リザルトノベル【男性側】第二監獄『黒縄』防衛部隊
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リザルトノベル
●円形300メートル四方の大監獄『黒縄』。
トランスとコンフェイトドライブを各自終えたウィンクルム達が、任務のために『黒縄』に突入した時、出迎えたのは囚人達の歓声であった。
「殺せ殺せー!」
囚人達の中には殺人鬼なども多い。そこに現れたDスケールオーガとデミ・オーガ、
さらに6名のマントゥール教団員の姿にまるで競馬でも見るかのように歓呼の声を上げ、出迎えたのであった。
「善悪も分からないのか……」
スコールがそう呟いた。隣の精霊のネロは無口なため答えないが、緊張の面持ちである。今回のマントゥール教団員の突入。
囚人達をオーガへの生贄にするという目的があるのだ。それなのに、囚人達はオーガとマントゥール教団を煽り続けている。
「殺せ!!」
オーガを呼ぶ声の合間合間にそんな痛罵が聞こえてくるのだ。
「生きて帰れますように」
ルゥ・ラーンの精霊コーディは目を閉じてそう言った。それは、圧倒的な数のDスケールオーガとデミ・オーガに囲まれたウィンクルム達全員の気持ちでもあった。
そのコーディの声が聞こえたように、薄闇の中、遙か前方にいるDスケールオーガの纏う瘴気の闇が濃くなる。
「コンラート……、Dスケールオーガを確認したよ。ヤックアドガだ」
オルガスコープを駆使しながら、天宮 水生は自分の精霊にそう話しかけた。
「ヤックアドガ。猪……か」
コンラートは優しげな面を曇らせて答えた。
Dスケールオーガ『ヤックアドガ』……彼は、猪の頭部を持つ凶暴なオーガである。頭部についている巨大な角によって、
闘牛のように突進し、一撃必殺の攻撃をしてくると言われている。命中率は低いが、威力は極めて高い。
また、角と頭部周辺は非常に硬く、コンクリートや鉄板にぶつけても傷一つ負わないと言われている。
そのヤックアドガの周囲には、瘴気を浴びてデミ・オーガとなった大多数の犬や猫がいる。ゾンビを思わせる怪しい佇まいの彼らは、首輪をつけているものも多くあった。
「捨てられたペットたちが、……デミ・オーガ化しているのか……」
それに気がついて、蘇芳はくっと奥歯を噛んだ。身勝手な飼い主、身勝手な人間達のせいで、
かつては愛くるしかったペットたちが、瘴気を浴びてオーガとなり、人間達に牙を剥く。なんとやるせない話だろう。
「酷い。……だからこそ、浄化してあげよう」
蘇芳の神人、萌葱は感情をこめてそう言った。それを聞いて他のウィンクルム達も頷き、
それぞれ武器や装備品を構えて戦意を明らかにした。
「愚者どもが……!」
それを見てマントゥール教団員達が嘲笑し、彼らを挑発し始める。
「貴様らなどに、オーガ様を倒せるものかっ、我ら教団の意志を阻止すると言うのなら、ここで貴様らも生贄にしてくれるっ!」
「愚か者め!」
罵声に対しては挑発に乗らず、ウィンクルム達はオーガと教団員の包囲を突破するために動き始める。
まずはルゥとラティオ・ウィーウェレがA.R.O.A.から支給された懐中電灯を点灯して高く掲げ、辺りの暗闇を照らし出した。
「ノクス、気をつけて……」
ラティオの灯りを受けて、ノクスがフォトンサークルを展開する。
フォトンサークルは自分を中心に円形5メートルの聖域を作り上げ、中に入った者達の防御力を上げる。
そうして、ノクスは後衛を守るために一回、壁の方に下がる。
ノクスのサークル内にはカイエル・シェナー、イヴァエル、椎名了、正宗 誠司が確実に入った。その他にも低レベルの者や防御力に心許ないものがノクスの周囲に集う。
「俺達を愚か者と言うあんたらはどうなんだ、狂信者ども! 頭の弱いオーガに従う下っ端が、俺達ウィンクルムに勝てると思うなっ!」
そこで蘇芳が教団員に怒鳴り返し始めた。
「なんだと!?」
顔色を変える教団員達。緊張がデミ・オーガ達にも走る。
「狂った頭でオーガの支配がどうたらとか、聞いてられないんだよっ! 人間の世界は人間の常識で統べるに決まっているんだろうっ!」
蘇芳は萌葱に目配せをしている。萌葱は蘇芳が教団員の注意を惹きつけているうちに、マグナライトを消して闇の中でターゲットに接近。
「おのれ、必ず後悔させてやる……!」
教団員は邪眼のオーブを構えると、周辺のデミ・オーガを操り、ウィンクルムの方へ突っ込ませた。
「ほら、さっさと殺せ殺せ! なんなら俺も参加してやろうか!」
何を勘違いしているのか、囚人達がそう叫び始めた。
「バカ言うなっ! お前ら、生贄になってもいいのか! 落ち着け!」
スコールがそう怒鳴った。
しかし、教団員達はその声を聞いて、大笑いしながら近づいてくる。
「さあ、確かに、貴様らも今後の戦闘に参加することになるかもな。――生贄としてだが」
邪眼のオーブ。それにギルティ・シードを手にして牢屋に近づく教団員。迫ってくるオーガ達。
ネロは包囲を切り開くために両手剣『ゼノクロス』を振り、小型の犬猫を叩っ切る。
「突破口を作る!」
デミ・オーガは流石に素早い。回避出来ない動きでネロに飛びかかる。
ネロはローズガーデンを使い、吸血薔薇を身に纏ってガード。
そのネロの隣にルーカス・ウェル・ファブレが立つ。ダンディな彼は和服姿ながら激しく動いた。
「先手必勝!」
そう叫ぶと、トルネードクラッシュ2を迫ってくるデミ・オーガの群れにぶっ放した。
全身を駒のように回転させ、敵を薙ぎ倒す範囲攻撃だ。
数匹の犬猫が床や壁に叩きつけられて悲鳴を上げる。
その小型デミ・オーガの向こうから迫ってくる巨大な猪の頭――ヤックアドガ。
「今だ、イヴァエル」
カイエルの指示とともに、彼の兄、イヴァエルは『乙女の恋心』を完成させた。カイエルはいつもの天然ぼけ気質を完全に封印した冷静さである。
「――仕留める!」
超高熱のエネルギーが照射され、ヤックアドガの胸部を焼け焦がす。
ほぼ同時に、エルド・Y・ルークの精霊ディナスの呪文も完成した。恰幅のいいエルドの影から、顔に似合わず好戦的な精霊は、光の呪文をオーガに向ける。
シャインスパークの目映い光が、闇を払い、辺りを明るく照らし出す。
エルドは光が届くように、ディナスを空間の中央へ誘導し始めた。
●
ネロとルーカスが開いた突破口。
そこをくぐり抜けて走る神人と精霊達。
それに対して、恐れをなしたのか教団員達は大型のデミ・オーガの影に隠れるように闇の中へ散っていった。
楼城 簾は、片目のオルガスコープを確認して強敵の位置を測定する。
「あちらに、だいぶ敵が密集しているようだね」
「はい」
フォロス・ミズノは今は廉の指示に従い、ショートボウ「アルシエ」で大型のデミ・オーガを瞬殺する。
それから数度、フォロスは弓を闇に放った。
闇を走る人の足音が聞こえる。
「レンさん」
それをミズノは簾に促した。
「敵は向こうだ!」
その情報を味方に周知する簾。
萌葱や柳恭樹達が、廉の示した方角へと走る。
マントゥール教団員は、邪眼のオーブを構えてウィンクルムに対抗しようとする。
オーブに操られるデミ・オーガ。
しかし、ハーランドのファスト・ガンがデミ・オーガ達を撃ち払っていく。元軍属の彼は流石の動きと銃裁きだ。着ている軍服はコスプレらしいが。
教団員がギルティ・シードを投げつけようとした時、恭樹がすかさず体当たりをぶちかました。
教団員は、ごく普通の人間である。ウィンクルムの戦闘力には敵わない。恭樹の体当たりでも充分に沈黙させる事が出来た。
闇の中、密かに移動してきた萌葱は、見えない箇所からフレイル「ボートのオール」を振り下ろす。
もろに攻撃を受ける教団員。
衝撃に体が完全に硬直してしまう。
「急げ!」
その萌葱に恭樹が準備してきた結束バンドを投げる。
それをつかみ取ると萌葱はたちまち教団員を縛り上げ拘束する。
「そちらです、バルト……でも気をつけて!」
新月・やよいは己の精霊に声をかける。
闇討ちを繰り返す萌葱の近くで、バルトは襲いかかってくるデミ・オーガや教団員に対してウルフファングを行っている。
デーモンズアイで己の力を高め、狼の頭部のごとく変形した刃で次々と敵を倒していく。彼もまた元軍人であるからには、攻撃することに躊躇いもない。
自らも敵に攻撃も受けるが、デーモンズアイの力で逆にバルトの力は高まっている。
やよいはバルトの倒した教団員をロープで拘束し、デミ・オーガを操るオーブを探す。
そのとき、ディナスのシャインスパークがまた光った。ディナスはエルドの指示により、一定の間隔でシャインスパークを行っている。
中央に立っているため、辺りはまんべんなく明るくなる。
闇に潜む教団員の邪眼のオーブが見える。
やよいはすかさず魔弓で狙撃。オーブが砕ける。
月影 優は懐中電灯を片手に闇を移動。
懐中電灯を一回消して教団員に接近、突然灯りを点灯して目くらまし。
教団員を不意打ちする。
「烈くん、よろしくお願いしますね」
そこで、陽光 烈がマジックブック「目眩」で殴打。
本の錯乱の効果により、教団員は訳の分からない方向に向かい訳の分からない事を喚き出す。
「優、よろしゅうな」
そこに優がステッキ「素敵な南瓜頭」で数回、教団員を殴りつけて床に打ち倒す。
すると手際よく烈が用意してきた紐で拘束。
優がオーブを破壊、ギルティ・シードを回収。太陽と月のように対照的な容姿を持つ二人は、阿吽の呼吸で教団員を無力化していく。
そのとき、西園寺優純絆は小さい体を生かして闇の中を全く無傷で移動してきていた。
次々に仲間が拘束して一箇所に集めた教団員に近づいて行き、邪眼のオーブを探すために手を伸ばす。
「生贄なんて、ダメだよ……大事な事に気がついて」
拘束されたまま子供の優純絆に醜悪な事を喚き、シードを隠そうとする教団員。
その教団員に、デミ・オーガが襲いかかる。
敵の手に落ちた仲間を抹殺しようと、別の教団員が襲撃させたのだ。
そこにコーディのマジックブック「目眩」が飛ぶ。デミ・オーガはたちまち錯乱状態に。コーディはさらにそのデミ・オーガを盾で殴りつけて黙らせる。
そのコーディの手元を明るく照らすルゥ。
(一緒に赤い月を見ようと言われましたが……その前にとんでもないものを見せられそうです)
コーディはそんな事を考えている。見るからに占い師のルゥと踊り子のコーディは不思議な雰囲気を醸し出している。
唖然としている教団員の衣服の中から、優純絆はオーブを見つけ出す。
「ジェンマ様っ! 守ってっ」
そう叫んで、愛の女神のワンド「ジェンマ」で叩き割った。
着々とウィンクルム達は任務を進めていく。
●
加納星夜はノクスのフォトンサークルの内側、壁を背にして戦っていた。
手前には精霊のアルス・ハーベルンゲンがアプローチを駆使して敵の注意を惹きつけている。
そのアルスの横を数匹の小型犬のデミ・オーガがすり抜けて星夜に襲いかかった。
星夜は小型犬から逃げようとした。
弾みでフォトン・サークル内から出てしまう。
そこに――
ヤックアドガの角が、迫った。
飛び出てきた星夜の体が、ヤックアドガの突進により、まるでトラックにでも跳ねられたように宙に舞い、背後の壁に叩きつけられた。
「セイ!」
アルスが悲鳴のように叫ぶ。
星夜は床に倒れて動かない。
異変を知ったエルドが空間の中央からディナスを連れて戻って来る。
ディナスは星夜の状態を見て何か言いかけるが、すぐに冷静になり、ワードオブゴットを詠唱。
続いて、フォトンサークル内に残っていた誠司が、ファストエイドを星夜に唱えた。
その間、アルスは迫ってくるデミ・オーガにアプローチをかけて注意を惹きつける。
それを横から了が護身用小刀「ライラック」と短剣「マンゴーシュ」を使い分けて切りつけ処理していく。
「オレが負けるわけないでしょ、勝ちに行くッスよ」
元々スポーツをしていた了は運動神経がいい。並み居るデミ・オーガを次々切り伏せていく。
(姫君も頑張っているようだ……私もしっかりしないと!)
誠司はファストエイドに気合いを入れる。
カイエルはイヴァエルを庇って前に立ち、ヤックアドガを攻撃。
カイエルの背後からイヴァエルは乙女の恋心を撃つ。
「コンラート、敵を……!」
水生の指示を受け、コンラートはDスケールオーガ、ヤックアドガに向かって行く。
乙女の恋心のダメージにうずくまるヤックアドガに向かい、スネイクヘッドを撃ち放つ。
水生は傷ついた仲間を庇って立ち、コンラートはその水生を守るようにしてオーガを攻撃。
ルーカスはヤックアドガを中心にトルネードクラッシュII。残ったデミ・オーガを吹き飛ばしながら確実にダメージを与えていく。
ネロはローズガーデンで身を守りながら、ルーカスの脇から攻撃を繰り返す。
ヤックアドガは興奮のあまり口から汚い涎を垂らしながら、次の獲物を狙って咆哮を上げる。
「ウオオオオ……!」
ラティオの照らす懐中電灯の光の中、傷つきながらも戦意を上げて吠える猪ヤックアドガの迫力は物凄い。
その声に、オーブ破壊を終えた班の方が気がついた。
神人達が教団員を拘束し、ギルティ・シードを回収しつつある。
それを確認すると、フォロスは遠隔からヤックアドガに向かい、ダブルシューターIIを撃った。
脇では廉がヤックアドガの強さをオルガスコープで確認している。
やよいが魔弓で遠隔攻撃し、その援護を受けながらバルトが走りより、ヤックアドガにウルフファングを撃つ。
既にデミ・オーガはあらかたが打ち倒され、後はヤックアドガだけだ。
ディナスはエルドの指示を受けながら星夜の傍らに座り、誠司が回復の呪文を唱え続ける。
神人達は唱えられるものはディスペンサを唱えて精霊のMPを回復していく。
精霊達は全力を振り絞ってヤックアドガに攻撃を繰り返す。
ただ一匹残って奮戦を続けるヤックアドガ。
それに向かい歓声を浴びせる囚人達。
仲間の信じる心を頼りに、ウィンクルム達はオーガに攻撃を繰り返す。
ついに、フォロスのダブルシューターIIがヤックアドガの眉間に撃ち込まれた。
「ガアッ……!」
ヤックアドガが口から血反吐を吐く。
そのまま巨躯は岩のような音を立てながら、地面に崩れ落ちていった。
「やった……!」
ウィンクルム達の顔に喜びの色が広がる。
まるで潮が引いていくように、囚人達の罵声も歓声もつまらなさそうに消えて行った。
マントゥール教団達の作戦は阻止されたのだ。
拘束された教団員達は、デミ・オーガやヤックアドガの体から瘴気が吹き上げていくのを見つめていた。
瘴気は氷の塔、オベリスク・ギルティの方角へと流れていく。
「くそっ……」
そのとき、一人の教団員が口を蠢かした。それを廉が止める。
「自害する気か? 馬鹿な事を!」
舌を噛もうとした教団員の口の中に、廉は丸めたハンカチを押し込んだ。
「どんな理由があろうと自ら命を絶つなどと馬鹿げた事ですよ」
エルドもそう言って教団員達を窘めた。
「あなたたちが何を信じようと勝手ですが、人の世界には人の掟があるのですから……人の裁きを受けるのです」
エルドが静かになだめるようにそう言うと、教団員達は悔しげに顔を歪め、ウィンクルム達を睨み付けてきた。
「これで勝ったと思うな。世界はオーガ様が支配するべく定められているのだ。我らは今回は失敗したが、次は必ず……!」
言葉の通じない信念のようなものを感じ、エルドも、廉も、口を噤んだ。
ウィンクルム達の言葉が世界を乱す者達へと通じて、戦いが終わるのはいつの日なのか。
『黒縄』での戦いはウィンクルム達の勝利で終わったが、マントゥール教団との総力決戦は今始まったばかりである。
氷の塔オベリスク・ギルティ、オーガ、精霊……教団の真の目的。
様々な謎に思考を巡らせながら、ウィンクルム達は拘束した教団員達の肩に手を伸ばしたのだった。
「『物語はハッピーエンドで』……それがモットーなんですがね……」
小説家であるやよいがそう呟くと、仲間達も自らの相方に想いを述べた。戦いのさなか、ウィンクルム達は様々な事を感じ、様々な事を考える。
今はがんじがらめに縛られている教団員達も、やがて邪教の掟から解き放たれて、人の世界で人の愛に生きられるように――。その願いを心のいずこかに秘めて。
(執筆GM:森静流 GM)
戦闘判定:大成功