プロローグ
クリスマスを、ことごとく破壊しようとするダークニスの企み――ウィンクルム達は、次々と入ってくる事件の通報に、日々緊張していた。
「皆さん、クリスマス諦めてませんか?」
A.R.O.A.の受付女性職員は、依頼の一覧を眺めて浮かない顔のウィンクルムに、頬をふくらませる。
「だって、こんなときに……」
「こんなときだからこそ、ですよ!」
ぐっと両手を握りしめ、職員は大きな声で言い返した。
「オーガと戦うウチまでが、クリスマスどころじゃないなぁーみたいな顔してちゃダメッ! 絶対ダメ!
そんなの、ダークニスの思う壺じゃないですかっ」
確かにいま、サンタクロースは囚われの身だ。でも、サンタがいなくたって、暖かなクリスマスにできるはず。
「奴の企みなんて笑い飛ばせるような、楽しいクリスマスに、自分たちからしていきましょうよ」
と力説する職員に、言いたいことはわかるけれど……とウィンクルムは顔を見合わせた。
「でも、今何処に行っても、『黒き宿木の種』があるかもしれなくて、仕事モードになってしまいそうだよ」
精霊は眉をひそめる。
しかし、職員はめげない。笑顔をやめない。
「何言ってるんですか。絶対安全な場所があるでしょ」
「えっ?」
――どこだろう?
神人が考えこむが、答えが出てこない。
「もー、すぐそばにあるじゃないですか。本当に幸福の青い鳥って身近にあるものなんですって」
焦れったげな職員だが、ウィンクルムはとうとう自力では答えが見つからず、
「うー、降参。どこ?」
と白旗を揚げた。
すると職員は満面の笑みを浮かべて、弾んだ声で答えを教えてくれた。
「ふふっ、それはね、あなたの自宅ですよっ♪」
なるほど、確かにそれはすぐそばすぎて、気付かなかった。
確かにウィンクルムの自宅にまでは、オーガの魔の手は及ばない。
「A.R.O.A.本部周辺は政府の重要機関が多いですから、滅多なことでオーガに侵入されない結界的なものが張ってあります。
ここらへんも安全圏ですけどね」
本部の近くには、つい最近、超大型ショッピングモール『タブロス・モール』が出来たばかりだ。
ノースウッドのマルクトシュネーには劣るだろうが、自宅でのクリスマスパーティーに必要な物ならだいたい揃うだろうし、
相手へのプレゼントを買うにもよさそうだ。
パーティーの相談を始めたウィンクルムを見て、職員はホッとしたように微笑むと、助言をしてくれた。
「そうそう、あのモールの中央広場には、ガラスのツリーが設置されてるんです。
ツリーに願い事を書いた紙を吊るしましょうっていうイベントもやってるらしいですよ」
モールで買い物をして、あたたかな自宅でパーティー。そんなインドアなクリスマスもきっと素敵な思い出になるだろう。
プラン
アクションプラン
クロス (オルクス) (ディオス) |
|
☆軍の宿舎 ☆2と3 ☆プレゼント:銀と紅の手編みマフラー(オ) 銀と紫の手編みマフラー(デ) ☆準備 ・クリスマス料理作ったり運んだり 「よぉし今日は腕によりをかけて作るぞ! オルクとディオは部屋とかの飾り付け任せた! …喧嘩すんなよ?」 ☆ディナー 「お待たせー!…ってわぉ! 部屋が綺麗に飾られてんな! 料理も運び終わったし早速食べようぜ♪ 頂きまーす!(笑顔を浮かべながら食べる ふふっ有難う、二人共(微笑 そう言って貰えると嬉しいな♪ そうだ、俺二人にプレゼントあるんだ 拙いけどマフラー編んでみたんだ 二人のイニシャル付だ 俺用は銀と蒼だから三人でお揃い♪ オルクもディオも有難う! (何だかんだ言って喧嘩する程仲が良いってね)」 |
リザルトノベル
●パーティー準備
その日、その宿舎には3人の男女の姿があった。
一人は、クロスことクロス・テネブラエ。
それからオルクスことオルクス・シュヴェルツェと、ディオスことディオス・チェリル・アルジリーア。
この3人はウィンクルムとしてのパートナーであるだけでなく、まだ彼らが少年少女だった頃からの古馴染みでもある。
そんな訳で常日頃から行動を共にすることの多い彼らだが、今日こうして集まっているのには特別な理由があった。
「よぉし、じゃあまずは準備だな!」
クロスが、たっぷりの食材が入った買い物袋をテーブルの上から抱え上げながら言う。
「せっかくのクリスマスパーティーだもんな! 今日は腕によりをかけて作るぞ!」
そう、ダークニスの企みによってクリスマスが破壊されようとしている、こんな時だからこそ。
思いっきりクリスマスを楽しもうじゃないかと、彼らはこうして集まったのだ。
「クーの料理は宇宙一だから、楽しみにしてるぞ」
クロスに向かい穏やかに微笑むオルクス。
そんなオルクスに対抗するようにディオスもまたクロスの料理に対する期待を述べる。
「クロの料理、今から楽しみにしている」
口の端をほころばせ、ふっと笑うディオス。
普段はクールな表情が多いディオスだが、クロスに向ける眼差しは優しく温かい。
微笑む二人に笑みを返して、クロスは言った。
「オルクとディオは部屋とかの飾り付け任せた!」
「おう、任せろ! 又後でな!」
とオルクス。
「任せてくれ」
とディオス。
そんな二人に「頼もしいな」と言い残し、クロスは一人キッチンへと向かった。
クロスが出て行った部屋の中、オルクスとディオスは床に置いてあったダンボール箱をそれぞれに開封する。
「これは……窓に貼るシール?だな。こっちはテーブルクロスか」
箱の中身を手に取っては、その内容を確かめるオルクス。
その隣でディオスが別の箱を開けると、ふっさりとした緑色の物体が中から姿を現した。
「……これは、ツリーか」
可能ならば本物のモミの木で飾りたかったのだが、この場所には難しかったため、プラスチック製の簡易ツリーを購入してきたのである。
「じゃあ俺がこのまま、このツリーを飾っちゃいましょう」
「よし、じゃあオレは部屋のそれ以外だな。」
ディオスが言えばオルクスも応じ、二人は分担して部屋の飾り付けを進めることになった。
そしてしばらくは何事もなく平和に準備が続けられていたのだが……。
「おっと!」
「っつ……」
ツリーに掛けた金モールの具合を見ようと後ろ向きで後退していたディオスが、細かい作業のために床に屈みこんでいたオルクスの手を踏んでしまったのである。
「痛てぇぞ、眼鏡野郎」
若かりし頃を彷彿とさせる不良スタイルで毒づくオルクス。
「大げさですよ、この程度で」
しれっとディオスが突き放し、二人の間に緊張が走った。
しばし睨み合う二人。
一触即発かと思われたその時、エプロンをして片手にお玉を持ったクロスがひょっこりと部屋に顔を出す。
「どうだ?進んでるか?」
「お、おう」
「も、もちろん」
しれっと答えるオルクスとディオス。
「そっか、よし俺も頑張ってこよう!」
再びキッチンに引っ込むかと思われたクロスだったが、不意に二人を振り返るとこう言い残した。
「……喧嘩すんなよ?」
さっくりと釘を刺す一言。
クロスに言われてしまってはオルクスもディオスも従うより他がない。
「とりあえず……喧嘩せずやり遂げましょうか」
毒気を抜かれた顔でディオスが言えば、オルクスも銀色の髪をガシガシとかき回しながら頷く。
「仕方ねぇ。さっさと終わらせるぞ、アルジリーア」
「そうですね大尉殿」
そして二人は部屋の飾り付けを再開した。
●ディナー
「お待たせー! ……ってわぉ!」
料理ができたと知らせに来たクロスが部屋を覗き込み、目を丸くした。
「綺麗に飾られてんな!」
得意げな顔で振り返るオルクスとディオス。
窓には可愛いサンタのシールが貼られ、壁には紙の輪を繋いだものが飾られ、更にテーブルの上には綺麗なテーブルクロスが広げられている。
窓際には小ぶりながらもツリーも飾られ、普段は簡素な宿舎の部屋は見違えるように華やいでいた。
「よし、じゃあ料理を運ぶのを手伝ってくれ!」
クロスの言葉に、オルクスとディオスが競い合うようにしてキッチンへと向かう。
そこには良い匂いを漂わせる、クロスの手料理達が湯気を上げながら二人を待っていた。
「これがクリスマスディナー……流石クロ!」
感激の声を上げるディオス。
クリスマスパーティーとは縁遠い幼少期を送ってきたディオスにとってクロスの手料理はとても眩しく見える。
こみ上げる熱いものをこらえるディオスの頭をわざと乱暴にかき混ぜながら、オルクスが歓声を上げた。
「おおー!流石オレのクーだな! どれも美味しそうだ!!」
その言葉にディオスは、思わず先程までの感傷も忘れて冷たく突っ込みを入れる。
「別にアンタのクロだと認めてないがな……」
クロスの耳には届かぬよう小声に抑えた牽制。
「……なんか言ったか? 眼鏡野郎」
すべてを見越していたらしいオルクスが、口の端だけでニヤっと笑いながらそう答えた。
三人がかりで取りかかれば、パーティー用の豪勢なディナーもすぐにテーブルの上へと移動完了する。
オードブルには、クロスお手製のローストビーフとサラダ。
メインディッシュにはこれまたクロスが作ったビーフシチュー。
テーブルの中央の籠に切って盛られたパンは近所の店で買い求めてきたものだが、オーブンで温められたパンからは焼きたてのような良い香りが漂っていた。
「早速食べようぜ! 頂きまーす!」
笑顔で言うクロスに続いて、オルクスとディオスもそれぞれに発声する。
「では頂きます!」
「頂きます」
ガツガツと貪欲に料理に手を伸ばしながらオルクスは言った。
「美味ぇな相変わらず!ローストビーフもビーフシチューも美味い!」
満面の笑みを浮かべるオルクスの頬にはシチューのブラウンソースが跳ねている。
そのオルクスにティッシュを投げてやりつつ、ディオスもまた料理に対する賛辞を口にした。
「クロの料理は美味すぎる! 絶品だ」
黙々と静かに食事を進めていたディオスだが、その前にあるシチューの皿はもう殆ど空になっている。
「そう言って貰えると嬉しいな」
微笑んだクロスは、ディオスの皿を取ってシチューのおかわりをよそってやった。
その様子を見ていたオルクスが、残っていたシチューを一気に口に流し込み、空になった皿をクロスに差し出す。
少し子供っぽくも見える行動にクスっと笑って、クロスはオルクスにもおかわりをよそった。
これで一緒だと得意げな顔をするオルクス。
それ以上は戦わず、ディオスは代わりにクロスへと笑顔を向ける。
「シチューの肉は柔らかくホロホロ溶けるし、味付けも丁度良い。ローストビーフの火の通り具合も絶妙だ」
ディオスの賛辞は決してお世辞ではない。クロスの料理の腕前は、事実プロ並なのだ。
「ふふっ有難う、二人共」
嬉しそうに微笑むクロス。
他愛のない攻防と何気ない雑談をスパイスに、彼らのディナーはしばし続いた。
●プレゼント交換
あらかたの料理を食べ終え、テーブルの上にデザートのクリスマスケーキが登場すると、クロスが言った。
「そうだ、俺二人にプレゼントあるんだ」
椅子の下からおもむろに2つの袋を取り出すクロス。
クリスマスらしい赤と金の紙袋を、クロスはオルクスとディオスにそれぞれ手渡す。
「何だ? これ」
紙袋越しにも伝わる、ふんわりとした軽い感触を確かめつつ言うオルクス。
「開けて良いか?」
ディオスが問うと、クロスは少しだけ恥ずかしそうな表情で頷いた。
ラッピングの緑のリボンを外し、ガサガサと音を立てながら紙袋を開く二人。
「これは……」
オルクスの紙袋から出てきたのは、銀と朱の毛糸で編まれたマフラー。
ディオスの紙袋からは銀と紫の毛糸で編まれたマフラーが出てくる。
「拙いけど自分で編んでみたんだ。二人のイニシャル付だ」
そういえば最近、クロスが妙に頻繁に夜更かしをしている様子だったのはこのためだったのだ。
「クーの手編みマフラー……だと!?」
オルクスの記憶が正しければ、クロスは料理は得意であるものの、裁縫や編み物はさほど得意としている訳ではない。
それでも自分のためにマフラーを編んでくれたのだという事実が、オルクスにはとても嬉しかった。
そしてそれはディオスにとっても同様だったらしい。
「クロの手編みだと……!」
暖かみのある風合いのマフラーの表面を愛おしげに撫でるディオス。
もしかしたらディオスは、誰かが自分のために編んでくれたものなど初めて手にするのかもしれない。
「有り難く使わせて貰う」
ディオスの顔に自然と浮かんだ微笑みは、とても満ち足りたものであった。
「俺用は銀と蒼だから三人でお揃いだ」
クロスの無邪気な笑いに、オルクスは「アルジリーアとお揃いなんてゴメンだ」という言葉は飲を込む。
クロスとお揃いなら、それで十分ではないか。
「サンキュー、クロス! 大切にする!」
オルクスがそう言うと、クロスは少しほっとしたように微笑んだ。
「んじゃ次はオレだな……」
オルクスが取り出したのは、クロスが出してきたものよりもふた回りほど小さな包みである。
タブロス・モール内にあるブランド店の名前が刻印された包みを、オルクスはクロスとディオスに手渡した。
目で「開けてみろ」と合図され、クロスとディオスが包みを開く。
「オレからは手袋。良かったら使ってくれ」
クロスに手渡された包みに入っていたのは蒼銀の手袋。ディオスに手渡された包みに入っていたのは黒紫の手袋。
更にオルクスは自分用に買った黒銀の手袋を取り出して二人に見せる。
クロスが二人に贈ったマフラー同様、それぞれの色をイメージした手袋。
クロスのマフラーと一緒に使うと、きっとより一層素晴らしく見えるに違いない。
「大尉殿も有難うございます。俺からはこれです」
素直に手袋をおし頂いたディオスが取り出したのは、大きさが違う二つの袋。
ディオスはまず、小さい方の袋をオルクスに手渡した。
紙製のシンプルな手提げ袋に入っていたのは細長い桐の箱。
オルクスが箱を開くと、中から銀色の煙管が姿を現す。
「まさかアルジリーアから煙管貰うとは……」
愛煙家のオルクスにとっては思わぬ嬉しい贈り物で、オルクスは驚きと喜びの交じる目でしばし煙管を眺めた。
その間にディオスは大きな方の袋を自らの手で開く。
中から取り出すのは銀狼と蒼猫、そして黒狼のぬいぐるみだ。
「なんか俺達みたいだなと……」
実は可愛いもの好きなためぱっと目を輝かせるクロスの前に、ディオスはまず銀色の狼のぬいぐるみを置いた。
「これがオルクスで」
続いて蒼猫のぬいぐるみと黒狼のぬいぐるみを寄り添わせてクロスの前に置くディオス。
「これがクロスと俺」
と、その様子に気づいたオルクスが手を伸ばしてきて銀色の狼のぬいぐるみを、ぐいと蒼猫と黒狼の間に割り込ませる。
「煙管は有り難く使わせて貰うが。……クーは渡さねぇよ?」
オルクスの仕草にぷっと吹き出したクロスが、手袋をはめた手で三つのぬいぐるみを抱きあげた。
「オルクもディオも有難う!」
満面の笑みを浮かべるクロスに微笑みかえすと、ディオスはオルクスに向かって静かに言う。
「望む所だ、クロは俺が奪う」
バチバチと火花が散りそうなにらみ合い。
そんな二人を交互に眺め、クロスは一人クスリと笑った。
(何だかんだ言って喧嘩する程仲が良いってね)
「やっぱクリスマスは良いもんだな!」
デザートまで、全て食べ終わった食器類をキッチンに運びながらクロスが言った。
飾られた部屋を見るだけで気持ちが踊り、仲間と過ごす穏やかな時間が、張り詰めていた心に優しい休息を与えてくれる。
これこそがクリスマス。
『こんなときだからこそ、ですよ!』
クリスマスを楽しもうと提案してくれた職員の言葉がよみがえる。
パートナーと共に暖かなクリスマスを過ごすこと、それこそがこの危機を打破する力になるのかもしれない。
その日、その宿舎には3人の男女の姿があった。
一人は、クロスことクロス・テネブラエ。
それからオルクスことオルクス・シュヴェルツェと、ディオスことディオス・チェリル・アルジリーア。
この3人はウィンクルムとしてのパートナーであるだけでなく、まだ彼らが少年少女だった頃からの古馴染みでもある。
そんな訳で常日頃から行動を共にすることの多い彼らだが、今日こうして集まっているのには特別な理由があった。
「よぉし、じゃあまずは準備だな!」
クロスが、たっぷりの食材が入った買い物袋をテーブルの上から抱え上げながら言う。
「せっかくのクリスマスパーティーだもんな! 今日は腕によりをかけて作るぞ!」
そう、ダークニスの企みによってクリスマスが破壊されようとしている、こんな時だからこそ。
思いっきりクリスマスを楽しもうじゃないかと、彼らはこうして集まったのだ。
「クーの料理は宇宙一だから、楽しみにしてるぞ」
クロスに向かい穏やかに微笑むオルクス。
そんなオルクスに対抗するようにディオスもまたクロスの料理に対する期待を述べる。
「クロの料理、今から楽しみにしている」
口の端をほころばせ、ふっと笑うディオス。
普段はクールな表情が多いディオスだが、クロスに向ける眼差しは優しく温かい。
微笑む二人に笑みを返して、クロスは言った。
「オルクとディオは部屋とかの飾り付け任せた!」
「おう、任せろ! 又後でな!」
とオルクス。
「任せてくれ」
とディオス。
そんな二人に「頼もしいな」と言い残し、クロスは一人キッチンへと向かった。
クロスが出て行った部屋の中、オルクスとディオスは床に置いてあったダンボール箱をそれぞれに開封する。
「これは……窓に貼るシール?だな。こっちはテーブルクロスか」
箱の中身を手に取っては、その内容を確かめるオルクス。
その隣でディオスが別の箱を開けると、ふっさりとした緑色の物体が中から姿を現した。
「……これは、ツリーか」
可能ならば本物のモミの木で飾りたかったのだが、この場所には難しかったため、プラスチック製の簡易ツリーを購入してきたのである。
「じゃあ俺がこのまま、このツリーを飾っちゃいましょう」
「よし、じゃあオレは部屋のそれ以外だな。」
ディオスが言えばオルクスも応じ、二人は分担して部屋の飾り付けを進めることになった。
そしてしばらくは何事もなく平和に準備が続けられていたのだが……。
「おっと!」
「っつ……」
ツリーに掛けた金モールの具合を見ようと後ろ向きで後退していたディオスが、細かい作業のために床に屈みこんでいたオルクスの手を踏んでしまったのである。
「痛てぇぞ、眼鏡野郎」
若かりし頃を彷彿とさせる不良スタイルで毒づくオルクス。
「大げさですよ、この程度で」
しれっとディオスが突き放し、二人の間に緊張が走った。
しばし睨み合う二人。
一触即発かと思われたその時、エプロンをして片手にお玉を持ったクロスがひょっこりと部屋に顔を出す。
「どうだ?進んでるか?」
「お、おう」
「も、もちろん」
しれっと答えるオルクスとディオス。
「そっか、よし俺も頑張ってこよう!」
再びキッチンに引っ込むかと思われたクロスだったが、不意に二人を振り返るとこう言い残した。
「……喧嘩すんなよ?」
さっくりと釘を刺す一言。
クロスに言われてしまってはオルクスもディオスも従うより他がない。
「とりあえず……喧嘩せずやり遂げましょうか」
毒気を抜かれた顔でディオスが言えば、オルクスも銀色の髪をガシガシとかき回しながら頷く。
「仕方ねぇ。さっさと終わらせるぞ、アルジリーア」
「そうですね大尉殿」
そして二人は部屋の飾り付けを再開した。
●ディナー
「お待たせー! ……ってわぉ!」
料理ができたと知らせに来たクロスが部屋を覗き込み、目を丸くした。
「綺麗に飾られてんな!」
得意げな顔で振り返るオルクスとディオス。
窓には可愛いサンタのシールが貼られ、壁には紙の輪を繋いだものが飾られ、更にテーブルの上には綺麗なテーブルクロスが広げられている。
窓際には小ぶりながらもツリーも飾られ、普段は簡素な宿舎の部屋は見違えるように華やいでいた。
「よし、じゃあ料理を運ぶのを手伝ってくれ!」
クロスの言葉に、オルクスとディオスが競い合うようにしてキッチンへと向かう。
そこには良い匂いを漂わせる、クロスの手料理達が湯気を上げながら二人を待っていた。
「これがクリスマスディナー……流石クロ!」
感激の声を上げるディオス。
クリスマスパーティーとは縁遠い幼少期を送ってきたディオスにとってクロスの手料理はとても眩しく見える。
こみ上げる熱いものをこらえるディオスの頭をわざと乱暴にかき混ぜながら、オルクスが歓声を上げた。
「おおー!流石オレのクーだな! どれも美味しそうだ!!」
その言葉にディオスは、思わず先程までの感傷も忘れて冷たく突っ込みを入れる。
「別にアンタのクロだと認めてないがな……」
クロスの耳には届かぬよう小声に抑えた牽制。
「……なんか言ったか? 眼鏡野郎」
すべてを見越していたらしいオルクスが、口の端だけでニヤっと笑いながらそう答えた。
三人がかりで取りかかれば、パーティー用の豪勢なディナーもすぐにテーブルの上へと移動完了する。
オードブルには、クロスお手製のローストビーフとサラダ。
メインディッシュにはこれまたクロスが作ったビーフシチュー。
テーブルの中央の籠に切って盛られたパンは近所の店で買い求めてきたものだが、オーブンで温められたパンからは焼きたてのような良い香りが漂っていた。
「早速食べようぜ! 頂きまーす!」
笑顔で言うクロスに続いて、オルクスとディオスもそれぞれに発声する。
「では頂きます!」
「頂きます」
ガツガツと貪欲に料理に手を伸ばしながらオルクスは言った。
「美味ぇな相変わらず!ローストビーフもビーフシチューも美味い!」
満面の笑みを浮かべるオルクスの頬にはシチューのブラウンソースが跳ねている。
そのオルクスにティッシュを投げてやりつつ、ディオスもまた料理に対する賛辞を口にした。
「クロの料理は美味すぎる! 絶品だ」
黙々と静かに食事を進めていたディオスだが、その前にあるシチューの皿はもう殆ど空になっている。
「そう言って貰えると嬉しいな」
微笑んだクロスは、ディオスの皿を取ってシチューのおかわりをよそってやった。
その様子を見ていたオルクスが、残っていたシチューを一気に口に流し込み、空になった皿をクロスに差し出す。
少し子供っぽくも見える行動にクスっと笑って、クロスはオルクスにもおかわりをよそった。
これで一緒だと得意げな顔をするオルクス。
それ以上は戦わず、ディオスは代わりにクロスへと笑顔を向ける。
「シチューの肉は柔らかくホロホロ溶けるし、味付けも丁度良い。ローストビーフの火の通り具合も絶妙だ」
ディオスの賛辞は決してお世辞ではない。クロスの料理の腕前は、事実プロ並なのだ。
「ふふっ有難う、二人共」
嬉しそうに微笑むクロス。
他愛のない攻防と何気ない雑談をスパイスに、彼らのディナーはしばし続いた。
●プレゼント交換
あらかたの料理を食べ終え、テーブルの上にデザートのクリスマスケーキが登場すると、クロスが言った。
「そうだ、俺二人にプレゼントあるんだ」
椅子の下からおもむろに2つの袋を取り出すクロス。
クリスマスらしい赤と金の紙袋を、クロスはオルクスとディオスにそれぞれ手渡す。
「何だ? これ」
紙袋越しにも伝わる、ふんわりとした軽い感触を確かめつつ言うオルクス。
「開けて良いか?」
ディオスが問うと、クロスは少しだけ恥ずかしそうな表情で頷いた。
ラッピングの緑のリボンを外し、ガサガサと音を立てながら紙袋を開く二人。
「これは……」
オルクスの紙袋から出てきたのは、銀と朱の毛糸で編まれたマフラー。
ディオスの紙袋からは銀と紫の毛糸で編まれたマフラーが出てくる。
「拙いけど自分で編んでみたんだ。二人のイニシャル付だ」
そういえば最近、クロスが妙に頻繁に夜更かしをしている様子だったのはこのためだったのだ。
「クーの手編みマフラー……だと!?」
オルクスの記憶が正しければ、クロスは料理は得意であるものの、裁縫や編み物はさほど得意としている訳ではない。
それでも自分のためにマフラーを編んでくれたのだという事実が、オルクスにはとても嬉しかった。
そしてそれはディオスにとっても同様だったらしい。
「クロの手編みだと……!」
暖かみのある風合いのマフラーの表面を愛おしげに撫でるディオス。
もしかしたらディオスは、誰かが自分のために編んでくれたものなど初めて手にするのかもしれない。
「有り難く使わせて貰う」
ディオスの顔に自然と浮かんだ微笑みは、とても満ち足りたものであった。
「俺用は銀と蒼だから三人でお揃いだ」
クロスの無邪気な笑いに、オルクスは「アルジリーアとお揃いなんてゴメンだ」という言葉は飲を込む。
クロスとお揃いなら、それで十分ではないか。
「サンキュー、クロス! 大切にする!」
オルクスがそう言うと、クロスは少しほっとしたように微笑んだ。
「んじゃ次はオレだな……」
オルクスが取り出したのは、クロスが出してきたものよりもふた回りほど小さな包みである。
タブロス・モール内にあるブランド店の名前が刻印された包みを、オルクスはクロスとディオスに手渡した。
目で「開けてみろ」と合図され、クロスとディオスが包みを開く。
「オレからは手袋。良かったら使ってくれ」
クロスに手渡された包みに入っていたのは蒼銀の手袋。ディオスに手渡された包みに入っていたのは黒紫の手袋。
更にオルクスは自分用に買った黒銀の手袋を取り出して二人に見せる。
クロスが二人に贈ったマフラー同様、それぞれの色をイメージした手袋。
クロスのマフラーと一緒に使うと、きっとより一層素晴らしく見えるに違いない。
「大尉殿も有難うございます。俺からはこれです」
素直に手袋をおし頂いたディオスが取り出したのは、大きさが違う二つの袋。
ディオスはまず、小さい方の袋をオルクスに手渡した。
紙製のシンプルな手提げ袋に入っていたのは細長い桐の箱。
オルクスが箱を開くと、中から銀色の煙管が姿を現す。
「まさかアルジリーアから煙管貰うとは……」
愛煙家のオルクスにとっては思わぬ嬉しい贈り物で、オルクスは驚きと喜びの交じる目でしばし煙管を眺めた。
その間にディオスは大きな方の袋を自らの手で開く。
中から取り出すのは銀狼と蒼猫、そして黒狼のぬいぐるみだ。
「なんか俺達みたいだなと……」
実は可愛いもの好きなためぱっと目を輝かせるクロスの前に、ディオスはまず銀色の狼のぬいぐるみを置いた。
「これがオルクスで」
続いて蒼猫のぬいぐるみと黒狼のぬいぐるみを寄り添わせてクロスの前に置くディオス。
「これがクロスと俺」
と、その様子に気づいたオルクスが手を伸ばしてきて銀色の狼のぬいぐるみを、ぐいと蒼猫と黒狼の間に割り込ませる。
「煙管は有り難く使わせて貰うが。……クーは渡さねぇよ?」
オルクスの仕草にぷっと吹き出したクロスが、手袋をはめた手で三つのぬいぐるみを抱きあげた。
「オルクもディオも有難う!」
満面の笑みを浮かべるクロスに微笑みかえすと、ディオスはオルクスに向かって静かに言う。
「望む所だ、クロは俺が奪う」
バチバチと火花が散りそうなにらみ合い。
そんな二人を交互に眺め、クロスは一人クスリと笑った。
(何だかんだ言って喧嘩する程仲が良いってね)
「やっぱクリスマスは良いもんだな!」
デザートまで、全て食べ終わった食器類をキッチンに運びながらクロスが言った。
飾られた部屋を見るだけで気持ちが踊り、仲間と過ごす穏やかな時間が、張り詰めていた心に優しい休息を与えてくれる。
これこそがクリスマス。
『こんなときだからこそ、ですよ!』
クリスマスを楽しもうと提案してくれた職員の言葉がよみがえる。
パートナーと共に暖かなクリスマスを過ごすこと、それこそがこの危機を打破する力になるのかもしれない。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
リザルト筆記GM | 白羽瀬 理宇 GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | あき缶 GM |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2015年12月2日 |