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フェスティバルイベント

『瘴気に染まりし氷塔の浄化作戦』

リザルトページ


リザルトノベル【女性側】アピアチューレ・ホール でデート!

チーム一覧

神人:綺羅星 卯月
精霊:蒼井 凛
神人:明石・灯代
精霊:前花・瑞樹
神人:かのん
精霊:朽葉
神人:シャルル・アンデルセン
精霊:ツェラツェル・リヒト
神人:向坂 咲裟
精霊:カルラス・エスクリヴァ
神人:リヴィエラ
精霊:ロジェ
神人:シルキア・スー
精霊:クラウス
神人:アイリス・ケリー
精霊:ラルク・ラエビガータ
神人:リチェルカーレ
精霊:シリウス
神人:真衣
精霊:ベルンハルト
神人:井垣 スミ
精霊:雨池颯太
神人:七草・シエテ・イルゴ
精霊:翡翠・フェイツィ

リザルトノベル

 純白の大理石と琥珀が、スポットライトに煌びやかに輝く。
 アピアチューレ・ホールは、熱気に包まれていた。
 一万人程度が収容できる観客席は、ケミカルライトを手にした人々で超満員状態。
 今か今かと、ステージに登場するウィンクルム達を待ち侘びている。


 鮮やかな青い花のリストレットコサージュにそっと触れてから、リチェルカーレはシリウスを見上げた。
「やっぱり、シリウスも一緒に……」
 その誘いにシリウスはゆっくりと首を横に振る。
 己に芸術系の才能がない事を知っている彼は、リチェルカーレ達の足を引っ張るよりも、裏方役を選んだ。その腕にはステージスタッフを示す腕章。シリウスは荷物運びや設営を手伝っているのだ。
 リチェルカーレの碧の瞳が頼りなさげに揺れるのを見て、縋る様な眼差しにシリウスは苦い笑みで口元を緩める。
「……ひとりじゃないだろう」
 そのシリウスの言葉と同時、リストレットコサージュに触れる小さな指。
 視線を向ければ、真衣の笑顔と目が合った。
 真衣の手にはお揃いの青い花が揺れている。その手を挙げて、真衣はピースサインをした。
「大丈夫」
 にっこり太陽のような温かい声と笑みに、リチェルカーレも釣られるように笑顔を返す。
「シリウス」
 青い花のコサージュを胸に付けたベルンハルトが、シリウスに歩み寄った。
 その手に同じ青い花があるのに瞬きすれば、ベルンハルトは当然のようにシリウスの胸元にそれを飾る。
「ステージに上がらなくても、これは一緒に」
「……そうだな」
 コサージュに触れてシリウスは僅かに口元を上げた。
「そろそろ出番のようだ」
 係員の呼ぶ声に、ベルンハルトは真衣を見た。
「うん! じゃあ、みんなが楽しくなるように、がんばろうね!」
 真衣は拳を握って、一度大きく上に突き上げるようにしてぴょんと飛ぶ。
「ええ、がんばりましょう」
 リチェルカーレが拳を握って応えれば、シリウスの手が優しくリチェルカーレの背中を押した。
「……見てるから」
 リチェルカーレははにかむように微笑んで、真衣とベルンハルトと共に、ステージへと向かっていく。
 シリウスはその背中を見送って、舞台袖から眩いステージを見つめた。
 ステージの中央まで歩いていくと、大きく温かな拍手が、真衣とベルンハルト、リチェルカーレを包む。
 三人で目線で頷き合い、一緒に深々とお辞儀をすれば、拍手は更に大きくなった。
 まるでその拍手の音に合わせるように、リチェルカーレの胸は早鐘を打つ──会場を埋め尽くす人々の視線が、すべてステージ上の三人を見ているのだ。
 拍手の余韻に包まれる中、真衣がグランドピアノの椅子に座る。ベルンハルトは、ヘルマンハープという小型のハープが立てられたスタンドの前の椅子に腰掛けた。
 リチェルカーレは震える手を胸の前で組む。
 真衣の指が鍵盤を叩くと、明るく元気なリズムを刻み始めた。
(みんなが楽しくなるように、私も楽しく弾くの)
 真衣の心を表すように、ピアノは朗々と響く。
(真衣は慣れだろうな。あまり緊張してないらしい)
 真っ直ぐで気持ち良い音に口元に笑みを刻んで、ベルンハルトの柔らかなハープの音色が真衣の音に寄り添う。
 リチェルカーレの瞳が、一瞬舞台袖のシリウスを見て、それから彼女は大きく深呼吸した。シリウスが見てくれている──それは、何より勇気を与えてくれる。
 優しい声が、歌を紡ぎ出した。
 三人が奏でるのは、皆が良く知るクリスマスソング。
 真衣の元気なピアノの音は観客に笑顔を運び、それを支えるハープの優しい音色が観客達を癒した。
 明るく伸びやかに響くリチェルカーレの歌に、人々は聴き惚れる。
 真衣とリチェルカーレは視線合わせて、にっこり笑い合った。
「「皆さんもご一緒に!」」
 二人の呼び掛けに観客達から歓声が上がる。
 クリスマスソングの大合唱が始まった。
 三人の演奏と歌声に合わせて、観客達が身体を揺らし、ケミカルライトを振りながら歌う。
 舞台袖で、シリウスもまた小さな声で歌いながら、優しいリチェルカーレの歌声に目を細めたのだった。
 夢のような一時が終わり、三人は一礼してから、大きな拍手に見送られてステージを降りる。
「たのしかったわ!」
「そうだな」
 輝く笑顔で真衣が言えば、ベルンハルトがその頭をふわりと撫でた。
「お疲れ様」
 舞台袖で待っていたシリウスの微笑みに、リチェルカーレもまた輝くような笑顔を返した。


 次のステージに現れたギターとドラムセットに観客達は瞳を輝かせた。
 スポットライトを浴びて、七草・シエテ・イルゴと翡翠・フェイツィが姿を見せる。
 翡翠がシエテの手を引きエスコートするようにして、二人はステージの中央に立つ。
 割れんばかりの拍手が響く中、二人は深々とお辞儀をした。
 顔を上げると、二人は目線を合わせて頷く。
 シエテはギターを手に取り、ストラップに腕を通して低い位置で構えた。翡翠はひらりとドラムセットの中に飛び込む。
 シエテがゆっくりと右手の人差し指で天を指差した。
 翡翠はドラムスティックを持ち、カウントを打つ──カッ!カッ!カッ!
 次の瞬間、シエテのギターから、リズミカルなサウンドが流れ始めた。
 ピックが弦を弾けば、稲妻のように鮮明な音が辺りを支配する。
 わっと声を上げて、観客達は身体を揺すって、ケミカルライトを振って踊り出した。
 観客達の動きにシエテは微笑み、更なる高みを目指して、ギターをかき鳴らした──翡翠と視線が合う。
 翡翠はくるくるとスティックを両手で回すと、シエテのギターが大きく鳴った瞬間を狙って、大きくスティックをドラムに叩き付けた。
 シエテのギターに合わせて、細かく刻むドラムの音が更に曲にうねりを与える。
 「vamos a bailar!」
 ──踊りましょう!!
 シエテが叫べば、観客達はドラムのリズムに合わせて手拍子を始めた。
 シエテと翡翠は微笑み合う。
 ホール内は一体となって、一つの音を作り上げた。
 曲の最後を翡翠のドラムが締め括れば、割れんばかりの拍手が二人を包む。
「翡翠さん」
「シエ」
 心地良い汗に、シエテが微笑めば、翡翠はぐっと親指を立てて応えた。
 二人は手を取り合って、前に出る。
 二人の眼前に広がるのは、観客達の笑顔の華だ。
「Gracias!」
 翡翠が観客席にお礼を叫べば、わぁっと大きな歓声が上がる。
 二人は充実感に微笑み合いながら、大きく手を振って観客達に深く一礼したのだった。


 井垣 スミは、舞台の裏側で最後のチェックを行っていた。
 流す音楽、スポットライトのタイミング、スタッフ達と細かく確認をする。
「ひーばあちゃん!」
 そこに黒地に歌舞伎柄の着物を着た雨池颯太が、元気よく走って来た。
「そーちゃん、もう準備はできたの?」
「うん! ひーばあちゃん、どうにあってる?」
 スミの問いかけに颯太は元気よく頷く。
(私も一緒にできればよかったのだけれど)
 スミはそっと颯太の背中を押した。
「ええ、とっても似合ってるわ。さ、そろそろそーちゃんの番だから、舞台袖に行っておきましょうね」
「うん!」
 颯太の手を引いて、舞台袖へと移動する。
「扇はちゃんと持った」
「もってる!だいじょうぶだよ」
 颯太は白い扇を広げてみせた。
 その時、スタッフが出番ですと声を掛けて来る。
「楽しんでね」
「ひーばあちゃん、いってきます!」
 スミの声に大きく頷いて、颯太はぴんと背筋を伸ばしてステージへと歩いて行った。
 ホッキョクギツネの幼いテイルスに、観客達から歓声が上がる。
 颯太が一礼すると、和の音楽が流れ始めた。
(ヨサコイがよかったけど。ひとりだからニホンブヨウなんだ。習ってるからうまくできるといいな)
 颯太は普段、先生から言われた事を思い出し、指先まで神経を集中し、扇で空気を舞わせるように撫でる。
(ひーばあちゃんもみてるし。おれ、がんばる。体うごかすのは好きだもん)
 音に合わせて、舞うように動きながら、空気と共に踊る。
 静と動を兼ね備えた颯太の動きに、観客達からは溜息が零れた。スミもまた、舞台袖で颯太の舞踊に瞳を細める。
 やがて音楽が終わりを告げ、颯太の扇が静かに空気を切って止まれば、大歓声が上がった。
 颯太は頬を紅潮させ、ぺこりとお辞儀する。
 嵐のような拍手の中、颯太は舞台袖のスミの元へ走って戻った。
「ひーばあちゃん! どうだった?」
「とっても上手だったわよ」
 スミの優しい手が颯太の頭を撫でて、颯太は満面の笑みを浮かべたのだった。


 舞台袖にも、ステージの熱気が伝わってくる。
 出番を待ちながら、シャルル・アンデルセンは小さく息を付いた。
 自分が緊張しているのが分かる。
(不特定多数の人に歌を聞いてもらいたい、と思うのは初めてですね)
 人前で歌を歌う──シャルルにとって、それは非日常の出来事。
 いつもは彼女のパートナーであるノグリエにだけに聞いて貰っている歌を、今日はホール中の人々に聞いて貰う事となる。
 すぅと息を吸って吐き出す。
(……もし、もしも私の歌に傷付いた心を癒すことが出来るなら……その為に歌いたい)
 だから、彼女はこの場に居る。
 スタッフから出番を告げる声が掛かった。
 シャルルは決意を蜂蜜のような金色の瞳に浮かべて、ステージへと出る。
 ステージの中央まで進めば、会場の熱気が肌で感じられた。観客席の人々の興奮と期待に満ちた眼差しがシャルルに集まる。
 ゆっくりとシャルルは観客席に一礼した。
 拍手が鳴りやめば、ピアノの澄んだ音色が伴奏の音を奏で出す。
 緊張に胸が震えた。
 そっと己の胸に手を当てて、シャルルは一つ深呼吸する。
 大丈夫。歌いたいと、聴いて貰いたいと、そう思う心を歌に乗せるのだ。
 瞳を閉じて、シャルルは唇を開いた。
 ホール中に、シャルルの歌が、優しく響き出す。
 優しく歌いあげる、愛の歌を。
(──シャルルの歌を初めて聞いた)
 観客席で、ツェラツェル・リヒトはスポットライトを浴びるシャルルを見つめる。
(とても心にしみるいい歌声だ)
 響く彼女の歌は、地面に染み込む恵みの雨を思わせる。優しく包んでくれる、そんな力があった。
(いつもはその歌声は、ノグリエ一人のものだけど……今日は私に、皆に聞かせてくれるのだな)
 彼女のもう一人のパートナーを思い浮かべれば、苦いものが込み上げる。
 けれど、ツェラツェルは直ぐに思考を切り替えた。
 周囲の観客達から、感嘆の声や溜息が漏れるのに、ツェラツェルは僅かに口の端を上げる。
(お前の歌は確かに優しい。傷を癒していくようなそんな歌声だ)
 ステージの上で眩く輝くシャルルを見つめ、ツェラツェルはその歌声に身を任せた。
 ──今日はこの歌声に癒されていたいと、そう思った。


「ふーん、ライブね」
「そうなんです!」
 蒼井 凛は、ぐっと拳を握る綺羅星 卯月を見つめた。
「笑顔しか取り得のない私ですけど、凛くんと一緒ならライブを頑張れるかなって」
 彼女の手には、『アピアチューレ・ホールでパフォーマンスを披露しませんか?』と書かれている、A.R.O.A.からの募集チラシがある。
「まぁ、卯月と一緒なら悪くないかな」
 凛の言葉に、卯月の表情が輝く。
「クール系統の歌なら、確かに出来るかもしれないけど……卯月は大丈夫?」
「大丈夫です! 今回は凛君に合わせてクールにいきます!」
 どう見ても卯月はかわいい系だと思うけど――とは、凛には口に出来なかった。恥ずかし過ぎるからだ。
「やるからには全力でね」
「頑張ります!」
 二人はこの日から、カラオケボックスに通ってデュエットの練習に明け暮れた。
 そして迎えた当日。
(し、心臓が口から飛び出しそうです……!)
 舞台袖で、卯月は震えていた。
 凛とお揃いの白と青基調の衣装はクール系。歌も振付も頑張って覚えたけれども、舞台袖からも感じるステージの熱気は、否応なしに卯月の緊張を高める。
「行くよ」
 凛の手が卯月の背中を押した。
「は、はい……!」
 凛と一緒にステージへ上がれば、大歓声。更に眩しいスポットライトに照らされて、卯月の思考はホワイトアウトする。
 凛に手を引っ張られるようにして一礼すると、カラオケボックスで何十回も聴いたイントロが流れ出した。
 振付しなきゃと卯月は思うが、手が震えて動かない。
 その時、卯月の手がぎゅっと握られた。その力強さと温かさに卯月はハッと顔を上げる。
『大丈夫だから』
 凛の唇がそう動いたのが分かって、卯月は観客達の声が遠くなるのを感じた。
 クールに歌い上げる凛の声に続いて、卯月は歌う。
 凛が微笑んで、卯月の顔にも笑顔が浮かんだ。
 歌い終えて一礼をすれば、大きな拍手の雨が二人を包み込んだ。
「頑張ったね」
 凛の囁きに、卯月は参加して良かったと、高鳴る胸を押さえたのだった。


「市民の皆さまに希望と勇気を与えられるような、そんな歌を届けたいのです」
 リヴィエラは、青の瞳に決意を湛えてそう言った。
「ハープを弾きながら歌おうと考えているのですが……」
 真剣なリヴィエラを見つめ、ロジェは一つ頷く。
「リヴィエラが弾き語りをするなら、俺も伴奏を手伝わないとな」
 こんなこともあろうかと、借り受けていたギターを手に取ったが、そこでロジェの動きが止まった。
「……けれど俺は、楽器には疎い」
 寧ろリヴィエラの足を引っ張ることになるのではないか――俯くロジェに、リヴィエラは微笑む。
「大丈夫ですよ、ロジェ」
 優しい声と共に、優しい手が触れて、ロジェは顔を上げた。リヴィエラが微笑んでいる。
 触れた手の温かさに、ロジェは胸が熱くなるのを感じた。
「歌も演奏も大事なのは心です!」
 胸元に手を当て、リヴィエラはきっぱりと言い切る。
「私はロジェと一緒なら、良い音が奏でられると確信しています」
「……大事なのは心、か」
 ロジェはふっと口許に笑みを浮かべた。何時だってリヴィエラの存在は光のようだと思う。かけがえのない大切な、大切な人。
「そうだな」
「では一緒に行ってくれますか?」
「ああ、勿論だ」
 二人は手を取り合い、そして本番当日を迎えた。
 割れんばかりに響き渡る拍手の中、二人で一礼する。
 ハープの前に座って、リヴィエラの細い指がそっと弦に触れた。
 柔らかい音色が響き渡り、リヴィエラの歌がその音に乗る。
 ロジェは優しく澄んだ歌声に瞳を細め、その音色を支える様に、ギターの弦を弾いた。
 細く優しいリヴィエラのハープの音を、ロジェの力強いギターが支えて、伸びやかにリヴィエラの歌声が響く。
 楽しい、とロジェは思った。
 リヴィエラと奏でる音の、なんと自由で温かな事か。
 観客達もまたその音色に聴き入った。
 ロジェのギターが最後の響きを余韻を残して響き渡らせると、どっと拍手が巻き起こる。
「ロジェ」
 ほら言った通りでしょう?
 そんな笑みを浮かべるリヴィエラに、ロジェは笑顔を返した。
 恭しくリヴィエラの手を取り、ロジェは彼女と共に一緒に観客に一礼する。歓声がとても温かく感じた。


 舞台袖から見えるステージは、神々しくすら見える。
(こんな大舞台で歌うなんて……)
 シルキア・スーは、緊張に震える手をぎゅっと握り締めた。
 果たしてこのような大舞台で、自分に歌う事ができるのだろうか。
「いつかの――……」
 不意に隣から聞こえた声に、シルキアは弾かれたように顔を上げた。
 クラウスが、穏やかな眼差しでシルキアを見つめている。
「――いつかの様に、自由に思うまま歌えば何も問題はない。
 俺はお前の歌声に魅せられた」
 その言葉に、青ざめていたシルキアの白い頬に赤みが差す。
 クラウスはそんな彼女に微笑むと、横笛を胸の前に掲げた。
「この笛はこんな日がくる事を願い修練を積んだのだ。
 ――お前の為に奏でよう」
 シルキアは瞬きしてから、小さく深呼吸した。クラウスの言葉はシルキアの心に染み入っていき、温かな勇気の灯りを灯すようだ。
 もう先程までの胸を締め付ける緊張は消えている。
 出番を告げるスタッフの声が聞こえた。
 シルキアは微笑んでクラウスを見上げる。
「有難う、クラウス」
 クラウスが頷いて、二人は一緒にステージへと歩いて行った。
 眩いばかりのスポットライトに照らされて、二人で一礼する。観客席からは温かな歓声と拍手が響いた。
 シルキアがすっと前に手を差し伸べると同時、クラウスの横笛が澄んだ音色を奏で出す。
 すぅと息を吸って、シルキアは笛の音に合わせて歌った。
 二人が奏でるのは、民謡調の歌。
 平穏な日常にある喜びを大切な人と分かち合う――振付と共に、感情豊かにシルキアは歌い上げる。
 間奏に入るタイミングで、シルキアとクラウスの視線が絡んだ。
 シルキアに応えるように、一層情緒の響きを湛えた笛の音が響く。シルキアはその笛の音に合わせ、美しい舞を披露した。観客席からは見惚れると息が漏れる。
 ふわりスカートが広がり舞が終わるとサビに入り、シルキアの一層感情を乗せた歌が空気を震わせ、最後の笛の音が止むと同時に、大きな拍手が鳴り響いた。
 シルキアとクラウスは微笑み合い、手を取って観客席に一礼したのだった。


「そう言えば、前花さんって曲を作ってましたよね」
 明石・灯代の問い掛けに、前花・瑞樹は瞬きした。
「ああ、少しはな」
 頷いて肯定すれば、灯代は瞳を輝かせ身を乗り出してくる。
「折角だから披露しませんか?」
 再び、今度は少し大きく瑞樹は瞬きした。
「そうだな……耳に触れて貰う事も必要か」
 顎に手を当てそう答えると、灯代はやった!とぐっと拳を握る。
「良かったら連弾しましょう、連弾!」
「はは、連弾やりたがっていたものな」
 嬉しそうな灯代に笑って、瑞樹は持ち歩いている鞄から、楽譜を一束取り出した。
「では、『Aに捧げる即興曲』で」
 差し出された楽譜を受け取り、灯代は目を見開く。
「……え、そ、それ」
(確か私にくれたやつじゃ、)
 楽譜と瑞樹の顔をきょろきょろ交互に見遣れば、彼は穏やかに微笑んだ。
「君には期待しているんだよ。――演奏家としても相棒としても」
 どきんと、灯代は自分の心臓が大きく脈打つ音を聴いた。
「友愛の証だ。丁度良いだろう?」
「……は、はいっ」
 瑞樹が首を傾けるのに、灯代はこくこく頷く。
 衝撃の後は、嬉しい気持ちが灯代の中にじわじわと込み上げてきた。
(前花さん、私に期待してくれてるんだ)
「早速、ピアノ教室を借りて音を合わせてみようか」
「はい!」
 歩き出す瑞樹の後を追い掛け、灯代は歩き出した。
 そして、本番当日――。
 二人は大歓声に包まれていた。
 瑞樹と灯代は、並んでグランドピアノの前に座り、鍵盤に指を滑らせる。
 灯代は自然と口角が上がるのを感じた。音を奏でるのが、とても楽しい。
 こんな曲を、瑞樹が自分の為に作ってくれた、一緒に奏でてくれている――それは、とても幸せな事だと思う。
 瑞樹の奏でる音と、自分の奏でる音が重なるのも、とても素敵だと感じた。
 夢のような一時を終えて、響く大歓声と拍手に、夢中になっていた灯代は固まった。
 その肩を瑞樹が優しく叩いて、二人は観客席に一礼するのだった。


 向坂 咲裟は、舞台袖からステージを見た。
 スポットライトに当たる、明るく輝く場所。
 今日はこの舞台に、カルラスと一緒に立つ――これは、とても貴重なチャンスだ。
 隣に立つカルラス・エスクリヴァを見上げれば、彼と視線が合う。
 ――何時からだろうか、カルラスが大きな舞台に立たなくなったのは。
 幼い頃から、母と彼の演奏を聴いてきた。
 彼の奏でる優しく深い音色が大好きだ。
(ワタシは、カルラスさんのチェロをもっと沢山の人に聴いてほしい)
 幸い、彼は共にステージに立とうという誘いを断らなかった。咲裟がどんなに嬉しかったか、カルラスは知らないだろう。
「サキサカのお嬢さん、どうした? もうすぐ出番だが……」
 カルラスが眉を下げ、不思議そうに問い掛けて来る。
 咲裟は視線を外して前を向く。これから向かうその舞台を。
「サキサカサカサは、絶対に成功させてみせるわ」
 凛と言い切った瞬間、出番を告げる声がスタッフから掛かる。
 咲裟とカルラスは、共に光が降り注ぐステージへと歩み出た。
 中央までたどり着くと、二人で深く一礼する。
 拍手が鳴り響く中、咲裟はバイオリンを構え、カルラスは椅子に座ってチェロを抱えるようにし弓を当てる。
 咲裟とカルラスの視線が絡み、カルラスがゆっくりと弓を動かせば、穏やかで深い音色が響き出した。
 咲裟はその音に思わず聴き入りながら、自らもバイオリンを奏で出す。
 主旋律を邪魔しないよう、基本に忠実に、音を安定させて――咲裟はカルラスの音に副旋律で寄り添った。
 カルラスもまた、音の調和を意識して音を響かせる。
(心地良いな……)
 カルラスは瞳を細めた。
 照らすスポットライトに、観客達の集中する視線――懐かしい高揚感。
 徐々に心に灯が燈るように、カルラスの中に、もっともっとだと己を奮い立たせる感情が込み上げる。
 気付けば、カルラスは自由に音を作り出していた。
 己の技巧のすべてを込めて、音を高めていく。
 最後の音が鳴り響いた後、地鳴りのような拍手が響き渡って、カルラスは我に返った。
 ブラボー!と叫ぶ観客達の声の中、咲裟が手を差し出してくる。
(……晴れやかな気分だな)
 カルラスは咲裟の手を取り、二人は一緒にお辞儀した。


 スポットライトに照らされたのは、赤い衣装。
「サンタさんだー!」
 観客席からの子供達の声に、かのんと朽葉は手を振った。
 二人はお揃いのサンタの衣装に身を包んでいる。豊かな白い眉と髭のある朽葉は特にサンタらしい出で立ちだ。
「今日は、一足早く皆さんに会いに来ました」
 マイクを手にかのんが言えば、子供達から期待に満ちた拍手が巻き起こる。
 その様子にかのんは瞳を細めた。
(折角ですから、クリスマスに向けて皆さんが楽しい気持ちになれると良いですね)
「サンタさん、プレゼントは用意できましたか?」
 頷いた朽葉が取り出したのは、ぺったんこの白い袋。
 観客席から、何も入ってないー!と抗議の声が上がる。
 朽葉はにっこり笑うと、チッチッチッと立てた人差し指を振った。
 そしてその指が、中指を立てて二本、薬指を立てて三本となった瞬間、
 ポンッ☆
 音を立てて、急に白い袋が大きく膨らんだ。
 朽葉は袋に手を突っ込むと、一個、二個、三個と次々プレゼントの箱を取り出す。
「わあ、沢山ありますね」
 かのんが驚いた声を上げた時、その中の一つの箱がカタカタと動いた。
「サンタさん、あの箱はなんですか?」
 かのんが尋ねると、朽葉は首を傾ける。
 ぴょんっ!
 箱が中から開くと、一匹の可愛らしい兎が飛び出してきた。その頭にはトナカイの角のカチューシャがある。
「あら、可愛いウサギさんが出てきましたよ」
 兎にスポットライトが当たると、兎は突然プレゼントの箱を両脇に抱えた。そして、そのまま駆け出す。
「大変! ウサギさんがプレゼントを持って行ってしまいます」
 かのんの驚いた声と同時、朽葉がステージの上を逃亡する兎を追いかけ始めた。
 見えない壁を登ったり下りたり、飛び越えたり、コミカルな逃走劇に子供達から歓声が沸き上がる。
 ついに朽葉が兎の足を掴んで捕まえた瞬間、ドラムロールが響き渡った。
 ジャーン!という音と共に、兎とプレゼントの箱が一斉に消えて、紙吹雪が舞い上がる。
 わぁ……!と、観客席から感嘆の声が上がった。
「本物のプレゼントはクリスマスまでお楽しみなのですって」
 かのんは悪戯っぽくそう言ってから、朽葉と並んでお辞儀する。
 二人に、観客席から大きな歓声と拍手が巻き起こった。


 ラルク・ラエビガータは、至って普通のファータである。
 強いて違うところをあげるとすれば、フェイク・変装・偽装・演技といった技能を極めている所だろうか。
「余興をしろということですね」
 成程と頷いたアイリス・ケリーに、ラルクは背筋が寒くなるのを感じた。
「……まさか女装しろとか言わねぇよな?」
 恐る恐る問い掛けた言葉に、アイリスは実に良い笑顔を見せる。
「言うに決まってるじゃないですか」
「ですよねー……」
 がっくり肩を落とすラルクの背中を、アイリスはぐいぐいと押した。
「さ、準備をしましょうね。メイクはお任せください」
 何時の間にか、アイリスの手にはメイク用具の詰まった箱と、キラキラ輝く赤いドレスがある。
 どうあがいてもこの状態のアイリスからは逃げられない――。
 タオルをぎゅうぎゅうに詰めて、たわわな胸を作成し、赤いドレスを身に纏う。
 アイリスが念入りにメイクを施し、真っ赤なネイルチップを指先に、足元には革ベルト付きのヒールのある真っ赤な靴。金色の鬘を被れば――ちょっぴりガタイの良い背の高い美女の完成です。
 フェイク・変装・偽装・演技――これらを極めし者だけに許される、完璧な女装。
 姿見の鏡の前に立ち、ラルクは斜めに三段フリルの入った長いスカートの裾を掴んだ。
 この衣装は、もしかして――。
「ラルクさん、これ咥えてくださいね」
 アイリスから真っ赤な薔薇を一輪渡される。
「……フラメンコをやれというか、アンタは」
「余興ですから、踊っていただかないと。私は手拍子でお供しますので」
 アイリスは両手を合わせて、そうそうと続ける。
「演奏はホールのスタッフさんがプロの奏者さんを付けて下さいました。安心して踊って下さいね」
 にっこり。
「……生き恥晒してくるとすっか」
 ラルクはアイリスと共に舞台袖に向かった。
 やがてやって来た出番。二人がステージに出ると大きな歓声が響き渡る。
 生演奏の情熱的な音色が響き出し、アイリスが手拍子を始めると――ラルクは覚悟を決めた。
 軽快にステップを踏み、指先までリズムを刻んで――。
『オレ!』
 手を振り上げてポーズを決めれば、大きな拍手が鳴り響いた。勿論、アイリスも拍手している。
 ラルクは大歓声を受けながら、心で涙を流していたという。


 ウィンクルム達によるパフォーマンスは、大いに会場を盛り上げ、テレビ視聴率も史上最高の数字を叩き出したのだった。

(執筆GM:雪花菜 凛 GM)

戦闘判定:大成功

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