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フェスティバルイベント

『『狂信者の『愛』とウィンクルムの『愛』(男性側)』』

リザルトページ


リザルトノベル【男性側】ミラス・スティレート奪還部隊

チーム一覧

神人:蒼崎 海十
精霊:フィン・ブラーシュ
神人:セラフィム・ロイス
精霊:火山 タイガ
神人:瑪瑙 瑠璃
精霊:瑪瑙 珊瑚
神人:柳 大樹
精霊:クラウディオ
神人:初瀬=秀
精霊:イグニス=アルデバラン
神人:天原 秋乃
精霊:イチカ・ククル
神人:アキ・セイジ
精霊:ヴェルトール・ランス
神人:セイリュー・グラシア
精霊:ラキア・ジェイドバイン

リザルトノベル


 氷の塔、オベリスク・ギルティ。
 その最上階へとウィンクルム達は攻略を開始した。
 メンバーは蒼崎 海十、その精霊フィン・ブラーシュ。
 セラフィム・ロイスとその精霊火山 タイガ。
 瑪瑙 瑠璃とその精霊瑪瑙 珊瑚。
 柳 大樹とその精霊クラウディオ。
 初瀬=秀とその精霊イグニス=アルデバラン。
 天原 秋乃とその精霊イチカ・ククル。
 アキ・セイジとその精霊ヴェルトール・ランス。
 セイリュー・グラシアとその精霊ラキア・ジェイドバイン。
 計16名である。
 そしてさらに一人――囚われの精霊ミラス・スティレートを奪還に来た神人、セナ・ユスティーナ。
 彼は肩までの赤いセミロングの髪を持つ19歳の青年である。華奢でスレンダーな体格のせいか、中性的に見えた。赤いチェックのパーカーにデニムのジーンズという軽装だった。
 彼らが到着した最上階は直径500メートルもある円形の広場であった。
「ここにミラスが……。ミラスは一体どこに!?」
 セナはしきりに辺りを見回している。耳元でイヤリングが不安そのものに揺れていた。
「……寒いな」
 秋乃は思わずそう呟いた。
 氷の塔の名は伊逹ではない。足下は完全に氷結して、空からの光を目映く反射していた。
 その凍てついた床の氷から立ち上る冷気が肌を刺していた。
「あきのん、この最上階ってあの滝より高いね」
 イチカが突然そう言った。この間行ったばかりの『白竜の滝』の事を言っているのだろう。秋乃は一瞬、呆気に取られたが、ああと頷いた。確かにこの氷の塔は生半可な滝よりも高く、そして滝の水が全て凍りつくよりも寒くて――とても危険だ。
 この最上階の屋上に巣くう敵は、ギルティ堕ちしかかっている精霊ミラス・スティレート。
 身につけている禍々しい装備品はそれほどでもないが、彼はその場にいる最強のウィンクルム、ヴェルトール・ランスやラキア・ジェイドバインを遙かに凌ぐ高レベルであり、ロイヤルナイトという硬いジョブも決して油断してはならない性質のはずだ。
 そして屋上の彼方で微かな呻きと瘴気を上げているミラスの他にも、その場にはマントゥール教団の伏兵がいることは充分に考えられた。
「これを用意してきた。よかったら」
 瑠璃が大判タオルと太いゴムを人数分配った。
 秀とセイジ、ランスはスパイクを装備してきたため不要だったが、他のウィンクルム達は手早く瑠璃の準備したタオルで靴底を覆い、太いゴムで固定した。
「それじゃ、僕はこちらの作業をやるよ」
 セラフィムは周囲に塩を撒き、準備してきたカーペットを敷き始めた。
 それからおもむろに何人かのウィンクルム達がハイトランス・ジェミニを行う。
 入り口近くが騒々しくなった事を察して、苦悶の呻きを上げていたミラスは、ゆっくりと反対側の端からこちらに歩み寄ってきた。
「奴さん、おいでなすったか。それなら……足場が必要だな」
 トランスを終えたランスは、ミラスが到達するであろう広場の直径の中心部に向かい『天空の涙』を唱えて魔法の範囲を広げていく。それから即座に『カナリアの囀り』を唱えた。
 大気中に無数のプラズマボールが浮かび上がり、氷結していた床を一気に叩く。その衝撃により氷が砕け散って、安定した足場が露出した。
 その行動を見てミラスは目を剥き、レイピア【ジェンマの制裁】を握りしめる。
「何しに来た……僕をどうする気だ。僕は……もう、戻れない……」
 そこでミラスは激しく呻き、頭痛をこらえるように頭を庇った。全身から黒い瘴気――絶望色のオーラが立ち上っている。
「ミラス!」
 そんな精霊の姿を認めたセナは一気に前に走り出そうとした。
 それを慌てて側にいた海十が引き留める。
 ミラスの様子がおかしいのだ。
「ミラス! 俺だよ! セナだ! 助けに来たんだ!」
 海十に腕を掴まれながら、セナは大きな声で彼を呼んだ。
「一体何を……くっ……僕、僕は……っ」
 ミラスは顔を苦しげに歪ませると、そこに膝を折るような姿勢になった。
 肩を上下させながら荒く息を吐くと、やがて目を不自然な色に輝かせて立ち上がる。
「ウィンクルムは――僕の敵だ!」
 半ばオーガ……ギルティになりかかっているミラスは、そう叫ぶと真っ直ぐに立ち上がり、高速で『フォトンサークルII』の詠唱を開始した。
 瘴気を帯びたロイヤルナイトの技が凍てついた床の上に展開される。半径3メートルの聖域の中では自身を含め、味方の防御力を上げて守り抜く。
 かつてはセナを絶対に守ってきたそのスキルが、今はセナ達を害するためだけに使用されているのだ。
「ミラス――!」
 衝撃を受けるセナ。セナの呼び声は、果たして届くのか……。


「セナ、落ち着け。動揺したら敵の思うつぼだ。しっかりして、ミラスを説得するんだ」
 青ざめているセナに海十が呼びかける。そう言いながら海十は魔守のオーブを取り出して念じ、半透明の魔法の力場を展開した。同じく瑠璃も魔守のオーブを取り出して、力場でセナを守ろうとする。
「一歩も入れさせない」
 瑠璃は真剣そのものの表情だった。
 セナはきゅっと唇を噛みしめると、タオルで防備した靴で氷を踏みしめ自身の精霊に向かい走り出した。
 セナを守るために海十を始め、タイガや瑠璃、イグニスやラキアも共に走り出す。セラフィムは僅かに遅れて塩を辺りに振りまきながらついてくる。
 一方、フィンや大樹、セイリュー達はミラスの方へと走った。
 役割を分担しながら効率良く戦闘を進めるつもりである。
 そのウィンクルム達の前方にマントゥール教団員が飛び出してくる。
「死ね!」
 屋上の他の入り口から入ってきたのだろう。彼らはナイフや棍棒などでウィンクルム達を攻撃し始めた。
 ウィンクルム、特にセナを狙ってくる。恐らく、セナを殺せばミラスを確実にギルティに堕とす事が出来るからだ。
「世界の摂理に背く……我らが教義に背く……邪悪の化身達が!」
「お前は死を持って邪悪を贖罪するのだ!」
 口をきわめてマントゥール教団員達はセナを罵り、狂信の輝きに満ちた目で殺そうとする。
 セナは素早く身をかわしながら、悔しそうに歯を噛んでいた。海十や瑠璃がオーブでセナを庇おうとする。
「はいはい、うるさい雑魚は黙ってろ」
 秋乃はそのセナの背後から鉱弓「クリアレイン」を撃ち放ち、教団員を片っ端から片付けていく。
(精霊をギルティに……まったく悪趣味な儀式だぜ)
 秋乃は憤っている。そして思わずイチカの方を見た。
 イチカはというと、アナリーゼで攻撃回数を上げながら教団員に接近。
 セナの首筋を狙うナイフの突きに対し、セナのすぐ背後から的確にオブリガートでカウンター技を入れ、教団員を吹っ飛ばした。
「何だお前は!」
 殴りかかって来た別の教団員をイチカはエトワールで華麗に回避。
「雑魚は僕達が処理するから、君たちは先に行って。ミラスくんをなんとしても助けてあげるんだ!」
 イチカは鮮やかなテンペストダンサーの舞を見せながらそう言った。
 そのイチカに秋乃は弓で援護射撃を続ける。
「セナ! 必ずお前の精霊を助けろ!」
 秋乃は叫び、教団員をセナに近づけないように足下を射る。
「……うん! ありがとう!」
 セナは真剣な表情になってそう言い、他のウィンクルムに守られながらミラスの方へと駆ける。
「……このへんで」
 ミラスの顔がはっきり確認出来る辺りで、ラキアがセナを制して立ち止まった。
 そして早口で詠唱を開始し、チャーチを出現させる。
 6メートル四方の光と水の属性を含んだ半透明の避難所が出現し、周囲のウィンクルム達を皆守る。セラフィムが素早くその足下にカーペットを敷いて滑らないようにしていく。
 そのラキアのチャーチの庇護を受けながら、まずはセイジがミラスに最接近し、叫んだ。
「セナの元に戻れ! 心がつながってる! まだ間に合うんだ!」
「う――うるさいっ」
 セナの名前を出されると、ミラスは明らかに動揺する。
 そのセナが、ラキアのチャーチに守られながら、自分を見つめている事に気がつくと激しく顔を歪めた。
「ミラスさん――」
 それでもミラスは、次に近づいてきた大樹に向かい、ジャスティスソードで斬りかかってきた。本来ならばジェンマの慈愛に満ちた剣が、今は瘴気を吹き上げ大樹に襲いかかる。
 大樹は間一髪、ソードの斬撃を回避すると後ろに飛び下がる。
 するとミラスは大樹を追ってジェンマの制裁を振りかぶり前に出ようとする。
 そこに、大樹の精霊クラウディオが、距離を取りつつ双葉弐式で攻撃。
 読みづらい軌道を描きながら手裏剣ヴァイパークロスがミラスの武器を持つ手元を狙う。
 ミラスは絶望色のオーラを吹き上げ、手裏剣を反射してしまう。
「……ウィンクルムは、……ウィンクルムは敵だ」
「何故、そんな……俺達はミラスを助けに来たんだ!」
 セナが悲鳴のように叫ぶ。
「ウィンクルムは敵だ……」
 しかし、ミラスはうわごとのように繰り返す。
「何で!? ミラス!!」
「恐らく、オーガに堕ちかかることによって、本来の自分を見失いかけているんだ。あれはミラスの本当の心じゃない」
 ミラスから噴き上がる瘴気を見守りながらランスがそう言った。
「そうだね……」
 セイジも険しい顔で言う。
「ミラス、負けるな! 戻って来い!」
 オーガへの激しい憤りと、セナの気持ちを考えて、海十が大きく怒鳴った。
 フィンも冷静な表情だが、その目には本気の輝きが宿っている。
「セナ、声をかけ続けてくれ。大事なお前の声ならきっと届く」
 タイガは魔爪のマルバスの拳を打ち合わせながら言った。自分がオーガに堕ちかかった時も、セラフィムの声ならばきっと聞き届けると言う想いがある。
 イグニスはチャーチの傍に立ち、悲痛な表情のセナに声をかける。
「難しい事なんて一個もないです。今ここにいる貴方の気持ちを伝えないと!」
 一方、クラウディオはミラスの周囲でせっせと塩を撒いている。大樹もどうやらそうした青春風味に加わる事はないようだ。
 皆の言葉を受けて、セナは衝撃から立ち直る。
「ミラス、俺だよ。オーガに心を奪われるな! 卑劣な教団になんか負けるな! こんなことで自分を見失うお前じゃねーだろ!?」
 ミラスはセナの声を聞くと、激しい頭痛に襲われたように目を閉じる。
 そして激しく喘ぎながら、武器を持ち、身を捩るようにして叫ぶ。
「ウィンクムは――敵だ! 世界の摂理は……オーガにある!!」
 苦しんでいる様子を見て、手応えを感じたウィンクルムの前衛がミラスに再び接近を開始した。
 氷の滑りを利用して珊瑚はミラスに接近していく。そしてランスの作った足場を走る。
「ミラス、落ち着いて聞け! セナがすぐそこにいる。お前を迎えに来たんだ! 俺達に出来る事はあるか? どうすればいい!」
「ぐ……ぅ」
 ミラスはまたしてもジャスティスソードで珊瑚に斬りかかっていく。
 珊瑚はエトワールを利用して回避。
 反撃にオブリガートを入れようとして躊躇う。
 珊瑚がミラスの注意を引いているうちに、セイリューが死角をついて【呪符】五行連環を投げつける。
 六道の力を持つ呪符を用い、印を切り結ぶ。本来ならば、畜生道の扉を開き、呪符は敵の思考を奪って行動を封じるはずだった。セイリューはミラスを傷つけずに取り戻したいのだ。
「ぐがぁ!」
 ミラスは獣のように吠えて、イージスの盾を出現させると飛んできた呪符を跳ね返してしまう。
「……なっ!?」
 セイリューは呪符が跳ね返された事に驚愕を顕にする。
 ミラスはそのままセイリューの方へ走り寄ると、彼に向かいジェンマの制裁を真っ直ぐに振り下ろす。
 セイリューはエレガントパラソルを開いて受け流す。それでもミラスは踏み込んできてセイリューを斬りつけようとする。
 それを見たフィンはミラスの死角を取り、ガン・アサルトで攻撃。
 絶望色のオーラが弾丸を跳ね返すが、ミラスはセイリューから離れてフィンを振り返る。
「……自分の神人がどんな顔をしているか、見てみるといい」
 そんなミラスにフィンは冷静な怒りとでも言うべき声で話しかけた。
 ミラスの顔に痛いような想いが流れる。チャーチの中のセナに視線が揺れる。
「セナを泣かせるなっ!」
 セイリューがそんなミラスに必死の面持ちで揺さぶりをかける。
「ウィンクルムは敵だ――僕の敵なんだ……認めないっ……」
 それはうわごとではあったがとても頑ななものだった。
「何でそんなに……ウィンクルムである事をあんなに誇りに思っていたじゃないか!」
 セナは悲しいだけではなく怒りに突き動かされてそう叫ぶ。
 するとミラスは激しい苦悶の唸り声を上げ、ジェンマの制裁で今度は珊瑚に斬りかかり始めた。
 珊瑚はエトワールでどんどん回避力をあげながら必死にかわす。しかし、なんと言ってもレベル差があり、たちまち追い詰められていった。
 回避だけではどうしようもなくて、珊瑚はスタッカートで反撃しながらもかすり傷をその身に負っていく。
「無理しないで。回復だったら僕がいるからね!」
 ラキアがそんな彼に素早く告げる。
 しかし珊瑚はそれに答える余裕もない。
 その隣にタイガが立つ。デーモンズアイとローズソウルを使用しながら、スネイクヘッドIIを放ってミラスを攻撃。
「くっ」
 ミラスの絶望色のオーラに弾かれてしまうが、タイガは諦めない。
「セナを泣かせて面白いか? 違うだろ!」
 そう問いかけながらまたスネイクヘッドII。
 大樹は再びそのミラスの方に近づいて行った。
「ミラスさん……怒るよね……あんたは今とても怒っている……その怒りはなんのためか、自分でも分かっている。分かっているけど分かりたくない……そうだよね」
 珊瑚の影からやる気のなさそうな表情で、茫洋とした語り口で大樹は続ける。
「あんたの怒りは……みんな分かっている……セナも……俺達も。怒りを否定する必要は無いから……だから……聞いてくれ」
 荒かったミラスの息が次第におさまってくる。
 珊瑚への猛攻撃は次第に静まってきた。
 大樹は会話術とメンタルヘルスのスキルをフルに使ってミラスへの説得を続ける。
 ジェンマの制裁が床の氷の方を向いている。ミラスはゆっくりとしてきた呼吸音を響かせながら大樹の方を見ている。
「俺達はあんたと戦いに来た訳じゃない……何も心配することはないんだ。あんたが心配するような事は何も起こらない。セナだって、そこにいる」
「セ……ナ……」
 ミラスは初めて愛する神人の名を呼んだ。
 セナが大きく目を見開く。
「俺達ウィンクルムが必ずあんたの事を助ける。そのために、あんたを元に戻すために一回気絶させる。そのために攻撃するが、驚かないで欲しいんだ」
「……セ、ナ……」
「大丈夫。セナは俺達と一緒だよ。あんたを助けるよ。だから……」
 大樹は一瞬、間を置いたが、躊躇せずに言った。
「あんたの黄金の鱗の位置を、教えて欲しい」
 物も言わずにミラスは剣を振り回して、大樹を真っ二つにしようとした。
 大樹の胴が横薙ぎに払われようとしたその瞬間、ミラスの剣が止まる。
 見れば、ミラスの影にクラウディオの手裏剣が突き刺さっていた。
 クラウディオは忍法霞龍を使い、さらに遁甲を重ねて大樹の前に立つ。
「大樹、チャーチの中へ!」
 自動的に敵を攻撃する霞龍を纏いながら、クラウディオは大樹を追うミラスを食い止め、その苛烈なジェンマの制裁を遁甲で受け止め、回避する。しかし術の性質上、攻撃をすることは出来ない。
 それに気がついたフィンがラピットファイアを使用しつつクラウディオを必死に援護。
 気を取り直したセイリューも攻撃に参加する。
「セナ……セナ……!」
 荒削りの激しい剣術でウィンクルム達を薙ぎ払いながら、ミラスはセナの名を呼ぶ。
「僕には前世の記憶がない! 僕は君の事を覚えていない!」
「え……何を言って……」
 戸惑うセナ。
「他のウィンクルムは覚えているのか? 前世での強いつながりを! 僕達の愛は本物だったのか? 前世での大切な出来事を、君とのつながりを、何で僕は覚えていないんだ! 君は覚えているのか? 何も覚えていない僕の事を、どう思っているんだ!!」
 大樹の会話術とメンタルヘルスは確かに効果を上げている。ミラスは本音を吐露し始めた。しかし、荒れ狂う感情を伴って攻撃はどんどん激しくなり、彼は涙を滲ませながら他のウィンクルム達を敵と呼んで抹殺にかかった。
 ジャスティスソード。短時間の瘴気一閃。惜しみなく振るわれるスキルに、今にもクラウディオは崩れ落ちそうだ。
 誰に対しての怒りとも分からない涙を見せながら、ミラスは周囲のウィンクルムを攻撃し続ける。まるで他のウィンクルムがいなくなってしまえば、自分の愛を認められるのだとでも言うように。闇に堕ちかかっている心。
「セナはウィンクルムだから僕を愛したのか!? 仕方なく、愛してくれたのか!?」
 相手の愛が本物なのかどうか分からずに苦しむ精霊の姿。それは他のウィンクルムにとっても衝撃的な姿であり、珊瑚は束の間攻撃の手を緩めてしまった。
 そこでくっと喉を鳴らしたのが秀だった。
「前世だのなんだの関係あるか! 今のお前の気持ちはどこにある!! 映画終わるぞ!!」
 秀は怒りに任せて叫んだ。
 怒りだけではなかったかもしれない。
 ミラスの気持ちは想像すれば分かるのだ。だが、だからといって、そのままギルティに堕ちていいわけがあるか。ウィンクルムを殺していいわけがあるか。
「一緒に映画に行くはずだったんだろ! 前評判ランキング一位の映画を二人で見て、一緒に喫茶店行って……そういう事を考えていたんだろ! 一緒にチケット買いに行った時の事を思い出せよ! 相手がどんな顔をしていた? その顔に嘘があったか? 何でそういう大切な事を忘れてしまうんだ!」
 秀はミラスに前世ではなく今の気持ちを大事にして欲しくて怒鳴った。
 それを聞いてセナも声を上げる。
「そうだよっ! ミラス、何言ってるんだよ! 俺の愛がどうとかって……何でそんなことを言うんだよ!! バカ!!」
 セナはもしかしてもっとはっきりと愛を叫びたかったのかもしれないが、なんと言っても大人数の前の事で、照れが邪魔してそんなことを叫び返した。
「セナ……」
 ミラスが顔を引きつらせる。
 その全身から絶望色のオーラが激しく噴き上がる。
 獣のような雄叫びを上げながら、ミラスは遁甲の術中で抵抗出来ないクラウディオに向かって瘴気一閃を撃ち放つ。
 振るった剣をなぞるように真っ直ぐに走る瘴気による斬。
 クラウディオの【盾】輝く昼下がりに亀裂が走り、クラウディオは瘴気にはね飛ばされて大きく後退。
 それを秀が庇って受け止める。しかし瘴気の威力は凄まじく、二人とも足場の外側まで吹っ飛ばされて氷の上に滑る。スパイクが氷を食い止めようとして凄い音を立てる。
 二人はかろうじてセラフィムの敷いていたカーペットの上に転げ落ちた。カーペットがある程度は衝撃を吸収。
 クラウディオは一度起き上がろうとしたが、痛みと衝撃と、氷が滑るためにまた崩れ落ちる。秀も打った手足が自由に動かない。
「もういい……もう断ち切る……俺はオーガだ。ギルティになるんだ……! 俺の信じた愛は価値がない……ギルティこそが本当に価値のあるものなんだ!」
「分からず屋め!!」
 仲間をやられて怒りにかられる珊瑚。
 仲間の事も、ミラスの言い分も、頭に来て仕方ない。
 スタッカートでお返しとばかりに「正義の盾」を尽きまくる。
 フィンもダブルシューターIIでその珊瑚を援護する。
 横からタイガがスネイクヘッドIIで飛びかかり、ミラスの注意を逸らそうとする。
 ミラスが珊瑚のファントムフードの上からジェンマの制裁を振り下ろす。
 しかし、珊瑚は即座にオブリガートでカウンター攻撃。
「うまい!」
 思わず声をかけてしまう瑠璃。
 珊瑚はそれを聞いて、大きく前に踏み込むと、スタッカートでミラスのジェンマの制裁を握る手元を狙う。とりあえず武器を弾いてしまえば、戦闘力が半減し、絶望色のオーラを使われても脅威は減るはずだ。
「……カウンターっていうのは、こうやるんだ」
 冷えた殺意を感じさせる声音がそう告げた。
 彼の武器が閃光のごとく動いた……そう思った瞬間、珊瑚の両手に激しい衝撃が走る。手の感覚すら麻痺するような強い衝撃。
 次の瞬間、珊瑚の獲物双剣「ダブル・バルドイーグル」が珊瑚の手から弾き飛ばされて吹っ飛んだ。
 ソードブレイク!
 呆気に取られて珊瑚は身動きも出来ない。
 そこにミラスがジャスティスソードで珊瑚の息の根を止めようとした。
「させるかあ!」
 背後から瑠璃が珊瑚を抱えるようにして飛びかかり、二人で床に伏せてソードの軌跡をやり過ごす。
 フィンはグレネード・ショットを撃ち放ち、少しでもミラスの隙を誘い出そうとする。
 タイガはまたスネイクヘッドIIを放ち、セイリューは呪符の攻撃力でミラスを叩く。
 それらを剣術とオーラで跳ね返しながら、ミラスはどこか虚ろな表情でいる。
「……セナ」
 己の精霊の珊瑚を庇う神人瑠璃の姿に、ミラスはまた顔を歪める。心が揺れる。軋む。
 その苦悩の様子にセナの顔まで歪む。
「セナさん、彼の癖や……何か気づいた事はありませんか。少しの事でいいですから」
 セラフィムはセナを現実に引き戻すために問いかける。セナは目をこするようにしながら、首を左右に振って答えなかった。セラフィムは、自分の精霊の堕ちかかった姿を目の当たりにするセナの心境を考え、口をつぐんだ。
 そのセナの後ろに、大樹がクラウディオを担ぎ、秀を一緒に連れてきた。
「ラキアさん、回復を頼むよ」
 ラキアの年齢は同年代か少し上だろう。大樹はそう思った。
「勿論!」
 ラキアはサンライズを唱えて擬似太陽を出現させ、周囲の者達を癒やし始めた。ほぼ同時に珊瑚と瑠璃がお互いを支え合いながらチャーチ内に入ってくる。二人もラキアの力により回復されていく。
「こんな戦い……長引かせられない!」
 海十はセナを守っていたが、奮戦を続けるフィン達の様子、ミラスの苦しむ様子に我慢が出来なくなった。
「フィン!」
 海十はそう叫ぶと短剣「クリアライト」を輝かせながら前衛の方へと走り出す。
 氷の塔「オベリスク・ギルティ」は輝きの塔でもあった。塔の中は無数の氷柱で覆われている。この屋上の最上階も、氷が冷たく透き通った輝きで床全体を覆い、キラキラと空の光を乱反射していた。
 海十はその反射光をさらに反射させながらミラスに斬りかかった。
 フィンは海十の思考を読んだ。
 突然の目くらましに、流石のミラスも動きを止める。
 その間にフィンはミラスの鎧の懐に手を入れると、ムービーチケットを抜き取った。
「何を……」
 我に返ったミラスは、咄嗟にフィンの手のチケットに手を伸ばし、取り返そうとする。
 フィンは後ろに下がってチケットを確保し、その上でミラスに見せつけるようにした。
「何故、チケットを取り返そうとするんだ? セナの愛に価値がないなら、今更そんなことする必要ないよね?」
「……っ!」
 ミラスは激しく動揺する。
 そのとき、最後のマントゥール教団員を撃ち抜いたセイジが、ミラス達の方を振り返った。セイジとランスは弓と魔法により、セナを襲撃しようとする教団員を処理していたのである。また、イグニスも同じく伏兵を倒していたのだった。
「ミラス。正気に返れ。……セナを影から攻撃しようとするような奴等に価値はなんてない。分かったろ?」
 セイジ達が処理した教団員達の姿を見て、ミラスははっと息を飲む。
「したい事あるだろ隣で笑顔にしてやれよ!」
 ミラスの近くにいたタイガはまるで友人に対するように、大きく彼の肩をどついた。
「笑顔は不安が吹っ飛ぶおまじないなんだよ!!」
 そう言ってタイガは堕ちかけている精霊に屈託のない笑顔を向けた。
「……っ」
 ミラスは明らかに動揺して一歩、後ろに下がる。
「何故、退くのです。それがあなたの本心とは思えない。これほどセナさんに想われている貴方ならば」
 イグニスは切ない感情に動かされて叫ぶ。
「ミラス!」
 退くセナを追うように、セナはチャーチの保護範囲から飛び出て、彼の方へと駆け寄って行った。
「セナ……」
 走り寄って行ってセナがまず行った事は、ミラスの頬に対する強烈なビンタだった。
「俺の気持ちが分からない!?」
 セナは怒鳴る。
「俺の愛が分からないって!? それで何でこんなっ……こんな、みんなに迷惑かけて!! いい加減にしろー!!」
 怒りを爆発させて、セナはその場でぼろぼろと泣き出した。
 ひっぱたかれたミラスはしばらくぼんやりと口を開けて立っていたが、泣いているセナの方におずおずと手を伸ばしかけ、それから引っ込めようとした。
 それを見ていたセイリューがミラスの手を遠慮無く取って引っ張ってセナの肩に置いた。
 彼から放たれていた瘴気は次第に静かなものに変わっていた。
「セナ、俺は……」
 ミラスは本音のさらに下に隠れていた本心を吐露しようとした。
 正にそのときだった。
「おやおや……実験を中断する訳にはいきませんね」
 氷柱の影からいやらしい声が響き渡り、ミラスはなんとセナを突き飛ばした。
 セナは訳も分からず転びかけ、海十に庇われる。
 ミラスの体に大量の瘴気が注ぎ込まれる。
 それは圧巻と言っていいほどの勢いであり、ミラスはその瘴気からセナを守ろうとしたという事は一目見れば分かった。
「一度手に入れたモルモットを簡単に手放すほど、ボクは甘くありませんよ」
 氷柱の影から山羊に似た形状の角を持つ男が現れる。
 グノーシス・ヤルダバオートだ。
「あ、あんたっ……ミラスを……いい加減にっ……」
 セナは怒鳴ろうとするが、怒りのあまり、声がつかえて出てこない。
「さあ、ミラス。本能のままに」
 グノーシスに大量の瘴気を注がれて、ミラスは明らかに顔つきが変わった。
 身に纏う絶望色のオーラも今までになく激しく濃い色合いに変わっている。
「こんなことって……」
 海十は痛ましさにやはり声が出ない。
 ミラスは一声、大きく吠えると、ジャスティスソードを振り上げ、セナに向かって突進した。
 再びローズソウルを纏ったタイガが獣よりも敏捷な動きでセナの前に立ちふさがる。
 食人植物と一体化した鎧。
 著しく上がった防御力とデーモンズアイで上げた抵抗力で持って、タイガはミラスの真正面に立つ。
 襲いかかるジャスティスソードに的確に合わせるローズソウルのカウンター!
 そこに援護するためのセイジのクリアレインによる射撃。光が降り注ぐような攻撃が目くらましとなる。
 それでもミラスは暗黒に心を奪われたまま、今度はタイガに向かって瘴気一閃の構えを取る。
 タイガは構わずスネイクヘッドIIを撃つが、絶望色のオーラに防がれる。
 そのタイガの真後ろから、ランスは『小さな出会い』を詠唱開始。
 ソフトボール大のプラズマ球体が放物線を描く。
 ミラスの眉間にぶつかって炸裂。
 たまらず構えを緩めるミラス。
「出会いを思い出せ! 目を覚ませ!」
 ランスが怒鳴る。
「ぐ……くっ」
 しかしミラスは瘴気を吹き上げるばかりだ。
 次にランスが唱えるのは『一筋の希望』だった。
「ミラス……!」
 闇へ堕ちていくミラスに対してセナは必死に声をかけ続ける。
 その間、セイジはクリアレインをひたすら連射。
 邪魔にならない位置からタイガも攻撃を繰り返す。
「希望を――」
 やがて完成したランスの魔方陣は凄まじいばかりのエネルギーを放っている。
 ランスは両手で魔方陣を支えるようにして制御。
 真っ正面からミラスに向かい、『一筋の希望』を解き放った。
 焼け焦がすような威力を放って希望は飛び、ミラスの鎧を打ち砕くかのようだった。実際に、瘴気が砕け散ったような錯覚が起こった。
 ミラスはその場に倒れ伏す。
「ミラス! 戻れよ! 俺のところへ! 戻って来いよ!」
 セナはまた走り出しそうになったが、後ろから移動してきたラキア達が制する。
「落ち着いて。ちゃんとよく見るんだ」
 ラキアはセナほど単純ではない。冷静で知的な緑の瞳でしっかりとミラスの様子を観察する。
 ウィンクルムの見守る中、ミラスはよろめきながら立ち上がった。
 体は瘴気を未だに吹き上げていた。
「先程までであれば瀕死となっていてもおかしくはなかったでしょうが……これは興味深い結果になりましたね」
 ランスは流石に悔しげな顔だったが、セイジがいさめた。
 それを見て、イグニスは密かに詠唱を開始。ランスのMPにだって限界があるだろう。
「セナ。……僕が殺してあげるよ」
 冷たく錆びた声でミラスが告げる。しかし、その表情にラキアは微かな違和感を覚えた。
「だーかーらー違うって言ってるだろ! お前はそんなキャラじゃねぇだろ!?」
 怒って地団駄踏みそうなセナ。ミラスは無言でセナの剣を向ける。
「それじゃ俺が相手だ!」
 セイリューが呪符を飛ばしながら叫ぶ。
「……仕方ないね」
 フィンもセイリューのためにガン・アサルトを使い、相手を攪乱しようとする。。
 ずっと正面を向いてばかりいたミラスだったが、途端にくるりと背中を向けた。
「!?」
 セイリューはびっくりして立ち止まる。
 そのままミラスは回転しながら横薙ぎに剣を振るい、セイリューの利き腕を狙う。
 セイリューは運動神経を生かして回避。
 今度は回復を終えたクラウディオや珊瑚、秀達が一斉にミラスへと攻撃。
 するとやはり、ミラスは絶望色のオーラを吹き上げながらくるりと背を向け、回転しながらジャスティスソード。
「……もしかして?」
 大樹は、思わず口にした。
「やはり、何か違いますよね……」
 ラキアが大樹に向かって頷いた。
「何か……?」
 セラフィムが尋ねる。
「……鱗は背面にあるんじゃないか?」
 大樹はじっとミラスの動きを見つめながら言った。
「えっ!?」
 瑠璃は驚いた。
「……あのセナさんを見る顔。……言っている事とまるで違うよ」
「それじゃ……ミラスは今!? 自我を取り戻して!?」
 大樹は叫んだ。
「背面のどこかに鱗がある! 探って、早く!」
 その指示に従い、クラウディオは背中を向けてくるミラスに再び遁甲を使いながら接近していった。
 次の瞬間にはミラスは攻撃しなければならないのだが、至近距離から舐めるように背面を見つめる。
「……ここだっ!」
 クラウディオはミラスの首の後ろを指差した。
「よっしゃー!!」
 一緒になって鱗を探していたのがタイガ。
 クラウディオが示した次の瞬間には、コスモ・ノヴァを思い切りぶっ放す。
 彼の体内を浸食する自然界のエネルギーを一気に凝縮し、両手から打ち出した。
 凄まじい激痛がミラスを襲い、たちまちその場に膝をついて崩れ落ちる。
 その頃、イグニスの詠唱が終わった。
 ミラスの真上にため込んだ攻撃エネルギー。
 頭上30メートルで時間をかけため込み膨れあがったエネルギーが炸裂。
 巨大な破壊の球体がミラスの上に落下した。
 鱗を砕かれたところにそんな攻撃が落下してきたらたまらない。
 ミラスは声も立てずにその場に倒れ伏し、気絶した――ように見えた。
 顔色を変えるグノーシス。
 信じられなかったのか、自らミラスの方へ近づいてくる。
「……やはり、無作為に間引いて来た精霊では完全なギルティには――」
 ミラスは目を開けた。
 グノーシスの方を見つめた。見つめながら起き上がった。
「おや、まだ起き上がれましたか」
 ミラスはまるで忠誠を捧げるようにジェンマの制裁をグノーシスへと掲げる。
「ミラス……?」
 セナは震える声で精霊の名を呼ぶ。
 ミラスはそのまま脚の力で立ち上がると――全身の瘴気を全て、ジェンマの制裁へとこめていった。
「僕を惑わせていたのはウィンクルムの愛……愛の形」
 しっかりとした声でミラスはグノーシスに告げる。
「ウィンクルムのつながりとは何か、ウィンクルムの愛とは何か、それが僕を惑わせ、迷わせ、苦しませてきた」
「愛など、所詮はそういうものです。全く合理的ではないし、不明瞭だ。破壊という明確な意志を持つオーガを支持する教団の方がボクは理解できますね」
「……けど、悩むことなんてなかった。セナとの繋がりは、僕達の愛は本物だから」
 ミラスはジェンマの制裁へと己が瘴気の最後の一粒まで流し込み、注ぎ、禍々しい凶兆の星のごとく輝かせる。
「だから、僕の……俺達の愛を、繋がりを――舐めるなァア!!」
 ミラスはその瘴気の塊と化したジェンマの制裁でグノーシスへと斬りかかっていった。
「くっ……!?」
 防ごうとするグノーシスを追い、ミラスは瘴気の攻撃を繰り返す。
「ミラス!!」
 セナを始め、ウィンクルム達の顔に歓喜の色が広がる。
 完全に己を取り戻したミラスは、グノーシスをたちまち最上階の外縁部までと追い詰める。
「堕ちるなら貴様だけ堕ちるがいい! もう誰にも邪魔させやしない!!」
 ミラスはグノーシスの背後が空中だと知っていて、ジェンマの制裁による瘴気一閃を撃ち放つ。
 グノーシスは体をそらし、ぎりぎりのところで、足を踏み外した。
「み、ら……すゥゥゥウウウウウウウウウウウゥウウウウ!!!!」
 腹の底から込み上がる絶叫。
 しかしその絶叫も、体が落下していくことにより、たちまち小さく消えて行く。
 フライングトナカイボートに乗っていたレッドニス・サンタクロースからも、その姿が小さく小さく落ちて行くのが見える。
 その体が潰れる音は流石に聞こえなかったが、ウィンクルム達には、その消えて行く絶叫が勝利を確定したように聞こえた。


「ミラス……!」
 外縁部で放心したように立ち尽くすミラス。
 そこにまずはセナが駆け寄って行き、生存しているウィンクルム達全員が後に続いた。
「セナ」
 ミラスは複雑な顔で神人を振り返った。
 セナはその顔を見て息を飲んだ。
「あ……ひっぱたいてごめん」
「ううん。いいんだよ」
 ミラスは微笑んでいる。
「前世の事を覚えてなくても、僕は僕だし、セナはセナだよ。今が一番大切なんだって、僕は分かったよ」
 ミラスはそう言うとセナの手を取った。
 セナは躊躇ったものは一瞬で、すぐにミラスの手を強く握り返した。
「ありがとう……君らのおかげだ」
 ミラスは自分達を取り囲むウィンクルム一人一人の顔を見た。
 面はゆそうな者、嬉しさを隠せない者、それぞれだったが、彼らの顔には笑顔があった。
「君たちが、一生懸命戦う姿を見て、僕は大切な事を思い出したんだ。セナと出会った事、セナと一緒に見た希望、助け合った事、一緒に悩んだ事、やり遂げた事、信じられると思えた。僕は、君らと同じウィンクルムであることを、心から誇りに思うよ」
 悩みが全て消えた顔で、ミラスはそう言い切ったのだった。
「よかった……」
 海十がほっと胸をなで下ろした。傍らのフィンも、顔から冷たい怒りはすっかり消え去っていた。
「僕も精霊とすれ違った事があるから、君たちの事は人ごととは思えなかった。あのときの辛さを思い出したよ。だけど……仲直り出来た。君たちもこうして、もっと絆が強くなったんだと思う」
 セラフィムが安堵を明らかにしてそう言った。
「二人とも、ただウィンクルムだからの好きじゃないだろう。おれも、精霊を精霊として以上に好きになった時の気持ち、それを伝えられた時の気持ちは忘れられない。それが前世の事や、誰か人に言われたからって、傷つけられるようなものではないと思う。セナさんとミラスさんがこうなれて……本当によかった」
 瑠璃が続いてそう言った。
 ひとりひとりみんなが、頷いていた。
 それからウィンクルム達は互いの無事を喜び合った。
 一つの戦いが終わった事――そしてウィンクルムの絆は誰にも、前世の自分にすらも邪魔させる事は出来ない事を、彼らは確信していたのである。
 信じる想いは裏切られる。
 裏切られてもまた信じる。
 何度裏切られても、踏みにじられても、信じ続け、冷たい心をとろかす強さ――それは多分ひとつの愛の形ではないだろうか。


(執筆GM:森静流 GM)

戦闘判定:大成功

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