リザルトノベル【男性側】ユウキ×リーガルト交戦部隊
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●どこまでも続く雪野原。
恐ろしいまでに純白の雪原に、横殴りの吹雪。
風に叩きつけられる冷たい雪は痛いほどで、どこまでも続く白い平原は孤独と虚無を思わせる。
隣に立つ契約者の心が聞こえるようだった。何も言わなくても、互いの考えている事は分かる。
黒い衣を翻して、相手の目を見れば、彼には分かる深い色の瞳が自分を映していた。
「愛の為の戦いを」
ユウキがそうインパイアスペルを告げると、リーガルトは厳粛な面持ちで彼の頬にキスをした。
ハイトランス・オーバーの輝きが二人を包み込んでいく。
それから二人はしばらくの間、黒翼羽衣に抱かれて、互いの呼吸の音と心臓の音を聞いていた。
『愛の為の戦いを』
全ては愛の為に。
己の信じる愛の為に……。
●
氷の塔『オベリスク・ギルティ』――直径500メートルほどの円形の塔である。
塔の内部、下層階には樹海のミニメリーツリーが生い茂っている。
外壁がところどころ崩れて大きな穴が開いており、そこから外の吹雪が吹き込んで塔の床を白く塗り替えていた。
その積雪が視界を悪化させ、移動を困難なものにしている。
そして生い茂るミニメリーツリー。
下層階はまるで自然と人口の迷宮のようになっていた。
だが、そこが、今回のウィンクルムと敵の戦場であった。
敵は二人。
裏切り者の神人ユウキ・ミツルギとその精霊リーガルト・ベルドレット。A.R.O.A.に所属しながらマントゥール教団に入信していた重罪人である。
かつてはウィンクルムの実力者として名が通っていたらしい。
それに対するA.R.O.A.のウィンクルム達は……。
萌葱とその精霊蘇芳。
雨宮・水生とその精霊コンラート。
エルド・Y・ルークとその精霊ディナス・フォーシス。
カイエル・シェナーとその精霊イヴァエル。
ルゥ・ラーンとその精霊コーディ。
新月・やよいとその精霊バルト。
椎名 了とその精霊正宗 誠司。
スコールとその精霊ネロ。
ラティオ・ウィーウェレとその精霊ノクス。
柳 恭樹とその精霊ハーランド。
ロキ・メティスとその精霊ローレンツ・クーデルベル。
月影 優とその精霊陽光 烈。
仲小路 達夜とその精霊バルグ・ソル。
むつばとその精霊めるべ。
計28名になる。
彼らは装備を調えて氷の塔下層部に到着すると、早速それぞれがトランスやコンフェイト・ドライブなどを行った。
「不思議な塔……視界がかなり悪いね、バル」
「タツヤ、オマエ、不安なのか? 大丈夫。これだけの人数が居れば勝てるだろ」
バルグは強気だった。
「そうかな……でも、ネイチャーとか……」
そのとき、外壁の穴の間から2~3匹のユキウサギが顔をのぞかせて、達夜はぎょっとした。
「ダメですよ。こちらに入ってきては」
優がそのユキウサギに声をかけた。
「これからここは戦場になるんだ。危ないぞ!」
烈も続いて声を大きくして言う。
ユキウサギ達は連れだってぴょんぴょん跳ねながら外の吹雪の中に消えて行った。
「ネイチャーの仲間達に危険だと伝えてくれればいいのですが……」
優は考え込みながら言う。
「大丈夫だろ。それより早く敵を探さなきゃ」
烈はそう答えた。
スコールもネイチャーの事は気になった。今後、戦場で現れる事がないといいのだが。
「それじゃあまず、俺達が先行しよう」
あらかじめ準備してきた白い外套をまといフードで目を隠しながら恭樹が言った。
「私達が先に進んで敵の場所を割り出す。貴殿らは後からついてきてくれ」
同じく白い外套のハーランドがHS・バイパー45口径オートマチックを片手にそう言った。
斥候役として二人は視界の悪い迷宮の中を、雪をかき分けて進む。白い外套は彼らを雪の中に紛れ込ませた。
「それでは僕も照明役としてついていきます。いいですね、ミスター」
ディナスが申し出るとエルドは鷹揚に頷いた。
「役目を果たしてきなさい」
天宮もまた、オルガスコープを用意してすぐ後ろをついていく。
恭樹は姿勢を低くして、物陰に隠れ角やカーブの先・吹き溜まりの先をうかがいながら移動していった。
問題がなければ、後方に対して手招きで合図していく。
ハーランドは恭樹とは逆の位置について確認する範囲を広げた。
問題がなければ、彼の方を振り向く恭樹に頷きを返していく。
その間、ディナスがシャインスパークを唱えて視界の悪さを取り除いた。
継続的な明るさをもたらす魔法の光。
ミニメリーツリーの生い茂る雪の中を進む四人の後を、他のウィンクルム達が距離を取りながら続いていった。
雪の迷宮。その奥――何かが雪の光を反射している。
恭樹は目をこらした。
ディナスがまたシャインスパークを唱えた。
それを頼りによく見てみると、それは大鎌エンド・オブ・ソウル・Rの反射だと気がついた。
恭樹は咄嗟にハーランドの方を見た。
そのとき、それまでは手のひらを突き返していたハーランドが、こちらに向かって首を縦に振っている事に気がついた。
ハーランドも、敵影を発見したのだ。
恭樹は何も言わずに短剣「コネクトハーツ」を抜いて、後続に対して合図をした。
ウィンクルム達は、足を早めて斥候達の後を追う。
外壁の穴から雪が紛れ込んでいる。ユキウサギを始め何匹かのネイチャーが彼らの事をのぞきこんでいる。これからここは戦場になるのだ。小さいものたちは近づかない方がいい。
●
ハーランドもまた、シャインスパークと雪の光を微かに反射する敵の【両手銃】龍之爪の存在に気づいて後続に手を振っていた。
(リーガルト・ベルドレット……私と同じくかつては軍属だった精霊のプレストガンナー。かといって、私は同じ轍を辿ろうとは到底思わないがな……)
ハーランドは接近してくるウィンクルム達に視線を投げる。
エルド、ネロ、ラティオ、ノクス、むつば、めるべ、烈、バルグがハーランドの方へ駆け寄ってきた。
途端に、龍の叫びのような音が鳴り響き、ハーランドの手前の地面の雪が砕け散った。
リーガルトが遠距離射撃を行ったのだろう。咄嗟に、ウィンクルム達は手近のミニメリーツリーの影に隠れた。
「不可解だな。こちらではない……か」
ネロがミニメリーツリーの影からそっと顔を出して敵の様子をうかがう。
すると、リーガルトが更にもう一発銃を撃った。
それは非常に狙い済まされた一撃ではあったが、ミニメリーツリーに直撃し、弾丸はその動きを止める。
「……あちらか?」
ネロがその発砲音と銃弾の軌跡から細かい場所を割り出した。
やがて彼は、離れたミニメリーツリーの木陰に、喪服のような真っ黒なスーツを身につけた強面の男に気がついた。
鋭い視線。
がっしりした筋肉質のマキナだ。
(……あいつがリーガルト!)
ネロの視線の方角を他のエルド達も確かめた。
「こんな方法はどうだろう」
ラティオは拾ったミニメリーツリーの枝にマグナライトをくくりつけると、銃声の聞こえた方角に向かったマジックハンドのように揺らしてみせた。
すると、両手銃の音が鋭く鳴り響く。連射を行わなかったのは、これが罠だと気がついていたからだろうか。
「……やったね。無駄撃ち。みんな、危ないから近づかないでおくれよっ」
非常にスリリングな面持ちでラティオがそう言った。
ノクスはラティオの工夫を確認した後、木陰伝いにリーガルトの方へと接近していく。
そしてリーガルトがスピニングショットをラティオに撃とうとした瞬間、タイミングをずらしながらアプローチを撃った。
「!?」
途端に手元が狂った明後日の方を撃ってしまい、僅かに顔を顰めるリーガルト。
そのリーガルトに向かい、同じく接近していたむつばがマグナライトを突然彼の目に当てた。
「……っ」
強烈な明るさに一瞬、視界を奪われるリーガルト。
「隙ありじゃっ」
そのリーガルトの背後から、めるべがパペットマペットIIでぬいぐるみを当てながら攻撃。
「……小賢しい」
リーガルトは小さく呟くと、振り向いてめるべに向かい銃床の殴打を繰り出した。
間一髪、めるべは再びパペットマペットIIでぬいぐるみを召喚して回避。
リーガルトはそれに気がつくと、さっと体を回転させ、ノクスに正面からスピニングショットIを撃った。
ノクスはシールド「タルツェル水冷式β2」を使用し、衝撃を熱エネルギーに変えさらに冷却水で押し流していく。
しかしそれでも衝撃は強く、腕が痺れて呻きを上げる。
そこで、エルドがリーガルトの近くに立つ。
リーガルトの銃を撃つ間合いを計って、短剣「コネクトハーツ」で腕を斬りつける。
「……っ!」
リーガルトは行動を阻害されて表情を曇らせた。
その隙にめるべが時雨で背後からリーガルトを斬りつける。
リーガルトが銃床殴打でエルドを殴ろうとする。
そこにノクスがアプローチを当てて起動を逸らす。
空ぶってしまう攻撃。
ノクスのアプローチによるそらしが的確だという事が分かると、烈は一気にリーガルトに近づいて行き、マジックブック「目眩」でリーガルトの頭を殴りつけた。
マジックブック自体には物理攻撃力はない。
しかし本の宿した困惑と錯乱の力がリーガルトの頭を支配するはずだった。
「どうや……?」
烈は緊張に震える声で聞く。
リーガルトは烈の方を振り返ると素早い体さばきで烈の事を殴り飛ばした。
雪の上を転がる烈。
それから銃を構えるとファスト・ガン。
「やめろーっ!」
ノクスが叫んだ。
飛び交う銃の軌跡――それは、接近してきたラティオの腕を貫いた。
ラティオは声も上げられないままその場に崩れ落ちる。
リーガルトはさらにめるべに向かってスピニングショットを撃とうとする。
しかし間合いを計ってエルドがコネクトハーツで斬りつけ行動を阻害。
それからすぐに飛び下がってリーガルトから距離を取る。
そこで精霊達が呼吸を合わせながら一斉に攻撃を開始した。
ネロはローズガーデンを使用しながらリーガルトへ攻撃。
ノクスもアプローチを駆使しながらハンドアックス「パピオン」を振り上げる。
むつばはミニメリーツリーの影に隠れてフェアリーボウで敵を射る。
めるべは死角からパペットマペットIIで攻撃。
烈は殴り倒された姿勢のまま何とか罰ゲーム。
バルグもスネイクヘッドを撃つ。
リーガルトは攻撃を見事に捌いてはいたが、多勢に無勢。
「……くっ」
やがてバランスを崩してリーガルトが雪面に膝をついた。
そこにネロが襲いかかり、他の仲間の手も借りながら、リーガルトを服で拘束した。
「早く……ラティオを回復しなければ……!」
ノクスが焦りを含んだ声で言う。
彼は雪の上で呻いている神人に応急処置をして抱き上げ、後衛の方に向かった。
入り口近くにはローレンツがフォトンサークルを張り巡らせ、ロキと共に仲間の避難所を作っていた。
「酷い怪我だ……!」
ローレンツが顔色を変える。
「ライフビショップが戻って来るまでここで安静にして待機だな」
ロキも冷静な表情でそう言った。
●
ディナスのシャインスパークの光を頼りに、スコールは雪面を進む。
大鎌を構えた白髪の神人、ユウキ・ミツルギは、スコールの姿を認めると鎌を振り上げハートオブペインで襲いかかってきた。
スコールはすんでのところでかわして、そのままユウキを連れて仲間達の方へ走ってくる。
スコールとユウキの姿を認めて、ディナスはシャイニングアローIIを展開し、数個の光の輪を召喚してカウンターの鏡を作り上げた。
「愛がどうとかどうでも良いけど周り巻き込まないで欲しいな、迷惑!」
ユウキの姿を確認すると、萌葱がまずそう叫んだ。
ユウキは立ち止まると、おかしそうに唇を曲げて笑った。
「他人じゃなく自分達で愛ってのを見せつければ良いのにな」
ユウキは声を立てて笑った。
「ふふっ……ボクはボク達自身の愛には興味ないんだよ。踏み台でしかないからね」
ユウキはやけに気に障る仕草で肩を竦めてみせる。
煽りを入れた萌葱と蘇芳は、ディナスの後ろで眉間を険しくさせる。
「えっと……なんでウィンクルムと戦わないといけないんス? ……仲間ッスよね? まぁ良いや、俺にとっては知らない人」
了はそのユウキに仕返しするように肩を竦めてみせる。
「ウィンクルム同士を争わせるなんて……虫唾が走るね。実に愚かしい。こんな茶番を早く終わらせる為にも、全力でサポートするよ」
誠司はその了の隣で、マジックワンド「ダークアイ」を構え直した。
「何故戦わなければならないって? 愛のためだよ。ウィンクルムは愛の象徴でなければならないんだ~!」
ユウキはそっと目を閉じて、また開いた。
「真実の、永遠の、完璧な愛を作り上げるために、ボク達は戦っているんだよ? ほら、攻撃してきてよ!」
そう言うが早いか、ユウキはエンド・オブ・ソウル・Rを振り上げ、ハートオブペインで眼前に立ちふさがるウィンクルム達を引き裂こうとした。
「待ってください!」
そのとき、やよいが声を上げた。
ディナスのシャイニングアローIIの影から必死に説得を開始する。
「何故、貴方はウィンクルムでありながらマントゥール教団などに荷担するのです……本心を聞かせてください。何がきっかけとなったのですか?」
「……」
ユウキは表情を変えずにやよいを見るばかりだ。
「ユウキさん、聞こえますか? 僕の愛は許すことだから、貴方の事も許したい。どうか、教えて」
「ボクはウィンクルムの愛を成長させたいだけ。胸が痛くなるほど切なくて、麗しく、神話となるような真実の愛……ウィンクルムの愛ってそうでなければおかしいんじゃない~?」
だからといって彼のしていることが許される訳ではない。
オーガを崇拝するマントゥール教団の中にあって、ウィンクルムの愛を成長させる事を行動基準とし、ウィンクルムとしてはA.R.O.A.を裏切り諜報活動を行い、彼は一体、何に与して何を目的とするのか、やよい達には読めなかった。
「ウィンクルムは愛の象徴……。ではその”愛”とは、貴方にとって、なんなのですか!」
やよいは思わず強い声で言った。
物も言わずにユウキはやよいに向かって斬りかかってきた。
「新月に近寄るなっ!」
彼の精霊バルトが即座にウルフファングを撃ち放ち、大鎌の攻撃を相殺する。
「ねぇ、バルト。もし僕に何があっても……僕を支えてくれますか?」
そのバルトの背中に向かってやよいが言う。
「支えます。必ず、貴方を護りますから」
獣に擬態した両手剣「サクリフィキウム」をユウキに向けて、バルトが断言する。
「貴方は声をかけ続けて」
「うん、いいよ! その愛! もっとボクに見せて欲しい!」
ローズガーデンを用いながら蘇芳が背後からユウキに接近。羽交い締めにしようとする。しかしユウキは寸前で鎌を振り回して回避。
それからユウキが追撃で蘇芳に愛の裏返しを入れようとした。
そこにタイミングを合わせてコーディが罰ゲームを鎌に当てて軌道をそらしてしまう。
「当たった……」
安堵の息をもらすコーディ。
「ユウキさん……貴方にとってマントゥール教団とはなんなのですか? 彼らの説く世界がウィンクルムにとってどんな影響を与えると?」
「何度も言ってるでしょ? ウィンクルムの愛のためにボクは行動してるんだってさ~。マントゥール教団は……オーガは、ウィンクルムの踏み台なんだ」
突然の言葉にやよいは呆気に取られてしまう。
そこにユウキが一気に距離を詰めたかと思うと、大鎌を閃かせ、一瞬にしてやよいを斬りつけた。
やよいは流血を吹き上げながらその場に倒れる。
シャイニングアローIIの反射もものともせずに、ユウキは踏み込むと、やよいの蒼白となった顔を見下ろす。
「これはボクがキミ達のためを思っての事なんだよ~。この絶望を乗り越えた先に、輝かしい愛が待っているんだ!」
「……ぐっ」
やよいが血を吐いた。
慌てて誠司がファストエイドを詠唱し、やよいの回復に勤める。
「よくも仲間を!」
気色ばんだ了が護身用小刀「ライラック」と短剣「マンゴーシュ」を振りかざしてユウキに接近。
反対方向から蘇芳が、ローズガーデンで身を固めつつ大剣「テーナー」でユウキに斬りかかる。
ユウキは、了を鎌を振り回しただけで吹っ飛ばすと、蘇芳には愛の裏返しをお見舞いした。
二人は身を傷つけながら雪面に転がる。
「ボクごときにやられちゃダメだよ? ほら、もっとキミ達の愛を見せてよ!」
歪んだ事を呟くユウキ。
それからさらに大鎌を振り上げ、今度は回復している誠司に向かう。
そこに、萌葱が距離を取りながらマグナライトで目に光を当てた。
「っ!」
目くらましで動きが止まるユウキ。
萌葱はそのまま、吹っ飛ばされた蘇芳に抱きつきサクリファイスでダメージを二分する。
「よし、OKだ」
そのとき、かなり離れた位置、ミニメリーツリーの影から声が聞こえた。
ディナスの影に立っていたイヴァエルからエネルギー光線が放たれる。
乙女の恋心――高威力のエネルギー照射がユウキの胸を焼け焦がす。
「ぐうっ!? ……は、あはは!」
胸の穴が開いたような衝撃にうずくまるユウキ。
そこに向かってディナスがシャインスパークを放ってさらに視力を奪った。
バルトが獣のような動きでウルフファングをユウキに放つ。
コーディが罰ゲームを手元に当てて大鎌を放させようとする。
「いけるか!?」
コンラートが飛び出てくる。
脇差しを用いて背後からユウキを不意打ち。
スネイクヘッドでクロニクル・コキュートスを攻撃した。
黒い翼が砕ける!
そこにさらに、イヴァエルが乙女の恋心を唱える。
先程のような突き抜けた高威力ではない。しかし、確実なダメージをユウキに当てる。
「痛い……苦しい。でも、これがキミ達の愛なんだよね! これからもっと輝く、キミ達の愛なんだ……!」
そのとき、ぜいぜいと息を切らしながらやよいが言った。
「ユウキさん。貴方の愛は歪んでいる……。愛している人のそばにいたい。そばで守りたい……愛する人のどんな罪でも許して受け止めたい……それが『普通の』愛ではないんですか……?」
繰り返される激しいダメージに喘ぎながらやよいは言った。
「歪んでいるのは愛だからこそだよ。愛は元々歪んでいるものなんだからね。ただボクにとっての愛が、ウィンクルムの愛を深めたいってだけの話!」
立て続けの攻撃に確実にダメージを喰らいながらユウキが叫ぶ。
「ボクの愛は……ウィンクルムの愛の礎でいいんだってば。……本当の愛、愛の象徴……そういうものに、ウィンクルムがなれたのなら……ボクはその愛を永遠に忘れない。
例え死んでも、絶対に忘れない。想い続ける崇高な愛……そんなものが一つあったなら~、それは世界にとってもとても幸せなことじゃないかな~!」
「歪んでる……!」
ディナスは強く言い切った。
「確かに歪んでる。だが……」
イヴァエルは顔を険しくする。
ユウキは歪んでいる。だが、その一面で、とても純粋だった。ウィンクルムの愛に対する想いは、彼の中でとても純粋で揺るぎないものなのだ。
一瞬の躊躇の後、イヴァエルはさらにユウキに向かって乙女の恋心を撃ち放った。
強いエネルギーの照射をもろに喰らってユウキは心身に強いダメージを受ける。
そのままでは足下も覚束ないほど頭を揺らめかせながら、ユウキは大鎌を構え直す。
そこに水生が飛びついた――ように見えた。
死角から飛び出た水生が、思い切りユウキに体当たりをする。
思いも寄らない攻撃にユウキは足をもつれさせ、二人して雪の吹き込む床の上に転がった。
スコールが素早くユウキを押さえ込んで、捕縛しようとする。
「……んぅ! これはまずい、かな。奥の手ってやつを――」
ユウキは悪あがきを続け、懐からオーガナイズ・シードを取り出そうとした。
そこにカイエルが飛び出して来たかと思うと、彼の手からシードを奪い取る。
「……ウィンクルムがオーガになる。冗談じゃないな」
そう言って手の中に力を注ぎ込み、シードを破壊した。
さらにルゥがユウキの手から大鎌を奪い取ると布にくるんでしまう。
「観念しろ。お前の負けだ」
スコールが冷徹に言い渡すと、ユウキを服によって縛り上げて捕らえた。
●
A.R.O.A.に任務完了と怪我人が出た事を報告すると、A.R.O.A.の方から救援の医師が来る事になり、ウィンクルム達は捕縛したユウキ達とともに、下層階に残っていた。
雪が吹き込み、時折、ネイチャー達が穴から顔を覗かせている。
やよいもラティオも、誠司や精霊達の懸命な回復で、少しずつだが顔色がよくなってきていた。
「話してください……貴方達は何故……こんな振る舞いをしたのですか……」
やよいはやっとの思いで上半身を起こしながらそう言った。
それをバルトが支える。
「それは僕も聞きたいな。何があったら、A.R.O.A.もマントゥール教団も裏切るなんて事が出来る訳?」
萌葱がそう言って、ウィンクルム達は次々にユウキとリーガルトに謎を問いかけた。
やがて、口を開いたのは意外にもリーガルトだった。
「これは俺も……お前達も知っているある男の話だが」
無骨な彼のぶっきらぼうな話し方に、ウィンクルム達は静まりかえった。
「その男は精霊だった。神人と契約をかわす前に、ある女を深く愛していた。だが、精霊である事を知っているA.R.O.A.が、女と男を引き離そうとした」
いきなり濃い話題に、若いウィンクルム達は顔を引きつらせる。
「男は自己判断で女を連れてA.R.O.A.から逃げた。二人で静かに暮らしていたが、ある日、女が殺された。男は任務で人殺しをしていた。だから、男に家族を殺された者達が、復讐に女を殺したんだ」
「……そんなことが……」
ハーランドが呟く。
どれほどの想いを抱えてきたのか、リーガルトは既に無表情だった。
だが、ウィンクルムのほとんどは、リーガルトがA.R.O.A.を憎む訳を理解した。
「男は自分のしてきた事を理解した。そしてウィンクルムになっていなかった事を後悔した。ウィンクルムになっていれば、愛する女を守る力を持てたかもしれない」
だが、ウィンクルムとして神人を愛すれば、女を裏切ることにもなる。
その苦悩。心のせめぎあい。
「男は自分を責め続け、やがて気がついた。ウィンクルムの愛は、地上の全ての愛を超越した、永遠至高の愛なのだと……」
その思想は歪んでいるが、歪むだけの理由はあった。
しかし、ひとつ疑問が浮上する。リーガルトが真に愛しているのは一体だれなのか。
その女性なのか。それとも神人のユウキなのか。
ユウキは微笑みながらリーガルトを見つめている。その目には、全てを委ねた信頼があった。
「俺はウィンクルムの愛を強くする事が目的ならば、どんな任務も厭わない……」
そこでリーガルトはハーランド達の方を振り向いて言った。
「お前達は、強くなれ」
その『強くなる』事が一体どんな意味なのかは分からない。
だが、リーガルトもまた、ウィンクルムに純粋な想い、信念を抱き、そして全ては愛の為に戦ったのだった。
今後も戦い続けるのかもしれないのだった。
「お前達が歪んでしまった理由は少しだけ分かった。だけど、結局俺達にはお前達の特別な、愛の思想を押しつけられるいわれはないんだ。愛って言えば何をやってもいいわけないだろう」
恭樹がそう言うと、ユウキは押し黙ったまま天井を見つめ続けていた。
激しい戦いが終わった事を感じ取りながら、ウィンクルム達はそれぞれの胸中で湧き上がる疑問を感じていた。
愛というものは、一体何なのだろうか、と。
(執筆GM:森静流 GM)
戦闘判定:大成功