プロローグ
ついに切って落とされた、オーガ達との最終決戦――。もしかしたら、世界は滅び、ウィンクルムも命を落としてしまうかもしれません。
命を落としてしまう前に、悔いのないように。
A.R.O.A.はウィンクルムの正式な結婚を認める運びとなりました!
そして、ウィンクルム達がお互いの気持ちを、本心を曝け出す場を用意しようと、
A.R.O.A.がウィンクルム達に少しの休暇と、リゾート地を提供しました!
プロポーズの場としても、デートの場としても利用可能です!
人々は、ウィンクルム達が向かう最終決戦に向けて、少しでも手助けになればと、快くリゾート地などの開放を行ってくれました。
最終決戦であることもあり、これまで助力をしてくれたスポットは提供をしてくださっています!
行きたかったけど行けなかった、という場所に行くのも、同じ場所に行くのも、良いかもしれません!
リゾート地は、すべてウィンクルム達の貸切!(一部リゾートホテルなどはスタッフがいらっしゃいます)。
ウィンクルム達のゴールイン・ひと時は、一体どのようなものになるのでしょうか!
プラン
アクションプラン
かのん (天藍) (朽葉) |
|
34 今回の一連の戦いが終わったら 以前言っていたとおり、おじ様はここを離れてしまうと思うから きっと黙って行ってしまう気がするので、その前にゆっくり会える時間をと家での食事にお招きして 今度の戦いは天藍と行ってきます 朽葉と洗い物を終えた天藍にお茶をだしながら 本当に最後になってしまいそうで 朽葉へ今までのお礼の言葉が言い出せずにいると台所から電子音 盛りつけしながら重たくならないように何を話せば良いのだろうかと逡巡 何の話をしていたんです? たいした話じゃないという答えに、仲間はずれは酷いですとむくれたふり 湿っぽくなるより笑って過ごしたい 無茶はせんようにな 別れ際の朽葉の言葉に頷く 天藍と一緒ですから、大丈夫です おじ様、今日は楽しかったです、ありがとうございました 笑みを浮かべ手を挙げる朽葉を見送り ありがとうございます、天藍 そうですね またいつか…きっと会えますよね 自分を気遣ってくれる天藍に寄り添い手を重ねながら |
リザルトノベル
天気の良い休日、『かのん』は家で食事の支度をしていた。
大きな戦いが間近に控えている。
きっと今この時間は、嵐の前の静けさの様な、最後の休日の様なものだろう。
(今回の一連の戦いが終わったら、おじ様はきっと黙って行ってしまう気がする)
かのんは自分の精霊である『朽葉』の事を考える。
朽葉が以前言っていた通り、きっとここを離れてしまうのだろう。それがわかるのは今までの付き合いによるものか、それともウィンクルムとしての絆ゆえか。
出て行く事を止める事は出来ない。止める事もしない。そういう話は以前にもした。だからせめて、行ってしまうその前にゆっくり会える時間を作りたかった。
今日の食事には、朽葉を招いている。
きっともうすぐ家に着くだろう。
(折角の機会なのだから2人で過ごせば良いものを)
朽葉は見えてきた家を前に、一度呆れたように息を吐いた。だが、その表情は柔らかい。
(何かしら感付いてはおるのじゃろうな。我を呼ぶ理由もわかる)
落ち着いて話をしたり食事をしたりするのは、きっとこれが最後だろう。かのんの予想通り、朽葉はこの後の戦いが終わったら、誰にも何も告げずこの街から去ろうと決めていたから。
「おじ様!」
目の前まで迫った家のドアが開く。そこに仲良く並んで立っていたのは、かのんと『天藍』。
この家は、今は二人の家だ。
その事実を改めて目にし、朽葉は緩く微笑む。やはりもう大丈夫なのだという想いを強くしながら。
食事は和やかに進んだ。最近の見つけたお店、新しく買ったもの、今後の天気。そんな他愛のない事を話しては笑いあい、テーブルに所狭しと並べた料理を食べていった。
「今度の戦いは天藍と行ってきます」
食事を終え、天藍が洗い物を終わらせたところに、かのんがお茶を出しながら言った。
「そうか……」
本当ならば、戦いになど行かせたいとは思わない。争いなど避けられるなら避けるに越した事はないのだ。だが、二人はウィンクルムとして戦いに出ると決めた。それならば。
「頑張っておいで」
贈るのは、鼓舞する言葉。
「はい」
かのんが微笑んで答え、天藍もまた力強く笑んで頷いた。
そのまま三人で微笑みあって、そしてかのんが何かを言おうとして言い澱む。
朽葉へ今までのお礼を言おうと思っていた。その為の時間でもあるのに、言いだす事に躊躇いがある。
(言ってしまったら、本当に最後になってしまいそうで)
そんな思いが何処かにあるせいで、上手く声を出せない。
と、そんなかのんへの助け舟のように、台所から電子音が響く。同時に、甘い香りが漂ってきている事にも気付く。
「あ、オーブン。ちょっと待っててくださいね」
用意していたデザートのフォンダンショコラが焼きあがったのだ。
かのんは天藍と朽葉を残して一人台所へと向かう。そして焼きあがったフォンダンショコラを盛り付けながら、重たくならないように何をどう話せばよいのかと考え始めた。
天藍と朽葉の二人だけになった空間は、一瞬静寂に包まれる。
けれどすぐにまた会話が始まる。始めたのは、天藍。
「この街を離れて旅に出るんだってな」
台所にいるかのんには聞こえないように音量を落として囁かれた声は、それでも朽葉の耳にはしっかりと届き、その気遣いに朽葉は苦笑する。
「かのんから聞いておったか」
「まぁな」
かのんは気付いていないようだが、天藍は朽葉が何らかの『訳あり』なのだろうとうっすら感じ取っていた。そして朽葉がその訳をかのんに伝える気がない事も。それゆえの密やかな声。二人だけの会話。
「どうしてか、理由を聞いても?」
自分が口を出す事ではないと、天藍にもわかっている。だが、かのんの横に立つものとして、やはり事が片付いてから離れる理由を聞いておきたかった
ただの興味本位ではない、という事が朽葉にも伝わったのか、数瞬の沈黙の後、朽葉は重い口を開く。
「今でこそ足を洗っておるが、日の当たらぬ所で後ろ暗い事をやっていた時の方が長くての」
語られた内容に、天藍は驚く事はせずにただ聞き入る。
「その頃の因縁が無くなったとも言いきれんのじゃよ」
かのんには言えない、必要がない。そう思っていた。だが、その隣にいる天藍に欠片は話しておいた方が良いのかもしれない。もしもを避けるためにも。そう思っての朽葉の告白。
「ま、厄介事の種とお邪魔虫はそばにおらん方が良いじゃろうて」
冗談めかしてにやりと笑う。それがこの話の切り上げの合図だとわかり、天藍は小さく息を吐く。
(詳らかに話すつもりは無いんだな)
朽葉の口ぶりからそう判断した天藍は、何処か消化不良のようなものを抱えながらも納得する。
離れる理由はわかった。朽葉なりにかのんを思っての事だという事も。
ただ、それでも。
(これが最後じゃなくてもいいだろう?)
朽葉がかのんを大切に想っている様に、かのんも朽葉を大切に想っている。それならば。
「偶にタブロスに寄った時に、ウィンクルム時代を思い出して契約した神人相手に昔話をしに来る位は良いんじゃないのか?」
天藍の提案に、朽葉は一度目を見開く。天藍と朽葉の視線がぶつかる。その眼に嘘はない。朽葉の過去を聞いてなお、天藍はその提案をしたのだ。愛するかのんの事を考えて。
それがわかったから、朽葉は答える代わりに静かに微笑む。
「俺は、あんたの代わりにはなれない。かのんは何も言わないが今日も支度をしながら不意に物思いに沈んだりしていた」
かのんと共に生きるのは天藍だろう。けれど、天藍がすべてを与えることが出来るわけではない。親からの愛、仲間との友情、植物への想い。それぞれがかのんを形作っている。何一つとして代わりなどないのだ。
「だから、是非手土産付きで来てくれ、その頃には家族が増えているかもしれないしな」
先程の仕返しとばかりに、今度は天藍が冗談めかして話を終える。
離れるという事は朽葉が考えて出した結論だ。それを今すぐ翻せとは言えないだろう。天藍の発言を考慮しても、すぐに答えが出る事じゃない。
それでも天藍の気持ちが朽葉には心地よく。朽葉が思わず声に出して笑い出せば、天藍もつられるようにして笑った。
「何の話をしていたんです?」
笑い声の溢れる空間に、甘い香りを引き連れながらかのんが現れる。綺麗に飾られたフォンダンショコラを置きながら訊ねると、天藍と朽葉はいたずらっぽく一度目をあわせてにやりと笑う。
「いや、男同士の秘密だ」
「何ですかそれ」
「たいした話じゃないさ」
笑いながら応える天藍に、かのんは不満げに頬を膨らませる。
「仲間はずれは酷いです」
素直にむくれるかのんを見て、精霊二人はまた一段と笑う。それに対してかのんは「もう!」と抗議の声をあげたが、次第にその表情も緩んでいく。
きっとこれでいい。
湿っぽくなるより笑って過ごしたい。いかにも最後だと言わんばかりの礼よりも、この時間を贈りあおう。
「さてさて、デザートを頂こうかのう」
「このフォンダンショコラ、少し甘さを抑えたんです。どうですか?」
「うん、ほろ苦さがいいな」
「添えてあるクリームと果物もいいのう」
「よかった!」
記憶に残るのは、明るく楽しい時間と笑顔がいい。そう思って、かのんも晴れやかに笑った。
楽しい時間はあっという間に終わる。
あの後、話題は二転三転としたが、どれも他愛のない話で、それでもどれも盛り上がり笑いあった。
そして、今日の終わりがやってくる。
「無茶はせんようにな」
朽葉は玄関で振り返りながら言う。受け止めるかのんと天藍は素直に頷く。
「天藍と一緒ですから、大丈夫です」
沢山の戦いを経て学んできたのだ。きっともう危険と無茶の境界線はわかっている。そして、時にそれを越えてでも成さねばならぬ事もある事もわかっている。
それでも、二人ならばきっと戻ってこれるという事もわかっている。だからこその答え。
ゆえに朽葉もかのんの答えを聞いて満足気に笑う。心配する心はどうしたってある。だが同時に、信頼する心もあるのだ。
「おじ様、今日は楽しかったです、ありがとうございました」
「ほっ、こちらこそ、じゃな」
軽く、だが心からの言葉を述べて、朽葉は家を後にする。かのん達に笑顔で手を挙げながら歩いていく。かのんと天藍もまた、笑顔で手を振り見送る。
最後まで笑顔に溢れた時間だった。
朽葉は遠くなっていく家に、そこに住む二人に想いを寄せる。
どうか幸せでありますように、どうか幸せが続きますように。どちらも欠ける事無く、共にいる時間がずっと続きますように、と。そして願わくば……。
――いつか、また。
『おじ様がどこに居たとしても、何かの時は私達を頼りにしてくださいね』
少し前に、かのんが朽葉にそう言った。旅立つことは止めずとも、ここを寄る辺の一つにして欲しいと。
『ウィンクルム時代を思い出して契約した神人相手に昔話をしに来る位は良いんじゃないのか?』
さっき、天藍が朽葉にそう言った。全てを断たなくてもいいと、朽葉の代わりはいないのだと。
遠ざかる家は温かく満たされていてとても居心地の良い場所だった。
その家へ、いつかまた、土産を持って訪ねる日が来ますように、また二人と笑顔溢れる時間を過ごせますように。
そんな旅の先のいつかを思えば、自然と足取りも軽くなる。心の中に明かりが灯る。
(いい旅が出来そうじゃのう)
笑顔のまま、朽葉はまた新たな一歩を踏み出していく。過去に捕らわれるのではなく、未来への希望ある一歩を。
かのんと天藍は、朽葉の姿が見えなくなるまで見送った。遠ざかる背中を見守っていた。
先程までの笑顔に少しだけ寂しさが混ざったような気がして、天藍はかのんの肩を抱き寄せる。
「きっと、また会える時が来る」
会えたらいいな、ではなく、会える、と。
そう言い切ってくれた天藍の気持ちが嬉しくて、また、そう願い信じている自分にも気付く。
「ありがとうございます、天藍」
かのんは天藍に寄り添う様に頭を預ける。
「そうですね。またいつか……きっと会えますよね」
縁とは絡み、繋がり、時には切れるものかもしれない。それでも、互いが切りたくないと願えば、そう簡単に切れるものではないだろう。
きっと繋がっている。これからも繋がっていく。かのんと天藍とはまた違う形で、それでも同じ様に大切なものとして。
だからきっと、今日見た風景は未来にも待っているのだ。
「ああ、その時に何があったか色々話せるよう二人で生きていこう」
「そうですね、おじ様はきっと沢山の土産話をしてくれるでしょうから、こっちも沢山話せるように楽しく生きましょうね」
「いいな、惚気話を聞きに来たわけじゃないとぼやかせる位に楽しくしよう」
「もう、天藍ったら」
そして二人は微笑みあう。
今日の別れが最後ではない。かのんは今は胸を張ってそう思える。
目前に控えている戦いに勝利し、そして平和な世界を手に入れたなら、そこからまた楽しい時間を過ごそう。そしてまた沢山の料理を作り、デザートも用意して、笑いながら話すのだ。
きっと、そんな未来が待っている。いや、そんな未来を作っていく。
「……本当に、ありがとうございます」
かのんは肩に置かれた天藍の手に自分の手を重ねながら言う。
それは、今はもうここにいない精霊と、そして今もここにいる精霊の二人への感謝の言葉だった。
大きな戦いが間近に控えている。
きっと今この時間は、嵐の前の静けさの様な、最後の休日の様なものだろう。
(今回の一連の戦いが終わったら、おじ様はきっと黙って行ってしまう気がする)
かのんは自分の精霊である『朽葉』の事を考える。
朽葉が以前言っていた通り、きっとここを離れてしまうのだろう。それがわかるのは今までの付き合いによるものか、それともウィンクルムとしての絆ゆえか。
出て行く事を止める事は出来ない。止める事もしない。そういう話は以前にもした。だからせめて、行ってしまうその前にゆっくり会える時間を作りたかった。
今日の食事には、朽葉を招いている。
きっともうすぐ家に着くだろう。
(折角の機会なのだから2人で過ごせば良いものを)
朽葉は見えてきた家を前に、一度呆れたように息を吐いた。だが、その表情は柔らかい。
(何かしら感付いてはおるのじゃろうな。我を呼ぶ理由もわかる)
落ち着いて話をしたり食事をしたりするのは、きっとこれが最後だろう。かのんの予想通り、朽葉はこの後の戦いが終わったら、誰にも何も告げずこの街から去ろうと決めていたから。
「おじ様!」
目の前まで迫った家のドアが開く。そこに仲良く並んで立っていたのは、かのんと『天藍』。
この家は、今は二人の家だ。
その事実を改めて目にし、朽葉は緩く微笑む。やはりもう大丈夫なのだという想いを強くしながら。
食事は和やかに進んだ。最近の見つけたお店、新しく買ったもの、今後の天気。そんな他愛のない事を話しては笑いあい、テーブルに所狭しと並べた料理を食べていった。
「今度の戦いは天藍と行ってきます」
食事を終え、天藍が洗い物を終わらせたところに、かのんがお茶を出しながら言った。
「そうか……」
本当ならば、戦いになど行かせたいとは思わない。争いなど避けられるなら避けるに越した事はないのだ。だが、二人はウィンクルムとして戦いに出ると決めた。それならば。
「頑張っておいで」
贈るのは、鼓舞する言葉。
「はい」
かのんが微笑んで答え、天藍もまた力強く笑んで頷いた。
そのまま三人で微笑みあって、そしてかのんが何かを言おうとして言い澱む。
朽葉へ今までのお礼を言おうと思っていた。その為の時間でもあるのに、言いだす事に躊躇いがある。
(言ってしまったら、本当に最後になってしまいそうで)
そんな思いが何処かにあるせいで、上手く声を出せない。
と、そんなかのんへの助け舟のように、台所から電子音が響く。同時に、甘い香りが漂ってきている事にも気付く。
「あ、オーブン。ちょっと待っててくださいね」
用意していたデザートのフォンダンショコラが焼きあがったのだ。
かのんは天藍と朽葉を残して一人台所へと向かう。そして焼きあがったフォンダンショコラを盛り付けながら、重たくならないように何をどう話せばよいのかと考え始めた。
天藍と朽葉の二人だけになった空間は、一瞬静寂に包まれる。
けれどすぐにまた会話が始まる。始めたのは、天藍。
「この街を離れて旅に出るんだってな」
台所にいるかのんには聞こえないように音量を落として囁かれた声は、それでも朽葉の耳にはしっかりと届き、その気遣いに朽葉は苦笑する。
「かのんから聞いておったか」
「まぁな」
かのんは気付いていないようだが、天藍は朽葉が何らかの『訳あり』なのだろうとうっすら感じ取っていた。そして朽葉がその訳をかのんに伝える気がない事も。それゆえの密やかな声。二人だけの会話。
「どうしてか、理由を聞いても?」
自分が口を出す事ではないと、天藍にもわかっている。だが、かのんの横に立つものとして、やはり事が片付いてから離れる理由を聞いておきたかった
ただの興味本位ではない、という事が朽葉にも伝わったのか、数瞬の沈黙の後、朽葉は重い口を開く。
「今でこそ足を洗っておるが、日の当たらぬ所で後ろ暗い事をやっていた時の方が長くての」
語られた内容に、天藍は驚く事はせずにただ聞き入る。
「その頃の因縁が無くなったとも言いきれんのじゃよ」
かのんには言えない、必要がない。そう思っていた。だが、その隣にいる天藍に欠片は話しておいた方が良いのかもしれない。もしもを避けるためにも。そう思っての朽葉の告白。
「ま、厄介事の種とお邪魔虫はそばにおらん方が良いじゃろうて」
冗談めかしてにやりと笑う。それがこの話の切り上げの合図だとわかり、天藍は小さく息を吐く。
(詳らかに話すつもりは無いんだな)
朽葉の口ぶりからそう判断した天藍は、何処か消化不良のようなものを抱えながらも納得する。
離れる理由はわかった。朽葉なりにかのんを思っての事だという事も。
ただ、それでも。
(これが最後じゃなくてもいいだろう?)
朽葉がかのんを大切に想っている様に、かのんも朽葉を大切に想っている。それならば。
「偶にタブロスに寄った時に、ウィンクルム時代を思い出して契約した神人相手に昔話をしに来る位は良いんじゃないのか?」
天藍の提案に、朽葉は一度目を見開く。天藍と朽葉の視線がぶつかる。その眼に嘘はない。朽葉の過去を聞いてなお、天藍はその提案をしたのだ。愛するかのんの事を考えて。
それがわかったから、朽葉は答える代わりに静かに微笑む。
「俺は、あんたの代わりにはなれない。かのんは何も言わないが今日も支度をしながら不意に物思いに沈んだりしていた」
かのんと共に生きるのは天藍だろう。けれど、天藍がすべてを与えることが出来るわけではない。親からの愛、仲間との友情、植物への想い。それぞれがかのんを形作っている。何一つとして代わりなどないのだ。
「だから、是非手土産付きで来てくれ、その頃には家族が増えているかもしれないしな」
先程の仕返しとばかりに、今度は天藍が冗談めかして話を終える。
離れるという事は朽葉が考えて出した結論だ。それを今すぐ翻せとは言えないだろう。天藍の発言を考慮しても、すぐに答えが出る事じゃない。
それでも天藍の気持ちが朽葉には心地よく。朽葉が思わず声に出して笑い出せば、天藍もつられるようにして笑った。
「何の話をしていたんです?」
笑い声の溢れる空間に、甘い香りを引き連れながらかのんが現れる。綺麗に飾られたフォンダンショコラを置きながら訊ねると、天藍と朽葉はいたずらっぽく一度目をあわせてにやりと笑う。
「いや、男同士の秘密だ」
「何ですかそれ」
「たいした話じゃないさ」
笑いながら応える天藍に、かのんは不満げに頬を膨らませる。
「仲間はずれは酷いです」
素直にむくれるかのんを見て、精霊二人はまた一段と笑う。それに対してかのんは「もう!」と抗議の声をあげたが、次第にその表情も緩んでいく。
きっとこれでいい。
湿っぽくなるより笑って過ごしたい。いかにも最後だと言わんばかりの礼よりも、この時間を贈りあおう。
「さてさて、デザートを頂こうかのう」
「このフォンダンショコラ、少し甘さを抑えたんです。どうですか?」
「うん、ほろ苦さがいいな」
「添えてあるクリームと果物もいいのう」
「よかった!」
記憶に残るのは、明るく楽しい時間と笑顔がいい。そう思って、かのんも晴れやかに笑った。
楽しい時間はあっという間に終わる。
あの後、話題は二転三転としたが、どれも他愛のない話で、それでもどれも盛り上がり笑いあった。
そして、今日の終わりがやってくる。
「無茶はせんようにな」
朽葉は玄関で振り返りながら言う。受け止めるかのんと天藍は素直に頷く。
「天藍と一緒ですから、大丈夫です」
沢山の戦いを経て学んできたのだ。きっともう危険と無茶の境界線はわかっている。そして、時にそれを越えてでも成さねばならぬ事もある事もわかっている。
それでも、二人ならばきっと戻ってこれるという事もわかっている。だからこその答え。
ゆえに朽葉もかのんの答えを聞いて満足気に笑う。心配する心はどうしたってある。だが同時に、信頼する心もあるのだ。
「おじ様、今日は楽しかったです、ありがとうございました」
「ほっ、こちらこそ、じゃな」
軽く、だが心からの言葉を述べて、朽葉は家を後にする。かのん達に笑顔で手を挙げながら歩いていく。かのんと天藍もまた、笑顔で手を振り見送る。
最後まで笑顔に溢れた時間だった。
朽葉は遠くなっていく家に、そこに住む二人に想いを寄せる。
どうか幸せでありますように、どうか幸せが続きますように。どちらも欠ける事無く、共にいる時間がずっと続きますように、と。そして願わくば……。
――いつか、また。
『おじ様がどこに居たとしても、何かの時は私達を頼りにしてくださいね』
少し前に、かのんが朽葉にそう言った。旅立つことは止めずとも、ここを寄る辺の一つにして欲しいと。
『ウィンクルム時代を思い出して契約した神人相手に昔話をしに来る位は良いんじゃないのか?』
さっき、天藍が朽葉にそう言った。全てを断たなくてもいいと、朽葉の代わりはいないのだと。
遠ざかる家は温かく満たされていてとても居心地の良い場所だった。
その家へ、いつかまた、土産を持って訪ねる日が来ますように、また二人と笑顔溢れる時間を過ごせますように。
そんな旅の先のいつかを思えば、自然と足取りも軽くなる。心の中に明かりが灯る。
(いい旅が出来そうじゃのう)
笑顔のまま、朽葉はまた新たな一歩を踏み出していく。過去に捕らわれるのではなく、未来への希望ある一歩を。
かのんと天藍は、朽葉の姿が見えなくなるまで見送った。遠ざかる背中を見守っていた。
先程までの笑顔に少しだけ寂しさが混ざったような気がして、天藍はかのんの肩を抱き寄せる。
「きっと、また会える時が来る」
会えたらいいな、ではなく、会える、と。
そう言い切ってくれた天藍の気持ちが嬉しくて、また、そう願い信じている自分にも気付く。
「ありがとうございます、天藍」
かのんは天藍に寄り添う様に頭を預ける。
「そうですね。またいつか……きっと会えますよね」
縁とは絡み、繋がり、時には切れるものかもしれない。それでも、互いが切りたくないと願えば、そう簡単に切れるものではないだろう。
きっと繋がっている。これからも繋がっていく。かのんと天藍とはまた違う形で、それでも同じ様に大切なものとして。
だからきっと、今日見た風景は未来にも待っているのだ。
「ああ、その時に何があったか色々話せるよう二人で生きていこう」
「そうですね、おじ様はきっと沢山の土産話をしてくれるでしょうから、こっちも沢山話せるように楽しく生きましょうね」
「いいな、惚気話を聞きに来たわけじゃないとぼやかせる位に楽しくしよう」
「もう、天藍ったら」
そして二人は微笑みあう。
今日の別れが最後ではない。かのんは今は胸を張ってそう思える。
目前に控えている戦いに勝利し、そして平和な世界を手に入れたなら、そこからまた楽しい時間を過ごそう。そしてまた沢山の料理を作り、デザートも用意して、笑いながら話すのだ。
きっと、そんな未来が待っている。いや、そんな未来を作っていく。
「……本当に、ありがとうございます」
かのんは肩に置かれた天藍の手に自分の手を重ねながら言う。
それは、今はもうここにいない精霊と、そして今もここにいる精霊の二人への感謝の言葉だった。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
リザルト筆記GM | 青ネコ GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | なし |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2018年5月26日 |