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フェスティバルイベント

『瘴気に染まりし氷塔の浄化作戦』

リザルトページ


リザルトノベル【女性側】キャンドル・グランツ でデート!

チーム一覧

神人:星宮・あきの
精霊:レオ・ユリシーズ
神人:一色 真黒
精霊:華彩 輝
神人:アラノア
精霊:ガルヴァン・ヴァールンガルド
神人:出石 香奈
精霊:レムレース・エーヴィヒカイト
神人:ファルファッラ
精霊:レオナルド・グリム
神人:シエル・アンジェローラン
精霊:ヴァン・アーカム
神人:クロス
精霊:ディオス
神人:水田 茉莉花
精霊:八月一日 智
神人:日向 悠夜
精霊:降矢 弓弦
神人:フィーリア・セオフィラス
精霊:ジュスト・レヴィン
神人:アンジェリカ・リリーホワイト
精霊:真神
神人:アデリア・ルーツ
精霊:シギ
神人:ミヤ・カルディナ
精霊:ユウキ・アヤト
神人:高垣加蓮
精霊:神田奈緒
神人:ニーナ・ルアルディ
精霊:グレン・カーヴェル
神人:時杜 一花
精霊:ヒンメル・リカード
神人:マーベリィ・ハートベル
精霊:ユリシアン・クロスタッド

リザルトノベル

 色とりどりのキャンドルの炎が、ゆらゆらと温かな光を放っている。
 オレンジ色の照明は控えめに、ホールの中は薄暗く、それによりキャンドルの明かりが一層華やかに宝石のように輝いて見えた。

 グラスに映るキャンドルの炎に瞳を細めてから、星宮・あきのはそのグラスを軽く持ち上げる。
「レオ君、この間はお疲れ様」
「わ、あきのさんこそお疲れ様」
 レオ・ユリシーズは面映ゆそうに夜空のような青藍の瞳を細めて、あきのが差し出してきたグラスに己のグラスを重ねた。
 カチンと澄んだ音が響く。
「やっぱりレオ君がいると心強いよ」
 あきのが真っ直ぐ瞳を見て言い切れば、レオはアクアマリンのような澄んだ水色に浮かぶ信頼に、照れた様子で瞼を伏せる。
「あきのさんがいたから頑張れたんだよ」
 そう言って、レオは上着のポケットに手を入れた。
 かさりと紙の感触を確認して、レオはあらためてあきのを見つめ返す。
 彼女の濃い金の髪が、ホール内の幻想的な照明でいつも以上に煌めいて見えた。
 線の細い身体を今日はパーティ用のドレスが包んでいて……華奢な輪郭がとても女性らしく、目のやり場に少し困ってしまう。
 レオは彼女に気取られないように小さく深呼吸して、唇を開いた。
「あきのさんに、これを……」
 レオが差し出した手紙に、あきのは大きく瞬きした。
「私に?」
 手紙を手に取り、あきのは丁寧に封を開いた。

『希望を、有難う』

 レオの字で丁寧に書かれた言葉。
 手紙から顔を上げてレオを見れば、彼の頬は薄暗い中でも赤く染まっているのが分かった。
「……あきのさんは、私の希望なんだ」
 ゆっくりとレオが言う。
「だから、契約を受けてくれて、嬉しかった」
「……希望、か。レオ君は、そう言ってくれるんだね」
 あきのは手紙を胸に抱いた。
「頑張らないとね。劇団の皆の為に……レオ君の為に」
 微笑むあきのに、レオは更に胸が熱くなるのを感じる。
「……り、料理美味しいね!」
 咄嗟にテーブルを指差せば、あきのはきょとんと首を傾げてから、
「そうだね、特にサーモンのポワレが絶品だな」
 にっこりと笑って、大事に手紙を懐に仕舞うと、厚切りのサーモンを皿に取る。
「レオ君もどう?」
 差し出された皿を、レオは有難うと微笑み受け取った。


 料理のテーブルの中に、一際目立つものがある。
 ツリー型のチョコとチーズの噴水だ。
 一色 真黒は、興味深く滝のように流れるチーズとチョコレートを見比べる。
 串に刺された苺をチョコの滝に潜らせ、一口食べると甘酸っぱい美味しさが口の中に広がった。
「美味しいです。次はチーズを試してみましょう」
「チーズならバゲットが定番だな」
 華彩 輝は、更に並べられている具材を見て悩む真黒にそう声を掛け、彼女の全身を包む地味な黒いドレスにそっと小さな溜息を吐く。
 今日くらいはもっと華やかなドレスを着てみたらいいのに……という、輝の主張はあっけなく彼女に拒否された。
 せめてと押し付けた黒真珠のネックレスを、彼女が着けてくれたのが救いと思うべきか。
「皆さんのおかげでなんとかなりましたね」
 チーズをたっぷり付けたバゲットを、もぐもぐ口にしながら真黒が口を開く。
「あとは瘴気ですか……」
「そうだな」
 一緒にバゲットを口に運びながらそう返事をして、レオははたと止まった。
「……って、俺に感謝の言葉は無いのか?」
 見下ろせば、真黒の黒曜石色の瞳が真っ直ぐに見返す。
「輝、何かしましたっけ?」
「ぐっ……」
 どすんと胸に矢を射られたような衝撃を受け、輝は唸った。
「た、確かに名を残すような活躍はなかったが……」
 ぐぬぬと眉を寄せる輝に、真黒はほんの僅か口の端を緩める。
「……冗談です。
 一応、感謝、しています」
 囁くような声で口早に言うと、真黒は無造作に封筒を彼の胸元に押し付けた。
「……何か言ったか?」
 聞き返そうとして、輝は押し付けられた手紙に目を丸くする。
「っと、おい」
 慌ててキャッチすれば、真黒はふいと背中を向けた。
「バゲットが無くなったので、取ってきます」
 すたすたと遠ざかる小さな体に、輝は頬を掻いた。
「……なんなんだ?」
 手紙を慎重に開くと、そこには真黒が書いたであろうメッセージが一言。

『助けてくれてありがとう』

「まったく……」
 彼女の濡羽色の黒い髪を見つめ、輝は口元に笑みを刻んだのであった。


 テーブルの上に、氷の鳥のように美しい形のアイスクリームのケーキがある。
「食べるのが少し勿体ない気がするね」
 アラノアは見事な造形に溜息を吐いた。
「ああ、しかし食べないのはもっと勿体ないだろうな」
 穏やかなガルヴァン・ヴァールンガルドの声に、職人らしい彼の気持ちが伝わってきて、アラノアはそっと微笑む。
「切り分けるね」
 ナイフで翼の部分に触れながら、ふとアラノアは先日の光景を思い出した。
 氷の結晶の翼を広げた神人と、彼女に付き従うマキナの姿。
 『愛』を口にし、ウィンクルム達に対峙したその姿。
「はい、ガルヴァンさん」
「有難う」
 二人で並んで、氷の翼をスプーンで掬い口に運んだ。
「冷たくて美味しいね」
「甘すぎず上品な味だ」
 暫くその味を堪能してから、アラノアがぽつりと呟く。
「……あの二人は、歪んだ方向に意見が合っちゃったから、余計に拗れた」
 ガルヴァンは小さく瞬きして、アラノアの横顔を見下ろした。どうやら彼女も己と同じ事を考えていたらしい。
 ガルヴァンも、先日の戦闘で相見えた二人の顔が頭から離れなかったのだ。
「そうだな……」
 頷いて、ガルヴァンは揺れるキャンドルの炎を見た。
「……俺の母さんは神人ではない」
 アラノアははっとしてガルヴァンの顔を見上げる。
「だが父さんと出会い深く愛し合い俺が生まれた。それが普通だと思っていた」
 己の手を見下ろし、ガルヴァンは一つ息を吐く。
「ガルヴァンさん……」
 アラノアは、ポケットから一通の手紙を取り出した。
 そっと差し出されたそれに、ガルヴァンは目を見開く。

『盲目の亀が大海を彷徨う流木と出会うように
 三千年に一度だけ咲く花を見つけるように
 私と出会ってくれてありがとう』

 綴られたメッセージに、ガルヴァンは深く息を吐き出した。
「……ああ。この奇跡と言える出会いに感謝を」
 二人は見つめ合う。
 ガルヴァンがゆっくりとアラノアの前に跪き、その左手を手に取った。

「盲亀の浮木」
「優曇華の花」

 それは二人だけの触神の言霊。
 ガルヴァンの唇が、アラノアの手の甲の文様に口付けた。


 出石 香奈はとても腹を立てていた。
「作戦は成功したけど……あのレイジって奴、気に入らないわ!」
 薄暗いホール内は、とてもロマンチックな雰囲気で、あんな事がなければレムレースとゆっくり楽しめるのに──。
 美しくアップに結い上げた髪、大きく開いた胸元に背中──ドレスアップした香奈の姿は輝くように美しいが、その表情は不機嫌そのものだった。
「気持ちは分かるが、言いたい奴には言わせておけばいい」
 同じく礼装姿のレムレース・エーヴィヒカイトは、穏やかに香奈に語り掛ける。
「折角、皆さんが好意で用意してくれたパーティだ。今は楽しもう」
「……そうね。レムの言う通りだわ」
 香奈は眉を下げて微笑む。
「それでもどうしても腹が立っちゃって……まあいいわ、今はパーティーを楽しみましょう」
 彼女が頷いたのに、レムレースは瞳を細めた。香奈は不機嫌な顔より、穏やかに笑ってくれる方がいい。
「それよりこれを受け取ってほしい」
 レムレースが胸元から取り出した白い封筒に、香奈は瞬きした。
「これって……」
「俺の気持ちを綴ってみた。香奈に読んで欲しい」
 レムの気持ち──香奈は高鳴る胸を押さえて、そっと白い封筒を開く。

『香奈こそ俺の天命、出会えたことに最大の感謝を』

 几帳面な字で丁寧に綴られた文字に、香奈の胸は早鐘を打った。
「あたしがレムの天命……」
 呟いて、香奈はふふっと笑みを零す。
「なんだか不思議」
 香奈は大事に手紙を胸に抱くようにして、レムを見上げた。
「さっきまであんなにムカついてたのに、レムのこの手紙のおかげで……全部吹っ飛んじゃった」
 頬を染めてこちらを見つめる香奈は、本当に可愛くて綺麗で……レムレースは抱き締めたいと思う。
 しかしここは公共の場。
 緩む表情をなるべく引き締めて香奈に微笑む。
「いけ好かない男のことで腹を立てるより、俺の傍でそうやって笑っていてくれ」
「……うん、そうする」
 手紙を胸に抱いたまま、香奈はレムレースの胸元に額を押し付けた。
 レムレースが慌てふためく気配がしたが、今はこうしていたかった。


「レオ、見て! 美味しいものが沢山!」
 ファルファッラは軽い足取りで、色とりどりの食べ物が並ぶテーブルを見て回った。
 色んな具材の乗った色鮮やかなカナッペは、一口サイズでとても食べやすいし、ピザ、タコス、何故かたこ焼きといった親しみやすいメニューも、出来立てで美味しそうだ。
「デザートはあるかしら!?」
 きょろきょろするファルファッラの髪を、大きな手が撫でる。
「甘い物ばっか食べないで、野菜や肉も食べろよ」
 レオナルド・グリムは、カクテルグラスに盛りつけられたサラダを差し出す。
「わあ、綺麗ね……!」
 見た目もお洒落なサラダに、ファルファッラは瞳を輝かせてそれを受け取った。
「せっかくの機会だあじわっておけ」
「そうね、いただきます」
 ファルファッラはコクンと頷いて、サラダを口に運ぶ。新鮮な野菜に和風のドレッシングがとても食べやすい。
「それ食べたら、デザートを見に行くか。あちら側がデザートエリアみたいだぞ」
「うん、行くわ!」
 暫く美味しそうにそれを食べて、不意にファルファッラが視線を落とした。
「ん?」
 レオナルドが訝し気に顔を覗き込めば、ぽつりと彼女は呟く。
「私、役に立ててるかな……空回りしてるばかりで」
 ここに居てもいいのだろうか?と、ファルファッラの紫水晶のような瞳が揺れた。
「レオには迷惑かけっぱなしだし……」
 いつも以上に小さく見えるファルファッラに、レオナルドは思わず目を見開く。
「レオ、いつもありがとう」
 真っ直ぐに見て来るファルファッラの瞳。
「なんだかんだで甘やかしてくれるレオが好きだよ」
 レオナルドは大きく瞬きしてから笑った。
「……お前から感謝を告げられるとはな」
 ──甘やかしてる自覚はある。
 レオは再び手を伸ばして、ファルファッラの頭を撫でた。
「お前はちょっとぐらいお転婆な方がいい」
 きょとんとファルファッラがこちらを見上げて来る。
「そんなお前が俺は気にいってる」
 レオナルドがそう微笑めば、ファルファッラの顔にもゆっくりと笑顔が広がったのだった。


 キャンドルの明かりに照らされるテーブルには、所狭しと料理が並んでいる。
 料理人が切り分けているローストビーフを眺めて、シエル・アンジェローランは瞬きした。
「どれも美味しそうで目移りしちゃいますね」
 隣に立つヴァン・アーカムを見上げれば、彼は給仕から飲み物を受け取っている。
「ほら、シエル」
 どうやらシエルの分も貰ってくれたらしい。
「ありがとうございます、ヴァンさん」
 シエルはグラスを受け取って、その美しい橙色を眺めて微笑んだ。
 一口飲んでみれば、甘くフレッシュなオレンジの味が広がる。
「ヴァンさんは何を飲んでいるんですか?」
「俺はワインだ」
 きっぱり言ってヴァンは笑った。
「打ち上げみたいなもんだろう。ぱーっとたのしもうじゃねぇか」
「そうですね。折角の機会ですし……」
 頷いて、シエルは改めて周囲を見渡した。目移しするくらい、豊富でバラエティーに富んだラインナップに、どれを食べようか迷ってしまう。
「ヴァンさんはどんなお料理が好きですか?」
「俺は……肉一択だな!」
 白い歯を見せてヴァンは言い切る。
「じゃあ……あの、私達にもください!」
 シエルは、料理人からローストビーフを二人分切り分けて貰った。
「ヴァンさん、どうぞ」
「サンキュ」
 二人でローストビーフを口に運べば、柔らかくジューシーな旨みに頬が緩む。
「美味しいですね……!」
「やっぱ肉だな!」
 おかわりをするヴァンにシエルは微笑んで、今ならば……と、手紙を彼に差し出した。
「ん?」
「あの、お礼を伝えたくて……」
 頬を染めるシエルに、ヴァンは首を傾けながら手紙を開く。

『一緒に戦ってくださってありがとうございました。
 これからもよろしくお願いしますね。私、頑張ります。』

(改まって礼を言われると恥ずかしいもんだな)
 ヴァンは頬を掻いてから、恥ずかしそうに俯くシエルの頭にぽんと手を乗せる。
「シエルもよく頑張ったと思うぜ。戦闘なんかとは縁のない人間だったんだ。よく頑張った」
「ヴァンさん……」
 温かな手に、シエルは胸がじわじわと熱くなるのを感じた。
「さ、食うぞ」
「はい!」


 薄暗いホールに立ち、ディオスは隣に立つクロスを見つめた。
 柔らかな控えめな照明の中でも、クロスは凛と美しい。ドレスアップした彼女の姿を、他の誰かに見せたくないと思うくらいに。
「クロ、先日の任務お疲れ様だ」
 改めてそう口に出すと、クロスは穏やかな笑顔を見せた。
「ディオもお疲れ様」
「ミラス、助ける事が出来て良かったな」
 微笑んでそう言えば、クロスが深く頷く。
「本当良かったよ」
 元気そうなセナとミラスの姿に、クロスは本当に喜んでいた。そしてそれは、ここに居ないもう一人のクロスのパートナー、オルクスも一緒で──。
「ルク兄さんも来れれば良かったが……」
 瞳を曇らせるディオスに、クロスは眉を下げる。
「仕方が無いさ、オルクは上役と会議だからな」
 そしてクロスは、ふふっと悪戯っぽく笑った。
「てか、普段も兄さんって呼べば良いのに……」
「!?」
 思わず肩を跳ね上げ、ディオスは小さく咳き込んでから、遠い目をする。
「……その内な」
 そんなディオスの様子に、クロスはクスクスと楽しそうに笑っていた。
 こほんと咳払いしてから、ディオスは真剣な眼差しでクロスを見る。
「──クロ、俺とルクの二人を選び愛してくれて、有難う」
 真っ直ぐにこちらを覗き込むディオスの瞳に、クロスは大きく瞬きした。
「俺は幸せ者だ……」
 そう告げれば、ゆっくりと満面の微笑みを浮かべるクロスに、ディオスの胸は痛い程に高鳴った。
「──あぁ良かった」
 ほぅとクロスは息を吐き出す。頬を染めて、潤んだ瞳でディオスを見上げた。
「俺のこの選択は間違って無かったんだな……」
「クロ……」
 愛しさが胸を突き上げて、ディオスは掠れる声で名前を呼ぶ。
「クロ、愛してる……」
「俺も愛してるぞ」
 見つめ合い、二人の唇がそれが自然とばかりに重なり合った。
 一瞬の触れ合うキスは、周囲に気付かれない程自然で、二人は顔を離すとクスッと笑う。
「取り敢えず、飲んで食べるか」
「そうしよう」
 ディオスとクロスは手を繋いで、テーブルへと歩いて行った。


「腹へったー!料理喰うぞオラァ!!」
 そう叫んだ八月一日 智に、水田 茉莉花は一つ溜息を吐き出した。
(……はぁ……やっぱりこんなことだろうと思った)
 周囲を照らすのは、キャンドルの幻想的な炎と控えめな照明のみ。薄暗いホールにはクラシック音楽が流れていたりして、ゆったりとした時間が流れている。
 テーブルにはまるで宮廷料理のような、見た目にも華やかな料理達。
 微笑み合い談笑するウィンクルム達の中には、何処かしっとりとした大人な雰囲気を醸し出している人達だっている。
(ほづみさんと一緒だと、ロマンチックなことは求めても難しいのは判ってるけど……そのままズバリも何と言うか)
 折角の良い雰囲気なのだから、少しくらい……恨めし気に茉莉花が智の後ろ頭を眺めていると、急に彼が振り返って来た。
「みずたまり、こっち!」
 目当ての料理を見つけたのか、ぐいと手を引かれる。
「ちょ、ちょっとほづみさん……!」
 強引に引っ張られるようにして、茉莉花は一つのテーブルに辿り着いた。
 鶏肉の薬膳スープ粥と、パクチーの薬膳おじや。はちみつのピクルスに、豆乳スープ。杏仁豆腐、そして養生茶──所せましと並ぶ料理に茉莉花は目を見開く。
「え、あれっ?……これ、薬膳料理のコース?」
 智の顔を見れば、彼は小さく頷いた。
「ん。みずたまりさ、前に会社の取材で薬膳に興味持ったって言ってたじゃね」
 茉莉花は思い出す。確かにそう答えた。その時の会話を、智が覚えていた事に驚く。
「だったら、この機会にお願いしとこって思ってさ」
 智はニッと笑って薬膳料理達を示した。
「疲れた体も癒せるぜ、な」
 そう首を傾けられれば、茉莉花はこくりと頷く。驚き過ぎて言葉が出ないとは正にこの事だ。
「それと……」
 無造作に智が手紙の封筒を差し出してきたのに、茉莉花は大きく瞬きする。
「この封筒は……」
「手紙。みずたまりに」
 強引に握らされ、茉莉花は恐る恐る封筒を開く。

『いつも朝飯サンキューな、美味いぞ』

 彼らしい字と言葉。
(……まったくもう……)
 不意打ち過ぎる。
 茉莉花は智を睨むように見つめてから、笑った。
「今日はたくさん食べなきゃね」
「だな!」


 給仕から、珍しいお茶『碁石茶』を受け取って、日向 悠夜は降矢 弓弦と乾杯した。
「お疲れさま、弓弦さん」
「お疲れ様、悠夜さん」
 チンと澄んだ音色を響かせ乾杯すると、早速お茶を口に運ぶ。
「うん、まろやかで美味しい」
「僕も初めて飲んだけど……思ってたよりずっと飲みやすいね。紅茶に似てる」
 弓弦は瞳を細めて、黄金色のお茶を見つめた。
「碁石茶は発酵茶なんだ。一次発酵の後に、更に自然発酵させる事で乳酸菌がとても多く含まれているらしいよ。乾燥させる時は四角い形をしているのだけれど、四角の角が取れると碁石のように見えるから『碁石茶』って名前になったという説もある」
「へぇ……面白くて体に良いお茶なんだね」
 悠夜は頷きながら、碁石茶の独特の風味を味わう。それから、テーブルの上のカナッペを食べた。
「うん、マッシュポテトの口どけが最高で美味しいな。弓弦さんもどう?」
「頂いてみよう」
「あ、こっちのキッシュも美味しい。美味しいご飯は嬉しいねぇ」
 笑顔で料理を口に運ぶ悠夜の横顔を見て、弓弦は口の端を緩めた。
「ちょっとずつ好きなだけ食べれるのも素敵……弓弦さん、和食頼もっか?」
 余り手が動いてない様子の弓弦に、悠夜はそう声を掛けてから彼の表情にきょとんとする。
「ん?どうして笑ってるの?」
「ふふ、なんでもないよ」
 弓弦はお茶を一口飲んで、にっこり微笑んだ。
「そうだね、少しあっさりしたものを頼もうか」
「うん、そうしよう」
 悠夜が給仕に声を掛ければ、直ぐに和食の載ったプレートが二人の下へ届けられた。
 新鮮な魚の刺身を味わってから、弓弦は一息つく悠夜に、懐から取り出した手紙を差し出す。
「え? これって……」
「うん、悠夜さんに」
 照れ臭そうに笑う弓弦に、悠夜は高鳴る鼓動を感じつつ、そっと手紙を開いた。

『君が隣にいるから、僕は強くなれるんだ。何時もありがとう。』

 その言葉を目で追って、悠夜は照れた様子で笑顔を見せる。
「……私も、同じ気持ちだよ」
 弓弦の顔が赤くなるのに、悠夜は更に笑みを深めた。


 フレンチ中心ではあるが、無国籍に並ぶ料理達は、どれも鮮やかな盛り付けで、眺めているだけでも飽きない。
 給仕達が運ぶドリンクも、様々な酒やソフトドリンク、お茶やミネラルウォーターまで、ウィンクルム達の為に色んなものが用意されているようだった。
「……ジュストは、お料理、何が好き……?」
 フィーリア・セオフィラスは、隣で辺りを見渡すジュスト・レヴィンに尋ねる。
「料理? 特に好き嫌いは無いな」
 そう言いながら、ジュストは手を挙げて、やって来た給仕からグラスを二つ受け取った。
「はい、紅茶」
「あ、ありがとう、ございます……」
 フィーリアが紅茶に口を付けるのを確認して、ジュストは皿を手に取る。
 そして、フィーリアが好きそうな食べ物を、皿に盛り始めた。
 フィーリアはその様子を見ながら、ジュストが好きな料理は取り分けているものなのだろうとさりげなくチェックする。
 しかし、彼は料理の乗った皿をフィーリアに差し出してきた。
「折角だから、沢山食べた方がいい」
「え、え? ジュストの分、じゃないの……?」
 オロオロと皿と己を見るフィーリアに、ジュストは皿を押し付ける。
「いいから。リアの為に取り分けたんだ」
「あ、ありが、とう……ございます……」
 ゆっくりと料理を口に運ぶフィーリアを満足そうに見てから、ジュストは今度は自分の分を皿に取り分けて食べ始めた。
 暫くゆっくり食事を味わって、食後にもう一杯紅茶を飲んで──フィーリアはジュストの横顔を見上げる。
(これ、渡さないと……)
 大事に仕舞っていた封筒を取り出すと、思い切って彼へ差し出した。
「……僕に?」
 瞬きする彼に頷く。
「……えっと、その、……感謝、しなくちゃ、いけない、ことは……、いっぱい、だけど……。一言、なら……、……その……」
 顔を赤くさせる彼女と、開いた手紙を交互に見て、ジュストは僅かに口の端を上げた。

『パートナーでいてくれて、ありがとう』

「……どういたしまして。こちらこそ、これからもよろしく」
 フィーリアがゆっくりと嬉しそうに微笑んだのに、ジュストは瞳を細めたのだった。


「和食が食べたい」
 真神の言葉に、アンジェリカ・リリーホワイトは即座に周囲を見渡した。
 色んな料理があって、アンジェリカにはどれが和食なのか判断に迷ってしまう。
「たぶろす近郊は、我の舌に合う飯屋がなくての」
 真神はふるふると首を振ってから、一つのテーブルに狙いを定めた。
「あんじぇ、あちらに見事な手まり寿司がある。行ってみよう」
「は、はい! 雪さま」
 二人は色彩豊かな寿司と刺身が揃ったテーブルへやって来た。
 色とりどりの海鮮が乗った手まり寿司が、宝石のようにキラキラ輝いている。
「美味であるとよいが」
「いただき、ます」
 真神は慣れた様子で、アンジェリカは見慣れない料理に戸惑いながら、寿司を口に運んだ。
「うむ、これは美味だ」
 真神が一つ頷けば、アンジェリカはごくんと飲み込んで瞳を輝かせる。
「雪さま、すごく、おいしい……です」
「あんじぇ、次は刺身にしよう。これもきっと美味いぞ。こうして醤油とわさびで食べるのだ」
 真神が手本を見せ、アンジェリカはそれを真似して食べた。
「! ツーンと、きました、雪さま……」
「それが良いだろう?」
 そうして二人は、思う存分、寿司と刺身を味わった。
 食後のお茶を楽しむ真神に、アンジェリカは手紙を手に向かい合う。
「え、えと……雪さま、お渡ししたい、ものが……」
「なんだ、あんじぇ。手紙?」
「は、はい」
 真神はアンジェリカから手紙を受け取り、その場で開封した。
(え、ここで読むのですか?)
 アンジェリカの頬に朱が差す。

『選んでくれて、ありがとうございました』

 そう書かれた手紙に目を通して、真神はアンジェリカの目を見た。
「我に言いたいことは、直接言うが良いぞ」
「え、えと……」
 耳まで真っ赤になったアンジェリカに、真神は笑ってその髪に触れる。
「汝を選んだのは、気まぐれも強いが……我が良いと思ったから選んだまでだ」
「雪さま……」
 目を見開くアンジェリカを安心させるように、優しい手が何度もアンジェリカの髪を撫でたのだった。


「はい、シギくん」
 当たり前のように差し出された手紙を見て、シギは目を丸くした。
 目の前のアデリア・ルーツは、にこにこと笑顔でこちらを真っ直ぐに見ている。
「……? 何だ」
 取り敢えず手紙を受け取ると、アデリアはもう……と、腰に手を当てて軽く唇を尖らせた。
「事前に説明があったでしょ? どっちかから感謝の手紙を贈るって」
「……あー……」
 そんな事もあったかもしれないが、半分話を聞き流していたシギは全くもって覚えていなかった。
(……感謝か)
 ゆっくりと封筒から手紙を取り出して開く。
 中にはアデリアらしい手書きの文字が元気よく綴られていた。

『いつもありがとう。これからもよろしくね!』

「そこにも書いたけど『いつもありがとう。これからもよろしくね!』」
 顔を上げれば、アデリアがにっこりと微笑んだ。
 シギは、むずむずとした感触に襲われる。
 アデリアに礼をされるようなことをした覚えがない。が、礼を言われて悪い気はしない。
 居心地の悪さと、居心地の良さがミックスされたような、変な感覚。
「どうしたの? シギくんは、これからよろしくしてくれないの?」
 ずいと身を乗り出してくるアデリアに、シギはうっと言葉に詰まって、それから小さく首を振る。
「……いや……そうじゃない。……よろしく」
「うん!」
 呟くようなシギの返事に、アデリアは満足そうに笑った。
「それ渡したら料理を楽しみましょ?」
「渡す?」
 思わぬ言葉が出て来て、シギは瞬きする。
「手紙は、『スノーウッドの森』にある『メリーツリー』に飾り付けられるって説明があったでしょ? 回収されるの」
 それも全く覚えていない話であった。シギは受け取ったばかりの手紙を見つめる。
「さ、早く早く」
 急かすアデリアに、シギはもう一度手紙と彼女を交互に見る。
「料理が目当てだろ」
 溜息を吐きながら、シギは彼女の後に続いた。


 シックな紺色のワンピース。そして、大人っぽく髪をアップにしているその姿を見て、ユウキ・アヤトは咄嗟に胸を押さえた。
 ドキドキと己の心臓が早鐘を打つのを感じる。
 薄暗い照明のせいもあるが、何処か影のある大人な表情の彼女は、いつもと少し違って見えた。
 アヤトは己の姿を見下ろす。
 薄茶色のスーツには、何処にもおかしな所はない筈だ。
 一つ頷いて、アヤトは彼女に歩み寄る。
「ケガはもう良いのかよ」
 問い掛けに、ミヤ・カルディナはゆっくりと振り向いた。
「もう大丈夫よ」
 ふわりと嬉しそうに笑うミヤに、アヤトはそうかとどきまぎと視線を逸らす。
「手紙は用意したのか?」
 ミヤの手元のバッグに視線を向ければ、彼女はええと頷いて封筒を取り出した。
「アヤトは?」
「ああ、俺も用意はした。『メリーツリー』に飾り付けられるのはどっちか片方だけだけど……」
 懐から封筒を取り出したアヤトは、ミヤの手元の封筒をじっと見る。
「なんて書いた?」
「じゃあ同時に見せあいましょうか」
 ミヤが差し出した手紙をアヤトが受け取り、アヤトの手紙がミヤに渡った。
「「せーの……」」
 二人同時に封筒を開く。

『世界に祝福を。
 アヤトが怪我をしませんように。』

 丁寧に綴られた文字に、アヤトは瞬きして、目元をうっすら赤く染めた。

『未来はある。俺達が作る』

 力強いアヤトの文字に、ミヤは瞳を細める。俺達という言葉が擽ったい。

「ミヤ……」
 アヤトに名前を呼ばれれば、ミヤは急に恥ずかしさが込み上げた。
「当然でしょ。パートナー……なんだから。
 これからも、2人で頑張るんだから……」
 耳まで赤く染まる彼女の顔に、アヤトもまた首まで熱くなるのを感じる。
「お、おう。俺は頑丈だからな」
 こくこく頷いて、アヤトはそっとミヤの頭に手を伸ばした。
「……ったく、真っ直ぐすぎて仕方ねぇ女だ」
 ぽふぽふと撫でれば、ミヤがクスッと笑った。


 薄暗い会場の中、テーブルの上の料理達が輝いて見える。
「すげーな! 一緒に食べようぜ!」
 神田奈緒は瞳をキラキラさせ、高垣加蓮を振り返った。
 加蓮は小動物のような仕草でこちらを見る奈緒に、ふっと息を吐き出す。
「人とごはん食べるの、好きじゃないけどいいよ」
 そっけない返事だったが、奈緒は嬉しそうに頷いた。
「おーありがとな!食べよ食べよ!」
 加蓮の手を引っ張って、奈緒は宝石のように煌めくゼリーとアイスクリームが並ぶテーブルに向かう。
「加蓮の分も取ってやるよ。うわーこのゼリー無茶苦茶弾力があるぜ!」
 わくわくとナイフを手に取り、奈緒は花の形のゼリーを切り分けて、アイスをトッピングし加蓮へ皿を差し出した。
「……ありがと」
 加蓮は小さな声で礼を言うと、スプーンで花びらのようなゼリーを掬って口に運ぶ。
 しゅわっと口の中で弾ける感覚と、甘すぎない美味しさが広がった。
「この青いゼリーって、ソーダのゼリーみてぇだな! しゅわっと来た、しゅわっと!」
 楽しそうに感想を言う奈緒に、加蓮はそうねと小さく頷く。
「そうだ加蓮」
 暫く色んな種類のゼリーを少しづつ分けて食べていたが、不意に奈緒が口を開いた。
「なんで、ライブやらなかったんだよ?」
 ぴたっとスプーンを持つ加蓮の手が止まる。
「やりたかったんじゃないのか?」
(本当は歌、歌ってみたかったけどあたしなんかじゃダメだから……)
 加蓮はふいっと奈緒から視線を逸らした。
「あたしなんかじゃダメだから……」
「お前なぁ、やらなきゃわからないだろ?」
「わかるから言ってるんだけど?」
 奈緒の言葉に、加蓮の声音の温度が下がる。
「努力とか馬鹿みたい」
「……でも、俺は加蓮ならきっと歌えるって思う」
「……うるさいな、どうせ努力したって無駄でしょ」
 これ以上この話題には応えない。そんな様子で視線を逸らす加蓮に、奈緒は懐から手紙を取り出し押し付けた。
「?何……」
「手紙、書けって言われてただろ?」
 加蓮は恐る恐る手紙を開いてみる。
 そこには、奈緒らしい力強い文字が綴られていた。

『いつもありがとう! 今度はがんばって出ような!!』

 ──馬鹿みたい。
 加蓮は奈緒の存在から逃げるように、瞼を閉じたのだった。


「すっごく美味しそうですよーっ!」
 ニーナ・ルアルディが、軽い足取りで料理の並んだテーブルへ向かうのに、グレン・カーヴェルは口の端を僅かに上げた。
(こういう場所はどうにも苦手なんだがな……)
 窮屈なスーツの首元を緩めながら、キラキラした目で料理を眺めるニーナを見つめる。
(まあこいつが楽しそうにしてるからいいか)
「グレン、このパイ、すっごく綺麗です!」
 ニーナがグレンに示すのは、スズキのパイ包み。
 その名の通り、スズキをパイで包んだ一品なのだが、このパイの出来が素晴らしかった。
 スズキの鱗をパイで完璧に表現しており、その細かい仕事に溜息が出る。
「ああ、凄く凝ってるな」
 グレンが頷くのに、ニーナはじっとパイを見つめた。
(頑張れば家でも作れるでしょうか……)
 その真剣な横顔に、グレンは彼女に気付かれないように笑みを零す。
(隙あり、だな)
 彼女のドレスの背中のリボンに、用意してきた手紙をそっと挟んだ。
 面と向かって渡すのは、どうにも気恥ずかしいので、隙を見て忍ばせようと考えていたが、こんなに早く好機が来るとは思わなかった。
 暫くパイと睨めっこして、その味も堪能したニーナは、
「甘いものもないか探してきますね!」
 そう言って、スイーツの並ぶテーブルへ歩いていく。
(さて、何時気付くかね)
 グレンは悪戯っ子の笑みで、ニーナの後ろ姿を見守った。
「ありました。一口サイズのケーキ、可愛いです♪」
 色とりどりのケーキにほっこりしたニーナは、そこで違和感に気付く。
 どうにも背中の部分に何か挟まっているような?
 えいえいと手を伸ばして、触れたそれを引っ張ると──。
「手紙?」
 ニーナは首を傾げながらもそれを開いた。そして──。
「グレン!あの!これ!」
 真っ赤な顔で戻って来たニーナを、グレンは面白そうに見た。
 彼女が広げて見せる手紙には、一言。

『そばにいてくれてありがとう』

「これ、グレンの字じゃ?」
「字が似てる? 気のせいだろ」
 ニーナの問いかけに、グレンはしれっと返す。
「気のせいじゃないですっ、これグレンの字じゃないですかーっ!」
「気のせいだって」
 じたばたと小動物のようにくるくる表情を変えるニーナに、グレンは明るく笑った。


(場違いだったりしないかしら……)
 時杜 一花は、落ち着かない様子で辺りを見渡している。
 そんな彼女をヒンメル・リカードは横目に見つつ、ドリンクの乗った盆を持つ給仕が歩いてくるのに手を挙げた。
「一花さんは、コーヒーでいい?」
「え?……ええ、コーヒーで……」
「それじゃ、コーヒーを二つ」
 温かいコーヒーカップを受け取って、はいとヒンメルが差し出せば、一花は少し震える手でそれを受け取る。
 そのカップもとても高級品に見えた。
 香り立つコーヒーの香も、普段の缶コーヒーとは違って感じる。
「これ美味しいよ」
 トマトとチーズの乗ったカナッペを、ヒンメルが勧めてくれば、一花は慎重な手つきでカナッペを口に運んだ。
 緊張し過ぎのせいか、ほとんど味がしない。
「そんな気負わなくても、美味しいもの食べにきたくらいの調子で大丈夫だよ」
 穏やかな声に、一花は隣のヒンメルを見る。
 彼は涼やかな笑顔で、カナッペを口に入れた。
「トマトが瑞々しくて美味しい」
「……」
 もう一度深呼吸して、一花はカナッペを食べてみる。
「……あ、美味しい……」
 今度は味がして、思わずヒンメルの顔を見れば、彼はうんと頷いた。
(ヒンメルさん、私を気遣ってくれたんだ……)
 一花はほんのり温かくなった胸を押さえる。
 それから、真っ直ぐに彼の顔を見た。
「どうかした? 一花さん」
「……あの、ありがとうございます……ヒンメルさん」
 微笑んでお礼を言い、頬が熱くなるのを感じながら、一花は彼に手紙を差し出した。
「これは?」
「お手紙、です。私からヒンメルさんに……感謝を……」
 段々と小さくなる一花の声に笑みを浮かべ、ヒンメルは手紙を受け取る。
 丁寧に手紙を開けば、彼女らしい文字が綴られていた。

『いつもありがとう』

「ありがとう、一花さん」
 手紙から顔を上げたヒンメルは、にっこり微笑んだ。
「よければ、これからも、仲良く……」
 耳まで赤くなりながら、更に声を小さくする一花に、ヒンメルは勿論と頷く。
「うん、よろしく」
 その答えに、一花も嬉しそうに微笑んだ。


 マーベリィ・ハートベルは、目の前に差し出された手紙に目を丸くした。
 彼女の手に手紙を握らせたのは、ユリシアン・クロスタッド──マーベリィのパートナーにして、メイドとして仕える主だ。
 マーベリィは瞬きしてから、ゆっくりとその手紙を開いた。

『君と君の紅茶に日々癒されているよ。ありがとう』

 ゆっくりその意味を咀嚼してから、マーベリィはユリシアンを見上げる。
 彼女の表情には喜びの笑みが広がっていた。
「私は、おそばでお仕えさせて頂けるだけで幸せです」
 マーベリィの言葉に、ユリシアンも満面の笑みを見せる。
「それなんだけど……年末は君に暇を出そうと思うんだ」
「え」
 マーベリィのピンと立った一本の髪がぴょこんと揺れる。
「ずっと帰ってないだろう?」
「そ、それはそうですが……」
「今回の件でご両親も心配しているだろう。帰郷して顔を見せてやるといい」
 穏やかに言うユリシアンに、マーベリィはぎゅっとスカートを握った。
「ですがその間、ユリアン様は……」
 ──ユリシアンに不自由をさせるなんて、絶対に駄目だ。
 縋るように彼を見れば、ユリシアンは実に嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「おっと言い忘れた。僕も同行するよ」
「え?」
 マーベリィは大きく瞬きした。
「君のご両親に挨拶したいからね」
「挨拶……は、はい?」
 一体どういう事なのか?
 頭の周囲に?マークを乱舞させるマーベリィに、ユリシアンは悪戯っぽく笑う。
「挨拶は挨拶だよ。それとも、僕が一緒だと駄目なのかい?」
「い、いえ、決してそのようなことは……」
 ぶんぶんと大きく首を振る姿も、マーベリィは本当に愛らしい。
「──じゃあ、決まりだ。さて、今日は今日で、パーティを楽しもうじゃないか」
 ユリシアンはぐいとマーベリィの手を引いた。
「君は何が食べたい?」
「わ、私はユリアン様のお食べになりたいものであれば……なんでも……」
 おろおろと焦るマーベリィに、ユリシアンは瞳を細める。
「今日は君の好きなものが食べたい」
 マーベリィは返事に困りながらも、何かの予感が胸に広がるのを感じていた。


 この日、ウィンクルム達が綴った感謝の手紙は、『スノーウッドの森』にある『メリーツリー』に飾り付けられ、込められた愛の力で『メリーツリー』に力を与えたのだった。

(執筆GM:雪花菜 凛 GM)

戦闘判定:大成功

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