プロローグ
オーガに乗っ取られた『ジャック・オー・パーク』だが、ウィンクルムとA.R.O.A.の迅速な働きで、一部の施設は少しずつ無事に開放されつつある。
「ふいー、一仕事してくたびれたぜ」
この施設を占拠していたオーガを倒したウィンクルムの中の一人、トリックスターの精霊が気怠そうに伸びをした。銀髪でネズミのテイルス。なお、覚えなくてもまったく支障はないが、彼の名はヴェーザーという。
「ここは菓子の専門店だな。あー……、奪還は成功したが、実はまだ問題がある」
ヴェーザーはあなたたちを見て、軽い口調で話を続けた。
「オーガの野郎の瘴気がまだ建物に残ってやがるわけ。そこで、だ。奪還したテーマパークの施設が本格的に営業再開する前に、ウィンクルムがデートをして瘴気を払ってね! とのお達しがA.R.O.A.の偉い人からきている」
神人には、愛の女神の力が宿っており、オーガの瘴気を払うことができる。これぐらいの瘴気濃度であれば、特別な儀式などは必要ない。神人と精霊が心をかわして楽しい時間をすごせばそれで自然に瘴気は払われる。
ヴェーザーは「デート」という言葉を使ったが、まだ恋人関係にまで発展していないウィンクルムや恋愛感情以外のプラス感情を持っているウィンクルムでも、問題なく瘴気を払える。
オーガから取り戻したのは、リンゴ飴の専門店。
ハロウィン風の飾り付けがされた店内か、紅葉する街路樹がキレイな店先を選べる。特に指定がなければ、店内の席へ案内されるだろう。
メニューはリンゴ飴とドリンクのみだが、バリエーションは豊富。
定番なのは、飴をかけた一般的なリンゴ飴。
それからキャラメルやチョコレートでコーティングしたリンゴ飴もある。洋風の味だ。
そして着色料をふんだんに使った、七色アイシングのリンゴ飴。ド派手で賑やかなものが好きな人へ。
ドリンクは、アップルティー、アップルジュース、アップルサイダーとリンゴ尽くめ。唯一、コーヒーだけはリンゴ味ではない。
リンゴ飴は棒が刺さった状態で、お皿に乗せられテーブルに運ばれてくる。小型の果物ナイフとフォークも添えられて。
元気よくかぶりついても構わないし、果物ナイフで切り分けて上品に食べても良い。食べ方はお好み次第だ。
解説
・必須費用(一人一品以上のメニュー注文)
シンプルリンゴ飴:1つ100jr
キャラメルリンゴ飴:1つ150jr
チョコレートリンゴ飴:1つ150jr
七色アイシングリンゴ飴:1つ150jr
コーヒー:1つ50jr
アップルティー:1つ50jr
アップルジュース:1つ50jr
アップルサイダー:1つ50jr
長いメニューは、意味が通じる程度に省略してもOKです。
例:チョコ飴、七色飴、林檎茶、など
・仮装について
希望すれば、神人と精霊のどちらか片方が、仮装の特殊能力を使うことができます。
このエピソードでは、仮装は強制ではなく任意です。
・ゴースト
外見:可愛いおばけの仮装。
能力:パートナーを驚かすことが得意となり、サプライズがとても上手になります。
・ドラキュラ
外見:紳士、淑女を思わせるドラキュラの仮装。
能力:甘噛みされたパートナーがしばらく素直になります。
・ジャックオーランタン
外見:可愛いデザインの、ジャックオーランタンの仮装。
能力:気分が高揚し、普段言わないようなことなどを言いやすくなります。また、表情が豊かになりやすくなります。
(ジャックオーランタン伝説の元になった方が、酒好きだったところから。お酒に気分よく酔っているイメージです)
・ウィッチ
外見:美しい魔女の仮装です。精霊の場合は、女装の形となります。
能力:箒にまたがると、空を飛ぶことが出来ます。
(建物内での使用は出来ません)
ゲームマスターより
トリック オア トリート?
山内ヤトです!
日本ではハロウィンというとカボチャのイメージが強いですが、カブやリンゴもハロウィンと関係の深い作物のようです。
外国のリンゴ飴の画像を見ましたが、デコレーションが盛り盛りでした。
プロローグに、去年のハロウィンイベントに登場したNPCが説明役として出ていますが、リザルト内にまでNPCがでしゃばることはありませんので、ご安心してデートをお楽しみくださいね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【注文】 七色アイシングリンゴ飴 アップルティー ディエゴさんにお願いして仮装してもらいました なんだか大きい案山子みたいですね 注文は七色のリンゴ飴を注文します 見てください、とっても綺麗ですね。 …ディエゴさんの反応で私は顎が外れるかと思うくらい呆然としました からかってますね?そうだと言ってください。 そんな情緒的なことを言ったり積極的にエスコートしてくる人じゃないですから。 はっきり愛情表現してくれるのは嬉しいですけど なんだかむず痒いというか… (テーブルに突っ伏し) …ごめんなさい、普段のディエゴさんの気持ちが良く分かりました だから元に戻って…は? やっぱりからかってた!いつから正気に戻ってたんですか!! |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
ハロウィン風の飾り付けを楽しみたいから店内 七色アイシングリンゴ飴 アップルサイダー を注文 ゴーストの仮装 リンゴ飴って、お祭りの屋台ってイメージが強かったけど… うわぁ、華やかで可愛い♪ 食べるのが何だか勿体ないね! ふふ、やっぱり直接齧りついちゃう♪ んー美味しい! …って、大口…恥ずかしい…! 名誉挽回に、羽純くんにちょっとしたサプライズを仕掛けちゃおう その為に仮装して来たんです 羽純くん、このロープを持って 私が反対側を持って、真ん中を鋏でチョッキン ロープは二つに分かれてしまうけど… 私と羽純くんの絆はこんな事では切れないの (ロープがくっつく簡単な手品) どう?びっくりした? サプライズ成功したら、嬉しくてにっこり |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
可愛い感じの魔女な仮装して行きます。 黒系ワンピースにとんがり帽子で。 オ・ト・ナな雰囲気の魔女姿はまた次回以降に挑戦予定。今回のテーマはキュートな魔女で。 キャラメル林檎飴と林檎茶を頂きます。 でも林檎飴って食べるの難しいです。 ミュラーさんの前でヘンな顔見せられないです。 縁日でかぶりついて上手に食べられたことが無くて。 それに、かぶりつくと変な顔になっちゃいそう。 ナイフ使っで切って食べます。 棒持ってさくっと6等分。 串切りにすれば大丈夫ですよね。 ミュラーさんと林檎交換して、2人で味をシェアして食べます。 キャラメルやチョコとの相性良いですね。とっても美味しいです!(後でカロリー分運動しなくちゃ!) |
久野原 エリカ(ヤスカ・ゼクレス)
注文 チョコ飴一つ 仮装は神人精霊共にしない。 心情: 洋風のリンゴ飴か。どんなのか楽しみだな。 (ヤスカをみやり) ……一緒に出歩ける日が来るとは思ってなかった……から嬉しい。 だけど、少しでも気分転換になってくれればいい。再会の時がアレだっただけに。 心配しなくても私は大丈夫なのに…… 行動: 店内へ。 フォークとナイフで食べてみようと思う。 「ヤスカ先生も、食べないか……?」(コーヒーだけの彼を見て 「な、もう子供じゃない! ……それに、もうお嬢様じゃなくて、良い……」(口を拭かれてちょっと赤面 補足:ヤスカに対して 一緒に過ごせるようになったのは嬉しいけど行動と言動に戸惑いも。 |
秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
チョコ飴・珈琲・店先 (デートという言葉と、いつもと纏う雰囲気が違う吸血鬼衣装の精霊にどぎまぎしつつ、何とか平静を装って食べる シャーベット? それは…すこし興味があります (精霊の笑みに赤面目を逸らし まぁ、食べられるのなら…構いませんが… 飛んでみたい気もしますが、裾が気になるので…今日は止めておきます (俯いて聞こえない位の小声で それに、飛んだらすぐに家に帰りついてしまうし… ジューンさん、何か言いました…? えっ? リボン、ですか? (髪に手を遣ろうとしたところでやんわりと止められ それでは、お願いします ?! …えぇ、ジューンさんと一緒だったから、とても それと…シャーベット林檎飴、楽しみにしていますから |
●情熱のジャックオーランタン
『ハロルド』はパートナー『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』の出で立ちを見て、満足感を覚えた。
彼が身にまとっているのはジャックオーランタンの仮装。怖いというよりも、可愛い寄りのデザインになっている。ハロルドがディエゴにお願いして着てもらったのだ。
「なんだか大きい案山子みたいですね」
そんな感想をこぼすハロルド。
ハロルドは七色のアイシングがかかったカラフルなリンゴ飴とアップルティーを頼み、ディエゴはコーヒーだけ注文した。
「見てください、とっても綺麗ですね」
ディスプレイされた色とりどりのリンゴ飴を見てハロルドがそう言うと、すかさずディエゴが甘くささやいた。
「Estoy loco por ti……リンゴ飴はとても素敵だけど君の綺麗な瞳には敵わない」
ディエゴの口から流れるように愛の言葉が飛び出した。ある国の言葉で「あなたに夢中」という意味だ。
「えっ?」
前触れもなく急に飛び出した愛のセリフに呆然とするハロルド。ディエゴの様子が妙だ。
ハロルドとディエゴはすでに思いが通じ合っているし、非常に親密な関係を築いたウィンクルムだ。が、彼の性格的にこのような愛情表現はしないはずだ。
「……何を言っているんですか……?」
「謙遜することないよ、本当のことを言っているだけだから」
この精霊、話を聞かない。
ディエゴは、驚きのあまり外れそうになっているハロルドの顎に優しく手をやり、そっと口を閉じさせた。
「さあどうぞ座って、椅子を引いてあげる」
戸惑いつつもディエゴにエスコートされるがまま、ハロルドはハロウィンの飾り付けがされたテーブルにつく。店員が注文したメニューを皿に乗せて運んできた。アップルティーとコーヒーの芳香が程良く混ざり香っている。七色のリンゴ飴は派手なアイシングをまとって存在を主張している。
だが今は注文の品よりも、性格が激変したディエゴの方が気になった。
「……何故?」
「何故ってそうしたいからするんだ」
「からかってますね? そうだと言ってください」
ディエゴはその蜂蜜色の瞳にハロルドの顔を映した。鷹のように精悍な眼差し。真剣な表情でハロルドのことを見つめる彼が、ウソをついているようには見えない。
「喜んでいる顔見られるならなんだってする」
ハロルドだって、嬉しいという気がしないわけではない。しかしディエゴの様子が普段と明らかに違うこともまた事実。その点を指摘する。
「そんな情緒的なことを言ったり積極的にエスコートしてくる人じゃないですから」
その言葉の後、一瞬だけディエゴの動きがとまった。元に戻ってくれたのかと期待したが、大胆な愛情表現はまだ続く。
ディエゴはハロルドの手をとった。愛おしむような手つきで柔らかな頬に触れ、優しく撫でる。
いつもならディエゴをからかって困らせたりするのが好きなハロルドだったが、これでは立場が逆だ。彼の方からはっきりと愛情表現をしてくれるのは嬉しいが、なんだかそれ以上にむず痒さと恥ずかしさが……。
とうとうハロルドはテーブルに突っ伏した。
「……ごめんなさい、普段のディエゴさんの気持ちが良く分かりました。だから元に戻って……は?」
押し殺したようなディエゴの笑い声が聞こえてきた。
その楽しげな声を聞き、ハロルドは即座に状況を理解する。
「やっぱりからかってた! いつから正気に戻ってたんですか!!」
「悪い、新鮮なものが見れたと思って少し演技していた」
仮装のジャックオーランタンの効果で気分が高揚していたらしい。元に戻った後も、ハロルドの反応を楽しんでいたようだ。
「涙が出るくらい笑ったのは久しぶりかもしれない」
穏やかな口調でそう言って、ディエゴは笑顔で目元の涙をぬぐった。
●チョコレートの欠片
『久野原 エリカ』と『ヤスカ・ゼクレス』は普段通りの装いで『ジャック・オー・パーク』に訪れていた。
特に仮装をしているわけではないが、エリカはワンピースと靴をゴシックロリータテイストで統一し、アクセサリーの数は控えめだが雰囲気にあったものを身に着けている。そのコーディネートからは、彼女の美意識が感じられた。
ヤスカはどこか張り詰めた表情で周囲を警戒している。奪還したとはいえ、この場は完全な安全地帯というわけではない。自分がしっかりついていなければ……。彼はそう考えて行動していた。
オーガへの警戒心からパークの中でも防衛姿勢を崩さないヤスカを見やり、エリカは少し複雑な気持ちになる。
(……一緒に出歩ける日が来るとは思ってなかった……から嬉しい。だけど、今は少しでも気分転換になってくれればいい。……再会の時がアレだっただけに)
二人が引き合わされた瞬間ハプニングが発生した。あの時、エリカの感情は大きく乱れた。あれは驚きや動揺というレベルではない。まさしく錯乱であった。
錯乱状態に陥った彼女を目の当たりにして、ヤスカの方も何かを悟ったらしい。
二人の視線が合う。ヤスカはヤスカで考え事をしていた。お嬢様は笑っている……けれどそれは無理に笑っているように思えてならない……忘れてなど、いなかったのだから。
(心配しなくても私は大丈夫なのに……)
両者それぞれの思いを抱きながら、甘い香りが漂う店内へと入る。
「洋風のリンゴ飴か。どんなのか楽しみだな」
チョコレートでコーティングされたリンゴ飴を注文するエリカ。
「私はコーヒーだけいただきます」
テーブルに二人が頼んだものが運ばれてくる。
小さな果物ナイフとフォークを使い、エリカはチョコのかかったリンゴ飴を食べやすいサイズへと切り分けていく。
コーヒーだけを口にしているヤスカを見て、エリカは声をかけてみた。
「ヤスカ先生も、食べないか……?」
「いえ、私は大丈夫です。甘いものは少々苦手でして」
「そうか……」
そう言われれば、無理に勧めるわけにもいかない。
ナイフとフォークを使って、エリカは上品にリンゴ飴を食べた。
リンゴ自体はありふれたおなじみの果物だが、そこにチョコレートがかかったことで特別なデザートに仕上がっている。甘さとほろ苦さのあるチョコでコーティングされて、リンゴ果肉の爽やかな味と食感が引き立つ。なかなか美味しい。
エリカがチョコレートのリンゴ飴を賞味していると、ヤスカからの視線を感じた。ジーッと見つめられる。そう、まるでエリカの顔に何かがついているかのように……。
「失礼します、お嬢様……口元がチョコの欠片で汚れておりますよ」
そう教えられた。実際、顔に何かついてたらしい。
「な……!」
人形のようなエリカの色白の肌が、カーッと赤く染まっていく。
もう小さな子供ではないのにお菓子を食べて口元を汚してしまうなんて、ちょっと恥ずかしい。それをヤスカに目撃されたことも……。
自分の口元をハンカチでぬぐい、エリカはどうにか赤面から持ち直す。真面目な表情と落ち着きを取り戻した。先ほどのヤスカの言葉の中で、一つ訂正しておきたいところがあった。
「……もうお嬢様じゃなくて、良い……」
エリカはヤスカにお嬢様と呼ばれることを自分の意志で拒否した。
「……」
ヤスカははっきりとした反応は見せない。やんわりとした笑みを顔にはりつけ、彼はただ黙っている。何かをごまかすかのように。
沈黙の中で、エリカは残っているチョコリンゴ飴を食べた。今度は口元が汚れないよう気をつけて。
ヤスカと一緒に過ごせるようになったのは嬉しいが、彼の言動や態度に戸惑いも感じるエリカだった。コーヒーを飲んでいるヤスカの様子をチラリと伺うが、今の段階では彼が何を考えているのか、エリカにはつかめなかった。
●イタズラなゴースト
可愛いお化けの仮装をした『桜倉 歌菜』と、紳士風のドラキュラの仮装をした『月成 羽純』の二人は、ハロウィンの飾り付けがされた店の雰囲気に溶け込んでいた。
「リンゴ飴って、お祭りの屋台ってイメージが強かったけど……」
「お祭りの屋台のリンゴ飴もいいが、この華やかさはハロウィンならではだな」
二人が楽しくおしゃべりしている間に、注文した品がテーブルへと運ばれてきた。
歌菜の分は、七色アイシングリンゴ飴とアップルサイダー。
羽純が頼んだのはチョコレートリンゴ飴とアップルティー。彼は甘党で、各地の色々な甘いものを食べることを趣味としている。
「うわぁ、華やかで可愛い♪ 食べるのが何だか勿体ないね!」
歌菜は顔を輝かせる。丸いシルエットのリンゴ飴はコロンとキュートで、カラフルなデコレーションもポップな印象。
「ふふ、やっぱり直接齧りついちゃう♪」
棒を持ってカリッと齧りつく。
果物ナイフを手にしていた羽純の動きが一瞬とまる。彼はナイフでチョコのリンゴ飴を切り分けようとしていた。分け合うか、と聞こうとしたところで、元気よく七色リンゴ飴を食べる歌菜の姿を目撃。
「んー美味しい! ……って、大口……恥ずかしい……!」
視線に気づいて、歌菜は慌てて口を隠す。
羽純はちょっとだけあっけにとられた後で、その顔に笑みを浮かべた。
「大きな口だな」
照れて真っ赤になった歌菜をからかうような言葉だが、それは優しい声だった。
羽純の笑いは好意的なものだったが、大口を開けているところを見られたのは歌菜としては恥ずかしい。名誉挽回にと、ちょっとしたサプライズを仕掛けてみる。そのためにゴーストの仮装を選んのだ。
「羽純くん、このロープを持って」
素直にロープを持つ羽純。反対側は歌菜が持っている。
「真ん中を鋏でチョッキン! ロープは二つに分かれてしまうけど……」
一度ロープが切れたことを羽純に確認してもらう。
「私と羽純くんの絆はこんな事では切れないの」
その後で、無傷でくっついているロープを披露する。切断したロープがくっつくという簡単な手品だ。特に手品のスキルは持っていない歌菜だが、ゴースト衣装の能力のおかげでパートナーを驚かせることが上手くなっている。
「……ロープがくっついた……これは大したものだな」
羽純の反応を見れば、歌菜のサプライズは狙い通り成功したようだ。
「どう? びっくりした?」
「ああ、驚いた」
歌菜がこっそりとロープを持ってきたことには実は気づいていた羽純だが、こんな風に手品を披露してくれるとは思っていなかった。
嬉しそうににっこりと微笑む歌菜を見て、羽純の胸に愛おしさが込み上げる。
「本当……」
可愛い奴、と心の中でつぶやいて、頭をがしがしと撫でる。
「ひゃっ、羽純くん」
「その手品、俺にも教えてくれ。切れない絆、俺もこの手でやってみたい」
「うん!」
歌菜は笑顔で頷く。マジックの種明かしをして、手順をレクチャーしてみせた。二人は和気藹々とした雰囲気で、ロープを使った手品を練習してみる。
「切れない絆、か……」
歌菜へと視線を向ける羽純。
「あと、その林檎飴も一口いただく」
返事をする間もなく、羽純は歌菜の齧りかけの七色のリンゴ飴に口をつけた。
「はっ……羽純くん!?」
「ほら、俺のも齧っていいぞ」
羽純から差し出されたのは、チョコレートのリンゴ飴。まだナイフで切り分けられておらず、丸い形のままだ。
「か、齧るって……、それって……私と羽純くんが……」
頬を赤くして戸惑ってから、歌菜は差し出されたチョコのリンゴ飴をドキドキしながらいただいた。
リンゴ飴を通して、羽純と間接キスをすることになる。そのときめきで、チョコレートのリンゴ飴はいっそう甘く感じられた。
●仲良くシェア
ドラキュラの仮装に身を包んだ『フェルン・ミュラー』が、しきりに『瀬谷 瑞希』を褒めていた。
「ミズキの魔女姿も可愛いなぁ」
瑞希は黒を基調とした可愛らしいワンピースに、魔女の象徴であるとんがり帽子をかぶっている。
「そのキュートな魔女の仮装、よく似合っているねミズキ。食べちゃいたいくらいだよ」
とっておきの特別な口説き文句……に聞こえるが、フェルンにとってはこれが通常モードだ。彼はいつもこんなことを言っている。女性には紳士的に対応しつつ、強気で積極的な一面も持っているようだ。
瑞希はその場でくるっと回ってみせた。魔女のワンピースの裾がふわりと広がる。
フェルンがパチパチと拍手した。
「今回のテーマはキュートな魔女で」
なお、オ・ト・ナな雰囲気の魔女姿はまた別の機会に挑戦してみる予定だ。
「リンゴ飴専門店とは珍しいね」
店内へと入る二人。ハロウィン風の飾りつけで、賑やかな雰囲気だ。
瑞希がキャラメルリンゴ飴とアップルティーを注文したのを見て、フェルンは別の味をチョイスした。
「チョコリンゴ飴を頼むよ。美味しいアップルティーもいただこう」
ほどなくして、二人のいるテーブルにリンゴ飴が運ばれてくる。アップルティーの香りを吸い込み、フェルンがにこやかにつぶやく。
「素敵なリンゴの香りだね」
しかし、瑞希はなにやら思案顔。リンゴ飴をキレイに食べるのにはコツがいる。
(ミュラーさんの前でヘンな顔見せられないです)
縁日で売られていたリンゴ飴に齧りついたことがあるが、上手く食べられたことはない。
(それに、かぶりつくと変な顔になっちゃいそう)
フェルンは急かすことなく、温かな眼差しで瑞希の考え事を見守る。
脳内であれこれ考えた末に、瑞希が結論を出す。
「やっぱり、切って食べます」
棒の部分を持って、果物ナイフで手際良くキャラメルリンゴ飴を六等分。
「あの。ミュラーさん、良かったらリンゴ飴を交換しませんか? 二人で味をシェアして食べたいので」
「もちろん構わないよ」
チョコのリンゴ飴を頼んだ時点で、最初から瑞希と分け合うつもりだった。フェルンがチョコレートのリンゴ飴を頼んだのは、瑞希のため。フェルンは瑞希がスイーツ好きなことをしっていたし、彼女ならきっと色々な味を試したいだろう、と考えていた。
交換しやすいように、フェルンもキャラメルリンゴ飴を切る。リンゴ飴に齧りつく瑞希の可愛い姿は、またどこかの縁日で見られることに期待して。
キャラメルリンゴ飴とチョコレートリンゴ飴を仲良く分け合う二人。リンゴ飴は六等分にしてあるので、公平に三切れずつ交換した。
瑞希はキャラメルのリンゴ飴を食べた後に、チョコのかかったリンゴ飴を口に運んだ。その顔が幸せそうにゆるむ。
「キャラメルやチョコとの相性良いですね」
お祭りでよく売られているシンプルなリンゴ飴なら食べたことのある瑞希だが、こういう洋風の味付けがされたリンゴ飴も気に入ったようだ。調理過程で溶けた熱々のキャラメルやチョコをかけられたことにより、表面部分だけがほのかに焼きリンゴ風になっている。中の方の果肉はフレッシュなままで、その食感の違いもまた珍しくて面白い。
瑞希がじっくり味わいながら食べていると、こちらを優しげな眼差しで観察しているフェルンと目が合った。彼は、嬉しそうにリンゴ飴を食べる瑞希のキュートな姿に見惚れていたらしい。
「美味しいよね」
「はい。とっても美味しいです!」
ただ……これだけ美味しいものを食べてしまうと、やっぱり摂取カロリーのことが気がかりな瑞希だった。後でこの分の運動をしようと、密かに決意する。
そんな瑞希の様子をフェルンはにこやかに見守っていた。
●ドラキュラからの問いかけ
店先のテラス席には、魔女の仮装をした『秋野 空』と、ドラキュラの仮装をした『ジュニール カステルブランチ』がいた。彼の腕にはブレスレット「ハロウィンアップル」がはめられている。この場にピッタリなアクセサリーだ。
紅葉した街路樹が見えるこの場所なら、情緒ある落ち着いた一時を過ごせそうだ。
空の前にはチョコレートリンゴ飴とコーヒーが、ジュニールの前にはシンプルなリンゴ飴とアップルティーが置かれている。
「……いただきます」
空の声が少しだけぎこちないのは、この状況にどぎまぎしているからだった。紳士風のドラキュラの衣装を着こなしているジュニールは、いつもと雰囲気が違って見える。それに『ジャック・オー・パーク』の状況説明をした精霊が「デート」という言葉を使ったせいで、こうしてジュニールと二人一緒に過ごすことの意味をつい考えてしまう。
緊張しながら、空は平静を装って静かにチョコレートのリンゴ飴を食べた。本来甘いものは苦手な空なのだが、チョコレートだけは甘味の中で唯一食べられる。
魔女の格好をした空の美しい姿を心ゆくまで堪能したジュニールが、話題をふる。
「リンゴ飴を凍らせると、中がシャーベット状になって、とても美味しいそうですね」
「シャーベット? それは……すこし興味があります」
空のリアクションはそれほど大きなものではなかったが、すこし興味がある、と言っただけでもジュニールは手応えを得たようだ。
「本当ですか?」
目を輝かせて会話を弾ませる。
「氷の魔法は使えないので今すぐは無理ですが今度準備しますから一緒に食べましょう!」
ジュニールは空に向けて、極上の微笑。
「……!」
空は赤面して紫の瞳をそっとそらす。
「まぁ、食べられるのなら……構いませんが……」
その返事に喜んだ後で、ジュニールが尋ねた。
「そういえば、空を飛んでみないのですか?」
今日の空は魔女の格好をしてきている。これはただの仮装ではない。不思議な力が込められていて、魔女の衣装なら飛行能力が宿っている。
「飛んでみたい気もしますが、裾が気になるので……今日は止めておきます」
空は俯き、聞こえないほどの小声でつぶやく。
「それに、飛んだらすぐに家に帰りついてしまうし……」
その小さな声は、ジュニールの耳にしっかり届いていた。しかし、彼は聞こえない振りをする。必死で。
それでも耐え切れずに、ついボソッと気持ちを口に出してしまう。
「……まったく、可愛らしいことを……」
「ジューンさん、何か言いました……?」
「いえ、何も」
微笑み、ごまかす、その裏で。
(ねぇソラ、本当は俺、いつも不安なんですよ)
ジュニールは切ない思いを抱えていた。
(だから今日はソラの魔法の言葉、聞きたいです)
だから、ささいなウソをついた。
「……あ、髪のリボンが解けかかっていますよ」
「えっ? リボン、ですか?」
空が髪につけている紅光のアウローラにその手を伸ばしかけたところで、ジュニールにやんわりと制止される。
「俺が結び直しますから」
「それでは、お願いします」
ジュニールは自然に隣に座り、リボンを結び直す振りをして、空の無防備な首筋に唇を寄せてかぷりと甘噛みした。
「?!」
この大胆な行為が成立したのは、ハロウィンの仮装効果の後押しが大きい。衣装にかけられた女神ジェンマの加護で、ジュニールは途中で断念せずに勇気を出すことができた。
「ソラ、今日は楽しかったですか?」
ドラキュラの服の効果は、甘噛みをしてパートナーを素直にさせる、というもの。
「……えぇ、ジューンさんと一緒だったから、とても」
空は自分の素直な気持ちをしゃべっていた。
「それと……シャーベットリンゴ飴、楽しみにしていますから」
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 10月12日 |
出発日 | 10月17日 00:00 |
予定納品日 | 10月27日 |
参加者
会議室
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2015/10/16-23:45
お、遅れてすまない……久野原エリカだ。
今回のパートナーはヤスカ先生……
この人とのシナリオは今回が初めてだ。よろしく。
こちらもプラン提出完了している。
洋風のリンゴ飴……楽しみだ。 -
2015/10/16-23:41
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのミュラーさんです。
久野原さんは初めまして。
皆さま、よろしくお願いいたします。
プランは提出できています。
色々な林檎飴があって楽しみです。
皆さん楽しいひと時をすごせますように!
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2015/10/16-23:09
秋野 空です
ご挨拶が今頃になってしまい、大変失礼いたしました
あらためて、よろしくお願いいたします
ひとまず、プランの提出が終わりました
まだ何だかドキドキしています…
みなさん素敵な時間が過ごせますように! -
2015/10/16-21:48
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2015/10/16-21:48
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2015/10/16-21:48
ご挨拶が遅くなりました!
桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
皆様、宜しくお願いいたします♪
リンゴ飴といえば屋台なイメージでしたが…
七色アイシングリンゴ飴!心弾みますっ♪
楽しい一時が過ごせますように! -
2015/10/16-21:46
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2015/10/15-00:20
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2015/10/15-00:20