プロローグ
ついに切って落とされた、オーガ達との最終決戦――。もしかしたら、世界は滅び、ウィンクルムも命を落としてしまうかもしれません。
命を落としてしまう前に、悔いのないように。
A.R.O.A.はウィンクルムの正式な結婚を認める運びとなりました!
そして、ウィンクルム達がお互いの気持ちを、本心を曝け出す場を用意しようと、
A.R.O.A.がウィンクルム達に少しの休暇と、リゾート地を提供しました!
プロポーズの場としても、デートの場としても利用可能です!
人々は、ウィンクルム達が向かう最終決戦に向けて、少しでも手助けになればと、快くリゾート地などの開放を行ってくれました。
最終決戦であることもあり、これまで助力をしてくれたスポットは提供をしてくださっています!
行きたかったけど行けなかった、という場所に行くのも、同じ場所に行くのも、良いかもしれません!
リゾート地は、すべてウィンクルム達の貸切!(一部リゾートホテルなどはスタッフがいらっしゃいます)。
ウィンクルム達のゴールイン・ひと時は、一体どのようなものになるのでしょうか!
プラン
アクションプラン
葵田 正身 (うばら) (いばら) |
|
スポット番号:14 普段は私の意見を優先してくれるので 海の近くなら二人も楽しむことができるのでは、 との思惑は外れました 現在地はホテルの部屋毎に用意された温泉。 傍らにはいばら。 もう片方には足先だけ湯に浸けたうばら。 「良い天気だしビーチに行ってきては?」 私は浜辺で二人が海水浴を楽しむのを見てるよ 黒ばかりなのは否定しないが半袖もあるぞ? なぜと言われ。 「……その。分からないんだ。何を着たらいいか」 和装は馴染んでいるから良いとして。 うばら。心配してくれて有難う? 一人暮らしが長いからね 毎朝アドバイスしてくれる人間がいればよいのだけど 「いっそのこと、うちに越してくるかい?」 良い提案だと内心思いつつ 「部屋はご存知の通り余っている。いつでもどうぞ?」 あくまで彼らの意見を尊重したく。 戦いがあり、きっとその先に平和があり。 そこに彼らとの日常が続くというのなら。 紅潮する顔を長湯のせいだと告げて。 彼らと共に歩みたい。 |
リザルトノベル
日も高くちょうど良い具合に気温も上がってくれば、波がさざめく海面がきらきらと太陽光を反射している。
絶好の海水浴日和なゴールドビーチ。
……を、セレブリティリゾートホテル『リゾートパシオン』一室一室に備え付けられた温泉に浸かって、首を傾げながら見下ろし眺めているのは葵田 正身。
―― 海の近くなら二人も楽しむことができるのでは、と思ったんだけどな。
普段から自分の意見を優先してくれる精霊二人、いばらとうばらへ、あくまでさりげなくこの小旅行に誘ったわけで。
自分に構わず楽しんでくれる二人の姿を想像していたはずが、今現在、そんな二人は自分と一緒に温泉内に居たりする。
どこか遠くを見つめているふうな正身の横顔を、うばらは時折チラリと視界に入れる。
―― 葵田が暗に羽を伸ばせと言ってるのは理解していた、が。
そこはまだまだ甘いというか、どこまで人が良いのかというか、もうちょっと危機管理を持てというか。
オーガ、とりわけギルティとの戦いが激しくなるこの情勢下で、精霊たる己が神人から離れるわけもなし。
兄であるいばらに至っては、一人で行動することが無いのは分かり切っており。
つまり、必然的に三人一緒という現在の状況は、うばらにとっては予想通りであったわけである。
言葉は荒っぽいけれど、根は大変真っ直ぐ真面目であるうばら、不測の事態の事も考えて、湯に浸かる正身といばらの近くで足湯にて楽しみ中。
―― 任務は二人で向かうことが多いので新鮮です。
それぞれ思惑があったりする中、いばらに関しては水の流れに身を任せるが如く、正身にいざなわれるままに小旅行に頷いて。
そしてうばらに勧められるがままに正身と入浴と相成ったわけであったり。
―― 気持ちがいい……折角なんだから、後でうばらと代わろう。
それでも兄たる察しか、うばらの考えは何となく把握して気遣い浮かべた夕焼け色の瞳を時折向けている。
「良い天気だしビーチに行ってきては?」
数度考え巡らせた上で、正身はもう一度提案してみる。
優しいいばらとうばら。
こちらを気にしてくれるのは嬉しいけれど、二人がどんな表情で遊ぶのかも見てみたいのも本心で。
自分たちへと届けられた声音に、同じ色の瞳同士が一度交わりそしてまた正身へと視線戻される。
「海水浴とか興味ねぇな」
「えっと、僕も海で遊ぶことはあまり……」
葵田さんが一緒でないのも気が進みません、いばらからそう控えめに続くのを聞き取ると、シーブルーの双眸を細めちゃんと伝えてやる。
「私は浜辺で二人が海水浴を楽しむのを見てるよ。目の届く範囲にいるから」
「一緒には泳がないんですか?」
「うーん。若者の体力についてく自信が、な」
「都合いい時ばっか年上面するよな……つーか葵田、黒ずくめなんだから熱中症になるだろ」
「黒ばかりなのは否定しないが、半袖もあるぞ?」
半袖でも熱吸収する黒に変わりねぇだろつーか否定しないのか黒ずくめ……。
あまりに当然の如くキョトンとした顔で正身が言ってくるものだから、その後の突っ込み言葉がうばらの喉の奥に思わず押し留められた。
口にされなかった言葉、ふとそれが心の奥で思い至らせる。
―― 文化によっては喪に服す色か。
そういえば、『何故黒しか着ないのか』その根本については聞いた事が無かったと。
しかし、いくら飄々と何でも話してくれる印象の葵田相手でも、誰しも聞かれたくない事はあるだろうとうばらなりの配慮がよぎる。
と、そこへ間髪入れずあまりに自然な流れで、その配慮されたはずの言の葉がいばらの口から紡がれた。
「そういえばいつも黒い服装ですね。お家にお邪魔した時は和服というのでしたっけ……その服なら他の色も着ていたような。何か、」
「別に無理して言わなくていいぜ」
何か理由が? と最後問いかけようとした兄の言葉に被せるようにして、うばらが遮った。
あーにーきー……っ。
そんな無言の圧力を視線から感じれば、あっ、とようやく気付いたいばらが申し訳なさそうに口に手をあてる様子を、一通り見守ってから。
正身は特に気にした素振りなく、……否、どこか困った表情を浮かべてはいる。
兄のうっかりを謝罪すべきかと、うばらが一瞬戸惑った色を瞳に宿した。
が、しかして。
「……その。分からないんだ。何を着たらいいか」
真剣に困惑したトーンで、ものすごく拍子抜けする回答があっさりと正身の口から告げられた。
うばらの中で、たった今放たれた言葉が二度三度脳内で往復される。
その間にも、和装は馴染んでいるから良いとして、等と声色が続いている。
「はあ? 分からないだけ?」
ようやく理解に至れば、心底脱力した表情でうばらが発した。
―― 心配して損した。
胸の内で呟いたはずのものへ、まるで見透かされたような声が送られた。
「うばら。心配してくれて有難う?」
素直に、真っ直ぐに向けられた言葉が余計に気恥ずかしくさせて。
うばらはふいっと視線逸らせてしまう。
「……してねぇよ心配なんか」
「え? してるよね心配。うばら?」
「兄貴もこういう時だけ葵田の味方すんな」
「僕は葵田さんだけの味方じゃなくて、ちゃんと葵田さんとうばらの味方だから……!」
まるで意地を張る自分が馬鹿らしくなる程に、正身に続きいばらからまで言われたらもはやどう取り繕えばいいやら。
赤くなる耳をこっそり髪束で隠すように、そっぽ向いたまま自分の頭を弄るうばらへ優しい視線を飛ばしながら、正身の口はふと紡ぎ出す。
「一人暮らしが長いからね。毎朝アドバイスしてくれる人間がいればよいのだけど」
あくまでこの瞬間は、無意識の呟きとして発せられた言葉。
しかしきっと、いつだって心の水面に揺蕩っていた願望。
それを確信づけるように、いばらとうばらの脳裏に過去の彼が浮かび上がる。
―― 以前、寂しがり屋だとご自分で仰っていました、葵田さん。
―― あの広い家にやっぱ一人なのか。一人になった経緯までは聞かねぇけど……。
白薔薇が浮かべるは、炬燵の中で、寛いだ表情浮かべてそう告げられたこと。
青薔薇が浮かべるは、甘いおせち料理の一つを共に作る羽目になった時の、家の中の風景。
あれからもう季節は巡って。
今までもずっと、彼は笑顔で過ごしていたのだろうか。あの家に、たった一人で。
「うばらなら、アドバイスできると思うのですが……」
「何でアドバイス役が俺なんだよ。兄貴の方が向いてるだろ」
「いっそのこと、うちに越してくるかい?」
誰かが傍にいてくれたらいいのに。
そんな想いが重なったようにして、いばらが呟けばうばらが被せるように紡ぐ。
自身のことは二の次なよく似た思考の薔薇のきょうだいへ、気付けば正身は提案を投げていた。
二つの夕焼け色がまぁるくなって、こちらへ向けられる。
―― うん。我ながら良い案なんじゃないか。
心地の良い視線たちに、むしろどうして今まで思いつかなかったのだろうかという気持ち含め、改めて心の中でうんうんと頷く正身。
ぽかんとしていたいばらは、贈られた言の葉がじんわりと心に馴染む感覚が徐々に湧くのを感じた。
一緒に住む。
朝起きたら、葵田さんとうばらが居て、おはようを交わし合って、一緒に食卓を囲んで……。
暫し想像してみるも戸惑いは無く、逆にそれがとても自然なことのようにすら思われて。
「ねぇ。うばら」
「確かに同じ家にいりゃ護衛も楽だな」
呼びかけられた声に、うばらも頷いた。
すぐにきた返答に、いばらは微か口元を緩める。同じ事を考えていたのだろうかと。
―― 彼は僕を優先するし葵田さんのことだってきっと。
「……兄貴、今なに考えた」
「え? えっと、うばらなら僕をいつも起こしてくれるし、葵田さんもゆっくり寝てても大丈夫で、きっとちゃんとうばらが起こしてくれる、かなって」
「へぇ。それは助かるな」
「そうなんです。うばら、朝早くてもしっかりしてて」
「自分で起きるって選択肢は無ぇのか二人とも」
温かな団欒を想像すれば、自然と会話に花が咲く。けれど。
あまりにすんなりと受け入れている様子な2人へ、正身は交互に視線を向けた後、体から湯が落ちる音をさせて立ち上がる。
「部屋はご存知の通り余っている。いつでもどうぞ?」
「え? 葵田さん?」
「おい顔、なんか赤くなってねぇか」
「……ちょっと長湯したせいだ」
戦いがあり、きっとその先に平和があり。
もしもそこに……彼らとの日常が続くというのなら、それはどんなに ――
そう思考しそうになっていた己、紅潮する頬に気付いて、誤魔化すように湯から上がった。
だってあまりにも抵抗なく、二人が未来の想像を語ってくれるから。
これ以上あの瞳たちを見つめていると、都合も考えず帰ったらすぐにでも、そう言い出してしまいそうな気もして。
あくまで、彼らの意見を、意思を、尊重したいのだから。
「あ、すみません、お話に夢中で……!」
正身が告げたことを真っ正直に捉えては、慌てていばらもザバリと音を立て後に続いた。
うばらも仕方なさそうに、湯の中にあった足を石畳みの地につける。
いばらとは違い、その双眸は落ち着いて正身の後ろ姿へ注がれている。
上せた、ね……。
日頃から年上気取りのあの顔が、表情が、今どこか心許無げに幼さすら滲み出している気がした。
―― そういうところが放っておけねーっつーか……。
うばらは、足音もさせず正身の真横まで来ると有無を言わさずその片腕を取った。
「うばら?」
「神人に目の前で倒れられちゃ俺らの立つ瀬がねぇからな。つかまっとけ」
「葵田さん大丈夫ですか?」
もう片方の腕を、いばらが取った。
自分などよりずっと広い腕、広い背中。
―― いつか、危うげなくこの人を支えられたらいいな。
共に暮らせば、ずっと隣りにいられれば、それが叶う日も近づくんじゃないかと思う。
そうして叶ってからだって、いつまでも、傍にありたいと。
―― 一緒に住むなら本格的に家事も覚えねぇとな。まあいい。時間はいくらでもある。
願いを抱く白薔薇の反対側で、具体的な予定を立てる青薔薇も。
鮮明な期待から逃れるように距離を取ったつもりなのに、あっさりと両腕に期待そのものが温もりを与えてくれば、観念したようにそれ以上逃げることなく正身はされるがままにする。
―― 彼らと共に歩みたい。
今度は素直に心の内で願いを響かせた。
もしも、彼らが自分の意思でやって来るなら、その時はこの願いを直接紡げるだろうか。
のぼせた、という正身をひたすらに心配して、甲斐甲斐しく体や頭を拭き回るいばら。
どこか気を遣ったふうに、正身の顔を見ることせず後ろから着替え手伝ってやるうばら。
まいったな……これじゃホテル内探検にすら行けなそうだ。
せめて普段できない思い出を増やしてやりたいところなのだが。
―― 一緒に暮らすようになったら、もしやずっとこんな感じに?
先程両手に感じた温度思い出せば、膨らむ期待はもう留めることは出来ず。
二人の行動を縛ってしまっているのは本意で無いはずなのに、どこか、頬が緩む自分がいて。部屋に到着するまで何度も口元を隠す正身の姿があったとか。
夜。大きな大きなベッドのある部屋だった、けれど。
備え付けられている和室そちらの方に、正身を真ん中に左右に青白薔薇の2人で、布団に川の字つくって仲良く横たわる。
「……葵田さん、なんだか良い匂いします。落ち着いた香り、というか……」
「うん? 一緒に温泉入ったし、その後も使ってるものホテルのだから同じ、だと思うが」
「加齢臭、って言葉があったなそういや」
「……うばら、それはあんまりだよ」
「ち、違います、よっ? 清々しいっていうか、すごく自然っていうか、僕はこの香り好、……っなんでもないです」
「残念。最後まで聞きたかったな」
「いつまでもバカしてねぇで、寝るぞ」
「ああ、……おやすみ、いばら、うばら」
「……おう」
「おやすみ、なさい、葵田さん」
布団に顔を隠してしまったコをくすくすと笑い見つめてから。
互いに今日の終わりの言葉を交わし合った。
これが幸せな日常風景となるのも、もう間もなくのことかもしれない ――
絶好の海水浴日和なゴールドビーチ。
……を、セレブリティリゾートホテル『リゾートパシオン』一室一室に備え付けられた温泉に浸かって、首を傾げながら見下ろし眺めているのは葵田 正身。
―― 海の近くなら二人も楽しむことができるのでは、と思ったんだけどな。
普段から自分の意見を優先してくれる精霊二人、いばらとうばらへ、あくまでさりげなくこの小旅行に誘ったわけで。
自分に構わず楽しんでくれる二人の姿を想像していたはずが、今現在、そんな二人は自分と一緒に温泉内に居たりする。
どこか遠くを見つめているふうな正身の横顔を、うばらは時折チラリと視界に入れる。
―― 葵田が暗に羽を伸ばせと言ってるのは理解していた、が。
そこはまだまだ甘いというか、どこまで人が良いのかというか、もうちょっと危機管理を持てというか。
オーガ、とりわけギルティとの戦いが激しくなるこの情勢下で、精霊たる己が神人から離れるわけもなし。
兄であるいばらに至っては、一人で行動することが無いのは分かり切っており。
つまり、必然的に三人一緒という現在の状況は、うばらにとっては予想通りであったわけである。
言葉は荒っぽいけれど、根は大変真っ直ぐ真面目であるうばら、不測の事態の事も考えて、湯に浸かる正身といばらの近くで足湯にて楽しみ中。
―― 任務は二人で向かうことが多いので新鮮です。
それぞれ思惑があったりする中、いばらに関しては水の流れに身を任せるが如く、正身にいざなわれるままに小旅行に頷いて。
そしてうばらに勧められるがままに正身と入浴と相成ったわけであったり。
―― 気持ちがいい……折角なんだから、後でうばらと代わろう。
それでも兄たる察しか、うばらの考えは何となく把握して気遣い浮かべた夕焼け色の瞳を時折向けている。
「良い天気だしビーチに行ってきては?」
数度考え巡らせた上で、正身はもう一度提案してみる。
優しいいばらとうばら。
こちらを気にしてくれるのは嬉しいけれど、二人がどんな表情で遊ぶのかも見てみたいのも本心で。
自分たちへと届けられた声音に、同じ色の瞳同士が一度交わりそしてまた正身へと視線戻される。
「海水浴とか興味ねぇな」
「えっと、僕も海で遊ぶことはあまり……」
葵田さんが一緒でないのも気が進みません、いばらからそう控えめに続くのを聞き取ると、シーブルーの双眸を細めちゃんと伝えてやる。
「私は浜辺で二人が海水浴を楽しむのを見てるよ。目の届く範囲にいるから」
「一緒には泳がないんですか?」
「うーん。若者の体力についてく自信が、な」
「都合いい時ばっか年上面するよな……つーか葵田、黒ずくめなんだから熱中症になるだろ」
「黒ばかりなのは否定しないが、半袖もあるぞ?」
半袖でも熱吸収する黒に変わりねぇだろつーか否定しないのか黒ずくめ……。
あまりに当然の如くキョトンとした顔で正身が言ってくるものだから、その後の突っ込み言葉がうばらの喉の奥に思わず押し留められた。
口にされなかった言葉、ふとそれが心の奥で思い至らせる。
―― 文化によっては喪に服す色か。
そういえば、『何故黒しか着ないのか』その根本については聞いた事が無かったと。
しかし、いくら飄々と何でも話してくれる印象の葵田相手でも、誰しも聞かれたくない事はあるだろうとうばらなりの配慮がよぎる。
と、そこへ間髪入れずあまりに自然な流れで、その配慮されたはずの言の葉がいばらの口から紡がれた。
「そういえばいつも黒い服装ですね。お家にお邪魔した時は和服というのでしたっけ……その服なら他の色も着ていたような。何か、」
「別に無理して言わなくていいぜ」
何か理由が? と最後問いかけようとした兄の言葉に被せるようにして、うばらが遮った。
あーにーきー……っ。
そんな無言の圧力を視線から感じれば、あっ、とようやく気付いたいばらが申し訳なさそうに口に手をあてる様子を、一通り見守ってから。
正身は特に気にした素振りなく、……否、どこか困った表情を浮かべてはいる。
兄のうっかりを謝罪すべきかと、うばらが一瞬戸惑った色を瞳に宿した。
が、しかして。
「……その。分からないんだ。何を着たらいいか」
真剣に困惑したトーンで、ものすごく拍子抜けする回答があっさりと正身の口から告げられた。
うばらの中で、たった今放たれた言葉が二度三度脳内で往復される。
その間にも、和装は馴染んでいるから良いとして、等と声色が続いている。
「はあ? 分からないだけ?」
ようやく理解に至れば、心底脱力した表情でうばらが発した。
―― 心配して損した。
胸の内で呟いたはずのものへ、まるで見透かされたような声が送られた。
「うばら。心配してくれて有難う?」
素直に、真っ直ぐに向けられた言葉が余計に気恥ずかしくさせて。
うばらはふいっと視線逸らせてしまう。
「……してねぇよ心配なんか」
「え? してるよね心配。うばら?」
「兄貴もこういう時だけ葵田の味方すんな」
「僕は葵田さんだけの味方じゃなくて、ちゃんと葵田さんとうばらの味方だから……!」
まるで意地を張る自分が馬鹿らしくなる程に、正身に続きいばらからまで言われたらもはやどう取り繕えばいいやら。
赤くなる耳をこっそり髪束で隠すように、そっぽ向いたまま自分の頭を弄るうばらへ優しい視線を飛ばしながら、正身の口はふと紡ぎ出す。
「一人暮らしが長いからね。毎朝アドバイスしてくれる人間がいればよいのだけど」
あくまでこの瞬間は、無意識の呟きとして発せられた言葉。
しかしきっと、いつだって心の水面に揺蕩っていた願望。
それを確信づけるように、いばらとうばらの脳裏に過去の彼が浮かび上がる。
―― 以前、寂しがり屋だとご自分で仰っていました、葵田さん。
―― あの広い家にやっぱ一人なのか。一人になった経緯までは聞かねぇけど……。
白薔薇が浮かべるは、炬燵の中で、寛いだ表情浮かべてそう告げられたこと。
青薔薇が浮かべるは、甘いおせち料理の一つを共に作る羽目になった時の、家の中の風景。
あれからもう季節は巡って。
今までもずっと、彼は笑顔で過ごしていたのだろうか。あの家に、たった一人で。
「うばらなら、アドバイスできると思うのですが……」
「何でアドバイス役が俺なんだよ。兄貴の方が向いてるだろ」
「いっそのこと、うちに越してくるかい?」
誰かが傍にいてくれたらいいのに。
そんな想いが重なったようにして、いばらが呟けばうばらが被せるように紡ぐ。
自身のことは二の次なよく似た思考の薔薇のきょうだいへ、気付けば正身は提案を投げていた。
二つの夕焼け色がまぁるくなって、こちらへ向けられる。
―― うん。我ながら良い案なんじゃないか。
心地の良い視線たちに、むしろどうして今まで思いつかなかったのだろうかという気持ち含め、改めて心の中でうんうんと頷く正身。
ぽかんとしていたいばらは、贈られた言の葉がじんわりと心に馴染む感覚が徐々に湧くのを感じた。
一緒に住む。
朝起きたら、葵田さんとうばらが居て、おはようを交わし合って、一緒に食卓を囲んで……。
暫し想像してみるも戸惑いは無く、逆にそれがとても自然なことのようにすら思われて。
「ねぇ。うばら」
「確かに同じ家にいりゃ護衛も楽だな」
呼びかけられた声に、うばらも頷いた。
すぐにきた返答に、いばらは微か口元を緩める。同じ事を考えていたのだろうかと。
―― 彼は僕を優先するし葵田さんのことだってきっと。
「……兄貴、今なに考えた」
「え? えっと、うばらなら僕をいつも起こしてくれるし、葵田さんもゆっくり寝てても大丈夫で、きっとちゃんとうばらが起こしてくれる、かなって」
「へぇ。それは助かるな」
「そうなんです。うばら、朝早くてもしっかりしてて」
「自分で起きるって選択肢は無ぇのか二人とも」
温かな団欒を想像すれば、自然と会話に花が咲く。けれど。
あまりにすんなりと受け入れている様子な2人へ、正身は交互に視線を向けた後、体から湯が落ちる音をさせて立ち上がる。
「部屋はご存知の通り余っている。いつでもどうぞ?」
「え? 葵田さん?」
「おい顔、なんか赤くなってねぇか」
「……ちょっと長湯したせいだ」
戦いがあり、きっとその先に平和があり。
もしもそこに……彼らとの日常が続くというのなら、それはどんなに ――
そう思考しそうになっていた己、紅潮する頬に気付いて、誤魔化すように湯から上がった。
だってあまりにも抵抗なく、二人が未来の想像を語ってくれるから。
これ以上あの瞳たちを見つめていると、都合も考えず帰ったらすぐにでも、そう言い出してしまいそうな気もして。
あくまで、彼らの意見を、意思を、尊重したいのだから。
「あ、すみません、お話に夢中で……!」
正身が告げたことを真っ正直に捉えては、慌てていばらもザバリと音を立て後に続いた。
うばらも仕方なさそうに、湯の中にあった足を石畳みの地につける。
いばらとは違い、その双眸は落ち着いて正身の後ろ姿へ注がれている。
上せた、ね……。
日頃から年上気取りのあの顔が、表情が、今どこか心許無げに幼さすら滲み出している気がした。
―― そういうところが放っておけねーっつーか……。
うばらは、足音もさせず正身の真横まで来ると有無を言わさずその片腕を取った。
「うばら?」
「神人に目の前で倒れられちゃ俺らの立つ瀬がねぇからな。つかまっとけ」
「葵田さん大丈夫ですか?」
もう片方の腕を、いばらが取った。
自分などよりずっと広い腕、広い背中。
―― いつか、危うげなくこの人を支えられたらいいな。
共に暮らせば、ずっと隣りにいられれば、それが叶う日も近づくんじゃないかと思う。
そうして叶ってからだって、いつまでも、傍にありたいと。
―― 一緒に住むなら本格的に家事も覚えねぇとな。まあいい。時間はいくらでもある。
願いを抱く白薔薇の反対側で、具体的な予定を立てる青薔薇も。
鮮明な期待から逃れるように距離を取ったつもりなのに、あっさりと両腕に期待そのものが温もりを与えてくれば、観念したようにそれ以上逃げることなく正身はされるがままにする。
―― 彼らと共に歩みたい。
今度は素直に心の内で願いを響かせた。
もしも、彼らが自分の意思でやって来るなら、その時はこの願いを直接紡げるだろうか。
のぼせた、という正身をひたすらに心配して、甲斐甲斐しく体や頭を拭き回るいばら。
どこか気を遣ったふうに、正身の顔を見ることせず後ろから着替え手伝ってやるうばら。
まいったな……これじゃホテル内探検にすら行けなそうだ。
せめて普段できない思い出を増やしてやりたいところなのだが。
―― 一緒に暮らすようになったら、もしやずっとこんな感じに?
先程両手に感じた温度思い出せば、膨らむ期待はもう留めることは出来ず。
二人の行動を縛ってしまっているのは本意で無いはずなのに、どこか、頬が緩む自分がいて。部屋に到着するまで何度も口元を隠す正身の姿があったとか。
夜。大きな大きなベッドのある部屋だった、けれど。
備え付けられている和室そちらの方に、正身を真ん中に左右に青白薔薇の2人で、布団に川の字つくって仲良く横たわる。
「……葵田さん、なんだか良い匂いします。落ち着いた香り、というか……」
「うん? 一緒に温泉入ったし、その後も使ってるものホテルのだから同じ、だと思うが」
「加齢臭、って言葉があったなそういや」
「……うばら、それはあんまりだよ」
「ち、違います、よっ? 清々しいっていうか、すごく自然っていうか、僕はこの香り好、……っなんでもないです」
「残念。最後まで聞きたかったな」
「いつまでもバカしてねぇで、寝るぞ」
「ああ、……おやすみ、いばら、うばら」
「……おう」
「おやすみ、なさい、葵田さん」
布団に顔を隠してしまったコをくすくすと笑い見つめてから。
互いに今日の終わりの言葉を交わし合った。
これが幸せな日常風景となるのも、もう間もなくのことかもしれない ――
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
リザルト筆記GM | 蒼色クレヨン GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | なし |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2018年5月26日 |