なお、15時にオープンテラスでティータイムを取る予定ですが、そこでアル君はメリッサにパートナーになって貰うよう頼む予定でいます。PC各位はその際、A.R.O.A.は怖いところじゃないよ、とフォローを入れて、アル君を援護してあげてください。尚、お勧めメニューの価格は下記の通り。
・珈琲 40ジェール
・紅茶 40ジェール
・生ジュース 45ジェール
・シャンメリー(ボトル) 100ジェール
・ケーキ(ショート) 50ジェール
・ケーキ(5号ホール) 300ジェール

●売店
 テーマパークの各所には売店があり、ジュースや軽食が買えます。
・ジュース 15ジェール
・アイスクリーム 25ジェール
・チュロス 20ジェール
・ドーナツ 20ジェール

●門限
 さて、アル君は門限の事を意識しておりません。たぶんメリッサは雰囲気に流され、言い出す事が出来ないでしょう。なので、PCの方が察して、さり気なくフォローして下さると助かります。因みに、帰宅には徒歩で30分を要します。

●お父さん
 最後に、お父さんをどうするかです。お父さんは過去にオーガに襲撃され掛けたところをウィンクルムによって助けられていますが、その際に脚を失う大怪我をしています。ウィンクルムが悪いのではないと理解はしていますが、どうしても納得できないようなのです。お父さんに内緒でウィンクルムになるか、アル君が男になるか……それを一緒に考えてあげては貰えないでしょうか。

ゲームマスターより

 はじめまして! 県 裕樹(あがた ゆうき)と申します。ゲームマスター歴1年チョイの、新人に毛が生えた程度のペーペーですが、宜しくお願いします!
 さて、このたびハピネスエピソードとしてご用意させて頂きましたこの作品、精霊のアルフォンス君は男性ですが、メリッサが怖がるといけないので、女性PC限定のコースを選ばせて頂きました。
 デート未経験の二人にアドバイスしつつ自分達もデートを楽しむという、少々忙しいストーリーとなりますが、ある程度アル君たちが良い雰囲気になったなと判断したら、自分たちのデートに専念しちゃっていいと思います。
だって、このゲームの主役は皆様なのですからね^^
 あ、でも! 15時のティータイムは忘れないであげてくださいね。では、お楽しみ頂ける事をお祈りしています!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ペスカトーレ・ベローチェ(ヴィーグル)

  雰囲気としてはアリッサとアル君とベローチェとヴィーグルのWデートみたいな感じで
ベローチェはお茶会の際にフォローを入れる役割に回る



シャノン・ファタリテ(ニコ・シックザール)
  アルが席を外している間にメリッサに仕事道具の『恋人』のタロットカードを渡す。

恋人のカードは、選択の時という意味合いもあるのです。
本当は来るのも不安だったでしょ?それでもがんばって向き合うことを選択したキミへ、今日一日のお守り。
大丈夫、ボク達もアルもキミを進んで危険なところに向かわせたいわけじゃないのです。

ふあ、一仕事したら眠くなってきちゃった。ベンチで休憩ー…
平気、ティータイムの時間までにはちゃんと起きるです。
…いつもありがとね、ニコ。

あ、ニコ。ニコ。そのチェロスボクにも一口頂戴ーですー(無自覚)

ほんとはもっといたいけど、もう少ししたら暗くなるから戻らないとね。家まで結構かかるです?



●待ち合わせ
「……なあアル、本っ当ーに約束したんだろうな?」
「ま、間違いないっスよニコさん! 俺、この耳でしっかり聞いたッスから!」
 時刻は午前9時50分。待ち合わせの時刻にはまだあと10分ある。しかし、『ニコ・シックザール』は少々苛立ちを露わにしながら爪を噛んでいる。
「ニコ、怖い顔を見せたらメリッサちゃんが怯えちゃうです、落ち着くです」
「……僕は待たされるのが嫌いなんだ」
 傍らの『シャノン・ファタリテ』がニコを宥める。そして、更にその脇から『ヴィーグル』が口を挟んで来る。
「今、一番ハラハラしてるのは彼だと思うんですよ。今日の目的は、彼とメリッサちゃんをカップルにする事ですからね」
「そうそう! そのお相手が来ないんじゃ台無しだもんね」
 ヴィーグルにピッタリと寄り添いながら、『ペスカトーレ・ベローチェ』が補足を加える。が、どうやらその一言一言が全てプレッシャーとなり、アルをどんどん追い込んでいる事に、皆は気付いていなかった。
 しかし、待ち合わせ時刻の3分前。大きなバスケットを持った女の子がヨタヨタと歩いて来るのが遠目に見えた。
「あれじゃないかな?」
「ま、間違いないっスよ! おーい、メリッサちゃーん!」
 尻尾を振りながら、アルがその少女に向かって駆け寄って行く。少女は間違いなくメリッサ本人だった。
「どうしたの? その大荷物」
「あ、ハイ……お弁当を、作って来たんです。各自持参という事でしたが、忘れちゃった人が居たら大変だと思って、ちょっと多めに……」
「ちょっとどころじゃ……とにかく、そのバスケットは俺が持つから。疲れたでしょ?」
「大丈夫です、慣れてますから」
 気丈に笑顔を作るメリッサだったが、額からは汗が滲んでいる。この寒い季節に汗が滲むという事は、彼女にとって相当な負荷が掛かったに違いない。そう思ったアルはメリッサからバスケットを受け取ると、さあ……と云う感じでエスコートを始めた。
「ふぅん……」
「第一段階は、合格ですね」
「女の子に気遣いが出来る、しかも自然体で……いい感じだよ、アル」
「それに、メリッサちゃんナイス! 実はワタシ、お弁当持って来てないの。テヘッ!」
「テヘッ、じゃないでしょ……」
 ともあれ、皆の言う通り第一段階……相手に対する気配りが出来るか、という点はおおむねクリアしたようである。後はデート中にそれがキープ出来るかだが、それはまだ分からない。下心が出過ぎてもアウト、放置しすぎもアウト。バランスが難しいチェック項目ではある。だが、アルは自然体でそれを難なくクリアしていた。恐らく、彼の本性と云うか、性格がそのまま出た結果であろう。
「さ、いつまでも入口に屯していても始まらない。中に入ろう」
 一同は、ニコの号令でそれぞれに入場して行った。最後尾に付いたアルとメリッサは、モジモジしながら暫く互いを見詰めていたが、やがてアルがメリッサの手を取り、優しくメリッサを導き始めた。この時点で既にメリッサはアルに対し、普通に彼女としてお付き合いするなら良いかな……と考え始めていたのだが、それを今明かしてしまっては、彼が調子に乗って一気に『契約を!』とか言って来るかも知れない。その懸念があった為、まだまだ油断は出来ない! と気を引き締め、しっかりとガードを固めていたのだった。

●お手本
「少し小腹がすいたな」
「え? お、俺は別に……」
「いいから。腹が減っては何とやらと云うじゃないか」
 別にいいのに……と、アルはニコに連れられて売店へと付き合わされた。その隙にシャノンがメリッサに近付き、ニコッと笑いながら、おもむろにタロット占いを始めた。
「ふぅん……まだ不安はある、って感じ?」
「え? あ、い、いや、彼って優しいし、熱心だし……良いかな、とは思ってますけど」
「本当は今日、ここに来るのも不安だったでしょ? それでも頑張って彼と向き合うことを選択したキミへ、今日一日のお守り。大丈夫、ボク達もアルもキミを進んで危険なところに向かわせたいわけじゃないのです」
 ホワーッとした、優しいお姉さんと云った感じのシャノンが、一瞬だけ目線を鋭くしてメリッサの目を見据える。そして出た占いの目を告げると、再び笑顔に戻って一枚のカードをメリッサに手渡した。
「……ありがとう、ございます……」
 メリッサはそのカードを押し抱き、見透かされてる……と戦慄しながらも、見守られてる……という安心感に包まれ、徐々に警戒を解いていくのだった。
 一方、売店に付き合わされたアルはと云うと……
「いいかい? ジュースは一杯、ストローは二本。これが基本だ」
「ええっ!? そ、それってもしかして……」
「おいおい、この程度で顔を赤らめてどうするんだい。恋人にしたいんだろう? 彼女を!」
「そ、それは……その、通りです……」
 と云う感じで、男の子流・ちょっと強引な雰囲気づくり講座が展開されていた。因みにそれを真似した訳では無いのだろうが、傍らでベローチェがヴィーグルに同じものを強請っていた。どうも彼女は、人が食べているのを見ると自分も欲しくなる性分であるらしい。
 そしてシャノンとメリッサが待つベンチへと戻ると、アルとメリッサを中央に置き、右にシャノン達が、左にペスカトーレ達が腰を下ろした。どうやらレクチャー第二段階、雰囲気作りが始まるらしい。が……
「早起きした所為かな、眠くなっちゃった……」
「しょうのない奴だな。分かった、休んでな。1時間経ったら起こすから」
「むにゅ……あー、そのチュロス、全部食べちゃダメだからね……ボクにも一口……」
 どうやらシャノンは、占いで神経を集中させると一気に精神力を使い果たしてしまうらしい。彼女はニコの肩にもたれ掛かり、寝息を立て始めてしまった。これでシャノン組は暫く動けない。
 が、左隣のペスカトーレ達は、まだ幼いと言っても差し支えの無い年齢のカップルである為か、無邪気にデートを楽しんでいる。一本のチュロスを交互に食べたり、二本に分けたストローでジュースを飲んだり。一言で言えば『もっと遠慮しようよ』な感じで、完全に二人だけの世界を作り上げていた。
「凄いなぁ……あそこまでオープンだと、何処を真似していいか……メリッサちゃん?」
「……え? あ、な、何でしょう?」
「どうしたの? 彼らを見てボーっとしたりして」
「な、何でもないです!」
 頬を紅潮させ、下を向いてしまったメリッサを、アルはオロオロとしながら見ている事しか出来なかった。が、実はメリッサはいつの間にやら、ペスカトーレにライバル意識を燃やしていたらしい。
(あ、あんなお子様カップルが、年上を差し置いてイチャイチャと……ま、負けなくない!)
 赤面した彼女の表情は次第に強張り、『ぐぬぬ……』という雰囲気が目に見えるほど強い対抗心が感じられた。そんな彼女を見たアルは思わず目線で右隣のニコにヘルプを求めたが、彼は左手をサッと振り上げ『行って来いよ』と無言で指示を出していた。
(こ、この状態で二人きりになれだなんて……ハードル高すぎです先輩!)
(この程度でオタオタしてたら、女の子はモノに出来ないぞー? いいから行って来たまえ、彼女は君のリードを待っているよ)
 テレパシー会議とでも言おうか。互いの目線とボディランゲージで会話を済ませると、アルは再びメリッサの方に注目した。なるほど、彼女は此方を頻りにチラ見しながらモジモジしている。これは『誘いを求める目線だ』と判断した彼は、ニッコリと笑いながら静かに立ち上がり、メリッサに手を差し伸べた。
「彼らは彼らで楽しんでいる、俺たちも楽しまなきゃ損をするよ」
「そ、そうですね! じゃ、あの……私、ジェットコースターに乗ってみたいです!」
「いいとも、何処へなりとお供しますよ。姫!」
 何かが吹っ切れたのか、アルはナイトを気取ってメリッサの前に跪き、精一杯恰好を付けてみせた。そして手に手を取って、二人は走り去っていった。
「……チョロい……」
「二人とも、彼氏彼女の間柄になった事が無いビギナーだからね。あんなもんでしょ」
 わざとオーバーアクションでメリッサを焚き付けたペスカトーレとヴィーグルが、ボソッと呟く。彼らはメリッサが既にアルに惹かれている事を見抜いており、あとは背中をトンと押してやるだけで勝手に親睦は深まるだろう、と睨んでいたのだった。
「それにしても、君らもやるねぇ。とても年齢相応に見えないイチャ付き具合だったよ」
「えー? ワタシ達、これが普通よね?」
「ええ。人目を気にしてデートをするなんて、連れている相手に失礼です。目一杯相手を楽しませる事、これが大事です。無論、周囲から疎まれる行為は避けるべきですが」
 ヴィーグルの、シレッとした台詞を聞いて、恐れ入りました……と、ニコは左手を上げて『降参』のジェスチャーを取ってみせた。そして指導する対象が独自に動き始めた為、一時的にやる事が無くなった二組のカップルは、各々別行動を取る事にした。シャノンがお休みタイムの為に動けないニコはその場に残り、逆に自由に動けるペスカトーレ達はアトラクションの梯子を始めたようだ。だが、彼らは忘れてはいなかった。今日の最大のイベントは15時のティータイム。ここでアルがメリッサを口説き落とす手伝いをする事が、彼らの最終目標なのである。それぞれに思惑を孕んで、三組のカップルは各々にデートを楽しみつつ、最後の難関をどうクリアするかを考え始めていた。

●ランチタイム
「美味しい! このバゲットサンド、すっごい手が込んでる!」
 まず、弁当を持参しなかったペスカトーレが、メリッサお手製の弁当に手を伸ばす。サンドイッチを主体として、フライドチキンやサラダなどで彩られたバスケットの中身は、彼女の女子力の高さを如実に物語っていた。
「有難うございます。パンはお父さんが今朝焼いてくれた焼き立て、中の具もお店の物を少々分けて貰いましたが、おつまみは全部手作りです」
「へぇ……これは凄い。良いお嫁さんになれそうだね」
 ニコが何気に放ったその一言を聞いて、メリッサはフランベのように赤くなった。
「どうしたのアル、食べないと無くなっちゃ……心配いらないみたいだね」
「もが?」
 両手にサンドイッチを持ち、口いっぱいにそれを頬張ったアルがクルリと振り向くと、声を掛けたヴィーグルは苦笑いを浮かべながら『この調子なら大丈夫かな?』と思い始めていた。
「くすん……ボクのお弁当が貧弱に見えちゃう」
「何を言う? 僕の好みに合わせてくれた結果がコレなんだろう? なら胸を張れば良い」
「ニコ……優しいね」
「正直な感想を述べただけだ。しかし彼女のスキルは相当高いね、驚嘆に値する……アル、彼女を逃したら君は酷く後悔する事になるぞ?」
「俺は、俺の精一杯を彼女に見せるだけッス。それで振られたら仕方が無い、嘘をついてまで恋人になって貰おうとは思ってないッス。束縛は一番良くないッス」
 水筒のお茶を飲みながら、アルはニコッと微笑んで堂々と言い放った。ランチに至るまでのデートで、相当自信を付けたのだろう。だが……
「それ普通、本人の前で言うかなぁ……」
「え? ……あ!!」
 言ってから気付いた、という感じであろう。ありのままを吐露してしまったアルは、既に告白と同義の言葉を、メリッサに聞かれてしまったのだった……が、メリッサも満更ではないようで、顔を赤らめながらもその台詞をしっかりと受け止めていた。
「……ほら、アル! お肉ばかりじゃ栄養が偏るでしょう、サラダも食べないと」
「お、俺は肉が大好きで……う、うん、分かったよ。じゃあサラダを……う、美味い!?」
「あったりまえでしょ、私が作ったんだから!」
「これはドレッシングが凄いんだ! ただ酢と油を混ぜただけじゃない、きちんとスープが取ってある!」
 メリッサの手料理に舌鼓を打つアルを見て、他のカップルたちは『恋人関係の成立は心配なさそうだな』と云う結論に達していた。すると残るは、メリッサにウィンクルムの仲間入りを認めさせる事である。だが、今この場でそれを口に出してはいけない事は、メリッサを除く全員が分かっていた。そう、これは簡単な問題ではない。命懸けの戦いを強いられる組織への誘いなのだから、説得には細心の注意を要する。それにはしっかりとした段取りと、それなりの雰囲気が不可欠だ。このように談笑しながら解決できる問題ではない……一同はにこやかな表情を崩さぬまま、ジッとその時を待っていた。

●ティータイム
 ……さて、予定していた中で最大のイベントが間もなく始まろうとしていた。時刻は14時45分、オープンテラスの一角には既に『Reserved』のプレートが付けられたテーブルが用意され、あとは各自が席に着いて料理をオーダーすれば準備は整う。
「……落ち着くんだアル、さっきの勢いはどうした!」
「な、何だか話の次元が違うような気がして……まだ早いんじゃないかな、って……」
「オタオタするな! 男だろう!?」
 それまで、穏やかな表情をキープしていたニコが鋭い声を上げた。それをまともに受けたアルは思わず身を竦めてしまった。
「セッティングはヴィーグルが手伝って、スムーズに進んでいるようだ。いいか? 僕らに出来る事はあくまでもアシストだけ。彼女を本気にさせるのは、アル! 君の仕事なんだぜ」
「……!!」
 その激を受けて、アルの瞳に炎が灯る。そうだ、もう後には引けない……メリッサだって、既に『A.R.O.A.』に誘われる事はもう分かっている筈。そして彼女は、いまテーブルに着いてお茶会が始まるのを待っている……ここで自分が怖気づいていたら、彼女の覚悟をも無にしてしまう事になる!
「……断られたら、その時はその時。当たって砕けろで頑張るッス!」
「砕け散っちゃダメだぞ。どうやら彼女、恋人としては君を認めているようだからね」
「……ウッス」
 ふん! と鼻を鳴らし、アルはテーブルへと向かった。中央には5号サイズのホールケーキが置かれ、後は各々好みの飲み物をオーダーすれば準備は完了する。なお、この席の会計は全てアルが持つ事になっていたのだが、彼は有り金すべてをはたいてこの席に臨んだので、予算的には充分な余裕があった。
「では、皆さんお揃いのようですので……ささやかながら、メリッサちゃんと知り合えた事を祝してのパーティーを催したいと思います!」
 音頭を取ったのはニコだった。彼の良く通る声はこういう役にピッタリで、胸を張った堂々たる立ち姿も実に見事だった。が、未だ緊張の面持ちでガクガクと震える者が約1名。そう、この席の主役であるメリッサが、緊張に耐えかねて全身を震わせていたのだ。
「メリッサ……俺は今日、君に恋人になって貰う事と、もう一つ……重大な相談をする為に、ここに誘ったんだ」
「……わ、分かってるわ……『A.R.O.A.』の事でしょう?」
「分かっているなら話が早い。メリッサ、俺と一緒にウィンクルムになって欲しいんだ」
「……アル、貴方となら……例え危険と隣り合わせの仕事でも、耐えられると思うの……でも、いざとなると怖くて……」
 この台詞を受けて、想像通りのリアクションだなと待ち構えていたペスカトーレが軽く咳払いをしてから起立し、スピーチを始めた。どうやら、ここまでは計算の内に入っていたらしい。
「メリッサちゃん、実はワタシたちも、この間ウィンクルムになったばかりの新人なの。まだお化けと戦った事も無くて、このデートのサポートが初の依頼なの」
「えっ!? で、デートのお手伝いもお仕事の内なの!?」
「そうだよ。『A.R.O.A.』はね、お化けを相手にするような荒事から、こういうラブラブになりたいカップルのサポートまで、幅広くお仕事を請け負う組織なんだよ。最初からいきなり強敵に立ち向かうような仕事は割り振られないし、希望しても却下されると思うんだ」
「まぁ、実際に荒事を引き受けるのは精霊の役割なんだけどね。ただ、精霊だってそのままじゃ普通の人と変わらない、化け物に立ち向かっていっても伸されるのがオチだよ。けどね、精霊をパワーアップさせて、戦闘モードにする事が出来るのは、精霊と『契約』した神人だけなんだ」
 ペスカトーレの発言を、追加のオードブルを運んで来たヴィーグルがフォローした。このメカニズムを解説しておかなければ、自分も矢面に立つのかと誤解したままになり、恐らくメリッサはこの席で首を縦には振らないだろう。それが分かっていればこその措置であった。
「で、でも! アルが危険なのは変わらないのでは……?」
「そこがミソ。さっき言った戦闘モードを『トランス状態』と言うんだけどね? この状態になるには、まず二人が契約済みである事が条件。そして、その二人が一緒に決めた『インスパイアスペル』っていう呪文を唱えるの」
「『トランス状態』になった精霊の強さは、パートナー同士の愛情の深さに比例するんだ。だから、お互いに好きになればなるほど力は強くなるし、逆に幻滅したりすると力は落ちちゃうんだよ」
 はあぁ……と、熱心に聞き入るメリッサ。つまり、好きになればなるほど危険は回避しやすくなるのだな、と彼女は解釈していた。そして、彼女の右隣に座っていたシャノンが、そっとメリッサに耳打ちした。
(……好きなんでしょう? 彼が)
(……!!)
 耳元で囁かれた、その一言がトドメとなった。メリッサはタコさんウィンナーと勝負できるほどに顔を赤く染め、アタフタし始めてしまった。尤も、この世界にタコさんウィンナーが在るかどうかは微妙であるが。
「メリッサ、俺がウィンクルムで活躍するには、君の協力が必要なんだ。彼女になって欲しいっていう単純な欲望も、まぁ……無いと言えば嘘になる。けど、それ以前に! 一緒に戦う仲間になって欲しいんだ」
「……わ、私で……本当に良いの?」
「君じゃなければ、嫌なんだ……」
 この台詞が決定打となった。この時点でメリッサのウィンクルム入りは確実なものとなり、ミッションは成功した事になった。
「さあ! 新しい仲間を迎えられた事を祝して、乾杯しよう!」
 ポン! と勢いよくシャンメリーの栓を開いたのはニコだった。こうして、アルは見事にメリッサのハートを射止める事に成功したのである。

●門限破り
「暗くなっちゃった……ね?」
「お父さん、怒ってるかなぁ……」
 あの後、祝宴は夕方まで続き、ハッと気付いた時には既に空は薄紫色に変わっていた。マズい! と一同は顔を青くし、急いで撤収したのだが、つるべ落としの夕日はそんな彼らを嘲笑うかのように姿を隠してしまう。そして星が瞬き、辺りはすっかり暗闇が支配する夜となっていた。
「俺の責任だから、俺が謝るよ」
「ううん、一緒に謝ろう。私たち、パートナーなんでしょ?」
 ニコッと笑うメリッサにつられ、アルも笑みを漏らす。そして、メリッサの自宅は目の前に迫った。
「ただい……」
「……日暮れまでに帰る約束はどうした? それに、その男は何だ!」
「夜道は危険なので、ここまでガードして来たのです! それと……俺は彼女と契約した、パートナーです! 彼女を護る義務があります!」
「な……!!」
 父は思わず絶句した。が、真剣な目を自分に向けるアル、そしてその彼に寄り添うよう愛娘。意見しようと思ったその口も、言葉を発する事は出来なかった。
(子はいつか、親の手から巣立っていく……か。遅かれ早かれ、この日は来るのだな……)
 或いは、既に覚悟していたのかも知れない。父は黙って椅子に腰掛け、アルに向かって一言だけ注文を付けた。

「娘を……メリッサを絶対に傷つけるな。それ以上、何も言う事は無い」

 その発言に『命に代えても』と返答し、アルは父の背に最敬礼をするのだった。



依頼結果:成功
MVP:なし

エピソード情報

マスター 県 裕樹
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
難易度 難しい
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月16日
出発日 02月24日 00:00
納品日 03月05日

 

参加者

会議室

  • チャオ~ こちらこそよろしく~
    とりあえず~ アルくんとメリッサお姉ちゃんのサポートしながらいちゃつこうよ!
     

  • ちょっと遅れたけど挨拶!よろしくお願いしますーですっ
    んん、こうしたいってのはできてるけど、門限のことまで入れて文字数足りるか微妙…汗


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