絵画の中と『子供の遊び』(雨鬥 露芽 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●噂の始まり

それは今から少し前のこと。
町はずれの小さな家で、一人の男が絵を描いていた。

男には家族がいた。
3人の男の子と一人の妻。
男にとっては大切な家族だった。

男の絵は全くと言っていいほど売れなかった。
しかし男は絵を描き続けた。

次第に家族は呆れ始め、とうとう家を出て行ってしまった。


家族がいなくなって、男は子供と全く遊んだことがなかったことに気付いた。

貧しい生活の中、子供は楽しく過ごせていただろうか。
もっと何かできたのではないだろうか。
自分は子供達の笑顔をどれだけ見られただろうか。

男の頭には後悔ばかりが浮かんだ。

そして男は、せめて絵の中だけでも子供達に楽しんでもらおうと
その時描いていた雪景色に子供達が遊んでいる様子を加えることに決めた。
子供達が母親に編んでもらった赤いマフラーと一緒に
思い切り雪の中で遊んでもらおうと思った。


しかし男は子供を描き加える前に、病で倒れて亡くなってしまった。


男がいなくなると小屋は潰され、絵は行方知らずとなった。
しかし、近くの村で小さな噂が流れ始めた。
『町はずれでは時々、潰したはずの男の小屋が現れ、通りすがる人を絵に閉じ込めてしまう』……と。


●そして現在、近くの村

噂で一番困ったのはその村の長だった。
小さいとはいえ、多少の観光客があり
そうして村を少しずつ発展させていこうと思っていたその村の村長。

ところがその噂によって観光客が減っていき、とうとう誰も来なくなってしまった。

村長は、寂しい最期を迎えた男の供養の意味も込めて
ある作戦を立てることにした。



●相談を受けて

それは冬とはいえ妙にひんやりとする日のことだった。
町はずれの道を歩くウィンクルムの姿。
その日は個人的な相談ということで、この先にある村の村長に内容を聞きに行くところだった。

村長への手土産を片手に、村への道を歩いていく。
街から結構歩いてきたが、まだ辿り着きそうにない。
ふと辺りを見ると、手入れもされていないような草地の中に佇む小さな小屋が目に入った。
長い間放置されていたかのような、ボロボロな小屋だ。
しかし、何故か電気がついている。

窓が一つだけついているようだが、覗いてみても中の様子は全くわからなかった。
扉にノックをしたり声をかけてみたりするものの、返事はない。

ノブに触れてみると、どうやら鍵はかかっていないようでガチャリと回る。
ゆっくりと扉を開き、様子を窺うように中に入っていく。
誰もいないようではあるが、誰かがいたような気配は残っている。
あるのは壁と天井と電気だけという、家具も何もないその小屋の中。

カラン――と音が鳴った。

驚いて音のした方向を見ると、額縁に入った一枚の絵画が落ちていた。
雪景色が描かれているその絵の中では、3人の子供達が雪遊びをしている。
真っ赤なマフラーを身に着けた子供達は、とてもとても楽しそうな表情だった。

何かに惹かれてか、それとも不思議に思ってか、つい、その絵に手が伸びる。

瞬間、辺りがまばゆく光り、眩しさのあまり目を瞑った――



●絵の中

目を開けると、辺り一面雪が積もっていた。
先ほど見た絵と同じ景色のようだ。
パートナーの姿もしっかりと確認できる。
どうやら家の中にいた者は全員絵の中に入ってしまったらしい。

しかし、感覚は現実の物と同じらしく、実際に触れることができる。
雪はもちろん冷たく、そして晴れてはいるものの、結構な寒さだ。

そういえば……と思い辺りを見渡してみるが
先ほど絵に描かれていた子供達の姿が全く見えない。
周りを確認してみるが、隠れている様子は無い。

ヒュン――と音を立てて、何かが飛んできた。
どうやら雪玉のようだ。
だが飛んできた方向を見ても誰もいない。

小さく、どこからか楽しそうに笑うような声がする。
もちろん声の主を探しても見当たらない。
周りに楽しそうな足跡がぴょんぴょんと増えていくばかりで、誰の姿も確認できない。

再びヒュンと雪玉が飛んできた。
やはり相手は見つからない。
飛んできた方向は、今足跡が動いている方向と真逆の方だ。
どうやら――誰か――は一人ではないらしい。

しかし、その相手を確認するための方法が思いつかない。
そして出る方法すらも、全く見当がつかない。

この雪景色の中で、見えない何かがいるその空間で
一体、どうするだろうか。

解説

【PC状況】
絵の中からスタート。
把握してるのは
絵に入った事実と子供が見当たらないことだけ。
実はそこにいて、これから悪戯をされることも最初はわかりませんし
本物の絵に子供が描かれてなかったことも知りません。
そんな状態で様々な悪戯をされます。
しかも出る方法はさっぱりわかりません。
相談内容もまだ知りません。


■費用
手土産に300ジェール


■目的
絵からの脱出。
子供達が満足すれば出られるようです。
ただし子供達は悪戯をしてきます。
絵の中では子供達の感情が全ての鍵です。


■概要
子供達が悪戯をするのは神人か精霊の『どちらかだけ』で
基本的には神人を狙うことが多いようです。
状況によっては子供達の姿が見えるようになることもあります。
入っている間、現実の時間は進みません。

場所は全員同じ絵の中ですが、日時は別々。
行動が他の組に影響することはないです。
両者の同意があり、一緒に依頼を受けたという形であれば
一緒に入り協力することが可能。


●悪戯
・押してくる、ぶつかってくる、足をかけてくる等
子供達が転ばそうとしてくる。

・雪を投げる
小さな雪玉を投げてくる。

・雪を服の中に入れてくる
しゃがんでる時のみ。
冷たい。

その他状況でしてくることは変わりますが
雪以外の道具は使用しませんし、怪我をさせる悪戯もしません。


●絵の中にあるもの
・積もる雪
掴めます。本物の雪と全く同じ。
・東側の林
2mほど入ると見えない壁。奥深くへは入れない。
・奥に見える小屋と川
小屋の前を横断するように川が流れており、川の手前に見えない壁があるため
小屋に入ることはできないし川に触れることもできない。

絵で見えた額縁より外は見えない壁で阻まれており、行けません。
ちなみに動ける範囲はおよそ7m四方。子供も同じ。


●可能と不可能
・可能
小さい枝を折る、雪を丸める、投げるなどの小さな変化。
・不可能
地面が見えるまで雪を掘る、木を幹から折るなどの
絵の世界観を大きく変えるようなこと。

ゲームマスターより

お初にお目にかかります、雨鬥 露芽と申します。
プロローグを読んでいただき、ありがとうございます。
今回が初めての執筆になります。
皆様に楽しんでいただけるように精一杯頑張りたいと思います。

子供って男女が一緒にいると茶化したりすることありますよね。
きっとそんな気持ちで皆様を見ているんじゃないでしょうか。

皆様のキャラクターやパートナーは、どんな様子で見えない子供達に対応していくんでしょうか。
悪戯されているのを口実にイチャイチャしちゃうのか、はたまた逃げ回るのか
もしくは対等に遊んじゃうのか(笑)
皆様のプランを楽しみにしてます。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

日向 悠夜(降矢 弓弦)

  ●心情
絵の中…視えない子供…よし、彼らと心行くまで遊ぼう!
弓弦さんも一緒に、ね

ここは…?
わ!転んじゃったや…痛くはないけれど、雪まみれだ
何処に居るかは分からないけれど…ふふ、雪遊びなら受けて立とう!
その場でしゃがんで雪玉を作って…ひゃあ!?
雪を服に入れられたら雪玉作りを、悪戯の被害を受けていない弓弦さんにお願いしたいな

足跡を見つつ雪玉を片っ端に彼らへ投げるよ
…あっ!弓弦さんが居る方に投げちゃった
あはは弓弦さんも雪まみれだね…ってわっ!?やったなー弓弦さん!
弓弦さんも一緒になって、彼らと笑って遊ぼう!

絵から出る時か小屋を後にする時に、ポーチからチョコを3つ置いていきたいな
楽しかったよ、ありがとう



リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  これは・・・雪か?
さっきの絵と同じ光景だが・・・一体?

<行動>
・とりあえず精霊と辺りを散策
・小屋や川を調べてみる
・寒いのと歩き疲れたので、しゃがみ込むと雪を服の中に入れられる
「きゃーーーっ!?」(叫)
・「せ、せな・・・かに、ゆ・・・きが・・・」(震)
・今度は背中を押され、正面から雪にダイブ
「わふっ!」
・最初は観戦しているが、途中アモンに雪玉を投げつけられ、怒って自分もアモンに思いっきり雪玉を投げる
「悪いで・・・済むかーーーっ!」(怒)
・そのまま雪合戦途中参加
・雪まみれになってヘトヘトだが、初めて雪合戦をしたことに内心ちょっと嬉しかったり

アドリブOK



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  アドリブ希望

絵の中に入るなんて、とってもメルヘン!
感動してたら…冷たっ?
顔に当たったのは雪玉?
身構えようとしたら、膝ががくっと…
羽純くんが支えてくれました
有難う、羽純くん(抱き留められちゃった…!嬉しい)
再び飛んできた雪玉は羽純くんがキャッチ

雪合戦ですか…
ならば、受けて立ちましょう!
雪玉を作り、飛んでくる方向へ勘で投げる
負けませんよ!
羽純くんも一緒にと手を引きます
人数は多い方が楽しいから♪

疲れたら休戦を持ちかけ
掌に乗る小さな雪だるまを作ってみせます
簡単に作れるよ♪

ひゃっ背中に雪を入れないで…!
羽純くん、取って~!
あ、ありが…(もしかして凄く大胆だった…かも!羽純くんの手、大きくて温かかった)



ユラ(ルーク)
  アドリブ歓迎

ここって絵の中…なのかな?

転びそうになって)
わっ!あぁびっくりした
ありがとうルー君

んーなんか私狙われてる…?
え、だって私だけ雪だまぶつけられるのってフェアじゃないし、
他の子見えないから、とりあえずルー君にぶつけとこうかなぁって

雪合戦後)
でもまだ満足してないみたいだよ
仕方ないなぁ…それじゃあ雪だるまでも作る?
大きいの作りたいから、みんなも手伝ってね

うん?楽しいよ
雪遊びってあんまりしたことないんだよねぇ

バケツがないのが残念だけど、これで我慢してね(自分のマフラーを雪だるまに
ありがとう、あったかいよ

なんか夢みたいな出来事だったねぇ
さて、と
じゃあ村長さんの相談とやらを聞きにいこうか?



●歌菜と羽純
目を開いた桜倉歌菜の前には、先ほどの絵と同じ光景が広がっていた。
絵の中に入ったのだと気付いた歌菜は、自分の状況に感動し始める。
隣にいた月成羽純はそんな歌菜に気付き、笑みを零した。

「楽しそうだな」

羽純の言葉に気付いた歌菜は「だって絵の中に入るなんて!」と感動の理由を説明する。
しかし、それを遮るかのように、ぼすんと何かが歌菜の顔にぶつかった。
その冷たい感触に、歌菜は顔から落ちた物を確認する。

「雪玉……?」

突然の攻撃に羽純は辺りを警戒し始める。
だが周りには誰も見当たらない。
次は何が起きるのか――
身構えようとした歌菜の膝の裏に何かが触れる。
そのままがくんと落ちる膝にバランスを崩し、歌菜は背中から雪に倒れ込んだ。

しかしそれを支えたのは冷たい雪ではなく、温かい腕だった。

「おい、大丈夫か?」

羽純が心配そうに歌菜の顔を覗き込む。

「ありがとう、羽純くん」

返事をした歌菜は背中に回る腕の体温を感じ、顔に喜色を浮かべる。
羽純はそんな歌菜を見て怪我がないことを確認すると
そのまま再び飛んできた雪玉を、空いていた手で受け止めた。
――相手が見えない――
自分達が危険な状況にあると判断した羽純は、ひとまず逃げることを考え始める。

一方、歌菜は何度も飛んでくる雪玉が気になった。

「雪合戦ですか……」

歌菜の言葉に、羽純が驚いた顔をする。
そんな羽純に気付いてないのか「受けて立ちましょう!」と腕から離れて
飛んでくる方へ返すように、作った玉を投げる歌菜。
色んな方向から飛んでくる雪玉に「負けませんよ!」と、とても楽しそうな顔する。

「相手が何者かもわからないのに……」

そんな歌菜を止めようと羽純が声をかけると大丈夫だと明るい返事。

「悪意は感じられないし!」

歌菜の言葉に、羽純は絵のことを思い返す。
先程の絵にあって、ここに足りないもの。
――子供?
導かれた答えに重なるように、歌菜が羽純の腕を引いた。

「羽純くんも、一緒に!」

その笑顔に警戒心が解ける。
耳を澄ませれば、確かに子供のような笑い声。
出した答えに確信を持った羽純は歌菜と共に雪玉を作り、見えない子供たちに向かって投げ返した。

時折転ばされる歌菜を助けながら子供たちに玉を投げる羽純。
そんな羽純を見て、子供達は歌菜への襲撃を止め、雪合戦に集中した。

三方向から飛び交う玉を避けながら攻撃する二人。

「さすがにこれだけ投げられると忙しいな」

羽純の言葉に、歌菜は「そうだね」と返す。
いつの間にか子供達の声は笑い声だけじゃなく
「いけー!」「やれー!」といった言葉で聞こえるようになっていた。


沢山雪を投げ合った歌菜はさすがに疲れて休戦を持ちかける。
子供達は「えー」と不満そうにしていたが
歌菜が「おいで」と声をかけると、囲むように足跡をつけた。
そんな子供たちの目の前で歌菜は小さな、手の平に乗る雪だるまを作った。

「簡単に作れるよ」

そうして優しい笑顔を向ける歌菜に、隣で見ていた羽純も微笑む。
歌菜の周りでは、足跡の上で小さな雪だるまが二つ作られ出した。
(あれ?二つ?)
雪玉の数から三人だと思っていた歌菜は不思議に思い首を傾げる。
すると、背中にズボッと雪を入れられた。

「ひゃっ!!」

その冷たさに思わず叫び声を上げる。
冷たさのあまり動けそうにない歌菜は、震えた声で羽純に助けを求めた。

「取って~!」

その言葉に羽純が目を丸くする。
しかし歌菜はそれどころではなく、それがわかった羽純は「動くなよ」と
一言だけ注意をして服の下から雪を取り払った。

「あ、ありが……」

無くなった冷たさの代わりに背中に残る体温に気付き、歌菜は顔を真っ赤にさせる。
羽純はそんな歌菜を見て笑うと、歌菜の持っていた雪だるまをひょいと取り
雪を入れた子供の足跡へ「ほら」と雪だるまを見せた。
それは優しくふわりと浮く。

「かわいい!」

嬉しそうに声が弾んだ。
それを聞いた歌菜が微笑み「じゃあ、それあげる!」と笑顔を向ける。


途端、サーっと引くように、景色が色を失っていった。
そのまま遠くなっていく雪の世界と、近づいてくる静寂。

そして、遠くの明るい声。

「ありがとう!」

聞こえた言葉に、二人で顔を見合わせて微笑んだ。



●悠夜と弓弦
「ここは……?」

急に変わった景色の中、日向悠夜は自分の状況を把握しようと頭を回転させる。
共にやってきた降矢弓弦も同じことを考えているようで
周りを確認しながら記憶と照らし合わせていた。

「わ!」

後ろでどしんと音が聞こえ、驚いて振り返ると悠夜が倒れて雪まみれになっている。

「大丈夫かい?」

弓弦が尋ねる。
悠夜は突き飛ばされたような感覚がしたことを説明しながら自分の服についた雪を払って立ち上がる。
続いて悠夜に向かって雪玉が飛んできた。
その向こうでは笑い声が響いている。
弓弦は自分達を囲む景色を、改めて見渡した。

「ここは本当に絵の中で、彼らはあの絵の子供達なんだね!」

確信を得た弓弦は目を爛々とさせながら嬉しそうな声を上げ
「まるで本物の雪みたいだ」と絵の中の物体に興味を湧かせる。
そんな答えを聞いた悠夜は、飛んでくる雪玉が子供達の感情を示しているのではと考えた。
そして悠夜は「ふふ」と笑うと、雪遊びなら受けて立とうとその場にしゃがみ込んで雪玉を作り始める。


「ひゃあ!?」

しゃがんだ悠夜の服の中に、雪の塊が勢いよく落ちていった。
突然の事に悲鳴をあげた悠夜は、慌てて服から雪を取り出して立ち上がる。
飛んでくる雪玉や攻撃に、どうやら狙われているのは自分だけのようだ、と気付いた悠夜は
攻撃を受けていない弓弦に雪玉作りを頼んだ。

「弓弦さん、雪玉作るのお願いしたいな」
「えっ、あ、あぁ」

悠夜の言葉で弓弦ははっとしたように気付いて「分かったよ悠夜さん」と雪玉を作り始める。
その玉を受け取り、足跡を狙うように玉を投げていく悠夜。
それは見えない子供に当たると、空中で崩れて落ちていく。

足跡の動きを見る限り、どうやら三人いるようだ。
彼らは笑いながら色んな方向へと逃げていき、再び玉を飛ばしてくる。
悠夜はそれを避けながら、動き回る子供達に合わせて玉を投げていた。

「こっちだよー!」

はっきりと子供の声が聞こえた。
悠夜は反射的にその方向に投げる。
しかしその先にあったのは雪玉を作る弓弦の姿。
思わず「あっ!」と悠夜が声を出したが、弓弦はせっせと玉を作り続けていて――

「うわっ?!」

突然べしん、と自分の顔に降り注いだ冷たい雪に、弓弦は驚いた表情で顔を上げる。
いつもの弓弦からは想像できないその様に、悠夜は「あはは」と笑った。

「弓弦さんも雪まみれだね」

自分を笑う悠夜を見た弓弦は、先程まで自分が丸めていた玉を掴んで「お返しだ!」と楽しそうに投げ返す。
予想外に投げ返された玉は悠夜に当たり、油断していた悠夜は「わっ!?」と驚いて。

「やったなー弓弦さん!」

悠夜は弓弦にも玉を投げ始める。
弓弦もそのまま玉を投げ続けた。
次第にその相手は悠夜だけではなくなり、子供達にも当たるようになっていった。

自分達に向かって投げられる雪玉に、子供達は段々と弓弦にも雪をぶつけ始める。
飛んでくる玉に返しながら、子供やお互いを狙って投げていく二人。
弓弦はいつの間にか、童心に戻ったように本気で雪を投げ合っていることに気付いた。

「前までの僕らならきっとこんな子供みたいに遊ばなかったかもしれないね」

そう言って笑う弓弦の顔に再びぶつかる雪玉と「いけー!」という子供の声。
飛んできた玉に「わぷっ」と声を出した弓弦を見て「そうだね」と悠夜は笑う。
そんな悠夜に再び飛んでくる雪の玉。
悠夜も負けじと玉を投げ返していく。
二人は以前までの自分達との違いを実感しながら
見えない絵の中の子供達と共に、雪ならではの遊びに興じた。


沢山の雪を感じながら子供達に雪を投げていると
突然、強く何かに引かれたような衝撃を感じた。

驚いて辺りを見ると、周囲が暗闇に染まり始めている。
そのまま自分達から遠ざかる雪景色に、抱えていた雪が解け始める。
そして、その反対から眩い光。

「どうやら戻るみたいだね」

弓弦の言葉に、悠夜が3つのチョコレートを取り出した。

「楽しかったよ、ありがとう」

悠夜がそう告げると、手元のチョコレートがふわりと浮かぶ。
その後ろに見えたのは、小さく揺らぐ赤いマフラー。

「僕達も!」

聞こえる子供達の嬉しそうな声に、消えていく景色とチョコレート。

「楽しかったけれど……明日は筋肉痛かな」

そう言って笑う弓弦に悠夜は微笑みを返すと
迎えに来た光を目指し、二人一緒に歩き出した。



●ユラとルーク
ユラが瞑っていた目を開けると
そこに広がっていたのは先程と同じ景色だった。

「な、何が起きたんだ……!?」

隣に立つルークが混乱した様子で顔を動かしている。
ユラはその言葉に返事をするように、疑問を口にした。

「ここって絵の中……なのかな?」

そう呟くとルークに素っ頓狂な声を上げられ、理由を説明しようとユラは「だって――」と体を反転させた。
直前に見た絵と同じ小屋を指差し一歩踏み出すと、ユラの足にがつっと何かが引っかかる。
「わっ!」と、前のめりに転びそうになった。
その声に気付いたルークが咄嗟に手を伸ばし、反射的にユラの腕を引っ張る。

「っと、危ねぇ」

ルークに腕を掴まれたことでバランスが保てたユラは、お礼を言いながら今の出来事を説明する。
しかし足元を見ても何もない。
一体何だったのだろうかと考えていると、ユラに向かって飛んでくる雪玉。
「今度は雪玉かよっ!?」とルークが狼狽える。

玉はユラを狙っているようだった。
相手の姿は見えないが、声が聞こえる。
その明るい声に「子供か……?」と気付いたのはルーク。
舌打ちをしながら「卑怯だぞ!姿くらい見せろよ!」と周りを警戒していると
べちゃっ――と、背中に何かが当たった。
ゆっくり振り返ると、ユラが自分に向かって雪を投げている。

「……おい、何でお前まで参戦してんだ?」
「え、だって私だけ雪玉ぶつけられるのってフェアじゃないし」

呆れた顔のルークにきょとんとした顔で返すユラ。
あちこちから飛んでくる雪の方向を見て、相手の姿が見えないことを再確認すると
「他の子見えないから」と改めて前置きをして。

「とりあえずルー君にぶつけとこうかなぁって」
「投げ返せよ!」

突っ込むルークをよそに、再び雪を投げるユラ。
周りの子供達はその光景を見てか、どこか楽しそうな声を上げる。

「ほら、子供達も楽しそうだし」

そう言ってまたルークへと雪を飛ばすユラ。
その度に子供達が笑い、ユラへ玉を投げていく。
ぽすぽすと自分に雪をぶつけるユラと、そのユラに向かって玉を飛ばす子供達。
自分の周りで楽しそうに飛び交う雪の玉に、ルークが「つーか」と零しながら足元の雪を大量に掴む。

「お前らも楽しんでんじゃねー!!」

掴んだ雪を丸めて、飛び交う雪の元へ手当たり次第に飛ばしていくルーク。
その行動に『このお兄さんが雪合戦をしてくれる』と勘違いした子供達は
わーわーと声を出しながらルークに向かって玉を飛ばしていく。

「ルー君忙しそうだね」

逐一玉を返していくルークにユラが声をかける。
しかしその手に持つ雪玉の矛先は完全にルークに向いている。

「ならこっちに投げるのやめろよ!」
「だって雪合戦だし」
「子供がいるだろ!」
「だって見えないし」

漫才のようなやり取りをする二人を見て、子供達の笑い声が大きくなる。
そんな子供達にまた「笑うな!」と、ルークの玉が飛んでいった。


「だぁーもう無理!」

随分と雪を投げ合った頃、ルークが勢いよく雪の上に座りこむ。
その言葉に、子供達の笑い声が上がる。

「ま、負けたわけじゃねーぞ!ちょっと休憩だ!」

言い訳のようなルークの台詞。
子供達の足跡は再びユラへと近づき、そしてまたユラに雪の玉が飛んでいく。
子供達が満足してないことに気付いたユラが「それじゃあ雪だるまでも作る?」と尋ねると
嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねて、足跡が返事をした。

「大きいの作りたいから、みんなも手伝ってね」

ユラの言葉に返事をするように子供達が雪玉を作り始める。
それを見てユラも共に雪を丸め始めた。

「なんつーか、楽しそうだな」

ルークが呟くと「楽しいよ」とユラが返事をする。

「雪遊びってあんまりしたことないんだよねぇ」

ユラの楽観的な言葉にルークが思わず呆れ顔をする。
目の前ではひたすら大きくなっていく雪の玉。
(ったく、どっちが年上なんだか……)
心でそう呟いてユラを見る。
しかし、ユラは本気で楽しんでいる様子で
ルークは大人しく完成を待つことにした。


「これで我慢してね」

ユラは子供達と完成させた大きな雪だるまに、自分の青いマフラーを巻き付けた。
それを見たルークは風邪を引かれたら困ると
自身の赤いマフラーをユラにかける。
「ありがとう」と礼を言うユラに「満足したか?」と呆れながら問いかける。

「うん!」と子供達からの返事が聞こえた。
――その後ろで雪だるまが一気に解けていく。

「あ……」

青いマフラーが落ちた。
ユラがそれを拾いあげると、景色は一気に遠のいて。

「……なんか、夢みたいな出来事だったねぇ」

遠くなっていく楽しそうな子供達の声に耳を傾けながら、ユラはそう呟いた。
だが、手に持っているマフラーは確かに濡れている。
きっとこれは夢ではないのだろうと確信して
段々と眩しくなる光に目を瞑った。



●リオとアモン
「寒っ!」

目の前に広がる銀世界とその冷たさに、アモン・イシュタールは思わず言葉を零した。
隣に立つリオ・クラインは同感だと静かに頷く。

「これは……雪か?」
「あぁ、紛れもない雪だな」

リオの疑問にアモンが雪を掴んでぎゅっと握る。
その手を開けば雪が塊となって落ちていき、体温に溶けた雪の跡が手の平に残っていた。

先程見た絵と同じ光景を不思議に思ったリオは、アモンを連れて辺りを散策する。

まず気になったのは自分達の後ろの小屋と、その前に流れる川だった。
川を調べようと近づいたアモンが突然立ち止まる。
どうしたのかと尋ねると「壁があるな」とノックするように空中を叩いた。
まるでパントマイムのような動きにリオは怪訝な顔をするが
実際に手を伸ばしてみると、平らな何かにぶつかる。

「確かに壁があるようだ」

どうなっているのかわからず「あちらも見てみよう」とアモンと共に林へ向かう。
林の奥も同じように閉ざされており先に進めない。
その壁を調べながら一回りしてみたが、どうやら囲まれているらしい。

「こりゃ、絵の中に入り込んじまったって事か?」

アモンの言葉に、リオは「そのようだな」と返事をしながら雪の上に座りこむ。
ふとフードを引かれたような気がして振り返ろうとすると、その瞬間に冷たい衝撃。

「きゃーーーっ!?」

背中から全身に冷たい感覚が駆け抜けていく。
体と服の間で止まる冷たいそれに、ガタガタと震えて小さくなるリオ。

「何だ?」

その叫び声に何が起きたのかとアモンが振り向くが
リオは冷たさのあまり震えた声になっていて、何を言っているかわからない。
アモンは訝しげな表情で、リオの様子を伺おうと目の前にしゃがむと
ぽすっと頭に冷たい物が当たった。
振り返ると、再びアモンの正面から雪の玉が飛んでくる。
それと同時に小さな笑い声が聞こえた。
雪を取り出し終えたリオがその声の主を探すものの、どこにも姿はない。

「さっきの声、ありゃ多分ガキだな」

アモンの言葉にリオが青ざめる。

「だが姿は見えなかったぞ?ま、まさか幽霊とか……?」

怯えたようなリオの言葉に、アモンは「さあな」とぶっきらぼうに返事をする。
「わふっ」という声にリオを見れば、今度は顔から雪にダイブしていた。

「何してんだ」
「……背中を押された」

リオが起き上がると、また二方向から雪の玉が飛んでくる。
アモンはそれを適当に弾き落とすと、にやりと笑った。

「おもしれぇ……」

がしっと雪を掴み、それを力強く固める。

「そっちがその気ならこっちも乗ってやるよ!」

そう言って、固めた雪を声や足跡の方向へ投げていく。
どうやら子供達は動き回っているようで、足跡がバタバタと暴れている。

「一人じゃねえな」

足跡の数を見ながら人数を確認し、それに合わせて雪玉を大量に作っては投げていく。
一方、子供達が狙うのはリオだったが、アモンはそれを捌きながら子供達に近づいていった。

「俺も狙ってみせろって」

アモンは足跡を追いかけているようだった。
少し先の足跡から「来たぞー!」と言った楽しそうな声が聞こえてくる。
大量の雪玉を抱えながら子供を追いかけ回すアモンに、リオは呆れながら観戦していた。

「ほらほら、ぼーっとしてると雪だるまにしちまうぞー!」

一方的に追いかけているのだろうか、雪の玉をぶんぶんと投げながらアモンが駆け回っている。
「やり返せー!」「負けるなー!」と、子供達が反撃する声が響く。

恐らく子供達はアモンと遊んでいるのだろう。
リオには全く雪玉が飛んでこなくなっていた。
代わりにアモンが子供達から集中砲火を受けていて、沢山の玉が空中からアモンへ飛んでいく。
(すごい光景だ)
リオがそんなことを思っていると、ふわりとアモンの後ろに赤い物が見えた。

「おい、アモン――」

それを報告しようとリオが口を開く。
しかしアモンは気付いておらず、攻守逆転を仕掛けようと体を翻した。

「覚悟しろ!」

振り向き様投げたその一撃はリオの顔に直撃。
子供達もアモンも動きが止まる。

「あ、悪ぃ……」

アモンの謝罪に、一瞬の静寂。

「悪いで……済むかーーーっ!!」

リオは手元にあった雪を掴んで立ち上がり、勢い良くアモンに投げつける。
それが直撃したと同時に響く、子供達の笑い声。
アモンはまた子供達を追いかけ、そのアモン目がけてリオが雪を投げていく。
子供達もリオが雪合戦に参加したと思ってか、リオに玉をぶつけていく。
それを受けてリオも子供達に雪を投げ返す。

気付くと、リオも子供達と一緒に雪合戦をしていた。


走りまわって沢山の雪を投げたリオが休憩しようと膝に手をついた。
すると、ぐんと世界が動いた。

アモンと二人で驚いていると子供達の笑い声が遠くなる。

「楽しかったー!」
「またねー!」

手を振っているような、子供達の別れの言葉。
アモンに「だとよ」と言葉をかけられたリオは
初めての雪合戦の嬉しさから「あぁ」と小さく微笑んだ。



●真実と結末
ようやく絵から出られた二人は草地の真ん中にいた。
周りを見渡して、元の場所に戻ったのだと気付く。
しかし小屋はどこにも見当たらなかった。

不思議に思いながらも、話を聞きに村へと向かう。
村の入り口では村長が出迎えてくれた。
家に案内された二人は手土産を渡し椅子に腰をかける。

相談というのは、ある男の事だった。

家族に見限られ、それでも絵を描き続けた男の末路。
そして、その絵の内容と広まる噂。

話を聞いて、二人は先程の絵を思い出した。
その絵というのは、恐らくあの雪景色のことなのだろう。

村長は男の子供や妻が未だ見つからないと言った。
男は今も子供を想う故に、そのようなことをするのだろうと。
そのため、この話を少しでも広めれば
何かのきっかけで男の子供に伝われば
それが男の供養になるのではということだった。

村長は色々な人を呼んで話をすることで、話を広めているようだった。
その話について村長に言葉をかけると、村長は安堵の表情をする。

話が終わり席を立つと、昔話のために呼び付けて申し訳ないと村長からお礼が渡された。
村長と軽く会話をし、挨拶をしてその村を後にする。


家に帰りその箱を開けると、白いクリームのデコレーションケーキが入っていた。
クリームの上にはイチゴやチョコレートが乗っている。
雪のように白いクリームと真っ赤なイチゴから
小屋の中で見たあの絵を思い出した。

そして、あの不思議な出来事と、村長から聞いた話。

男の願いは叶っただろうか。
子供達は楽しんでいただろうか。

――彼らは今も笑っているのだろうな。
そんなことを考えながら、白いクリームにナイフを入れた。



依頼結果:成功
MVP
名前:リオ・クライン
呼び名:リオ、お嬢様
  名前:アモン・イシュタール
呼び名:アモン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雨鬥 露芽
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 02月10日
出発日 02月21日 00:00
予定納品日 03月03日

参加者

会議室

  • [8]日向 悠夜

    2015/02/20-23:36 

  • [7]桜倉 歌菜

    2015/02/20-01:32 

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/02/20-01:32 

  • [5]リオ・クライン

    2015/02/18-23:04 

    悠夜さんはお久しぶり、歌菜とユラさんは初めましてかな?
    リオ・クラインとパートナーのアモンだ。

    まさか絵の世界に入りこむとは・・・。
    さて、どうやったら出られるのかな。


  • [4]桜倉 歌菜

    2015/02/17-01:19 

    桜倉歌菜と申します!
    パートナーは羽純くんです。

    絵の中に入っちゃうなんて、不思議な体験です…!
    どうやったら出られるんでしょう?
    兎に角、行動あるのみですねっ

    皆様、宜しくお願い致します♪

  • [3]桜倉 歌菜

    2015/02/17-01:16 

  • [2]日向 悠夜

    2015/02/16-22:41 

    日向 悠夜です。よろしくお願いするね。
    絵の中に入ってしまう…なんだか、どきどきしちゃうね。
    素敵なひとときになるといいな。

  • [1]ユラ

    2015/02/15-23:28 


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