【枯木】クリスマスまでのカウントダウン(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 精霊のあなたは、今、タブロス市内の市民講座に参加しています。
 神人にプレゼントを贈りたいけれど、なにがいいかわからない。
 そう悩んでいたところ、おせっかいなA.R.O.A.の受付職員が、
「手作りっていうのも、いいじゃないですか?」
 とか言って、勧めてくれたからです。

 講座の内容は、クリスマスに向けて、アドベントカレンダーを作ること。
 形は色々ありますが、この講座では、小さな箱が24個、くっついたようなカレンダーを作ります。
 箱には日付が書いてあり、中になにか小さなものを入れることができるのです。

「私は昔、これで夫から告白をされたんですよ。「I」「LOVE」「YOU」の紙が、お菓子に紛れて入っていたの。意中の娘さんがいるなら、あなた達も試してみたらいかが?」

 参加者の精霊は、顔を見合わせました。
 確かにそんなことは、面と向かって言えない……。でも、紙に書くのだって、恥ずかしいじゃないか。

「まあ告白じゃなくても、伝えたい言葉でも……単語ごとばらばらにいれるのだから、案外できてしまうものよ」

 ――ということで。
 あなたは勧められるままに、アドベントカレンダーに秘密の想いを込めました。
 他の日のところには、お菓子を入れています。
 これを貰った神人は、クリスマスをカウントダウンしながら、毎日このカレンダーを楽しみに開けるはず。

 あなたからの言葉を知った彼女は、どんな反応をするでしょう。
 喜んでくれるでしょうか。
 それとも恥ずかしがる?
 気付いた時が、楽しみですね。

解説

12月1日から24日までの、アドベントカレンダーを作ります。
講座の参加費および材料費として300jrいただきます。ご了承ください。

【プランに必ず書いてほしいこと】
●神人に伝える言葉
もし例のように I LOVE YOUと伝えるとしたら、
『I』『LOVE』『YOU』などと区切ってください。
『 』で区切られた分が、一枚の紙に書いてあるものとします。

好き、と伝えるのなら『好』『き』
愛してる なら『愛』『して』『る』など。区切りは自由です。
もちろん、告白系でなくても構いません。

●その言葉を、カレンダーの何日のところに入れるのか
たとえば『好』『き』のそれぞれを、15日と20日のところに入れる場合
『好』『き』15・20
というふうに、後ろに入れたい日付の数字を書いてください。

【プランのアドバイス】
制作過程から気付きまでのすべてをプランに入れると、リザルトの描写も薄くなると思われます。
・神人のことを考えてアドベントを作る精霊、それを貰った神人の気持ち
・神人がじわじわと精霊の想いに気付いていく様子、それを見てしめしめ、と思う精霊
・すべて気付いた神人と、気付かれて恥ずかしい精霊
など、適当なワンシーンを切り取って、プランするのをお勧めします。

お菓子以外に入れたいものがあれば(思い出の物など)それを入れていただいても構いませんが、箱のサイズは一口大のチョコレートが入る程度です。



ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。
アドベントカレンダー、憧れです。

こちらはウィンクルムごとの描写になります。
クリスマスまでのカウントダウンが、告白へのカウントダウンにもなるのでしょうか。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  1日はチョコレート
2日はク?
3日にはキャンディ
4日はリ…
1日おきのメッセージ?
…きっと10日でクリスマスですよね、その続きが気になります

天藍に会った時に聞いてみても、ここで教えたら楽しみが減るだろうと教えてくれません
それはそのとおりなのですけれど
続きが気になりますけど、前倒しで開けるのは駄目ですよね…

期待を胸に12日目、一緒?
クリスマスのお誘いだったら嬉しいのですけれど

22日
待ちきれず朝に中身を確認して電話
カレンダーのお誘いですけど、良かったら私の家で過ごしませんか?
それならどこかで待ち合わせして、2人で一緒に食材やお酒を買ってから、家でゆっくりするのはどうでしょう

クリスマスがすごく楽しみです


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  行動
完成したカレンダーを受け取ります。はにかみながらお礼。

『愛』素直に喜びます。

『羅』ナゾの文字です。リアクションに困っていると、ラダさんがやたら詳細な解説をしてくれました。

『武』この文字にそんな成り立ちがあったとは!

『勇』きゃー、ステキです! 私の心も、ラダさんへの愛で奮い立っています!
「羅武!」の掛け声と共にパンチ。おふざけです。当たっても痛くない威力。
が、入身でかわされ右手を取られる。
ハッ! この動きは……合気道!?
ここはお突きあいとかけて、打撃系がくると読んでいたのに!
ラダさんの愛情表現は搦手なんですね。

爆笑するラダさんにつられて不気味に笑う。
急にしんみりな言葉に、仲良しですよと返事。


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  クリスマスまでのカウントダウンなんて、素敵なカレンダー
しかも羽純くんの手作り!

嬉しくて、毎日入っているチョコレートも美味しくて
でも、間に紙のメッセージが入っていて…
何が書かれているだろう?とドキドキしながら、毎日確認して
揃ったメッセージは
『この幸せを毎年感じたい』

メッセージの最後の日は23日
羽純くんと私の誕生日…
誕生日を祝って貰える事が幸せって意味…かな?
だから、羽純くんに
私、美味しい料理を作って、誕生日をお祝いするねと

…私を祝いたい?
羽純くんが…私を?
勘違いが恥ずかしいのと嬉しいので、上手く言葉が出て来なくて…
…本当に嬉しい
うん、私も…毎年羽純くんをお祝いする幸せを、感じたい
有難う、羽純くん


和泉 羽海(セララ)
  アドリブ歓迎

…毎日ひとつずつ…開けるようにって言われたから…
やってたけど、これ…メッセージ…だよね
あの人のことだから…きっと好きとか…そういうことだと…思うけど
入ってるお菓子…全部ハート型だし…
告白とか…いつも言ってるのに、よく飽きない、よね…
しかも…あたし、なんかに…

たぶん、あと一つで完成…本当は明日だけど……いいや、開けちゃえ
M、E、R……ん?M【A】RRY MEかな…?

あ、来ちゃったんだ…だって、気になったから…
(首を振って拒否)
…そういうことじゃ、ないんだけど…
来年もする気なのか……ていうか、まだ一緒にいてくれるんだ…

(ところで…スペル間違ってるって、言わない方がいいのかな…)


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  ふたりで過ごす初めてのクリスマスまでのカウントダウンが、想像以上にわくわくドキドキに!

ジューンさんに手渡されたのはアドベントカレンダー
その存在を知っていたことに、少しがっかりしたようでしたけど…

1日にひとつ開ければ、私好みの美味しいチョコ
更に4と11と17(互いの誕生日に纏わる数字)には
カードと共に、なかなか手に入らないと評判のチョコが?!

17日に開いた中からチョコと共に3枚目のカード
ゆっくりとチョコを味わいながら、並べてみた
…外国語?
意味はわからない

あと1週間
そうすればジューンさんと会えるから
美味しいチョコと、素敵なカレンダーのお礼を言おう
それから、このカードの言葉の意味も尋ねてみなくては


●Mon coeur t’appartient.

 ジュニール カステルブランチがカードを入れたのは、4日と11日、そして17日の箱の中だ。
 カードだけでは味気ないから、評判の高級ショコラトリーのチョコも入れた。
 黒い宝石のように滑らかで美しく輝くそれは、わざわざ並んで手に入れた、冬季限定のものである。
「ソラ、喜んでくれるでしょうか」
 この箱を開ける時の、秋野 空の姿を想像しながら、ジュニールは小さな箱に、想いを詰める。
 他の日付には、ナッツの入ったチョコと、フルーツが溶け込んだガナッシュを使ったチョコを。
 ツリーにハート、猫にサンタ。形は様々、味も様々。
 当然だ。いろいろな店を回って、全部違うものを探したのだから。
 昔には、媚薬としても扱われたチョコレート……ショコラ。
 甘い物が嫌いな空が唯一食べられる、甘い菓子である。

 ※

「ソラ、アドベントカレンダーって知っていますか」
 空がジュニールにそう問われたのは、12月1日のことだった。
「……知っていますよ。クリスマスをカウントダウンするカレンダーですよね。私は馴染みが薄いですが、たしか起源は」
 紫の目を不思議そうに瞬かせながらも、空はつらつらと歴史まで語ろうとした。しかしジュニールは、苦笑して空の言葉を止める。
「空の歴史の知識は、そのようなところまで広いんですね。さすがです」
「そんな……大したことじゃないです」
 空は言ったが、顔はすでに熱くなっていた。ただだからといって、彼の少々の落胆を見逃す空ではない。
 しかしその理由を問うより早く、ジュニールは空に、赤いリボンがついた箱を差し出してくる。
 箱を見下ろし、ジュニールの顔を見上げて。
「これはもしかして……」
「ええ、アドベントカレンダーです。この間作ったので、ぜひソラに使ってほしいと思いまして」

 ソラなら大丈夫だと思いますが、必ずひとつずつ開けてくださいね。
 そう念を押されて持ち帰ったアドベントカレンダーを、空はじいっと見つめていた。
 二人で過ごす予定のクリスマス。そのカウントダウンまでもが、予想以上にドキドキするものになっている。
 渡してくれるときのジュニールの様子はちょっと気になったけれど、それよりも今は――。
「まずは今日の分を開けてみましょう。……あ、チョコレートが」
 迷わず口に入れれば、蕩ける甘みが口内に広がる。
「これ、ナッツが入っているんですね。……美味しいです」

 空は約束通り、毎日ひとつの箱を開けていった。
 そして4日目、チョコレートと一緒に、カードが入っていることに気付く。
 しかし、だ。
「『Mon』とは何でしょう」
 ただ、わざわざ手作りをしてくれたカレンダーに、あのジュニールが意味のない物を入れるはずはないということは、わかりきっている。
「……これは、とっておきましょうね」
 そんなことが、11日、17日と続く。

 17日の日。
 空は、箱の中に一緒に入っていたチョコレートを食べながら、3枚のカードを並べてみた。
 なかなか手に入らないと評判のチョコを、このために手に入れてくれたジュニールの好意が嬉しい。
 ただ、カードの意味はわからない。
『Mon』『coeur』『t’appartient』
「……外国語、だとは思うんですが」

 ※

「ソラは、あの言葉の意味に気付いたでしょうか」
 17日、温かい部屋の中から夜空を見上げて、ジュニールは相棒に思いをはせる。
 Mon coeur t’appartient.
 ――俺の心は貴女のもの。
「言葉通り、まさに俺の心は、ソラのものなんですけれど……ね」
 見返りを欲しているわけではない。だから、たとえ言葉の意味に気付かれなくても、空がチョコを喜んでくれるなら、それだけでいいとは思う。
 あの愛らしい頬を染めて、笑ってくれるのならば。
「……ソラ、喜んでくれるでしょうか」

 空は、天に輝く星を見上げている。
「クリスマスまで、あと一週間。そうすればジューンさんと会えるから。美味しいチョコと、素敵なカレンダーのお礼を言いましょう。あと、この意味も尋ねてみなくては」
 手の中には、甘い香りが染み入っている3枚のカード。
 空はそれを、大切に胸に押し当てた。

●EE!RMMRY
 12月23日、夜。
 和泉 羽海は、相棒セララから贈られた、開封済みのアドベントカレンダーを見つめていた。
 ……毎日ひとつずつ……開けるようにって言われたから……やってたけど、これ……メッセージ……だよね。
 1日から今日まで、小さなお菓子は毎日入っていた。でもそれ以外に、箱からカードが出てくる日もあったのだ。
 それには大きく一文字のアルファベットがかかれていた。出てきた順番に並べると、
『E』『E!』『R』『M』『M』『R』
 となる。
 あの人のことだから……きっと好きとか……そういうことだと……思うけど。
 開けっ放しになっている箱の蓋を指で押さえて、羽海は考える。
 セララが手作りだと言って渡してくれたこのカレンダー。
 お菓子は、チョコレートもクッキーもキャンディも、全部ハート型だった。
 いや、たとえそれが丸や三角や四角だったとしても、羽海はきっと、ここに『好き』の気持ちをいっぱい込めているとわかったはずだ。だって、羽海が知る『彼』は、そういう人だから。
 でも、だからこそ思う。
 告白とか……いつも言ってるのに、よく飽きない、よね……。しかも……あたし、なんかに。
 そう、あたし、なんかに。
 ふっと息を吐いて、羽海はカレンダーの最後の1マスの蓋に手をかける。明日は24日、クリスマスイブだ。
 たぶん、あとひとつで完成……本当は明日だけど……いいや、開けちゃえ。
 小さな手で、24と書かれた蓋を、ぺリリと剥がす。中から出てきた文字は『Y』。
 M、E、R……ん? M【A】RRY MEかな……?
 やっぱり、いつもの言葉だった。

 ※

 同じく23日、夜。
 セララは羽海の家に向かっていた。
「クリスマスにプロポーズって最高だよね!」
 うきうきと弾む心で動かす足は、自然とご機嫌のスキップだ。
 本当は、そのままわかりやすくMARRY ME! とすればよかったけれど。
「羽海ちゃん、シャイだからな~」
 そばかす赤毛の少女のことを考えて、セララはくすりと小さく笑う。
 途中で言葉の意味に気付いちゃうと、捨てられちゃうかもしれないし。日付もばらばらにして暗号っぽくしておけば、楽しんでもらえるかなーって。
 寒い道を跳ねて跳ねて進んでいると、羽海の家が見えてきた。
 本当は明日が本番だけど。
「悩んでる羽海ちゃん見たくて来ちゃった!」

 来るなら明日だと思ったのにと、羽海は紫の瞳を瞬かせた。
 セララがすぐさま羽海の隣に立ち、テーブルの上に目を落とす。そこには全部開封された、アドベントカレンダー。
「……あれっ、なんで全部開いてるの!? 24日は明日だよ!?」
 怒るでもなく背中を丸め、セララは羽海の顔を覗き込む。
 だって、気になったから……。
 小さな口をゆっくり開けて、躊躇いながら口にすれば、セララは仕方ないなあと笑った。
「もう、羽海ちゃんはせっかちさんだなあ……そういう所も、可愛いんだけど! えっと、意味わかった? そうか、よかった! じゃあ返事聞いてもいいかな!」
 わかった? と聞かれてこくりと縦に振った首を、羽海は今度は横に振る。
 するとセララは「えーダメ?」といかにも残念そうに、大きな声を出した。
 赤い目をぱちぱちさせて、少しの間がっくりしていたけれど、すぐにはっとしたように顔を上げ、笑顔になって羽海を見つめる。
「そうか、まだ結婚できる年齢じゃないもんね! じゃあまた来年、リベンジするね!」
 年なんて関係ないし、そんなことを言うなら来年だって、結婚できる年じゃないんだけど。
 羽海はセララの金色の髪と赤い目を、ぼんやりと見上げている。
 ……来年もする気なのか……ていうか、まだ一緒にいてくれるんだ……。
 あたしと。
 その時は『あたしなんか』とは、思わなかった。
 ただ、気になることがひとつある。
 スペル間違ってるって、言わないほうがいいのかな……言ったほうが、いいのかな。
 少しだけ考えて、羽海は伝えないことに決めた。
 来年も同じだったら……その時に教えよう。それまで……カードは大事に、とっておかなくちゃ。

 M【E】RRY ME!
 俺と結婚しようよ、羽海ちゃん!

●愛羅武勇

 今年の12月1日は、ラダ・ブッチャーにとって、少々特別な日であった。
 この前参加した市民講座で作ったアドベントカレンダーを、相棒エリー・アッシェンに手渡すのだ。
 その時に講師に言われた通り、カレンダーの小さな箱の中には、けして小さくはない想いを込めている。
 エリーはボクサーの右ストレートくらい真っすぐに愛情表現してくるけど、自称繊細なボクはちょっと恥ずかしい。
 だから、先生のアドバイスを参考にさせてもらったんだ。
 箱に入れたカードと甘いお菓子を思い出すと、ラダの唇は自然と弧を描く。
 エリーはきっと、笑顔でカレンダーを貰ってくれるだろう。

 ラダの予想通り、エリーはその贈り物を、はにかみながら受け取ってくれた。
「ありがとうございます、ラダさん。毎日ひとつずつ、開けていきますね」
 銀の瞳に喜びが浮かび輝くのを、ラダはにこやかに見つめる。しかしすぐに、忘れちゃだめだった、と慌てて口を開いた。
「そうだエリー、このカレンダーはボクが作ったんだ。特製だよぉ」
「ラダさんが? じゃあチョコチップクッキーが入っているんでしょうか? 楽しみ度が増しますね」
 エリーが、嬉しそうにカレンダーを胸に抱く。ボクも、カードを見たエリーがどんな反応をしてくれるか楽しみだよぉ、とは、ラダは言わない。言葉を秘めたのは、3日と10日、17日に24日。この日が来れば、自然とわかるに決まっているからだ。

 そして、3日。
 エリーはラダに逢うなり、にっこりと微笑んだ。その笑顔に、ラダは彼女が既に、カレンダーを開けていることを知る。
 今日のところに入れたカードに書かれた言葉は『愛』。
「ラダさん、私すごく嬉しかったです! ありがとうございます!」
「う、うん……」
 直球の気持ちが照れくさくて、少しばかり染まった顔を俯かせ、ラダはエリーから目を逸らす。もともとの肌の色が、赤い頬を隠してくれるだろう。

 10日。
「『羅』……ナゾの文字が出ました」
 小さなカードの一文字に、エリーは目をぱちぱち。
「『愛』の続きですから、悪い意味ではない……と思うのですが」
 しかしそんな彼女の心配は、ラダがあっさり解決してくれた。
「それはね、薄衣とか鳥を捕える網って意味だよぉ! 薄衣っていうのは……」
 と、カンペを見ながら詳細に説明してくれる。
 ただそれで意味はわかったが、どうしてここに出てくるのか若干謎だ。

 17日。
『武』である。
「戈を止めるっていう意味だよぉ。戈っていうのは矛のことなんだって。武術の世界は奥深いよねぇ」
「その漢字に、そんな意味があったなんて!」

 最後は24日だ。
「『勇』は心が奮い立つって意味だよぉ」
「きゃー、ステキです! 私の心も、ラダさんへの愛で、奮い立っています!」
 エリーは胸の前で両手を握り締め、高い声を上げた。だがそれだけでは、溢れんばかりのラダへの気持ちはとまらない。
「羅武!」
 掛け声とともにおふざけの拳を突き出せば、ラダはすかさずそれをかわし、エリーの四角へと踏み込んだ。そのまま彼女の、白く細い右手をとる。
「ハッ! この動きは……合気道!? ここはお突きあいとかけて、打撃系がくると踏んでいたのに!」
 エリーは目を見開き、真面目な声で言う。しかしその瞳は、すぐに柔和なものになった。
「ラダさんの愛情表現は、搦手なんですね」
「エリーならこのメッセージで、絶対そうノッてくると思ってた!」
 アヒャヒャヒャ、とラダはお腹を抱えて笑っている。
 エリーはそんな彼を見て、ひっそりと不気味に微笑んだ。
 そしてしばしの後、ラダが目元をこすりながら、息を吐く。
「恋人になったらもう友達みたいに遊べないって不安だったけど、そんなこともないんだねぇ」
「……仲良しですよ、私たちは」
 エリーが今度は優しく、ラダの手に触れる。
「アドベントカレンダー、来年は一緒に作りましょう。ラダさんの好きなお菓子をたくさん詰めて」
「ヒャア……それは楽しみだね」
 ラダはそう言って、照れたように笑った。

●この幸せを毎年感じたい

 アドベントカレンダーにメッセージを。
 そう言われた時、月成 羽純は少々悩んだ。
 相棒の桜倉 歌菜の誕生日は、今月の23日。クリスマスに告白したいと考えていたから、最初は誕生日を祝う言葉にしようかとも考えたのだ。
 だが、サンタの絵柄の箱に「ハッピーバースデイ」では違う気がして、結局は、少し間接的な、愛の言葉を選んだ。
 ストロベリー、ピーチ、レモンにオレンジ、ラズベリー。
 フルーツフレーバーの一口チョコと、小さなカードに想いを託す。
 誕生日までにはメッセージが完成するように。

 生まれてきてくれて、生きていてくれて、今、傍に居れて嬉しい。
 これからも、歌菜と、歩いていきたい。
 そんな気持ちを、ぎゅうぎゅうに詰め込んだ。

 ただ、チョコレートを箱に入れながら、少々不安になることもあった。
 この想いに気付いた時、歌菜はどう思うだろう。
 歌菜は己を、過小評価する癖があるからと、羽純はわずかに眉を寄せる。
 歌菜の歌は、聞いていると元気が出る。食事は美味しいし、優しさには安心を与えてくれる。
 そうでなくても、あの明るい姿を見ているだけで、十分なのに。
 カレンダーのためにと用意して、余ったチョコを一口齧る。
「……美味い」
 この甘いチョコレートが、歌菜にも笑顔を与えてくれますように。

 ※

 カレンダーを受け取った歌菜は、日々うきうきとそれを開けている。
 クリスマスまでのカウントダウンというだけでも素敵なのに、羽純の手作りというのだから、心が踊るのも当然だ。
「今日のチョコレートは何の味だろう。ん……アップルジャム? ショコランドのケーキを食べた時のこと、思いだすなあ」
 あの時は、甘味が好きな羽純がたいそう楽しそうだったと思い返せば、歌菜の胸には温かいものが広がる。
「せっかくだから、このチョコレートも羽純くんと食べたかったかも」
 そんなふうに、小さな楽しみを続けて6日目。
「あれ、メッセージが入ってる……『この』?」

 メッセージは、数日おきにチョコレートとともに現れた。
『この』『幸』という最初の2回は意味がわからなかったけれど、12日に『せ』が出てきた時には、ほっと安堵の息をついた。
『この幸せ』――羽純くんは、私といる時間を幸せに思ってくれてる。
 そう、思えたからだ。
 そして23日、歌菜と羽純の誕生日までをかけて手にしたメッセージは、
『この幸せを毎年感じたい』
「誕生日を祝ってもらえることが幸せって意味……かな?」
 並べた7枚のカードを見つめ、歌菜は呟く。
 だからこそ、羽純に逢った時に言ったのだ。
「私、美味しい料理を作って、誕生日をお祝いするね」と。
 しかし羽純はわずかに目を細めた後、真剣な眼差しで口を開いた。
「俺は、歌菜の誕生日を、毎年祝いたいんだ」
「……私を祝いたい? 羽純くんが……私を?」
 歌菜は息を飲んだ。
 自分が勘違いをしていたことは恥ずかしいけれど、羽純の想いは、胸に染み入るようで。
 歌菜の頬が、じわじわと赤く染まっていく。
 それは、圧倒的な歓喜だった。
 ただ、この気持ちを羽純に伝える術を、今の歌菜は持っていない。感動が心を満たし、唇の動きを止めてしまっているから。
 やっと呟いたのは、たった一言。
「……本当に嬉しい」
「歌菜」
 そんな彼女の手を、羽純は柔らかく握る。びくりと震えたことでその緊張を知り、あえておどけたような口調を作る。
「まあ、そのついでに俺の誕生日も祝ってくれたら嬉しい」
 冗談ぽくいえば、歌菜は「もちろんだよ!」と大きく唇を動かした。
「私も……毎年羽純くんをお祝いする幸せを、感じたいもの」
 歌菜は羽純の手を、ぎゅっと強く、握り返す。
「ありがとう、羽純くん」
 互いの手を取り見つめ合い、二人は揃って唇をほころばせた。

●クリスマス一緒にすごそう?

 天藍に貰った手作りのアドベントカレンダーを、かのんは一日に1か所ずつ開けていった。
 1日は、甘い甘いチョコレート。
 2日には、『ク』と書かれた小さなカード。
 3日には、赤色、ストロベリー味のキャンディ。
 そして4日は『リ』のカード。
「1日おきのメッセージ?」
 両手に持った2枚のカードを、かのんはまじまじと見つめた。
 文字と今の時期から察するに、10日で『クリスマス』という言葉が現れるのだろう。
「その続きが気になりますね……」
 しかしこのカレンダーの作り主である天藍は、内容については教えてくれる気はないようだった。
 逢う度に「カードのことですが」と尋ねてみるものの、
「ここで教えたら、楽しみが減るだろう」
 と、楽しそうに口角を上げるだけ。
「それはその通りなのですけれど……」
 結局素直に引き下がり、自宅に戻ることが続いている。
「続きが気になりますけど、前倒しで開けるのは駄目ですよね……」
 いくつかの箇所が開いたものを見て、かのんはほうっと息を吐く。
 そんな子供みたいなこと、していいはずはない。
 だってこれは、毎日開けることでクリスマスをカウントダウンする、アドベントカレンダーなのだから。

 一方天藍は、不思議そうなかのんを見て、ただ楽しんでいるわけではない。
 仕込んだメッセージは、口にしてしまえばたった一言。
 だから早々に言ってしまいたい気持ちはあるのだ。
 それを耐えるということは、先を知りたくてうずうずしているかのん同様、自分もそれなりに我慢の日々を送るということ。
「それにしても……」
 天藍は、カードを見つける度に報告をしてくるかのんのことを考え、くすりと小さく笑った。
「こっそり見てもわからないだろうに、律儀にその日分を開けてるんだよな」
 そこが、なんとも素直で可愛らしい。

 そして12日。
 かのんは『クリスマス』の次の単語を見つけた。
「『一緒』?」
 2つの単語を組み合わせて、思うことは。
「……クリスマスのお誘いだったら、嬉しいのですけれど」

 二人の期待と我慢を内包した毎日は、それでも穏やかに過ぎていく。
 天藍がメッセージのすべてを伝えた日……つまり、かのんが彼の言葉を受け取った日は、クリスマスも近い22日のことだった。
 その日の朝、起きてすぐ。
 パジャマ姿のままで、かのんはその日のカレンダーを開けた。
 ここまでの間になんとなく内容はわかっていたけれど、それでも気が急いたのだ。
 完成したのは、
『クリスマス一緒にすごそう?』
 早朝だということも忘れて、かのんはすぐに電話をとる。
 かける相手はもちろん。
「もしもし、天藍? あの、カレンダーのお誘いですけど、良かったら私の家で過ごしませんか?」

 朝一番になったコール音に、緊急事態かと焦ったけれど。
「もしもし、天藍?」
 そう聞こえた声に天藍は、彼女が自分のメッセージを受け取ったことを知った。
 かのんの家でのクリスマスには、二つ返事で了承する。
「それならどこかで待ち合わせをして、二人で一緒に食材やお酒を買ってから、家でゆっくりするのはどうでしょう」
 そう語る彼女の声はよどみなく、きっと事前にメッセージの内容を予想して、いろいろと考えていたのだろうと思わせた。
「ああ、そうしよう」
 返す言葉は一言。
 だが、天藍の頭の中では、すでに当日のシミュレーションが始まっていた。
 食材選びの買い物から一緒に過ごすのは、きっと楽しいだろう。
「では、待ち合わせはお店が始まる少し前くらいがいいでしょうか。ああ、お酒は上等のものと用意しないといけませんね」
 弾むようなかのんの声に、自然と笑みが浮かんでくる。
「クリスマスが、すごく楽しみです」
 そう聞けば、目の前にはいない彼女の愛らしい微笑が脳裏に浮かんだ。
 その笑顔をより鮮やかなものにするためにも。
 ――かのんに渡すプレゼントは、なににしようか。
 耳に心地よい声を聞きながら、天藍はそんなことを考えていた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:和泉 羽海
呼び名:羽海ちゃ~ん
  名前:セララ
呼び名:アレ、あの人、セララ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月30日
出発日 12月09日 00:00
予定納品日 12月19日

参加者

会議室

  • [9]かのん

    2015/12/08-19:45 

    プラン提出してきた
    こんな風に時間かけてメッセ-ジ届けるっていうのも悪くないと思った
    お互いの神人に上手く伝わると良いな

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/12/08-01:07 

  • [7]桜倉 歌菜

    2015/12/08-01:07 

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/12/06-00:27 

  • [5]桜倉 歌菜

    2015/12/06-00:27 

    挨拶が遅くなった。
    月成 羽純です。
    パートナーは歌菜。
    今回は、歌菜へ贈るアドベントカレンダーを作るつもりです。

    さて、どんな言葉を込めようか……。
    よい一時になるといいですね。

  • [4]秋野 空

    2015/12/05-00:33 

    こんにちは
    精霊のジュニール・カステルブランチと申します
    アドベントカレンダーを送るのは、パートナーの秋野空です
    よろしくお願いいたします

    込める想いに気付かなくてもいいから、ソラに喜んでいただけると嬉しいです
    どんな風に作ろうか、楽しみですね

  • [3]和泉 羽海

    2015/12/04-08:59 

    はろはろ~可愛い羽海ちゃんとセララ君だよ~みんな、よろしくね!
    なるほど、こういう告白の仕方もあるんだね~面白い!
    さぁて、何て書こうかなー♪

  • [2]エリー・アッシェン

    2015/12/04-02:38 

    エリー・アッシェンと精霊のラダさんで参加です。よろしくお願いします~。

    クリスマスまでの日付を数えるカレンダーがあることはなんとなく知っていたのですが、アドベントカレンダーっていう名前がついていることは、このエピソードで初めて知りましたよ!
    うふふ、面白そうですね。

  • [1]かのん

    2015/12/03-19:18 


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