『伝説の英雄達と、ギルティの記憶』

リザルトノベル【男性側】堕騎士討伐部隊

堕騎士討伐部隊

メンバー一覧

神人:萌葱
精霊:蘇芳
神人:天宮・水生
精霊:コンラート
神人:歩隆 翠雨
精霊:王生 那音
神人:暁 千尋
精霊:ジルヴェール・シフォン
神人:ラティオ・ウィーウェレ
精霊:ノクス
神人:柳 恭樹
精霊:ハーランド

リザルトノベル

「では、行ってくる」
 最後に交わした言葉を、繰り返し思い出している。

『行ってらっしゃい。……無事に戻ってきて下さいね』

 愛しい人の泣き笑いのその顔に、絶対に守ると、戻ってくると誓った。
 倒れそうな時は、その笑顔を思い出し、己を奮い立たせた。
 何度でも立ち上がり、そうして守り切ったのだ。この国を。

 誇らしかった。
 幸せだった。
 これで、お前の元に戻れると、そう信じていた。
 それなのに──。

「どういう事ですか!? 何故、我らが宝具に魂を封じられるなど……!」

 『英雄だからだ』と、彼らは言った。
 永久にバレンタイン地方を護るために、必要な契約なのだと。
 逆らう事は許されなかった。
 封印を受け入れない事は、王への、国への反逆となる。
 反逆者に未来はない。勿論、その家族も。

 ──国を救いたかった。
 けれどそれは、愛する家族が居て、家族と幸せになりたかったからだ。
 こんな結末を望んだ訳ではない……!

 騎士であるこの身は、国に捧げたもの。
 一度は騎士として、受け入れようと思った。
 運命なのだと、誰かがその役割を果たさねばならないのだと。

 しかし、魂を開放され、王子達に助力を求められた時、何かが壊れた。

 永い、永い時が流れて、愛した者達が消えた世界で、何故再び戦わねばならないのか。
 戦ってそれで?
 また封じられて、輪廻転生の輪から外され、孤独の闇に沈むのか。

 ──否。断じて否。

 そう強く思った時、憤怒が身を焦がした。
 二人の騎士の全身を覆う鎧が、黒く染まる。湧き上がる怒りのまま、黒く、黒く、黒く──。

「この世界のすべてが憎い……!!」

 騎士二人は咆哮した。


 萌葱は、『懐中電灯「マグナライト」』をしっかり腕に巻き付け、墓場『エスポワール・グレイヴ』の中央に立つ黒い二人の騎士──エルミック・グランツとゼークス・ソルドレットを見た。
 肌を刺す殺気が、彼らからは立ち上っている。
「正気に戻れば元に戻るかも」
 小さく天宮・水生が呟いた。
 それは、この場に居るウィンクルム達が一様に抱く希望だった。
 彼らの境遇を思えば、その恨みも怒りも十分に理解出来る。出来る事ならば、戦いたくはない。
「説得しようぜ。俺達で止めよう」
 歩隆 翠雨がそう言えば、ラティオ・ウィーウェレが頷く。
「言葉を届けてみよう」
「そうですね。騎士の心を取り戻してくれれば……」
 暁 千尋も一つ頷いて、辺りを注意深く見渡した。
 硬い綿菓子で舗装された墓地には、十字の形の墓標と、その隣に様々な形状の武器が刺さっている──墓地に眠る騎士達の愛用していた武器と聞いていた。
「来るぞ」
 柳 恭樹が短く言う。
 ガチャリと鎧を鳴らして、二人の騎士がウィンクルム達に近付いて来ていた。

『根源に還る』
 蘇芳の腕を引いて、萌葱はその頬に口づけた。

『我らに力を』
 腰を折るコンラートに、天宮・水生は背伸びして唇を寄せた。

『Fortes fortuna juvat』
 翠雨の目線での訴えに、王生 那音は身を寄せ、翠雨はその彼の頬にキスを送る。

『アレルヤ』
 微笑みを湛えるジルヴェール・シフォンに、千尋はまだ少し慣れない様子で身を寄せる。

『加護ぞあれ』
 ノクスが身を屈めると、ラティオは彼の頬に唇を落とした。

『地を払う』
 蜂蜜色の瞳を細めるようにして、恭樹はハーランドの頬に唇を滑らせる。

 触神の言霊を響かせ光に包まれたウィンクルム達は、二人の騎士に向かい合った。
 戦いの口火を切ったのは、ゼークス。
「はああっ……!」
 突進という言葉そのままに、鎧を着ているとは思えないスピードで一直線にサーベルを突き出してくる。
 ノクスは、即座に『アーマードマスター』を発動し防御力を上げると、『セイクリッドアイアース』を構え前に出た。
 ガキンッ!
 サーベルを大型盾が受け止め、火花が散る。
 その威力にノクスは舌を巻いた。盾ごと、後ろに押される。
「ふっ……!」
 ラティオの『片手剣「トランスソード」』が、ノクスの後ろからゼークスのサーベルの手元を狙い振り下ろされた。
 舌打ちと共にゼークスがサーベルを引く。
 そこへ、詠唱を終えたジルヴェールの魔法が発動した。
 『祝福の桜』から光が迸り、ゼークスとウィンクルム達の間に、光の壁が出現する。
 構わずサーベルを振ったゼークスに、光の壁からスパークが生じた。堪らずゼークスは一歩下がる。
「愛する者と引き裂かれるのは辛かったでしょうね」
 そんなゼークスを見つめ、ジルヴェールは口を開いた。
 ギロリと、鉄兜の奥──昏く染まり表情も顔貌も今は伺いしれないが、瞳がこちらを向いた事をジルヴェールは感じる。
「でも逆恨みは良くないわ」
「逆恨み、だと?」
 ゼークスの声が低くなった。
「ええ、これが逆恨みと言わず、何というの?」
 ジルヴェールは穏やかに騎士を見つめる。
「貴方の家族も、貴方のことは誇りに思っていたでしょう。その気持ちをこれ以上無下にしないでほしいわ」
 ギリッとゼークスはサーベルを強く握り締めた。
「知ったような口を……!」
「ゼークス、一旦下がれ!」
 ゼークスの背後で、エルミックが右手を上げた。
「皆、避けろ!」
 恭樹が叫ぶのと同時、墓標の隣に刺さっていた様々な武器が一斉に宙に浮かぶ。武器はくるりと回転し、矛先をウィンクルム達に向けた。
 そして、弾丸のように発射される。
 真っ直ぐ向かってきたものはジルヴェールの天の川の壁に弾かれるが、壁を避けた無数の武器達が雨のように降ってくる。
 目を凝らし武器の着地地点を予想して、恭樹はステップを踏むようにして避けた。
 コンラートは『クレイモア「血の約束」』で、武器達を叩き落とす。
 千尋も『片手剣「トランスソード」』を振るって、降り注ぐ武器を弾いていく。
 ハーランドは、武器の向きで軌道を判断し避けながら、エルミックを見遣った。
 武器のコントロールに集中している時が、攻撃の好機。
 移動しながら、ハーランドの指が『HS・ガゼル22口径オートマチック』の引き金を引いた。
 死角からの銃撃は、エルミックを正確に捉え──。
 キンッ!
 鈍い音と共に、銃弾は中型の盾に当たった。
 ゼークスがエルミックの前に出て防いだのだ。
「この二人、引き剥がさないとな……」
「ああ、こちらに引き付けよう」
 翠雨の呟きに、那音は『バックラー「ノクターン」』を構え直した。
「頼んだ!」
 翠雨の手が那音の頭に伸ばされ、少し乱暴に撫でる。
 自身のオーラが濃くなったのを感じながら、那音は声を張った。
「さあ、来るがいい!」
 ロイヤルナイトの言霊は、相手を自分に引き付ける力がある。
 狙いはゼークス。那音の狙い通り、彼はこちらに体を向けた。
「援護しよう」
 ノクスが『フォトンサークル』を形成する。円形の聖域は、那音の防御力を上げた。
「はああ!」
 駆け込み振り上げてきたゼークスのサーベルを、那音の盾が受ける。
 その様子を見て、エルミックが右手を上げた。援護する気だ。
「させないよ!」
 そこへ、萌葱の『鉱弓「クリアレイン」』が眩い輝きを放った。腕に巻き付けたマグナライトの光で威力を増した光がエルミックの視界を奪う。
 エルミックの動きが止まった瞬間を、恭樹は見逃さなかった。
 一気にエルミックの懐に飛び込み、分厚い鎧の関節の隙間に『短剣「コネクトハーツ」』を突き入れる。
「ぐっ……!」
 くぐもった声を上げたエルミックは恭樹を睨み、振り払おうと強烈な蹴りを放つ。
「……ッ!」
 腹に蹴りを喰らい、恭樹は地面を転がった。
「恭樹!」
 背後からハーランドが恭樹の体を受け止める。
「……何故、何故我らの復讐の邪魔をするのだ……!」
 エルミックの体から怒気を含んだ黒いオーラが立ち上った。
 鎧兜の奥で、瞳が赤く燃えている。
「堕ちた身を、家族に誇れるのか!」
 憎悪に染まる騎士を見据え、ハーランドに支えられた恭樹が叫んだ。
「……家族は……もう居ない! 何処にも居ないんだ!」
 那音の盾にサーベルを押し当てながら、ゼークスが叫び返す。
「誰も居ない! もう誰も……!」
「くっ……」
 押される那音の手に、翠雨がその手を重ねた。
「そうか……辛いよな」
 ゼークスの目をみて、翠雨は言葉を紡いだ。
「大切なものを守りたくて努力した結果、己は望むものを与えられない。それはどんなに悔しい事か」
 想像も付かない苦痛を想像し、瞳を揺らす。
「けど、それで闇落ちしちゃ、本当に駄目だろ」
 翠雨は首を振った。
「これまでの自分全部を否定する行為だ」
 ゼークスが息を飲んだ気配がした。
「ゼークス、耳を貸すな!」
「恨む気持ちは分かるけどさ!」
 ゼークスに声を掛けようとするエルミックに、萌葱が吼える。
「今生きてる人を苦しめて、ギルティに手を貸して……騎士の矜持はどこに行ったのさ!
 ……単に八つ当たりじゃないか」
 最後は悲し気に、萌葱は肩を震わせた。
「この国を、場所を、守りたかったんじゃないのか?」
 コンラートがゆっくりと問い掛ける。
「怒りに我を忘れて、壊す方に回るのが貴方たちの意思か」
 エルミックの手がぶるぶると震えた。
 ゼークスもまた、サーベルを振り下ろす事を忘れたかのように動きを止めている。
「誇りある英雄の名と栄誉、こんな形で汚すなんて勿体ないですよ」
 千尋が穏やかに言葉を紡いだ。
「どうか、国を救うと誓った騎士の心を思い出してください」
「……誇り……誇りなど……」
「誇りを貫いた結果、我らは……!」
 揺らいでる心を現すように、騎士二人を覆うオーラが不安定にゆらゆら揺れる。
「……魂だけになってまで 守ってほしいというのは虫がいいと思う」
 水生はぐっと拳を握り、騎士達を見つめた。
「でも、ギルティにはならないで。
 大切な人に、本当に会えなくなってしまうよ」
 切実な声だった。
 沈黙が落ちる。
 張り詰めた空気を破ったのは、ラティオだった。
「封印が解かれない事が、平和の証だろう?
 平和だから必要とされず、永い時が過ぎ去った。
 けれど、今は必要とされている。なのにだ、君たちはこれでいいのかい?」
 ラティオは騎士達へ左手を差し伸べた。
「捨てた誇りなら、僕達が拾おう。
 僕はともかく、僕の仲間は強いからね。引き継ぐよ」
「我は決めたことは覆さん。……此処に在るは、既にこやつを護ると決めた故よ」
 ラティオの隣に立ち、ノクスが言い切る。
「手を貸してくれとは言わない」
 蘇芳は萌葱と共に、二人の騎士の前へ歩み寄った。
「今を生きる俺達が何とかしないといけないから」
 決意を込めた真摯な眼差しで、見る。
「ただ、オーガやギルティの助力になる事だけは止めてくれないか?」
 ──お願いします。
 深く深く頭を下げる。
 再び沈黙が落ちた。

「……ははっ……」
 乾いた声が、上がる。
 その時、ウィンクルム達は見た。二人の騎士を覆っていた黒いオーラが、消えていくのを。
 エルミックが肩を揺らして笑う。
「我々の、負け、だな……」
「そうですね……」
 ゼークスは小さく頷いた。
「じゃあ……」
 萌葱が瞳を瞬かせると、二人の騎士は首を縦に振った。
「恨みが消えた訳ではない。怒りはまだこの胸の中にある。しかし……我らは、この国の騎士だ」
「不思議です。先ほどまで心を支配していた重いものが、晴れた気がしています」

 二人は空を見上げる。

 永い永い時が流れて、国も人も変わった。
 それでも、見上げる空はあの頃と同じ。
 守りたいと願った空と何ら変わらないのだ。その事に、どうして今気付いたのだろう。

「ありがとう」
 萌葱は微笑んだ。彼らに今伝える言葉は、これが一番ふさわしいと思った。
「ありがとうございます」
 蘇芳も一礼した。
「……よかった……本当によかった」
 水生は心から呟く。
「頑張ったね」
 コンラートは、水生の髪をそっと撫でた。
「めでたしめでたし、だな。本当に良かった!」
「……そうだな」
 明るく笑う翠雨に、那音は微かに口元を緩める。
「騎士の心、見せて貰えたわね」
「はい、先生」
 微笑みを浮かべるジルヴェールに、千尋は緊張を解いて息を吐き出した。
「騎士の誇り、引き継ぐ必要はなかったみたいだ」
「引き継いでもよかろう。共に誇りを持てば良い」
 肩を竦めるラティオに、ノクスは朗らかに笑った。
「恭樹、傷は痛むか?」
 覚束ない足取りの恭樹の腰を支え、ハーランドが尋ねる。
「痛いといえば痛いが……今は、それ以外の気持ちの方が大きいかもな」
 恭樹は口の端を上げた。
 騎士二人の黒かった鎧は、今は白銀の輝きを取り戻している。
 その輝きは、眩しく美しいと思った。
「あ」
 恭樹が瞬きするのに、ハーランドは同じ方向を見た。
 ふわりと、小さな光が次々と舞い上がっている。
「蛍?」
 水生も気付いて手を伸ばす。
「綺麗ねぇ」
 ジルヴェールが瞳を細めた。
 それは、墓地に刺さる武器達の放つ光。
 淡い光が蛍の光のように浮かび上がっている。
 穏やかに優しい光は、二人の騎士が元に戻った事を祝福しているようだった。
 騎士二人も、ウィンクルム達に倣うように光に触れる。
 温かな光は彼らの心に染み入るようで、ぽたりと透明な滴が頬を伝い、地面を濡らしたのだった。


(執筆GM:雪花菜 凛 GM)


戦闘判定:大成功
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