頑張れ弁当男子!(名村 恵 マスター)

プロローグ


●お料理教室にいらっしゃい
「そこのお嬢さん。よかったら、こちらご覧下さい♪」
 タブロス市街の大通りで物腰柔らかな女性が一枚のチラシを配っていた。
 そのチラシには、かわいいイラスト共にこんなキャッチコピーが書かれていた。

『彼の手作りお弁当、食べてみたくないですか?』

 女性は、ニッコリと笑って。
「私、そこの通りでお料理教室を開いているんですけど、今度の週末にカップル限定のお料理体験会をするんです。よかったら、いらっしゃいませんか? 今回は、そんなに難しいお料理を作るわけじゃないんですよ」
 微笑みを絶やさずにその女性は、チラシの一部を指差した。
「今回の教室で作るのは、お弁当なんです。で、作るのはカップルさんの彼氏さんの方なんですよ♪ 女性はあくまで、彼のお手伝いと作り方を教えてあげるだけなんです。もちろん、私達もお教えしますけど彼氏さんもあなたのような彼女さんに教わった方がやる気が出るんじゃないかしら?」
 そのチラシを見ると確かにメインで作るのは男性と書いてある。
「お料理のできる男性って魅力的ですよ♪ うちの夫も最初の頃は、料理なんて女がするものだって思い込んでて、包丁なんて握ったこともなかったんですけどね。一度、私が寝込んだ時にお粥を作ってくれたんです」
 女性はその時のことを思い出していたようだが、ちょっと笑って、
「正直、お米もベチャベチャで美味しいといえるものじゃなかったんですけど、気持ちが嬉しくって、美味しいって言ったんです。彼の初めての料理を食べられて幸せだったから。そうしたら、あの人凄く幸せそうに笑ったんです。作ってもらったのは私なのにね。それから彼、なんだか食べてもらえる幸せに気付いたって言って、料理の勉強を本格的に始めたんです。それで今は、小さなレストランのコックをしてるんですよ。びっくりですよね。暇な時は私のアシスタントもしてくれるようになったし」
 そう言いながら、幸せそうな微笑みを浮かべている。
 彼女の旦那さんもこんな幸せそうな微笑みを浮かべたのだろうか?
「だからってわけじゃないですけど、よければ彼氏さんと一緒に来てみてください。たまには、彼とこう言う時間の使い方も素敵ですよ♪ 教室は、お昼には終わりますから、そのお弁当を持ってランチに出かけるのもいいんじゃないかしら。近くに、この時期でも暖かい、植物園があるんです。だから彼特製のお弁当を食べながらデートするのも、きっと楽しいですよ♪」
 確かにチラシを見ると、料理教室のそばに植物園がるようだ。
 花々を見ながら、パートナーと食事というのもいいかもしれない。
 そんなことを考えていると女性が、もう一言という感じで、
「それと、彼氏さんには内緒にしておいた方がいいと思いますけど、これから先、彼氏さんがお料理出来ると、色々便利ですよ♪」
 そう言って、女性はお茶目な笑顔を見せた。
 

 
 彼は、お料理できるかな?
 やっぱり、食べる専門かな?
 エプロン着けてる姿、見たことあったかな?
 やっぱり料理は女の子が作るものって思ってるのかな?
 もし、彼のお弁当を食べることができたら、嬉しいかな?
 誘ったら来てくれるかな?
 一緒に笑いあえるかな?

解説

 お料理教室は、午前中を使って行われます。
 食材に関しては、お弁当に必要と思われるもの&飲み物等はほぼ揃っていると思って頂いて大丈夫です。
 教室で用意されていないと思われるものの持ち込みもOKですが、一般に流通されてるものに限りますので、超高級品や入手が困難すぎるものは用意できません。

 お料理教室の女性は、彼氏と一緒にと言っていますが、お相手はパートナー限定ですし、もちろん現時点で彼氏彼女の関係である必要もありません。

 お料理教室で料理をするのは、あくまで男性であるパートナーです。
 神人である女性の皆様は、パートナーにお料理のアドバイスをしたり、味見をしたりがメインになります。
 どんな料理になるかは、パートナー次第ですが、PCがどんなお手伝いをするかによっても変わっていきます。
 お料理教室の女性は、質問されたり見本のお願い等をされればお手伝いしますが基本的に男性のお手伝いは神人の皆様にお願いします(今回は、お料理教室の女性の旦那さんもアシスタントとしています)。

 植物園でのお弁当デートでは、完成品のお弁当を必ずお二人でご一緒に食べて頂きますので、お弁当の完成度によって、どんな展開になるか変わります。

 神人と精霊のウィンクルム一組ずつでの参加ですが、他のペアとの共同作業&ダブルデート等も大丈夫です。

 お弁当は、お昼デートで食べて頂きますのでアイテム発行等はありません。

ゲームマスターより

皆様、初めまして。
皆様と一緒にこの世界を作っていくお手伝いをすることになりました、名村 恵と申します。
頑張っていきますので、日常を楽しんでいきましょう。
これから、よろしくお願いします。

という訳で、今回はパートナーの精霊とお料理教室です。
あなたのパートナーはお料理上手でしょうか?
お料理未経験でしょうか?
それとも、予想の上を行くのでしょうか?(ちょっとマテ)

皆様のプラン次第ですが、ノベルの描写予定は、お料理教室2に対して植物園でのお弁当タイムが1となっております。
ですが、どんな物語になるかは、皆様次第ですので楽しいデートプランをお待ちしております♪

追記:始まったばかりですので自由設定が完成していない方もいらっしゃるかと思いますが、そちらも参照しますので埋まっているとキャラの特徴が出やすくなりますので、出来る限り埋めておくことをお薦めします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セリカ=カイエン(ユーリイ=シキシマ)

  まずは、エプロン姿に指をさして笑ってやろう。
あまり手を出さずに、指示のみに徹することにしようかな。
失敗したら思い切りコケにして。でも作らせるからには、炭化してない限り食べないと。
たこさんウインナーを失敗したら、分厚い本で殴ってくれよう。

完成したお弁当は、山辺さんペアと見せ合う。
シキシマ特製弁当が失敗した場合は、笑ってもらいたい。
あと、山辺さん達と一緒に食べるかどうかは、彼女達にお任せしたいと思う。



山辺 未来(嵯峨野 由)
  一応、あのバカが頑張るんだからちょっとくらい手伝ってあげてもいいと思う。
と言っても、私自身そんなに料理が上手って訳でもないし、人に教えれるほど器用でもないんだけど。

お弁当作るんだから、お米炊いて、おかずは卵焼きやきんぴらごぼうとかが定番で簡単なのかな? 個人的にはエビフライとか好きなんだけど、あいつが聞いたら「こどもっぽい」とか言うんだろうなぁ。

出来たお弁当は食べて、もし美味しかったら率直に感想を言おう。もし美味しくなかったら……、そのときはそのときって事で!

私はただ食べる役のはずなのに、どうして今からこんなに不安なんだろう……。初めてだから? それとも……?


●食材のチョイスと準備
『セリカ=カイエン』は指をさして笑っていた。何を笑っているのかというとセリカの精霊のエプロン姿をである。
「エプロン姿似合わないね」
「うるせー」
『ユーリイ=シキシマ』はなれないエプロン姿を笑われて、少し気恥ずかしそうだ。
 セリカに誘われてやってきたのはいいが、お弁当について、これといってこだわりはない。見た目よりもボリュームがある方が嬉しいのだ。
「シキシマは何を作るの?」
「当然、肉たっぷりのスタミナ弁当だぜ」
 ユーリイらしいといえばそうなのだが、せっかく二人で協力して作るのだから、もう少し自分にも気をつかって欲しいと思うセリカ。
 それとなく軌道の修正を試みる。
「肉って……、ほら、タコさんウインナーとか、野菜とか入れると綺麗になるよ」
「えー、野菜かよ。あんまり腹に溜まらないんだよなあ」
「そんなこといってると栄養が偏るよ」
「仕方ねえな。お嬢ちゃん、材料選ぶの手伝ってくれよ。肉は俺の好みで選ぶ。野菜はわかんねーからアドバイスくれよ」
「いいよ」
 なんとか、肉だけのお弁当を回避できたと、セリカは心の中でガッツポーズをする。ユーリイの調理技術がどれほどのモノか全く知らない。それでも、言動を聞いている限りでは得意そうには感じない。
 出来合のモノや、定食屋などを頻繁に利用しているように感じる。自炊などはあまりしていない印象。
 野菜について全くの無頓着というのはなかなか侮れない。今まで野菜をどうやって食べてきたのだろうかという一抹の不安が脳裏をよぎった。
「おー、食材なんでもあるじゃねーか」
 ユーリイは山のように積み上げられた肉にテンションが上がる。決して高級な肉というわけではない。それでも、肉というだけでユーリイの食欲が刺激されたようで、早くも目を輝かせていた。
 放置しておけば、コンロであぶってその場で食べ始めそうだ。
「シキシマ、いまは食材選びだよ。食べるのはあと」
「わ、わかってるぜ」
「ほんとに~?」
「あったりめーだろ!」
 ユーリイは牛を選ぶと思ったが、豚を選んでいた。赤身を楽しむのなら牛だと思うのだが、なぜ豚なのだろうか?
「豚が好きなの?」
「豚肉は凄いんだぞ。これでビタミンがとれるんだ。あと、スタミナ面でも他の肉より質がいい。特に焼くに限っては失敗しにくいんだよ。牛肉だと焼きすぎれば硬くなるし、鶏肉だとぱっさぱさだ。ところが豚肉ってヤツはその辺にあまり気をつかわなくていい。しっかり火を通すことだけ考えていれば、まず失敗しねーよ。問題は味付けなんだが、俺の秘伝のソース調合に任しておきな!」
 やけに語るユーリイがおもしろい。肉のことになるとこんなに一生懸命になるのかと、クスクスと笑ってしまう。
「ん? なんかおもしろいことでもあったか?」
「い、いえ、ちょっとシキシマが一生懸命だったから、おかしくて」
「誘ったのはお嬢だろ? 変なヤツだな」
『山辺 未来』は『嵯峨野 由』を誘っておきながら、自分の料理知識が乏しくて、どんなお弁当になるのかと、不安とワクワクでテンションが上がっていた。
 料理にはうるさくない方で、味さえある程度整っていれば気にしないというおおざっぱなところがある。由に調理の腕はあまり期待してないし、それほど上手に出来なくてもそのとき考えればいいだろうくらいの認識でいる。
「バカ嵯峨野は何作るの?」
「誰がバカだ! そうだな、ヘタレが好きそうな揚げ物でも作ってやろうか?」
「な、誰が揚げ物なんてっ、エビフライとか作っておけば喜ぶとでも思ってるんでしょ?」
「あ、いや、別にそこまで考えてねーけど」
「そう、ならいいわよ」
 何となくこのやりとりで、未来はエビフライが食べたいんだろうなと悟る由だった。
「よし、食材探しに行くぞ。付いてこい、ヘタレ」
「ヘタレ、いうなー」
 食材が大量に貯蔵されている一角に未来と由は、何を作ろうかと首をかしげるのだった。
 エビフライ以外に揚げ物ものを作るのも、お弁当には悪くない。卵焼きやきんぴらごぼうなども定番だろう。
「さて、揚げ物にするとして、海産物だけじゃ寂しいよな」
「味がまともなら、気にしないよ?」
「まあ、まて。作るからにはしっかりいこうぜ。油の温度を上げている間は時間がとれると思うんだよ。その時間で簡単なものを何個か作りたい。出来れば色が付いたヤツがいいな。揚げ物だけだときつね色一色になっちまう。それじゃ、食欲も出ないってものだ」
「それもそうね、きんぴらごぼうなんてどう?」
「揚げ物にか? そうだな、冷えると味がしっかり入るし悪くないと思う。ただ、きんぴらごぼうと揚げ物だけじゃ、ほぼ油だぜ?」
「色のある野菜が欲しいね」
「そうだな。簡単にシーザーサラダを作ろう。弁当箱に入れるからには量は少ないが、ないよりましだろ。油ものだからウーロン茶も作るぜ。油の吸収を抑えてくれるって聞いたからな」
「どこでそんな情報仕入れてくるの?」
「行きつけの定食屋のおばちゃんが教えてくれるんだよ。体が資本だからってな」
「よく、覚えてるね」
「せっかく気をつかって教えてくれているんだ。おざなりにはできねーぜ」

●調理でハプニング
「よっしゃー、肉焼くぞ、肉!」
「こら、こら、ストップ」
「どうした?」
 ユーリイはフライパンをコンロの炎であぶって、今すぐにでも焼けるアピールをしている。
「肉ブロックのままで焼いたらお弁当箱に入らないでしょう」
「そんなの、あとで切ればいいじゃねーか」
「火の通りも悪いし、薄く切るなり、ブロックにするなりした方がいいよ」
「そうか? 俺は蒸して奥まで火を通したあと、鉄板で焼き目付けて食らいつくのが好きなんだけどよ」
 どうやら、調理は出来るらしい。ただ、それはお弁当を作るというより、日々の食事に特化している様子。
 お肉が好きなだけあって、塊で食べたいというユーリイはなかなか折れない。
「ほら、これがお料理を入れるお弁当箱だよ。このサイズに合わせて切ってね」
「ちっ、しゃーねーな」
 包丁の扱いはアドバイスの必要はなかった。刃物に慣れ親しんでいる様子で、器用に肉を切っていく。筋には刃を通して柔らかくする工夫もしていた。
「うまいね、意外」
「嬢ちゃん、俺だって料理くらいはするんだぜ? これくらい出来て当たり前さ」
 厚みを見る限り、このまま焼くのだろう。先ほどいっていた秘伝のソースをかけて完成なのだろうか。
 ユーリイは秘伝のソース用に、何か食材をあさっていたがセリカには見せてくれていない。
「よっしゃー、今度こそ焼くぞー」
「下味は入れないの?」
「甘いな、塩だけでいいだ。その方が秘伝のソースの味が引き立つ」
「考えがあるならいいや」
 充分に加熱された鉄板の上に、豚肉が次々と乗せられていく。適度に脂がのった赤い肉は、すぐに火が通り、白く変色していく。火が通っている証拠だ。
 ユーリイは手際よく、塩だけで味付けされた豚肉を皿に移していく。
 いつの間にか用意されているタッパーには黒い液体が入っていた。中には緑や赤、黄色といった果物と思われるすり身が入っている。
「それが秘伝のソース?」
「おう」
「いつの間に作ったの?」
「そいつは秘密だぜ」
 ユーリイは熱々に焼けた豚肉を秘伝のソースにつけていく。秘伝のソースはいい香りがして食欲を刺激される。
 肉が好きなユーリイのこだわりがわかる。お弁当を作っているという認識は薄いが、肉の調理に関しては本気さがにじみ出ている。
「あとは、てきとうに野菜を千切るか」
「少し大きめに千切るといいよ。包丁使ってもいいけど、手でやった方が繊維が切れて食べやすいかも」
「どうせ生野菜だ。てきとーでいいんだよ」
「肉の情熱の半分でも野菜に注げるといいんだけどねー」
 ユーリイはおおざっぱだが、見栄えはそこそこの形状に葉野菜を千切っていく。軽く水通しして、ペーパータオルで拭いて、弁当箱の隅に添える。
「ここに、ミニトマトをのっけて、野菜はこんなもんでいいだろ。タコさんウィンナーは飾りに付けとくか」
 慣れた手つきでちょちょいと刃を入れて、熱の残るフライパンであぶる。手つきは慣れている。流石に肉にはこだわりがあるようだ。
「炊けたご飯は、こっちの弁当箱に詰めてと……、えーとふりかけはこれでいいな。最後はメインディッシュのお肉だぜ」
 ユーリイの作った秘伝のソースにつけられた肉が弁当箱に収まっていく。アドバイスのおかげか、サイズは丁度よく綺麗に収まる。
「よし、完成だ」
「どんな風になった? 見せてよ」
「食べるときのお楽しみだぜ」
 由は油の温度を調節していた。温度の調べ方は知っているようで特にアドバイスを求めようとはしてこない。
「さて、きんぴらごぼうの仕込みするか」
 タンタンタンと手際よく包丁を動かして下ごしらえをしていく。刃物の扱いには苦戦するそぶりすらない。
「バカ嵯峨野、油いいの?」
「慌てるな。まだそんなにこの火力じゃ温度上がらねえよ」
「もしかして自炊なれてる?」
「気まぐれで世界をほっつき歩いてきたからな。これくらい覚えるさ」
「ふーん」
「なんだ? 尊敬しちゃったかよ?」
「そんなことないもん!」
 由は特にこれ以上からかうでもなく、包丁を動かして下準備を終える。手際から見て、日頃から調理の頻度は高いように見える。
「よしよし、油の温度はこんなもんだな」
 処理をして衣を付けた大きなエビを油の中に投入していく。
 パチパチと油が跳ねる音が食欲をそそる。きつね色に変わっていく衣を見ているとなかなか楽しいものだ。
 跳ねる油に戸惑いながらも、未来は揚げ物鍋の中を覗くのだった。
 由は揚げ終わったエビフライを油切りの上に移動させ、すべて揚げ終わったところで火を消す。
「ウーロン茶は少し濃く入れるからな」
 茶葉をメッシュの袋に入れてヤカンに投入する。充分に沸騰させ、成分が抽出されるのを待つのだ。
 タイマーを設定して、ウーロン茶は終わりだ。
 きんぴらごぼうは材料を鍋に入れて、味付けをし、水分を飛ばしている最中だ。
 とにかく由はこまめにタイマーを使った。普段の生意気な所からは想像できない几帳面さだ。
「弁当箱がこのサイズなら、シーザーサラダのサイズはこれくらいか」
 サイズを指で測って、いろいろな種類の野菜を刻んでいく。ドレッシングは用意されていた物を使って完成だ。
 ご飯を弁当箱に詰めて、作った料理を弁当箱に入れていく。ウーロン茶を保温できる水筒に入れて、カップを二つ用意した。
「よし、完成!」
「ちゃんと出来たんでしょうね?」
「驚くなよな」

●一緒にお弁当を食べました
 外は快晴で、植物園には心地がいい風が吹いていた。植物に囲まれて気持ちがオープンになっていくのを感じる。
 芝生の上にシートを引いてセリカとユーリイは弁当を取り出した。
「それじゃあ、お披露目だぜ」
 弁当箱を開けると、一つにはふりかけがかかったご飯が詰まっている。
 もう一つの弁当箱には、ユーリイが丹精込めて作った、秘伝ソースがかかった豚の焼き肉、タコさんウィンナーに気持ち程度の野菜が添えられている。
 色味はそれなりに綺麗で、日光の元で見ると室内で調理途中のものを見たときより綺麗に見える。
「おいしそうね」
「だろ?」
「どこで料理覚えたの?」
「数日がかりで出かけるときなんて料理は必須だからな」
「出かける?」
「オーガを調べたりするのに、地方の方まで行くと、自分で食料を持っていかなきゃらならねえ。そうなれば自然と調理は覚えるんだよ」
 ユーリイは頬をポリポリとかいた。どうやら照れているようだ。
「弁当は食わなきゃ意味ないぜ。ほら、食べてみてくれ」
「うん、そうだね」
 セリカはユーリイが一番時間をかけて作った、秘伝のソースにつけられた豚焼き肉を食べた。小さく一口食べると、口の中にうまみが広がってくる。ほどよい脂と食欲を引き立てる香辛料にご飯に手が伸びた。
 ユーリイの手前、あんまりがっつくところは見せたくない。それでも食欲が刺激される美味しさがある。
「すごい! シキシマにこんな才能があるなんて思わなかったよ」
「そうか? あんまり褒めると調子に乗っちまうぜ?」
 ユーリイは恥ずかしそうに頬をかきながら視線をセリカからそらした。
「シキシマも食べなよ。おいしく出来ているよ」
「おう。せっかく作ったんだ。食うとするか」
 難易度が高いものは作っていないが、一つ一つ丁寧な作業でお弁当は作られている。セリカに食べてもらうことを意識して、丁寧に作ったのかはわからない。
 ただ、ユーリイは手を抜かなかった。真剣にお弁当づくりに取り組み、秘伝のソースまで披露したのだ。
 少なからず、ユーリイはセリカに自分の好きな味を知って欲しかったのだろうと思われる。
 セリカはユーリイに食事を作ってあげる機会があったら、肉の味付けにはこだわろうと思うのだった。
 未来は丁寧にお弁当箱の中に敷き詰められたおかずに驚いていた。
「どうだ?」
 由は少し自信ありげにしている。それもそのはず、一切の手を抜かず、本気で作ったのだからまずいはずはないという、由なりの自信の表れだ。
「上手……」
 未来は自分が調理に無頓着なこともあって、由にきちんとしたお弁当を見せられて驚いていた。
 でもそれは不快な気持ちではない。自分のために一生懸命に作ってくれたという感謝の気持ちだ。「バカ嵯峨野」「ヘタレ」と言い合う仲だが、由が決して未来のことに対して無頓着ではないという現れでもある。
「食べたかったんだろ? エビフライ」
「なんで、それをっ」
「ヘタレはわかりやすいんだよ。自信作だから食ってみてくれよ」
 気恥ずかしい気持ちもあるが、自分のために作ってくれたというエビフライを箸で摘まんでかじりつく。
 食感は最高で、よく揚がっているし、衣もおいしかった。
「どうだ?」
 不安げに由は未来をのぞき込む。
「……しい」
「え? なんだって?」
「おいしいよ」
「そうか、そりゃよかったぜ」
 由は緊張から解き放たれたかのように、芝生の上に大の字に転がる。
「え? どうしたの?」
「いやー、ヘタレは好きなものにはこだわり持ってそうだったからさ、まずいっていわれたらどうしようかと思ってたんだよ」
「そんなこというわけないでしょ」
「わりー、オレはまだ全然ヘタレのこと知らないな。これからもまた誘ってくれるか?」
「別にいいけど」
 由はいたずらっぽく顔をゆがめると、「オレから誘っちゃうかも」
「なっ!」
 未来は顔が真っ赤になっているのを感じた。それくらい由の視線が蠱惑的だったのだ。
「ほら、ウーロン茶もあるぜ。おデブちゃんにはならないでくれよな」
「ならないよっ」
 ウーロン茶を由から奪い取って喉を潤わす。油ものとウーロン茶はよく合った。口の中に残った油が綺麗に洗われるように感じる。
 由は未来がお弁当を食べる姿をほほえましく見ていた。それは単に自分が作ったお弁当の味に不安があるとか、そういうたぐいのものではない。
 今後も一緒にいろいろなことを体験していくパートナーとの一つの思い出を、大切に記憶しようとするかのような、優しい表情をしていた。


(このリザルトノベルは、わかまつ白月マスターが代筆いたしました。)



依頼結果
MVP:なし

エピソード情報

マスター 名村 恵
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月16日
出発日 02月22日 00:00
納品日 03月15日

 

参加者

会議室

  • [5]セリカ=カイエン

    2014/02/21-19:34 

    多分私がタコサンウインナーにこだわりすぎているだけじゃないかな。
    逆に卵焼きを考えてなかったなぁ。栄養のバランスも大事よね。

    大丈夫、きっと私たちの方は焦げたりして、茶色ばっかりになるだろうから。
    シキシマの失敗作(決めつけ)を見て、笑ってやって。

  • [4]山辺 未来

    2014/02/21-00:34 

    野菜炒めは簡単そうだし、初めての人でも作りやすそうだよね。
    ウインナーをタコさんにとかまったく思いつかなかった。卵焼きとかしか思いつかない私のボキャブラリーの無さが恥ずかしい……。

    完成品はたぶん、私達のはものすごーく地味になるだろうけど大丈夫かな?

  • [3]セリカ=カイエン

    2014/02/20-00:28 

    確かに、味は重要ね。でも、せめてウインナーはタコの形をしててほしいかな。
    それ以外はこの際、簡単な野菜炒めとか、簡単なものでも十分だけど。

    ああ、それは是非見てみたい。でかい男二人が並んで作ってたら面白い絵よね。
    それと、完成品は見せてもらっても大丈夫かしら?もちろん、こっちもお披露目するわ。

  • [2]山辺 未来

    2014/02/19-23:47 

    あ、初めまして! こちらこそ、よろしくお願いします!

    私ももちろん成功するのがいいけど、最低でも味はしっかりして欲しいかな。形とかは食べちゃえば気にならないけどさ。
    せっかくだから、共同で料理するところを見たりする?

  • [1]セリカ=カイエン

    2014/02/19-19:48 

    初めまして、セリカと言います。よろしくお願いします。

    別に彼じゃないんだけど……。まぁ、シキシマのエプロン姿や、失敗した様を見られるならいいか。
    もちろん、成功するに越したことはないけどね。


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