【バレンタイン】魅惑のチョコ☆フェスタ(巴めろ マスター)

プロローグ


●チョコレート・チョコレート
「チョコレートは好きか?」
突然の端的な問い。答えのないのに自分の説明不足を見て取るや、A.R.O.A.職員の男は続けて言葉を紡ぎ始めた。
「えっと、だなぁ。首都タブロスのある通りで、チョコレートフェスタという祭りがあってな。沢山の菓子店がチョコレート専門の露店を出して、その日は通り中がチョコレートの色と香りに染まるんだ。どの店も渾身のチョコレートを引っ提げて祭りに臨むからな。それはもう活気があるし、どのチョコレートも堪らなく美味しい」
心まで温まるオレンジ風味のホットチョコレートに、ふわりと洋酒の香るトリュフチョコレート。愛らしい動物を模った造形チョコレートや、とりどりのセミドライフルーツにホワイトチョコをコーティングした一品。しっとり濃厚チョコケーキに、チョコレート尽くしの贅沢プチパフェ、口の中でとろけて消える生チョコレート……。そのどれもが一品50ジェールで手に入るのだという。
「どのチョコレートも絶品に違いないが……今年一番注目されているのは、チョコレート専門店『フルール』の幸せを呼ぶボンボン・ショコラだな」
ボンボン・ショコラとは、中に詰めものをした一口サイズのチョコレートだ。『フルール』の『しあわせの欠片』は、様々なフレーバーをぎゅっと詰め込んだ形も色々のボンボン・ショコラ。全く同じものは一つとないというこだわりようで、その一つ一つに、幸せへの願いが込められているという。
「というわけで……改めて、チョコレートは好きか? ウィンクルムにも休息は必要だ。パートナーとの親睦を深めるためにも、一日限りのチョコレートの祭典、興味があるなら訪ねてみるといい」
そう言って、男は柔らかく目を細めた。

解説

●チョコレートフェスタについて
首都タブロスのとある通りで催される、年に一度のチョコレートの祭典。
簡単な飲食スペースも用意されていますので、座ってチョコレートを堪能することも可能です。
参加費は無料となっております。

●露店について
プロローグにあるようなチョコレートが揃っています。
どのチョコレートも一品50ジェール。
トリュフチョコ・フルーツチョコ・生チョコは1袋数個入り50ジェールです。
パートナーに、購入したチョコレートを渡すのを試みることも可能です。
購入したチョコレートのお持ち帰りはできません。予めご了承ください。

●『しあわせの欠片』について
チョコレート専門店『フルール』が提供する今年度最注目の一品。
こちらは一粒50ジェールとなっておりますのでご注意ください。
味や形、色などをプレイングでご指定いただけますと、可能な限りリザルトノベルに反映いたします。
プレイングに記載がない場合はこちらでチョコを選ばせていただきますので、避けてほしい味や形がある場合はプレイングにその旨記載願えますと幸いです。

●プレイングについて
行動を絞っていただくのが、描写が濃くなりおすすめです。
白紙プレイングや公序良俗に反するプレイングは描写いたしかねますのでご注意ください。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

この度は、甘―いチョコレートのお祭りをお届けです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

高原 晃司(アイン=ストレイフ)

  バレンタインって好きな奴に対してチョコを送るんだっけな?
まぁ、あいつにだったら普通にお世話になってます的な感謝の気持ちをこめてあげるっていうのもいいかもな

折角だししあわせの欠片を狙ってみるかな
俺とアインので2つだな
俺は多少甘い方が好きなんだがアインはビターな方がいいんかな?
あんまり甘いもの好きじゃなさそうだしな

買ったら折角だしビターの方はアインに上げたい
「なんつーか…日ごろから世話になってるからな…勘違いするなよ!バレンタインだからって訳じゃねぇからな!」

折角だから他のチョコも買ってまったりと座って食べたいな



初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
  チョコフェスタ、なあ
うちに置けそうな……俺でもできそうなやつでも探しに行くか

ほら、余所見してっと危ねえぞ……ん?
(イグニスの視線を追いかけて)
あのチョコ……しあわせの欠片だったか?
随分気にしてるな……
うーん、こいつもなんだかんだで根は悪い奴じゃないしな。よし。

イグニスが見てない隙にこっそり購入
じっくり味選んでる余裕はねえな、直感で選ぶか
……喜ぶかね、こんなおっさんから貰うとしても
まあいい、買っちまったんだから後は渡すだけだ

イグニス。
あー、何だ。その……
くそ、ガラじゃねえんだがなこういうのは!
(しあわせの欠片を差し出し)
ほら、これ。……ずっと気にしてただろ
まあ今後ともよろしくってことでな。



羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
  【目的と動機】
『幸せの欠片』をパートナーにプレゼントする。ウィンクルムとして共に頑張る意思を伝えたい

【行動】
事前に祭典の案内や地図を見て露店の場所を把握しておく
甘い物は好きだから、自然と頬が緩むなぁ
混雑時は他の人とぶつからないよう慌てずゆっくり歩くよ
『フルール』に到着したら相手の幸運を祈って「鳩」「四葉」モチーフの『幸せの欠片』を1つずつ購入しよう

後は飲食スペースに移動してチョコを渡そう
硬い挨拶にならないよう、なるべく笑顔を心がけて
「とても頼りに思っているし、俺自身も足を引っ張らないように頑張りたい」
「儀礼は済んだけれど、俺の口から直接言いたくて。これから宜しくお願いします、ラセルタさん」



深瀬 稲波(ムーラン・バトラ)
  心境:お祭りなので大はしゃぎ

行動:甘いお菓子は大好きなので、いろいろなお店をちょこまかしながら見て回ります。
そんな中で「ムーの好きなチョコはどれー?」と質問し
選んだチョコを買って、子供のような笑顔で
「ムーにあげるっ!!」と渡します
あとから「きょーは、大切な人にチョコ渡す日って聞いたから!ムーは大切な人だから、あげる!!」と付け加えます



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  チョコレートの祭典か
美味しい物は病みつきになるほど美味しいよね
人込みとチョコの誘惑を天秤にかけると
とても行く気は起きなかったけど…(タイガの顔をみて微笑)
どうしょうもないヤツ

「…たまにはいいか
って、こら!勝手に走るな!手持ちあるのかよ!
…まったく。そういえば猫にチョコは駄目だけど虎はいいのか…」
息を切らせながらタイガの後ろを
ふと
「もしかして噂の『しあわせの欠片』」
行列に並ぶとか大人しくまつとかあいつはできないよな…
四葉のクローバー型チョコ


「阿呆。どこいってた
…僕を神人にしておいて責任取れよ。ちゃんと近くにいろ」
軽くチョコの箱で叩く
「今日のお礼。僕一人じゃ外にも出れなかったし…他意はないからな」



●チョコレート色の幸せを
角を曲がり通りへ入れば、そこはもう目当ての祭典の会場だ。
数限りないチョコレートの露店、色とりどりのハートのバルーンの群れ、そして行き交う人々の笑顔。柔らかで幸せな空気が、通り中に満ち満ちている。

「うっわああああ! すっげ、甘いピンクの香りが溢れてら!」
通りに漂う甘い匂いを吸い込んで、火山 タイガは瞳をキラキラと輝かせた。
「美味しい物は、病みつきになるほど美味しいよね」
子供のようにはしゃぐタイガの隣で、セラフィム・ロイスはぽつりと呟きを漏らす。
そうは言うものの、チョコの誘惑と人混みの煩わしさを天秤にかければ、人の多い場所は避けたいという気持ちの方が勝つのがセラフィムだ。だけど――。
セラフィムは、未だ興奮冷めやらぬ様子のパートナーの横顔へとそっと視線を移した。そして、整った顔にふと微かな笑みを乗せる。
(ほんと、どうしようもないヤツ)
――でもまあ、偶にはこういうのもいいか。
零れた言葉は、祭りの賑やかしさに紛れて、消えた。
「よーっし! 行こうぜ、セラ!」
「うわっ!? ……こら、勝手に走るな! 手持ちあるのかよ!」
「平気へいきー! 今日のために小遣い持ってきたもんね!」
「……まったく」
すっかりお祭り気分のタイガに手を引かれて、セラフィムも彼と共に通りを走る。パートナーのペースについていきかねて息を乱しながら。けれど、その手を払うことはせずに。
「あーっ! 試食発見! あっちも! こっちも! ううう、どれから食べよう……!」
「落ち着け、タイガ。どれでもいい」
一人賑やかなタイガの相手をしつつ――ふとセラフィムは、行列のできているある露店に目を留めた。
その店の名は、『フルール』。
「『しあわせの欠片』……」
呟いたのは、その店自慢の、幸せを呼ぶというボンボン・ショコラの名前。
しかし、その声はタイガの耳には届いていなかったらしい。
「決めた! 最初は生チョコ! 美味そうだし、何より試食がある!」
「はいはい。分かったよ」
応えて、行列に並ぶとか大人しく待つなんてことこいつにはできないだろうなと、セラフィムはごく密かに苦笑する。
「これ下さーい! あっ、二人分ね!」
タイガが元気よく声をかければ、感じのいい店員が、楊枝に刺した生チョコを二人に差し出してくれた。二人はそれをそっと口に運ぶ。
「ん、うまあ……! これすげー! 口ですぐなくなった!」
「本当だ。……美味しい」
顔を輝かせるタイガの隣で、セラフィムも思わずそう呟いた。そんなセラフィムを見て、タイガが心底から嬉しそうに笑う。
「よっし、セラ! 次行こうぜ! 次!」
再び、タイガがセラフィムの手を握って走り出す。祭りはまだ、始まったばかりだ。

「うわー! ムーすごいよー! お祭りだよー!」
「そうですね、稲波。チョコレートの、良い香りがします」
本当だねぇと、深瀬 稲波はにっこりとする。稲波の無邪気な笑顔を見て、彼の相棒であるムーラン・バトラもそっと笑みを零した。
「わあ! ムー、見て見て! あのチョコ、動物さんの形だよー!」
甘いお菓子は、稲波の大好物だ。露店のチョコレートたちは、どれも稲波の興味を引いて仕方がない。ムーランが制止する間もなくてててと走り出し……けれど稲波は、ムーランが離れないよう声をかける前に、くるりと回れ右してパートナーのもとへと戻った。
そして、僅か驚いているムーランに向かってへにゃりと笑いかける。
「きょーはね、ムーと一緒に回るの!」
だからムー、はぐれちゃだめだよ? と小首を傾げる稲波。そんな稲波を見て、ムーランも柔らかく微笑む。
「はい。一緒に楽しみましょうね、稲波。はぐれないよう、気をつけて」
「うん! それじゃあ、しゅっぱーつ!」
元気よく宣言して、稲波は今度こそ露店に向かう。
まず目指すのは、動物を模った造形チョコが売りの店だ。犬に猫、兎といった愛らしい動物のチョコもあれば、ゾウやきりんのような動物園で会える生き物たちを模したチョコもあり、眺めているだけでも楽しい。
「まるでチョコレートの動物園ですね……」
「ねぇ。ムーはこのチョコ、好きー?」
「そうですね、面白いなぁと思います」
ムーランは笑顔で稲波の問いに答えたが、その返しは稲波の納得のいく答えとはちょっと違った。
稲波は少しの間黙って考え込み、けれどすぐに気を取り直して「じゃあ、次行こー!」と元気いっぱい、次の露店をちょこまかと目指す。稲波の姿が人波に消えそうになるのを見るや、ムーランは慌てて彼の後を追った。

「おい、千代。いつまでその冊子と睨めっこをしているつもりだ?」
「うーん。露店の数が多すぎて、なかなか目当ての店が見つからなくって。もう少しだけ時間を……」
会場の入り口付近、通行人の邪魔にならない所を選んで、羽瀬川 千代は無料パンフレットと静かに格闘していた。目当ての店『フルール』の位置は、人の多い通りに入る前に把握しておきたい。穏やかな顔に少しばかり難しい表情を浮かべ、健闘することしばし。千代は、『フルール』までの道筋を頭の中にインプットした。
「待たせてしまってごめんなさい、ラセルタさん。もう大丈夫なので」
「まったく、俺様の貴重な時間が浪費されてしまったではないか。ほら、もう待たんぞ」
上から目線で言い放ち、ラセルタ=ブラドッツは通りへと歩き出した。千代も慌ててその後に続く。
通りへと足を踏み入れれば、そこはもう別世界だ。とりどりのチョコレートと人々の笑顔を眺めていると、何だか嬉しくなってくる。
「ふふ。甘い物は好きだから、自然と頬が緩むなぁ。童心に返るような気がする」
「御託はいいから、さっさと行くぞ。『目当ての店』があるんだろう?」
言って歩き出したラセルタもそれでもどこか楽しげで、千代はそっと微笑んだ。そして、遅れないようにと彼の後を追う。けれども通りは随分と賑わっていて、人にぶつからないよう気をつけて歩いていると、ラセルタの背中は遠ざかっていくばかり。
人波に揉まれる千代の方を、ふとラセルタが振り返る。その青い瞳に千代のことを映すや否や、ラセルタは踵を返して千代のもとまで歩み寄り、ぐいとその手を掴んだ。
「ラセルタさん……?」
「年寄りは大人しく腕を引かれているがいい、俺様が直々にエスコートをしてやろう」
千代の手を引いて、ラセルタは再び歩き出す。
「『目当ての店』はどこだ? ちゃんと案内しろ」
「あ、えっと、通りの向こうの方の、右側に」
やがて二人は、その手は繋いだままに『フルール』へと辿り着く。
「流石に結構な行列だね……」
「おい。俺様はあそこの露店を見ているぞ。少し気になる物があった」
「あ、行ってらっしゃい、ラセルタさん」
人混みの中彼と離れるのが心細いような、けれど、ラセルタもまたこの祭りを楽しんでくれているのだということが嬉しくもあって、千代はその背中を、目を細めて見送った。
行列に並んで買い求めたのは、ホワイトチョコの白鳩とダークチョコの四つ葉。中にはそれぞれ、ナッツクリームとオレンジキャラメルが入っているらしい。
箱に詰めてもらった愛らしい『しあわせの欠片』を見やってふと笑みを零すと、千代はラセルタの待つ露店へと急いだ。

「ひゃー、すっげぇ!」
通りに入るなり、高原 晃司は思わずそう声を上げた。
通りは文字通りのお祭り騒ぎ。どこか非日常めいた賑やかしさや鼻孔をくすぐる甘い香が、今日という日の意味を晃司に囁きかけてくる。
(……バレンタインって、好きな奴に対してチョコを贈るんだっけな?)
晃司はそっと傍らに立つ大男――自分の相棒であるアイン=ストレイフを見上げる。
(まぁ、普通にお世話になってます的な感謝の気持ちを込めてプレゼントするっていうのもいいかもな)
アインは晃司の恩人でもある。
うんうんと晃司はひとり頷き、祭りの喧騒を、感情を窺わせない瞳で見やっている相棒へと声をかけた。
「じゃ、行こうぜアイン! 俺、食うもん買ってくるから、先に飲食スペースで席取っといてくれよ。混むだろうからさ」
晃司の提案を、アインは「分かりました」と簡単に了承する。
「じゃあ、また後で!」
アインと別れて、晃司は一人通りを歩く。配られていたチラシを受け取ってみれば、それは『フルール』の『しあわせの欠片』の宣伝だった。丁寧に、ちゃんと露店の位置まで載っている。
「折角だし、狙ってみるかな……」
『フルール』へと向かう間、さてどんなチョコを選ぼうかと晃司は楽しい思案にふける。
(俺とアインので二つだよな。俺は甘いの好きだけど、アインにはビターなのを選ぼうかな? あいつ、あんまり甘い物好きじゃなさそうだし)
あれこれと考えているうちに、目当ての露店へと辿り着く。晃司は行列に並んで、少しばかりドキドキしながら自分の順番が回ってくるのを待った。

「お前とでかけるのは初めてだな……。とりあえず、人混みだから迷子にならんように」
「わかりました!!」
「俺の目の届く範囲にいてくれよ?」
「勿論です!」
パートナーに満面の笑みでガッツポーズを決められて、初瀬=秀はため息を吐いた。もうすぐ祭りの通りへ入る。相棒のイグニス=アルデバランは、既に少々浮足立っているように秀には思われた。
「まあ……いい大人だから大丈夫だろうが、一応、な」
「はい! ばっちりです、秀様!」
毒気の一切ない笑顔でそう返事をされて、秀は思わず苦笑を漏らす。そして二人は、活気づいた通りへと足を踏み入れた。
「チョコレートの祭典、なあ。うちの店に置けそうな……俺でも作れそうなもんがあればいいんだが」
呟きに、イグニスは応えない。ふと隣を見れば、立ち並ぶ露店を見やって目を輝かせる相棒の横顔が目に入って、秀は再度苦笑いした。
「秀様! 見てください、あの美味しそうなチョコケーキ! あっちにはホットチョコレートも!」
最初の約束はどこへやら。早速露店へと走り出そうとするイグニスを、秀はその服をぐいと掴んで引き止めた。
「もう一度言うぞ。迷子にはならないように」
「あ……はい。すいません、秀様。気をつけます……」
「よし」
ぱっと手を離す。そして二人は、一緒に通りを歩き始めた。

●バレンタインの魔法
噴水の前で、セラフィムはタイガを待っていた。はしゃぎすぎたタイガが、セラフィムを置いて人混みに消えてしまったのだ。こんな時のために待ち合わせ場所を決めておいて本当によかったと、セラフィムは嘆息する。
しばらくして、タイガも噴水前へとやってきた。二人で祭りを回っていた時にはぴんと立っていた尻尾が、しおらしく垂れている。
「阿呆。どこ行ってた。……僕のパートナーなんだろ。ちゃんと近くにいろ」
言って、タイガの頭を手にした小箱でぽすんと叩く。
「すみません……」と叩かれた頭に手をやったタイガは、手に触れた小箱の感触に首を傾げる。
「……何だこれ?」
「今日のお礼。僕一人じゃ外にも出れなかったし……他意はないからな」
タイガから視線を逸らして、ぼそぼそと言葉を紡ぐセラフィム。
「! セラからの贈りもん!? うわあ……嬉しい!」
さっきまでしゅんと垂れていた尻尾が、もうぴょんと立っている。
「なっ! 食べてもいい?」
「……好きにしたら」
箱の中から現れたのは、萌黄色のクローバー。タイガのために密かに買い求められた『しあわせの欠片』は、抹茶チョコの中にとろけるガナッシュ入り。その味に、自然タイガの顔が綻んだ。
「ありがと、セラ。めちゃくちゃ美味しい! あ。お裾分け、いる?」
「馬鹿。思いっ切り食べかけだろ、それ」
悪態を吐きつつも、セラフィムの目元も和らいでいた。

巡った露店の数は、もう何軒を数えるだろうか。
甘酸っぱい香りに溢れる、フルーツチョコの露店にて、
「ムー、お姉さんがチョコくれるって! 嬉しいねー」
にこにこしながら、店員の女性から試食用の小さめフルーツチョコを受け取る稲波。口に放れば、白桃とホワイトチョコの上品な甘みが広がる。ムーランも、笑顔で差し出されたそれを礼を言って受け取り、口に運んだ。
「あ……美味しい」
ふと零れた呟きを拾って、稲波は、ぱああと顔を輝かせる。
「ムー、このチョコ好き?」
「あ、はい。好みですね。美味しいです」
「たくさんチョコ見たけど、ムーの好きなチョコはどれー?」
「そうですね……。このチョコレートが、一番でしょうか」
答えに、稲波は表情をとろけさせた。
「じゃあ、じゃあね、ムー。ちょっと、後ろ向いてて! こっち見たら、絶対にダメだよー?」
稲波の勢いに負けたのか、何も言わず稲波の言う通りにするムーラン。背中に稲波と店員の女性のひそひそ声を受けながら、ムーランは稲波から「いいよ」の声がかかるのを待っていた。
「ムー、もういいよー!」
振り返るパートナーに、リボンのかかったフルーツチョコの小袋を、子どものようにあどけない笑顔で差し出す稲波。
「ムーにあげるっ!!」
ムーランは突然の贈り物に驚いたように目を見開いて……けれど次の瞬間には、柔らかく目を細めた。口元に、綻ぶような笑みが浮かぶ。
「稲波……ありがとうございます」
「えっとね。きょーは、大切な人にチョコ渡す日って聞いたから! ムーは大切な人だから、あげる!!」
付け足した言葉が、どうか彼の胸に届くよう。
「――嬉しいです、本当に。……何だか食べてしまうのが、勿体ないような」
小さな袋を宝物のように腕に抱いて、ムーランははにかむようにそっと笑みを深くした。

「うむ。まあ美味いな」
飲食スペースの白いベンチに腰掛けて、ラセルタは満足げに笑んだ。その手には、千代に買ってもらったチョコ尽くしの贅沢パフェ。
パフェを堪能するラセルタの隣に座って、千代はチョコをラセルタに渡すタイミングを計っていた。
(……緊張、するなぁ)
硬い挨拶にはしたくない。笑顔で、共に頑張る意思を伝えたい。
そんなことを思っていると、いつの間にかパフェを食べ終えたラセルタが、じぃっと千代の顔を覗き込んでいた。
「難しい顔をしているな。腹でも痛いのか?」
「えっ? その、そういうわけでは……」
「では、疲れたか? 年寄りには少々ハードなスケジュールだったかもしれんな。俺様は寛大だから、そろそろ帰ってやってもいいぞ」
立ち上がりかけるラセルタの服の裾を、千代は思わず掴んでいた。
「あの! 渡したい物が、あって……」
差し出すのは、彼の幸運を願って選んだ二粒のチョコと、揺るがぬ決意。
「俺はラセルタさんのことをとても頼りに思っているし、俺自身も足を引っ張らないように頑張りたい」
紡ぐ言葉は、彼の心に届くだろうか。
「儀礼は済んだけれど、俺の口から直接言いたくて。これから宜しくお願いします、ラセルタさん」
笑顔で、渡すべき言葉を渡し切る。
ラセルタはその顔にふっと不敵な笑みを浮かべると、
「まあ、貰い受けてやってもいいだろう。このチョコも、お前の覚悟も」
あくまで不遜な態度で、千代の手から『しあわせの欠片』を受け取った。

晃司は白いテーブル席やベンチの用意された飲食スペースに、アインの姿を探した。背の高いアインを見つけるのはそう難しい仕事ではない。
「あ! 見っけ!」
アインは、ベンチで晃司のことを待っていた。晃司を視界に捉えるや、自分の隣をぽんぽんと叩き、そこへ腰かけるようにと促す。晃司は素直にそれに従った。
「すいません。テーブル席は随分と混んでいたもので」
「いや、全然いいって。ありがとな、アイン」
応えながら、晃司はここへ向かう途中買い求めたトリュフチョコの袋を開ける。
「これ、一袋に結構入ってるんだぜ。なんかお買い得な気がしないか?」
言って、晃司はトリュフチョコを口へ運んだ。洋酒の香りがふわりと漂う。
「ん、美味い。ほら、アインも食えよ」
勧めれば、アインもチョコを手に取り口に含む。表情は変えぬままに、「美味いですね」という簡単な感想が零された。
「そっか、よかった。あー。ええっと、それから……」
晃司はアインの分の『しあわせの欠片』の小箱を、彼に向かって差し出した。選んだのは、ダークチョコでできた小さな銃。中に詰まっているのは、甘酸っぱいベリーのジャムだという。
「なんつーか……日頃から世話になってるからな。か、勘違いするなよ! バレンタインだからってわけじゃねぇからな!」
アインが、僅かに目を見開く。そしてアインは、小箱へと手を伸ばした。
「……ありがとうございます。いただいておきます」
呟くその表情からは、感情の色は窺えない。それでも、自分の感謝の気持ちを受け取ってもらえたことが、晃司には嬉しかった。
「それ、最後に食ってくれな! 一番美味い気がするから、とっとくの推奨!」
念を押せば、「はい」とアインが短く応える。晃司も勿論、自分用に買った『しあわせの欠片』を最後まで取っておくつもりだ。ミルクチョコの星には、蜂蜜ガナッシュが詰まっているのだとか。
「食べ終わったら、一緒に祭り、見て回ろうぜ。折角だからさ」
「はい。付き合いますよ」
今度は二人で、のんびりと、ゆっくりと。
きっと通りの景色は、先ほどとはまた違ったふうに映るだろう。

秀とイグニスの二人は、チョコと甘い幸福に満ちた通りをゆっくりと行く。自らが営む喫茶店で出せるような品はないかとアンテナを張りつつも、秀は同時に、危なっかしい相棒の動向にも気を配っていた。
イグニスが、また何かに気を取られる。
「ほら、余所見してっと危ねえぞ……ん?」
イグニスの様子が先ほどまでとはちょっとばかり違うように思えて、秀は彼の視線の先を追う。その露店では色とりどりのボンボン・ショコラを取り扱っていて、『フルール』と記された可愛らしい看板が出ていた。
(あのチョコ……『しあわせの欠片』だったか? 随分気にしてるな……)
そんなことを考えながら、秀はイグニスへと視線を移す。何かと放っておけない男ではあるが、根は悪い奴じゃない、自分の相棒。
(……よし)
イグニスに分からないように、秀はそっと笑んだ。そして、傍らの青年に声をかける。
「ほら、楽しいのはわかるがあんまりきょろきょろするなって。余所見しないでちゃんと俺を守ってくれよ、騎士様?」
冗談めかして笑い混じりに声をかければ、イグニスは『騎士様』という言葉に目を輝かせて。
「なあ、騎士様。ずーっと向こうの方に、トリュフチョコの試食があったろ。あれ、食べたくなったんだがなあ」
「わかりました! 貰ってきます!!」
素直に答えて、イグニスは人波に消えていく。戻ってくるまでは、しばし時間があるだろう。
「……それじゃ、騎士様のいない間に、と」
急ぎ、秀は『フルール』前の行列へと並んだ。時間のせいか幸いにも人は少なく、思ったよりも早く自分の番が回ってくる。
迷っている暇はないからと、秀は直感でチョコを選んだ。
宝石を模ったルビー色のチョコ。中には柑橘のコンポートが詰まっているそうだ。
「……喜ぶかね、こんなおっさんから貰うとしても」
しかし、買ってしまったからには後は渡すだけだ。
間もなく、イグニスが戻ってきた。秀ご所望の楊枝に刺さったトリュフチョコを、とても大事な物のように持って。
「秀様! トリュフチョコです!」
元気に言うイグニスの息は、それでも少し上がっている。悪いことをしたかなと、秀は顎を撫でた。
「おー、ありがとさん、イグニス。それで……あー、何だ、その……。くそ、ガラじゃねえんだがなこういうのは!」
照れ臭さに視線を逸らしながら、差し出したるは『しあわせの欠片』の小箱。
「へ? あの、これ……秀様?」
「ずっと気にしてただろ、これ。こんなおっさんからのチョコで悪いが……今後ともよろしくってことで。……受け取ってくれるか?」
ちらとイグニスの反応を窺えば、その顔は、今日一番と言っていいほどに輝いていた。
「秀様、嬉しいです! めちゃくちゃ嬉しい! 宝物にします!!」
「いや、食ってくれ。食べもんだから」
突っ込みは入れつつも、予想以上の反応に秀も自然笑顔になる。

その日、バレンタインの幸せな魔法が、通り中に溢れていた。




依頼結果:大成功
MVP

名前:高原 晃司
呼び名:晃司
  名前:アイン=ストレイフ
呼び名:アイン

 


名前:初瀬=秀
呼び名:主様/秀様
  名前:イグニス=アルデバラン
呼び名:イグニス/イグ

 


名前:羽瀬川 千代
呼び名:千代
  名前:ラセルタ=ブラドッツ
呼び名:ラセルタさん

 


名前:深瀬 稲波
呼び名:稲波
  名前:ムーラン・バトラ
呼び名:ムー

 


名前:セラフィム・ロイス
呼び名:セラ
  名前:火山 タイガ
呼び名:タイガ

 

エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月16日
出発日 02月24日 00:00
納品日 03月06日

 

参加者

会議室

  • [3]初瀬=秀

    2014/02/23-17:06 

    初めましてか。初瀬秀ってしがねえオッサンだ。
    これでも飲食系の仕事やってるからな……人ごみ覚悟で終日参加でもするか
    会場で会ったら宜しくな、うちのパートナーが迷子になってたらどっか繋いでおいてくれ。
    んじゃ、いい祭りになるといいな。

  • [2]羽瀬川 千代

    2014/02/21-01:54 

    初めまして、俺は羽瀬川 千代といいます。宜しくお願いしますね?
    確かに大分人が出るみたいだから、昼過ぎくらいに行こうかなと思ってます。
    今年一番の注目の品が、目の前で売り切れたりしたら悲しいからね……。
    せっかくのお祭り、皆にとって良い一日になりますように。

  • [1]セラフィム・ロイス

    2014/02/19-03:47 

    はじめまして、当日会えばよろしく
    チョコレートの祭典か…人出が気になるな
    うちの馬鹿が迷子にならないよう見張るつもりだけどせっかくだし楽しめたらと思うよ


PAGE TOP