プロローグ
クリスマスを、ことごとく破壊しようとするダークニスの企み――ウィンクルム達は、次々と入ってくる事件の通報に、日々緊張していた。
「皆さん、クリスマス諦めてませんか?」
A.R.O.A.の受付女性職員は、依頼の一覧を眺めて浮かない顔のウィンクルムに、頬をふくらませる。
「だって、こんなときに……」
「こんなときだからこそ、ですよ!」
ぐっと両手を握りしめ、職員は大きな声で言い返した。
「オーガと戦うウチまでが、クリスマスどころじゃないなぁーみたいな顔してちゃダメッ! 絶対ダメ!
そんなの、ダークニスの思う壺じゃないですかっ」
確かにいま、サンタクロースは囚われの身だ。でも、サンタがいなくたって、暖かなクリスマスにできるはず。
「奴の企みなんて笑い飛ばせるような、楽しいクリスマスに、自分たちからしていきましょうよ」
と力説する職員に、言いたいことはわかるけれど……とウィンクルムは顔を見合わせた。
「でも、今何処に行っても、『黒き宿木の種』があるかもしれなくて、仕事モードになってしまいそうだよ」
精霊は眉をひそめる。
しかし、職員はめげない。笑顔をやめない。
「何言ってるんですか。絶対安全な場所があるでしょ」
「えっ?」
――どこだろう?
神人が考えこむが、答えが出てこない。
「もー、すぐそばにあるじゃないですか。本当に幸福の青い鳥って身近にあるものなんですって」
焦れったげな職員だが、ウィンクルムはとうとう自力では答えが見つからず、
「うー、降参。どこ?」
と白旗を揚げた。
すると職員は満面の笑みを浮かべて、弾んだ声で答えを教えてくれた。
「ふふっ、それはね、あなたの自宅ですよっ♪」
なるほど、確かにそれはすぐそばすぎて、気付かなかった。
確かにウィンクルムの自宅にまでは、オーガの魔の手は及ばない。
「A.R.O.A.本部周辺は政府の重要機関が多いですから、滅多なことでオーガに侵入されない結界的なものが張ってあります。
ここらへんも安全圏ですけどね」
本部の近くには、つい最近、超大型ショッピングモール『タブロス・モール』が出来たばかりだ。
ノースウッドのマルクトシュネーには劣るだろうが、自宅でのクリスマスパーティーに必要な物ならだいたい揃うだろうし、
相手へのプレゼントを買うにもよさそうだ。
パーティーの相談を始めたウィンクルムを見て、職員はホッとしたように微笑むと、助言をしてくれた。
「そうそう、あのモールの中央広場には、ガラスのツリーが設置されてるんです。
ツリーに願い事を書いた紙を吊るしましょうっていうイベントもやってるらしいですよ」
モールで買い物をして、あたたかな自宅でパーティー。そんなインドアなクリスマスもきっと素敵な思い出になるだろう。
プラン
アクションプラン
ロア・ディヒラー (クレドリック) (リヒャルト) |
|
クレちゃんの家でパーティーする。(1と4) 今年はリヒャ君もいるし、さらに賑やかで楽しくなるんじゃないかと計画。 クレちゃんの家って研究室も兼ねてるからかもだけど、だだっ広い割にちょっと寂しげなんだよね。モールで飾り付けとかそういうのも買ってこよう。荷物持ちに男2人いると便利・・・! 「クレちゃん・・・まだリヒャ君に慣れてないからって、じっと観察するのやめてあげようよ・・・」 親睦も深まったし楽しかったなー。 トランプで遊んだ後、2人にプレゼントを渡す。手編みの手袋・・・!ちょっと歪だけど頑張ったんだよ。クレちゃんのが黒で、リヒャ君のが緑!私のが紫で三人おそろいだよ。マニュキュアに口紅・・・ありがとう。 |
リザルトノベル
●タブロス・モールでショッピング
タブロス・モールの中。指定された待ち合わせ場所で『クレドリック』は一人静かに佇んでいた。
「……」
待ちながら思うのは、今日のパーティーとその参加者のことだ。
神人『ロア・ディヒラー』と契約をかわした二人目の精霊は、なんと彼女の小学校時代の幼なじみの『リヒャルト』だった。再会を喜ぶロアだったが、冷たい態度をとるリヒャルト。なんだか彼は、ロアに対して怒っているようだ。
そんなリヒャルトをまじえて、本日クレドリックの家でクリスマスパーティーを開くことになった。
(新しい精霊のリヒャルトもくるらしい……)
ロアの言葉を回想するクレドリック。
今年はリヒャ君もいるし、さらに賑やかで楽しくなるんじゃないか。クレドリックにこのパーティーの計画を持ちかけた時、ロアはそう言っていた。
(親睦を深めるのと、三人の方が楽しいらしいが)
モールにいる客を淡々と眺める。仲の良さそうなカップルが、クレドリックの目の前を通り過ぎていく。クレドリックは少し憂鬱そうにため息をついた。
(私はロアと二人でも良かったんだがな……)
クレドリックの心境は複雑だ。
その時、カツ、と近くで靴音がした。
クレドリックが振り向く。
「……」
そこには、落ち着かない様子で眼鏡をかけ直して、少し居心地悪そうにしているリヒャルトの姿があった。
無言で軽く会釈をし合うクレドリックとリヒャルトだったが、それ以上の会話には特に発展しない。
(ロアではなかった……)
落胆するクレドリック。
(うう……プレッシャーが)
気圧されるリヒャルト。
待ち合わせ場所には、重苦しい空気が漂っていた。
「クレちゃん! リヒャ君!」
モールの人混みの中から、ロアの声が聞こえてくる。
「二人とも早いね。もう待ち合わせ場所に来てたんだ」
ロアの登場により、二人の精霊の間に漂っていた気まずい空気が晴れていく。
「クレちゃんの家って研究室も兼ねてるからかもだけど、だだっ広い割にちょっと寂しげなんだよね」
なので、モールでは主にパーティーの飾りを買うことにした。クリスマスの飾りを扱う特設コーナーへ三人で向かう。
「わあ。この飾りつけ一式セットって良いね。これを買おうか」
ロアが目をとめたのは、クリスマスらしい小物数種類がまとめて入れられた袋だった。
赤と緑の文字や雪の結晶の形に切り抜かれたペーパークラフト。
金色と銀色のふさふさがついたガーランド。
テーブルの上に置けそうなミニチュアのツリーの小物。
それらが、サンタの袋を模した可愛らしい包みにまとめられている。
「ふむ。……これはなかなか可愛らしい」
「へえ、けっこう色々入っているんですね。良いんじゃないですか? ま、まあ、僕にはよくわかりませんけどっ」
「うん。それにもうセットになってるから、飾り一つ一つの組み合わせや色合いを考えて選ぶ手間が省けるね。面倒じゃなさそうなところが気に入ったよ」
「……え……そういう理由ですか?」
リヒャルトが少し呆れた顔で力なくツッコミを入れる。
ロアは常識人なのだが、ちょっと面倒くさがり屋なところがあった。
他にも、お手軽な飾りのセットを必要な分購入する。
ロアの荷物持ちをしながら、クレドリックはチラリとリヒャルトの様子をうかがう。リヒャルトはカメレオンの特徴を持つテイルスで、くるんとした尻尾がはえていた。
(……珍しいから少々興味がある)
好奇心から、観察するような鋭い眼差しをリヒャルトへ向ける。カメレオンのテイルスなら、いったい耳はどうなっているのだろう? 諸々と気になることが多い。クレドリックは興味のおもむくままに、ひたすらジーっと見て観察をする。
(し、視線を感じる……!)
クレドリックの容赦無い凝視にさらされて、だんだんと顔色と尻尾が青くなっていくリヒャルト。
(前は遠目から見ただけだけど……この人目つき常人じゃなさそう、ロアちゃんとんでもない精霊と契約してるかも……!?)
リヒャルトがもし本物のカメレオンだったなら、体を保護色に変えて今すぐ隠れることができるのに。
(ちょ、みつめられるとマジ怖いって)
リヒャルトの顔色とクレドリックの視線の先を見て、ロアは状況を把握したようだ。
「クレちゃん……まだリヒャ君に慣れてないからって、じっと観察するのやめてあげようよ……」
ロアに助け舟を出されてしまった。リヒャルトとしては、ありがたさが半分と恥ずかしさが半分だ。
「べ、別に怖がってなどいませんよ。同じ仲間ですし、貴方ぐらいどうということもありません」
「……」
演技の基礎を身につけているクレドリックの目には、リヒャルトの強気な態度と憎まれ口は下手っぴな芝居に映った。
体裁を整えるように軽く咳払いをしてから、真面目な表情を作るリヒャルト。
「……ロア、重いでしょう。貸しなさい」
モールで買った荷物をロアから受け取る。
「ありがとう。荷物持ちに男二人いると便利……!」
ロアとリヒャルトのやりとりをクレドリックは黙って見つめていた。
(ロアにつんけんした態度だが、端々優しい……好意を抱いているのだろうか)
クレドリックはリヒャルトの挙動から、そう分析する。
(ロアがつらい思いをしているようなら、どうにかしようかと思ったのだが、杞憂だったようだ)
どうにかするとは具体的にどういう手段をとるつもりなのか……。
サラリと恐ろしいことを考えるクレドリックであった。
モールから家へと向かう道を歩く三人。横に広がって歩くのは周りに迷惑だろうという常識人ロアの判断で、縦一列で歩道を進んでいる。
前をゆくロアとリヒャルトの背中を見ながら、黙々と歩くクレドリック。一瞬だけ立ち止まる。
(そう、私の杞憂だった……だが胸が痛む)
●おうちで食後の時間
三人でクレドリックの家を賑やかに飾りつけた後、パーティーのごちそうを味わった。今はのんびりとした食後の時間だ。
(パーティー、なんだかんだで楽しかったな……)
リヒャルトの表情がゆるみ、柔らかくなる。
が、軽く首を振ってすぐに厳しい顔つきへと戻る。
(とはいっても、そんな事でほだされる僕では無い。ロアちゃんは僕のことを忘れてこのクレドリックと契約を交わしてたんだ……)
キッと険しい眼差しで、ロアとクレドリックを睨みつける。
自分はロアに忘れられ捨てられた。リヒャルトはそんな風に考えてしまう。悔しさで、手をきつく握る。左手に浮かぶウィンクルムの赤い紋章が視界に入った。自分ではなく、クレドリックが先にロアと契約した。けして覆せないその事実が、リヒャルトの心を曇らせる。
(そうだ! パーティー? こんなことをしても、僕の傷ついた心は簡単には癒やされないんだ……)
ここでロアがにこやかにトランプを取り出した。
「ねえ、皆でゲームしよう。トランプで勝負だよ」
「ゲームかね? 負ける気はしないのだよ」
「仕方がないですね! 僕も余興につきあってあげましょう」
トランプ勝負は大いに盛り上がった。
まずリヒャルトが本気を出した。表情やトランプを扱う手つきが、いちいち無駄に気合が入っている。
しかし、トランプは運の要素が強いゲーム。本気で挑んではみたものの、なかなかリヒャルトに勝ちが回ってこない。
「ふふ。真剣勝負だね、リヒャ君」
悪戦苦闘しているリヒャルトを見て、ほのぼの笑顔を浮かべるロア。
クレドリックは途中でテンションが上がったのか、厨二オーラあふれるセリフと笑い声が溢れ出た。
「ク、クレちゃん……。強烈すぎるよ」
ドン引きするロアと、内心怯えるリヒャルト。
てんやわんやな流れだが、ゲームを通して三人に不思議な一体感が芽生え始める。
ゲームを終えた頃には、自然と打ち解けた空気になっていた。
「色々あったけど、親睦も深まったし楽しかったなー」
ロアの言葉に、クレドリックもコクリと頷く。
リヒャルトはわざと気難しそうな顔で腕組みをしていたが、ロアに対する忘れられたという恨みや、クレドリックへの苦手意識が以前よりもだいぶ薄らいでいた。
「そうだ。二人にプレゼントを渡すね」
そう言ってロアが取り出したのは……。
「手編みの……手袋……?」
クレドリックは少し驚いたように目をパチパチさせた。
「あ、温かそう……。っ! 寒い季節なので、実用的な道具なのではないでしょうか」
ロアからプレゼントを手渡され、リヒャルトはつい笑顔になってしまう。ツンツンとした言葉で慌ててごまかした。ふいっと顔をそむけたが、ロアからもらった手袋は大事そうに胸の前で抱えている。
「ちょっと歪だけど頑張ったんだよ」
「よく出来ていると思う」
さっそく手袋をつけてみるクレドリック。毛糸のぬくもり。ふわりと温かい気持ちになった。
「クレちゃんのが黒で、リヒャ君のが緑! 私のが紫で三人おそろいだよ」
それぞれのイメージにピッタリの色だ。
紫、という言葉にリヒャルトが反応する。
「その……僕からも渡しておくものがあります、一応……。気に入らなければ、別に捨ててしまっても構いませんけどね」
ロアに対して、まだ少し思うところのあるリヒャルトは「捨てて」という部分をわざと強調して言ってみせた。
だがロアの反応は、あくまでも柔和なもの。
「せっかくのプレゼントなのに、そんなことしないってば」
「……それじゃ……どうぞ」
あくまでも素っ気ない態度を演じながら、リヒャルトはロアにマニキュアをプレゼントした。それは、ロアの瞳の色と同じ紫の色。
「あ、瓶のデザインが可愛い。それに、キレイな色」
嬉しそうに顔をほころばせるロアの笑顔が眩しすぎて、リヒャルトは視線をそらした。
「ああ。私も贈り物があるのだよ。ロア、受け取ってほしい」
クレドリックが渡したのは口紅だ。深紅の色がつややかで美しい。
「この口紅を塗ったら、私も大人っぽく変身できそうだね」
肌の色が白くて、黒い髪のロアには、鮮やかな赤もよく似合うだろう。たしかそんな童話があったはずだ、とクレドリックは思いを馳せる。
「マニュキュアに口紅……ありがとう」
リヒャルトとクレドリック。それぞれの目をしっかりと見て、ロアはプレゼントのお礼を言う。メイクの腕を極めているロアにとって、お化粧品には特別な思い入れがあった。
「そうだ、リヒャルト。プレゼントがあるのだよ」
「……え!?」
予想外の相手からの思いもしない発言に、驚きを隠せないリヒャルト。本来は丸まっているカメレオンの尻尾が、ビックリしたせいでピーンとまっすぐに伸びた。
冷や汗をかいているリヒャルトに、ロアが苦笑まじりで優しい声をかける。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、リヒャ君」
クレドリックがリヒャルトに手渡したのは……。
「これは……クッキーの詰め合わせですね。見たところ、手作り品のようですが」
まさか、というようにリヒャルトがクレドリックを見る。
「私が作ったのだよ」
「ええっ!? て、手作り? これを?」
ファンシーなクッキーと目の前にいるクレドリック。信じられないといった表情で、何度も見比べるリヒャルト。
のどかな声でロアが説明する。
「クレちゃんって意外と可愛いものが好きだよね。絵とか文字とか、可愛いし」
「そうかね?」
「……なんというか、ギャップが凄まじ……いいえ、なんでもありません。このクッキー、いただいておきますね。……ありがとうございます」
クレドリックの家で開かれたクリスマスパーティーは、和やかな空気に包まれておひらきとなった。
タブロス・モールの中。指定された待ち合わせ場所で『クレドリック』は一人静かに佇んでいた。
「……」
待ちながら思うのは、今日のパーティーとその参加者のことだ。
神人『ロア・ディヒラー』と契約をかわした二人目の精霊は、なんと彼女の小学校時代の幼なじみの『リヒャルト』だった。再会を喜ぶロアだったが、冷たい態度をとるリヒャルト。なんだか彼は、ロアに対して怒っているようだ。
そんなリヒャルトをまじえて、本日クレドリックの家でクリスマスパーティーを開くことになった。
(新しい精霊のリヒャルトもくるらしい……)
ロアの言葉を回想するクレドリック。
今年はリヒャ君もいるし、さらに賑やかで楽しくなるんじゃないか。クレドリックにこのパーティーの計画を持ちかけた時、ロアはそう言っていた。
(親睦を深めるのと、三人の方が楽しいらしいが)
モールにいる客を淡々と眺める。仲の良さそうなカップルが、クレドリックの目の前を通り過ぎていく。クレドリックは少し憂鬱そうにため息をついた。
(私はロアと二人でも良かったんだがな……)
クレドリックの心境は複雑だ。
その時、カツ、と近くで靴音がした。
クレドリックが振り向く。
「……」
そこには、落ち着かない様子で眼鏡をかけ直して、少し居心地悪そうにしているリヒャルトの姿があった。
無言で軽く会釈をし合うクレドリックとリヒャルトだったが、それ以上の会話には特に発展しない。
(ロアではなかった……)
落胆するクレドリック。
(うう……プレッシャーが)
気圧されるリヒャルト。
待ち合わせ場所には、重苦しい空気が漂っていた。
「クレちゃん! リヒャ君!」
モールの人混みの中から、ロアの声が聞こえてくる。
「二人とも早いね。もう待ち合わせ場所に来てたんだ」
ロアの登場により、二人の精霊の間に漂っていた気まずい空気が晴れていく。
「クレちゃんの家って研究室も兼ねてるからかもだけど、だだっ広い割にちょっと寂しげなんだよね」
なので、モールでは主にパーティーの飾りを買うことにした。クリスマスの飾りを扱う特設コーナーへ三人で向かう。
「わあ。この飾りつけ一式セットって良いね。これを買おうか」
ロアが目をとめたのは、クリスマスらしい小物数種類がまとめて入れられた袋だった。
赤と緑の文字や雪の結晶の形に切り抜かれたペーパークラフト。
金色と銀色のふさふさがついたガーランド。
テーブルの上に置けそうなミニチュアのツリーの小物。
それらが、サンタの袋を模した可愛らしい包みにまとめられている。
「ふむ。……これはなかなか可愛らしい」
「へえ、けっこう色々入っているんですね。良いんじゃないですか? ま、まあ、僕にはよくわかりませんけどっ」
「うん。それにもうセットになってるから、飾り一つ一つの組み合わせや色合いを考えて選ぶ手間が省けるね。面倒じゃなさそうなところが気に入ったよ」
「……え……そういう理由ですか?」
リヒャルトが少し呆れた顔で力なくツッコミを入れる。
ロアは常識人なのだが、ちょっと面倒くさがり屋なところがあった。
他にも、お手軽な飾りのセットを必要な分購入する。
ロアの荷物持ちをしながら、クレドリックはチラリとリヒャルトの様子をうかがう。リヒャルトはカメレオンの特徴を持つテイルスで、くるんとした尻尾がはえていた。
(……珍しいから少々興味がある)
好奇心から、観察するような鋭い眼差しをリヒャルトへ向ける。カメレオンのテイルスなら、いったい耳はどうなっているのだろう? 諸々と気になることが多い。クレドリックは興味のおもむくままに、ひたすらジーっと見て観察をする。
(し、視線を感じる……!)
クレドリックの容赦無い凝視にさらされて、だんだんと顔色と尻尾が青くなっていくリヒャルト。
(前は遠目から見ただけだけど……この人目つき常人じゃなさそう、ロアちゃんとんでもない精霊と契約してるかも……!?)
リヒャルトがもし本物のカメレオンだったなら、体を保護色に変えて今すぐ隠れることができるのに。
(ちょ、みつめられるとマジ怖いって)
リヒャルトの顔色とクレドリックの視線の先を見て、ロアは状況を把握したようだ。
「クレちゃん……まだリヒャ君に慣れてないからって、じっと観察するのやめてあげようよ……」
ロアに助け舟を出されてしまった。リヒャルトとしては、ありがたさが半分と恥ずかしさが半分だ。
「べ、別に怖がってなどいませんよ。同じ仲間ですし、貴方ぐらいどうということもありません」
「……」
演技の基礎を身につけているクレドリックの目には、リヒャルトの強気な態度と憎まれ口は下手っぴな芝居に映った。
体裁を整えるように軽く咳払いをしてから、真面目な表情を作るリヒャルト。
「……ロア、重いでしょう。貸しなさい」
モールで買った荷物をロアから受け取る。
「ありがとう。荷物持ちに男二人いると便利……!」
ロアとリヒャルトのやりとりをクレドリックは黙って見つめていた。
(ロアにつんけんした態度だが、端々優しい……好意を抱いているのだろうか)
クレドリックはリヒャルトの挙動から、そう分析する。
(ロアがつらい思いをしているようなら、どうにかしようかと思ったのだが、杞憂だったようだ)
どうにかするとは具体的にどういう手段をとるつもりなのか……。
サラリと恐ろしいことを考えるクレドリックであった。
モールから家へと向かう道を歩く三人。横に広がって歩くのは周りに迷惑だろうという常識人ロアの判断で、縦一列で歩道を進んでいる。
前をゆくロアとリヒャルトの背中を見ながら、黙々と歩くクレドリック。一瞬だけ立ち止まる。
(そう、私の杞憂だった……だが胸が痛む)
●おうちで食後の時間
三人でクレドリックの家を賑やかに飾りつけた後、パーティーのごちそうを味わった。今はのんびりとした食後の時間だ。
(パーティー、なんだかんだで楽しかったな……)
リヒャルトの表情がゆるみ、柔らかくなる。
が、軽く首を振ってすぐに厳しい顔つきへと戻る。
(とはいっても、そんな事でほだされる僕では無い。ロアちゃんは僕のことを忘れてこのクレドリックと契約を交わしてたんだ……)
キッと険しい眼差しで、ロアとクレドリックを睨みつける。
自分はロアに忘れられ捨てられた。リヒャルトはそんな風に考えてしまう。悔しさで、手をきつく握る。左手に浮かぶウィンクルムの赤い紋章が視界に入った。自分ではなく、クレドリックが先にロアと契約した。けして覆せないその事実が、リヒャルトの心を曇らせる。
(そうだ! パーティー? こんなことをしても、僕の傷ついた心は簡単には癒やされないんだ……)
ここでロアがにこやかにトランプを取り出した。
「ねえ、皆でゲームしよう。トランプで勝負だよ」
「ゲームかね? 負ける気はしないのだよ」
「仕方がないですね! 僕も余興につきあってあげましょう」
トランプ勝負は大いに盛り上がった。
まずリヒャルトが本気を出した。表情やトランプを扱う手つきが、いちいち無駄に気合が入っている。
しかし、トランプは運の要素が強いゲーム。本気で挑んではみたものの、なかなかリヒャルトに勝ちが回ってこない。
「ふふ。真剣勝負だね、リヒャ君」
悪戦苦闘しているリヒャルトを見て、ほのぼの笑顔を浮かべるロア。
クレドリックは途中でテンションが上がったのか、厨二オーラあふれるセリフと笑い声が溢れ出た。
「ク、クレちゃん……。強烈すぎるよ」
ドン引きするロアと、内心怯えるリヒャルト。
てんやわんやな流れだが、ゲームを通して三人に不思議な一体感が芽生え始める。
ゲームを終えた頃には、自然と打ち解けた空気になっていた。
「色々あったけど、親睦も深まったし楽しかったなー」
ロアの言葉に、クレドリックもコクリと頷く。
リヒャルトはわざと気難しそうな顔で腕組みをしていたが、ロアに対する忘れられたという恨みや、クレドリックへの苦手意識が以前よりもだいぶ薄らいでいた。
「そうだ。二人にプレゼントを渡すね」
そう言ってロアが取り出したのは……。
「手編みの……手袋……?」
クレドリックは少し驚いたように目をパチパチさせた。
「あ、温かそう……。っ! 寒い季節なので、実用的な道具なのではないでしょうか」
ロアからプレゼントを手渡され、リヒャルトはつい笑顔になってしまう。ツンツンとした言葉で慌ててごまかした。ふいっと顔をそむけたが、ロアからもらった手袋は大事そうに胸の前で抱えている。
「ちょっと歪だけど頑張ったんだよ」
「よく出来ていると思う」
さっそく手袋をつけてみるクレドリック。毛糸のぬくもり。ふわりと温かい気持ちになった。
「クレちゃんのが黒で、リヒャ君のが緑! 私のが紫で三人おそろいだよ」
それぞれのイメージにピッタリの色だ。
紫、という言葉にリヒャルトが反応する。
「その……僕からも渡しておくものがあります、一応……。気に入らなければ、別に捨ててしまっても構いませんけどね」
ロアに対して、まだ少し思うところのあるリヒャルトは「捨てて」という部分をわざと強調して言ってみせた。
だがロアの反応は、あくまでも柔和なもの。
「せっかくのプレゼントなのに、そんなことしないってば」
「……それじゃ……どうぞ」
あくまでも素っ気ない態度を演じながら、リヒャルトはロアにマニキュアをプレゼントした。それは、ロアの瞳の色と同じ紫の色。
「あ、瓶のデザインが可愛い。それに、キレイな色」
嬉しそうに顔をほころばせるロアの笑顔が眩しすぎて、リヒャルトは視線をそらした。
「ああ。私も贈り物があるのだよ。ロア、受け取ってほしい」
クレドリックが渡したのは口紅だ。深紅の色がつややかで美しい。
「この口紅を塗ったら、私も大人っぽく変身できそうだね」
肌の色が白くて、黒い髪のロアには、鮮やかな赤もよく似合うだろう。たしかそんな童話があったはずだ、とクレドリックは思いを馳せる。
「マニュキュアに口紅……ありがとう」
リヒャルトとクレドリック。それぞれの目をしっかりと見て、ロアはプレゼントのお礼を言う。メイクの腕を極めているロアにとって、お化粧品には特別な思い入れがあった。
「そうだ、リヒャルト。プレゼントがあるのだよ」
「……え!?」
予想外の相手からの思いもしない発言に、驚きを隠せないリヒャルト。本来は丸まっているカメレオンの尻尾が、ビックリしたせいでピーンとまっすぐに伸びた。
冷や汗をかいているリヒャルトに、ロアが苦笑まじりで優しい声をかける。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、リヒャ君」
クレドリックがリヒャルトに手渡したのは……。
「これは……クッキーの詰め合わせですね。見たところ、手作り品のようですが」
まさか、というようにリヒャルトがクレドリックを見る。
「私が作ったのだよ」
「ええっ!? て、手作り? これを?」
ファンシーなクッキーと目の前にいるクレドリック。信じられないといった表情で、何度も見比べるリヒャルト。
のどかな声でロアが説明する。
「クレちゃんって意外と可愛いものが好きだよね。絵とか文字とか、可愛いし」
「そうかね?」
「……なんというか、ギャップが凄まじ……いいえ、なんでもありません。このクッキー、いただいておきますね。……ありがとうございます」
クレドリックの家で開かれたクリスマスパーティーは、和やかな空気に包まれておひらきとなった。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
リザルト筆記GM | 山内ヤト GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | あき缶 GM |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2015年12月2日 |