リザルトノベル【男性側】ゼノアール・ミーシャ討伐部隊
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●「ウィンクルム……コロス……」
ゆらりと金属の擦れる音を立てて目の前に立ちはだかったのは、両手足を鎖で拘束された異質なる者。
顔の右半分以上を包帯で覆い尽し、どこか陰鬱で、どこか狂気じみたそれは、例えるならば虜囚。
それが、ゼノアール・ミーシャという、デミ・ギルティ。
●
A.R.O.A.本部を背に庇うように、ウィンクルムたちはトランスし、ゼノアール・ミーシャの前へと布陣する。
さらに、セラフィム・ロイスと火山 タイガ、初瀬=秀とイグニス=アルデバラン、柳 大樹とクラウディオ、
アキ・セイジとヴェルトール・ランス、ヴァレリアーノ・アレンスキーとアレクサンドルがハイトランス・ジェミニへ。
信城いつきとレーゲンがハイトランス・オーバーし、蒼崎 海十とフィン・ブラーシュがらぶてぃめっとトランスへと移行した。
「ゼノアール・ミーシャなんて、二つを合わせたのかな。元素材より練度が低いかもしれない」
過日の交戦に対峙したラキア・ジェイドバインがそんなことを言った。
「どっちにしても、あのオーラは厄介だぜ」
「そうだね。セイリュー、気を付けて」
ラキアがセイリュー・グラシアへシャイニングスピアをかけると、二人同時に前へと出る。
まずはオーラを断つ術を探さなくてはならない。物理的な破壊、あるいは強制的な消滅でもって。
「封じてやるぜ!」
「援護します」
セイリューが六道封印を結ぶと、セラフィムが後方へ下ってベンチ裏に位置を取ると、ゼノアール・ミーシャへと銃弾を撃つ。
それに合わせるようにラキアがシャインスパークをゼノアール・ミーシャへ放った。
「グ……」
その攻撃を回避する、ゼノアール・ミーシャをセイリューの【呪符】五行連環が捕らえ、そのオーラをかき消す。
「やった、成功だ!」
セイリューの声に、一気に士気が上がる。
オーラを対処できさえすれば、しばらくは阻まれる心配はないのだから。
「ランス」
「ああ。――火力には俺がいる! それまでの時間、頼む!」
セイジの声にランスが後方へ下がると、詠唱を開始する。
ランスの一撃は間違いなくウィンクルムでもトップクラスだろう。その一撃が決まりさえすれば、オーラはもとより、多大なダメージが見込める。
「的を増やせば分散されるだろう」
急接近するゼノアール・ミーシャの攻撃は、少しでもウィンクルムが受けずに済ませたい。
クラウディオは陽炎IIを発動させ、分身を作り上げる。
「いつき、ちょっと下がるぞ」
「うん、俺も下がって動きをよく見ておきたい」
カイン・モーントズィッヒェルといつきは後方へ控えてゼノアール・ミーシャの動きを注視する。怪しい素振りを見抜くためだ。
「勢いのまま来させないよ」
レーゲンが射撃位置を他のプレストガンナーと重ならないように布陣した後、ゼノアール・ミーシャの足元へ向けて牽制の射撃をおこなう。
その攻撃はゼノアール・ミーシャに当たりはしたが、オーラに阻まれ勢いを削ぐことはできない。
「それなら、無理やりにでも止まってもらうよ!」
「叶、行くぞ」
叶と桐華が呼吸を合わせてゼノアール・ミーシャへと向かっていく。
左右へ別れて挟撃を試みるが、すり抜けるように攻撃をかわすと鎖を振り上げた。
「後ろへは行かせない。俺が守る! フィン、頼んだ!」
「分かってる、海十は俺が援護する」
フィンが下半身を狙って射撃すると、海十が宝玉「魔守のオーブ」で力場を展開すると、隙を狙って飛び出して短剣「クリアライト」で斬りかかる。
閃光がゼノアール・ミーシャの視界を妨げ、成功を確信した海十が後退し、すぐさまクラウディオが連撃に打って出た。
しかし、視界を奪われているとはいえ、ゼノアール・ミーシャの動きは俊敏だ。
クラウディオの攻撃をかわすと、振り上げた鎖でクラウディオの本体を捕らえる。
「――っ!」
「コロス……ウィンクルム……」
断罪の鎖がクラウディオに命中し、さらに後方へと弾き飛ばされた。
一見すればただの鎖だが、その強度は並の武器などをはるかに凌ぐ。
「ぐ、あっ」
打ち付けられたクラウディオが立ち上がる気配を見せない。
「クラウ!」
大樹がすぐに駆け寄ると、ラキアもそれに続くように下がった。
「問題ない……」
「……そっか」
とても問題がないような傷ではない。けれど、大樹は敢えてそれを指摘しなかった。
「カウンターを仕掛けられたらどうすることもできないからね……」
苦々しく眉をひそめて、ラキアがサンライズをクラウディオにかけた。
けれど。
「……すぐに戦線復帰すると危ないかもしれない」
「――だってさ、クロちゃん」
ラキアが止めるような気がしていた。
だから大樹はなにも言わなかった。
「分かった……すまない」
「平気。その分も俺が頑張ってみるわ」
クラウディオを安全な場所まで運ぶと、ラキアはすぐに戦線へと戻った。
「大樹……」
「――元気になったら、戻って来てね」
それは難しい話ではあったけれど。
そう告げて、大樹は戦線へと戻る。
「アーノ、行くぞ」
「ああ」
ヴァレリアーノとアレクサンドルがゼノアール・ミーシャへ向かって走り出す。
「少しでも隙を……」
イェルク・グリューンが二人を援護するように射撃すると、それに合わせてレーゲンも足元を狙う。
同時にヴァレリアーノとアレクサンドルが攻撃を繰り出すと、ゼノアール・ミーシャはそれを回避する。
だが、回避した方向からタイガが飛び出して攻撃を仕掛けた。
「こっちだ!」
【輪廻剣】インカーネーションを振り上げて斬りかかるも、ゼノアール・ミーシャは後方へと下がってかわした。
「狙うなら顔、かな」
「俺も顔を狙おう。顔なら否応なく避けるだろう」
眼前に迫るものを回避するのは当人の意思とは無関係の反射的な行動だ。
それを狙って大樹とセイジが波状攻撃を狙って飛び出した。
大樹が大鎌「斬月」をゼノアール・ミーシャの眼前で振ると、やはり大きく――露骨なほどに分かりやすく回避した。
その動きを見逃すことなく、セイジはゼノアール・ミーシャの包帯目掛けてウィップ「ローズ・オブ・マッハ」をふるった。
「そこか」
その攻撃は、確実に包帯を切り裂いた。
その下に隠されていた、手のひら程度の器が覗いて見える。
「見つけたぞ!」
「……、……コロス……ウィンクルム――」
一度引いたゼノアール・ミーシャは下がった勢いのままセイジ目掛けて咎人ノ殴打を繰り出した。
「ぶっ殺してやる!」
「なっ!?」
陰鬱とした雰囲気を纏っていたゼノアール・ミーシャの空気が変わった。
口調も、雰囲気も、セイジはそれを知っている。だからこそ、わずかに怯んだ。
拳がセイジを直撃すると、衝撃に後方へと吹き飛ばされた。
「ぐぅっ……!」
受け身を取ってセイジは地面への強打は免れたものの、その攻撃の強さを物語るように衝撃波が周囲へ広がり、ヴァレリアーノ、アレクサンドル、大樹、タイガが巻き込まれ、弾き飛ばされる。
「っ……」
それぞれが体勢を立て直す中、タイガだけが地面へと打ち付けられ、動けずにいる。
「タイガ……!」
セラフィムがすぐに駆け寄り、タイガを守るように抱き起こす。
「セラ……、気を付けろ」
「そんなことより、タイガが……!」
耐えられる者もいる。けれど、衝撃波で戦線を離れざるを得ない者もいるのが、ゼノアール・ミーシャの攻撃の厄介なところだ。
迂闊に飛び出せば一撃で幾人をも退けられる。
タイガの傷は深い。
「回復を――」
「いい」
ラキアが言い終えるより早く、タイガは言葉を遮った。
「立ってるやつを……優先してくれ。俺は、休んでるから」
最前衛で立っていることが今回のタイガの掲げた目標だった。
けれど、それは叶いそうにない。ならば、少しでも戦場に立っている者の回復を優先すべきだ。
「……分かった。この後も、戦場に残る人を優先させてもらうよ」
「ああ……それでいいと思うぜ」
セラフィムはタイガの手を取って、悲しげに見つめる。
「セラ、大丈夫だって。俺は……生きてるから」
「うん……大人しくしててね。……絶対に」
「……子供じゃないんだから」
苦しげながらも笑って見せるタイガに、セラフィムは頷くと戦線へと戻る。
「顔を狙っていこう!」
「右側を集中的に狙っていくぞ」
いつきとカインが声を発し、周囲に伝える。
あの露骨な回避行動は反射的に動いたというよりも、意識して大きくかわしたのだろう。
それはつまり、そこに弱点があることの裏返し――。
「私は本部を守りますね」
「後ろは任せたぜ、イグニス」
イグニスが詠唱に入ると、秀がゼノアール・ミーシャへ向かって駆け出す。
「弱点が分かってるなら話は早い」
確率を上げるためにも、フィンとイェルクがゼノアール・ミーシャの顔を狙って射撃する。
イェルクの攻撃をかわしたものの、フィンの攻撃が右顔面へと直撃する。
「グ、アアア……!」
フィンの一撃が弱点へと命中すると、ゼノアール・ミーシャは蹲るように片膝をついて苦悶する。
「やった!」
破壊の手ごたえを感じたフィンが声を上げる。
ゼノアール・ミーシャの反応に、桐華がすぐさま動いた。
「畳みかける……っ」
桐華が一気に距離を詰めてトーベントで連撃を仕掛ける。
「コロス……」
攻撃を避けると、鎖が桐華の剣を絡め取った。
「断罪します――!」
再度空気を変えたゼノアール・ミーシャは桐華の攻撃を利用して反撃へと転じた。
断罪の鎖が桐華へと打ち付けられる。
「く……っ、あ……」
隙のできた桐華を直撃すると、そのまま弾かれて地を転がった。
ゼノアール・ミーシャがウィンクルムたちから距離を取ったタイミングで、ウィンクルムたちも一度戦線を下げ、桐華の救助に向かう。
「桐華」
「油断、した……」
心配そうに見つめる叶から視線を外した桐華に、叶は頷いた。
「無事ならそれでいいよ」
「……ああ」
全身を襲う痛みからか、桐華は苦しげに眉をひそめ、そのまま戦線を離脱する。
*
ラキアがヴァレリアーノにサンライズをかけて傷を癒す。
「セイリュー、ディスペンサをお願いできるかな」
「ああ、分かった」
魔力を受け渡した後、ラキアはさらにアレクサンドルと大樹の傷もサンライズで癒す。
「カウンターが主体みたいだね」
セラフィムがぽつりと呟く。
「みたいだな」
カインとイェルクがらぶてぃめっとトランスへと移行したあと、セラフィムの言葉に頷く。
「カウンターだと斬りかかったところに返されるから、あまり庇えないね……」
前に位置を定めているラキアも悔しげに呟いた。
「波状攻撃で斬りかかる人数を増やすか……」
「でも、それも危険な気はするけど」
海十とフィンが意見を交わしたあと。
「弱点は壊した。あとは、攻めるだけだ」
「各々、最大限に努めるのだよ」
ヴァレリアーノとアレクサンドルの言葉に、再びゼノアール・ミーシャと対峙する。
飛びかかってくるゼノアール・ミーシャへ向けて、海十も真っ向から向かって行った。
「視界を奪えば……!」
クリアライトで斬りつけると、閃光がゼノアール・ミーシャの視界を奪う。
その隙をついてフィンがダブルシューターIIを撃ち込むと、ゼノアール・ミーシャの動きがわずかに鈍った。
それに合わせるようにイェルクが上半身を狙う。
「俺も続くぜ!」
カインが追撃を仕掛けたが、その攻撃はゼノアール・ミーシャに傷を作るには至らない。
「ちっ……!」
「逃がしません!」
鋭く流暢な言葉を操るゼノアール・ミーシャがすぐさま攻撃へと転じ、手刀に瘴気を纏わせ振るうと、カイン目掛けて一直線に黒い斬撃が迫る。
「カイン!」
イェルクの叫びにカインは反応を示すも、その攻撃は直撃する。
「くそ……っ!」
勾玉が効果を放つも、その攻撃はカインを後方へと吹き飛ばした。
追撃を仕掛けるようにゼノアール・ミーシャが動く。
「追わせないよ」
それを遮るようにレーゲンが足下を狙って射撃する。
さらにフィンも連携するようにワイルドショットを撃ち込み、ゼノアール・ミーシャはわずかにできた傷に、やや後方へと下がる。
「カイン、大丈夫ですか……!?」
「……、つ……」
イェルクの声にかすかに反応は示したが、立ち上がるのが精いっぱいといった感じだ。
「無理をせずに下って――」
「立てる以上はやれる」
「……カイン」
前線へと戻るカインを見つめるイェルクは、それ以上は引き止めずに銃を構える。
「サーシャ、行くぞ」
「分かっている」
ヴァレリアーノとアレクサンドルが呼吸を合わせて連携し、ゼノアール・ミーシャへと攻撃を仕掛ける。
二人へ意識が向いている間に、イグニスは本部への被害を防ぐために天の川を展開した。
「本部はこれで守れると思いますが、後方にはくれぐれも気を付けてください」
壁に触れれば想定外のダメージになるかもしれない。
イグニスは声をかけて注意を呼び掛ける。
「仲間が吹き飛ばされないためにも、捕まえよう」
セイジがゼノアール・ミーシャへ鞭をふるう。ダメージを重ねる手応えと同時に、その身を捕縛する。
「ランス!」
「ああ、行くぜ! みんな離れろよ!」
その声に軌道上から全員が退避し、そこへランスが一筋の希望を撃ち込む。
「ッ……!」
回避行動を取ったゼノアール・ミーシャだが、弱点を突かれた激痛に、わずかに反応が遅れた。
ゼノアール・ミーシャへと一直線にエネルギーが放出され、命中する。
「い、ってぇな……!」
いくつかの人格を併せ持っているかのようなゼノアール・ミーシャが、荒っぽく言葉を紡ぎ出す。
「あんまり効いてない、か……?」
「ランスの一撃だぞ」
撃ったランスも、セイジも、ゼノアール・ミーシャが膝を折ることなく立っていることに驚愕を隠せない。
「一番効いた。が、それだけだ。軽い――!」
よもや高火力を誇るランスの一撃を軽いと言われようとは思いもしなかった。
ゼノアール・ミーシャが地を蹴って距離を詰める。
ラキアが即座に前にでて庇う動作を見せたが、イェルクが撃ち込むワイルドショットにゼノアール・ミーシャが軌道を修正する。
「レーゲンさん!」
「任せておいて」
イェルクの呼び掛けに、レーゲンは行く手を阻むように射撃する。
「妨害はいくつあっても困らないからね!」
さらにいつきが懐中電灯「マグナライト」を照射して目くらましを狙うと、ゼノアール・ミーシャに隙が生まれた。
「狙っていくぜ」
秀が槍で狙いすまして攻撃する。
その攻撃をゼノアール・ミーシャは鎖で受け止めた。
「気を付けて!」
ラキアが叫んだ。カウンターを警戒してのことだ。
だが、注意を呼び掛けたところで即座に離れられるものでもない。
断罪の鎖が秀を直撃する。
「ぐあ……っ!」
放り投げるように秀を後方まで投げ飛ばすと、さらにゼノアール・ミーシャは攻撃へと転じてきた。
「俺が相手だよ」
「援護なら僕にも……!」
叶が積極的に前へ出ると、セラフィムが援護のために射撃を放つ。
「まだだよ」
大樹が後を追って鎌を薙ぎ払う。
ダメージにはならずとも、その攻撃は秀を守る一手に繋がる。
「ウィンクルム……シネ……」
ゼノアール・ミーシャが再び手刀に瘴気を纏わせ、黒い斬撃を大樹へと放った。
「っ、やば……」
「危ない!」
海十が飛び出し、大樹を直線軌道から押し退けると、その攻撃を肩代わりする。
「くっ……つ、……」
地を滑るように攻撃を受け止めた海十は痛みに顔を歪ませはしたが、傷は軽微。
「ありがとう……大丈夫?」
「平気だ。無事でよかった」
海十が追い付けたのは底上げされた力のお陰。
そしてその傷を軽微にしているのもまた、底上げしている力があってこそだ。
「秀様!」
イグニスが倒れ込んだ秀へと駆け寄った。
秀への一撃は、ひどく深い。
「秀様、しっかりしてください……」
「絶望的な顔するなよ……」
秀はそういったが、イグニスが表現された通りの絶望的な表情になるのはやむを得ない。
それほど、秀の状態は深刻なのだ。
「これ以上は……」
「ああ、……無理はしないつもりだ」
動けない、と言った方が正しいのだろうが、秀は決してそうは言わなかった。
秀を後方へと下げ、セラフィムが戦線を離脱した彼らを守るようにその場にとどまった。
*
戦線を一度下げると、ラキアは後方でサンクチュアリ Iを発動する。
「ごめん、もう回復に力が割けない……」
ラキアに体力的には余裕があっても、魔力の消耗は著しい。
「あとは俺が身を挺して守るけど……」
仲間を守るために癒すことができないのなら、それ以外の手はない。
ラキアの言葉に、イェルクがカインを見る。
「カインも下がったほうがいいです」
「……ああ、分かったよ」
カインは戦場に残ることを決めはしたが、一撃が大きすぎた。
後がないことは本人が一番よく分かっているだろう。
だからイェルクの提案を受け入れた。
「それにしても、ランスの一撃がああも効かないとは……」
「練度が低い、なんて甘く見ていたかもしれない」
セイジの言葉に、ラキアも頷いた。
「攻撃は効いてるみたいだから、無理をしない程度に攻めていこう」
セラフィムの言葉に作戦を定め、再びゼノアール・ミーシャと対峙する。
「もう一発当ててやる」
ランスが再度、一筋の希望の詠唱を開始する。
「私は通常攻撃で援護するようにしますね」
それに続いてイグニスが攻撃態勢へと入ると、海十が動いた。
「援護、頼む!」
「海十も無理し過ぎないで!」
走り出す海十に、フィンが声をかけて銃を構える。
「オレも援護するぜ!」
セイリューがゼノアール・ミーシャへと呪符を放って意識を逸らす。
「ウィンクルム……、……」
ゆらりと動いて、セイリューを目掛けてゼノアール・ミーシャが走り出す。
「簡単に行けると思わないで」
フィンがダブルシューターIIからグレネード・ショットを連続で撃ち込むと、ゼノアール・ミーシャに命中し、その動きを鈍らせる。
それでもさらに足を進めようとすると、レーゲンが追い打ちをかけるように足下へ銃弾を放つ。
「邪魔はさせないよ」
「助かる――!」
海十が隙をついて一気に斬りかかると、クリアライトが閃光を発してゼノアール・ミーシャの視覚を妨害する。
「……ッ」
「狙わせてもらいます」
イェルクがゼノアール・ミーシャへとダブルシューターIIを撃ち込み、少しずつダメージを重ねていく。
「挟撃するぞ」
「隙はついてこそ、だ」
ヴァレリアーノとアレクサンドルが足並みをそろえて攻撃を仕掛ける。
「念には念を、だよ」
いつきがマグナライトでさらにゼノアール・ミーシャから視覚を奪うと、二人が同時に斬りかかった。
「もらった!」
アレクサンドルの攻撃は直撃させ、ヴァレリアーノの攻撃を鎖で絡め取ったゼノアール・ミーシャは、振り上げた反動でヴァレリアーノに鎖を打ち付けて地面へと叩きつける。
「くっ……!」
その反応に、アレクサンドルがすぐさま回避行動を取ったが、勢いのついた鎖に激しく打たれて弾かれた。
追撃をかけようとするゼノアール・ミーシャに、セイジが鞭をふるって捕まえると、ラキアとセイリューが飛び出し、二人を即座に救助する。
後方まで下がって、傷の具合を確かめると、ラキアはアレクサンドルに目を向けた。
「我は戦える」
「でも、今の俺は、君を癒すだけの力がない。かなり深手……だよね」
「……うむ」
「だから……」
説得というよりも、懇願に近い。
戦い続ける意思を削ぎたいわけではない。けれど、後がないかもしれない状態で、さらなる深手を追わせたくないのも事実だ。
「サーシャ」
ヴァレリアーノがアレクサンドルに首を振って見せる。
「時間が経って、戻れそうなら戻ることが最善だと思う」
「……分かった……」
時間が経てば戻れるかもしれない。だから今は退く。
彼らのやり取りを見つめて、イェルクが銃を構え、ダブルシューターIIをゼノアール・ミーシャへ撃つ。
それに続くようにレーゲンが足下を狙い撃つと、大樹がゼノアール・ミーシャへと距離を詰めた。
「意識を少しでも逸らすよ!」
「分かった」
セラフィムの声に叶が同調し、ゼノアール・ミーシャの意識を大樹から逸らすように援護する。
「取った」
死角へ回り込んだ大樹が鎌を薙ぐと、その一撃の反動を利用して大きく距離を取った。
大きなダメージは与えられない。けれど、軽微でも積み重ねていくしかないのが現状だ。
*
「くっ……」
海十とフィンのらぶてぃめっとトランスが時間の経過とともに効力を失う。
先ほどまでは浅かった傷も、力が戻れば深い傷となって海十を襲う。
「海十、大丈夫?」
「大丈夫だ……まだ戦える」
「でも、消耗が激しいのは事実だから……無理はしないで」
「フィンこそ」
フィンの気遣わしげな目を見つめ返して頷くと、海十はクリアライトを手に前を向く。
「一撃を見舞わせてもらおう!」
「捕まえるなら援護するぜ!」
セイジがゼノアール・ミーシャへと駆け出すと、それに合わせてセイリューが呪符を放ち、セイジのあとに続く。
「ランス!」
鞭をふるって捕らえたタイミングでセイジが合図を出すと、軌道を開いてランスが一筋の希望を一直線に放出した。
「いっけぇ!」
「グッ……」
真正面からの直撃を枷と鎖で受け止め、抵抗を試みるゼノアール・ミーシャを、ランスの強力なエネルギーが押し返す。
拮抗した力が、少しずつランスの形勢へと傾いていく。
そして――。
「爆ぜろ!」
気合の一撃が、ゼノアール・ミーシャを吹き飛ばして周囲のベンチを巻き込んで地面を転がった。
「よっしゃあ!」
ぐっと拳を握り締めて歓喜するランスにセイジが目を向ける。
やはり、彼の力はウィンクルムでも屈指なのだ――そう、思って。
「セイジ!」
セイリューの声にはっとした。
油断がなかったかと言われれば嘘になる。
眼前に跳躍して迫るゼノアール・ミーシャを見て、ぎりぎりで回避行動には入れたのは、セイジの経験によるところだ。
けれど。
「しまっ……!」
繰り出された足枷がセイジを完全にとらえた。
「オレが守る!」
セイジを突き飛ばしてセイリューがゼノアール・ミーシャの攻撃軌道に入ると、間髪を入れずにその衝撃がセイリューへ命中し、勢いのまま後方まで弾き飛ばされた。
「ぐ、あ……っ」
身体を捻って体勢を立て直して地を滑るセイリューに、セラフィムが駆け寄った。
「大丈夫!?」
「ああ、平気だぜ」
「うん、それなら、良かった」
なにかあればすぐに救助へと出るつもりだったのだろう。セラフィムはほっと安堵したような表情を見せた。
セイリューが前線へ戻ると、ラキアに笑顔を向ける。
傷は思うほど深くはない。だから安心しろ、と言わんばかりのセイリューにラキアはなにも言わず、ゼノアール・ミーシャへ視線を戻す。
「仲間が傷つけられるばかりは嫌だからね……!」
「私も同じ気持ちです」
セラフィムが銃を構えてゼノアール・ミーシャを狙うと、それに合わせてイグニスが魔法弾を飛ばした。
「隙をつくのは鉄則だよ」
大樹が攻め上がると、ラキアが警戒を強めたのが分かった。
「頼りにしてる」
「……守るよ、必ず」
大きく鎌を振り上げて薙ぐと、ゼノアール・ミーシャが仰け反った。
ダメージにはならずとも、大きな隙を生み出すことはできる。
ヴァレリアーノがそれに続いて攻撃を仕掛ける直前、ゼノアール・ミーシャが攻勢へと転じた。
「ダンザイ、スル……ウィンクルム、コロス……!」
「柳さん、下がって!」
鎖が襲い掛かるように振り下ろされると、声に反応した大樹は身を引く。
しかしその攻撃から逃げきることはできない。
――当たる……!
そう思った刹那、ラキアが大樹の前へと立ち、その攻撃を受け止めた。
「――!!」
ラキアの勾玉が効力を発したが、それでもなお攻撃の軌道は逸れない。
鎖が命中し、ラキアが吹き飛ばされる。
「く……ぅ、ぐ……」
大樹がラキアの身体を受け止め、吹き飛ばされる勢いを相殺するように受け身を取った。
「頼りにはしてたけど、無茶しすぎ」
「そう、かな……仲間が……傷付くより、ずっとマシ……」
「……ありがとう」
大樹はセラフィムにラキアを託して、戦線へと戻る。
「ラキアが一撃、か……きついね」
「もう一度隙を作ってくれ。俺が仕掛ける」
レーゲンの言葉にヴァレリアーノが続く。
「……分かった」
後方からの援護の効果は大きかったが、その分前衛に位置を取る仲間が着実に減らされていく。
前線が否応なく押し下げられ、下手を打てば後ろにまで攻撃が及びそうではあったけれど。
「くれぐれも、気を付けて」
「ああ」
叶の言葉に頷いて、ヴァレリアーノは攻撃態勢に入った。
イェルクが牽制にダブルシューターIIを、ゼノアール・ミーシャを狙って撃ち込み、それに合わせていつきが視界を奪うためにマグナライトで照らす。
「ヴァレリアーノ!」
怯んだ隙を見逃さずにいつきが叫ぶと、ヴァレリアーノはそのタイミングで攻撃を仕掛けた。
「もう一撃です」
さらにイェルクがダブルシューターIIで狙い撃ち、追いつめるように叶が斬りかかるとフィンが撃ち込めるだけの銃弾で逃げ場を奪う。
「レーゲン、こっちからもだ」
海十がタイミングを計って走り出すと、レーゲンはさらに海十への攻撃からも遠ざけるよう誘い込んでいく。
「いくぞ!」
クリアライトの閃光効果を狙って海十が先に斬りかかる。
その背後からヴァレリアーノが飛び出してデビルズ・デス・サイズを薙いだ。
「コロス!」
身を翻したゼノアール・ミーシャは反転する勢いから咎人ノ殴打を繰り出した。
「――……っ!」
拳はヴァレリアーノを捕らえ、直撃して弾き飛ばされる。
「く、……っ!」
さらに衝撃波が周囲へ広がり、海十を吹き飛ばした。
後方にまで及ばなかったのは幸いだったが、直撃を免れなかった二人に緊張が走る。
「ヴァレリアーノ!」
「問題ない」
いつきが近づくと、ヴァレリアーノはすぐに立ち上がって無事を知らせた。
ほっと胸を撫で下ろすいつきは、そのまま海十へと走り寄る。
「海十……」
「俺も、大丈夫……」
とてもそうは見えなかったが、自力で立ち上がれるくらいの力はあるようだ。
「少し下がったほうがいいよ」
無事とはいえ、無理を続けることが最善でもない。
いつきの提案に、後方まで下がった。
*
「押し切れないどころか、ぴんぴんしてるな……」
オーラは消えた。
ダメージもある程度は重ねられた。
それでも、痛撃を与えられなかった。
ゼノアール・ミーシャは未だ余力を残し、その場に立っていた。
(執筆GM:真崎 華凪 GM)
戦闘判定:普通