プロローグ
「砂絵をやってみませんか?」
『あなた』達は、そう声をかけられて振り返った。
ここは、タブロスのショッピングモールにある広場。
本日で最終日らしいが、砂絵のイベントをやっているらしい。
「特に題材はないのです。あなたの大切な方をイメージしていただくことになります。砂は色とりどりありますから、どんな色でもお好きにどうぞ。絵心は必要ありません。砂絵ですから、絵を描くのとは違いますから」
大切……。
『あなた』達は、顔を見合わせる。
恋人かもしれないし友人かもしれない。親子のような間柄かもしれないし、師弟関係にあるかもしれない。
どのような間柄であるかは『あなた』達次第であるが、契約している以上大切なパートナーであることに違いはない。
「あなたの目に、大切な方がどんなイメージで映っているか砂絵で表現してみませんか?」
係員がにこにこと笑う。
今日はこの後、特に予定がある訳ではない。
イベント参加費用も材料費のみだし、その費用も高いものでもない。
たまには、こういうのもいいかもしれない。
『あなた』達は、イベント参加を決めた。
さて、これから砂絵を描く訳だが。
『あなた』は、パートナーの隣で描くだろうか。
それとも見られないよう違う場所で描くだろうか。
完成品は見せ合うだろうか、見せて貰うだけにしてしまうだろうか。それとも、内緒にしておくだろうか。
見せ合う、見せて貰うとしても、『誰』を描いたか告げるかどうか。
全ては、『あなた』達次第である。
解説
●場所
・タブロスにあるショッピングモール、広場内イベントスペース
※午後4時頃となります。休日中であったか任務帰りかは自由に設定いただいて構いませんが、明確な描写は行いません。
●出来ること
・砂絵を描く
色とりどりの砂が用意されているようです。
『大切な人のイメージ』が題材。『大切な人』そのものではありません。
その人の笑顔が向日葵のように感じるなら向日葵でもいいですし、料理上手なら相手の手料理なんかに挑戦してもいいかもしれません。
係員の方が指導してくださいますし、絵心は特に必要ないですが、題材が抽象的だったり、複雑なものだと、表現に苦労するかもしれません。
●消費jr
・イベント参加費用として300jr
砂絵は持ち帰ることが出来ますが、アイテムとしての配布はありません。
●注意・補足事項
・個別描写となりますが、イベント会場で見かけたり、挨拶する程度の絡みは任意で発生します。
・双方パートナー限定となります。負のイメージ以外でしたら、感情の種類は恋愛に限定しません。友愛でも親愛でもOKです。
・公共の場です。振る舞いや絵のモチーフ選び等TPOにご注意ください。
・砂絵を描く~完成が主体となります。イベント終了後についてはメインではない為詳しい描写を行いません。砂絵への専念をお勧めします。
ゲームマスターより
こんにちは、真名木風由です。
今回は砂絵作りの話となります。
大切な人のイメージという題材なので、自分にはこういうイメージだと砂絵で表現してみましょう。
誰をイメージするか、イメージした相手へ抱いているのはどんな種類の感情か、完成したら見せるか……全ては皆様次第。
さて、どんな風にイメージするでしょうか?
それでは、お待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
月野 輝(アルベルト)
アルをイメージした砂絵? 思わず顔をまじまじと見て、思い出すのはからかわれてた日々の事 色々と思い出してたら笑われたわ。なんで!? ■砂絵 別々に作って後で見せ合う事に 手に取ったのは青い砂、白い砂 それは深い海の色 端っこに小さく舟を浮かべるの 白は砂浜、舟はそこに向かってて 最初はアルの心が海みたいに深すぎて全然見えなかった 私はこの小舟みたいに波間を漂ってウロウロするだけで でもだんだん浜に近づいてきて、色々見えるようになったのよね 本当は大きな海に抱かれてたんだって事も最近ちょっと判るようになって 思わず本音で話しちゃって少し恥ずかしい ■アルの砂絵 お月見?この月が私かしら? って、こっち!? ふふ、うん、可愛いわね |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
大切な人のイメージですか …そうですね日記を読む限り、出会った頃のディエゴさんをイメージするなら「冬の海」ですね 色がなくて冷たくて…勿論今は違いますよ 今は「向日葵」です だって背が高いし今年は向日葵に関しての思い出もありますし…あと、花言葉は「私はあなただけを見つめる」なんです。 勿忘草は花も、全体も小さくて他の花に埋もれがちだけど きっとディエゴさんならその中でも探して見つめてくれるって思います。 それにディエゴさん自身も周りの人も気づいてないかもしれませんが、彼は確実に明るくなってきていますよ きりっとした所も好きですけど、向日葵のような明るい笑顔を見せてくれる方が私も安心できます。 |
ひろの(ルシエロ=ザガン)
ルシェの近くでする。 大切……。(浮かばない でもウィンクルムなら、ルシェ、なのかな。 一緒にいたいし。たぶん、大切。 イメージ……? ルシェは、ルシェだけど。 係員の人に線の引き方を教わる。 茶色で、真ん中に大きく細い線で丸い枠。 丸枠の中に橙色で、左に三日月。右側に丸く太陽の輪郭線。 月は黄色、太陽は赤を中に置く。 丸枠の中の背景は左が暗い青。右側が明るい青。 境目はグラデーション。 丸枠の外は白い砂。 ルシェは月みたいにきれいで。 太陽みたいに光ってて、あったかい。 きれいにできるといいな。(慎重に作業 「猫?」 (言外に大切と言われ、羞恥で赤くなり俯く 「……私も。ルシェ、の」(周りに聴こえないよう小声 (遠慮がちに見せる |
エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
心情 大切な人のイメージ。 すなわち、ラダさんの印象を砂絵で表現すれば良いんですね! 行動 照れくさいので、ラダさんから少し離れた場所に座ります。視線は届く距離です。 題材はチョコチップクッキーにしましょう。 茶色の砂ばかりだと、画面が地味になりますよね。賑やかなカラフルさも出したいです。 可能なら係員の人にアドバイスを求める。 完成したら、お互いの砂絵を鑑賞します。 ほう、これは。 闇に浮かぶ白い花が、幽玄で素敵な絵ですね。 私のイメージで描いてくれたんですか? ……うふっ! うふふ! 嬉しさで変な笑い。 私の絵を見たラダさんは微妙な反応ですね。 真剣な顔でお腹を抑えている? もしや……。 小声で耳打ち。 ……お手洗いですか? |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
羽純くんの隣で一緒に 羽純くんがどんな風に作業するのか、見たいし…見られるのは恥ずかしいけど、モデルが近くに居た方が上手に出来る気がするの! 羽純くんのイメージは…やっぱりカクテルかな カクテルグラスに鮮やかなカクテルが入って、バーのカウンターにそっと置かれてる カクテルの色も羽純くんをイメージ 月光と夜空が混じりあうようなグラデーション 三日月をイメージして切ったオレンジを添え 係員の方に配色について相談しつつ、頑張ります 真剣な羽純くんを見て、私も頑張ろうと気合が! 出来上がった絵は見せ合う 羽純くんが作ったカクテルをイメージしたの 猫が…私? 撫でてくれてるのは…羽純くん? 嬉しい…少し自惚れても…いいのかな…? |
●心密かに思う
エリー・アッシェンは、ラダ・ブッチャーとは少し離れた場所に座った。
互いに見える距離ではあるが、これならば互いの作品を作成途中に見ることはないだろう。
会場内でたまたま、任務でも顔を合わせたことがある桜倉 歌菜と月成 羽純へ軽く挨拶をし、砂絵の題材を考えてみる。
(大切な人のイメージがお題でしたね……)
エリーにとっては、ラダのイメージとなる。
ラダと言えば、チョコチップクッキーだけど、それだけでは画面が地味だし、何だろうこの絵と思われてしまうかもしれない。
「あの……」
エリーがラダに聞こえないよう注意しながら、図案はチョコチップクッキーにしたいが、賑やかさも出すにはどうすればいいか尋ねてみた。
「お皿の周辺を賑やかにしてみてはどうでしょう?」
「なるほど。空いたスペースを上手く利用してみましょうか」
うんうん頷き、エリーは作業に取り掛かった。
さて、ラダの方は、何を描くべきか迷っていた。
(そういえば、ボク……これまでの人生で大切な人、なんていないじゃん)
特別不幸も特別幸福も今まであった訳ではなく、トラウマになるような心の傷もない。
が、大切な人と呼べる存在がいたかというとそうではなく、そう思うと、平坦で味気ない人生を送っているかもしれない。
大切な人自体は、自分が生身の女性に夢を見ているのが原因かも、と思わなくはないけど。
現状、1番親しい人はエリーだが、ウィンクルムとしてのもの、魅力的な異性という目線ではない。エリーの想いには気づいているが───
(……気づいては、いるんだけどねぇ)
ラダは心の中で溜息を零し、砂絵に向き合った。
「出来上がりました?」
「エリーも出来た?」
ラダが出来上がった頃には、エリーは既に砂絵を終えていた。
エリーは顔を覗き込ませ、ラダが作った砂絵を見る。
それは、夜に咲く白い花。
月明かりはなく、色々な種類の白い花が夜の中に浮かび上がるようにして存在を示している。
「闇に浮かぶ白い花が、幽玄で素敵な絵ですね」
「エリーってそんな感じだよねぇって思って」
「私のイメージで描いてくれたんですか?」
「ウィンクルムだもの」
嬉しそうなエリーを見ていると、ラダは罪悪感を覚える。
ウィンクルムという間柄であっても、自分がエリーをイメージして砂絵を描いたということが、彼女を喜ばせている。
(便利だけど……)
ラダは心の中で小さく呟く。
便利だからこそ、そこに逃げている部分があるのは否定出来ない。
「エリーは、何を描いたの?」
ラダが尋ねてみると、エリーは自身が作成した砂絵を見せてくれた。
チョコチップクッキーの周囲には、普段愛用している日用品などが賑やかな色合いで置かれてある。
賑やかで楽しい食事が出来そうな印象もある砂絵は、食べ物に関して譲れない性質のラダをイメージしていると説明されずとも分かった。
(これがボクのイメージ?)
エリーの説明を少し遠く聞きながら、ラダは砂絵を見る。
自分がこうだというイメージを持ってくれるのは嬉しい、それを砂絵にしてくれたのも嬉しい。けど、自分の良い所しか見えてないのではとも思うのだ。
現に今、エリーの想いに気づきながらもウィンクルムという関係に逃げ込んで曖昧に引き伸ばしていることに苦味を感じている。
(ボクは卑怯だと自己嫌悪していることに気づいてる?)
胃が痛くなりそうなのに。
「あの、ラダさん……もしや、お手洗い、我慢されてますか?」
エリーが小声で耳打ちしてきた。
気づくと、ラダは自身の腹部を押さえていて、内心を知らないエリーは腹痛と勘違いしたかもしれない。
「ち、違うよぉ!」
ラダは慌てて否定したが、エリーは無理しない方がいいと真面目に言った。
この、友達感覚の緩い空気が好きで、少なくとも恋人のような甘い空気は……。
けれど、良い所しか見えてないのではと複雑になる程度にはラダもエリーに心を許している。
互いの長所も短所も見えた時、何を感じるだろうか。
●言葉にならない想い
エリー、ラダへ挨拶した歌菜と羽純も砂絵を作成することにした。
(別々の場所でと言い出すかと思いきや、一緒に作業するのか……)
予想外にも隣で作成すると言われ、羽純はいつも通りの表情の下で照れている。
その歌菜は羽純が予想した恥ずかしいという気持ち以上に、羽純の作業風景を見たかったし、隣にモデルがいたら上手く作れる気がして、隣を申し出ていたりする。
「頑張って作ろうね、羽純くん!」
「そうだな、折角だからな」
歌菜の意気込みに羽純ははしゃぎ過ぎないよう嗜めつつもそう笑った。
(やっぱり、カクテルかな)
羽純は、バーでカクテルを作っている印象がある。
シェーカーを振る位しか歌菜には分からないが、色々な方法でカクテルは作ることが出来るのだとか。
(でも、きっと羽純くんのカクテルは、綺麗で、それから……その人に合ったものなんだろうな)
同じカクテルでも呑む人に合わせて調整する心配りをしていそう。
羽純の、『細かくはない』拘り、歌菜は好きだ。
(カクテルグラスに鮮やかなカクテルが入って、バーのカウンターにそっと置く感じかな)
そのカクテルの色も月光と夜空をイメージしたようなものがいい。
空に三日月があって、その三日月がカクテルの中に降り注いでいるような。
(見立てはオレンジかな)
係員の人に筆談で尋ね、歌菜は作業を進めていく。
(歌菜はあっという間に相談開始したな)
羽純は横目で見ながら、歌菜のイメージについて考えていた。
歌菜のイメージは、一言で語ることが出来ない。難しい。
ある時は桜の花のようで、けれど、自分を王子様という様は輝いた瞳の年相応の猪突猛進少女。
けれど、パシオン・シーで眺めた夕陽のようにひとつとして同じ色はなく、涙は青い光で花を開かせる。
(あの演出が示した通りだ)
浴衣ドレスから一転して、サマードレスへ変じたような鮮やかな変身のような。
だから、本当に難しい。
と、羽純の視界に見知った姿が横切った。
ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロで、2人も羽純に気づき、軽く手を上げた。
それに返した羽純は、2人の後ろにあるベンチで飼い主の膝の上でのんびりしている猫が目に入る。
(決まった)
こうして欲しいと望む姿をそこに見た羽純は、そこからは迷いなく砂絵を作成していく。
「真剣な羽純くんを見てたら、私もますます頑張ろうって気合入ったよ!」
先に出来上がった歌菜は、彼女も気づいたらしいハロルドとディエゴに手を振って挨拶したりしていたが、羽純が出来上がると、自身の力作を見せた。
「羽純くんが作ったカクテルをイメージしたの!」
「2層……フロートの技法だな」
「フロート? クリームソーダみたいな?」
「いや、違う」
羽純が歌菜へ混ざらないように注いで重ねる技法のカクテルもあるのだと話す。
同じ材料でも技法が異なると、違う名称になる、とも。
「羽純くん、流石! 私知らなかった!」
「未成年が知っててどうする」
羽純は歌菜へそう言いながらも、砂絵の色彩が綺麗だと眺めている。
これが自分をイメージしたものなら、歌菜にそう思われていることが照れてしまう。
「俺も歌菜をイメージしてみた」
「えっ!」
羽純がそう言いながら、出来上がった砂絵を見せる。
砂絵には、誰かの膝の上に寝ている猫がいる。
穏やかさと心地良さを感じているようなその猫は、頭を撫でられ、安心しきったように幸せに眠っていた。
(猫が……私?)
首には宝物にしているペンダントウォッチがピンクのリボンと一緒に存在を主張し、彩りにあるのは、花々。
青い薔薇が3本、クチナシ、杜鵑草……?
何故だろう、膝と手しかないのに、この人物は羽純のように思える。
傍らには、あの日の工芸茶に似た工芸茶もある、し……。
(少し自惚れても……いいのかな……?)
歌菜は嬉しさを噛み締めるように心の中で呟いた。
永遠にお前のものというこの幸せを告白する。
言葉にならない想いが交わされる日は、きっとやってくる。
●私は忘れない
(大切な人のイメージ、ですか……)
ハロルドが心の中で呟いた時、月野 輝とアルベルトの姿が目に入った。
隣のディエゴと会釈し、彼らはウィンクルムになる前から知り合っていたことを思い出す。
けれど、自分は───
(日記を読む限り、出会った頃のディエゴさんをイメージするなら『冬の海』ですね)
『ハロルド』の文面を見る限り、そうとしか思えない。
冷たい、無色。そして、無自覚の拒絶。
あれから時は流れているし、日記を記した『ハロルド』へそうではなかったと教えたい位、今、その印象は異なっている。
(『ヒマワリ』ですね)
背が高い太陽の花。
今年はヒマワリの迷路にも行った。
「近くにあった色だった」と……そう言ってくれた。今年の夏の思い出のひとつだろう。
(花言葉は『あなただけを見つめてる』ですしね)
『ハロルド』がディエゴに贈った勿忘草の鉢植えは、来るべき時が来てしまった。
ドライフラワーにしようと申し訳なさそうな彼へ提案して、それから───
(勿忘草は、花も全体も小さい花。他の花に埋もれてしまいがちですけど、ディエゴさんなら、その中でも探して見つめてくれるって思いますから)
お前に貰った奴が1番とあなたは言ったけれど、私にはあなたに貰った奴が1番になる。
(やはり勿忘草だろうか)
ディエゴにとって、勿忘草は思い出深い花だ。
贈られた鉢植えの花はその役目を終えてドライフラワーになっているが、あの鉢植えの勿忘草の色や形は今でも鮮やかに思い描ける。
(お前は、どんな思いであの花を俺に贈ったのだろうな)
ディエゴは、あの時の『ハロルド』に問いを投げてみる。
気持ちに気づかず、無意識に彼女を傷つけただろう。
言動や行動……具体的にどれとは言えないが、言えない程無意識に。
(この砂絵に託すことが出来ればいい)
言葉や行動で示すことが出来れば簡単かもしれないが、ディエゴはそうしたことが得手ではない。
故に、ここへ全てを託そう。
「ヒマワリ……?」
ディエゴは、ハロルドが自分のイメージとしてヒマワリを選んだことに驚いた。
「ディエゴさんの、きりっとした所も勿論好きですけど、ヒマワリのような明るい笑顔を見せてくれる方が私もいいなぁと思いまして」
ディエゴ本人も周囲も気づいているかどうか分からないが、ディエゴは確実に明るくなっていると思う。
傷が血を流すことはなくなっても、その傷を負った過去が消える訳ではなく、悪夢を見ることがあるかもしれない。
だからか、そういう笑顔を見ると、安心する。
(また悪夢を見たら、何度でも夢の中にお邪魔して打ち砕いて見せますよ)
それこそ、魔王の城の棺桶で眠っていたあの時のように、往復びんたで。
「あー……」
ディエゴは、ハロルドとは違って上手く言葉に出来る類ではない。
周囲へ視線を巡らせ、それから、片隅へ連れて行く。
「俺からは、これを」
ディエゴの砂絵は、勿忘草だった。
「言っておくが、お前から貰ったものだから、とか、そんな安易な理由で作った訳じゃないぞ」
砂絵をじっと見る彼女へ、ディエゴがそう言う。
作った理由は、別にある。
「『私を忘れないで』とは違う意味の、枯れない勿忘草をお前にやる、という意味だ」
咲いたら教えるから調べるなとあの時言われた、その意味を。
ディエゴの言葉を聞いたハロルドは、ディエゴと砂絵を交互に見つめる。
「さっき言った、安易な理由だけでも十分嬉しかったですけど……」
贈った花をそこまで想ってくれたと分かるから、それだけでも十分嬉しい。
けれど、ハロルドはその言葉とともにディエゴへ抱きついた。
「ディエゴさん、大好き!」
嬉しそうな彼女の笑み。
周囲、見てる!
ディエゴは慌てたが、それを言える程無粋ではない。
恥ずかしいが、けれど、大事に、ハロルドの勢いを受け止めるディエゴだった。
俺は積極的なお前に気圧されることが多いが……『次』に出会っても、心以外も全部やる。
『真実の愛』の意味に違わぬ心のままに。
●月を見上げ、光受け止める海
(さて、輝は……)
アルベルトは片隅でハロルドに抱きつかれるディエゴを見、後日の楽しみ(?)を見出した後、自分は輝をどのように描こうと考えた。
そうして視線を移せば、輝がこちらを見ている。
表情がくるくると変わっていく様を見るだけで、何を頭に描いているか想像可能だ。
(何を考えてるのか分かり易いな、相変わらず)
輝の百面相の理由は、分かっている。
だって、自分のことだし。
(笑われたわ……何で!?)
その輝は、アルベルトがこちらを見て笑った意味が分からない。
別々の場所で作ろうと離れたし、独り言も言ってない。
だから、何を考えていたか、なんて分からない筈なのに。
(だって、アルをイメージした砂絵にするのだもの)
思わずその顔を見て、何を描くか考えていたが、思い出すのはからかわれてた日々のこと。
色々思い出すことも多くて、あれもこれもそうだったと考えていただけ。
知らない、筈なのに。
※ただし、アルベルトは分かり易いと思っておりお見通しなのだが、輝は気づいていない。
(アルをイメージするなら……)
輝は色々思い出し、そして、辿り着いたひとつのイメージの為、砂絵を作成し始める。
青い砂、白い砂……思い描くイメージは、そこにある。
(作り始めたか)
アルベルトは、自身も作成しようと砂に目を移す。
隣で作っても問題なかったが、輝はそそくさと離れていった。
それもまた彼女らしいので、否定するというより、口に笑みを刻んだアルベルトである。
(私は、決まっているが)
何にしようか、と悩む必要はなかった。
自分における輝とは、これしかなかったから。
輝の砂絵が出来上がる頃、アルベルトは既に砂絵を終えていた。
配慮してくれたのだろう、覗き込むようなこともなく、ひろのとルシエロ=ザガンと軽い雑談をしており、輝の出来上がりに気づくと、彼らに別れを告げ、こちらへやってくる。
「アルは何を描いたの?」
「私の砂絵は、これだな」
アルベルトが輝に見せた砂絵は、兎のシルエットが浮かんだ、大きな満月が印象的だ。
ススキと三角に盛った月見団子も描かれており、月を愛でる人の目線で描かれたものだろう。
「お月見? この月が私かしら?」
「輝の存在は、いつでも月の光のようだからな」
問いを投げかけると、アルベルトはそう笑った。
眩しく照らす太陽ではなく、優しく闇の中に入り込む月光。
夜の安らぎを否定しない優しい輝きの中で微笑む小動物……まさに、輝だ。
「って、こっち!?」
輝は満月ではなく、満月に浮かぶ兎のシルエットがイメージかと聞き返す。
「兎は可愛いと思わないか?」
「うん、可愛いわね」
アルベルトが笑ってそう言うので、輝も笑って返す。
嬉しいイメージ……アルベルトの砂絵は、彼の言葉と共に心を優しくしてくれる。
「輝は、私をどうイメージしてくれた?」
アルベルトが差し出す手へ輝が出来上がった砂絵を乗せる。
恥らう様子に瞳を細めつつ、砂絵を眺めれば───
「海?」
アルベルトが意外そうな声を上げる。
深い色合いをした青は、海のようだ。
白い砂浜があり、海の上に浮かぶ小舟はそこへ向かっているかのように見える。
「最初、アルの心が海みたいに深過ぎて、全然見えなかったから」
輝はそう語りながら、アルベルトが見つめる自身の砂絵を見る。
「この小舟みたいに波間を漂ってウロウロするだけだったけど……でも、浜に近づくにつれて、色々見えるようになったかなって思うの」
翻弄されるだけだったのに、今は、本当は大きな海に抱かれていたのだという事実がちょっと判るようになってきた。
そう話す輝は、やはり月だとアルベルトは思う。
「海と言われたのは初めてだな」
自身はそこまで大きくはない。
輝専用のプライベートビーチであれば、それで十分なのだ。
「まだ小舟は浜まで時間掛かりそう」
「月明かりがあれば見失わないだろう?」
輝へアルベルトが笑う。
海が月を見上げるのは、海面で受け止める月光を愛してるから。
●口にされた言葉
(大切……)
ひろのは、思い浮かばないと心の中で呟く。
会場内で見かけた、エリーとラダのような感じ、とは違うと思う。
歌菜と羽純、ハロルドとディエゴ、輝とアルベルト達のような間柄かというと、それも違う。個性の差と言われるとそれまでだけど、ルシエロとの間柄はよくわからない。
(ウィンクルムなら、ルシェ、なのかな。一緒にいたいし。たぶん、大切)
が、ルシェはルシェ、そのままにしか見えないので、イメージと言われてもという所がある。
「連想してはどうですか?」
係員が、声をかけてきた。
ぱっと思いついた人柄などから、別の何かを思い描けば、砂絵の題材になるのでは。
そう言われたひろのは思い描くことから始める。
(ヒロノは……黒の子猫だな)
ひろのが思い描いている隣で、ルシエロは既に作成作業に入っている。
臆病で、警戒心が強い子猫。
野良猫というより、借りてきた猫という表現が的確な。
たまに遠慮がちに寄ってくるのも、借りてきた猫を思わせる。
(愛らしく、愛おしい。オレの神人)
ルシエロはひろのとは違う係員へ細かい所は尋ね、丁寧さを心がけて砂を置いていく。
「色合いのバランスがいいですね」
「デザイン方面に心得がある。砂絵は初めてだが」
最後まで気を抜かず砂絵を作り上げる頃、ひろのも慎重な動作で砂絵を作っている。
やがて、ひろのもルシエロに遅れる形で砂絵を作成し終えた。
「オレの砂絵はこれだ」
ひろのが見た砂絵は、 薄黄のクッションに沈んで、丸くなって眠そうにしている黒の子猫の姿。
少し開いている目の色は金色だ。
「……猫?」
ひろのは不思議そうに呟く。
すると。
「オレにはオマエがこう見える」
ひろのは、改めて砂絵を見た。
クッションの淡い色も目の色も……トランス時のオーラの色を連想させるもの。
彼はこうした冗談は言わない。なら。
「……」
ひろのは言外に大切とルシエロから言われ、羞恥で赤くなった顔を俯かせる。
でも、とひろのはあの時の言葉を蘇らせた。
『オレの神人がヒロノで良かった』
契約を肯定してくれた言葉。
素直に嬉しいと思った言葉。
だから───
「どうした、ヒロノ」
ひろのが俯かせていた顔を上げ、ちらと見上げてくるから、ルシエロは何か言いたいことがあるのではと尋ねた。
けれど、どうにも言い難そうで、ルシエロは身を屈め、自分にだけ言えと行動で示す。
「……私も。ルシェ、の」
ルシエロの耳にしか聞こえなかったその声は、恥じらいに満ちていた。
遠慮がちに差し出した砂絵を、ルシエロが覗き込む。
「太陽と月、か?」
ルシエロが見たひろのの砂絵は、慎重に作業しただけあり丁寧なものだった。
係員に線の引き方を教わったそうだが、真ん中には大きく細い茶色の線で円が描かれている。
その内には、左に三日月、右に丸い太陽が存在している。
橙色で輪郭を描かれたそれは、月は黄、太陽は赤の砂で彩られてあった。
三日月と太陽を彩るかのように、枠内は左側が暗い青、右側が明るい青になるようグラデーションとなっており、時の移り変わりを連想させる。
枠の外側は、穢れない白だ。
「綺麗に出来てるな」
ルシエロの呟きに、ひろのが微かに顔を綻ばせる。
そのささやかな変化を見、やはりイメージに相違ないと思う。
「ルシェは月みたいにきれいで。太陽みたいに光ってて、あったかい。って、思って」
だから、このイメージだとひろのはぽそぽそ言う。
けど、ルシエロの反応はどうなのだろうとひろのは少し心配で、砂絵をじっと見るルシエロをちらちら見た。
「オマエの大切には入っているのか」
ルシエロはとても嬉しそうな顔で砂絵を見ていて、ひろのはその横顔を見て、恥ずかしいけど、見せて良かった、言って良かったと思う。
恋愛かどうか、よく分からない。
それを理解するには、ひろのは今まで周囲に対して興味がなさ過ぎた。
けれど、ルシエロがそう見えたこと、それを伝えて知って貰ったことは大きなこと。
これから少しずつ、知っていけばいい。
あなたには、『私』はどう見える?
依頼結果:成功
MVP:
名前:ひろの 呼び名:ヒロノ |
名前:ルシエロ=ザガン 呼び名:ルシェ |
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 真名木風由 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 10月09日 |
出発日 | 10月15日 00:00 |
予定納品日 | 10月25日 |
参加者
会議室
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2015/10/14-22:34
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2015/10/14-22:34
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2015/10/14-22:12
スタンプを眺めるの、私も凄く好きですっ。
わ!輝さんのデコレーションアイコン、華やかでとっても!素敵ですねっ♪
大きなアイコン、私も頼みたくなっちゃいます…!
砂絵、上手に出来るといいですねっ!
皆様がどんな砂絵を描くのか、楽しみなのです♪ -
2015/10/12-18:06
エリーさん、スタンプ褒めてくれてありがとう♪
皆さんの個性出てて、スタンプ見るのも楽しいわよね。
で、ちょっと新しいアイコンができてきたので、試させてね。 -
2015/10/12-00:21
うふふ……。エリー・アッシェンと精霊のラダさんです。
どうぞよろしくお願いします。
皆さんスタンプ可愛いですね! -
2015/10/12-00:18
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2015/10/12-00:16
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2015/10/12-00:16
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2015/10/12-00:15