プロローグ
ついに切って落とされた、オーガ達との最終決戦――。もしかしたら、世界は滅び、ウィンクルムも命を落としてしまうかもしれません。
命を落としてしまう前に、悔いのないように。
A.R.O.A.はウィンクルムの正式な結婚を認める運びとなりました!
そして、ウィンクルム達がお互いの気持ちを、本心を曝け出す場を用意しようと、
A.R.O.A.がウィンクルム達に少しの休暇と、リゾート地を提供しました!
プロポーズの場としても、デートの場としても利用可能です!
人々は、ウィンクルム達が向かう最終決戦に向けて、少しでも手助けになればと、快くリゾート地などの開放を行ってくれました。
最終決戦であることもあり、これまで助力をしてくれたスポットは提供をしてくださっています!
行きたかったけど行けなかった、という場所に行くのも、同じ場所に行くのも、良いかもしれません!
リゾート地は、すべてウィンクルム達の貸切!(一部リゾートホテルなどはスタッフがいらっしゃいます)。
ウィンクルム達のゴールイン・ひと時は、一体どのようなものになるのでしょうか!
プラン
アクションプラン
八神 伊万里 (アスカ・ベルウィレッジ) (蒼龍・シンフェーア) |
|
18 決戦前の思い出作りに遊園地に そして、私の気持ちを整理するために でも、とりあえずは思い切り遊びましょう 全制覇は無理でもとにかく回れる限り回りつくします もちろん二人の行きたいところにも 私は3Dガンシューティングとか、ゲーム形式のものがいいな 協力系でも対戦系でも、ハイスコア&勝利目指して頑張ろう! 日没時に観覧車にアスカ君と 暗くなっていく空を見ながら告白を聞いている こんな私を好きになってくれてありがとう でもごめんなさい、まだ答えるわけにはいかない 私はアスカ君に…いいえ二人に悪いことをしているから …アスカ君の前向きな所が本当に眩しい 夜にムーンライト・ロードをそーちゃんと歩く 繋がれた手にドキッとして、ああやっぱり、と自覚する 聞いて、そわちゃん 私はアスカ君が好き…でも、そーちゃんのことも好き どちらかなんて決められない 二人ともこんなズルい女には過ぎた人で… 抱き締め返して …うん、アスカ君が来るまで… |
リザルトノベル
朝起きて身支度を整え終えると、『八神 伊万里』は自分の両頬を両手で軽くぺちりと叩いた。
今日、伊万里は遊びに行く予定だ。自分の精霊である『アスカ・ベルウィレッジ』と『蒼龍・シンフェーア』と共に、遊園地『マーメイド・レジェンディア』へ。
迫る大きな戦いの前の思い出作りとして。そして……。
(そして、私の気持ちを整理するために)
アスカへの気持ちと、蒼龍への気持ち。二人の間で揺れ動く自分の気持ちを、整理する為に。
「でも、とりあえずは思い切り遊びましょう」
「遊園地でデートだ!」
「まーた三人でデートか、まあいいけどね」
マーメイド・レジェンディアへ着いた三人は、思い思いの事を口に出して入園する。
「ようこそ! マーメイド・レジェンディアへ!!」
「ようこそ! 楽しんでくださいね!!」
門をくぐれば、係員やキャラクター達が三人を歓迎する。流れている音楽に、見えてくるアトラクション、そして綺麗で可愛らしい装飾。
否応なしにあがるテンションに、伊万里はパンフレットを開き今日の予定を組み立てていく。
そんな伊万里の背後で、精霊二人はひそひそと話をする。
「いつも通り抜け駆けは無しだからな!」
アスカの発言に「はいはい」と答えながらも、それではつまらないと蒼龍は一つ思いつく。
「そうだ、後で一人ずつ、イマちゃんと二人きりになる時間を取らない? アピールタイム、ってやつだね」
「アピールタイム……?」
「そう、その時は絶対相手の邪魔はしない」
「分かった、手は出すなよ」
「そっちこそ」
かくして、伊万里が自分の気持ちに整理をつけたいと思っているのに応えるかのように、精霊二人は何としても伊万里を自分へと振り向かせようと頑張る事を決めたのだった。
「うん、全制覇は無理でもとにかく回れる限り回りつくします。もちろん二人の行きたいところにも」
伊万里がパンフレットを見せながら二人を振り返る。
何処か希望はないかと訊ねれば、二人もパンフレットを覗きこむ。
「アトラクション、俺は断然絶叫系がいい。ジェットコースター全部乗ろう!」
「色々あって迷っちゃうね。僕のイチ押しは脱出ゲームかな、ホラー風味だけど推理ものだからイマちゃんも好きそうでしょ」
「私は3Dガンシューティングとか、ゲーム形式のものがいいな。協力系でも対戦系でも、ハイスコア&勝利目指して頑張ろう!」
伊万里が笑顔で言うと、二人も笑顔で「おー!」と拳を挙げる。
そして三人は目当てへ向かって歩き出す。
楽しくも裏で火花が散ってるかもしれない休日が始まった。
最初にたどり着いたのはジェットコースター『マーメイド』。
乗り込んだアスカはジェットコースター自体を楽しみにしていたが、それ以外でもやりたい事があった。
(隣に座った伊万里と手を繋いでハンズアップしたり、一緒に叫んだり……)
脳内でそんな幸せデートの光景を再生させながら乗り込む。するとすぐに隣にも乗り込む気配がした。アスカは笑顔で隣を振り返りながら声をかける。
「楽しみだな、伊万里……ってげえっ!」
「楽しみだね、アスカ君☆」
しかし残念、そこにいたのは笑顔で返事をする恋のライバルの蒼龍だった。
「蒼龍!? なんでアンタが隣なんだよ!」
「抜け駆けは無しって言ったのは誰だったかなぁ?」
「ぐっ……! 伊万里は?」
痛いところをつかれたアスカは何も言い返せず周囲を見渡す。すると、後ろの席に今まさに乗り込む伊万里を見つけた。
「後ろの席か……」
がくりと肩を落とすアスカの耳に「さー、出発だー!」という楽しげな蒼龍の声が聞こえてきた。
ジェットコースターが動き出す。三人は純粋にジェットコースターを楽しむ事になった。
昼過ぎにたどり着いたのは期間限定の脱出ゲーム『幽霊洋館からの脱出』。
謎解きならば伊万里が楽しむだろうと提案したのは蒼龍だったが、彼にもちょっとした狙いはあった。
(ふふ、怖い場面でイマちゃんが「キャー!」って僕にしがみついてきたりして……)
脳内でそんな幸せデートの光景を思い浮かべながら幽霊洋館の中を探索していると、まさに絹を引き裂くような「キャーッ?!」という悲鳴が聞こえ、さらに蒼龍の腕に誰かがしがみ付く感触があった。
(来た! って……)
「アスカ君!?」
「うえ?! そ、蒼龍?!」
しかし残念、そこにいたのは青褪めて若干震えている恋のライバルのアスカだった。
「キミ、ホラー苦手だったんだね」
「違う! 驚いただけだ!」
「いや、どう見ても怖がってるし……」
というかいつまで僕の腕を掴んでいるつもりなんだろう。多分無意識なんだろうな。というか流石にここまで怖がるとはちょっと悪かった気がしないでもないというか。
(肝心のイマちゃんは……謎解きに夢中じゃないか!)
ガタリと家具が動く仕掛けも何のその。伊万里は怪しい本棚を前に真剣に脱出へのヒントを探し出していた。
結果、三人は制限時間内に無事脱出。精霊二人はともかく、伊万里は顔をキラキラさせるほど楽しんだようだった。
「楽しかった……!」
伊万里は満足気に息を吐く。その後ろで何故か精霊二人が若干ぐったりしているような気がするのは、まぁ、気のせいだろう。
例えば、3Dガンシューティングにチーム戦で参加した時にハイスコアを狙う裏で伊万里に気付かれないように互いを邪魔しあったとか、そんな事実は何処にも無い。きっと無い。だってちゃんとハイスコア出したし。
「夕方か……」
空が茜に染まってきた。一日の終わりがやってくる。
アスカと蒼龍は目を合わせて頷きあい、前を行く伊万里に声をかける。
「伊万里、ちょっといいか」
「あのねイマちゃん、お願いがあるんだけど……」
マーメイド・レジェンディア全体を一望できる観覧車『ブルーム・フィール』。
そこに乗り込んだのは伊万里とアスカだった。向かい合わせではなく、二人並んで座る。
ゆっくりと頂上へとあがっていく。それとは対照的に太陽は落ちていく。茜に染まった空は紫へ、暗い青へと変わり、グラデーションを描きながら夜へと変わっていく。
「綺麗……」
空の変化を見ていた伊万里は、自然とそう零していた。アスカもまた空を見ながら、それでも伊万里とは違う事を口にする。
「でも、伊万里の方がもっと綺麗だ」
その言葉にはっとして、伊万里はアスカの方を向く。アスカもまた伊万里の方を向く。
アスカは伊万里の両手を握り、まっすぐに伊万里を見つめて告白をする。
「いつも言ってるし思ってるけど、改めて言うよ」
その真剣な眼に伊万里の心が揺れる。胸が苦しくなる。
「伊万里が好きだ」
何度目かになる告白は、それでも伊万里の胸を打つ。
「真面目でいつも一生懸命な所も、勝負に熱くなる所も、豪快に肉を頬張る所も、全部」
アスカの後ろには濃紺になった空が広がっている。そんな暗い背景を背負っても埋もれる事無くアスカの姿ははっきりと見えた。
この人は光だ。
そんな人に、自分は想われている。間違いなく。それがよくわかる。心に真っ直ぐ届く告白に、喜びで沸き立っている自分がいる。
「こんな私を好きになってくれてありがとう」
それなのに、心の何処かが途方に暮れている。
「でもごめんなさい、まだ答えるわけにはいかない。私はアスカ君に……いいえ二人に悪いことをしているから」
整理をつけようと、決めていたのに。出来なかった。
伊万里は申し訳無さそうに少し顔を伏せ、それきり黙りこんでしまう。
(……困らせる気はないんだけどな)
自分を選んで欲しかった。笑って欲しかった。今この瞬間にもこちらを向かせてキスをしてしまいたい。俺のものにしてしまいたい。
そう思うも、それが伊万里の心を踏みにじる事になるとわかるから、アスカはその衝動を抑える。
「伊万里が誰を好きでも、俺の気持ちは変わらない」
握っていた手を離し、ただそっと重ねるだけにする。
「答えは、全部終わってから聞くから」
優しく微笑みながら言えば、伊万里はアスカを見て少し安堵したように表情を緩めた。
(……アスカ君の前向きな所が本当に眩しい)
その眩しさに惹かれ、けれど同時に尻込みもする。触れたいのに、自分では触れてはいけないような。それでも、惹かれてしまう。
(やっぱり私、アスカ君が好きだ。だけど……)
「……なんだ、もう下に着いちゃったな」
アスカの声で思考の渦から抜け出すと、確かにもう終わりの時間だった。
「もう一周したいところだけど次は蒼龍の番だ」
ドアが開く。アスカが伊万里をエスコートする。蒼龍のところへ行く伊万里を。
「少し経ったら迎えに行く」
無理矢理作ったようにも見える笑顔で、アスカは伊万里を見送った。
当たりはすっかり暗くなっていた。けれどここは柔らかい光が幾つも見える。
『ムーンライト・ロード』、そこは夜になると光を放つ白い花『月光華』を楽しむために作られた海岸沿いの石畳の道。
そんな美しい道を、伊万里と蒼龍は二人並んで歩いていた。
時折聞こえるさざなみの音ばかりが耳を打つ。
伊万里は蒼龍といるにもかかわらず、さっきまでのアスカとの事が頭に引っかかっていた。そのせいで上手く蒼龍と向き合えず喋れない。それが蒼龍にも伝わっているのか、蒼龍も何も喋らずただゆっくりと歩いている。
ふと、互いの手が掠めるように触れる。ピクリと互いに意識して、そこから行動に移したのは蒼龍だった。
「!」
そっと握られた手に心臓が跳ね、それで伊万里は、ああやっぱり、と自覚してしまう。
「イマちゃんさ、アスカ君のこと好きなんでしょ?」
蒼龍の発言に、伊万里はパッと蒼龍の方を見る。
「見てたら分かるよ」
苦笑する蒼龍に、けれど伊万里は泣きそうな想いで顔を歪める。
「聞いて、そーちゃん」
歩みを止めて話し出した伊万里に、蒼龍もまた歩みを止めて聞き入る。
「私はアスカ君が好き……でも、そーちゃんのことも好き」
「……え?」
蒼龍が驚いたように目を見開く。
伊万里は困ったように、けれど自分の気持ちを正直に話す事に決めた。それが今の伊万里に出来る精一杯だからだ。
蒼龍に手を握られた時にわかった。蒼龍の事も想っている自分がしっかりといる事を。
二人の間で揺れているのではない。きっとそれなら気持ちを整理できた。けれど、自分は二人共に惹かれているのだ。
「どちらかなんて決められない。二人ともこんなズルい女には過ぎた人で……」
自分がズルイとわかっているのに、それでも二人の手を離せない。それが恥ずかしくて、アスカにも蒼龍にも嫌われてしまうのではと怖くなってしまう。
そんな怯えた様子すら見せる伊万里に、蒼龍は優しく声をかける。
「正直言うと、嬉しいよ」
優しい声色に、今度は伊万里は驚いて目を見開く。
「僕が勝ってるのは時間だけ、ウィンクルムとしての絆はアスカ君に敵わないって思ってたから。でもやっとスタートラインに並べた気がする」
そう言って、微笑みながら伊万里を抱きしめる。
「……アスカ君とは、互いに抜け駆け無しって言ったけど……今だけ、キミを独り占めしたい」
伊万里はそっと蒼龍を抱きしめ返す。
「……うん、アスカ君が来るまで……」
体を包む温もりは、観覧車で握られた手の温もりを思い出す。
蒼龍にも想われている。それが伝わってくる。
もうすぐ大きな戦いが待っている。
(そうして、全てが終わったら……)
その時には、三人の心はどうなっているだろう。自分は二人に、どう答えるのだろう。
わからない。想像もつかない。
だから祈る。
――皆が幸せになればいいのに。
我儘でズルイ自分を自覚しながらも、伊万里は皆が幸せになる未来を願わずにはいられない。
その時に、二人共怪我をしないように、無事に生き残れるように、今はただ願う。この温もりを失う事が無いように。
白く光る花の道に、もうすぐアスカが迎えに来るだろう。
そうしたら三人で帰り、そして終えるのだ。この夢のように楽しく幸せな休日を。
今日、伊万里は遊びに行く予定だ。自分の精霊である『アスカ・ベルウィレッジ』と『蒼龍・シンフェーア』と共に、遊園地『マーメイド・レジェンディア』へ。
迫る大きな戦いの前の思い出作りとして。そして……。
(そして、私の気持ちを整理するために)
アスカへの気持ちと、蒼龍への気持ち。二人の間で揺れ動く自分の気持ちを、整理する為に。
「でも、とりあえずは思い切り遊びましょう」
「遊園地でデートだ!」
「まーた三人でデートか、まあいいけどね」
マーメイド・レジェンディアへ着いた三人は、思い思いの事を口に出して入園する。
「ようこそ! マーメイド・レジェンディアへ!!」
「ようこそ! 楽しんでくださいね!!」
門をくぐれば、係員やキャラクター達が三人を歓迎する。流れている音楽に、見えてくるアトラクション、そして綺麗で可愛らしい装飾。
否応なしにあがるテンションに、伊万里はパンフレットを開き今日の予定を組み立てていく。
そんな伊万里の背後で、精霊二人はひそひそと話をする。
「いつも通り抜け駆けは無しだからな!」
アスカの発言に「はいはい」と答えながらも、それではつまらないと蒼龍は一つ思いつく。
「そうだ、後で一人ずつ、イマちゃんと二人きりになる時間を取らない? アピールタイム、ってやつだね」
「アピールタイム……?」
「そう、その時は絶対相手の邪魔はしない」
「分かった、手は出すなよ」
「そっちこそ」
かくして、伊万里が自分の気持ちに整理をつけたいと思っているのに応えるかのように、精霊二人は何としても伊万里を自分へと振り向かせようと頑張る事を決めたのだった。
「うん、全制覇は無理でもとにかく回れる限り回りつくします。もちろん二人の行きたいところにも」
伊万里がパンフレットを見せながら二人を振り返る。
何処か希望はないかと訊ねれば、二人もパンフレットを覗きこむ。
「アトラクション、俺は断然絶叫系がいい。ジェットコースター全部乗ろう!」
「色々あって迷っちゃうね。僕のイチ押しは脱出ゲームかな、ホラー風味だけど推理ものだからイマちゃんも好きそうでしょ」
「私は3Dガンシューティングとか、ゲーム形式のものがいいな。協力系でも対戦系でも、ハイスコア&勝利目指して頑張ろう!」
伊万里が笑顔で言うと、二人も笑顔で「おー!」と拳を挙げる。
そして三人は目当てへ向かって歩き出す。
楽しくも裏で火花が散ってるかもしれない休日が始まった。
最初にたどり着いたのはジェットコースター『マーメイド』。
乗り込んだアスカはジェットコースター自体を楽しみにしていたが、それ以外でもやりたい事があった。
(隣に座った伊万里と手を繋いでハンズアップしたり、一緒に叫んだり……)
脳内でそんな幸せデートの光景を再生させながら乗り込む。するとすぐに隣にも乗り込む気配がした。アスカは笑顔で隣を振り返りながら声をかける。
「楽しみだな、伊万里……ってげえっ!」
「楽しみだね、アスカ君☆」
しかし残念、そこにいたのは笑顔で返事をする恋のライバルの蒼龍だった。
「蒼龍!? なんでアンタが隣なんだよ!」
「抜け駆けは無しって言ったのは誰だったかなぁ?」
「ぐっ……! 伊万里は?」
痛いところをつかれたアスカは何も言い返せず周囲を見渡す。すると、後ろの席に今まさに乗り込む伊万里を見つけた。
「後ろの席か……」
がくりと肩を落とすアスカの耳に「さー、出発だー!」という楽しげな蒼龍の声が聞こえてきた。
ジェットコースターが動き出す。三人は純粋にジェットコースターを楽しむ事になった。
昼過ぎにたどり着いたのは期間限定の脱出ゲーム『幽霊洋館からの脱出』。
謎解きならば伊万里が楽しむだろうと提案したのは蒼龍だったが、彼にもちょっとした狙いはあった。
(ふふ、怖い場面でイマちゃんが「キャー!」って僕にしがみついてきたりして……)
脳内でそんな幸せデートの光景を思い浮かべながら幽霊洋館の中を探索していると、まさに絹を引き裂くような「キャーッ?!」という悲鳴が聞こえ、さらに蒼龍の腕に誰かがしがみ付く感触があった。
(来た! って……)
「アスカ君!?」
「うえ?! そ、蒼龍?!」
しかし残念、そこにいたのは青褪めて若干震えている恋のライバルのアスカだった。
「キミ、ホラー苦手だったんだね」
「違う! 驚いただけだ!」
「いや、どう見ても怖がってるし……」
というかいつまで僕の腕を掴んでいるつもりなんだろう。多分無意識なんだろうな。というか流石にここまで怖がるとはちょっと悪かった気がしないでもないというか。
(肝心のイマちゃんは……謎解きに夢中じゃないか!)
ガタリと家具が動く仕掛けも何のその。伊万里は怪しい本棚を前に真剣に脱出へのヒントを探し出していた。
結果、三人は制限時間内に無事脱出。精霊二人はともかく、伊万里は顔をキラキラさせるほど楽しんだようだった。
「楽しかった……!」
伊万里は満足気に息を吐く。その後ろで何故か精霊二人が若干ぐったりしているような気がするのは、まぁ、気のせいだろう。
例えば、3Dガンシューティングにチーム戦で参加した時にハイスコアを狙う裏で伊万里に気付かれないように互いを邪魔しあったとか、そんな事実は何処にも無い。きっと無い。だってちゃんとハイスコア出したし。
「夕方か……」
空が茜に染まってきた。一日の終わりがやってくる。
アスカと蒼龍は目を合わせて頷きあい、前を行く伊万里に声をかける。
「伊万里、ちょっといいか」
「あのねイマちゃん、お願いがあるんだけど……」
マーメイド・レジェンディア全体を一望できる観覧車『ブルーム・フィール』。
そこに乗り込んだのは伊万里とアスカだった。向かい合わせではなく、二人並んで座る。
ゆっくりと頂上へとあがっていく。それとは対照的に太陽は落ちていく。茜に染まった空は紫へ、暗い青へと変わり、グラデーションを描きながら夜へと変わっていく。
「綺麗……」
空の変化を見ていた伊万里は、自然とそう零していた。アスカもまた空を見ながら、それでも伊万里とは違う事を口にする。
「でも、伊万里の方がもっと綺麗だ」
その言葉にはっとして、伊万里はアスカの方を向く。アスカもまた伊万里の方を向く。
アスカは伊万里の両手を握り、まっすぐに伊万里を見つめて告白をする。
「いつも言ってるし思ってるけど、改めて言うよ」
その真剣な眼に伊万里の心が揺れる。胸が苦しくなる。
「伊万里が好きだ」
何度目かになる告白は、それでも伊万里の胸を打つ。
「真面目でいつも一生懸命な所も、勝負に熱くなる所も、豪快に肉を頬張る所も、全部」
アスカの後ろには濃紺になった空が広がっている。そんな暗い背景を背負っても埋もれる事無くアスカの姿ははっきりと見えた。
この人は光だ。
そんな人に、自分は想われている。間違いなく。それがよくわかる。心に真っ直ぐ届く告白に、喜びで沸き立っている自分がいる。
「こんな私を好きになってくれてありがとう」
それなのに、心の何処かが途方に暮れている。
「でもごめんなさい、まだ答えるわけにはいかない。私はアスカ君に……いいえ二人に悪いことをしているから」
整理をつけようと、決めていたのに。出来なかった。
伊万里は申し訳無さそうに少し顔を伏せ、それきり黙りこんでしまう。
(……困らせる気はないんだけどな)
自分を選んで欲しかった。笑って欲しかった。今この瞬間にもこちらを向かせてキスをしてしまいたい。俺のものにしてしまいたい。
そう思うも、それが伊万里の心を踏みにじる事になるとわかるから、アスカはその衝動を抑える。
「伊万里が誰を好きでも、俺の気持ちは変わらない」
握っていた手を離し、ただそっと重ねるだけにする。
「答えは、全部終わってから聞くから」
優しく微笑みながら言えば、伊万里はアスカを見て少し安堵したように表情を緩めた。
(……アスカ君の前向きな所が本当に眩しい)
その眩しさに惹かれ、けれど同時に尻込みもする。触れたいのに、自分では触れてはいけないような。それでも、惹かれてしまう。
(やっぱり私、アスカ君が好きだ。だけど……)
「……なんだ、もう下に着いちゃったな」
アスカの声で思考の渦から抜け出すと、確かにもう終わりの時間だった。
「もう一周したいところだけど次は蒼龍の番だ」
ドアが開く。アスカが伊万里をエスコートする。蒼龍のところへ行く伊万里を。
「少し経ったら迎えに行く」
無理矢理作ったようにも見える笑顔で、アスカは伊万里を見送った。
当たりはすっかり暗くなっていた。けれどここは柔らかい光が幾つも見える。
『ムーンライト・ロード』、そこは夜になると光を放つ白い花『月光華』を楽しむために作られた海岸沿いの石畳の道。
そんな美しい道を、伊万里と蒼龍は二人並んで歩いていた。
時折聞こえるさざなみの音ばかりが耳を打つ。
伊万里は蒼龍といるにもかかわらず、さっきまでのアスカとの事が頭に引っかかっていた。そのせいで上手く蒼龍と向き合えず喋れない。それが蒼龍にも伝わっているのか、蒼龍も何も喋らずただゆっくりと歩いている。
ふと、互いの手が掠めるように触れる。ピクリと互いに意識して、そこから行動に移したのは蒼龍だった。
「!」
そっと握られた手に心臓が跳ね、それで伊万里は、ああやっぱり、と自覚してしまう。
「イマちゃんさ、アスカ君のこと好きなんでしょ?」
蒼龍の発言に、伊万里はパッと蒼龍の方を見る。
「見てたら分かるよ」
苦笑する蒼龍に、けれど伊万里は泣きそうな想いで顔を歪める。
「聞いて、そーちゃん」
歩みを止めて話し出した伊万里に、蒼龍もまた歩みを止めて聞き入る。
「私はアスカ君が好き……でも、そーちゃんのことも好き」
「……え?」
蒼龍が驚いたように目を見開く。
伊万里は困ったように、けれど自分の気持ちを正直に話す事に決めた。それが今の伊万里に出来る精一杯だからだ。
蒼龍に手を握られた時にわかった。蒼龍の事も想っている自分がしっかりといる事を。
二人の間で揺れているのではない。きっとそれなら気持ちを整理できた。けれど、自分は二人共に惹かれているのだ。
「どちらかなんて決められない。二人ともこんなズルい女には過ぎた人で……」
自分がズルイとわかっているのに、それでも二人の手を離せない。それが恥ずかしくて、アスカにも蒼龍にも嫌われてしまうのではと怖くなってしまう。
そんな怯えた様子すら見せる伊万里に、蒼龍は優しく声をかける。
「正直言うと、嬉しいよ」
優しい声色に、今度は伊万里は驚いて目を見開く。
「僕が勝ってるのは時間だけ、ウィンクルムとしての絆はアスカ君に敵わないって思ってたから。でもやっとスタートラインに並べた気がする」
そう言って、微笑みながら伊万里を抱きしめる。
「……アスカ君とは、互いに抜け駆け無しって言ったけど……今だけ、キミを独り占めしたい」
伊万里はそっと蒼龍を抱きしめ返す。
「……うん、アスカ君が来るまで……」
体を包む温もりは、観覧車で握られた手の温もりを思い出す。
蒼龍にも想われている。それが伝わってくる。
もうすぐ大きな戦いが待っている。
(そうして、全てが終わったら……)
その時には、三人の心はどうなっているだろう。自分は二人に、どう答えるのだろう。
わからない。想像もつかない。
だから祈る。
――皆が幸せになればいいのに。
我儘でズルイ自分を自覚しながらも、伊万里は皆が幸せになる未来を願わずにはいられない。
その時に、二人共怪我をしないように、無事に生き残れるように、今はただ願う。この温もりを失う事が無いように。
白く光る花の道に、もうすぐアスカが迎えに来るだろう。
そうしたら三人で帰り、そして終えるのだ。この夢のように楽しく幸せな休日を。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
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リザルト筆記GM | 青ネコ GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | なし |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2018年5月26日 |