クリスマスソングの流れるタブロス・モール。神人、吉坂心優音と二人で買い出しに来ていた五十嵐晃太は荷物を両手にふう、とため息をついた。
「晃ちゃん、パパとママ達に頼まれたものとクリスマスプレゼント買えた？」
　顔を覗き込んでくる心優音に、晃太は頷く。
「おう、勿論買えたで」
　袋を軽く持ち上げて見せると、晃太は再度小さなため息をつく。
「ったく親父達め、なぁんで買い忘れとかするんかなぁ？」
　食事の材料やら飾りつけやら、ちょっと足りない物があるから買って来るように頼まれ、二人でお使いに出たわけである。晃太の手には大量の荷物、と心優音へのプレゼント。
「そう言わないの！　毎年恒例のクリスマスパーティーなんだからさ♪」
　そう、帰宅すれば、家族ぐるみのクリスマスパーティーが始まるのだ。心優音ははやる気持ちを抑えながら、にっこりと笑って見せた。
「まぁええか、束の間のデートが出来たし？」
「ふふっ、そうだねぇ」
　可愛らしく笑って晃太が持つ荷物の袋の片方を一緒に持つように手を握ってくる心優音に、自然と晃太の顔も綻ぶ。
　と、いうか、親父達もこうやってみゆと二人でいる時間をつくるためにわざと買い忘れしたのかもしれない、と晃太はちらと思い、小さく笑った。
（感謝してもええかもわからんな）
　雪の降る街道を、荷物を一緒に持ったまま歩く。これから始まるパーティーへの期待で鼻歌でも歌いだしそうな心優音自身が、晃太にとって一番のクリスマスプレゼントかもしれない。

　家に帰れば、温かな家族と、料理と、クリスマスのにおい、一年の感謝の気持ちを、家族みんなで分かち合う。嬉しくて楽しくて幸せなパーティーの時間はあっという間に過ぎて行った。
　そして、食後二人はソファに腰かけてゆったりとした時間を過ごす。他の家族は食後の片づけだったり、入浴だったりで席を外している。……ので、実質二人きりだ。
「いやぁ食った食った！　めっさ美味かったなぁ料理にケーキ！」
　ぽんぽん、と自分の腹部を撫でながら晃太は笑った。
「ママと晃ママの料理は絶品だもん！」
　心優音がにこにこ笑いながら言うと、晃太もその通りと頷く。
「流石オカンとみゆママやな！」
　二人のお母さんはとても料理上手。今日テーブルに上がった料理も、全てが手作りだった。小さいころから食べなれた母親の料理、毎年食べてもやっぱり美味しい。二人は顔を見合わせて自慢の母親の料理の事をたたえ合う。
「兄貴と彼女さんも来れれば良かったんに……」
　ふと思い出したように晃太は呟いた。こんなに楽しいパーティー、来れなくて残念。という顔をすると、心優音はふふ、と笑った。
「しょうがないよ、お兄ちゃん達は大人なデートの予定が既に入ってたんだから」
「まぁそれもそうか」
　大人のデート、と聞いてふと過ぎる。
　夜景の綺麗なレストランをリザーブして、豪華なフルコース。
　寒さに身を寄せ合いながら寄り添い歩き、イルミネーションを眺めるのも良いかもしれない。タブロスを一望できるスイートルームなんかも素敵だ。いつか、そんなデートが出来るようになったら、素敵だろうな。そう思ったのは、きっと二人いっしょ。
　いろいろ想像して、晃太はぽそりと呟く。
「邪魔したら兄貴に殺されるし……」
　これでよかったんやろな。
「今年は無理だったけど来年はお兄ちゃん達も入れて過ごしたいねぇ♪」
「せやなぁ。けど、来年もまた大人のデート、しよるかもな？」
「たしかに」
　二人で笑いあった後、晃太は切り出す。
「あぁ、そうや、みゆ。プレゼント交換しよか」
　ニッと笑った顔が、なんだかかわいらしくて心優音はきっと期待してくれてるんだと心を弾ませる。
「うん！　プレゼント交換しよ！　あたしからで良いかな？」
　早く渡したい。晃ちゃんの喜ぶ顔が見たい。包みを取り出しながら、心優音は小動物のように小首をかしげる。晃太が頷いたのを確認すると、心優音は包みを差し出された晃太の手の上に乗せた。
「はい、どうぞ！」
「開けてもええか？」
　キラキラした瞳で問われ、心優音は大きく頷く。
「うん！　開けて開けて！」
　クリスマスの包装紙から出てきたのは、紺色の帽子と、リストバンド。どちらも、テニスプレイヤーの彼には必需品だ。
「おー！　おおきに！」
　早速、帽子を被ってみる。
「似合うか？」
「うん！」
　見立て通りだよ、と微笑む心優音に、晃太は照れくさそうに、けれど心底嬉しそうに笑う。リストバンドも腕にはめてみて、しっくりくることを確認した。
「さっすがみゆやな！」
「帽子とリストバンド年季入ってるでしょ？　だから新しいのね！」
「そろそろ替え時やと思うとったんや」
　なんでわかったん？　と笑いかけてくる晃太に、心優音はちょっとだけ胸を反らして笑う。
「だって、あたしは晃ちゃんの彼女だもん」
　ふわっと頬を染めて言う心優音が愛しくて、くしゃりとその髪を撫でると、彼女は擽ったそうに身をよじった。
「ほなら、俺からはこれや」
　そっと取り出した上品な包み。袋の中のひとつめを心優音は取り出す。
「わぁ可愛い！」
　それは、クローバー柄のシュシュ。心優音の好きなクローバー。……二人のトランスのオーラに舞う、クローバー。幸せを運ぶ四葉に、心優音は絆を感じて胸がいっぱいになる。
「晃ちゃん有難う！」
　心優音が早速長い髪をそのシュシュで束ねて見せると、晃太は自信ありげに微笑んだ。
「うん、やっぱり似合うな」
「ほんと？」
「おぉ、よぉ似合っとる」
　可愛いで、と付け足すと、心優音はへへ、と笑って包みの中をもう一度見た。
　その中には、上品な……小さな、箱。
「晃ちゃん……これ……」
　少し驚いた顔をしてから、そっと取り出す。
　晃太は、開けてみるように促した。
　壊れ物を扱うように慎重に優しく箱を開くとそこにはペアリング。いつも傍に居るから、大体の心優音の指のサイズはわかっていたのだろう。
「ほら、手、出し？」
　そっと心優音の左手を取り、薬指にその指輪をはめる。そして、一緒に入っていた自分のサイズの指輪を心優音に手渡すと、晃太は自分の左手を差し出した。
「えと……」
　頬を赤らめながら、その手を取り心優音はそっと指輪をはめてやった。
　二人の左手の薬指に輝くお揃いの指輪。それは、まだ『本物の誓いのリング』ではないけれど、なんだか照れくさくて、嬉しくてそわそわしてしまう。
「あ～、ちょっと……緩い、か？」
「ううん、大丈夫。ちょうどいいよ」
　ね、と掲げた指にはめられたリングはちょっとだけ隙間があるように見える。
　晃太はふっと頬を緩めると、直後急に真剣な眼差しになり、付け足した。
「“これ”は、いつかの為の予約、な……？」
　心優音は、何も言わずにただ頷く。――いつか、『ホンモノ』を渡すから。という意味を込められた言葉に、胸がいっぱいになる。
　顔を見合わせて笑いあうと、心優音は胸の内に湧き上がる感謝をそのまま唇から零した。
「晃ちゃん……、有難う！　指輪もシュシュも嬉しい……！」
　いっぱいいっぱい、つけて歩くね、大事にするね。とはしゃぐ彼女に、晃太は何度も頷く。
「おぉ、俺も、プレゼント大事に使わせてもらうわ」
　そして、時計の針がクリスマスの終わりに近づく頃だった。
「みゆ、これからもよろしゅう頼むな」
　ウィンクルムとして、恋人として。
　事実上二人きりのソファの上、晃太はそっと心優音を引き寄せ額に口づけを落とす。
　唇を離すと、擽ったそうに笑った彼女が晃太の顔を見上げ答えた。
「こちらこそ宜しく、だよ」
　ずっと、ずっとね。
　再度確認し合う二人の絆は、クリスマスの星よりもきらめいて二人の心に……。

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