リザルトノベル【男性側】ブリアンヌ伯爵夫人討伐部隊
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●氷の塔オベリスク・ギルティ中層階――。
Aスケールオーガ、ゼノアール・ミーシャ討伐。
そして脱獄しオーガと化したブリアンヌ伯爵夫人討伐。
そのために、ウィンクルム達はこの円形500メートルの凍てついた広場に到着した。
今回のメンバーは李月とその精霊ゼノアス・グールン。
ショーンとその精霊ケイン。
シムレスとその精霊ロックリーン。
信城いつきとその精霊ミカ。
ヴァレリアーノ・アレンスキーとその精霊アレクサンドル。
ユズリノとその精霊シャーマイン。
俊・ブルックスとその精霊ネカット・グラキエス。
ハティとその精霊ブリンド。
鳥飼とその精霊鴉。
叶とその精霊桐華。
鹿鳴館・リュウ・凛玖義とその精霊琥珀・アンブラー。
計22名であった。
彼らは到着と同時に、広場を見回した。
「寒いな……」
思わず凛玖義がそう言った。
広場の足下は部分的に凍っており、天井からは無数の氷柱が垂れ下がっている。
氷柱の大きさは10㎝程度の可愛らしいものから、3メートルを越す巨大なものまで様々であった。
「頭の上に落ちてきたらどうしよう……」
ケインがそう呟いた。
「各自自衛するしかないねん。はい、これ申請して持ってきたよーん」
ショーンはそう言って、人数分のロープを配った。ウィンクルム達は次々と足下に巻き付けて即席かんじきを作る。
「それじゃ俺はこっち。耳栓。敵の声はかなり耳障りらしいから」
次にミカが人数分の耳栓を仲間に配る。それぞれ礼を言いながら、ウィンクルム達は耳の防御を固めた。
そうなると後は互いの目配せなどのボディランゲージでコミュニケーションを取るしかなくなる。
凛玖義が手を振ると、琥珀が入り口付近のその場にフォトンサークルを張り巡らせた。
その中にシムレスとロックリーンが入る。彼らは後衛となって仲間への警戒、回復に努めるのだ。
シャーマインは広場の奥を見透かそうとした。
奥には確かに2体のオーガ……異形のゼノアール・ミーシャと異形となりはてた伯爵夫人がいる。
「それじゃあ、俺がゼノアール・ミーシャを引きつける。手分けして敵を倒そう」
シャーマインがゼノアールの方を指差して言った。
声は聞こえなかったが、皆、大体の意味を理解して、ゼノアール側とブリアンヌ伯爵夫人側に自然に別れた。
シャーマインは緊張に震える拳をぐっと握りしめる。
「シャミィ……」
ユズリノの不安そうな視線に向かって頷きかけ、シャーマインはゼノアール・ミーシャへと向かい走り出した。
顔半分を包帯で隠し、四肢に鎖を揺らしながらゆっくりとこちらに向かって歩いてくる人造のオーガ、ゼノアール・ミーシャ。
彼をめがけてシャーマインは、先手必勝のアプローチIIを撃つ。
シャーマインを追って、ショーン、ケイン、ヴァレリアーノ、アレクサンドル、ユズリノ、鳥飼、鴉、桐華、俊、ネカット達は次々とゼノアールを取り囲み、己の武器を握りしめて戦闘を開始した。
残りの半数は寄生を上げる蜘蛛女ブリアンヌ伯爵夫人を囲んで戦闘を開始した。
●
ブリアンヌ伯爵夫人側に向かったのは李月、ゼノアス、ハティ、ブリンド、叶、凛玖義、いつき、ミカの七名である。
「お可哀想なウィンクルム、わざわざ殺されに来たのですね」
蜘蛛の足をざわめかせながらブリアンヌ伯爵夫人が挑発してくる。
耳栓を使っているウィンクルム達に声は聞こえないが、自分達への敵意を明らかにしている事は伝わっていた。
皆、神経を尖らせて集中しているため、敵の意図も仲間の言いたい事もある程度以上は伝わっている。口をぱくぱく動かしているのを見るだけでもかなりの意志が伝わるものだった。
「……化け物め、ウィンクルムの強さを侮るなっ」
李月が小声で言うと、ゼノアスはぽんとその肩を叩いて不敵な笑みを見せた。
李月は緊張していた頬を緩めて微かな笑みをゼノアスへと見せた。
「ふふ……下等なA.R.O.A.のウィンクルム。我が教団の教義も理解出来ず、オーガの偉大さも摂理も理解出来ず、貴方達は本当にお可哀想。わたくしに倒されるためにここへ来たのね。素晴らしく無様に殺してあげるから、光栄に思いなさいな!」
いやらしい高笑いを繰り返しながら高慢な挑発を繰り返す蜘蛛女ブリアンヌ伯爵夫人。
醜悪な蜘蛛の足を動かしながら一気に壁を伝い、ウィンクルムに奇襲をかけようとする。
しかし、その顔面にマグナライトの光が真っ直ぐに当てられた。
「キャ……!」
「長話は鬱陶しくてかなわんねえ、せめて下半身がもっとむっちりしていて魅力的な美脚だったんなら聞けたかもねえ」
目くらましを喰らわせた凛玖義は笑いながら強烈な毒舌を浴びせる。
ブリアンヌ伯爵夫人は悔しげに顔を赤く染める。
そこに間髪置かずいつきのイルミナウェルテックスの銃撃。
「許さない……!」
ブリアンヌ伯爵夫人は気取っていた白い顔を真っ赤に染め、鬼気迫る形相となると、壁から天井へと凄い速さで登っていく。
「げっ……」
自分の方に迫ってくると気がついた凛玖義は後ろに走り、琥珀のフォトンサークルの中に入ろうとした。
しかし、ブリアンヌ伯爵夫人は正に醜悪な昆虫じみた速さで凛玖義を追撃。
「うわああっ!」
天井から蜘蛛の糸を垂らして飛び降りると、凛玖義にタッチ・ミー。
凛玖義はダメージのためにうずくまる。麻痺の効果が発動して動けない。
その凛玖義を蜘蛛の糸で巻き付けようとするブリアンヌ伯爵夫人。
「――させないよっ」
しかしそのブリアンヌ伯爵夫人の蜘蛛の尻に向かい妖刀の赤い一閃が飛ぶ。
それに合わせるようにして、いつきがブリアンヌ伯爵夫人本体へと銃撃。
妖刀・恋慕の乱舞攻撃によりブリアンヌ伯爵夫人は蜘蛛の糸を吐くのをやめ、激痛に顔を歪めながら背後を振り返る。
叶は赤い刀身を見せつけながら、ブリアンヌ伯爵夫人の背後を取ったまま、再び鋭い乱舞をお見舞いする。
「くううっ……下等なウィンクルムが、よくもわたくしに……」
「何か悪口言ってるんだろうけれど、聞こえないね……」
痛みのあまり、ブリアンヌ伯爵夫人は脚を動かせずに立ち止まってよろめいた。
オーガに変化したとはいえ、彼女はなんといっても伯爵夫人。痛みをこらえる訓練など何も受けてはいない。ちょっとしたダメージでも黒のオーラをかき消してしまうほど強く感じてしまうのだ。
そこに李月が走り寄ってくると、サベージソウルハンマーをブリアンヌ伯爵夫人の足先めがけて叩きつけた。
ハンマーの効果によりブリアンヌはスタンで全く動けなくなる。
呼吸を合わせてゼノアスがブリアンヌ伯爵夫人の醜悪に膨らんだ蜘蛛の胴体へと、タイガークローIIをぶっ放した。
ブリアンヌ伯爵夫人はまだ硬直している。
両手斧「クロイツシュトラール」の迫力ある威容をゼノアスは虎に擬態させ、さらにブリアンヌ伯爵夫人の足先を刃で薙ぎ払う。
「あああああ!!」
ブリアンヌは喉を引き裂かれたような悲鳴を上げる。
本来ならば、彼女の悲鳴にこそスタンの力があるのだが、ウィンクルム達は耳栓をしているために効果がない。
李月、ゼノアスに続いてハティが妖刀・恋慕を振り上げてなめらかな動きでブリアンヌ伯爵夫人の脚を切り飛ばした。
再び上がる呪いの絶叫。
しかし、ウィンクルム達には聞こえていない。
ここまでの間、仲間の攻撃が当たるようにといつきがブリアンヌ伯爵夫人の本体へと銃撃を繰り返していた。
「おのれ……よくも……よくも……A.R.O.A.のウィンクルムごときが、わたくしの……!!」
怒り狂うブリアンヌ伯爵夫人は驚異的な勢いで蜘蛛の糸を吐き出し始めた。
さながら噴射されているような大量の糸。
「気をつけろ!」
「気をつけて!」
離れたところからブリアンヌ伯爵夫人を狙うブリンドと身近で補助をする叶がほぼ同時に声をかける。
「くっそ、せっかく機動力を落としたのに。……これぐらい……!」
ゼノアスは蜘蛛の糸をかき分け、胴体へのタイガークローIIを繰り返そうとした。
その途端にブリアンヌ伯爵夫人の鋼よりも強い蜘蛛の糸がゼノアスに絡みつく。
咄嗟にゼノアスは抵抗するが、間に合わない。
「ぐううっ……!」
ゼノアスは蜘蛛の糸にがんじがらめに縛られて、拘束されてしまった。
「お可哀想そうなウィンクルム。オーガである私に逆らうからこうなるのよ!」
「ゼノアス!」
李月がハンマーを振り上げて相方を助けようとするが、伸びてくる蜘蛛の糸が邪魔で近づく事が出来ない。
「ふふ……オーガの餌食となりなさい。わたくしに跪きなさい!」
ブリアンヌ伯爵夫人はいやらしい笑い声を立てながら女の柔らかい腕でゼノアスの首を締め上げる。
「やめろー!」
思わず叫んでしまう李月。
そのとき、後方から敵の動きを観察していたミカが、ブリアンヌ伯爵夫人の顔面に向かってシャインスパークをお見舞いした。
ブリアンヌ伯爵夫人はまたしても目くらましで沈黙。
その隙に、いつきが片手銃を乱射し、ゼノアスの蜘蛛の糸の要所要所を断ち切ってしまう。ゼノアスはすんでのところでブリアンヌ伯爵夫人の腕をもぎ離して脱出。
「この、ただじゃおかねーぞ!」
ゼノアスは憎々しげに吐き捨てる。
「心配させるな」
叱りつける李月。
素早くミカがゼノアスの近くに寄っていきサンクチュアリを展開。拘束され、首を絞められたゼノアスはそれなりにダメージを受けている。
「面倒な敵だな……」
ハティは般若の形相でウィンクルムを睨むブリアンヌ伯爵夫人の前に立つ。
「お前はウィンクルムを下等と言うが、俺から見ればオーガを崇拝しオーガとなったお前の方が余程下等だ。人間の素晴らしさも理解出来ず、それを捨てたお前を心から哀れに思うよ」
「なんですって……!」
ますます怒りを燃え上がらせたブリアンヌ伯爵夫人は、蜘蛛の糸を際限なく吐き散らしながらハティを攻撃しようとする。
残されたわずかな足先を蠢かしながら、ハティを追う蜘蛛女ブリアンヌ伯爵夫人。
ハティは物も言わずにブリアンヌ伯爵夫人の前から逃げた。
「待ちなさい、待てっ……!」
ブリアンヌ伯爵夫人は下等と思っていたウィンクルムに見下され、我を見失っている。
ハティは長く巨大な氷柱をかき分け広場のある方向に走る。
そのハティの思考回路を、精霊のブリンドはよく理解しているようだった。
高らかに銃声が鳴り渡る。
ハティが走って行った先の何メートルもある氷柱が、ブリンドの射撃で打ち砕かれた。
次々と落ちかかる氷の楔がブリアンヌ伯爵夫人を貫く。
オーガの異臭を放つ血が飛び散った。
「きゃ! きゃ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
呪われた絶叫が響き渡る――だがウィンクルム達には聞こえない。
続けざまにブリンドはワイルドショットを撃ち続ける。
その衝撃により、氷柱は連鎖して次々と割れて打ち砕かれ、機動力を無くしたブリアンヌ伯爵夫人を傷つけ貫いていく。
やがてブリアンヌ伯爵夫人は悲鳴を上げる事もなくなり、ぐったりとその場に倒れて全く動かなくなった。
「お前こそが可哀想な女だ」
ハティは氷柱に串刺しにされて蜘蛛女となって死んだブリアンヌ伯爵夫人に冷たい口調で言った。その死体に対して恐る恐るいつきが近づいてくる。李月とゼノアス達も恐い物見たさでブリアンヌ伯爵夫人へと寄ってきた。
「人間の身を捨ててまで、……オーガの何に魅せられたって言うんだ……」
李月が、微かな憐れみをこめて言うと、ゼノアスは首を振って何も言わなかった。いつきもミカもわずかな後味の悪さを見せていた。一人、叶だけが、奇妙に複雑な眼差しを死したブリアンヌ伯爵夫人へと向けている。
ブリンドと凛玖義はさっさとゼノアール・ミーシャの方へと移動。
そのとき、広場に異変が起こった……。
●
「大体このへんかな。ネカ」
「はい」
俊の声に返事をするとネカットはゼノアールとの距離を測り、天の川の彼方を唱えて高さ2m、幅12m、厚さ50cm程度の半透明の壁を作る。この中に侵入すると、敵は自動的にダメージを受けるのだ。
それから俊はアヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」をゼノアールの方へ射出。
ゆらゆら歩いていたゼノアールは不自然なアヒルの動きに釣られて半透明の壁の方に寄ってくる。
しかしその時には既に、ウィンクルム達は壁の範囲内に移動をすませていた。
それを確認してから、ネカットは微笑みながら呪文の詠唱を開始した。
シャーマインがアプローチIIを撃ってゼノアール・ミーシャの注意を固定。自分に引きつけながら、片手銃「ボルグ改C96」で敵の目を狙おうとしたその時だった。
「小細工は無用。どちらかが倒れるまで殺り合おうぞ!!」
そう叫んだアレクサンドルがいい笑顔でタイガークローIIをゼノアールの腕の鎖へお見舞いした。
ゆらゆら鎖を揺らしながらアレクサンドルを捕らえようとするゼノアール。
しかしアレクサンドルはブラッディローズを使用し、食人植物の力を得てカウンター攻撃。
かと思ったら凄い勢いでまたタイガークローIIを撃ち放った。
彼の神人であるヴァレリアーノも負けていない。
デビルズ・デス・サイズで背中からゼノアールを斬りつけ――足や鎖を斬るというよりメッタ打ちにする。
ゼノアールが振り返るとまるで曲芸のように身軽に飛び回って回避。
びっくりしたのは周囲のウィンクルム達である。
突然の開幕ぶっ放しに唖然。
後方から状況を見極めたシムレスが気を利かせ、短剣「クリアライト」の反射の光でゼノアールに目くらましを入れる。
そこで気がついたショーンがクリアレインで目くらましを狙って攻撃。視力を奪う事は出来なかったが、ゼノアールに地味にダメージを与える。
ケインは全員が入るようにフォトンサークルを展開。
それからショーンの矢の動きに合わせて、自らも片手剣「レインカトラリー」でゼノアールの下半身を狙い斬りつける。
ゆらゆらと不安定に動いていたゼノアールの動きが止まり、シャーマイン達は落ち着きを取り戻した。
その間もヴァレリアーノ達は死力を尽くして敵を攻撃。
シャーマインは深呼吸をしてアプローチIIを打ち直し、自分の方に注意を向けると銃でゼノアールの目を狙って撃つ。
その脇から鳥飼が、【片手剣】スプーンオブシュガーで援護攻撃を行い、シャーマインから敵の意識がそれたら自分の方へと向くように気を配る。
「ウ……ア……ウィンクルム……コロス、コロス……」
虚ろな声を立てながら、ゼノアールはシャーマインと鳥飼の間を行ったり来たりして緩やかに鎖を鳴らしている。
動きが読みやすくなったため、桐華はトーベントでゼノアールに急接近をすると、心臓をめがけて鋭い突きを連続させた。
「グフッ……」
くぐもった声を立ててうずくまるゼノアール。
「やったか?」
シャーマインが声を上げる。
しかしそのとき、いったんは膝をついたゼノアールがゆるゆると立ち上がった。
一番近くにいる桐華へと突然、咎人ノ蹴り。
咄嗟に桐華はエトワールで回避した。
ゼノアールは殺意を感じさせる瞳で桐華を追う。
そこにシャーマインがアプローチII。
「ウィン……クルム……ウウ……」
しゃがれた声で意味不明の呟きをすると、ゼノアールはシャーマインに向かい断罪を行う。
シャーマインは月盾で受け止めながら後ろへ飛び下がる。
そこにゼノアールは断罪の手刀を繰り返しながら追いかける。
「……やめて!」
そこでユズリノが閃光ノ白外套を使ってうまく目くらまし。
ゼノアールの動きが止まったところで、神符「詠鬼零称」を彼の足にお見舞いする。
淡くぼんやり輝く神符は、拘束の力を放ちながらゼノアールの足に絡みつく。
動きがますます鈍くなるゼノアール。
ここぞとばかりにヴァレリアーノがアレクサンドルを見ると、アレクサンドルが両手を組んで構えて固定する。
ヴァレリアーノはその固定された手を踏み台にして大鎌を抱えたまま空中高くジャンプ。
そのまま大鎌を落下の重力を使いながら、ゼノアールの脳天へと振り下ろした。
「……ぐっ」
これにはたまらずゼノアールが今度こそ床に手を突く。
ヴァレリアーノは華麗に着地を決めると薄く微笑む。
「断罪の咎人は貴様だろう、偽りの命を貪るものよ……」
一瞬、周囲の空気が止まった。
「気をつけろ、来るぞ!」
俊が叫んだ。
だが次の瞬間、ゼノアールが獣ごとき咆哮を上げて立ち上がる。
ゼノアールが狙ったのは自分の心臓を叩いた桐華であった。
手刀に瘴気をこめると、地表すらも打ち砕く黒い斬撃を桐華に向かって飛ばす。
床の氷を叩き割りながら斬撃は突き進み、桐華を狙う。
桐華はエトワールを使って回避。
しかしその衝撃に吹っ飛ばされて宙を飛び、離れた氷の上に叩き落とされた。
「グガアアア!!」
到底人間とは思えない雄叫びを上げながら、ゼノアールは腕を振り回し、罪の鎖を振り回す。
鳥飼は咄嗟に傘で攻撃を受け流したが、他の周囲の人間は、本能的に一歩後ずさりをした。
タイミングが悪かったのがショーンだった。
咎人の殴打を受けて衝撃波により吹っ飛ばされる。
ショーンを庇おうとしたケインもまた、同じ殴打で反対方向へと宙を舞った。
恐るべき人造オーガの高威力の攻撃にシャーマインは息を飲む。
「シャミィ、無理しないで……」
「大丈夫。お前は守るよ。リノ。でも……」
シャーマインはまた前に出てアプローチII。
鳥飼が援護。
その鳥飼が狙われそうになり、鴉が前に出る。
ミラーデーモンで攻撃を反射。
するとゼノアールは鴉へと目標を切り替え、殴打を放つ。
シャーマインがアプローチII。
その隙に鴉はゼノアールの後ろに回り込み、くまのパペットマペットIIを叩きつける。
「なかなか厳しい……」
珍しく鴉がぼやいた。
「冷静に……落ち着いていれば勝てるはずです」
鳥飼がそれにそう答えた。
実際に、ゼノアールの大暴れは本能に寄るものが大きいだろう。自分が大きなダメージを負っている自覚があるから、焦りもあってウィンクルムに大きな攻撃を繰り返すのだ。
「しかし……」
鳥飼は顔を歪める。
周囲には桐華やショーンが力なく倒れている。
一発当たったらどれだけ大きな攻撃かを理解した上で奮戦を続ける
状況を悟った後衛のシムレスとロックリーンが琥珀のフォトンサークルに守られながら前に出て来てサンクチュアリIを展開。さらに、ワードオブゴットで怪我人を回復しようとする。
「おい、みんな、危ないからな、待避しろ!」
そのとき、天井を見ながら、俊がまた叫んだ。
何で天井を見ているんだろうと思って、みんな、天井を見上げた。ゼノアールさえも。
そこに見たのは天井ぎりぎりで膨れあがった光と水の属性エネルギーの光球だった。
神様のパン籠。
本来ならば目標ポイントまで落下してそこで炸裂するのだが、ネカットはそれを天井から下の氷柱ぎりぎりのところに定めて、ちょっとだけ落として思い切り爆発させた。
2メートル、3メートル大の氷柱が爆発に巻き込まれて破裂。
大小の氷の武器となってゼノアールの上に落下。
ゼノアールはたちまち血塗れに。
しかし、それに巻き込まれるのはウィンクルムも同様。
それを分かっているのかいないのか、素早くネカットは神様のパン籠を再び詠唱開始。今度は僅かにずれた地点の生き残っている氷柱を利用して小爆発。
先程の大爆発で緩んでいた氷柱達はたちまち破裂。
同じく氷の楔となってゼノアールを中心に血の雨を降らせる。
「救急箱の申請は一つで足りなかった!」
叫んだのはシムレスだった。
脇ではロックリーンが青い顔をして必死にワードオブゴット。
そのロックリーンが被弾して、シムレスは命がけのサクリファイス。
鳥飼は傘を準備してきた自分にこれほどの感謝を抱いた事はなかった。
そこで俊はMP尽きかけのネカットに向かってディスペンサで自分のMPを全て明け渡した。
「それではみなさんもう一度」
ネカットはまたしても神様のパン籠。
ネカットは神様のパン籠を氷柱に向かって繰り返し、神様のパン籠の使用が出来なくなった時には、既に勝敗は決定していたのだった。
ゼノアールは滅びた。
●
ブリアンヌ伯爵夫人を倒したウィンクルムが知ったのはそういう異変なのであった。
よろよろとロックリーンがショーン達を回収してこちらに来たのを見て、ミカが大慌てで駆け寄り回復を手伝おうとする。
「ああ、大丈夫だよ。見かけほど、傷は深くないんだ。あらかじめサンクチュアリを張っていた分もあるし、何より僕らが受けたのは10㎝ほどの氷柱ばっかりだったから。大きな氷柱はほぼ全部ゼノアールに命中したんだよ」
ロックリーンは複雑な笑顔を浮かべながらそう言った。
「途中は少し焦ったが、我々は琥珀のフォトンサークル内にいたからな」
シムレスも苦笑いを浮かべながらそう答えた。
琥珀はキョトンと目を瞬いた。
「ぼくは役に立ったの?」
「ああ、琥珀ちゃんはとても偉いぞ!」
凛玖義がそう言って頭を撫でようとすると、琥珀は嫌そうに首を振った。
一時はどうなるかと思ったが、今となっては氷柱の傷はほぼ消えている事に気がついて、ミカはほっと胸をなで下ろした。
「よかった。本当に……全員無事でオーガを倒す事が出来たんだな」
その言葉を聞いて、皆、達成感と安堵感に溢れ、お互いに笑顔をかわしたのだった。
強敵のオーガ達はウィンクルムの活躍によって滅びた。
作られた命としてのオーガ。
自ら望んでのオーガ。
いずれにせよ、人間らしい幸せとはほど遠い。
一体何が目的で、教団はオーガを崇めるのか……謎に想いを馳せながら、ウィンクルム達は激戦の氷の塔を後にした。
(執筆GM:森静流 GM)
戦闘判定:大成功