プロローグ
タブロス市近郊にある、小さな町に、こんな伝説がありました。
虹色に光る花『恋虹華(れんこうか)』
この花の花びらを紅茶に浮かべ飲むと、願い事が叶う。
『恋虹華』は、クローバーに似た三つの花びらを持つ、角度によって虹色に輝く不思議な花です。
非常に寿命が短くデリケートな花で、手折ったり掘り起こしたりなどすると、虹色の花びらは色を失い、すぐに枯れてしまいます。
このため、この小さな村にしか存在せず、村の名物となっています。
なお、クローバーと同じく、極稀に四つの花びらを持つ個体が存在し、『それを見つけたカップルは、永久に結ばれる』との言い伝えもあるようです。
さて、恋虹華が咲き誇る季節、町ではある催事が行われます。
恋虹華の花畑を開放し、恋虹華を鑑賞できるお祭り『恋花祭り』です。
恋虹華の大海原をのんびりと散歩すれば、視界も心も華やかになるでしょう。
四つの花びらを持つ恋虹華を探してみるのも、浪漫です。
花畑に併設された小さな展望台からは、花畑を一望することもできます。
また、花畑の周囲には食べ物の屋台が出店され、美味しい香りに包まれます。
虹色に光る花を愛でながら、屋台で美味しいものを食べると、気になるあの人との会話も弾むに違いありません。
ベンチが設置されていますので、座ってお喋りもできます。
一方、花畑に併設されたカフェでは、恋虹華の花びらを浮かべた紅茶が人気です。
カフェテラス、もしくは店内で、紅茶を楽しみながら、のんびりと恋虹華を愛でるのも良いでしょう。
折良く『バレンタイン』の時期も重なります。
華やかな雰囲気の中、こっそり、またはさりげなく、あるいは堂々と、パートナーにチョコレートをプレゼントすることも可能でしょう。
虹色の花が咲き誇る町で、貴方はどのように過ごしますか?
解説
・恋虹華の花畑から花を採る事はできませんので、ご注意ください。
・上記行為が見つかった場合は、お祭りのスタッフさんにきついお叱りを受け、町から追い出されてしまいます。
・屋台では、一般的な日本の縁日にあるようなものは、ひと通り売っています。
・カフェには、一般的な日本のカフェにあるようなメニューが、ひと通り揃っています。
ゲームマスターより
このたびゲームマスターを務めさせていただく、雪花菜 凛(きらず りん)です。
今回は、華やかなお祭りを、パートナーさんとのんびりと過ごしていただけたらと思います。
神人さん同士での交流も大歓迎です。
比較的、自由に行動が可能となっておりますので、お好みで楽しんでください。
皆様の素敵なアクションをお待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
サフランから恋虹華の話を聞いたので是非見てみたいと思い 彼に案内を頼んで恋虹華の花畑へ向かいます 服装は普段通りブラウスに橙色のロングスカート カカオの精から届いたチョコレートも小さ目のショルダーバックに入れていきます チョコレートですけれど、貰ったものをそのまま渡すのもなんですわね チョコレートを淡い黄色の紙で包み、裁縫で余った布の切れ端を縫って作ったリボンを掛けておきます 会場についたら恋虹華の花畑に向かいます 花弁が4つある花もあるらしいんですのよ。見てみたいですわっ せっかくですから花畑を歩きながら探してみましょう 帰る前に「今日はありがとう」とお礼の意味を込めてサフランにチョコレートを渡してみますわ |
深海 萌花(ルキウス・アズール)
●行動、心情 初めてのおでかけって緊張しちゃうね でもでもお誘いしたからには楽しんでもらえるようにがんばるの 虹色に輝くお花に囲まれるなんて絵本の中みたい! ついはしゃいじゃうけれど 反対にお兄ちゃんは静かね。こういう所お嫌いじゃない?って気になってそわそわ様子をみたり カフェで お願い事が叶うっていう花びらを浮かべた紅茶を二人でいただきたいな お兄ちゃんは何をお願いするのかなぁ? 萌花はね、ルキお兄ちゃんともっと仲良くなれますように お花綺麗ねってお話しながら「甘いものはお好き?」って聞いて嫌じゃなかったらねチョコをお渡しするの 契約した証にって貰ったピアスのお礼と これからよろしくねって萌花の気持ちだよ |
かのん(天藍)
恋虹華見学へ天藍を誘った理由 仕事柄あの花には興味があるので、間近で観察したいと思っていた 近郊とはいえ街から離れることになるので念のため同行してほしい 言葉にしないもう一つの理由 人見知りがちではあるが、契約相手に対してこれではいけないと一念発起 今後一緒に戦っていく相方になるので、これからよろしくの意味を込めてカカオの精からもらったチョコを渡したい、今回の外出で少しお互いの距離が縮まると良い 現地にて つい仕事モードで生育技術に対する質問をスタッフに尋ねてしまう 我に返り天藍をほおっておいたことを謝り、周囲を散策しながらカフェに向かい、テラスで2人で恋虹華の入ったお茶を飲む お茶の間に、折を見てチョコを渡す |
桐島・早苗(ディータ・ティティ・グスク)
●心境 わぁ…すごい、本当に虹色だー… この花びらを浮かべた紅茶って見た目がとても綺麗そうね 見た目が薬っぽい?…もう、食欲なくなること言わないで! ●大まかな行動 カフェで一休み→屋台で食べる ●屋台 そんなに急いで食べたら詰まらせちゃうよ、ほらお茶 あと野菜も食べて、ほら! 野菜は私も食べるから半分こですよ ●チョコ あ、そうだ 美味しそうなチョコがあったから買ってみたの これディータの分ね、そしてこっちが私の分♪ (自分が食べたかっただけで何の日かわかってない) ●その他 ・ディータに対しては敬語少なめ、それ以外の人に対しては敬語 ・自分の色恋に対しては鈍くて無自覚 ・違和感なければプランにない言動もOKです |
日向 悠夜(降矢 弓弦)
動機 一人旅をしていた時に偶々恋花祭に参加しており、 その時恋虹華について一切書き残せなかった事を悔しく思っていた 目的 恋虹華の絵を描く チョコも渡せたらいいなぁ 行動 花畑の近くのベンチなどに座って絵を描きます 精霊の話には楽しそうに乗っかっていきたいです ある程度作品が出来たら精霊へ待たせてゴメンと軽く謝りつつ、二人で軽食をとります(精霊が買ってきてくれていない場合近くの出店を利用) その時に、描いていた絵とは別の『栞サイズの紙に描いた恋虹華の絵』と『カカオの精霊のチョコレート』を渡したいです アイテム 画材(水彩、色鉛筆、スケッチブック)とチョコを持ち込みたいです 口調 お茶目で気さくな話し方 性格 好奇心旺盛な面も |
青い空の下、虹色に輝く絨毯が広がっていました。
●1
「マリーゴールド、その道は左な」
「承知しましたわ。サフラン、村へは後、どれくらいですの?」
マリーゴールド=エンデは、パートナーに道案内をして貰いながら、その村へと向かっていた。
「もうちょいってとこ。疲れた?」
瞳に悪戯っぽい光を湛え、サフラン=アンファングは彼女を振り向く。
「全ッ然、疲れてなんていませんわ!」
マリーゴールドはきっぱりと首を振った。
「恋虹華を見るのが楽しみで、疲れている暇なんてないですからっ」
「あーあ、恋虹華のコト、教えるんじゃなかったかな」
「私は、サフランに教えて貰ってラッキーですわ。見た事がない花……是非拝見してみたいですもの!」
切欠はサフランとの他愛ない世間話だった。
『虹色に輝く不思議な花、恋虹華』
その花が今まさに咲いていると聞いて、マリーゴールドは居ても立っても居られず、サフランに道案内をお願いし今に至る。
「お祭りまであるなんて……凄く素敵ですわっ」
「見えて来たぞ、マリーゴールド」
先を行くサフランが指し示す先に、村の入り口が見えてきた。
「何だか良い香りがして来ましたわ……!」
自然と歩みが早くなり、辿り着いたそこで、村の看板が二人を迎えたのだった。
『恋虹華の里・ケスケソル村へようこそ!』
ふわふわと、キラキラと。
風が吹く度、虹色の花びらが生きているかのように輝いた。
その光景に、深海 萌花はほぅっと大きな溜息を吐く。
萌花は今、恋虹華の花畑をパートナーと共に歩いていた。
「虹色に輝くお花に囲まれるなんて絵本の中みたい!」
うっとりと虹色の花を眺めて、スキップを踏むように花畑の中を進む。
「ね?ルキお兄ちゃん……」
パートナーを見上げてから、萌花は言葉を失った。
ルキウス・アズールは、歩を止めて花畑を見つめていた。
金色の髪と狐に似た耳が風に揺れて、物静かな印象を与える眼差しが、何所か遠くを見ているように見える。
「ルキお兄ちゃん」
もう一度名前を呼ぶと、ルキウスの視線が萌花へと戻った。
「どうした? 萌花」
「うん……」
萌花は少し俯いてから、上目遣いにルキウスの様子を伺うように見つめる。
「……お兄ちゃんは静かね。こういう所お嫌いじゃない?」
「嫌い? どうして?」
「萌花だけ……はしゃいじゃって、その……」
「あー……」
ルキウスは、ここで萌花が心配している事に気付いた。
「違う、そうじゃない」
ルキウスも萌花と同じく、恋虹華を見るのは初めてだった。
手折って、その色を持ち帰れないのが惜しいと思う程に魅入ってしまい、気付いたら足が止まっていたのだ。
(萌花に心配されるとは……不覚)
軽く頭を振ってから、心配げに見つけてくる萌花を見下ろす。
「こんな景色、嫌いな筈がないだろうに」
安心させるように紫色の瞳を柔らかく細めると、その微笑みに、萌花もまた海のように鮮やかな瞳を細めて笑顔を返した。
ルキウスは気付かれないよう、心の中で安堵の吐息を吐く。
「ホラ、カフェで紅茶を飲むんだろ? 行こう」
「はい、ルキお兄ちゃん!」
「転ぶなよ。あと、俺から離れて迷子にならないように」
「うん、ルキお兄ちゃんから、ぜったいに離れないよ」
●2
「うん、ここが良さそう!」
日向 悠夜は、何度も角度を確認してから、恋虹華の花畑を見渡せるベンチに腰を下ろした。
風が心地よく彼女の青い髪を揺らす。
持っていた鞄から、スケッチブックと水彩絵具、色鉛筆などの画材を取り出して、悠夜は花と向かい合った。
「恋虹華の絵を描けなかった事、ずっと後悔してたんだよね」
一人旅をしていた際に偶々恋花祭に参加した事があった悠夜は、その時恋虹華について一切書き残せなかった事を、ずっと悔しく思っていたのだ。
自然と筆を持つ手に力が入る。
「悠夜さんが描きたくなる気持ち、分かるな。見事な虹色だ」
そんな彼女の隣に腰を下ろし、悠夜のパートナーである降矢 弓弦は、金色の瞳を眩しそうに眇めた。
「僕も本で知ったこの花を、ずっとこの目で見てみたかった。いやぁ、来てよかった」
「ふふ……天気も良いし、最高だね」
「最高です。そうだ、悠夜さん。この花について、こんな豆知識はご存知かな?」
「豆知識? どんな?」
滑らかに絵筆を走らせながら、悠夜は首を傾げた。
「この花、手折ったり掘り起こしたりなどすると、虹色の花びらは色を失ってすぐに枯れてしまうそうなんだが…不思議な事に、花びらをむしっても、直ぐには花びらは色を失わないとか」
「え!? 凄く不思議!」
「だから、『紅茶に恋虹華の花びらを浮かべて飲むと、願いが叶う』……という、おまじないが出来たのかもしれないね」
なんて不思議な花なんだろう!
漏れ聞こえて来た会話に、かのんは思わず聞き耳を立てていた。
ガーデナーという仕事柄、恋虹華には以前から興味があった。
今回は是非間近で観察したいと思い、かのんはパートナーに同行して貰って、この恋花祭りへ来ている。
あの男性は、スタッフさんだろうか?
……いや、観光客かもしれない。
もっと色々教えて欲しいけれど、どうやって声を掛けようか。
かのんが悩んでいると、パートナーである天藍が、村の名前の入った法被を来たスタッフらしき青年に声を掛けていた。
「ここのスタッフさん? 花についてお尋ねしたいんだけど」
「はい、喜んで! どんなご質問ですか?」
明るい笑顔の青年へ向けて、天藍は軽くかのんの背中を押した。
「あの……」
戸惑い振り返るかのんに、天藍はウインクして『さぁ』と促す。
かのんは小さくはにかむようにして頷くと、天藍に感謝しつつ、スタッフの青年へお辞儀をしてお願いする。
「恋虹華の栽培方法について、可能な限り教えていただきたいのですが……」
「はい、構いませんよ!」
かのんはメモを手に、熱心に質問を始めた。
天藍は彼女の隣でその様子を見守る。
話が興に乗ってくると、彼女はすっかり天藍の存在も忘れてしまったかのように、花の育成技術について熱心に話を聞いていた。
いつの間にか、先ほど豆知識を披露していた男性(弓弦)も交え、更に盛り上がっている。
(参ったな……)
どうしたものかと、天藍は小さく溜息を付く。
けれど、普段の仕事でもこんな風に真っ直ぐなのだろうかと、真剣な様子のかのんの横顔を眺めるのは……悪くなかった。
●3
花畑に併設されたカフェにて、桐島・早苗と、そのパートナーであるディータ・ティティ・グスクは、向い合って席に座っていた。
「紅茶、楽しみだね♪」
早苗はウキウキと金色の瞳を輝かせるが、ディータは黒い瞳を半眼にし、対照的に少し退屈そうにしている。
「早く屋台に行こうぜ」
「屋台は逃げませんから、まずは名物の紅茶を飲んで行こうよ。ね?」
「……仕方ねぇな」
早苗の笑顔にディータが渋々頷いた所で、ウェイターが紅茶を運んで来た。
「わぁ……すごい、綺麗……」
黄金色の紅茶に浮かぶ虹色の花びらは、何所か幻想的な印象を受ける。
「……なんか薬とか金属とかみたいだな……」
早苗が感嘆の声を上げて頬を染めるのに対し、ディータがぼそっとそんな呟きを零した。
「見た目が薬っぽい? ……もう、食欲なくなること言わないで!」
そんな二人の遣り取りに、ウェイターがクスリと笑いを零す。
「大丈夫ですよ、お客様。花びら自体は味がありません。花の甘い香りを楽しみながら、お飲みください」
「味はしないんですね。……いただきます」
早苗はゆっくりとカップを口に運んだ。ディータも同じくカップに口を付ける。
「本当だ。味がしないね!」
「匂いが良いな」
「味はしないんだね、お花」
萌花は、カップの中をゆらゆら揺れる虹色の花びらをじっと見つめた。
向かい側では、ルキウスが同じくカップの中を眺めている。
「ルキお兄ちゃんは何をお願いするの?」
「オレ? さぁてな」
ルキウスはその問いには答えず、ただ微笑みを口元へ浮かべた。
(強くなりたいなんて……花に願うことでもないだろう)
萌花はそんな彼を見上げ、ふんわりと微笑みを浮かべる。
「萌花はね、ルキお兄ちゃんともっと仲良くなれますように」
そう言うと、くいっと花びらと紅茶と共にゆっくりと飲み込んだ。
ルキウスもそれに倣うようにして、花びらを紅茶と共に飲む。
「願い事、叶うかなぁ?」
「さぁてな」
クスッと小さく笑うと、ルキウスは窓の外へ視線を投げた。
萌花も一緒になって、虹色の絨毯に瞳を細める。
「ルキお兄ちゃん、お花綺麗だね」
「あぁ、綺麗だ」
カフェの大きな窓の外は、虹色の絨毯が鮮やかに続いている。
そのまま、暫くの間は、じっと虹色の花々を眺めていた。
会話は無くても、穏やかな空気に包まれて……決して居心地は悪くはない。
「甘いものはお好き?」
ふいに萌花がそう尋ねて首を傾けた。
「甘い物は普通だな」
「じゃあ、これ……ルキお兄ちゃんに」
用意していたチョコレートを鞄から取り出し、萌花はルキウスへ差し出した。
「契約した証にって……貰ったピアスのお礼と、これからよろしくねって……萌花の気持ちだよ」
萌花の微笑みを見返してから、ルキウスは差し出されたチョコレートにそっと手を差し伸べて受け取る。
「サンキュ。萌花」
「うん」
花が咲くような笑顔で、萌花は頷いたのだった。
●4
「素敵! 本当に虹色なんですわね……!」
マリーゴールドは、瞳をキラキラと輝かせてパートナーを振り返った。
金色の髪と橙色のロングスカートがふわりと風になびく。
「見事なもんだな」
サフランは口元に小さく笑みを浮かべた。
鮮やかな赤い髪が、同じく風になびいている。
「サフランに聞いて想像していたより、ずっと鮮やかですわ」
虹色の花の絨毯の間を軽い足取りで進む。
「サフランは以前にも来た事がありますの?」
「まぁね」
「なら、恋虹華について、知っている事を教えてくださいな」
「んー……そうだなぁ」
サフランは少し考えこむように空を見上げて、それから小さく頷いた。
「4つの花弁の花を見つけると……」
「まぁ! 4つの花弁のある花があるんですの?」
「滅多にないらしいけどね」
「是非見つけたいですわ……! で、見つけるとどうなるんですの?」
「……」
サフランは一瞬笑顔のまま停止して、それからゆっくり首を振る。
「ワスレマシタ」
「肝心なところを忘れるなんて、ヒドイですわっ」
「ワスレタ。シカタナイネ」
「……」
どうにも嘘臭い。
マリーゴールドは、じっとサフランを疑いの眼で見つめるが、彼はどこ吹く風だ。
(まぁ、帰ってから自分で調べるから良いですけれど)
「忘れたものは仕方ないですわ。折角ですから、花畑を歩きながら4つの花弁のある花を探してみましょう」
「え? 探すの?」
「探すんですっ」
「ハイハイ」
かくして、4つの花弁のある花を探しながらの散歩が始まった。
「悠夜さん、一人にしてごめんね」
丁度、悠夜が筆を置いたタイミングで、弓弦が彼女の元へ戻ってきた。
「降矢さん、こちらも今、描き終わった所よ」
「完成したんだね、よかった。じゃあ、はい、これ」
弓弦は微笑むと、サンドイッチとコーヒーを悠夜に差し出す。
「出店で買って来たんだ。そろそろお昼にしよう」
「ありがとう、降矢さん」
心遣いが嬉しく、悠夜は笑顔でサンドイッチとコーヒーを受け取った。
「いやぁ、スタッフの方に花のアレコレを聞いていたら、あっという間に時間が過ぎてたよ」
弓弦も悠夜の隣に腰を下ろすと、早速サンドイッチを口に運ぶ。
「どんな話を聞いたの?」
同じくサンドイッチを手にしながら、悠夜は満足そうな弓弦を見つめた。
「この花ね、本当に変わってる花で……咲くサイクルが気紛れなんだそうだよ」
「気紛れって……どんな風にかしら」
「比較的、この季節に咲く事が多いらしいんだけど、突然急に咲くんだそうだ」
話す彼が饒舌になっているのを感じ、悠夜は自分も楽しくなるのを感じる。
「どういう事?」
「ある年は2月、7月、10月に……とある年は2月だけ、また違う年は2月と3月に……と、そんな風に気紛れに咲くらしい」
「季節に関係なく、咲いちゃうの!?」
「うん、関係なく、気紛れに、突然に」
「……本当に変わってるわね」
悠夜は、咲き誇る花々を感嘆の眼差しで見つめた。
「だから、花が咲き始めたら、すぐにお祭りの準備をするそうだよ。花の寿命は一週間ほどだから、準備も大急ぎらしい」
「ふふ、気紛れな花に振り回されちゃってるのね」
「振り回されるのも楽しいって、言っていたよ。これだけ美しい花だ。無理もないね」
「そうね。私も絵を描けて嬉しいわ」
悠夜はそう青色の瞳を細めると、鞄に手を伸ばした。
取り出したのは、カカオの精霊のチョコレート。
そして、もう一つは……弓弦が居ない間に仕上げた、栞サイズの紙に描いた恋虹華の絵だ。
「降矢さん。これ、私からのバレンタインデーのプレゼント」
弓弦はプレゼントと彼女を交互に見て、目を何度も瞬かせる。
「ありがとう」
それから、少し照れくさそうに彼女のプレゼントを受け取った。
「びっくりしたよ。いつの間に描いたんだい?」
絵を眺め、瞳を細める。
「今日の記念になればいいと思ったの」
「大事にするよ」
その彼の言葉に、悠夜は今日一番の笑顔を見せたのだった。
●5
虹色の花畑の周囲は、屋台から立ち込める香ばしい香りが包み込み、否が応でも食欲を刺激する。
「よっしゃー! 食うぜー!」
ディータは元気良く、屋台へと駆け込んだ。
「まず、牛串だろ。それにフランクフルト!」
両手に串を持ち、頬張ってはご満悦な表情の彼を見て、早苗は思わず笑みを零す。
「そんなに急いで食べたら詰まらせちゃうよ、ほらお茶」
「ん、サンキュ」
早苗が渡したお茶も一気に飲み干してしまう。
「次は……唐揚げ棒に焼き鳥も外せねぇな!」
「お肉ばっかり。野菜も食べて」
「男は肉だっての!」
「野菜も食べないと、大きくなれないよ?」
早苗は、仕方ないなぁという視線をディータに向けて微笑む。
「あ、口元、ソースで汚れてる」
ふと彼の口元の汚れに気付き、ハンカチを取り出すと、ディータはパッと距離を取った。
「こ、これくらい、こうして拭えば問題ねぇよ」
そう言うと、ぐいぐいと自分の手の甲で口元を拭う。
「ディータ、お行儀悪いです」
むぅと早苗は軽く頬を膨らませてから、徐ろに焼きそばの容器を彼に差し出す。
「せめて、野菜も食べなさい」
「……」
どう見ても具多めな焼きそばを、ディータは半眼になって見つめた。
「サナエ、これお前が野菜を食べたくないだけじゃないのか!?」
「そんなことないです。野菜は私も食べるから半分こですよ」
半ば無理矢理焼きそばを押し付けてから、早苗は次の屋台へ目標を定める。
「次はあのクレープを食べよう♪」
「俺は肉がいいぞ、サナエ!」
「ごめんなさい、天藍。私ったら、すっかり夢中になっちゃって……」
かのんはすっかり恐縮しながら、天藍に頭を下げていた。
スタッフと話し込んでしまっていたかのんは、それをずっと待っていてくれた天藍に申し訳なくて仕方がなかった。
「別にいいって。気にしないでくれ。花の話は俺も面白かったし」
天藍は気さくな笑みで首を振ると、花畑の隣にあるカフェの扉を開き、かのんに入るように促す。
「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」
ウェイターがにこやかに店内に入ってきた二人を迎え、かのんと天藍を窓際の席に案内する。
窓から見える絶景に見惚れながら、二人は席に着いた。
「かのんは何を頼む?」
「そうですね……折角ですし、恋虹華の紅茶にします」
「じゃあ、俺もそれにしよう。恋虹華の紅茶を二つ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
ウェイターが立ち去ると、二人の間に沈黙が落ちた。
「……かのんはさ」
先に沈黙を破ったのは、天藍だ。
「普段はガーデナーとして働いてるんだよな」
「えぇ、そうです」
これはチャンスだと、かのんは思う。
今後一緒に戦っていく相方として、今日は天藍と少しでも分かり合いたいと彼女は考えていた。
「天藍は……普段は何をされているのですか?」
「俺はレンジャーやってる。街の自警団にも入って活動してたり、な」
天藍はそう言ってから、柔和に微笑んだ。
「今日は、かのんの普段の仕事ぶりが垣間見えた気がするよ」
「え?」
「お待たせいたしました」
かのんが驚いて瞬きをしていると、ウェイターが恋虹華の紅茶を運んで来た。
思わず二人で、紅茶に浮かぶ虹色の花びらに見惚れる。
「綺麗なもんだな」
「えぇ、本当に」
「いただこうか」
「そうですね」
二人は笑みを見せ合うとカップに口を付けた。
「かのんは、叶って欲しい願い事はあるのか?」
「願い事ですか?……秘密です」
かのんは一瞬紫色の瞳を揺らしてから、照れたようにはにかむ。
「天藍こそ、何か願い事はないのですか?」
「……あー……えっと、俺も秘密って事にしておこう」
こちらも一瞬茶色の瞳を揺らしてから、天藍はハハッと頭を掻いた。
(今なら……渡せそう)
カップを置き、紅茶を飲む天藍を見ながら、かのんはそっと鞄の中へ手を伸ばした。
「あの、天藍。これ……バレンタインのチョコレート、です」
勇気を振り絞って、彼へチョコレートを差し出す。
「え? 俺に」
天藍は目を丸くして、チョコレートをかのんを、交互に見やった。
かのんはコクコクと頷くので精一杯だ。
「ありがとう。嬉しいよ」
照れたような微笑を見せ、天藍はかのんの手からチョコレートを受け取ったのだった。
●6
屋台の食べ歩きを満喫して、早苗とディータは花畑の前のベンチに並んで腰を掛けていた。
いつの間にか日が傾き始め、オレンジ色の光が花畑を照らしている。
「はぁー、もう食べれないな!」
「本当にたくさん食べたね」
満足そうなその横顔を見つめ、早苗はクスクスと笑った。
「じゃあ、もうお腹いっぱいで食べられないかもしれないけど」
そう言うと鞄から何かを取り出し、ディータへ差し出す。
「え?」
ディータの目が丸くなった。
「美味しそうなチョコがあったから買ってみたの。これディータの分ね」
「お、おう。サンキュ」
早苗からチョコレートを受け取った彼の頬がほんのりと赤くなったが、夕焼けのお陰で早苗には気付かれない。
しかし、次の瞬間、その表情は凍りついた。
「そしてこっちが私の分♪」
楽しそうに同じチョコレートを早苗が取り出したのだ。
(あ……こいつチョコ食べたかっただけだな……)
ディータの乾いた笑いが、夕焼けに溶けていったのだった。
「見つかりませんわね……花弁が4つある花」
夕暮れを迎えようとしている花畑を歩きながら、マリーゴールドは無念そうに呟く。
「簡単に見つかるようだったら、伝説にならないんじゃない?」
まだ諦めずに花々へ視線を向けるマリーゴールドに、サフランは少し意地悪く微笑んだ。
「残念ですわ……!」
流石にもうタイミリミットかと、マリーゴールドは大きく息を吐き出す。
「けれど、この花に出会えただけで……楽しかったです!」
オレンジ色の光に照らされた虹色の花は、昼間とまた違う趣で、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「サフラン。今日は付き合ってくれて、ありがとうございました」
マリーゴールドはそう言うと、小さ目のショルダーバックからチョコレートを取り出し、サフランへと差し出す。
そのチョコレートは淡い黄色の紙で包まれ、裁縫で余った布の切れ端を縫って作ったリボンが掛けられていた。
「有り難く、いただきます」
リボンの切れ端をちょいっと指先で摘んで、サフランが笑う。
その時、一際大きな風が吹き、虹色の花々を揺らした。
「……あ……」
驚いた声を上げるサフランに、マリーゴールドが首を傾ける。
「どうしましたの? サフラン」
「……いや、何でもない。ナンデモナイデス」
訝しげな視線に首を振って、サフランはマリーゴールドの手からチョコレートの包みを引ったくるように受け取った。
「さ、日が暮れる前に帰りまショ」
「??? もう、何なんですの?」
歩き出すサフランの背中を追って、マリーゴールドの靴音が響く。
誰もその居なくなったその場所で、静かに4つの花弁を揺らし、虹色に光る花があったのだった。
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:なし
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月16日 |
出発日 | 02月24日 00:00 |
納品日 | 03月05日 |
参加者
- マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
- 深海 萌花(ルキウス・アズール)
- かのん(天藍)
- 桐島・早苗(ディータ・ティティ・グスク)
- 日向 悠夜(降矢 弓弦)
会議室
-
2014/02/23-22:58
ごあいさつが遅くなっちゃったっ。
初めまして、よろしくお願いしまーす!
恋虹華どんな花かすっごく気になっちゃうね。
お花もみたいしチョコも渡せるかドキドキ……!
みんな、楽しいひと時が過ごせますようにー! -
2014/02/19-08:18
皆様、初めまして。どうぞよろしくお願いします。
見た事がない花の話を聞いて、いてもたってもいられずに参加しました。
恋虹華ってどんな花なのかしらね?うふふ。楽しみですわっ
バレンタインの時期でもありますし、一応チョコレートも用意しましたけれど……うむむ。
素敵な時間が過ごせると良いですわね! -
2014/02/19-06:07
初めまして皆様、よろしくお願いします。
今回はほかでは見られない花が見たくて参加しました。
カフェの紅茶も楽しみです。
楽しいお祭りになると良いですね。 -
2014/02/19-01:07
はじめましてー
今回は、よろしくお願いします。
「花びらを紅茶に浮かべ飲むと、願い事が叶う」っていうのが素敵だなって思って参加しました。
あとは、屋台とかあるって聞いて。
お祭りってなんだか楽しいよねー。 -
2014/02/19-00:26
皆、初めましてだね。よろしくお願いするよ~。
今回は珍しい花を見たくて参加したよ。
ついでに、バレンタインのチョコでも渡せればいいな~っと思ってね。
穏やかで、楽しいお祭りになりますように!