邂逅の日(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「初めまして」

君が告げる言葉を、今でも憶えている。
照れ臭そうに笑って、まるで湧かない実感とは別に、この人と戦い、生き抜いていくと、どこか決意じみた感情を芽吹かせて。

「初めまして」

そう返した僕に、君が精一杯の笑顔を向けてくれた。

出会ったのは、A.R.O.A.が最初だっただろうか。
ああ、それとも街中の往来する人混みの中――。
いや、生まれた時から知っていたっけ――。

いつでもその瞬間は溢れていて、だけどそれが必然とは夢にも思わなかった。
ここにいる理由。
君と出会ったこと。
それはただ、偶然が積み重なっていて、だけどそれが必然になる瞬間が訪れる。

手を取って、その甲に口付ける。
人と人との出会いが、業深き運命へと変わる。

この人で良かった。
この人でなければ良かった。
思うことは色々とあるけれど。

初めて出会った日のことを、君は憶えてくれているだろうか。
僕は、今でも鮮明に覚えているけれど。

空の色。
風の匂い。
景色の温度。

どれも不思議と、その日の為に用意されたもののようで、儚くて、美しい記憶。
忘れてしまったかな。
それでも、構わないけど。

ねえ。
君と初めて出会った日。
あの頃を少し思い出してみようか。
あの頃の話をしようか――。

解説

内容としては、『初めて出会った日のこと』です。

契約をしたときのお話でも、本当に初めて出会った時のことでも、大丈夫です。
回想という形よりも、その当時をプランとして組んでいただいたほうがいいかな、と思います。

基本的には初めて出会った日のことであれば、どんなプランでも大丈夫です。
生まれた時が初めましての時でも、勿論大丈夫です。
ただ、両方が赤ちゃんで、ばーぶばーぶ会話するのはちょっとあれなので、お察しください。

※気づいたら300Jrなくなっていました。

ゲームマスターより

神人さんと精霊さんの初めての出会い。
もしくは、芽生えた感情との初めての出会い、なんてのもいいのかなぁ、なんて思います。

素敵なお話を聞かせてくださいね!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

クロス(オルクス)

  ☆当時 ロングポニテ 和装男装

☆場所 訓練所

当時は男女差別や嫌がらせ有
軍唯一の女隊士兼神人
この日は各軍から視察

(お偉いさんの視察、ねぇ…
だから模擬戦か
…そういやその中に若くして大尉になった精霊がいたな…
オーガ殲滅を中心とした特殊部隊…
確かブラッドクロイツ、だっけか?
絶対に入隊してやる!

☆模擬戦
相手の力量計りながら偵察し一気に決め勝利
暴言など言われるが無視
喉元スレスレ居合
最後視線を感じ上を見るとオルクスと目が合う

「女だからと油断するからだ
俺のせいにされても困るな
悔しいならサボってねぇで磨きやがれ!
何の為に入隊しだんだ!
やる気がねぇならここから去れ!
(視線? あぁアイツが例の、オルクス・シュヴァルツェ…」


久野原 エリカ(久野木 佑)
  パートナーが現れた……? 契約……?(戸惑いを隠せない

私は神人で、だから離れに閉じ込められていた……
それなのに今度はその力が必要とされている……でも、私のせいで、屋敷は……(思い出しそうになってやめる

相手はどのような人なんだろうか……少し、不安だ。

(対面)
おい……誰が小さいだ(佑の足ゲシィ

……久野原エリカだ(警戒心からかキツめな言い方

私を……守る……
なんだ、この真っすぐなまなざしは(戸惑うもそれは嫌なものではなく

補足:
この当時は屋敷がオーガの襲撃を受けた後保護されたばかりであり、家で植え付けられた価値観と外のそれの違いに戸惑いを感じている(詳しくはEp10参照)
プラス人見知りで若干警戒心が強い


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  契約前
私の知らなかった初めての出会い

今日から、おじいちゃんのお弁当屋さんで働く
故郷を失い、タブロスのおじいちゃんとおばあちゃんに引き取られて…数年
進学も勧めてくれたけど…おじいちゃん達が頑張ってるお店を手伝いたいと
おじいちゃんとおばあちゃんのお弁当は、温かくて幸せをくれる味
だから、私も元気と幸せを振りまくように笑顔を心掛けて

いらっしゃいませ!

目の回る忙しさ…余計な事を考えなくていいや

配達もあるの?
おじいちゃん、私が行く
傘を差し配達へ
途中、突風で傘の骨が折れ途方に暮れていたら、目の前に傘を差し出され
男の人…傘で顔が見えない
驚いている間に、その人は行っちゃった
お礼、言いたかった…また、会えるかな?


小鳥遊 光月(甲・アーダルブレヒト)
  A.R.O.A.に適性のある精霊が現れたと連絡され、出頭しようとして知らない道で迷子になった。
時間が迫っているため道行く青年に声をかけたら睨まれる。
「す、すみません、A.R.O.A.ってどっちになります?」
無愛想な青年がどんどん先を行く。しばらく歩く。
「あのっ、道だけ教えていただければ」
「えっ……あの……A.R.O.A.の関係者の方?」
(な、なんだか怒ってる!?)
しょんぼりしながらついていったらA.R.O.A.についた。
下向いて歩いていて、玄関のドアに頭を激突。
涙目になりながら中に入ってカウンタの係のところへ。
「ああ、ご一緒にいらしたんですね、これから説明になります」
(ええ!!)
相手は精霊だ。


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  過去
行方不明の兄を探す旅の途上
雪深い村で出会った、剣術に優れ穏やかに笑う人
淡い想いを自覚する間もなく
デミウルフに襲われた親子の身代わりとなり負傷・顕現
彼に命を救われた
けれど、感謝も伝えられぬまま
保護・治療のため討伐隊と共にタブロスへ
が前提


傷も癒えた頃
保護された施設で適応精霊が見つかったと告げられる
指定の場所でその人を待つ
期待半分不安半分
現れたのは鮮烈な白と金
まるで子供の頃に繰り返し読んだ童話の妖精の王子

どこかで会った気がするが思い出せない
こんなに目立つ人なら、忘れるはずはないのに…
気のせいだと判じ慎重に挨拶
やけに馴れ馴れしい態度に少しだけ困惑
甘い微笑みに照れ

プラン取捨・アレンジ、自由に可



新しく加入した新人たちの視察を行うため、訓練所へとやってきたオルクスは、飛び交う雑言をを涼しい顔で聞き流していた。
話題の渦中にいるのは、その中にいると言う、珍しい女性隊士だ。
――唯一の女隊士兼、神人……なぁ。
男女の身分格差の強い部隊であっただけに、それを乗り越えて入隊したのだ。
相当腕がたつに違いない。
――ぜひとも我が隊に引き抜きたい。
立派な親を盾に、ろくに使えもしない、覚悟もない甘ったれた隊士はオルクスもそろそろうんざりしていた。
優秀であるならぜひとも欲しい人材であったし、何より。
――オレの神人候補か……。
オルクスと適応した神人。それが、件の女性隊士なのだ。
それが腰抜けときたのでは、話にならない。
訓練所の上段で、これから繰り広げられる模擬戦に目を向ける。
「さぁて、高みの見物としようか……」
下方から見上げてくる視線があった。
長い髪を高く結い上げ、和装を着込んでいるが、それはまるで男のようないでたちだ。
(お偉いさんの視察、ねぇ……。だから模擬戦か)
訓練所の上段を見上げて、クロスは高みの見物をしている視察団を眺めた。
(……そういや、その中に若くして階級を得た精霊がいたな……)
若いながらも実力を示し、その力を正しく評価する部隊がある。
(オーガ殲滅を目的とし、中心に行っている部隊……)
正しい目で人を評価する部隊ならば、性別の差もないに等しい。
否――。
性別の壁は越えがたい。けれど。
(絶対に入隊してやる!)
力があれば認められるなら、浴びせられる言葉を覆すことができる。
こんな――。
「始め!」
試合の合図がかかる。
剣を構え、相手との距離を測る。踏み込むタイミング、呼吸、間合い。
それらを観察しながら、クロスが一歩踏み出す。
「坊、例の子じゃ。相手は親の七光りかの」
「大将、坊呼びすんな」
訓練場上段で、オルクスが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「結果は彼女が勝ちますよ」
「ほう。なにゆえそう思う?」
「相手の力量を計り、冷静に観察してますから。ほら、予想通り……」
クロスが相手に詰め寄ると、喉元へぎりぎりの居合を決める。
せめて、攻撃の応酬でも続けば模擬戦も面白かっただろうに、相手は訓練を怠り、クロスを女とみて舐めていた。
「喉元を突くなんて卑怯だぞ!」
「女だからと油断するからだ。俺のせいにされても困るな」
どこを狙おうと、本当に強ければ回避できたはずだ。
「手加減してやっただけ……」
「悔しいならサボってねぇで腕を磨きやがれ! 何のために入隊したんだ! やる気がねぇならここから去れ!」
負け惜しみを零す男に、クロスは捲し立てるように一喝する。
――へぇ……。
「喝も入れるとは中々……」
――ますます気に入ったぜ……。
にやりと笑みを湛えて見下ろすオルクスの視線に、クロスが視線を向けた。
(視線? あぁ、あいつが例の……)
視線が交錯し、クロスが踵を返した。
オルクスも立ち去ろうと隣に目を向けて。
「大将、なに笑ってんだよ」
「良きかな良きかな」
「何がだよ……っ」
知れず訪れる、淡い春。


A.R.O.A.から知らせを受け、小鳥遊 光月は本部へと向かっていた――のだが、盛大に迷った。
なにせ知らない道の連続だ。
時計を見遣り、予定時刻が差し迫っていることを知ると、やむを得ず道を行く青年に声をかけた。
「す、すみません。A.R.O.A.ってどっちになります?」
すると、青年は表情のひとつも変えずに光月の先を歩いた。
「あ、あのっ」
「こっち」
「道だけ教えていただければ……」
自分で行く。
そう言いかけるものの、青年の機嫌はすこぶる悪そうだ。
「俺もこっち」
「えっ……」
短く言い放ち、すたすたと歩いて行く。
慌てて追いかけるが、重い沈黙に居た堪れなくなる。
「あの……A.R.O.A.の関係者の方?」
「……」
道が分からなくて声を掛けただけなのだが、それが気に障ったのだろうか。
あるいは、何か青年の逆鱗に触れたのだろうか。
(な、なんだか怒ってる……!?)
しょぼんと肩を落とし、黙って青年のあとをついていく。
とりあえず、青年がA.R.O.A.に向かうことだけは確かなようだから、迷うことはないだろう。
しばらく歩いて、突然。
頭に激痛が走った。
「いっ!?」
下を向いて歩いていたせいで、A.R.O.A.に到着したことも分からなければ、玄関ドアの存在も気づかなかった。
結果、ドアに激突してしまった。
「……前見て歩け」
涙目になりながら、その声に顔を上げる。
青年の言い分は至極正しい。
――こいつ、本当に大丈夫なのか……?
その何とも言えない視線に気づくことはなく、光月がA.R.O.A.職員に声をかけた。
青年も、別の職員に声をかけた。
二人の職員は手にした資料に目を通し、笑顔で言った。
「ああ、ご一緒にいらしたんですね。これから説明いたしますので、どうぞ」
「え?」
「……?」
半ば置き去りになっている二人を待合室に案内する途中、職員が言った。
「一緒にいらっしゃると言うのも、やはりウィンクルムのなせる業でしょうか。素晴らしいですね!」
(ええ!!)
「ウィンクルム、ですか? え?」
「お相手の精霊ですよ。ご存じなかったんですか?」
つまり、この青年は、光月のパートナーということだ。
知らなかったとはいえ、何か気に障ったようであったし、挙句にあの失態だ。見られたくはなかった。
同じ見られるなら、せめてもう少し後に見られたかった。
説明が始まるまで待つようにと職員から指示があったあと。さらに気まずい空気が流れる。
青年がまじまじと光月を見ている、その視線には気付いた。思わず顔を背けるように俯く。
――よく見れば悪くないな……。
などと思っているとは、露知らず。
「あ、あの……」
「ん?」
「よろしくお願いします」
せめて挨拶はきちんとしておかねばならない。
「ああ、よろしく」
たとえ素っ気なく返されても。
「あたしは、小鳥遊光月と言います」
「俺は甲・アーダルブレヒトだ」
今のところ、不安しかないがウィンクルムとして良い関係を築いていければいい。
そんなことを思いながら契約を交わすことになる。


母の経営するカクテルバーからほど近い場所にある老夫婦の経営する、月成 羽純のお気に入りの弁当屋。
和食中心の優しい味で、どこか幸せな気持ちになる。
羽純自身もカクテルバーで働いていることから、食事を作る余裕のない時は買いに行くようになった。
雨の夕方。
その日も二人分の弁当を買いに来てみたが、いつもより少し混雑している。
これだけの味を提供できるのだ。賑わって当然だろう。
そんなことを考えながら、清算待ちの列に並ぶ。
「いらっしゃいませ!」
明るい声に、羽純は思わず声の主を窺う。
溌剌とした笑顔の少女が、並んだ客の清算作業に追われている。
笑顔で出迎えて笑顔で見送る。
当たり前のことだが、それがあまりに自然で、気持ちがいい。
新しいバイトだろうか。老夫婦だけでは手が回らないだろうから、人を増やすことは歓迎する。
しかも、良い接客をするバイトなら羽純でなくとも歓迎するだろう。
けれど。
「え、配達もあるの? おじいちゃん、私が行く」
老夫婦と少し言葉を交わして配達先を確かめると、少女は羽純と対面することなく出て行ってしまった。
少し、残念だ。
あの笑顔に迎えられたいと思っていただけに。
傘をさして。
大切な弁当を持って。
(おじいちゃんたち、毎日こんなに働いてる、んだよね……)
桜倉 歌菜は正直、驚いたのだ。
目が回るような忙しさ。雨だと言うのに混雑する店内。
故郷を失ってから面倒を見てくれた祖父母に、少しでも恩返しがしたくて弁当屋を手伝うことにした。
(皆が幸せになってくれるといいな)
祖父母の弁当は、人を幸せにする味だ。歌菜ももちろん、その味が大好きだ。だから、手伝いたいと思った。
店では余計なことは考えないようにと思ったが、外に出てみれば考える時間も自然とできてしまう。
大変だっただろうな、とか。
頑張ろう、とか。
水が跳ね、足元を濡らす。雨足はさらに強くなりそうだ。
弁当を手に、配達先へと急ぐ。
と、突風が一陣吹き抜けていく、
「きゃっ……」
風に飛ばされないように傘を傾けて、突風を凌ぐ。
けれど、その風は歌菜の力などものともせず、傘を逆さに巻き上げて去って行った。
「……どうしよう」
懸命に元に戻そうと試みてはみるが、完全に傘の骨が折れていて使い物になりそうはない。
帰り道なら濡れて帰ることもできるものを、配達先に弁当と共にずぶ濡れで行くことはさすがに躊躇われた。
少し軒先を借りて、傘と格闘をしてみるが、何度やっても無駄だった。
「これじゃあ配達に行けないよ……」
途方に暮れていると、すっと何かが視界に入った。
思わず顔を上げる。
「困ってるなら使え」
「え?」
傘で顔は見えなかったが、声は男性のものだ。
「折り畳み傘で悪いけどな」
それだけを言って、その人は足早に立ち去ってしまった。
彼から渡された折り畳み傘をそっと開く。
(お礼、言いたかった……また、会えるかな……?)
遠くの背中を見送って、歌菜は小さな幸せに微笑む。

――ああ、柄にもないことをしたな……。
傘で隠しながら、羽純は少し、照れて。


(パートナーが現れた……?)
その知らせに、呆然としてしまう。
(契約……?)
久野原 エリカは戸惑いを隠せなかった。
気付いたら神人として顕現していた。そのせいで離れに閉じ込められていた。
けれど、今度はその力が必要とされている。そのために、精霊との契約を――。
でも、と思う。
(私のせいで、屋敷は……)
記憶を掘り起こしかけて、すぐにやめた。
思い出して楽しい記憶ではない。
(相手はどのような人なんだろうか……少し、不安だ)
A.R.O.A.に呼び出され、足を向ける。
職員の対応は手慣れたもので、すぐさま部屋へと案内をされた。
その部屋で、適応したと言う精霊を待つ。
不安は一刻、一刻と募っていく。
しばらくしてやってきた精霊は、言葉を忘れたかのようにじっとエリカを見つめていた。そして。
「……えっ……、こんな小さな子が……」
ぽつりと、忘れていた言葉を思い出したかのようにそんなことを漏らした。
さすがにそれにはカチンと来た。
「おい……誰が小さいだ」
一度きつく睨むと、精霊の足を踏み、むすっとそっぽを向く。
「っだあっ! すみません、すみません! 足退けてええ!!」
涙目で訴える精霊に、渋々足を退ける。
――見た目に反して手ェ出過ぎじゃないですかね……いや、足だけど。
精霊は踏まれた足をさすりながら、うっかり口に出さないように気を付けつつ、胸中に零した。
適応した神人が見つかったと知らせを受けたのは、精霊も同じだった。
神人はどんな人なのだろうか。どんな人でもちゃんと守りたい。
不安と同時に、そんな期待もあった。それだけに、不安はどんどん加速度を増す。
――ちょっと不安になってきたけど……でも、俺のやることは変わらない。
精霊は気を取り直して、背筋を伸ばす。
しっかりとエリカを見て礼儀正しく言葉を掛けた。
「……改めて、初めまして。これからパートナーになる久野木 佑です」
「……」
自己紹介をした祐を見遣って、エリカが口を開く。
「久野原エリカだ」
警戒心から、やや強い語気になってしまったが、初対面で警戒をしないと言うのも無理な話だ。
「エリカ……さん、ですね」
先程のやり取りで、子ども扱いは嫌いだろうと思い、呼称は探るようになってしまったが。
エリカより上背のある祐はそっと屈んでエリカの目線に自分の視線を合わせた。
「どうか、貴女を守らせてください」
「私を……守る……」
ほとんど聞き取れない声でエリカが呟く。
まるで不思議な言葉を聞いたような、そんな感覚だ。
(なんだ、この真っ直ぐなまなざしは……)
躊躇いも、遠慮も、偽りもない、ただ真っ直ぐ向けられる言葉と視線に戸惑う。
けれどそれは決して不快なものではなく、むしろ――。
「……よろしく頼む」
「はい!」
向けられる笑顔にどうしていいか分からず、ふっと視線を外す。
少しの不安は、胸をざわめかせる戸惑いへと変わった。
それが少し心地良くて、さらに戸惑っている自分に気付く。
その後、契約を交わし、ウィンクルムとして同じ時間を重ねて行くこととなる。


精霊として生きたかった。
次期当主として温く生かされるより、戦場へ赴くことになっても、俺は誰かの隣に立って、その人を守りたかった。
けれど、箱の中で生きてきた俺には、家族を説き伏せるだけの知恵も、知識もなかった。
あったのは、精霊として登録すらされていないと言う事実だけ。

俺の望んだ生き方はできない――。

結局出した答えは、両親が咎を追うことを恐れて名乗り出ることもできず、各地を流れることだった。
――これでいいのか……?
不安と共に押し寄せる疑念は常に付きまとった。
他に答えも見付けられず、気付けば雪深い村で自警団として戦っていた。
それは、俺が望む生き方にひどく近かったのかもしれない。誰かのために戦って、守ること。それが、精霊の本来の生き方のはず。
そう思っていた。そう信じていた。

あの人に出会うまでは。

彼女が村にやってきて暫くした頃、オーガの襲撃を終わらせるべく要請した討伐隊がようやく到着した。
これで、解放される。
これで、また生きる意味を失ってしまう。
なんという二律背反。
討伐隊の話に耳を傾けていると、一組の親子が血相を変えてやってきた。
少女がデミ・ウルフと戦っている――と告げて。
すぐに討伐隊と共に救出へと向かった。
兄を探している途中、村で足止めを余儀なくされていた少女。
しばしの滞在であっても、オーガの襲撃は頻発していたため最低限の身の守り方は教えた。けれど。
――一人で戦うなんて無茶です。
なぜそんな真似をあの人が……。
思って、考え至る。
――俺が、教えたから……か。
足が止まった。
討伐隊が俺を追い越していく。その背中を見つめる、この姿のなんと滑稽なことか。
精霊として生きたかった。
でも、俺がしていることはただの自己満足。少女を危険に晒し、オーガと対峙している自分に酔っていただけなのではないか。
「空、さん……すみません……」
雪が舞う。
風に揺れる黒い髪と黒い外套。
姿を偽って、自分の為だけにしか戦えない俺の、今の姿。
重い足を前へと進める。せめて、正しく貴女を守りたい。
交戦する討伐隊に混じり剣を振るった。本当に望んだ形で振るったのはこれが初めてかもしれない。
そして、すぐにその場を後にした。彼女に合せる顔などない。
罪悪感に胸が締め付けられそうになる。
――空さん……。
二度と会うことはないかもしれない人。けれど、もしも会ったなら、ちゃんと胸を張れるように生きていきたい。
いつか隣に立つ人を、間違えず守っていきたい。
貴女に、恥じないために。

「適応神人が現れましたのでご報告いたします」
端末から聞こえる声。
髪の色を落とし、黒い外套は捨てた。
精霊として登録をして程なくの連絡だった。
指定された場所へ向かうと、そこには凛と咲く小さな花が佇んでいた。

――神よ……。

その采配になんと感謝を述べればいいのだろうか。
彼女と目が合う。驚いたような、彼女の表情に微笑んで。
「こんにちは。お会いできて嬉しいです」
いつも通りに掛けた声に、彼女は少し困惑した表情を見せた。
「俺は――」
「はじめまして」
カルヴァドスです。
その言葉を飲み込んだ。
初めまして――。
そう、か。
あの時は変装をしていたから分からないのも無理はない。金色の髪と、願いを託した白い服。
二度と、会うことはないと思っていた淡い慕情。

「ジュニール カステルブランチです。初めまして」
「秋野 空です。よろしくお願いします」

初めまして、から始まる俺と貴女との思い出。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: コンノ  )


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月09日
出発日 06月17日 00:00
予定納品日 06月27日

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