プロローグ
クリスマスを、ことごとく破壊しようとするダークニスの企み――ウィンクルム達は、次々と入ってくる事件の通報に、日々緊張していた。
「皆さん、クリスマス諦めてませんか?」
A.R.O.A.の受付女性職員は、依頼の一覧を眺めて浮かない顔のウィンクルムに、頬をふくらませる。
「だって、こんなときに……」
「こんなときだからこそ、ですよ!」
ぐっと両手を握りしめ、職員は大きな声で言い返した。
「オーガと戦うウチまでが、クリスマスどころじゃないなぁーみたいな顔してちゃダメッ! 絶対ダメ!
そんなの、ダークニスの思う壺じゃないですかっ」
確かにいま、サンタクロースは囚われの身だ。でも、サンタがいなくたって、暖かなクリスマスにできるはず。
「奴の企みなんて笑い飛ばせるような、楽しいクリスマスに、自分たちからしていきましょうよ」
と力説する職員に、言いたいことはわかるけれど……とウィンクルムは顔を見合わせた。
「でも、今何処に行っても、『黒き宿木の種』があるかもしれなくて、仕事モードになってしまいそうだよ」
精霊は眉をひそめる。
しかし、職員はめげない。笑顔をやめない。
「何言ってるんですか。絶対安全な場所があるでしょ」
「えっ?」
――どこだろう?
神人が考えこむが、答えが出てこない。
「もー、すぐそばにあるじゃないですか。本当に幸福の青い鳥って身近にあるものなんですって」
焦れったげな職員だが、ウィンクルムはとうとう自力では答えが見つからず、
「うー、降参。どこ?」
と白旗を揚げた。
すると職員は満面の笑みを浮かべて、弾んだ声で答えを教えてくれた。
「ふふっ、それはね、あなたの自宅ですよっ♪」
なるほど、確かにそれはすぐそばすぎて、気付かなかった。
確かにウィンクルムの自宅にまでは、オーガの魔の手は及ばない。
「A.R.O.A.本部周辺は政府の重要機関が多いですから、滅多なことでオーガに侵入されない結界的なものが張ってあります。
ここらへんも安全圏ですけどね」
本部の近くには、つい最近、超大型ショッピングモール『タブロス・モール』が出来たばかりだ。
ノースウッドのマルクトシュネーには劣るだろうが、自宅でのクリスマスパーティーに必要な物ならだいたい揃うだろうし、
相手へのプレゼントを買うにもよさそうだ。
パーティーの相談を始めたウィンクルムを見て、職員はホッとしたように微笑むと、助言をしてくれた。
「そうそう、あのモールの中央広場には、ガラスのツリーが設置されてるんです。
ツリーに願い事を書いた紙を吊るしましょうっていうイベントもやってるらしいですよ」
モールで買い物をして、あたたかな自宅でパーティー。そんなインドアなクリスマスもきっと素敵な思い出になるだろう。
プラン
アクションプラン
西園寺優純絆 (ルーカス・ウェル・ファブレ) (十六夜和翔) |
|
☆ファブレ家に一緒に住んでいる ☆2と3 ☆準備 ・料理を作るのを手伝ったり運んだりする 「パパ、カズちゃん今日はクリスマスなのだよ! パーティーなのだよ! ユズは料理長やメイドさん達と一緒に料理の手伝いしてくるもんね! パパ達は部屋とツリーの飾り付け担当!」 ☆ディナー 「えへへ♪カズちゃんと初めて過ごすクリスマスだからね! 頑張っちゃいました(ニコニコ うんそうだね! それじゃイスに座って… 頂きますなのだよー! (黙々と豪華な料理とジュースに舌鼓 うんやっぱ料理長さんのお料理は宇宙一美味しいのだよ♪ きゃぁ! カズちゃんコレ飲んで!(ジュース渡す もう、びっくりしたのだよ! 料理は逃げないから! デザートはケーキだからねー!」 |
リザルトノベル
一年が経つというのはあっという間で、気がつけばカレンダーの日付は12月25日を書き記していた。
たたたたっ! と廊下を駆けるような早歩きをしているような音が近づいて来て、ルーカス・ウェル・ファブレが襖の方に視線を移すと、ぱたんと襖が開け放たれ、金色の髪がふわりと舞う。
急いでこちらに向かってきたのだろう、西園寺優純絆はやや乱れた呼吸を繰り返した後、乱れた髪を整えてルーカスに天真爛漫な笑顔を向ける。
「パパ、カズちゃん! 今日はクリスマスなのだよ! パーティーなのだよ!」
心底嬉しそうな表情を浮かべる息子に、ルーカスが柔らかな笑顔を向けながら、
「もうそんな季節ですか、早いですねぇ……」
庭から見える雪景色をふと見て、ルーカスは遠い目をする。子供達がどう感じているかはわからないが、歳を取ると時間が経つのが早い。
同じくして時間が経つのが早く感じる、ということに楽しいことをしていることというものが上げられるが、ルーカスはまさに今現在、その状態にも幸せながら陥っているのだった。
新しく家族として加わった、息子――十六夜和翔が来てからというもの、以前にも増して毎日が色付き、とても楽しくて仕方がない。
クリスマスに反応していることを隠さず、素直に表現する優純絆とは対照的に、和翔はクリスマスなど、今知ったと言う風に装っている。
「そっかそっか、もうクリスマスか~」
すっ呆ける和翔に、笑みが零れかけるが、子供の自尊心を傷つけてはいけない、とルーカスは咳払いをする振りをしてごまかした。
和翔がクリスマスに気づいていない振りをしているのを気づいているのかいないのか、優純絆は満面の笑みのまま、
「ユズは料理長やメイドさん達と一緒に料理の手伝いしてくるもんね!」
と言い、廊下を早歩きで進んでいってしまった。
……かと思いきや、ひょっこりと風のようにもう一度舞い戻ってきた優純絆が、
「パパ達は部屋とツリーの飾り付け担当!」
部屋の片隅に整理されていた、飾り付け用の装飾品を横目で確認した後、ルーカスは首肯しながら、優しく注意をする。
「えぇ分かりました、怪我には気を付けてやるんですよ?」
「はーい!」
元気な返事をしながら、片手をあげる優純絆。
すると、部屋の片隅に片付けられていたクリスマス用の装飾品を手に取りながら、あたかも仕方なさそうにして、和翔が溜息混じりに、
「……ったく! しょうがねぇから俺様も手伝ってやるよ」
「うん、お願いね、カズちゃん!」
優純絆に、にこやかな笑顔を向けられた和翔は、頬に朱を差してそっぽに視線を逸らして捲くし立てるように叫んだ。
「べっ、別に今迄クリスマスをした事無いから楽しみとか思ってねぇからな!?」
と、和翔が言いたいことを早口で言い終わり、視線を戻すと、そこにはすでに優純絆の姿はなく、どうやら台所へ手伝いをするためすっ飛んでいったようだ。
和翔は顔を真っ赤にして、ぶつけ様のない恥ずかしさを発散するようにして、キチンを閉められた襖を、ばっ! と開け放ち、叫ぶ。
「父さんだけに任せたら大変だから手伝うだけだからぁぁぁぁ!」
恐らくもう聞こえてはいないだろうが、和翔の気持ちは幾分がすっきりとした。
はぁ、はぁと荒い息を繰り返してルーカスの横に座る和翔は、クリスマスの装飾を今一度確認して、見るからに目を輝かせる。
しかし、ルーカスの視線に気がついて、はっとしたように表情を真面目な顔に作り変えて、
「ク、クリスマスって片付け大変そうだよな! ツリーも片付けなきゃいけないし、こんなに飾りを出したら仕舞うのも大変だ!」
「そうかもしれませんね」
照れ隠しだとわかっているので、ルーカスは微笑みながら和翔に語りかける。
「でもね、カズ。クリスマスはいい子にしてるとサンタから寝てる間にプレゼントを置いて行くんです」
『サンタ』、『プレゼント』という単語を耳にして、和翔は興奮した表情を隠すことなくルーカスに視線を移した。
「プレゼント!? マジで!?」
目をキラキラと輝かせるその姿は、歳相応で、とても可愛らしく思える。こんなことを本人に言ったら怒ってしまうだろうから言わないが、一言で言うと愛らしい。
和翔はさらに『サンタ』という単語に反応し、
「サンタって、そんないいヤツなのか!?」
「ええ、そうですよ。いい子にしてる子には、とても良い方です」
笑みを溢しながら、ルーカスが頷く。
「なな、父さんはサンタに会ったことがあるのか!?」
突然の確信を突くような質問に、ルーカスはしばし思い返す振りをしつつ考え、
「つい先日、ユズとカズのプレゼントについて話し合いました」
「ま、マジでっ!?」
尊敬と興奮、羨望が入り混じったような視線で、和翔がルーカスを食い入るように見つめる。
「そ、そうか、プレゼントかぁ!」
期待と不安を膨らませているのか、顔色が明るくなったり暗くなったりしている和翔に、ルーカスは優しく、
「何が貰えるか楽しみですね」
和翔は素直な笑顔のまま、心底楽しみだというように、
「あぁ楽しみだぜ!」
子供は帰る時間だよ、と知らせるチャイムが街に響き渡り、辺りは夜の帳に包まれつつあった。
部屋の片づけを終え、和翔と話していたルーカスは、優純絆に呼ばれて居間へと向かう。
そわそわしている和翔と共に、ルーカス自身も楽しみながら、居間への襖を開けた。
すると、
「じゃっじゃじゃあぁ~んっ!」
お辞儀をするメイドの横に立つ優純絆が、テーブルを両手でばっと差して嬉しそうに笑う。
優純絆の両手が差しているテーブルを見れば、そこには豪華としか形容できない料理がテーブルの上に所狭しと並べられていた。
「えへへ♪ カズちゃんと初めて過ごすクリスマスだからね! 頑張っちゃいました!」
満面の笑みで優純絆がにこにこと笑いながら、えっへんと可愛くポーズをとって見せた。
「おやおやコレは……凄い豪華ですねぇ……」
ルーカスは目を見開きながら、和翔はというと、あんぐりと口を開けて固まっていた。
「あれ? カズちゃん、どうしたの? 嫌いなもの、あった?」
優純絆が心配そうに和翔の顔を覗き込もうとすると、機能停止していた和翔のスイッチが突如としてオンとなり、
「ふぉぉおお!」
興奮をそのまま言葉に表したような、雄たけびをあげ、無邪気に料理に駆け寄った。
「ユズも料理長達もすっげー! 俺様こんな豪華な料理見た事ねぇ!」
和翔は、尊敬の眼差しを優純絆と料理長達に向けた後、豪華絢爛な料理達をまるで宝石でも見るかのように眺める。
「流石ユズ達です」
そう言い、ルーカスは料理長とメイド達に礼を述べ、優純絆の頭を優しく撫でた。
「よく頑張りましたね」
「えへへ~」
家宝を見るかのように料理に張り付いていた和翔だったが、やはり見るよりも食べたいという欲求が勝ったようで、
「なぁなぁ早く食おうぜ!?」
「うん、そうだね!」
「そうですね、冷めない内に頂きましょうか」
待ち切れなさそうにしつつも、しっかりとつまみ食いをしないで待っている和翔を見て、待たせるのも悪いので、ルーカスが席に着く。
「それじゃイスに座って……」
「おう!」
恐るべき程素直に、和翔が席に座り、どれから食べ始めようかと目を輝かせる。
「頂きますなのだよー!」
「では、いただきます」
「頂きます!!」
三人は豪華な料理達の目の前で手を合わせ、食事をはじめる挨拶をそれぞれ述べた。
一番初めに料理に口をつけたのは、和翔だった。ガツガツという擬音がこれほど正しく当てはまる場面もそうそうないだろうといった様子で、料理を掻き込んでいる。
「うっめぇ! 俺様、こんな豪華なもん初めて食べた!」
今日一番の幸せそうな表情で、和翔がほとんど叫ぶように言い放った。
これだけおいしく食べてくれれば、料理を作った側も嬉しいというものだ。
ルーカスは、ターキーやグラタンをナイフで上品に切り分けて口に運び、飲み込んだ後にワインを一口飲んだ。
そして、こぼれるような微笑みを浮かべて、
「とても美味しいですねぇ」
幸せそうに呟いた。
優純絆はというと、黙々と豪華な料理とジュースに舌鼓をして、
「うん、やっぱ料理長さんのお料理は宇宙一美味しいのだよ♪」
と、こちらも幸せそうに、蕩けるような表情で笑顔を浮かべる。
さらに食べるスピードをあげ、頬をリスのようにしている和翔が、大きく切り分けたターキーを咀嚼して飲み込み、
「クリスマス最高だな!」
と、立て続けに料理を口に運びこむ。
噛んではいるのだろうが、少し口に掻き込みすぎだ。
「カズ、そんなに勢い良く食べると……」
心配して、ルーカスが和翔に声をかけると、
「……っ!?」
突然和翔の食べる手が止まり、顔が青くなる。料理を詰め込みすぎて、喉に詰まらせたのだ。
「あぁほら言わんこっちゃない」
ルーカスが心配そうに和翔に寄り添い、背中を強めに叩く。
「きゃぁ! カズちゃんコレ飲んで!」
優純絆が飲んでいたジュースのグラスを手渡して、和翔も藁にもすがるようにジュースを飲み込む。
ゴクゴクとジュースを飲み込むと、料理がちゃんと流れたようだ。
ルーカスが心配そうに和翔の顔色を覗き込みながら、
「次からはゆっくり味わって食べるんですよ?」
と優しいながらも、いつもより少し強めの語調で戒める。
「もう、びっくりしたのだよ!」
優純絆は、和翔にやや怒った口調で腰に手をあてながら言い放ち、
「料理は逃げないからっ!」
と戒めた。
二人に戒められた和翔は、喉に詰まらせたことも合間って少ししゅんとしながら、
「……っはぁ! ゆっくり味わって食べる……」
と、和翔は喉に詰まらせたことで涙目になりつつも、ローストビーフにフォークを伸ばした。それでもなお食べようとする気概をみせることは、誠に天晴れという他ない。
ルーカスもその食べっぷりに安堵したのか、食事を続け、優純絆もカルパッチョにフォークを伸ばす。
和翔がとてつもない勢いで食べ進めたとはいえ、まだ料理はたくさんある。
食事を続けていると、カルボナーラの赤いベーコンと白いソースから連想したのか、優純絆がはたと思い出したように、
「そうそう、デザートはケーキだからねー!」
からん、とその一言で何かが落ちた音がした。和翔のフォークだ。
「え、こんな豪華な料理のあとに、まだケーキがあるのか!?」
「それも、とっても上手に出来たんだよ!」
ケーキを思い出しつつ、優純絆が笑顔で和翔に言う。
「とっても大きて、おいしいケーキ! パパもカズちゃんもきっと気に入るよ!」
「それは楽しみですね」
半熟卵のオムレツをナイフで丁寧に切り分けていた手を止めて、ルーカスも優純絆の身振りを見て目を丸くする。
和翔は、優純絆がジェスチャーしたケーキの大きさを脳内でどれくらいか考えているようで、またしてもフリーズ状態に陥った。
そして、ケーキの大きさを識別することが出来たようで、
「マジでっっ!?!?!?!?!?」
と、一際大きい声で食い入るように叫んだ。
ただ、どうも興奮しすぎてしまったのか、和翔の声がいつもより高くなっていた。
あまりの興奮に、声が裏返ってしまったのだ。
堪えきれずに優純絆とルーカスが笑みを溢し、顔を見合わせてしまった! という表情を形作る。
気を悪くしてしまったか、と二人で恐る恐るといった調子で和翔の表情を伺うと、
「声、裏返っちまった!」
と、和翔は顔を真っ赤にして照れつつも、二人と同じように笑顔を浮かべて笑った。
三人の笑い声が暖かく食卓を囲み、クリスマスの夜は更けてゆく。
さて、サンタさんは優純絆と和翔に、
一体どんなプレゼントを持ってくるのでしょうか?
たたたたっ! と廊下を駆けるような早歩きをしているような音が近づいて来て、ルーカス・ウェル・ファブレが襖の方に視線を移すと、ぱたんと襖が開け放たれ、金色の髪がふわりと舞う。
急いでこちらに向かってきたのだろう、西園寺優純絆はやや乱れた呼吸を繰り返した後、乱れた髪を整えてルーカスに天真爛漫な笑顔を向ける。
「パパ、カズちゃん! 今日はクリスマスなのだよ! パーティーなのだよ!」
心底嬉しそうな表情を浮かべる息子に、ルーカスが柔らかな笑顔を向けながら、
「もうそんな季節ですか、早いですねぇ……」
庭から見える雪景色をふと見て、ルーカスは遠い目をする。子供達がどう感じているかはわからないが、歳を取ると時間が経つのが早い。
同じくして時間が経つのが早く感じる、ということに楽しいことをしていることというものが上げられるが、ルーカスはまさに今現在、その状態にも幸せながら陥っているのだった。
新しく家族として加わった、息子――十六夜和翔が来てからというもの、以前にも増して毎日が色付き、とても楽しくて仕方がない。
クリスマスに反応していることを隠さず、素直に表現する優純絆とは対照的に、和翔はクリスマスなど、今知ったと言う風に装っている。
「そっかそっか、もうクリスマスか~」
すっ呆ける和翔に、笑みが零れかけるが、子供の自尊心を傷つけてはいけない、とルーカスは咳払いをする振りをしてごまかした。
和翔がクリスマスに気づいていない振りをしているのを気づいているのかいないのか、優純絆は満面の笑みのまま、
「ユズは料理長やメイドさん達と一緒に料理の手伝いしてくるもんね!」
と言い、廊下を早歩きで進んでいってしまった。
……かと思いきや、ひょっこりと風のようにもう一度舞い戻ってきた優純絆が、
「パパ達は部屋とツリーの飾り付け担当!」
部屋の片隅に整理されていた、飾り付け用の装飾品を横目で確認した後、ルーカスは首肯しながら、優しく注意をする。
「えぇ分かりました、怪我には気を付けてやるんですよ?」
「はーい!」
元気な返事をしながら、片手をあげる優純絆。
すると、部屋の片隅に片付けられていたクリスマス用の装飾品を手に取りながら、あたかも仕方なさそうにして、和翔が溜息混じりに、
「……ったく! しょうがねぇから俺様も手伝ってやるよ」
「うん、お願いね、カズちゃん!」
優純絆に、にこやかな笑顔を向けられた和翔は、頬に朱を差してそっぽに視線を逸らして捲くし立てるように叫んだ。
「べっ、別に今迄クリスマスをした事無いから楽しみとか思ってねぇからな!?」
と、和翔が言いたいことを早口で言い終わり、視線を戻すと、そこにはすでに優純絆の姿はなく、どうやら台所へ手伝いをするためすっ飛んでいったようだ。
和翔は顔を真っ赤にして、ぶつけ様のない恥ずかしさを発散するようにして、キチンを閉められた襖を、ばっ! と開け放ち、叫ぶ。
「父さんだけに任せたら大変だから手伝うだけだからぁぁぁぁ!」
恐らくもう聞こえてはいないだろうが、和翔の気持ちは幾分がすっきりとした。
はぁ、はぁと荒い息を繰り返してルーカスの横に座る和翔は、クリスマスの装飾を今一度確認して、見るからに目を輝かせる。
しかし、ルーカスの視線に気がついて、はっとしたように表情を真面目な顔に作り変えて、
「ク、クリスマスって片付け大変そうだよな! ツリーも片付けなきゃいけないし、こんなに飾りを出したら仕舞うのも大変だ!」
「そうかもしれませんね」
照れ隠しだとわかっているので、ルーカスは微笑みながら和翔に語りかける。
「でもね、カズ。クリスマスはいい子にしてるとサンタから寝てる間にプレゼントを置いて行くんです」
『サンタ』、『プレゼント』という単語を耳にして、和翔は興奮した表情を隠すことなくルーカスに視線を移した。
「プレゼント!? マジで!?」
目をキラキラと輝かせるその姿は、歳相応で、とても可愛らしく思える。こんなことを本人に言ったら怒ってしまうだろうから言わないが、一言で言うと愛らしい。
和翔はさらに『サンタ』という単語に反応し、
「サンタって、そんないいヤツなのか!?」
「ええ、そうですよ。いい子にしてる子には、とても良い方です」
笑みを溢しながら、ルーカスが頷く。
「なな、父さんはサンタに会ったことがあるのか!?」
突然の確信を突くような質問に、ルーカスはしばし思い返す振りをしつつ考え、
「つい先日、ユズとカズのプレゼントについて話し合いました」
「ま、マジでっ!?」
尊敬と興奮、羨望が入り混じったような視線で、和翔がルーカスを食い入るように見つめる。
「そ、そうか、プレゼントかぁ!」
期待と不安を膨らませているのか、顔色が明るくなったり暗くなったりしている和翔に、ルーカスは優しく、
「何が貰えるか楽しみですね」
和翔は素直な笑顔のまま、心底楽しみだというように、
「あぁ楽しみだぜ!」
子供は帰る時間だよ、と知らせるチャイムが街に響き渡り、辺りは夜の帳に包まれつつあった。
部屋の片づけを終え、和翔と話していたルーカスは、優純絆に呼ばれて居間へと向かう。
そわそわしている和翔と共に、ルーカス自身も楽しみながら、居間への襖を開けた。
すると、
「じゃっじゃじゃあぁ~んっ!」
お辞儀をするメイドの横に立つ優純絆が、テーブルを両手でばっと差して嬉しそうに笑う。
優純絆の両手が差しているテーブルを見れば、そこには豪華としか形容できない料理がテーブルの上に所狭しと並べられていた。
「えへへ♪ カズちゃんと初めて過ごすクリスマスだからね! 頑張っちゃいました!」
満面の笑みで優純絆がにこにこと笑いながら、えっへんと可愛くポーズをとって見せた。
「おやおやコレは……凄い豪華ですねぇ……」
ルーカスは目を見開きながら、和翔はというと、あんぐりと口を開けて固まっていた。
「あれ? カズちゃん、どうしたの? 嫌いなもの、あった?」
優純絆が心配そうに和翔の顔を覗き込もうとすると、機能停止していた和翔のスイッチが突如としてオンとなり、
「ふぉぉおお!」
興奮をそのまま言葉に表したような、雄たけびをあげ、無邪気に料理に駆け寄った。
「ユズも料理長達もすっげー! 俺様こんな豪華な料理見た事ねぇ!」
和翔は、尊敬の眼差しを優純絆と料理長達に向けた後、豪華絢爛な料理達をまるで宝石でも見るかのように眺める。
「流石ユズ達です」
そう言い、ルーカスは料理長とメイド達に礼を述べ、優純絆の頭を優しく撫でた。
「よく頑張りましたね」
「えへへ~」
家宝を見るかのように料理に張り付いていた和翔だったが、やはり見るよりも食べたいという欲求が勝ったようで、
「なぁなぁ早く食おうぜ!?」
「うん、そうだね!」
「そうですね、冷めない内に頂きましょうか」
待ち切れなさそうにしつつも、しっかりとつまみ食いをしないで待っている和翔を見て、待たせるのも悪いので、ルーカスが席に着く。
「それじゃイスに座って……」
「おう!」
恐るべき程素直に、和翔が席に座り、どれから食べ始めようかと目を輝かせる。
「頂きますなのだよー!」
「では、いただきます」
「頂きます!!」
三人は豪華な料理達の目の前で手を合わせ、食事をはじめる挨拶をそれぞれ述べた。
一番初めに料理に口をつけたのは、和翔だった。ガツガツという擬音がこれほど正しく当てはまる場面もそうそうないだろうといった様子で、料理を掻き込んでいる。
「うっめぇ! 俺様、こんな豪華なもん初めて食べた!」
今日一番の幸せそうな表情で、和翔がほとんど叫ぶように言い放った。
これだけおいしく食べてくれれば、料理を作った側も嬉しいというものだ。
ルーカスは、ターキーやグラタンをナイフで上品に切り分けて口に運び、飲み込んだ後にワインを一口飲んだ。
そして、こぼれるような微笑みを浮かべて、
「とても美味しいですねぇ」
幸せそうに呟いた。
優純絆はというと、黙々と豪華な料理とジュースに舌鼓をして、
「うん、やっぱ料理長さんのお料理は宇宙一美味しいのだよ♪」
と、こちらも幸せそうに、蕩けるような表情で笑顔を浮かべる。
さらに食べるスピードをあげ、頬をリスのようにしている和翔が、大きく切り分けたターキーを咀嚼して飲み込み、
「クリスマス最高だな!」
と、立て続けに料理を口に運びこむ。
噛んではいるのだろうが、少し口に掻き込みすぎだ。
「カズ、そんなに勢い良く食べると……」
心配して、ルーカスが和翔に声をかけると、
「……っ!?」
突然和翔の食べる手が止まり、顔が青くなる。料理を詰め込みすぎて、喉に詰まらせたのだ。
「あぁほら言わんこっちゃない」
ルーカスが心配そうに和翔に寄り添い、背中を強めに叩く。
「きゃぁ! カズちゃんコレ飲んで!」
優純絆が飲んでいたジュースのグラスを手渡して、和翔も藁にもすがるようにジュースを飲み込む。
ゴクゴクとジュースを飲み込むと、料理がちゃんと流れたようだ。
ルーカスが心配そうに和翔の顔色を覗き込みながら、
「次からはゆっくり味わって食べるんですよ?」
と優しいながらも、いつもより少し強めの語調で戒める。
「もう、びっくりしたのだよ!」
優純絆は、和翔にやや怒った口調で腰に手をあてながら言い放ち、
「料理は逃げないからっ!」
と戒めた。
二人に戒められた和翔は、喉に詰まらせたことも合間って少ししゅんとしながら、
「……っはぁ! ゆっくり味わって食べる……」
と、和翔は喉に詰まらせたことで涙目になりつつも、ローストビーフにフォークを伸ばした。それでもなお食べようとする気概をみせることは、誠に天晴れという他ない。
ルーカスもその食べっぷりに安堵したのか、食事を続け、優純絆もカルパッチョにフォークを伸ばす。
和翔がとてつもない勢いで食べ進めたとはいえ、まだ料理はたくさんある。
食事を続けていると、カルボナーラの赤いベーコンと白いソースから連想したのか、優純絆がはたと思い出したように、
「そうそう、デザートはケーキだからねー!」
からん、とその一言で何かが落ちた音がした。和翔のフォークだ。
「え、こんな豪華な料理のあとに、まだケーキがあるのか!?」
「それも、とっても上手に出来たんだよ!」
ケーキを思い出しつつ、優純絆が笑顔で和翔に言う。
「とっても大きて、おいしいケーキ! パパもカズちゃんもきっと気に入るよ!」
「それは楽しみですね」
半熟卵のオムレツをナイフで丁寧に切り分けていた手を止めて、ルーカスも優純絆の身振りを見て目を丸くする。
和翔は、優純絆がジェスチャーしたケーキの大きさを脳内でどれくらいか考えているようで、またしてもフリーズ状態に陥った。
そして、ケーキの大きさを識別することが出来たようで、
「マジでっっ!?!?!?!?!?」
と、一際大きい声で食い入るように叫んだ。
ただ、どうも興奮しすぎてしまったのか、和翔の声がいつもより高くなっていた。
あまりの興奮に、声が裏返ってしまったのだ。
堪えきれずに優純絆とルーカスが笑みを溢し、顔を見合わせてしまった! という表情を形作る。
気を悪くしてしまったか、と二人で恐る恐るといった調子で和翔の表情を伺うと、
「声、裏返っちまった!」
と、和翔は顔を真っ赤にして照れつつも、二人と同じように笑顔を浮かべて笑った。
三人の笑い声が暖かく食卓を囲み、クリスマスの夜は更けてゆく。
さて、サンタさんは優純絆と和翔に、
一体どんなプレゼントを持ってくるのでしょうか?
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
リザルト筆記GM | 東雲柚葉 GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | あき缶 GM |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2015年12月2日 |