プロローグ
旧タブロス市街にある、『ウェディングハルモニア』には、地下へと繋がる道が秘匿されていた。演習の折、偶然に見付けられたものではあったが、その先には神秘的な鍾乳洞の遺跡が、静かに、穏やかに、何かを待ち詫びていた。
*
A.R.O.A.が頻発する苛烈な戦いの中で、僅かでも休養をと考え、新たに今回発見された鍾乳洞の遺跡で休息を提案した。
「我々の調べた限りですと、この遺跡はかつて、ウィンクルムたちが結婚の儀を執り行っていた場所であることが分かっています」
そういった神聖な場所だからこそ、愛を深め、休息になるのでは、と職員は続ける。
「多くを確認はしていませんが、非常に美しく、神秘的な遺跡です。
また、中央付近に存在している石碑によりますと、この遺跡で愛を伝えると、より深い愛情に包まれるそうです」
「結婚の儀?」
ウィンクルムが問う。
「はい。遺跡内には『夢想花』と呼ばれる花が咲いており、その花で作られたブーケをパートナーへと手渡し、
想いのこもった言葉、愛の言葉を伝え、身体のどこかに口付けをする――と言ったものです。
現代の結婚式などとはだいぶ違っていますが、あくまでも愛を深めるための儀式だと思ってください」
「とは言っても、遺跡で唐突にそんなこと、さすがにできないだろ」
意を決して、それだけを行いにいくと言うのはなかなかに勇気がいる。
しかし、職員はここぞとばかりに、この上ない良い笑顔を作った。
「ご心配には及びません。デートスポットは充実しています……!」
熱がこもり始めたのは、気のせいだろうか。
ウィンクルムの懸念をよそに、職員は話を続ける。
「まずは『せせらぎの洞窟湖』です。
透明度の高い水が一番の見どころです。高い水温のおかげで水遊びもできますし、水辺で寛げる椅子も、大自然の粋な計らいで完備されています。
次に、『夢想花の園』です。
先ほども申し上げた通り、ブーケとしても使われる夢想花が生い茂っています。ぽかぽかと春の日差しのような花園でピクニックなど如何でしょう。
次に、『エンゲージ・ボタルの洞窟』です。長いので蛍洞窟としましょう。
せせらぎの洞窟湖から流れる川を小型船で移動しながら、星空の如きエンゲージ・ボタルと、『恋慕石柱』が連なる洞窟を見渡せます。
どんどん行きましょう。
次は『やすらぎの水中洞窟』です。 せせらぎの洞窟湖の水底に開いた洞窟で、ウィンクルムが潜る場合は道具不要、水濡れなく安心して潜ることができます。
呼吸の心配も不要です。100ヤード先が見渡せる水中を探索なんて、素敵だと思います。
続いて、『恋知り鳥の大穴』です。
全長500m、幅30mほどもある大穴です。壁から生えた、色とりどりのクリスタルが見どころです。
かなり高い場所から飛んでいただきますが、ウィンクルムがジャンプする場合、途中で一気に減速して着地に不安はありません。飛ぶ勇気だけです。
まだまだありますよ。
『恋慕石柱のプラネタリウム』です。恋慕石柱としましょう。長いものは略していくスタイルです。
夢想花で自然形成された椅子から、恋慕石柱とエンゲージボタルの織り成す幻想的な景色を眺めることができます。
ほかの場所よりも比較的暗くなっていますので、夜空を眺める気分が楽しめそうです。
最後に、『時雨の愛唄』です。
青い夢想花が咲き誇り、青の空間が広がる神秘的な空間です。
恋慕石柱も青っぽく、鍾乳洞特有の、滴る水滴までもが青く輝く空間となっています。
以上の、多彩なデートスポットをご用意しておりますから、唐突に、前触れもなく愛を叫び出すことはまずないと思ってください。
そうなった場合は、どうぞ自己責任で……」
語尾を濁した職員だったが、今回のデートスポットには相当の自信を持っているようだ。
「古のウィンクルムが執り行った婚礼の儀になぞらえながらの神秘的な遺跡を探索デート、なんていうのも乙だと思います」
普段とは違った景色を眺めてのデート。
二人の距離が近づきそうな、そんな予感がする。
プラン
アクションプラン
アキ・セイジ (ヴェルトール・ランス) |
|
◆概要 ①のデートの筈が⇒②の儀式になる結末 ◆詳細 好きってのは我ながら遅まきながら自覚してはいるんだが、 結婚となるとハードルが高い 例え儀式であってもだ 迷いと申し訳無さが合わさる まだ…もう少し、時間をくれないか… 気を取り直して「蛍洞窟」 神秘的な光景に心から感動 2人で漕げる船なら並んで漕ごうか 半分流されるほどのゆっくりした速さで 柱が愛を受けて色を変えると言うので途中で岸によって石柱に触れてみる 2人で手を重ねたら、何か変化が有るかな 神秘的で純粋な白い光とかだろうか 照らされるうちに俺のシコリも取れていく気がする うん。ゆっくりでいいから進んでいきたい… 渡される花束を自分でも驚く位自然に受け取る 有難う(にこ |
リザルトノベル
「結婚の儀、か……」
鍾乳洞の遺跡を前に、ヴェルトール・ランスは頬を緩めた。
(ホンチャンの結婚式も良いけど……やってみてぇな)
ちらりと傍らのパートナーを見遣る。
そして、気付いた。
アキ・セイジの表情が、戸惑うような困惑の色に染まっている事に。
(結婚の儀……)
セイジは、A.R.O.A.職員の説明を思い出していた。
──現代の結婚式とは異なるが、愛を深めるための儀式と、彼らは説明した。
セイジは小さく息を吐き出す。
結婚とか、愛とか──言葉にしてしまう事で、どうしてこんなに戸惑いを覚えるのだろうか。
理由は明白だ。
ランスも、セイジも男性……『同性』だから、だ。
胸の奥にじわじわと広がる感情に、セイジは目を閉じる。
ランスの事を好きだという事は、我ながら遅まきとは思うが……自覚しては、いる。
その感情に嘘偽りはない。ランスは得難いたった一人の大切な人だ。
(けれど、結婚となるとハードルが高い。例え儀式であっても、だ……)
胸に渦巻くのは、迷いと、ランスへの申し訳なさ。
セイジの中でかき混ぜられて、セイジ自身も上手く感情がコントロール出来ない。
「わりぃ……」
隣から聞こえて来たランスの声に、セイジははっとして瞳を上げた。
視界に映るのは、眉を下げて微笑むランスの姿。
「つい忘れがちだけど、セクシュアリティの壁はなかなかに手強いな」
明るく言って、ランスはセイジの手を取った。
「今日はさ、折角だし遺跡の中を楽しもうぜ!」
「……ランス」
繋がれた手から伝わるのは、ランスの優しい感情だ。
本当にセイジを大事に想ってくれているからこそ、セイジを理解しているからこそ、彼は決して無理強いはしない。
セイジはぎゅっとその手を握り返した。
(有難う……)
「セイジ。俺、洞窟で船遊びしたい。『エンゲージ・ボタルの洞窟』ってとこに行こうぜ!」
「船遊びか、いいな」
「よっしゃ! 早速しゅっぱーつ!」
セイジの手を取り歩き出すランスの背中に、セイジはそっと心で呟いた。
(まだ……もう少し、もう少しだけ、時間をくれないか……)
せせらぎの洞窟湖から流れる川に、ランスとセイジは二人乗りの小型船に乗って浮かんだ。
二人並んでオールを手に、ゆっくりと漕ぎ出す。
水底まで見える透明度の高い水に、恋慕石柱とエンゲージ・ボタルの光が星空のように広がっていた。
星空の海に漕ぎ出したような、そんな幻想的な光景に、二人は息を飲む。
「すげ!すげーな!見ろよセイジ、すげー!」
ランスが瞳を輝かせ、周囲を彩るドリップストーン達を指差した。
したたり落ちる水滴によって形成された鍾乳石は、どれも宝石のような美しさで、白い輝きを放っている。
そして、その周囲を、鮮やかなグリーンとピンクに光るホタルが舞っていた。
そんな恋慕石柱とホタルの光に照らされて、沢山咲いた夢想花の花びらがゆらゆら揺れる。
神秘的という言葉が似合う光景に、セイジは唯々溜息を零した。
半分流される程のゆっくりした速さで、二人は船を進める。
ふと周囲の光景に感嘆の声を上げていたランスが急にハッとした顔になって、セイジは首を傾ける。
「すげえしか言ってなくね、俺?」
真面目な顔でそう言う彼に、セイジは思わず笑みを零した。
「確かに」
「でも、すげえとしか言えねぇ!」
「それには同意だ」
ふっと笑って水面に視線を落とすセイジの横顔を、ランスはじっと見つめる。
セイジの表情からは、遺跡に足を踏み入れる直前のぎこちなさは消えていた。その事がとても嬉しい。
(それに……セイジはやっぱり、凄く綺麗だ)
鍾乳石の輝きと、ホタルの光に囲まれたセイジは、何処か神聖で得難い存在に見えた。
「あ、ホタル……」
そんなセイジの眼前に、グリーンとピンクのホタル達がゆっくりと近寄って来る。
グリーンとピンクが帯のようにくるくるとセイジの周囲を飛んで、そしてランスの肩先にぴたっと止まった。
「……」
ランスはじっと動かずに、肩先に落ち着いたホタルを見下ろす。
ホタルの発する光に瞳を細め、セイジが持参したデジタルカメラを取り出した。
ランスの肩先にレンズを向けて、慎重にシャッターを切る。
その間も、ランスはホタルが逃げないように、身動ぎ一つせずにセイジの様子を見守った。
何度かシャッター音がした後、セイジがカメラを確認する。
同時に、ホタル達はランスの肩を離れて行った。
「セイジ、撮れた?」
ランスの問い掛けに、セイジはデジカメに映った画像をランスに見せる。
画像の中では、眩いばかりにホタルが光り輝いていた。
「綺麗だな」
「ああ、本当に……」
笑みを湛えるセイジに頬を緩め、ランスは顔を上げる。何時の間にか、船は岸辺に寄っていた。
眼前に巨大な恋慕石柱がそびえ立つ。
「不思議な色だな」
ランスの声に視線を前に戻したセイジは、デジカメを仕舞ってその鍾乳石を見上げた。
眩い白。
触れたら、どんな感触なのだろう?と思う。
「セイジ、一旦上がろうぜ」
ランスが岸辺に船を止め、立ち上がった。極々自然に差し出される手を取って、セイジは彼と共に船を落りる。
更に近くなった恋慕石柱は、二人の存在に輝きを増したような気がした。
セイジは引き寄せられるように、大きな鍾乳石に歩み寄る。
掌でひたっと冷たい石に触れた。
(この白い光は愛を受けて色を変える……そんな事を言っていたな)
ひやりと氷を思わせる冷たさ。
水晶のように滑らかな表面を撫でると、白い輝きが少し色を変えたような気がした。
「なんか、宝石っぽい?」
セイジの隣に並んだランスが、セイジの手の横に手を付いた。長い指が石を確かめるように撫でて、セイジの指先に触れる。
その瞬間だった。
石は劇的に色を変えた。
(……黄金色……?)
セイジは紅の瞳を見開く。
純白は眩い黄金に──まるで、ランスの瞳や髪のような。
隣でランスが息を飲むのが分かった。
「……綺麗だ」
セイジの唇から自然と、その感想は出た。
とても美しい黄金色。ランス自身の魂のような色だと、セイジは思う。
二人で触れた事で、現れたこの輝きを……とても愛おしいと感じた。
真っ直ぐに降り注ぐ光は、ランスの愛情に似ている。
強く、温かく、優しく、セイジを導き、照らしてくれる光。
そうだ。そんな彼だからこそ、俺は魅かれて──。
瞳を閉じても、この輝きを感じる事が出来る。
──それは、なんて幸せな事だろうかと。
瞳を開けると、セイジの前に花束が差し出されていた。
「……ランス?」
瞬きして視線を上げれば、ランスの黄金色の瞳がセイジを見ている。
「儀式ってんじゃなく、普通にこれ……」
差し出されたのは、夢想花のブーケだ。
セイジは、色鮮やかな不思議な花を見つめる。
夢を想う花──まるで夢の世界にしか存在しないような、鮮やかで色彩豊かな美しい花。ここにしか咲かない花。
「俺達のペースで、ゆっくり進んでいこうぜ」
やわらかな声音に、セイジは視線を上げた。
ランスが、微笑んでいる。
恋慕石柱の放つ黄金の光に染まったランスは、とても優しい笑みでセイジを見つめていた。
「俺は、セイジに関してだけは……気が長い自信があるんだ」
悪戯っぽく微笑む彼に、セイジは大きく瞬きした。
──胸が、熱い。
切ない程に痛くて、でも幸せで。
胸につかえていた重いしこりが、溶けていく感覚。
迷う事なんて、もう出来ない。
「……うん」
頷いて、微笑む。
ランスがくれたような、そんな笑みになっていれば良いと願いながら。
「ゆっくりでいいから進んでいきたい……」
ゆっくりとセイジの手が、ランスの差し出すブーケに触れる。
そして、しっかりと受け取った。
「有難う」
ランスは、黄金色の中、微笑むセイジをそのまま抱き寄せた。
「……俺の方こそ、有難う、セイジ」
耳元に囁く。
今、どんなに己が嬉しいと思っているか、セイジは分かっているだろうか?
今、どんなに己がセイジを愛おしいと感じているか、彼は知っているのだろうか?
言葉では伝えきれない想いを込めて、ランスはセイジの肩口に顔を埋めた。
「セイジだけだ。俺を、こんなにも幸せな気持ちにしてくれるのは……」
掠れる声で告げれば、セイジの体温が上がったのが伝わる。
重なる鼓動は、もうどちらのものか分からないくらいに速い。
「前言撤回はナシだからな」
「……分かってる」
小さく小さくセイジがそう答えてくれたから、ランスはふっと笑みを零した。
「セイジ」
身を離し、ブーケを持つセイジの手に己の手を重ねる。
目元を赤くしているセイジの紅の瞳と、目が合った。
セイジの瞳に映るのは、黄金色に包まれたランスの姿。
ランスの瞳に映るのは、黄金色に染まったセイジの姿。
二人の視線が絡んで、それから、吸い寄せられるようにして──唇が重なった。
それは、神聖な誓いを秘めた、熱く静かな口付けだった。
鍾乳洞の遺跡を前に、ヴェルトール・ランスは頬を緩めた。
(ホンチャンの結婚式も良いけど……やってみてぇな)
ちらりと傍らのパートナーを見遣る。
そして、気付いた。
アキ・セイジの表情が、戸惑うような困惑の色に染まっている事に。
(結婚の儀……)
セイジは、A.R.O.A.職員の説明を思い出していた。
──現代の結婚式とは異なるが、愛を深めるための儀式と、彼らは説明した。
セイジは小さく息を吐き出す。
結婚とか、愛とか──言葉にしてしまう事で、どうしてこんなに戸惑いを覚えるのだろうか。
理由は明白だ。
ランスも、セイジも男性……『同性』だから、だ。
胸の奥にじわじわと広がる感情に、セイジは目を閉じる。
ランスの事を好きだという事は、我ながら遅まきとは思うが……自覚しては、いる。
その感情に嘘偽りはない。ランスは得難いたった一人の大切な人だ。
(けれど、結婚となるとハードルが高い。例え儀式であっても、だ……)
胸に渦巻くのは、迷いと、ランスへの申し訳なさ。
セイジの中でかき混ぜられて、セイジ自身も上手く感情がコントロール出来ない。
「わりぃ……」
隣から聞こえて来たランスの声に、セイジははっとして瞳を上げた。
視界に映るのは、眉を下げて微笑むランスの姿。
「つい忘れがちだけど、セクシュアリティの壁はなかなかに手強いな」
明るく言って、ランスはセイジの手を取った。
「今日はさ、折角だし遺跡の中を楽しもうぜ!」
「……ランス」
繋がれた手から伝わるのは、ランスの優しい感情だ。
本当にセイジを大事に想ってくれているからこそ、セイジを理解しているからこそ、彼は決して無理強いはしない。
セイジはぎゅっとその手を握り返した。
(有難う……)
「セイジ。俺、洞窟で船遊びしたい。『エンゲージ・ボタルの洞窟』ってとこに行こうぜ!」
「船遊びか、いいな」
「よっしゃ! 早速しゅっぱーつ!」
セイジの手を取り歩き出すランスの背中に、セイジはそっと心で呟いた。
(まだ……もう少し、もう少しだけ、時間をくれないか……)
せせらぎの洞窟湖から流れる川に、ランスとセイジは二人乗りの小型船に乗って浮かんだ。
二人並んでオールを手に、ゆっくりと漕ぎ出す。
水底まで見える透明度の高い水に、恋慕石柱とエンゲージ・ボタルの光が星空のように広がっていた。
星空の海に漕ぎ出したような、そんな幻想的な光景に、二人は息を飲む。
「すげ!すげーな!見ろよセイジ、すげー!」
ランスが瞳を輝かせ、周囲を彩るドリップストーン達を指差した。
したたり落ちる水滴によって形成された鍾乳石は、どれも宝石のような美しさで、白い輝きを放っている。
そして、その周囲を、鮮やかなグリーンとピンクに光るホタルが舞っていた。
そんな恋慕石柱とホタルの光に照らされて、沢山咲いた夢想花の花びらがゆらゆら揺れる。
神秘的という言葉が似合う光景に、セイジは唯々溜息を零した。
半分流される程のゆっくりした速さで、二人は船を進める。
ふと周囲の光景に感嘆の声を上げていたランスが急にハッとした顔になって、セイジは首を傾ける。
「すげえしか言ってなくね、俺?」
真面目な顔でそう言う彼に、セイジは思わず笑みを零した。
「確かに」
「でも、すげえとしか言えねぇ!」
「それには同意だ」
ふっと笑って水面に視線を落とすセイジの横顔を、ランスはじっと見つめる。
セイジの表情からは、遺跡に足を踏み入れる直前のぎこちなさは消えていた。その事がとても嬉しい。
(それに……セイジはやっぱり、凄く綺麗だ)
鍾乳石の輝きと、ホタルの光に囲まれたセイジは、何処か神聖で得難い存在に見えた。
「あ、ホタル……」
そんなセイジの眼前に、グリーンとピンクのホタル達がゆっくりと近寄って来る。
グリーンとピンクが帯のようにくるくるとセイジの周囲を飛んで、そしてランスの肩先にぴたっと止まった。
「……」
ランスはじっと動かずに、肩先に落ち着いたホタルを見下ろす。
ホタルの発する光に瞳を細め、セイジが持参したデジタルカメラを取り出した。
ランスの肩先にレンズを向けて、慎重にシャッターを切る。
その間も、ランスはホタルが逃げないように、身動ぎ一つせずにセイジの様子を見守った。
何度かシャッター音がした後、セイジがカメラを確認する。
同時に、ホタル達はランスの肩を離れて行った。
「セイジ、撮れた?」
ランスの問い掛けに、セイジはデジカメに映った画像をランスに見せる。
画像の中では、眩いばかりにホタルが光り輝いていた。
「綺麗だな」
「ああ、本当に……」
笑みを湛えるセイジに頬を緩め、ランスは顔を上げる。何時の間にか、船は岸辺に寄っていた。
眼前に巨大な恋慕石柱がそびえ立つ。
「不思議な色だな」
ランスの声に視線を前に戻したセイジは、デジカメを仕舞ってその鍾乳石を見上げた。
眩い白。
触れたら、どんな感触なのだろう?と思う。
「セイジ、一旦上がろうぜ」
ランスが岸辺に船を止め、立ち上がった。極々自然に差し出される手を取って、セイジは彼と共に船を落りる。
更に近くなった恋慕石柱は、二人の存在に輝きを増したような気がした。
セイジは引き寄せられるように、大きな鍾乳石に歩み寄る。
掌でひたっと冷たい石に触れた。
(この白い光は愛を受けて色を変える……そんな事を言っていたな)
ひやりと氷を思わせる冷たさ。
水晶のように滑らかな表面を撫でると、白い輝きが少し色を変えたような気がした。
「なんか、宝石っぽい?」
セイジの隣に並んだランスが、セイジの手の横に手を付いた。長い指が石を確かめるように撫でて、セイジの指先に触れる。
その瞬間だった。
石は劇的に色を変えた。
(……黄金色……?)
セイジは紅の瞳を見開く。
純白は眩い黄金に──まるで、ランスの瞳や髪のような。
隣でランスが息を飲むのが分かった。
「……綺麗だ」
セイジの唇から自然と、その感想は出た。
とても美しい黄金色。ランス自身の魂のような色だと、セイジは思う。
二人で触れた事で、現れたこの輝きを……とても愛おしいと感じた。
真っ直ぐに降り注ぐ光は、ランスの愛情に似ている。
強く、温かく、優しく、セイジを導き、照らしてくれる光。
そうだ。そんな彼だからこそ、俺は魅かれて──。
瞳を閉じても、この輝きを感じる事が出来る。
──それは、なんて幸せな事だろうかと。
瞳を開けると、セイジの前に花束が差し出されていた。
「……ランス?」
瞬きして視線を上げれば、ランスの黄金色の瞳がセイジを見ている。
「儀式ってんじゃなく、普通にこれ……」
差し出されたのは、夢想花のブーケだ。
セイジは、色鮮やかな不思議な花を見つめる。
夢を想う花──まるで夢の世界にしか存在しないような、鮮やかで色彩豊かな美しい花。ここにしか咲かない花。
「俺達のペースで、ゆっくり進んでいこうぜ」
やわらかな声音に、セイジは視線を上げた。
ランスが、微笑んでいる。
恋慕石柱の放つ黄金の光に染まったランスは、とても優しい笑みでセイジを見つめていた。
「俺は、セイジに関してだけは……気が長い自信があるんだ」
悪戯っぽく微笑む彼に、セイジは大きく瞬きした。
──胸が、熱い。
切ない程に痛くて、でも幸せで。
胸につかえていた重いしこりが、溶けていく感覚。
迷う事なんて、もう出来ない。
「……うん」
頷いて、微笑む。
ランスがくれたような、そんな笑みになっていれば良いと願いながら。
「ゆっくりでいいから進んでいきたい……」
ゆっくりとセイジの手が、ランスの差し出すブーケに触れる。
そして、しっかりと受け取った。
「有難う」
ランスは、黄金色の中、微笑むセイジをそのまま抱き寄せた。
「……俺の方こそ、有難う、セイジ」
耳元に囁く。
今、どんなに己が嬉しいと思っているか、セイジは分かっているだろうか?
今、どんなに己がセイジを愛おしいと感じているか、彼は知っているのだろうか?
言葉では伝えきれない想いを込めて、ランスはセイジの肩口に顔を埋めた。
「セイジだけだ。俺を、こんなにも幸せな気持ちにしてくれるのは……」
掠れる声で告げれば、セイジの体温が上がったのが伝わる。
重なる鼓動は、もうどちらのものか分からないくらいに速い。
「前言撤回はナシだからな」
「……分かってる」
小さく小さくセイジがそう答えてくれたから、ランスはふっと笑みを零した。
「セイジ」
身を離し、ブーケを持つセイジの手に己の手を重ねる。
目元を赤くしているセイジの紅の瞳と、目が合った。
セイジの瞳に映るのは、黄金色に包まれたランスの姿。
ランスの瞳に映るのは、黄金色に染まったセイジの姿。
二人の視線が絡んで、それから、吸い寄せられるようにして──唇が重なった。
それは、神聖な誓いを秘めた、熱く静かな口付けだった。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
リザルト筆記GM | 雪花菜 凛 GM | 参加者一覧 | ||||
プロローグ筆記GM | 真崎 華凪 GM |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||
対象神人 | 個別 | |||||
ジャンル | イベント | |||||
タイプ | イベント | |||||
難易度 | 特殊 | |||||
報酬 | 特殊 | |||||
出発日 | 2016年6月9日 |