七筆入魂(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 七福園という、和風の庭園がある。
 流星融合後に作られた場所で、庭園には七つの祠が点在している。この祠は七福神という七人組の神様を祀ったものだそうだ。

 寒い時期なので庭園で見られる花は限られている。寒空の下では、南天や山茶花が精一杯に彩りを見せていた。
 他にも、苔が見事な飛び石の道や、せせらぎと鹿威し、錦鯉が泳ぐ大きな池などを見て楽しめそうだ。

 この季節、七福園では楽賀喜と称される一風変わった行事がおこなわれる。
 特別な清水ですった墨を用いて、書道家が希望者の頬に文字を落書きするというものだ。

 「福」など縁起の良い漢字や「日進月歩」「臥薪嘗胆」など目標や願望への意気込みなどを書く人が多い。「友情に感謝」「今年も頑張る!」などのメッセージでも良いが、文字数の上限は七文字までだ。!などの記号も文字数にカウントされる。
 書道家なので絵は書けない。

 行事に参加した後で、顔の墨を一瞬で綺麗に落とせる拭き紙が渡される。墨汁は落ちにくい。家に帰ってからこれを使って顔を拭いてね、ということだ。
 もし庭園内で顔の墨を落としたくなったらこの紙で拭けばすぐに文字を消せる。
 なお、七福園で顔に楽賀喜をしたまま散策していても、特に周りから奇異な目で見られるといった心配はない。

 庭園内には甘味処もあり、店内や店先で和菓子が食べられるようになっている。
 店内からは、小さな南天の木がある中庭の様子がガラス越しに見える。
 店頭には緋毛氈を敷いた椅子が設置されていて、近くには山茶花の木がある。

解説

・必須費用
交通費:1組200jr



・プラン次第のオプション費用
楽賀喜:1人100jr
書く場所は頬。
1文字から7文字までの言葉を頬に筆で書く行事。
黒い墨か朱色の墨か選べます。
漢字、ひらがな、カタカナが使用可能。
!やハートマークなどの簡単な記号も書けます。プラン内で、ハートマークの代用としてvを使ってもOKです。
複雑すぎる模様やミニキャラの似顔絵などは、文字や記号を超えて絵の範疇になってきますので書けません。



甘味処メニュー
甘酒:1人分30jr
お汁粉:1人分30jr
煎茶と三色団子セット:1人分60jr
煎茶とあんみつセット:1人分60jr
煎茶とどら焼きセット:1人分60jr

ゲームマスターより

山内ヤトです!

七福神の寿老人と福禄寿ってキャラ被ってるよな……と思っていたら、どうやら同一神物らしいとのこと。

このエピソードでは希望すれば、PCの頬に落書きをすることが可能です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  頬に楽賀喜って楽しそうね
せっかくだし縁起の良い言葉でも書いて貰おうかな…って、アル?
その言葉…わ、判るわよ!これでも語学得意なんだもの!
もうっ、私の反応見て楽しんでるでしょっ

シレっとしてるアルを見て悔しくなって
そう言えばクリスマスにちゃんと返事をしてなかったと思い出して
どんな反応するかしら、どうせからかうように笑うんでしょうけど
と思いながら朱の墨で書いて貰った「我爱你」

クリスマスの返事ね
って言いながら見せたら…見慣れない表情を見たわ
アルでもそんな顔するのね、ふふっ
たまには直球もいいのかしら
自分も赤くなってるのを自覚しながらそんな事を考え

腕を組んで散策中に聞こえた囁きに
「うん」
嬉しげな声で答えて


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  お互いの顔に秘密で文字を書いてもらうことにしました
ディエゴさんの頬になんて書いてもらいましょうかねぇ…
そうだ
「今日はお休み」にしましょう
ディエゴさん、休みの日でも何かあったらすぐに調査しに行こうとしますし
私とずっと一緒にいるのは当たり前でも、それがウィンクルムの目印にもなって頼られることも結構あるんですよね…。

だから、今日は誰もディエゴさんを頼れないようにします
一日貸し切りです
何より彼を必要としている人間が隣にいるんですから、これくらいは許されますよね?

ゆっくり二人で煎茶と三色団子セットでも食べましょうよ
さっきから帰ったらディエゴさん自ら私の文字を落とすって主張してきますけど…怪しい~


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  楽賀喜…面白そうだね!
弓弦さんの提案には笑顔で頷くね

◆文字(弓弦の頬に)
貴方との幸せを
色は黒

楽賀喜が終わったら移動だね
どんな事が書いてあるのかドキドキしちゃうね

甘味処に着いたら店員さんに注文して…
鏡を取り出して頬のメッセージを確認するね
書かれた文字を見て困惑しちゃうな…
どういう意味なんだろう…

説明を聞いてちょっと目を丸くしちゃうな
頬の墨を落として貰ったら…頬を染めちゃうかもね
ありがとう、弓弦さん

ふふ、これじゃあ弓弦さんの墨は落とせないね
「幸せ」を落としちゃうなんて…ね?
そういって鏡を弓弦さんの方に向けるね
笑いあったら…改めて
弓弦さん、今年もよろしくお願いします!

◆消費
楽賀喜2
三色団子
あんみつ


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  楽賀喜:朱色で『福』

ルシェの文字は、どういう意味だろ。(ルシェの頬をじっと見る
何でわかったのかな。(答えに少し迷い、肯定の為に頷く
やっぱり抱負とかの方が、良かったのかも。(傍目には、ぼんやりと視線を落とす

「……ルシェ、は?」(ルシェの手を目で追い、見上げる
(了承の意で頷く

ルシェはいつから。私のこと、気にしてるんだろ。(気遣われた記憶を思い返す
最初、から?(自分が最初興味が無かった為、気づいた事実が後ろめたい

「!?」(飛び石で足を滑らせる
(驚きで声が出ず、頷いて返す

!?(思わず首に抱き着く
「あ、の。降ろし、て」(羞恥で顔が赤い
(反論できず、せめて顔を隠そうと俯く
近い、し。
ルシェ、力持ち。(安定感


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  楽賀喜・朱色の墨
『金石之交』と書いて貰います
金や石のように変わる事のない付き合い…が羽純くんと出来ますように祈りを込めて
羽純くんに意味を聞かれたら、恥ずかしいけど説明(黙ってても調べたら直ぐ分かるし…今年は勇気を出して、好意を態度に出したいなって)

折角だし、家に帰るまでこのままで

煎茶とあんみつセットを羽純くんと一個ずつ購入
店頭にある緋毛氈を敷いた椅子に羽純くんと一緒に座り
山茶花の木を眺めながら頂こう

食べながら、羽純くんの横顔を見て
楽賀喜の意味を聞いてみる
(顔が熱い…嬉しい、涙出そう
有難う、羽純くん
今年も宜しくね
私、色々頑張るから(強くなるから)
山茶花の花言葉(素直、飾らない心)のように生きたい


●福・獅子搏兎
 楽賀喜会場にて。
 『ひろの』の頬に朱色で書かれた「福」の字を見て、『ルシエロ=ザガン』はすぐに名案をひらめいた。
「ヒロノが朱ならオレは黒だな」
 ひろのは黒髪で、ルシエロの髪はワインレッドだ。こうすれば、互いの髪と墨の色が対比になる。デザインの知識を持つルシエロらしい、小粋な発想だ。
 ルシエロが書道家に注文したのは、黒字で「獅子搏兎」。
「……」
 無言で佇むひろの。その瞳だけが、ルシエロの頬へじっと向けられる。
(ルシェの文字は、どういう意味だろ)
 視線に気づいたルシエロが、ひろのの心の中の疑問に答えるように解説する。
「些細な事にも気を抜かない。今年の抱負だ」
 今度はルシエロがひろのの頬を見つめて言う。
「オマエは、特に何も浮かばなかったんだろう?」
(何でわかったのかな)
 少し戸惑うように言いよどみ、肯定の意味でコクリと頷く。
 ぼんやりと視線を落としながら、ひろのはほんの少しだけ後悔していた。
(やっぱり抱負とかの方が、良かったのかも)
 ぽんと頭に人の手が置かれる。
「……!」
 他人との接触を苦手とするひろの。一瞬びっくりしたが、相手がルシエロだと理解するとその警戒心をゆるめた。
 浮かばないのが悪い訳ではない。そう思いながら、ルシエロはひろのの頭を軽く撫でる。
「甘味があるらしい。食べるか?」
「……」
 ひろのは特に甘味処という言葉に反応を示さなかった。
「……ルシェ、は?」
 ルシエロの手を目で追って、見上げる。
「庭園が気になっている」
 実際、ルシエロは七福園の造りに関心を寄せている。
 庭園散策に了承するように、ひろのが静かに頷いた。

 飛び石の道を黙々と歩く二人。周囲には深緑の苔が繁茂しており、和の情緒を醸し出していた。
 何やら、ひろのは考えごとに没頭しているようだ。
 そんな彼女の様子を察して、ルシエロはさり気なく歩調を合わせてエスコート。ひろののことを気遣っている。
(ルシェはいつから。私のこと、気にしてるんだろ)
 これまでにルシエロから気遣われた記憶を振り返る。
(最初、から?)
 気づいたその事実に、少し後ろめたい気持ちになる。ひろの自身は、最初はルシエロに対してさえ興味がなかったので……。
 心の動揺が歩行にも影響したのか、飛び石でひろのは足を滑らせる。
「!?」
「おっと」
 素早い動きで、危うく転倒しそうになったひろのをルシエロがその腕で引き寄せる。
「無事か?」
 驚きで声が出ない。ひろのは黙って頷き返す。

 ぼんやりとしたひろのをいっそ抱き上げてしまおうかと考え、ルシエロはそれを実行するか否かで逡巡した。
 奥手な関係であることが、精霊の言動にブレーキをかける。
 だが、季節感のあるコーディネートに身を包んだひろのはとても魅力的だ。ルシエロ本人の魅力が高いことも明確な自信へと繋がった。二人お揃いの【お守り】恋文心結びが、気持ちの後押しをしてくれたのかもしれない。
「掴まってろ」
 ひょいと容易く、ひろのを右手で片腕抱っこ。
「!?」
 思わずルシエロの首にひしと抱き着いた。
「あ、の。降ろし、て」
 羞恥心で、ひろのの顔は赤くなっている。
「転びそうだからな。帰るまでこのままだ」
 そう言われると反論できなかった。せめて顔を隠そうとして俯くひろの。
(近い、し)
 ルシエロのワインレッドの髪とディアボロ特有の角が、すぐそばにある。
「オマエが悪い」
 どこか愉し気なルシエロ。
(ルシェ、力持ち)
 片腕だけで抱いているというのに、しっかりとした安定感があった。
 ルシエロの頬に書かれた「獅子搏兎」が、なんとなくこの状況に合っている。

●偕老同穴・今日はお休み
 『ハロルド』と『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は、お互いの顔に秘密で文字を書くことにした。
 ディエゴが書道家に頼んだ言葉は「偕老同穴」。ハロルドの頬に達筆な文字が書かれていく。簡単に言うと、仲睦まじいという意味だ。これからも末永く続いていくであろう、二人の深い絆を感じさせる。
 ディエゴは少し照れくさそうに、ハロルドの頬を見つめる。
(その……俺なりの愛情表現をだな。って、帰ったら拭うために鏡見るかもしれない)
 ということに気づいて、内心焦るディエゴ。
(すぐに拭い去ったとしてもこいつは記憶力がいいから、後で絶対調べるだろう。どうしたもんか……)
 ディエゴがそう悩む横で、ハロルドは楽しく迷っていた。
「ディエゴさんの頬になんて書いてもらいましょうかねぇ……」
 良い言葉が思いついたらしく、こっそり書道家に伝えた。
 ハロルドの考えた「今日はお休み」という言葉が、ディエゴの頬にスラスラと書かれる。
(ディエゴさん、休みの日でも何かあったらすぐに調査しに行こうとしますしね)
 今日は仕事は入ってないが、左手に神人の紋章を持つハロルドとマキナの精霊がペアでいること自体が、ウィンクルムの目印になってしまう。
(だから、今日は誰もディエゴさんを頼れないようにします。一日貸し切りです)
 ディエゴの頬に書かれた「今日はお休み」には、そんなハロルドの気持ちが込められている。
(何より彼を必要としている人間が隣にいるんですから、これくらいは許されますよね?)
 無口でミステリアスな性格のハロルドだが、上機嫌でディエゴに腕を絡めた。
「恥ずかしい言葉書いたんじゃないだろうな……」
 小声でつぶやくディエゴだが特に嫌がる素振りは見せずに、ハロルドの好きなようにさせている。なぜなら……。
(まあいい、恥ずかしさなら俺も同レベルの事書いてもらったし)
 ダイレクトな愛情表現をあまりしないというだけで、ディエゴもハロルドのことが好きなのだから。

 ハロルドの希望で甘味処へ向かう。
 煎茶と三色団子のセットを二人分頼んで、ゆっくりと味わう。
「……なあ」
 ディエゴは真剣な顔で、ハロルドに話しかけた。
「どうしました?」
「帰ったらお前の頬の文字俺に拭き取らせてくれ、頼む」
 ディエゴは、ハロルドの頬に書いた文字のことがずっと気になっていたようだ。
 返事はせずに、すまし顔で上品にお団子を食べているハロルドに、さらにディエゴが頼み込む。
「一生のお願いってやつをここで使ったっていい」
 そこまで頬の文字を落とすことを主張するディエゴは、どう見ても……。
(……怪しい~)
 ディエゴの主張の強さから、逆にこれは何かあると勘づくハロルドだった。
 いかにハロルドの文字を消すかに意識が向いていて、ディエゴは自分の頬に書かれた文字のことを半ば失念していた。そこでふと、甘味処の店内のガラスに映った自分の姿に気づく。頬の文字も見えた。
 お互い秘密で文字を書くという話だったので、自分だけ文字を見るのはずるい気もしたが、一度目に入ってしまったものを記憶から消すことはできない。
(……今日はお休み?)
 文字はそう書かれていた。
 安心したような、少し残念なような。複雑な気持ちのディエゴ。
「ディエゴさん。お団子美味しいですね」
 けれど、ディエゴとの楽しい一時を満喫しているハロルドの嬉しそうな顔を見ていたら、こんなのどかな休日も悪くはない気がしてきた。
 後は……ハロルドの頬に書いた文字を無事に証拠隠滅できれば、ディエゴにとって完璧な一日となる。

●我爱你・我想跟你在一起
「頬に楽賀喜って楽しそうね」
 『月野 輝』はうきうきしている。
 今日の輝の服装は、お正月らしい和風のイメージでばっちり決まっている。インナーに【着物ドレス】華兎、ボトムスはきりりとした雰囲気の馬の馬乗り袴。その上に和風の【カーディガン】南天の駿馬。華やかで統一感のある、センスの良いコーディネートだ。
 輝はどんな文字を書いてもらおうか、少し考えているようだ。
 その間に、さっさと楽賀喜を済ませる『アルベルト』。
 頼んだのは黒の墨で「我想跟你在一起」。タブロスではあまり一般的に使われない言語だ。パッと見ただけで意味が理解できる者は、この言葉が使われている地域に縁があるか、語学に堪能であるかのどちらかだろう。
「せっかくだし縁起の良い言葉でも書いて貰おうかな……って、アル?」
 アルベルトの頬に書かれた漢字の羅列を見て、輝はすんなりと意味を理解する。まだ文字が書かれていない色白の頬が朱に染まった。
「おや、判ったのか」
 少し意外そうな顔をするアルベルト。ここまで簡単に読み解かれるとは、思っていなかったらしい。
「その言葉……わ、判るわよ! これでも語学得意なんだもの!」
 輝は最高レベルの語学能力を持っている。「我想跟你在一起」。意味は、君と一緒にいたい。
「もうっ、私の反応見て楽しんでるでしょっ」
 顔を赤くして抗議する輝だが、アルベルトはあくまでもシレッとしている。輝が照れたり怒ったりするのも、彼の期待通りの反応だったのか、腹黒眼鏡にふさわしい表情で笑っている。それはかつて輝がアルベルトにつけたあだ名だ。
 余裕綽々のアルベルトを見ていたら、輝はなんだか悔しくなってきた。
 ふと、あることを思い出す。
(そう言えばクリスマスにちゃんと返事をしてなかったっけ……)
 頬に書く楽賀喜の言葉で、アルベルトに返事をしようというアイディアが浮かんだ。
(どんな反応するかしら、どうせからかうように笑うんでしょうけど)
 そう思いながら、書道家にリクエスト。朱の墨で「我爱你」と書いてもらう。
「クリスマスの返事ね」
 輝は頬に書いた文字をさっそくアルベルトへ見せる。文字がよく見えるようにと、手で長い黒髪を耳まで掻き上げた。
「……」
 アルベルトはふいをつかれたように固まった。まさか輝から直球で「愛してる」という言葉が来るとは思っておらず、不覚にも顔が熱くなる。
「あら……見慣れない表情を見たわ」
 今度は輝が笑う番だった。
「アルでもそんな顔するのね、ふふっ」
「……」
 アルベルトは少し難しい顔をした。腕組みをしてわずかに顔を伏せ、赤くなった顔をそれとなく隠す。
(これは弱みを見せてしまったか)
 だが、すぐにこう考え直す。
(けれど相手は輝だからまあいいか)
 アルベルトは緊張を解いて穏やかな眼差しで、楽しげにしている輝を見つめる。
 輝からも、親しみのこもった視線が向けられた。
(たまには直球もいいのかしら)
(たまには逆転現象もいいかな)
 お互いほんのりと赤面して、口にはしないながらも、二人してそんなことを考えるのだった。

 珍しく輝の方から積極的に腕を組んできた。
「ねえ、アル。庭園を見て回りましょう」
 そのまま寄り添いながら七福園を散策する。小さなせせらぎと鹿威しの音が風流な道をいく。
「……」
 アルベルトが少しかがんで、輝の耳元に顔を近づける。
 小さな声で、そっと本音をささやいた。
「我们白头到老吧」
「うん」
 輝は嬉しそうな声で答えて、また腕を組んで歩き出す。
 アルベルトがささやいた言葉の意味は、共に白髪が生えるまで。

●病禍災厄・貴方との幸せを
「楽賀喜……面白そうだね!」
 『日向 悠夜』は興味津々といった様子で、書道家の動きを遠巻きに眺めている。
「一瞬で綺麗に落とせる拭き紙、か……」
 楽賀喜の詳細な説明の立て札を読んでいた『降矢 弓弦』は、拭き紙の存在に注目した。
「悠夜さん、互いにメッセージを送るのはどうだい?」
 弓弦のこの提案に、悠夜はにっこりと笑顔で頷いた。
 文字のお披露目は甘味処ですると決めて、まずは書道家に文字を書いてもらうことにした。
 悠夜が書道家に希望の文字を伝え、それを弓弦の頬に書く。黒い墨を含んだ筆がササッと動いた。
 そして、弓弦が悠夜に贈る言葉は……。
「……なんと?」
 注文を聞いた書道家は驚いた顔をして、確認のため弓弦に聞き返した。
「本当にそう書くおつもりで?」
 問いかけに頷く弓弦。
 弓弦は悠夜に聞かれないように気をつけながら、こっそりと書道家に意図を明かす。
「はい。実はこういう意味を込めていて……」
「なるほど。承知しましたぞ」
 弓弦の解説を聞いて、書道家も納得したようだ。それは名案だ、と弓弦の発想に感心したように目を細めている。
 書道家は弓弦の指定通り、悠夜の頬に黒い墨でその文字を書いた。

 楽賀喜を終えた二人は、七福園の甘味処まで移動する。店内は情緒があり落ち着いた雰囲気になっている。
「どんな事が書いてあるのかドキドキしちゃうね」
 三色団子のセットとあんみつのセットを店員に注文した。
 注文の品が運ばれてくるのを待つ間に、文字の確認をおこなう。
「それじゃあ、メッセージを確認するね」
 悠夜は小さな鏡を取り出した。コンビニの化粧品コーナーで売られていそうな、シンプルな鏡だ。
 自分の頬に書かれた文字を見て、悠夜は困惑した。
「これは……どういう意味なんだろう……」
 そこに書かれていたのは「病禍災厄」。なんだか悪いイメージの言葉だ。
 もちろん、弓弦は悠夜の不幸を望んでいるわけではない。驚かせてしまったことを申し訳なく思いながら、弓弦は理由を説明する。眉を下げた控えめな笑みで話す。
「僕からのメッセージは、落とすまでが必要な手順なんだ」
 あえて縁起の悪い文字を書き、それを拭き紙で一瞬で落とすことで、厄落としのような意味を持たせる……というのが弓弦の目的だった。
「へえ!」
 説明を聞いた悠夜は、ちょっぴり目を丸くする。
「びっくりさせてごめん。僕は悠夜さんの一年の幸福を祈っているよ」
 拭き紙を手にした弓弦が、悠夜に近づいた。彼女の頬に書かれた不吉な文字を拭き紙でサッと消し去る。
「……君の一年に禍が訪れない事を願って」
 そして弓弦は心から穏やかな微笑みを悠夜に向けた。
「ありがとう、弓弦さん」
 キレイさっぱりと墨を落とされた悠夜の頬は、体温でほのかに赤く染まっていた。
「ふふ、これじゃあ弓弦さんの墨は落とせないね。幸せを落としちゃうなんて……ね?」
 イタズラっぽくそう言って、悠夜は鏡を弓弦の方へと向ける。
 弓弦の頬に書かれていたのは「貴方との幸せを」。素直で率直な悠夜の気持ちだ。
「確かに」
 悠夜の言葉に、弓弦は目を丸くして笑う。
 二人の和やかな笑い声。
 悠夜は笑い涙をぬぐって、弓弦はお腹を軽く押さえた。
「それじゃあ、笑いあったところで改めて……」
 悠夜は神妙な顔つきになって、元気良く新年の挨拶をする。
「弓弦さん、今年もよろしくお願いします!」
「ああ、今年も宜しくお願いします」
 ちょうど二人が挨拶をかわしたところで、注文した三色団子とあんみつがテーブルに運ばれてきた。
 悠夜と弓弦は二人仲良く、和の甘味に舌鼓を打った。

●金石之交・一陽来復
 楽賀喜コーナーに、『桜倉 歌菜』と『月成 羽純』の姿があった。
 羽純の頬には、先ほど書道家に書いてもらったばかりの「一陽来復」の文字が黒々と。
「それじゃあ私は朱色の墨で……」
 歌菜も楽賀喜をしてくる。頬に書かれたのは「金石之交」だ。
 楽賀喜を終えた歌菜に羽純が尋ねる。
「どういう意味なんだ?」
「ええと……」
 少し恥ずかしいけれど、歌菜は素直に説明することにした。もしここで黙っていても、後で羽純が調べようとすればすぐにわかるだろう。
(それに……)
 新しい年を迎えた二人。今年は勇気を出して羽純への好意を態度に出していきたいと、歌菜はそう意気込んでいた。
「金や石のように変わる事のない付き合い……が羽純くんと出来ますようにって」
 楽賀喜に、歌菜はそんな祈りを込めていた。
「……そうか」
 少し照れたような表情を見せる羽純。クールな性格の彼も、不意打ち気味な歌菜の親愛の発言に、良い意味でドキリとさせられたようだ。
(無意識にこういう事をやってくるのが……)
 羽純の方もまた、歌菜に対して魅力を感じている。
「折角だし、家に帰るまでこのままで……」
 歌菜の髪に、羽純がスッと手を伸ばした。そのまま、透き通るような明るい茶色の髪を撫でる。
「そうだな、家に帰るまでこのままにしておくか」
 急に髪を撫でてきた羽純の行動に、歌菜はちょっとドギマギしてしまったが、なんとか平静をたもってコクリと頷いた。

 七福園の甘味処まで足を伸ばし、煎茶とあんみつのセットを二人分注文する。
「羽純くん、あそこで食べようか。眺めが良さそうだよ」
 歌菜が視線を向けたのは、店頭に置かれた緋毛氈の椅子。その近くには山茶花の木がある。冬空の下という、花にとってはきっと困難な場所で、それでもひたむきに咲いている。
「屋外か。俺は構わないが、歌菜は平気なのか?」
 歌菜が寒くないかどうか、羽純は気にしているようだ。
「私は平気だよ。熱々の煎茶もついてくるし」
 何より、隣に羽純がいてくれるのだから。
 甘味処の店員が、注文の品をお盆に乗せて運んできた。
 緋毛氈の椅子に二人並んで座りながら、山茶花を眺めて食べるあんみつは格別だった。
「美味しいね」
「ああ」
 甘党の羽純は、穏やかな微笑みを浮かべている。
 あんみつを食べた後は、さっぱりとした煎茶を一口。
 歌菜は羽純の横顔を見た。頬に書かれた「一陽来復」。楽賀喜の意味を聞いてみる。
「羽純くんの楽賀喜には、どんな意味が込められるの?」
「ん? そうだな……」
 少し考えてから、羽純が答えた。
「冬が終わり春が来るって意味と、悪い事が続いた後で幸運に向かうという意味がある」
 それから、やや訥々とした口ぶりで。
「……俺と歌菜にとって、幸福な一年になるよう……願いを込めた」
(顔が熱い……嬉しい、涙出そう)
 歌菜は感動で言葉に詰まった。
「有難う、羽純くん。今年も宜しくね」
 頑張ってそう口にした。
「ああ。俺も、歌菜の楽賀喜の意味、嬉しかった」
 柔らかな羽純の視線が、歌菜へと向けられている。
「今年も宜しくな」
 ほんの少しだけ涙声になって、歌菜は一生懸命に宣言する。
「私、色々頑張るから」
 強くなるから。
 山茶花の花言葉のように、飾らない心で素直に生きたい、と。
「……歌菜」
 羽純が歌菜の手をとった。握った彼女の手に、指輪があることを触れて確かめる。
「一緒に歩いて行こう」
 そっと歌菜の肩を抱き寄せる。二人の肩と肩がくっついた。
「これからも俺は傍に居る」
 強い思いを込めて、羽純がはっきりと言う。
「……歌菜に傍に居て欲しい」



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 岬ゆみのこ  )


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月28日
出発日 01月04日 00:00
予定納品日 01月14日

参加者

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