ティルサマンス~遅咲きの桜~(雨鬥 露芽 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ


「まだ、だめそうかい?」

 桜の花に問いかける。
 大切な人のために植えた桜。
 あの時は咲いていた桜を、見上げる。

 強い絆、ウィンクルムのおかげで確かに元気はもらえたはずだった。
 蕾だってついている。

 しかし、咲く気配が、ない。


 ここは喫茶店『ティルサマンス』。
 外観は一見日本家屋だが、店内は北欧風というこじんまりとした小さな喫茶店。
 その店長であり、唯一の店員であるブロードは、すれ違って離れてしまった女性を待ち続けていた。
 この桜がもう一度咲いた時に会えるという言葉を信じて。

――私は、もう一度咲きたい――

 そしてそんなブロードと女性を見続けていた桜は、心を持った。
 ブロードとだけ会話ができる桜となった。
 人の心を感じられる桜になった。
 故にブロードは、お互いを想い合う客だけを特別な桜の席に座らせていた。
 その力を、蓄えるために。

――二人が本当は通じ合っているのだと、気付いてほしいから――


 もう桜の時期も終わる頃、それは訪れた。
 いつも通りパンの準備をしていたブロードは、店内から見えたピンクの景色に驚いた。
 慌てて庭に出ると、それは確かに、あの咲かなかった桜。
 大きく大きく、満開になった桜。

「君は……」

 ピンクの花弁が舞い、ブロードに届く。
 ブロードは喜んだ。
 そして、お客さんにも喜んでほしいと思った。

「これは、お祝いをしなくてはならないね」

 桜に声をかけて微笑み、キッチンへと戻っていくブロード。
 いつもよりも沢山の人に笑ってもらえるようにと、沢山のパンを作って
 そして金額をお祝い価格として少しだけ変更した。

 まさか、桜の想いが強すぎて影響を及ぼすなんて、考えもせずに――。

解説

咲きました。
しかし通じ合ってほしい気持ちが強すぎて、影響が出てるようです。
前回参加者も参加◎。

■目的
喫茶店で美味しいパンを食べてお喋りをしよう。

■PC情報
・注文済み
・桜の影響を受け、素直に行動してしまう
・席は桜のあるガーデン。いわば外。
・店内は見えない
・店長が定期的にパンを持ってくる
・完全個別

■桜の影響
その時に思った通りの行動をしたり、言葉が口から零れたりします。
今まで思っていたことが口から出てくるわけではなく『その時思ったこと』をぽろっと言ってしまいます。
嘘をつけないわけじゃないですが、思ったら隠せません。
でも店外に出ることはないです。
【例】
・触れたいと思ったら手が動く
・自分の発言にびっくりして「今のは違う!」と否定するのは、素直に思ったことなので可能
・カレーが大好きでどれだけ考えていたとしても、その時食べたいと思わない限り「カレーが食べたい」とか言ったりしない

■メニュー
●基本セット→300jr.
この店唯一のメニュー。必須。
お祝いで格安設定。
【パン食べ放題】
シナモンロールはこの店で特に人気。
しかし喜びのあまり他のパンもめちゃくちゃ作ってるので大体何でもあります。
机の上のバスケットに入っており、定期的に店主が焼き上がったパンを追加しに来ます。
【ケーキ】
ショートケーキ、チョコやチーズケーキ、モンブラン、ティラミスなどメジャーなもの含め大体存在。
一つだけ選んで注文。
※指定がないとこちらで決めちゃいます。
【浅煎りコーヒー】
苦味よりも酸味と香りを楽しめるコーヒー。
基本はブラックですが、ミルクや砂糖も出せるので必要なら言いましょう。

●オプション
【サンドイッチ】
具はレタスとハム。バケットタイプ。→100jr.
【クッキー】
甘い。5枚。→50jr.
【果物】
いちご、キウイ、ミカンの盛り合わせ。→100jr.

■プラン
ケーキの種類は二人とも必須。オプションは自由で。

アドリブ嫌な方はプラン頭に×。

ゲームマスターより

桜のシーズンそろそろ終わる…!と焦り気味の雨鬥露芽です。
以前書いた桜が、皆さんから元気をもらったので咲きました。わーい。
でも何か素直になっちゃうみたいですね。
そしてブロードさんは全く気付いてない……。

でも通じ合ってるなら素直になったって大丈夫ですよね?ね?
あ、ここ、一応お外ですからね。

読まなくても何ら問題はないですが
一応前回のお話→https://lovetimate.com/scenario/scenario.cgi?type=1&seq=941&gender=0

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  桜色のロールケーキ

お花見ができて、美味しいパンとケーキ、幸せです

神殿で見た光景とその時の天藍の様子から、その時自分自身に誓った事を思い出す
…天藍をオーガになんてさせません
根拠があるわけではないけれど、これだけは絶対に譲れない

少しでも安心して欲しくて反対の手を重ねる
日々の小さな幸せを感じれる内は大丈夫じゃないでしょうか
…例えば美味しいケーキやパンを一緒に食べるとか
フォークに1口取り天藍へ

もう一口と更にフォーク差し出され
餌付けされている気分です…
楽しそうに笑う天藍の気が少しでも晴れたら良いと思う

…そうですね
一緒にお出かけして帰る場所も同じなら良いですよね
天藍の呟きにこちらもぽつり
顔を見合わせ微笑む


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  ショートケーキ

羽純くん、浅煎りコーヒーにミルクは入れる?(いつもはミルク多め)
今日はいいの?じゃあ、私もストレートにしよう
わ、本当だ、苦味がなくて美味しい!コーヒーってこんなに美味しかったんだね♪

シナモンロール美味しいなぁ♪
今日は来て良かったね、羽純くん

笑顔で彼を見たら、桜の下の彼が綺麗で…

…羽純くんて、本当に綺麗だよね…
って、あれ!?どうして思った事が口から出てるの?
あのその今のは聞かなかった事に…!
いつも綺麗で見惚れてしまうなんて、言わないようにしなきゃ…
って、どうしてまたー!?

わ、私なんて、いつも思ってるもん!羽純くんには負けませんっ
きっと絶対私の方が羽純くんが好きだもん

顔から火が出そう


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  コーヒー/ザルツシュタンゲン(好物)/レモンタルトは精霊へ(甘味苦手)
感情を出すことが苦手

エピ28で精霊が負った傷が心配
傷の方は…その、如何でしょうか?
…意味が分かりません、勲章だなんて

見上げれば嫌でも目に入る顔に貼られた絆創膏
痛々しくて思わず手を伸ばし触れる
私のせいで、綺麗な顔に傷を付けることになってしまって…
精霊の呟きにはっと
真っ赤になって
すみません、非常識でした…!

素直って…別に顔だけが好きな訳では…
って、そういう話ではなくて、私は怪我の心配を…!
赤くなってしどろもどろ

嬉しそうに微笑む精霊と、頬に触れた右手に重ねられた精霊の手のぬくもり
彼がそれで完治するというなら、気恥ずかしいのも我慢…


天埼 美琴(カイ)
  チーズケーキ/コーヒー
…ちょっと、怖い…かも
それは目の前にいるガイのこと
ガイの視線に気づき、わたわた否定
ち、違うんですっいえあの違わないんですけどっ
す、すみません…
え?
沈黙が流れるが口を開く
…あの……
私、自分に自信が持てない、んです
悲観的だからって言われるとあの…おしまい、なんですが
もし、ガイさんが良ければどこまでできるか見ていてほしい…です
挫折するなら見放したって、良いです
あなたに見放されるなら、それまでだった、ということですし…
全て本音だが、もう自分の言ったことに驚かない
…! はい、知ってます
にこりと微笑む
やるときは、やりますから
あ…。あの、ガイさん。桜…キレイ、ですね



 焼きたてのパンとコーヒーの匂い。
 すぐ隣には大きな桜。

「お花見ができて、美味しいパンとケーキ、幸せです」

 嬉しそうに桜色のロールケーキに手をつける。
 小さく切り分けて口に含めば春の香り。
 かのんの嬉しそうな様子を見て、天藍も笑みを浮かべる。

「本当に綺麗な桜だな」
「はい」

 二人で桜を見る。
 薄いピンクが空色に散りばめられたその景色。
 春を満喫する、二人だけの、ゆったりとしたひととき。

 そうしていると、ふっと雲が空にかかり、桜の向こうの空が陰った。
 仄暗くなったその空間。
 天藍の脳裏に、フラーム神殿で見た情景が蘇った。

 角が生え、オーガに変わっていく、自分の姿。

 ぞくり――
 背筋に悪寒が走る。
 自身を見失うような、ここからなくなるような、そんな恐怖。
 温もりを求めて、思わず手が伸びた。

「天藍……?」

 彼女の手の温かさを包んで握る。
 かのんは少しだけ驚いていたけれど、拒むことなくそれを受け止めた。

「俺もオーガになる可能性がある――」

 それが、怖い。

「俺は、一番傍でかのんを守る存在でありたい」

 しかし、その自分が、オーガとなってかのんを傷つけてしまうかもしれない。
 自身が、元凶となるかもしれない。
 守りたい人を自分で傷つけてしまう。
 それは天藍にとって、酷く恐ろしいことだった。

 そして、今思い返したが故に、出てしまった。

 天藍の言葉から、かのんも神殿で見た光景を思い出した。
 その時の天藍の様子も。
 そして、あの時に自分自身に誓った事がある。

「天藍をオーガになんてさせません」

 どうしたらオーガにならないかなんて、今はわからない。
 根拠があるわけでもない。
 だけど、しっかりと心に決めている。

「これだけは、絶対に譲れません」

 天藍が本当に恐怖を感じているのがかのんに伝わる。
 少しでも安心してほしい。
 そう思い、かのんは右手を天藍の手に重ねる。
 自分の温もりを、天藍に閉じ込めるように。

「日々の幸せを感じられる内は大丈夫じゃないでしょうか」

 かのんの心からの微笑み。
 そして、手から伝わる温もり。
 次第に天藍の気持ちが和らいでいく。

「……例えば美味しいケーキやパンを一緒に食べるとか」

 自身のケーキを一口取り、天藍に差し出す。
 そんなかのんの優しさに、深い息をついて笑みを返す。
 胸の内の澱を吐き出すように。
 心に痞えていた不安や恐怖を、取り除くように。

「そうだな」

 かのんの持つフォークから、桜色のロールケーキを貰う。
 舌に広がる、甘い甘い、春の味。
 この時間を、今一緒に過ごせるのだから。

「お返しだ」

 ふっと笑い、抹茶のロールケーキをかのんに差し出す。
 戸惑いつつ、恥じらいを浮かべながら、かのんは小さく口を開ける。

「美味いだろ?」
「はい、ふわふわしてますね」

 甘すぎず、しっとりとした生地。
 それでいてふわふわとしていて、そこに香ってくる抹茶の優しさ。

「ほら、もう一口」

 かのんの様子が愛しくて差し出した。
 嬉しそうな笑顔。

「餌付けされている気分です……」

 小さく顔を紅色にさせながら呟くかのんに、天藍は楽しそうに笑う。
 少しでも、天藍の気が晴れるなら。
 共に居る時間を、幸せに過ごせるなら。
 かのんは再び、天藍のフォークに口をつける。

「早く一緒に暮らせるようになれば良いな」

 ぽつり。
 天藍が呟いた。

 今この瞬間の、小さな幸せ。

 こんな時間を、ずっと過ごしていられたら。
 そうでなくても、二人でいられる時間が増えれば。
 彼女と一緒なら、この幸せを積み重ねていける気がするから。

「……そうですね」

 かのんも、ぽつり。

「一緒にお出かけして、帰る場所も同じなら良いですよね」

 顔を見合わせ、微笑む。
 春の花は、二人を応援するかのように花弁を踊らせる。
 共にいられるのなら、きっと、幸せに――



 桜の樹の下で二人。ゆっくりとした時間が流れていく。
 大好きなザルツシュタンゲンがバケットに入っていることに小さく喜ぶ秋野空。
 まるで王子様のようなジュニールカステルブランチは、そんな空を見て微笑む。
 その笑みに気付いた空はジュニールの顔を見てチクリと胸が痛んだ。

「傷の方は……その、如何でしょうか?」

 ジュニールの顔には絆創膏。
 この前のデミ・リビングデットとの戦闘でついたもの。
 サクリファイスで多少回復はしたものの、右肩にも噛まれた傷が残っており、包帯を巻いている状態だ。

「心配いりません。大したことない掠り傷です」

 「それに」と言葉を続けて優しく笑うジュニール。
 あの時、空は視線の先に違う人物を見ていた。
 故にジュニールは攻撃をせず空を守り続けた。

「ソラを守って受けた傷なら、俺にとっては勲章ですから」
「……意味が分かりません、勲章だなんて」

 大切な空をこの身で庇えて、そしてそんな自分を信じて前を向いてくれた空。
 そうしてできた傷が勲章でなくて何になる。
 しかし空はそんなジュニールの姿を見て心を痛める。

 嫌でも目に入ってしまう、左頬の絆創膏。
 痛々しい傷を浮かべる。

 空から渡されたレモンタルトにフォークを入れるジュニール。
 すっと空の手が伸びた。

「私のせいで、綺麗な顔に傷をつけることになってしまって……」

 体ごとその身を伸ばして彼の頬に触れる。
 整った目鼻立ちに長い睫毛。
 そんな白くて美しい顔に傷ついた赤い傷。
 それを隠した絆創膏。

 空の行動に、少しだけ驚いたジュニールが嬉しそうに小さく笑みを浮かべる。

「綺麗な顔、ですか」

 小さく呟かれた台詞に、空はハッとその手を引いた。

「すみません、非常識でした……!」

 自身の行動に驚きながらも
 顔を真っ赤にしながら慌てて謝る空。
 対して、ジュニールはとても嬉しそうに微笑む。

「いえ良かったです、瞳の色以外で気に入ってもらえる所があって」

 ――南国のような海のような、澄んだ色――

 以前空から言われた言葉だ。
 綺麗だと、褒めてもらった。
 その言葉がとても嬉しかった。
 そして今、それ以外も気に入ってもらえた。

 少しでも、空に気に入ってもらえるなら
 それはジュニールにとってとても幸せな事なのかもしれない。

「今日のソラはいつもよりもずっと素直ですね、俺、嬉しいです」

 日頃自分から率先して触れようなどとしてくれない。
 こうした感情を口にしてくれることも少ない。
 ジュニールはこうした空の言動を、とても嬉しく感じていた。

「素直って……別に顔だけが好きな訳では……
 って、そういう話ではなくて」

 また王子様のように微笑む。
 自分の行動とジュニールの言動に、空の顔色は限界を迎えそうだ。

「私は怪我の心配を……!」

 戸惑いと動揺から色んな感情が口からだだ漏れになる空。
 頭も体も軽いパニックだ。
 ジュニールは、そんな空も可愛らしく思う。
 そして、慌てふためく空の右手を取って笑みを見せた。

「でしたら心配ついでに、もっと触れてください」

 自分の左頬へ引き寄せ、触れさせるジュニール。
 右手に感じる彼の温もりに、空の思考も少しずつ落ち着く。

「それで完治するなら……」

 本当に心配で、早く治ってほしいと思うから――
 恥ずかしい気持ちに勝ったその感情。
 ジュニールの頬から手を動かさないまま。
 蕩けてしまいそうな程の笑み。
 痺れるような感覚が右手を支配する。
 ジュニールの熱と混ざり合って、空の体温は上昇するばかりだった。



「羽純くん、浅煎りコーヒーにミルクは入れる?」

 桜倉歌菜は笑顔で尋ねた。
 月成羽純は、微笑みながら小さく横に首を振った。

「今日はコーヒーには何も入れない」
「今日はいいの?じゃあ、私もストレートにしよう」

 机に並んだコーヒーとケーキに、楽しそうな笑顔を見せる二人。
 いつもはミルクを多く入れる羽純も、コーヒー自体の味を楽しもうとストレートを選んだ。

「苦味が少ないそうだから、甘いパンやケーキにきっと合う」

 そうしてコーヒーを口に運ぶ。
 羽純の言葉を聞いた歌菜も、少しドキドキしながらコーヒーに口付ける。

「わ、本当だ」

 そこにあったのは、すっきりとした酸味。
 コーヒー豆の気品のある香りと混ざり合い、フルーティーで飲みやすい。

「苦味がなくて美味しい! コーヒーってこんなに美味しかったんだね」
「ああ」

 コーヒーの味わいを実感でき、歌菜は嬉しそうに笑う。
 羽純もティラミスを口に含んで頷いた。

「コーヒーが美味くて、この酸味がケーキによく合うな」

 さっぱりとしたコーヒーの酸味が、ティラミスの甘さにちょうどいい。
 羽純の行動を見た歌菜は、わくわくとショートケーキを口に運んでいく。

「うん、ケーキも美味しい! コーヒーにも合うし、一緒に食べるのがいいのかな」
「そうだろうな」

 もうひとつ机にあるのは、パンのバケット。
 羽純は、パンも美味いらしいと手を伸ばす。
 歌菜もそれに続く。

 手に取ったのは、お店で人気のシナモンロール。
 その清涼感のある芳香が、またコーヒーに合う。

「シナモンロール美味しいなぁっ」

 嬉しそうに笑う歌菜。
 羽純と同じことをしては、その楽しみを味わっていく。
 羽純は、そんな歌菜の行動を見ていて思う。

「可愛いな」
「え?」

 思わず口から飛び出した。
 羽純自身も、驚いている。
 別に隠すつもりはなかった。
 しかし今、口に出そうと思ったわけではなかった。
 少しだけ不思議な感覚を覚える。

 だがそれどころじゃない。
 目の前の歌菜の顔は真っ赤だ。

「あ、あり、ありがとう……」

 恋人同士といっても、面と向かってそんなこと言われるのはまだまだ慣れない。
 嬉しさと恥ずかしさに一瞬気圧されかけたが
 美味しいパンとケーキとコーヒーを堪能しているこの瞬間。
 二人だけの時間。
 楽しさ。
 笑顔になる。

「今日は来て良かったね、羽純くん」
「ああ」

 歌菜も羽純も、この空間の全てを満喫していた。
 パンを楽しむ味覚も、お互いの声を聞く聴覚も、そして視覚も。
 そう、この桜の景色すら――

「羽純くんて、本当に綺麗だよね……」

 桜の景色の中で、ケーキを楽しむ彼の姿はとても幻想的にも見えて
 それはとても心に焼き付くようで。

 そして小さく零れ出た言葉にハッとした。

「って、あれ!?どうして思った事が口から出てるの?」

 歌菜から出た言葉と反応。
 羽純も思わずきょとんとする。

「あのその今のは聞かなかった事に……!」

 テンパっていく歌菜。
 恥ずかしさのあまり再び顔が赤くなっていく。
 そんな歌菜に驚いていた羽純だったが、先程自分が体験したことを思い出し、段々と察してきた。

「これは……どうやら思った事がそのまま口に出る現象が起こってるのか?」

 ぽつりと呟く。
 しかし歌菜には聞こえてない様子だ。

「いつも綺麗で見惚れてしまうなんて、言わないようにしなきゃ……って、どうしてまたー!?」

 歌菜の思考が口からどんどんと漏れていく。
 まるでダムが決壊しているようだ。
 何かを隠そうとすればするほど自分の気持ちが溢れだしてしまう。

「有難う」

 羽純が微笑んでお礼を言った。
 冷静なその様子に、歌菜の混乱が少し落ち着いていく。
 だが、歌菜の言葉を受けて羽純も思ってしまった事がある。
 「俺は」と言葉を続けて、それが歌菜に伝えられた。

「歌菜の方が綺麗だと思うぞ?」

 いざ口から出てみると自分でも恥ずかしい事だと実感する。
 しかしそれ以上に恥ずかしそうなのは歌菜の方なのだが。

「わ、私なんて、いつも思ってるもん! 羽純くんには負けませんっ!」

 顔を真っ赤にしながら言い返してきたその言葉。
 思わず羽純に笑みが零れる。

「歌菜が俺に負けないって? それは……どうだろうな。
 きっと歌菜が思うより、俺は歌菜の事が好きだと思うぞ?」

 伝わりきっていないのかもしれない程の、自身の愛情。
 独占欲、愛しさ。
 伝えきれない程の。

「きっと絶対私の方が羽純くんが好きだもん」

 歌菜だって、負けない自信がある。
 お互いに大好きで、大切なのだ。

「俺だって負けない」
「私だって!」

 甘いケーキを食べながら、甘い時間が過ぎていく。
 二人だけの特別な想いと、特別な時間。
 そんな時間をより特別に、と、桜は二人を彩った。



 桜の花が舞う。
 白い机にはチーズケーキとティラミス、パンのバケット、そしてコーヒー。

 苦いものが苦手なガイはミルクと砂糖の両方をコーヒーに入れる。
 共に来ていた天埼美琴は、そんなガイを静かに見ながら自身のチーズケーキに手をつけた。

 ケーキを切るフォークの音が響く。
 コーヒーを混ぜるスプーンの音が響く。
 静かな時間。
 どこかぎこちない空間。

 特に会話はないまま。
 目の前には仏頂面のままのガイがいる。
 その目つきの悪さは、どこか睨まれてるようにも感じて
 口の中でしっとりと広がる甘さに反して、心に浮かんだのは一つの感情。

「ちょっと、怖い……かも」

 美琴の口から、言葉が零れ落ちた。
 一瞬だけ時間が止まった。
 ガイは自分のことだと気付いて、視線を向けた。
 美琴は、その視線から自分の放った単語に気付きハッとする。

「ちっ、違うんですっ! いえあのちがわないんですけどっ……」

 わたわたと否定するも、言葉を引っ込めることなどできるわけもなく
 ましてやそれが本心だったのだから否定しようもない。
 それに、美琴がガイを怖がっているのは、ガイ自身も気付いていた事だった。

「怖がらせてる自覚はまあ、ある」
「す、すみません……」

 ガイの言葉を受け、美琴は俯きがちに手を膝の上に置く。
 そんな美琴の姿に、ガイは思う。
 スプーンをソーサーに置いて、いつもと同じ視線を向けて。

「別に睨んでるわけじゃない。悪いな」
「え?」
「っ……」

 今度はガイが気付いた。
 自分の口から漏れ出た声に。
 目の前の美琴は、顔を上げてきょとんとしていて。

「……別に?」

 ぶっきらぼうに先程の言葉を振り払った。
 そして再び、沈黙が訪れる。
 もう食器の音も鳴らなかった。

「あの……」

 その沈黙を破ったのは、美琴だった。
 それが零れ落ちたものなのか、それとも伝えようとしてなのかはわからない。

「私、自分に自信が持てない、んです」

 ただ、それは素直な自分自身のことだった。
 自分を出す事が苦手な美琴が、自身の感情を紡ぎ始めた。
 ガイは静かに耳を傾けた。

「悲観的だからって言われるとあの……おしまい、なんですが」

 今は、自信の持ち方を知りたいわけではなくて。
 自信がないからこそ、思うことがあるわけで。

「もし、ガイさんが良ければどこまでできるか見ていてほしい……です」

 そんな自信のない自分に、どれだけのものがあるのかを知りたくて、見ていてほしい。
 その先に自分の答えがあると思うから。

「挫折するなら見放したって、良いです。
 あなたに見放されるなら、それまでだった、ということですし……」

 それは、全部本音。
 すらすらと口から出る言葉に、美琴はもう驚かなかった。
 全部が本心だから。
 全部、伝えたいことだったから。

「お前、気弱いクセに根性だけは人一倍かよ」

 最後まで話を聞いたガイが言い放つ。
 それは別に呆れから出た言葉ではない。

「躓いたって俺は別に見放そうとか思わねぇよ」

 何故なら自身がここにいる理由にも繋がっているから。

「守る」

 じっと、ガイの瞳が美琴を捉えた。
 大人しくて、自己主張が苦手で、放っておくと危なっかしいこの神人。
 彼女を守ると決めたから。

「その為に俺はお前と契約したんだ」

 ――だから、と続く。

「お前がどこまでやれるか、見ててやる」

 小さく驚いた美琴。

「言っとくけど、全部本心だ」

 見放さない。
 最後まで見ていてくれると、ガイは言ってくれた。
 いつもと変わらないその表情で。

「はい、知ってます」

 美琴は嬉しそうな笑顔を見せる。
 その言葉に、嘘いつわりなんてあるわけないと感じた。
 誤解されやすい見た目をしているけれど、良くも悪くも素直な人なのだろう。
 初めて出会った時に守ってくれた彼だからこそ。

「迷うくらいなら下がってろ……って言いたいけど」

 甘くしたコーヒーを一口飲む。
 美琴の心情を聞いて少しだけガイの心にも変化があったのかもしれない。

「ちょこまかしてるお前見てるのも悪くないだろうな」

 どこか笑ってるようにも感じた。
 気のせいにも思えるくらい小さな変化。
 表情自体に、変化はないのだけど。
 一方、目の前の美琴は優しく微笑んだままで。
 そんな美琴に、今までと印象が変わる。

「いつもおどおどしてるかと思ってた」

 珍しいと言いたげなガイ。
 話しかけるのも躊躇していた美琴が、自身を語り自分に笑みを向けているのだから驚きもあるのだろう。
 故に「けど」と言葉が付け加えられた。

「そんな風に笑えるんだな」
「やるときは、やりますから」

 美琴はちゃんとガイを見据えてそう言い切る。
 それは今までの美琴より本当に、ほんの少しだけ前に進んだ証なのかもしれない。
 そしてそれは美琴の感情だけでできたことではなく、ガイがここにいたからこそで。
 ただ素直に言葉を零しただけじゃなく、お互いの意思と決意があったからこそで。

「あ……」

 ふわり、と風が吹き桜が舞う。

「あの、ガイさん。桜……キレイ、ですね」

 ひらひらゆらゆら、花弁が降りる。
 ピンクの景色が、香りと共に広がって。

「桜?」

 見上げればそこには確かに大きな桜。

「あー……ああ。割とキレイに咲いてるんだな……」

 二人して見上げた咲き誇る桜。
 そんな二人に微笑むかのように、桜は再び、ふわりと体を揺らした。



――本当は、お互いに想い合っていることさえ伝わればきっと――

 桜の気持ちは、ただそれだけだった。
 通じ合った気持ちで、幸せを感じる人達がこんなにもいるのだから
 二人だって、大丈夫。

 お店を閉める時間。
 店の入り口で一人の女性が佇んでいた。
 昔と同じパンの香りに、女性が切なそうに微笑む。

――そこに気持ちがあるのだから――

 そっと背中を押した。
 二人が『一緒に』いられるように。

 扉は、静かに開いた――



依頼結果:大成功
MVP
名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

名前:天埼 美琴
呼び名:ミコト
  名前:カイ
呼び名:カイさん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 亜積譲  )


エピソード情報

マスター 雨鬥 露芽
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 04月16日
出発日 04月25日 00:00
予定納品日 05月05日

参加者

会議室

  • [10]桜倉 歌菜

    2016/04/24-23:59 

  • [9]桜倉 歌菜

    2016/04/24-23:58 

  • [8]秋野 空

    2016/04/24-22:58 

  • [7]秋野 空

    2016/04/24-22:58 

    ご挨拶がすっかり遅くなってしまい申し訳ありません
    ジュニール・カステルブランチと神人の秋野空です
    プランはすでに提出済みです

    桜を見上げながらのゆったりした時間、楽しみです

  • [6]かのん

    2016/04/24-22:23 

    シナモンロールが人気だそうですけれど、他にも色々あるのですね
    ケーキもついてきて、お花見ができるなんてとても楽しみです
    素敵な一時になると良いですよね

  • [5]かのん

    2016/04/24-22:21 

  • [4]桜倉 歌菜

    2016/04/24-00:34 

  • [3]桜倉 歌菜

    2016/04/24-00:34 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願い申し上げます!

    桜も、パンもケーキもコーヒーも!とっても楽しみです♪
    ふふ、甘党の羽純くんも楽しみに違いありません♪

    よい一時となりますように!

  • [2]かのん

    2016/04/24-00:00 

  • [1]天埼 美琴

    2016/04/22-08:38 

    あの、よろしくお願いします天埼美琴…です
    え、ええと…。桜、キレイですよね。


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