【薫】薫りを、纏え(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「ふーん……今年の香水、どれも可愛いじゃない」
 頬杖を付き、女性誌を眺めている女の名はルイーズ。
 貸衣装店『ソレル・ルージュ』の店主兼デザイナーをやっている。貸衣装店ではあるが、販売やオーダーメイドもやっており、それらのドレスもルイーズが手がけている。
 クリスマス、バレンタインデー、ホワイトデー……女性達がドレスを欲しがるイベントは、この店にとってかき入れ時だ。
 とはいえ注文されたドレスのデザインは全て仕上がり、仮縫いも終わっているので後は仕上げだけだ。
 デザイナーたるもの、やはり流行には敏感でいなくてはならないので休憩中に女性誌にも目を通す。
 どちらかと言えば見るのは衣服ではなく、アクセサリーや化粧品などが多いのだが。
 その中でも特に目を引いたのが香水の特集ページ。
 八種類の香水が紹介されているが、どれも違った魅力にあふれている。
 デザイナーの性なのか、見ているうちに、この香水ならこういうデザインはどうだろうかという案がこぽこぽと湧いてくる。
「あ、たまにはこういうのもいいかも」
 普段は客の要望に応えてデザインするばかり。そんな仕事を楽しんでいるのだが、やはり自分の好きなようにデザインしたくなることもある。
 二度ほど、A.R.O.Aを介してウィンクルムを呼び、神人のドレスのデザインを好き勝手やらせてもらった。
 次はそこに香水というアクセントを入れてみてはどうか。ルイーズはそう思い立った。
 バッと手帳を開き、店の予定が書かれたカレンダーと照らし合わせる。
 予約がない日に目処を付け、ルイーズは他のスタッフに話を持ちかけるべく店内のカウンターへ向かうのであった。


『お好みの香水に合わせた神人さんのドレスをデザインします。
 完成したデザイン画は差し上げますので、後はご自由に。
 デザイン中は店内のドレスを見て回っていただいても構いません。
 紅茶と珈琲もありますので、ご希望であればお声掛け下さい。

 貸衣装店ソレル・ルージュ』

解説

○参加費
デザイン料300jr

○すること
【薫】エピソードキャンペーンアイテムの八種類の香水からお一つ好きな香水を、『神人のプランの冒頭』にご記入ください
その香水と神人に合うドレスをルイーズがデザインします
最終的にはデザイン画を見てきゃっきゃして頂ければ幸いですが、
それまでは下記のどちらかをどうぞ

・待合室でお茶をしながら待つ
珈琲と紅茶が出ます
のんびり雑談でもどうぞ

・店内のドレスを見て回る
軽く体に当てたり、ドレスを見てきゃっきゃしてください
試着はできません
どんなドレスを見てきゃっきゃするか、色と大体のイメージもしくは形を指定してください
店内のドレスに関するお任せはNGです
駄目、絶対

ドレス指定の例:ピンクの可愛らしいドレス、グリーンのマーメイドライン等

○登場NPC
・ルイーズ
『ソレル・ルージュ』の店主兼デザイナー
気さくな人です

○注意
ルイーズがどんなドレスをデザインするかは指定できません
こーやが趣味と趣味と趣味と趣味で考えますので御了承ください
『赤く、彩る』『茜を、濡れ』の続編になりますが、前回のことを知らなくてもまったく問題ありません

ゲームマスターより

キャンペーンアイテムが「今年の新作」というのはこーやの独自設定ですのであしからず。

【薫】エピソードキャンペーンページ
(https://lovetimate.com/campaign/201512event/gm_frag.cgi)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  SAKURAナイト

8種類もあるとどれを選ぶか迷ってしまいますね…
天藍はどれが良いと思いますか?

店内のドレス
色々見て回りたいけれど少し気後れ
顕現してからはドレスを着る機会もありますけれど、それまで殆ど縁が無かったので…
どれも綺麗で手に取るのも躊躇ってしまいますね
普段良く着る色味、青や緑の寒色
シンプルなデザインのドレス見比べ

渡されたドレスを当てた自分を鏡に映す
…派手すぎません?
鏡越しに背後からこちらを見る天藍へ
こういう色味の方が好きですか?

デザイン画
とても素敵ですね
それに私用にデザインして頂いたのってとても嬉しいです
いつか本当に仕立てをお願いして着てみたいですね…
はい、その時は天藍にお願いしますね


水田 茉莉花(八月一日 智)
  エブリデーティーパーティー

ほづみさん、取材交渉って…仕事熱心なのは分かりますけど(たふり)
んー…なんか、こういう場所って、あんまり、居心地が、良くないな、なんて…

あっほら、ふわふわーっとしたドレスとか、レースいっぱいとか
そういうところが苦手で…(プリンセスラインのドレスを持ち上げ)
情報アプリの動画では仕事だから我慢してるんです!
ってか、あれは完全にほづみさんの趣味でしょ!

えっ、これ?
確かに、これだとふわっとしてないから大丈夫、だけど…
むー…背が高いって、それっていい事、なのかなぁ?

あ、すみません、あたしはコーヒー…
そういえば、香水の種類ほづみさんが勝手に決めてたけど
紅茶好きと関係有るのかしら?


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  清爽

待つ間、折角だからドレスを見て回りたい
羽純くん、付き合ってくれる?

視界に入ったのはパーティドレスのコーナー
最近、楽しみに観てるドラマ(英国風貴族が出てくる)で、ヒロインがいつも華麗にドレスを着こなしている姿を見て、憧れてたの

ノースリーブのイブニングドレス
凛としたワイン色
ドレスに合わせ肘の上まであるグローブも素敵!
ドラマでヒロインが着ていたの、こんな感じだったな…
思い浮かべながら、背筋をぴんとしてドレスを当ててみます

ま、馬子にも衣裳…なんちゃって

出来上がったデザイン画に嬉しくてにやけちゃう
このドレスを着て、羽純くんと舞踏会に参加する…そんな未来を想像しちゃって
ルイーズさんにお礼を言いたいです


エリザベータ(時折絃二郎)
  アスピラスィオン

ゲンジが詳しくない事は解ってる
でも…今はゲンジが良い、かな

行動
ゲンジと店内を見て回る
薄紫のフリル付きドレス

ゲンジの疑問は当然だ
たまにはいいだろ、と笑って誤魔化したい
笑われるだろ、今どんな顔で会えばいいか解らないって言ったら
問い質され…小声でボソリ

そんなことより見つけたドレスが似合うか見て欲しいな!
鏡の前で体に当てて、ゲンジにも見てもらう
…渋い顔された、可愛いのになぁ
と思ったらド直球で褒められた!? 反応に困るわ…!
お世辞を言うタイプとは思わねぇけど…顔熱い、恥ずい
(でも好きでも似合うかは別って…正論だよな

ルイーズの描いたデザインに感嘆の息
ゲンジにもどうかと見せて、二ヒヒと照れ笑い


●琥珀色の香り
「スンマセン、もし宜しければおれの会社のマガジンアプリで紹介したいんで取材させて貰っても……」
 八月一日 智がそう切り出せば、水田 茉莉花は呆れ顔を浮かべる。
「ほづみさん、取材交渉って……仕事熱心なのは分かりますけど」
 茉莉花はというと、こういった店との相性があまりよろしくなく、居心地の悪さを感じていたところで。智を諌める声にいつものような張りが無い。
「アポ無し取材はお断りしてるの。それに今日は貴方達以外の人のデザインもあるから、そういうのに時間割きたくない」
 きっぱりと断ったルイーズはすぐに茉莉花へ視線を移す。頭の天辺からつま先までつぶさに眺めてから、茉莉花が指定した香水『エブリデーティーパーティー』の写真を一瞥。
「OK。じゃ、ドレスを見るかお茶を飲むかして待っててね」
「んじゃ、あっち見に行ってみるかー」
 貸衣装のコーナーへと歩き出す智の後を、気乗りしない様子で茉莉花は追う。
 たくさんのドレスに囲まれ、さらに居心地が悪い。落ち着かないと言わんばかりに茉莉花は腕を組み、視線を泳がせる。
「なんだよーみずたまり、すっげーぶすくれた顔してるけどどうした?」
「んー……なんか、こういう場所って、あんまり、居心地が、良くないな、なんて……」
「えー? 服を買いに行ったりするの好きなのに、こういうのはダメなん?」
 服を買うこととこういった店の違いが分からず、怪訝な顔をする智。
 茉莉花は居心地の悪さも相まってすぐに的確な言葉が見つからず、周囲のドレスをちらちらと眺めながら思考を纏める。
 その中で目についたパステルピンクのプリンセスライン。茉莉花はそのドレスを持ち上げ、智に見せる。
「ふわふわーっとしたドレスとか、レースいっぱいとかそういうところが苦手で……」
 茉莉花が言うように、可愛らしいシルエットをしたこのドレスにはフリルやレース、リボンがふんだんに使われている。
 しかし智としては腑に落ちない。なぜならば――
「……マガジンアプリの動画では可愛い服着てるのに?」
「情報アプリの動画では仕事だから我慢してるんです!」
「えー、似合うじゃーん、勿体ないー……」
「ってか、あれは完全にほづみさんの趣味でしょ!」
「バレタカ」
 なぜバレないと思ったのかと聞きたいくらいであるが、そこをぐっとこらえて茉莉花はドレスを戻す。
 智がその間にも周囲を見回していると、一着のドレスが目についた。
「でもさー、この服だったら似合うんじゃね? レース? みたいなスカート付いててもすーってしてるし」
「えっ、これ?」
 取り出したドレスは細身のエンパイアライン。こちらもピンクだが、落ち着いたオレンジに近い色合いだ。腰から流れるトレーンもすとん、と膨らませること無く綺麗に床へと落ちている。
「背が高いからさ、絵画みたいに見えるんじゃね?」
「むー……背が高いって、それっていい事、なのかなぁ?」
 おずおず、というよりもしぶしぶドレスを受け取り、体に当てる。鏡を見ても茉莉花はいまいちピンとこなかったのだが、智は満足気にこくこくと頷いていた。

 渡されたデザイン画には琥珀色の膝下までのワンピース。
 ドレスそのもののシルエットは細身だが、その分ウェストマークのリボンの主張が激しい。赤いリボン幅広のリボンの上に、白とピンクの細いリボンを一本ずつゆるく重ねている。ウェストマークより下はかなり細かいプリーツになっている。
 白いセーラーカラーには三本のライン。二本のピンクのラインが赤いラインを挟んでいる。カフスも同じようなデザインで、金色の小さなボタンが二つ。襟の中央、胸元には控えめな赤いリボン。
 『髪を下ろしたままなら普段着に。正装は微妙、普段着も微妙なところに行く時は髪をアップにすればOK』という走り書きがある。
 靴は赤いパンプスになっているが、これまた横に『ピンク・白も可。ただしエナメルのような光沢の強い素材は厳禁』とも添えられていた上に――
「高いヒールがいいね。下半身を綺麗に見せるって思えばいいんじゃないかな」
 それじゃあ、次のお客さん来るから。ルイーズは手をひらひらと振り、ニ人から離れていく。
 茉莉花はデザイン画、特に足元をなんとも言えない表情で凝視していたのであった。


●透き通る色の香り
「清爽ね」
 希望を聞いたルイーズは、桜倉 歌菜をじっくりと眺めてから、月成 羽純へちらと視線を向ける。すると、ルイーズの口角がニヤッと持ち上がる。
「ふんふん、爽やかな甘さ、か。成る程ねー。それじゃ、ちゃーんと仕上げるからごゆっくりー」
 そう言ってルイーズはにまにまと笑ったまま作業机へと向かっていった。
 何が『成る程』なのか気になるところだが、時間は有限。
「折角だからドレスを見て回りたいな。羽純くん、付き合ってくれる?」
 このようなささやかな希望を断るはずもなく、羽純はすぐに了承の意を伝えた。
 弾むような足取りでドレスのコーナーへと向かう歌菜。その数歩後ろを歩く羽純。見えているのは後ろ姿だけだが、それでも歌菜が楽しんでいることはよく分かる。
 ウィンドウショッピングのように、並んでいるドレスを眺めるだけだった歌菜の足が止まる。そこはパーティドレスばかりのコーナーだった。
 歌菜は一着一着、丁寧にドレスを分けて眺めている。
 羽純から見える歌菜の横顔はほんのりと紅潮していて、キラキラと輝いている。視線に気づいた歌菜はパッと笑みを見せた。
「前に勧めたあのドラマで、ヒロインがいつも華麗にドレスを着こなしている姿を見て、憧れてたの」
 聞けば優雅な貴族のドラマらしい。
「こういうドレスに触れる機会はそう無いな」
「うん、だからすごく楽しい」
 そうは言いながらも、羽純が言葉をかければきちんと目を見て答えるのが歌菜らしい。
 再び視線をドレスの海へ向け、吟味しているうちに歌菜の手が一着のドレスの上で止まった。手に取ったドレスをするり、引き出す。
「わぁ……」
 感嘆の声を上げる歌菜とは逆に、羽純は驚いていた。
 凛とした落ち着きのあるワインレッドのイブニングドレス。同じ色の、肘まで覆うグローブとアメリカンスリーブのデザインからは大人を感じさせられる。
 普段の歌菜は可愛らしいデザインの服を好んで着ている。だから、羽純は今日もそういうドレスを見るのではないかと思っていた。けれど、すぐに理由を悟る。
「ヒロインがそんなドレスを着ていたな」
「そう、こんな感じだったなって思って」
 ドラマのワンシーンを思い浮かべながら、歌菜はドレスを体に当て、鏡を覗き込む。憧れが勝ったが、慣れていないデザインだけあってどうにも気恥ずかしい。
「ま、馬子にも衣裳……なんちゃって」
 嬉しそうに笑いながらも、恥ずかしさを紛らわすように歌菜は言った。
 すると、ぽふり、羽純の手が優しく歌菜の頭へと乗せられる。髪を崩さないように気をつけた、優しい手つきが歌菜の頭をゆっくり往復する。
「似合うと思うぞ?」
 その言葉で歌菜は破顔した。くるり、踊るようにターンして羽純へと向き直る。
 今度は鏡越しでなく、正面から羽純はドレスを当てた歌菜の姿を見つめる。そしてもう一度、同じ言葉を贈る。
「似合ってる」


「はい、これ」
「わぁ……!」
 ほんのりと水色が乗ったベアトップの、膝下までのAラインは太ももから裾にかけて青が濃くなるようなグラデーション。そのグラデーションも均一ではなく、色が乗り出す部分が波のようにまばらだ。
 濃紺のショートグローブと、同色のストラップ付きのパンプスによってメリハリが付いている。
 首には香水のボトルと同じように小さなリボン。チョーカー代わりだろう。『結び目は前でも後でも可、グローブには音符か三日月の黄色いワンポイントを入れるといいかも』と添えられている。
 右胸には大きなコサージュが目立つ。黄色で描かれているが、『オレンジ、ピンクも可』らしい。
 シンプルでいながら華やかなデザインに歌案はにやける。横から覗き込んでいた羽純はデザイン画と歌菜を交互に見比べる。
 行動は違うのに、想像したのは同じ光景。このドレスを着た歌菜を羽純がエスコートし、きらびやかな会場の中心で踊るというもの。
 けれど、二人は同じことを思い浮かべたなど露知らず。
 いつかそんな日が来たらいいな、なんて思えば歌菜の頬は緩んだままで。嬉しそうな歌菜の横顔を見て、やはり羽純の頬も緩む。
 歌菜がこのドレスを着た姿は、想像しただけでも綺麗で。そんな彼女をエスコートするのは自分でありたいと、強く願うから。
「俺も燕尾服でも用意しないといけないな」
「その時はコサージュの色に合わせてチーフつけるといいかもね」
 ルイーズのアドバイスに顔を上げれば、彼女はやはりにまにまと笑っている。デザイン画に興奮した歌菜はそれどころではないのか、気に求めていない。
「ありがとうございます♪ このドレスを着て、舞踏会に出たいなって思いました」
「こちらも助言をありがとうございます」
 歌菜と羽純が感謝を告げると、ルイーズは満足気に頷いてみせた。
「気に入ってくれたみたいで何より。それと、ご馳走様」
 いやー、夏じゃなくても暑くなるわねー。そんなルイーズの冷やかしを尻目に歌菜と羽純は顔を見合わせて笑う。
 来る爽やかな季節が待ち遠しくて――


●ほのかな憧れの香り
「何故、俺なんだ。ドレスはアレの方が詳しいのだろう?」
 仏頂面――というよりも、常のように感情の薄い表情の時折絃二郎の問いに、エリザベータの視線が泳ぐ。
 勝ち気に見えるエリザベータの瞳が、何かあったと強く物語る。アレキサンドライトのように、受ける光の種類で色を変えるのだ。
 絃二郎の疑問は当然。エリザベータのもう一人のパートナーはドレスデザイナーなのだから。
 そのことはエリザベータも理解している。けれども、本当のことは言えない。笑われる気がして。
「たまにはいいだろ」
 誤魔化す為の笑み。けれど、それは絃二郎には通用しない。むしろ追求する必要があることだと判じさせてしまった。
「何故そんな顔をする?」
 逃げることは許さないとばかりに暗紫の瞳がエリザベータを射抜く。絃二郎が突きつけたのは、問いかけに答えるという選択肢のみ。
 せめて視線からだけでも逃れようとエリザベータは俯く。覚悟を決めるように、一度、二度と息を吐いて。
「……今どんな顔で会えばいいか解らない」
 水滴が落ちた音のような小さな呟き。だが、笑い声は聞こえない。
 代わりに、そうか、という常と同じ平坦な声だけが聞こえた。
 エリゼベータが顔を上げて様子を窺えば、やはり絃二郎はいつもと同じ顔。笑う素振りなど微塵もない。
 喧嘩をしたわけではないようだが、気まずい状況なのだろうと、絃二郎は推察した。
 ほっとしながらも、エリザベータは手近にあったドレスを引き寄せて体に当てる。
「そんなことより見つけたドレスが似合うか見て欲しいな!」
 少々わざとらしい『いつも』の声だが、答えを得た以上、その先を求めるつもりは無い。
 話題を変えたそうなエリゼベータの意図を察し、絃二郎は話に乗ることにした……のだが、彼の表情は渋い。
「……俺の目から見て、成人女性が着るには少女趣味過ぎるような」
 薄紫の淡い色合いのドレスはフリルとレースがふんだんにあしらわれたプリンセスライン。
 エリザベータは自分の体に当てたドレスをまじまじと見つめる。可愛いのにと思うが、駄目らしい。
「もう少しシンプルで落ち着いた物の方が似合う気がする。……背丈もあって顔立ちも良いのだから、過剰な装飾は不要だろう」
 エリザベータは目を丸くした。ド直球の褒め言葉が来るとは夢にも思っていなかったのだ。改めて噛みしめると、恥ずかしさがこみ上げてくる。
 絃二郎はお世辞を言うタイプとは思えないからこそ、反応に困る。
「好みに合っていても似合うかは別だ」
 正論である。正論なのだがエリザベータはそれどころではなく、顔から熱が引くのを待つばかりであった。


 膝までのショートドレスは白に近いピンク色で、体のラインがくっきりと出るタイトなシルエット。肩も剥き出しのベアトップだ。
 ドレスそのものは無地で非常にシンプルだが、特徴的なのはトレーンだ。本来なら後ろに付けるものだが、あえて床まで伸びるトレーンを右側に垂らしている。暗めの濃いピンクと黄色の二色の布が重ねられている。横に『オーガンジーのような透ける素材。ピンクが上、黄色が下』と書かれている。
 手にはオーガンジーの、トレーンと同じピンクのショートグローブ。絵からは分かりにくいがフィンガーレスらしい。
 髪はハーフアップにし、リボンが垂れるようなシフォンの小花の髪飾り推奨と書かれている。
「おー……」
 感嘆の声を上げるエリザベータを見て、ルイーズは笑う。
「貴方、髪の色が淡いピンクでしょ? それなら全身を使って沈丁花をイメージしちゃえと思ってね」
 エリザベータの反応だけで満足したらしく、ルイーズはそれじゃあね、と声をかけて去って行った。
「ゲンジ、どうだ? これなら似合いそうか?」
 嬉しそうに笑って見せられたデザイン画。絃二郎はじっくりとそれを眺める。
 ふむ、という声と共に小さく頷いた。先ほど、エリザベータが体に当てたドレスよりかはシンプルではあるが、絃二郎の趣味とは異なる。
 しかし、職人の手がけたもの。絃二郎の趣味を抜きにして考えれば――
「ああ、似合うだろう」
 答えを聞いたエリザベータはニヒヒと笑う。頬をゆるく掻くような仕草は照れの表れだろう。
 その仕草に、絃二郎は可愛げを感じた。そんな気持ちは言葉にも顔にも出ることは無く。代わりに、黒い細身の尾がゆるり、と一度だけ揺れたのであった。


●夜桜の香り
 八種類の香水が掲載された雑誌のページをかのんはまじまじと眺める。これだけ種類があればどれにするか迷ってしまうというもの。
「天藍はどれが良いと思いますか?」
「候補は?」
「二つ……SAKURAナイトとトゥ・ザ・ムーンが気になります」
 天藍はふむ、と相槌を打ち、改めて二種類の香水を見比べる。ピンクのボトルの香水と紫のボトルの香水、どちらも夜をイメージしたものではあるが――
「その2つなら少し季節先取りして春の夜桜にしたらどうだ?」
「あ、そうですね。それじゃあ、SAKURAナイトでお願いします」
「はいはい、了解。ちょっと待っててね」
 雑誌を受け取り、早々に机へと向き合うルイーズ。
 さて。デザイン画が上がるまで時間がある。
 ちら、とかのんは店内を見回す。色とりどりのドレスが花のように咲き乱れている。
 顕現してからドレスを着る機会は何度かあったが、それまでは殆ど縁がなかった。心惹かれるが、馴染みのない光景に少しばかり気後れしてしまう。
 けれど、気付かぬ天藍ではない。
「折角の機会だ。見るのもいいだろう」
 行こう、促すようにかのんの手を取る。軽く手を引いてやれば、かのんはもう躊躇わなかった。
 ゆっくりと、花を愛でるようにドレスを眺めていく。
「どれも綺麗で手に取るのも躊躇ってしまいますね」
 普段からよく着る色味である青や緑などの寒色のドレスにどうしても目が行く。花に触れるよう、慎重な手つきでかのんは飾りの少ないシンプルなドレスに触れていく。
 馴染みある色というだけでなくかのんの好む色なのだろうと思いながら、天藍は気になった一着を手に取った。
 それに気付いたかのんは振り返る。目に飛び込んできたのは黒みがかった真紅のドレス。飾りを少なくし、その分ドレープのラインを強調したデザインだ。
 天藍がどういう意図なのかは言われずとも分かる。かのんは躊躇いながらも天藍からドレスを受け取り、体に当てた。
 鏡を覗けば真紅を重ねた自分の姿。言い表せないような違和感もドレスと一緒に重ねたように思えた。
「……派手すぎません?」
「ドレスと同じ色合いの口紅にしたら肌の色に映えそうだ」
 鏡越しに天藍の視線と重なる。
「こういう色味の方が好きですか?」
「いや。好みで言えばかのんが普段着るような色合いの方がいい」
 では、何故? 声ではなく、視線に疑問を乗せる。
 天藍は小さな笑みでそれを受け止めた。
「こういう機会だから真逆な色を試してみるのも良いと思ってな」
 得心したかのんは静かに振り返る。さらり、艶やかな衣擦れの音が零れた。
「どうですか?」
「たまにはいいんじゃないか」
 言葉の裏にあるのは、普段のかのんの方が好ましいということ。
 かのんはふふっ、と嬉しそうに微笑んだ。

「お待たせ。こんな感じになったよ」
 ルイーズが差し出したデザイン画。
 受け取ったかのんは天藍にも見えるよう、デザイン画を体の中央から少しずらして持つ。
 夜空のような紺色のオフショルダーのドレス。前は膝丈、後ろは引きずるほどの極端なフィッシュテールだ。
 襟は左右対称に、胸から肩にかけて桜が枝ごと描かれている。
 ウェストマークはピンクの幅広のリボン。『シフォンのように柔らかな生地で』と書かれている。腰の結び目は控えめだが、リボンは先端になるほど太くなっていて、トレーンのように長く尾を引いている。
 手首までしか隠さないショートグローブとパンプスは黄色。パンプスは足首より少し上までのレースアップでもいいらしい。
「髪はね、セクシー路線で行くなら緩く纏めるか、毛先だけ巻くのがいいね。とことん甘くするならガンガン巻いたハーフアップがいいかな。髪飾りは月か星モチーフのがオススメ。ピンクと黄色のリボンを編みこむのもいいね」
「とても素敵ですね。それに私用にデザインして頂いたのってとても嬉しいです」
「ん、喜んでくれたなら私も嬉しい」
 そんな二人の会話に耳を傾けながら、天藍はデザイン画とかのんの姿を重ねる。
 ところどころ添えられてある専門用語は分からないから絵だけが頼りだが、それでも分かること。
「よく似合うだろうな」
 天藍の言葉にかのんは眉尻を下げ、頬をほんのりと桜色に染める。
「いつか本当に仕立てをお願いして着てみたいですね……」
「その時はエスコートさせてくれ」
「はい、その時は天藍にお願いしますね」
 かのんは天藍を見上げた。天藍もかのんを見つめている。
 そしてどちらからともなく、微笑む。静かな夜に咲き誇る桜のように――



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 01月27日
出発日 02月02日 00:00
予定納品日 02月12日

参加者

会議室

  • [6]かのん

    2016/02/01-23:49 

  • [5]桜倉 歌菜

    2016/02/01-00:18 

  • [4]桜倉 歌菜

    2016/02/01-00:18 

    ご挨拶が遅くなりました!
    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、よろしくお願いいたします!

    香水、一つ選ぶの、かなり難しいですよね…!
    迷いまくりです…!
    悩む時間も楽しいのですがっ

    素敵な一時になるとよいですね♪

  • [3]エリザベータ

    2016/01/31-07:47 

    うぃーっす、エリザベータと精霊の絃二郎だぜ。
    香水、どれもお洒落だからどんなドレスが出来るんだろうな?

    どれもボトルが綺麗だし、香りも魅力的なのがなぁ……ぐぬぬぬ、選びにくいぜ

  • [2]かのん

    2016/01/30-23:41 

  • [1]かのん

    2016/01/30-23:40 

    こんにちは、かのんとパートナーの天藍です
    今回、好きな香水に合わせたドレスをデザインして頂けるのですよね、とても楽しみです

    ……香水、どれも素敵なのですよね……1つ選ぶの悩んでしまいます


PAGE TOP