●永遠の愛を誓う

　旧タブロス市街にある『ウェディングハルモニア』。
　その地下に秘匿に見付かった鍾乳洞の遺跡ではかつてウィンクルムが『結婚の儀』を行なっていたことが判明した。
　『結婚の儀』とは、その遺跡内でしか咲いていない『夢想花』からブーケを作成しパートナーへと渡す。
　そしてパートナーへ心からの想いや愛を告げることにより、より一層愛を深められる、とのことだった。
　説明を聞いた吉坂心優音とその精霊のディアボロ五十嵐晃太はその遺跡へと足を延ばしていた。
　聞き終わった後、その昔に行なわれた『結婚の儀』についての案内を見る。
　いろいろな説明が書かれている中で、2人は一つのスポットに目が留まる。
　青一面に彩られた景色と書かれた文面に心優音は想像するが、その見たことのない光景にはっきりとした情景は浮ばない。
　晃太はその心優音の目線がどこにあるのかすぐに分かっていた。
「みゆ、ここにせーへんか？」
「晃ちゃん、いいの？」
　もちろん、と晃太は口角を上げて満面の笑みで答える。
　遺跡の中の一つ『時雨の愛唄』へと行くことを決めた2人は、少しの胸のときめきを感じながら歩を進めている。
「ふふっ『結婚の儀』だなんて、素敵だねぇ」
「『結婚の儀』、なぁ……」
　2人は手を繋ぎながら笑顔を浮かべている。
　しかし2人の面持ちは少々違う。
（晃ちゃんと出来たら良いなぁ……）
　心優音はそう心に幸せな時を思い浮べ微笑み、
（ほな、今回に乗じてやるとするか！）
　と晃太は自分の想いを彼女に伝える決意した真剣な眼差しをしている。
　そんな2人の足取りはとても幸せに満ちているかのように軽い。

　『時雨の愛唄』に着いた2人はその瞳に映る光景に見惚れる。
「わぁ……！すっごく幻想的だねぇ……！」
「おー……！こりゃ凄い……！」
　仲睦まじい2人の感想はシンクロする。
　その光景は空間全てが青く輝き、鍾乳石、そこから滴る雫、更にこの地でしか咲くことのない『夢想花』さえも青みを帯びて咲き誇っていた。
「あたし、生まれて初めてこんなに綺麗で幻想的なの見たよ！」
「俺もこないな幻想的で神秘的なん見た事ないわ……！」
　青以外ない景色に2人は目を離すことができない。
　そこから2人は静かにその青く輝く空間を歩む。
　まばらに他のウィンクルムがいるが、そこにいる者全てが静かに青の光景に目を奪われながらデートを楽しんでいる。
　心優音はそっと鍾乳石に触れ、その冷たい感触と共に微かに青みを帯びているそれを見つめる。
　晃太も同じく触れると心優音の瞳を覗く。
「ねぇ晃ちゃん、連れてきてくれて有難うね」
　心優音の名前の通り、優しい声音と微笑みが晃太に向けられる。
「なぁに言うとるん、恋人ならデートに誘うんが当たり前やん」
　その言葉に彼らしく満面の笑みで答えた。
　更にその青い空間を楽しもうと2人は奥へと進む。
　最奥かと思われる空間には無数の青に彩られた『夢想花』が多く咲き、遺跡内にのみ存在し愛を受けることで発光する特殊な鍾乳石『恋慕石柱』もそこに鎮座している。
　『恋慕石柱』もこの空間では薄っすらと青く輝いている。
　他のウィンクルムの姿はなく、そこには2人だけの空間ができる。
　晃太は繋いでいた手を少し強く握ると心優音に向かう。
「……みゆ、少し話があるんやけど……」
　その少し真剣な晃太の声に心優音は笑顔と少しの驚きを見せながら顔を向ける。
「……？ なぁに、晃ちゃん……？」
　晃太の顔はいつもより真剣で、心優音の瞳に優しい眼差しを向ける。
「俺らが知りおうて今年で19年……」
「うん、そうだね……」
　2人はこの地に生まれた時よりずっと共にいた。
「今迄色々あったなぁ……」
　そっと瞳を閉じて晃太は今までの心優音との日々を思い起こす。
「こうして思い出すと、ホント色んな事あったなぁ……」
　同時に心優音も瞳を閉じると晃太との日々が思い出される。
　楽しい時、嬉しい時、悲しい時、辛い時、そして信じられる者同士がウィンクルムとして、恋人として今も共にここに居る。
　その19年は長いようで短く、短いようで長い。
　心優音は生まれた時から顕現しており、マントゥール教団に彼女が誘拐されたことが切欠で晃太と契約を交わす。
　彼が適応した精霊でよかったと心優音は当時も今もそう思う。
　学校に行き、共に楽しい日々を過ごし、そしてお互いの想いが重なり恋人という関係を築きあげてきた。
「晃ちゃんって大体事件に首突っ込んだり、遭遇しては解決したり……」
　事件が起きては首を突っ込む、それを解決していく晃太の様は心優音にとって日常の一幕。
　その姿を頼もしいと感じることもある。
「そうそう、あったなぁそんなん」
　晃太は苦笑いを浮かべながら頬を掻く。
「一緒にいて飽きないよ♪」
　そんな晃太の横に一緒に並ぶ心優音はいつも笑顔を浮かべている。
「ほんまよぉ飽きずに傍に居てくれるわ」
　再び苦笑いを浮かべる晃太の様子に無邪気な笑顔を向ける。
「ふふっ、当たり前！」
　それは心優音にとってごく普通の日常の風景。
　隣に晃太がいること、そして横に並び共に歩んでいく道。
「あたしは晃ちゃんの相棒だもん！」
　握られていた手にそっと力を込めて晃太に微笑む心優音。
「感謝してるで」
　晃太は言うと、瞳を開けそっと『夢想花』で作ったブーケを心優音に差し出す。
　そのブーケは心優音と少し離れていた時に少しずつ集めていた、心からの花束。
　心優音もそっと瞳を開けると、目の前に『夢想花』のブーケがあった。
　今までの晃太の笑顔とは違う優しく、そして真剣な眼差しで。
「これ……」
　その真剣な眼差しの晃太とブーケを交互に見つつ、心優音の顔はフワッとほころんだ。
　差し出されたそのブーケを受け取ると晃太を見つめる。
「みゆ、今日は改めてクリスマスの時の約束を言わせて貰う」
　去年のクリスマス、晃太はお揃いのリングを心優音にプレゼントしている。
　そのリングが『“これ”は、いつかの為の予約』だとお互いの左手の薬指に嵌められた大事な約束の印。
「吉坂心優音さん」
　その声はいつもの晃太の声よりは少し上ずっていて、緊張しているのが窺える。
「うん」
　心優音の瞳からは数滴の雫が零れ落ちる。
　これから告げられる言葉がなんなのか、そして彼の心を受け止めるために流す雫。
「俺と」
「うんっ」
　心優音はその言葉の続きを待つように頷く。
「ジジババになっても、手ぇ繋いで死ぬ迄俺の傍にいて欲しい」
　晃太は愛しい心優音の瞳から零れる雫をそっと拭う。
「あたしも、晃ちゃんと死ぬ迄ずーっと一緒にいたいっ」
　晃太の言葉に心優音は口元を手で覆い、嬉しさから更に涙を零す。
「俺と、結婚して下さい」
　そう言って晃太は少しの照れを隠しながら、心優音のブーケを持つ手をそっと包む。
　いつかこの日が来るのだと、この日を待っていた心優音にとってこの瞬間は一生忘れられないもの。
　彼女の答えは決まっている。
　晃太以外の相手など考えたこともない彼女にとって、その返答に迷いは一切ないのだ。
　晃太の顔をその優しい微笑を浮かべて見つめると、
「はい！」
　と答える。
　約束を交わし、本物になるのだという嬉しさから心優音の顔は嬉しさと幸せに溢れた笑顔となる。
「みゆ、愛しとるで……」
　晃太はそっと心優音の唇へと自分の唇を重ねる。
　いつもより長い口付け。
　2人の愛がこの先永遠に続くという証のように。
「晃ちゃん愛してるよ」
　唇が離れると心優音は少し赤くなった頬を隠すようにそう告げる。
　その愛を受け取ったというように、『恋慕石柱』が眩い光を発光する。
　その光の色は2人の色の橙色。
　青に混ざることがないほどの強い橙の色は2人を照らす。
「綺麗……」
　その光景を見ながら心優音は晃太の肩へと頭を乗せる。
「綺麗やな……」
　その心優音の肩をそっと引き寄せると愛おしさが増してくる晃太。
「ずっと一緒やで……みゆ」
「うん」
　2人が永遠の愛を誓う『結婚の儀』は終わり、これからも2人一緒に幼馴染、恋人、相棒、助手、そして近い未来にもう一つの形が出来ることだろう。

依頼結果：大成功

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