蕗傘小道(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 雨垂池は六月の繁忙期を迎えている。
 ここは紫陽花の名所で、雨の多い季節ならではの行楽サービスも充実しているのだ。

 雨垂池の周りには様々な品種の紫陽花が咲き誇っており、花が間近で見られる小道がある。滑りづらく泥はねの心配もないウッドチップが敷かれた小道は、雨の日でも歩きやすいと評判だ。
 池や小道の周辺には色とりどりの紫陽花が植えられている。オーソドックスな青や桃色そして白系の紫陽花が多いが、探せばマイナーな品種も見つけられるだろう。

 雨垂池ではちょっと変わった傘が売られている。本物の蕗の傘だ。
 傘として使えるほどに大きく丈夫に育った蕗を持って、池の周りの小道を散策するのが人気になっている。
 代金を払うと、係員がその場で蕗畑から刈り取って渡してくれる。
 通常サイズの蕗傘は一人用で、無理に二人で使おうとすると、どちらも体がはみ出てずぶ濡れになってしまう。一人用の蕗傘を二人で強引に使うのは非推奨だ。
 二人でゆったり入れる特大サイズの蕗傘も売られている。それだけ大きく見事に育ったものは希少なので、その分値段も高い。
 この蕗傘は、当日中はしおれることはないが、数日で使い物にならなくなってしまう。蕗傘をタブロスに持って帰って、ずっと使い続けることはできない。

 天気は小雨のち晴れ。
 午後になれば虹を見ることができるだろう。

解説

・必須費用 傘の購入
1人用蕗傘:1つ150jr
2人用蕗傘:1つ500jr



・プラン次第のオプション費用 各種レインポンチョの貸出
透明ビニールポンチョ:1つ50jr
水玉柄ポンチョ(色自由):1つ150jr
緑のカエルポンチョ:1つ150jr
黄色いアヒルポンチョ:1つ150jr



・デートコーデについて
雨のレビャーにぴったりなデートコーデをPCが装備している場合、積極的にコーデの描写をおこないます。

ゲームマスターより

山内ヤトです!

雨垂池へ遊びにいくエピソードです。
同じ雨垂池を舞台にしていますが「蕗傘小道」と「蓮舟小池」では遊べる内容が違いますので、参加の際にはご注意ください。

こちらでは、蕗の傘をさして散策ができます。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アリシエンテ(エスト)

  2人用蕗傘

フキの傘!こんなに大きい物は初めて見たわっ!
エストが持つ大きな蕗の傘を見上げながら興味津々に散歩

あっ! エストっ、カタツムリがいるわ!
本当に色の変わらない純白の紫陽花(アナベル)があるのね。素敵っ、持ち帰りたい位だわっ

あちこちを気ままにうろうろとして……
花言葉……移り気、浮気であったかしら
確かに、それならばとても興味深い言葉がついているのでしょうね
戻ったら是非調べ──

と、振り返ったらエストの肩が濡れている!
蕗の茎をもっていたのはエストなのに、どうやったらそんな濡れると…!

あ…こちらが、濡れない様に傘を傾けていたから……?

気づき、恥ずかしくも大人しくエストの側にいて
雨が止んだら一緒に虹を


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  二人用蕗傘
透明ビニールポンチョ

最近、突然の雨で出かける予定がなくなったりが続いて憂鬱になっていたのですが
こういう雨を楽しむスポットがあるのは良いですね

色とりどりの紫陽花も気に入りましたが
私はこのシチュエーションが好きになりました

特に何も話すことはなく、並んで歩いてただ雨の音を聞いている
今更無言でいるのが気まずいなんてことはなく
むしろ心地良いと思えます、二人でいるのが当然のような

ディエゴさんも同じように感じてくれているなら
この関係をこれから先もずっと続けていけるなら私はとてもうれしいです
…あ!すみません、私ぼーっとしちゃってて
私も楽しいです
そして、綺麗な虹が見られるならもっと楽しくなると思います


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  2人用蕗傘購入
羽純くんとお喋りしながら歩きたいから、勇気を出して…
別々の傘だと会話し辛いと思うし、2人用の傘にしない?と、羽純くんに切り出します

彼が頷いてくれ嬉しくて、傘は私が…と思ったら、羽純くんに取られ…嬉しい(照

羽純くんの息遣いまで感じられる距離…私の鼓動が速いのも伝わっちゃってるかな?
でも、離れると羽純くんがこちらに傘を向けて濡れてしまいます…
思い切って傍に寄り添おう…温かいな…
駄目だ
嬉しくて顔がにやけちゃう…景色に集中しよう

え、えーっと…紫陽花、綺麗だね
雨に濡れて宝石みたいに輝いてて…
雨だからこそ、見れる光景だよね(この相合傘も雨だからこそ…

あ、雨上がっちゃった(残念
でも虹が…
素敵…


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  一人用

本物の蕗の傘かぁ…
子供の頃似たような形の葉っぱを摘んで傘に見立てて遊んだ事あったなぁ
なんだか懐かしい気分

え?
…うん、土砂降りとかで濡れるのは嫌だけど、雨の音とか匂いとか、好きかな

雨と同じように穏やかな気分で散歩

…?
ガルヴァンさん?
あ、ごめん、独り言を呟いてたみたいだったから、珍しくて、つい

紫陽花の…?
コサージュかぁ…考えるだけでも素敵だね

その後アクセサリーについて話しながら散歩
やっぱりガルヴァンさんは凄い
何かを一つのデザインとして捉えて、それを現実に作り出せる

…私も、何か一つでも誇れるものがあったらなぁ…


あ、ホントだ
傘を降ろしてみる

…あ、ガルヴァンさん、虹っ
袖をつまんで空を指差し

綺麗だね


マユリ(ザシャ)
  二人用…?
い、いえっ嫌じゃないですっ
というよりザシャくんの隣が僕で良いのかなぁって…!
…そ、それもそうですね
え、と…?
じゃあ…お言葉に甘えます

そうだ、どうですか? 藤色の水玉ポンチョにしてみました
それはどういう意味ですか…
…ザシャくんはかわいいですよ?
すみません。でもおあいこです
謝りつつも笑みを浮かべる
雨に濡れる花は、キレイですね…
晴れてたら雨粒が光ってもっとキレイなんだろうなぁ…!
へ? そう、なんですか?
楽しいなら良いと言われ首傾げ
蕗にそっと触れれば、葉っぱの温かみを感じる
不思議そうに蕗を見上げているザシャくんを見て、また微笑み
(こういうお散歩も、たまには良いな…)


●その手から傘を奪った
 雨垂池のそばにある蕗畑。そこで『アリシエンテ』は大人二人が悠々と入れるほどに巨大に育った蕗を目の当たりにした。
「フキの傘! こんなに大きい物は初めて見たわっ!」
 代金をもらった係員は慣れた手つきで特大サイズの蕗を刈り取り、それを『エスト』へと受け渡した。
 アリシエンテとエストはウィンクルムのペアでもあるが、お嬢さまと執事という立場でもある。今までも外出時にはそうしてきたように、エストが傘を掲げ持つ。
「まあっ! これだけ大きい葉っぱなら、二人でも濡れる心配はなさそうね」
 アリシエンテは歓声をあげて、エストが持つ大きな蕗の傘を見上げる。
 そして二人は小雨の降る中、紫陽花見物に出かけていった。

「あっ! エストっ、カタツムリがいるわ!」
 興味津々で道中を観察するアリシエンテ。面白い発見を教えてくれる。
 エストは穏やかに相槌を打ちながら、アリシエンテが景色を楽しめるようにゆっくりと歩く。
 アリシエンテは一ヶ所に留まっていたかと思えば、突然向きを変えて別の何かに目を留めたりと忙しない。
「あら」
 またアリシエンテが何か素敵なものを見つけたようだ。
「本当に色の変わらない純白の紫陽花があるのね」
「純白の紫陽花、ですか」
 これはアナベルという品種で、純白の萼が特徴だ。
「素敵っ、持ち帰りたい位だわっ」
 自宅の庭にアナベルが可憐に咲く様子を空想して、アリシエンテはにっこりと微笑んだ。

 紫陽花の咲く小道を気の向くままに散策。
「花言葉……移り気、浮気であったかしら」
 アリシエンのつぶやきをエストは聞き取った。
「……紫陽花の花言葉は色の変化から来ていると記憶にあります」
 超人的な記憶スキルを持つエストが言うのだ。まず間違いないだろう。エストは、綿雲のように白いアナベルに視線を向けた。
「ならば土壌にも変化のしないこの花の言葉はおそらくとても素敵なものなのでしょう」
 アリシエンテは楽しげに頷いた。
「確かに、それならばとても興味深い言葉がついているのでしょうね。戻ったら是非調べ──」
 と言いかけて、あ然とする。
 何気なしに振り返って、視界に入ったエストの体。
 傘を持っているはずの彼の肩が、びっくりするほど濡れていたものだから……。

 一方、当のエストは自分の肩が濡れていることなど微塵も気にかけていない。むしろ彼は、紫陽花について少し饒舌に話しすぎたかもしれない、などと反省していた。

(どうやったらそんな濡れると……!)
 驚いて目を見開いたアリシエンテが、ふとその理由に思い当たる。
(あ……こちらが、濡れない様に傘を傾けていたから……?)
 そう理解するや否や、パッと体が動いていた。エストの手から蕗の傘を奪って自分で掲げ直す。ちゃんと二人が濡れずに済むように。

「アリシエンテ、何事ですか……?」
 いきなり傘を奪われたエストは不可解そうな顔をするが、アリシエンテの視線が自分の肩に注がれていることに気づく。
(私から傘を奪ったのは、そういうわけでしたか……)
 エストは状況を把握した。唐突な彼女の行動にも、これで納得がいった。
(ですが今まで、それが当たり前だと思っていました)
 アリシエンテは先程までの賑やかさとは打って変わって、大人しくエストの側にいる。
 破天荒な一面もあるアリシエンテだが、エストとの関係性は奥ゆかしいものだった。

 蕗の葉に落ちる雨音がだんだんと小さくまばらになっていく。
「あっ! エスト、見て」
 雨上がりの虹が出ていた。
「……」
 言葉少ないエストだが、虹を見た彼の瞳には感動の色が浮かんでいた。
 これまでにも虹を見たことはある。だが、虹がこんなにも美しいと思ったのは――これが初めてだった。



●雨のきらめき
「本物の蕗の傘かぁ……」
 蕗の傘を手にして『アラノア』は感慨深くつぶやく。本日の雨対策はレインコート「水玉の天使」でばっちりだ。爽やかな白地に可愛らしい水玉模様。
 『ガルヴァン・ヴァールンガルド』は、リバーシブルのレインコート (彩)「戦場の天使」を裏返して使っている。色は落ち着いた黒。レインコート以外は主にゴシック系のコーデで揃え、貴族風の出で立ちになっている。
 一人用の蕗傘を受け取ったガルヴァンは、それをしげしげと眺めた。
「イラストで見たような図をそのまま体感できるとはな……」
「子供の頃似たような形の葉っぱを摘んで傘に見立てて遊んだ事あったなぁ」
 幼少期を回想するアラノアは、懐かしさからふっと表情が優しくなる。
「アラノアは雨が好きなのか?」
「え? ……うん、土砂降りとかで濡れるのは嫌だけど、雨の音とか匂いとか、好きかな」
 アラノアは片手を傘の外に出し、柔らかに降り注ぐ小雨にそっと触れてみた。

 雨垂池に降る雨と同じように穏やかな気持ちで、のんびりと小道を散歩する。
 ガルヴァンは喰い入るように紫陽花を見つめている。単に花を鑑賞しているというよりは、真剣な職人の目つきになっていた。
「ルべライト……紫水晶……アクアマリン……ターコイズ……。葉はエメラルドか翡翠か……。水滴イメージのガラスやパールを取り入れるのも……」
「……? ガルヴァンさん?」
 その真剣な気迫に若干躊躇しつつ、アラノアがおずおずと声をかける。
「……ん、ああ、何だ?」
「あ、ごめん、独り言を呟いてたみたいだったから、珍しくて、つい」
 さっきの独り言は完全に無自覚だったようだ。アラノアから指摘され、ガルヴァンはわずかに驚いた表情を見せる。
「口に出ていたのか……」
 軽く咳払いをしてから、独り言ではなくちゃんとした会話でガルヴァンがこう説明してくれた。
「……アレをアクセサリーとして作るなら、と、少し考えてしまった」
「紫陽花の……?」
「ああ、紫陽花のブローチやコサージュのイメージが浮かんでな」
 色とりどりの紫陽花に囲まれているうちに、ガルヴァンに創作のインスピレーションがわいてきたようだ。彼は宝石店で働いており、注文に合わせた宝石の加工をおこなっている。
「コサージュかぁ……考えるだけでも素敵だね」
 それから二人の間でアクセサリー談義が弾んだ。
 アラノアも人並みにアクセサリーへの興味はあったが、ジュエリーやデザインの知識を持つガルヴァンは専門的なことまでしっている。また、単に知識があるだけでなく実際に手を動かしている者ならではのエピソードも豊富で、話題が尽きるということがない。
(やっぱりガルヴァンさんは凄い)
 彼との会話を通して、アラノアは改めてそう実感する。
 何かを一つのデザインとして捉えて、それを現実に作り出せる技術をガルヴァンは持っていた。
(……私も、何か一つでも誇れるものがあったらなぁ……)
 自分の平凡さと比べてしまい、心の中でため息。

「……ん? 晴れてきたか?」
 雨雲が消えて、明るくなってきた空をガルヴァンが見上げる。
「あ、ホントだ」
 アラノアは蕗の傘を降ろしてみる。もう雨は上がっていた。
「……あ、ガルヴァンさん、虹っ」
 アラノアがガルヴァンの袖をつまみ、空を指差した。
「おお……」
 虹を見たガルヴァンの喉から感嘆の響きがもれる。
「綺麗だね」
 アラノアの声に振り返る。
 雨上がりの紫陽花と水滴のきらめきと、そしてアラノアの笑顔が重なって見えた。
「……」
 その一瞬の光景に、ガルヴァンが息を呑む。
「……ああ、綺麗、だな」
 自分の心が揺れているのを感じた。今まで掴めなかった感情が、ガルヴァンの指先を掠めていく。



●隣の場所は
「……おい、二人用にするぞ」
 蕗の傘売り場で、迷うことなく『ザシャ』が言った。
 まだそれほど二人の親密さが深まっているわけではない。だが契約をかわしてウィンクルムになったのだし、相合傘ぐらいは普通にするものだろうと、ザシャは思っている模様。
「二人用……?」
 聞き返す『マユリ』の言葉に、ザシャは一瞬沈黙した後でこう尋ねる。
「なんだよ。嫌、か……?」
 ザシャの声には、かすかに不機嫌さと自己卑下の気持ちが滲んでいるようだった。
「い、いえっ嫌じゃないですっ」
 不穏なネガティブオーラを放つザシャの様子に慌ててマユリが訂正した。
「というよりザシャくんの隣が僕で良いのかなぁって……!」
「オレと契約してんのはオマエだ。オレの隣はオマエ以外有り得ない」
 フードの奥で視線が動く。神人と精霊。それぞれの左手で赤く色づいた紋章を眺めてから、ザシャの切れ長の眼差しがマユリの顔へと向けられた。
「……そ、それもそうですね」
 ザシャにそう言われ、納得して係員から傘を受け取って持つマユリ。
「って、ちょっと待った」
 ザシャに軽く腕を掴まれた。
「なんでオマエが持つんだ」
 そんな風に詰め寄られても、マユリはどうすれば良いのかと戸惑うばかり。
「え、と……?」
「……貸せよ。オレが持つ」
「じゃあ……お言葉に甘えます」
 ザシャの優しさに、マユリはふんわりと微笑んだ。

「そうだ、どうですか? 藤色の水玉ポンチョにしてみました」
 落ち着いた色で、若紫のマユリの髪ともマッチしている。
 ザシャは横目でチラッと見て、ニタリと笑ってただ一言。
「…………馬子にも衣装……」
「それはどういう意味ですか……」
「まあ、冗談だけどな……」
 黒い水玉ポンチョを着て、ザシャは蕗傘を掲げて雨垂池周辺の小道を歩いている。普段からフードを目深にかぶっている彼だが、レインポンチョ姿だと暗いという印象はあまりなく……。
「……ザシャくんはかわいいですよ?」
「はあ……? かわいいとか……おい」
 かわいいと言われてやや不服そうなザシャに、マユリは柔らかく微笑んで謝った。
「すみません。でもおあいこです」
 馬子にも衣装。なんて、からかわれたお返しだ。

 雨の中で咲く紫陽花にマユリが目を向ける。
「雨に濡れる花は、キレイですね……」
 過去の体験から大雨や水にはトラウマがあるマユリだったが、これぐらいの穏やかな小雨であればそれほど怖さは感じない。
「晴れてたら雨粒が光ってもっとキレイなんだろうなぁ……!」
 雨上がりの紫陽花。その光景を想像してマユリはにこやかに笑う。
 軽くため息をついてから、ザシャがポツリとこぼす。
「オマエの考えは、なんかよく分かんない」
「へ? そう、なんですか?」
 キョトンとした表情でマユリが聞き返す。
 少し口ごもりながら、ザシャがこう言葉を付け足す。
「……分かんないけど、オマエが楽しいんなら、ほんと。よく分かんないけど、それで良いやって思う」
「……?」
 マユリが楽しいならそれで良いとは、どういうことなのだろう? マユリはいまいちピンとこなかったようで、ただ首を傾げた。

 マユリは蕗の葉にそっと触れてみた。人工物のツルツルした感触とは異なり、温かみのある素朴な手触りがした。
「……これ、葉っぱなのに……雨通さないな……」
 ザシャも蕗の傘をしげしげと観察している。
 不思議そうに蕗を見上げるザシャの姿を見ていると、マユリは心が和んだ。微笑みを浮かべて見守る。
(こういうお散歩も、たまには良いな……)
 ザシャは、自分を見つめているマユリのことに気づいていた。
「……」
 だが、彼女はなんだか楽しそうにしている。特に口は出さずに、ザシャは静かに目線だけをマユリに投げかけた。



●心地良い沈黙
「最近、突然の雨で出かける予定がなくなったりが続いて憂鬱になっていたのですが、こういう雨を楽しむスポットがあるのは良いですね」
 今日も空は雨模様だが『ハロルド』の憂鬱気分はいくらか晴れていた。ハロルドが言うように、雨垂池は梅雨時でも楽しめる行楽スポットだ。
 『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』が、係員に二人用の蕗傘と透明なレンタルポンチョを注文した。
「蕗の傘は俺が持とう」
 ディエゴが持つ大きな蕗の傘の下に入るハロルド。
 特にこれといった目的はなく、のんびりと小道の散策をしようか、という予定になっている。

 小道を進みながらディエゴは深呼吸をした。ひんやりしていて、かすかに緑の匂いがする。爽やかな雨の空気。
(町の中だと雨が降ると独特の湿気があるが、ここの空気は澄んでいるような気がする)
 周囲に植物が多く植えられているためだろう。同じ雨天でも、町中とは空気の質が違っているように感じられた。
(俺は雑踏よりここのような静寂な場所が好きだな)
 静寂。ハロルドもディエゴも、無言で散策をしていた。

 色とりどりの紫陽花も気に入ったが、ハロルドはこのシチュエーションが好きになった。
 恋愛小説好きとしては相合傘は王道のシチュエーションだが、それ以上にこの静けさが良い。特に何も話すことはなく、並んで歩いてただ雨の音を聞いている。
 ハロルドとディエゴは、もうこれ以上はないというほど深い絆で結ばれたペアだ。今更無言でいるのが気まずいと思うことはない。
(むしろ心地良いと思えます、二人でいるのが当然のような)
 そして横を歩くディエゴに意識を向けた。
(ディエゴさんも同じように感じてくれているなら、この関係をこれから先もずっと続けていけるなら私はとてもうれしいです)
 思いは口に出さずに満足そうに微笑むハロルド。

 ディエゴは小道を歩きながら思索に耽っていた。
 ウィンクルムとなり、神人のハロルドと共に色々な場所に行ったことを思い返している。
 舞い落ちる桜や雪や落ち葉、そして頭上に広がる星空。色んなものを目にしてきた。
(そのどれもがウィンクルムになる前とは違って見えたものだった)
 ウィンクルムになる前、ディエゴは利権にまみれた世界にいた。後悔に苛まれる中で、はじめてハロルドと出会ったのだった。
(今日もそうだ、雨は鬱陶しいとしか思っていなかったが、今はエクレールと並んで雨音を聞くのが楽しい)
 雨が奏でるポタポタという音。紫陽花の葉の上で、小さなカエルが涼しげに鳴くのも聞こえた。
 ディエゴは穏やかな眼差しで、傘の下にいるハロルドを見つめた。

 その視線でハロルドはハッと我に返った。
「……あ! すみません、私ぼーっとしちゃってて」
「すまん、俺も黙りこくってしまって」
 どちらも和やかに謝る。
「退屈ってわけじゃあなくて、雨音が心地いいなと思ってたんだ」
「……!」
 ディエゴのその言葉を聞いて、ハロルドは唇に笑みを浮かべた。ディエゴに近づいて寄り添う。
「私も楽しいです。そして、綺麗な虹が見られるならもっと楽しくなると思います」
 ディエゴも頷いた。まだ少し雨が降っているが、だんだんと雨脚は弱まり、雲も薄れてきている。
「晴れたら虹でも見に行くか、東の空に出るだろう」
 光の性質を考慮して、ディエゴは虹が出る方向に見当をつける。
「きっとよく見える筈だ」
「いってみましょう」
 二人で、東の空がよく見渡せる場所まで移動する。
 しばらく待っていると、ディエゴの思惑通りに虹が出た。
「……」
 二人共黙って虹を眺める。今は言葉はいらない。
 虹は儚さを象徴するものでもあるけれど、二人の関係は色褪せることなくずっと続くようにとハロルドは願った。



●雨が止んでも
(蕗の傘……。一人用と二人用のどっちにするか……)
 真剣な顔で蕗傘を眺める『桜倉 歌菜』。係員の説明によれば、蕗のサイズによって一人用と二人用があるとのことだった。
 傍らの『月成 羽純』にチラッと視線を向ける。
(羽純くんとお喋りしながら歩きたいから、勇気を出して……)
 意を決して歌菜はこう切り出す。
「ねえ。別々の傘だと会話し辛いと思うし、二人用の傘にしない?」
 羽純はちょっと目を丸くした後で柔らかく首肯した。
「……考えてた事は同じだな。勿論、歓迎だ」
 羽純も、歌菜と同じように考えていたようだ。それがなんだか嬉しい。
「じゃあ、傘は私が……」
 二人用の大きな蕗傘を持とうとする歌菜。だが、それを羽純に制された。手からひょいと蕗傘を取り上げられる。
「羽純くん?」
「こういうのは、俺に持たせてくれ」
 さながら物語の王子のように歌菜をリードする羽純。
(……嬉しい)
 羽純から大切にされていることが伝わってきて、歌菜は照れてしまう。

 同じ傘に入って小道を歩く。互いの息遣いが感じ取れるほどの距離だ。もしかしたら心臓の鼓動さえもわかってしまうかもしれない。
(……私の鼓動が速いのも伝わっちゃってるかな?)
 恥ずかしくなり歌菜は少し離れた。
 羽純はそれに気づき、何も言わずにただ傘を歌菜の方へと差し向ける。自分が濡れるのも気にせずに。
(ああっ、でもこれだと、羽純くんが……)
 思い切って歌菜は羽純の傍に寄り添う。

 離れたかと思えば急に距離を詰めてきた歌菜の素直さが愛らしくて、羽純はつい嬉しさで頬が緩みそうになる。

(……温かいな……それに羽純くんから良い香り)
 レインポンチョの類は着ていないので、羽純が身につけている【ネクタイ】クリムゾン・ボーダーは小雨で軽く濡れている。爽やかな芳香を漂わせていた。
 歌菜の耳元を飾る【イヤリング】ラピスドロップが、恋愛感情に反応して神秘的なオーロラの輝きを放つ。
 どちらも水辺で効果を発揮するアクセサリーで、歌菜と羽純の雨垂池でのデートを盛り上げるのに一役買った。

(駄目だ。嬉しくて顔がにやけちゃう……景色に集中しよう)
 歌菜は小道の周りで鮮やかに色づいている紫陽花に目を向けた。白、青、紫、ピンクと、様々な色合いの紫陽花が植えられている。
「え、えーっと……紫陽花、綺麗だね。雨に濡れて宝石みたいに輝いてて……」
 カラフルな紫陽花は水のきらめきで輝きを増していて、まるで宝石箱のようだ。
「そうだな」
 羽純も同意する。それからこう説明してくれた。
「紫陽花は水分を好むらしい。日差しが強いと花が萎れてしまうから、雨の中の方が元気に咲くと紫陽花の名の通り、淡く輝いて見えるな」
「へえ!」
 歌菜は素直に感心した。
「……雨だからこそ、見れる光景だよね」
 少し思うところがあり歌菜はちょっとさみしげにつぶやく。
(この相合傘も雨だからこそ……)
 歌菜は空を見上げた。今はまだ小雨が降っているが、この調子では午後には雨は止むだろう。

「あ、雨上がっちゃった」
 雲間から差し込んだ光に、歌菜はわずかに眉を下げた。普段なら嬉しいはずの雨上がりが、今は残念に思えてならない。
「でも虹が……素敵……」
 空にかかった虹に気づいて歌菜が感嘆の息をもらす。
「本当に綺麗だな……」
 そう言った羽純は、虹よりもそれを見上げる歌菜の横顔に視線を注いでいた。
「歌菜」
 雨が上がってもう不要になったはずの蕗傘を掲げながら、羽純は優しい声でこう言った。
「雨は止んだが……もう少しだけ、こうして傘を差して歩こう。この相合傘の時間を、もう少しだけ堪能したい」
「……うん!」
 歌菜は元気良く頷く。二人仲良く寄り添い、相合傘での散歩を続けた。



依頼結果:成功
MVP
名前:アリシエンテ
呼び名:アリシエンテ
  名前:エスト
呼び名:エスト

 

名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月16日
出発日 06月21日 00:00
予定納品日 07月01日

参加者

会議室

  • [8]桜倉 歌菜

    2016/06/20-23:33 

  • [7]桜倉 歌菜

    2016/06/20-23:32 

  • [6]桜倉 歌菜

    2016/06/20-23:32 

    出発ギリギリのご挨拶となりました…!
    あらためまして、桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願い致します!

    せ、折角なので、2人用蕗傘を使ってみるつもりです…!

    よい一時となりますように♪

  • [5]アラノア

    2016/06/20-23:08 

    アラノアとパートナーのガルヴァンさんです。

    小さい頃、大きな葉っぱを傘に見立てて遊んだ事があるので、なんだか懐かしい気分です。
    楽しみです。

  • [4]アリシエンテ

    2016/06/20-22:56 

  • [3]ハロルド

    2016/06/20-13:06 

  • [2]マユリ

    2016/06/20-08:29 

    マユリです
    いつも差す傘とは違うのは、なんだか新鮮で良いですね
    よろしくお願いします。

  • [1]桜倉 歌菜

    2016/06/20-00:31 


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