プラン
アクションプラン
ひろの (ルシエロ=ザガン) (ケネス・リード) |
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1 普段入れないらしいし、ゆっくり見よう。(ルシェと一緒は、今は少し気まずい 全部見たいし。とりあえず近くから回ればいい、かな。 ……仲いいと思ってたけど。そうでもない?(視線は向けずに思う 熱帯の魚は、やっぱりカラフル。(じぃっと見て、偶に解説も読む !(ピクッと反応。握り返せず、頭の中でどうしようと空回り !?(ビクゥッと肩を跳ねて硬直 ……いや、はなしてほしい。(言い分は理解できそうできない (大人しく様子見 まだ全部見れてないんだけどな。(水槽に視線を向けて現実逃避 ……。「あまったるい」(思わず小声で鸚鵡返し ……あれ、もしかして。外堀を埋められるっていうの、だったり?(今更気づく 頭の上で会話するの、やめてくれないかな。(羞恥で徐々に視線と顔が下へ ……なんで。(好かれる理由が解らないのが怖い (手を引かれて歩き、ちらりとルシェを見て頷く 嫌われてないのは、わかってた。けど。こういうの、何が正解なんだろう。 |
リザルトノベル
見上げるほどの高さ、何処までも続く広さ、壁のような水槽の中には、様々な魚が悠々と泳いでいる。その前に立てば、まるで海の底に沈んだように感じる。
水族館『カプカプ・オーシャン』はパシオンシー『カプカプビーチ』の浜辺にある大きな水族館で、神の遣いとされているカプカプがとあるウィンクルムに頼み込まれ、人々と海を繋げる場として用意したと伝えられている。
とはいえ、普段は身辺調査等を行う警備がある為、おいそれと足を運ぶことは出来ない。
今回は、カプカプからウィンクルムを招待して癒されてほしいとの、神託があったため、開放を許されたのだ。
(普段入れないらしいし、ゆっくり見よう)
なので『ひろの』がそう思うのも無理はない。
ちらりと横を見れば、そこには存在感のある精霊二人。けれど、ひろのは彼らをマジマジと見ることも声をかけることも出来ない。
(ルシェと一緒は、今は少し気まずい)
最初の精霊である『ルシエロ=ザガン』から、想いを告げられた。
夢の中で告白された想いは、桜の下で現実のものだと伝えられた。
ひろのにはその想いがわからない。いや、どういうものなのかはわかっているのだ。しかし、それがどうして自分に向けられるのかがわからない。理解出来ない。
だから、動けない。どうすればいいのかわからない。
そんな状況だから、もう一人の精霊である『ケネス・リード』も一緒に来てくれた事はありがたかった。
目の前にある青く光る水槽を見つめる。
この空間には華やかな赤よりも静かな青が広がっている。それがひろのの心を少し落ち着かせ、気を紛らわせてくれていた。
「全部見たいし。とりあえず近くから回ればいい、かな」
精霊二人に伺いを立てれば、二人は快く同意した。その様子にホッとして歩き出す。大きな水槽を眺めながら、ゆっくりと。
ひろのの歩調に合わせて歩きながら、ケネスは軽い口調で話し出す。
「あーでも水族館もいーけど、遊園地がよかったのにー」
思い切り遊べるじゃない? と、口を尖らせて拗ねたフリをするケネスに、ルシエロは呆れた視線を向ける。
「オマエはついて来ただけだろう」
「折角開放されたんだし? あたしもウィンクルムなんだからいーじゃない」
「悪いとは言っていない。邪魔だとは思うがな」
「辛辣ぅ」
ルシエロの言う『邪魔』が何を意味しているのか、正確に理解しているケネスは、からかい半分で笑みを浮かべる。
「空気を読めという意味だ」
どう言っても引く気はないだろうとわかったルシエロは、仕方なさそうに溜息をつく。それを見たケネスは楽しそうにククッと笑った。
(……仲いいと思ってたけど。そうでもない?)
自分の予想とは少し外れた二人のやり取りに、見ないまま聞いていたひろのは小首を傾げる。
まだまだひろのの知らない二人の顔があるようだ。
大きな水槽の間を抜ければ、沢山の小さい水槽が沢山展示してある部屋になった。
小さい水槽と言っても、さっきまでの壁のような水槽と比べればという話で、ひろのが三人くらいは余裕で入れそうな大きさだ。
その中でひらひらと踊るように泳いでいるのは、熱帯の地域に棲んでいる魚達。
(熱帯の魚は、やっぱりカラフル)
生きた宝石のような美しさに、ひろのはじぃっと見入る。水槽の周囲には魚達の解説もあり、偶にそちらにも目を向け読み込んでは、また改めて水槽の中の魚達を見つめる。
ひろのはもっと見ようと無意識に水槽のガラスに触れそうになる。けれど、掌がガラスに触れるよりも先にハッと気付いてその手を下げる。下げた時には意識しているのに、暫くしてまた夢中になれば、再び触りそうになってまた下げる。
そんな事を繰り返しているひろのを後ろから見守っていたルシエロは、ふと水槽に薄っすらとうつる自分の顔を見て、自分が知らずに笑みを浮かべていた事に気付く。
何気ないひろのの動きが、仕草が、ただ愛しい。それゆえに浮かぶ笑み。
ルシエロはその気持ちが望むままに、求めるままに、それでもひろのを驚かさないように、下がった右手を自身の左手でそっと握り込む。
「!」
ひろのは思わずピクッと手を震わせてしまう。けれど、その反応など閉じ込めるように、ルシエロは手を握りこんだまま離さない。
顔は相変わらず前の水槽へ向けたまま、けれど今はもう魚達の様子は目に入ってこない。だからといってルシエロを見る事も出来ない。握り返す事も出来ず、頭の中でどうしようと出口のない問いだけをぐるぐる空回りさせていた。
言ってしまえば膠着状態。そんな二人の様子に気付いたのは、一緒にいたケネスだ。
(んー?)
ただ、ケネスは少し違和感を覚えていた。二人の間の空気が以前とは違うもののように思えたからだ。
頭の中で疑問符を浮べながらも、ひろのとルシエロが手を繋いでいる事に気付き、それならばと、悪戯を思いついたような笑みでひろのの左側へ回り込む。
(やっぱ、手ぇ小さい)
回り込んで、そして、普通にひろのの左手を右手で繋ぐ……というよりは確保した。
「!?」
今度はビクゥッと肩を跳ねさせ硬直してしまう。ルシエロに手を繋がれただけでも頭がいっぱいになっていたひろのには、ケネスの行動は思考への止めとなった。
「おい」
先程までの柔らかな笑みはどこへやら、ルシエロはケネスもひろのの手を握っている事が、いや、もう触れている事すら気に入らず、軽く睨んで牽制する。
しかしケネスは何処吹く風やら。さして気にした様子もなく、それどころか楽しそうに笑顔を作る。
「親睦を深める為よ。ほら、絆を深く的な?」
あたしだってウィンクルムなんだから! と、本日二度目の言葉を言う。
だが、そんな言い分ではひろのに届かない。
(……いや、はなしてほしい)
心の中で要望を述べるが、それは当然ケネスには届かない。親睦を深める事と手を繋ぐ事、そこにどんな関係性があるというのか。ひろのには理解出来ない。
「ふん。よく言う」
ルシエロは引かないケネスへの無駄な牽制をやめ、ひろのの手を軽く引いて自身に寄せた。
その事でまたひろのがガチリと硬直しなおしたが、離す気は欠片もなかった。
「ところでさあ」
ルシエロの牽制や主張行動にもめげず、ケネスはまだひろのの手を掴んでいる。手は離さないまま、ひろのの頭上でルシエロに近づくように少し身を寄せる。
そして、ルシエロに問いかける。
「二人の雰囲気おかしくない?」
先程から気になっていた事。違和感。それを口にすれば、ルシエロは眉を少し寄せ、やや不機嫌な視線をケネスへ向けた。
「オマエに関係ないだろう」
「そうは言ってもねぇ」
硬直が解けてきたひろのは、しかし手を離してもらう事も出来ず、頭上で始まってしまった会話を止める事もできず、大人しく終わるのを待つべく様子見をすることにした。
(まだ全部見れてないんだけどな)
目の前の水槽を改めて見つめる。きらきらひらひら綺麗な魚。今自分の身に起きている事なんて忘れられそうだ。人、それを現実逃避と言う。
「オマエが気にする事じゃない」
「二人の様子が変わったら気になるもんなの。もっとさあ……」
現実から逃げ出そうとしていたひろのを連れ戻したのは、ケネスが言った一言だった。
「甘ったるい空気出てたじゃない」
ひろのは目を丸くする。
ルシエロは微かに眇める。
「あまったるい」
数秒の沈黙の後、思わず小声で鸚鵡返しをしてしまう。
言葉は頭に入ってきた。けれどそれが持つ意味が頭に上手く入ってこない。あまったるい、とは。それが持つ意味とは。
「で、何が言いたい」
まだ咀嚼できていないひろのを一瞥してから、ルシエロは繋いだ手の親指でヒロノの手の甲を撫でる。そっと、優しく、けれど何かを主張するように。
その指の動きに、ひろのはまたピクリと手を震わせる。そんな二人の様子を楽しむように、ケネスはにっこり笑みを浮かべた。
「拗れることでもあったのか聞きたいだけよ」
言いながらもルシエロから視線は逸らさない。おやつを待っている子供のように、決して引かない。
無言のままケネスを見ていたルシエロは、このままでは時間が過ぎるだけだと諦め、小さく息を吐き出した。
そして、口を開く。
「オレの想いをヒロノに告げた」
「!」
簡潔に告げられたその内容に、ひろのは顔に熱が集まるのを感じた。
「え。まだくっついてなかったの?」
「?!」
そして続いたケネスの声に驚愕した。
ひろのは驚きの中で頭を動かし始める。
どういうことだろう。今の発言は。さっきの『あまったるい』という言葉は。
自分とルシエロの関係など、ウィンクルム、という単語一つで説明がつく。その筈だ。
けれど、周りから見たら、そうではない、と。
自分は今どういう状況だろうかと振り返る。
一緒の家に住まわせてもらって、行動する時には頻繁に一緒にいて、触れる事も、触れられる事も、抱きしめられる事も、緊張や恥ずかしさはあっても、今となっては――。
もしかして、もしかしなくても、俗に言う『恋人』がとる行動とさしてかわりのない行動をとっているのではないか。それを周囲にも見られてきていたのではないか。
(……あれ、もしかして。外堀を埋められるっていうの、だったり?)
今更気づいてしまった積み上げた、いや、積み上げられた既成事実に頭がくらりと揺れた。
「そうか、外からはそう見えるか」
「ちょっと待った、本当にくっついてなかったの? うそぉ」
そんなひろのの状態に気付いているのかいないのか、二人はなおもひろのの頭上で会話を続けていた。
(頭の上で会話するの、やめてくれないかな)
気付いてしまった事実から目を逸らすように、そんなことを思う。それでも目を逸らしきれない。今この瞬間のこの状況がひろのの心臓には悪い。知らず羞恥で徐々に視線と顔が下へさがっていく。
「口説いている最中だ。邪魔をするなよ」
オマエにはやらんからな、と牽制を込めているルシエロの言葉が頭上から降ってくる。
「今のとこは好奇心だけ。安心して」
などと、先の事までは保証しない事を楽しそうにケネスが言っている。
(……なんで)
ひろのの頭の中で疑問符が踊る。
わからない。はずかしい? うれしい? もうしわけない? ほっとする? こわい?
……こわい。りかいできない。こわい。こわい。
ひろのにはルシエロにここまで好かれる理由が解らない。そして、解らないということが怖い。
どうすればいいのだろう。
自分がどうすればいいのか、どう思っているのか、どうしたいのか。
それもわからない。今は、まだ。
だけど――。
「ヒロノ、行くぞ。全部見たいんだろう?」
ケネスとの会話を終わらせたルシエロは、繋いだ手が離れないようにする為か、痛くない程度に繋いだ手に力を入れ、軽く引っ張り歩き出す。
手を引かれたひろのは歩き出しながら顔を上げ、ちらりとルシエロを見る。
視線が合う。甘く綺麗に微笑み見つめているルシエロと。
ひろのは胸が苦しくなるのを感じながら、小さく頷く。
「じゃ、見て回りましょ?」
ルシエロとは反対側の手を握りながら、ケネスも笑顔で言う。
二人の精霊に挟まれる形で、ひろのは水族館の中を歩いていく。
ケネスは笑顔のまま二人の様子を、いや、ひろのの様子を観察する。
(んー……前に言ってたひろのの話ってそれ系かも?)
ただ、あの時から時間が経っている。告白系の話だとして、今となってはその中身はなんだろうか。
傍から見れば恋人同士に見えた。そうでなくてもルシエロの執着はあからさまだし、ひろのだって自分とルシエロに対する態度も反応も違うのだ。
それでも、確かにひろのには、何かに困惑している様子もある。
(さて、どう立ち回ればいいか……)
ケネスは改めて二人に視線を向ける。
繋がれた手は、自分よりも強く結びついているように見えた。
そんな風にケネスに見られているとは気付いていないひろのは、ルシエロの事を、今の状況の事を考えていた。
(嫌われてないのは、わかってた。けど。こういうの、何が正解なんだろう)
理由を問いただせばいいのか、知らないまま自信を持てばいいのか、そうではなく自分の気持ちを伝えればいいのか。自分の気持ち? 自分の気持ちとはなんなのか。
わからない。こわい。
静かな青の空間に一人で溶けてしまいたい。けれどきっと華やかな赤がそれを許さないだろう。
ならば、きっと考えなければいけないのだ。
解らない感情も、怖いと感じる自分自身のことも、これからどうすればいいのかも。
深い海の底を泳ぎ進むように、ゆっくりとでも、確実に。
水族館『カプカプ・オーシャン』はパシオンシー『カプカプビーチ』の浜辺にある大きな水族館で、神の遣いとされているカプカプがとあるウィンクルムに頼み込まれ、人々と海を繋げる場として用意したと伝えられている。
とはいえ、普段は身辺調査等を行う警備がある為、おいそれと足を運ぶことは出来ない。
今回は、カプカプからウィンクルムを招待して癒されてほしいとの、神託があったため、開放を許されたのだ。
(普段入れないらしいし、ゆっくり見よう)
なので『ひろの』がそう思うのも無理はない。
ちらりと横を見れば、そこには存在感のある精霊二人。けれど、ひろのは彼らをマジマジと見ることも声をかけることも出来ない。
(ルシェと一緒は、今は少し気まずい)
最初の精霊である『ルシエロ=ザガン』から、想いを告げられた。
夢の中で告白された想いは、桜の下で現実のものだと伝えられた。
ひろのにはその想いがわからない。いや、どういうものなのかはわかっているのだ。しかし、それがどうして自分に向けられるのかがわからない。理解出来ない。
だから、動けない。どうすればいいのかわからない。
そんな状況だから、もう一人の精霊である『ケネス・リード』も一緒に来てくれた事はありがたかった。
目の前にある青く光る水槽を見つめる。
この空間には華やかな赤よりも静かな青が広がっている。それがひろのの心を少し落ち着かせ、気を紛らわせてくれていた。
「全部見たいし。とりあえず近くから回ればいい、かな」
精霊二人に伺いを立てれば、二人は快く同意した。その様子にホッとして歩き出す。大きな水槽を眺めながら、ゆっくりと。
ひろのの歩調に合わせて歩きながら、ケネスは軽い口調で話し出す。
「あーでも水族館もいーけど、遊園地がよかったのにー」
思い切り遊べるじゃない? と、口を尖らせて拗ねたフリをするケネスに、ルシエロは呆れた視線を向ける。
「オマエはついて来ただけだろう」
「折角開放されたんだし? あたしもウィンクルムなんだからいーじゃない」
「悪いとは言っていない。邪魔だとは思うがな」
「辛辣ぅ」
ルシエロの言う『邪魔』が何を意味しているのか、正確に理解しているケネスは、からかい半分で笑みを浮かべる。
「空気を読めという意味だ」
どう言っても引く気はないだろうとわかったルシエロは、仕方なさそうに溜息をつく。それを見たケネスは楽しそうにククッと笑った。
(……仲いいと思ってたけど。そうでもない?)
自分の予想とは少し外れた二人のやり取りに、見ないまま聞いていたひろのは小首を傾げる。
まだまだひろのの知らない二人の顔があるようだ。
大きな水槽の間を抜ければ、沢山の小さい水槽が沢山展示してある部屋になった。
小さい水槽と言っても、さっきまでの壁のような水槽と比べればという話で、ひろのが三人くらいは余裕で入れそうな大きさだ。
その中でひらひらと踊るように泳いでいるのは、熱帯の地域に棲んでいる魚達。
(熱帯の魚は、やっぱりカラフル)
生きた宝石のような美しさに、ひろのはじぃっと見入る。水槽の周囲には魚達の解説もあり、偶にそちらにも目を向け読み込んでは、また改めて水槽の中の魚達を見つめる。
ひろのはもっと見ようと無意識に水槽のガラスに触れそうになる。けれど、掌がガラスに触れるよりも先にハッと気付いてその手を下げる。下げた時には意識しているのに、暫くしてまた夢中になれば、再び触りそうになってまた下げる。
そんな事を繰り返しているひろのを後ろから見守っていたルシエロは、ふと水槽に薄っすらとうつる自分の顔を見て、自分が知らずに笑みを浮かべていた事に気付く。
何気ないひろのの動きが、仕草が、ただ愛しい。それゆえに浮かぶ笑み。
ルシエロはその気持ちが望むままに、求めるままに、それでもひろのを驚かさないように、下がった右手を自身の左手でそっと握り込む。
「!」
ひろのは思わずピクッと手を震わせてしまう。けれど、その反応など閉じ込めるように、ルシエロは手を握りこんだまま離さない。
顔は相変わらず前の水槽へ向けたまま、けれど今はもう魚達の様子は目に入ってこない。だからといってルシエロを見る事も出来ない。握り返す事も出来ず、頭の中でどうしようと出口のない問いだけをぐるぐる空回りさせていた。
言ってしまえば膠着状態。そんな二人の様子に気付いたのは、一緒にいたケネスだ。
(んー?)
ただ、ケネスは少し違和感を覚えていた。二人の間の空気が以前とは違うもののように思えたからだ。
頭の中で疑問符を浮べながらも、ひろのとルシエロが手を繋いでいる事に気付き、それならばと、悪戯を思いついたような笑みでひろのの左側へ回り込む。
(やっぱ、手ぇ小さい)
回り込んで、そして、普通にひろのの左手を右手で繋ぐ……というよりは確保した。
「!?」
今度はビクゥッと肩を跳ねさせ硬直してしまう。ルシエロに手を繋がれただけでも頭がいっぱいになっていたひろのには、ケネスの行動は思考への止めとなった。
「おい」
先程までの柔らかな笑みはどこへやら、ルシエロはケネスもひろのの手を握っている事が、いや、もう触れている事すら気に入らず、軽く睨んで牽制する。
しかしケネスは何処吹く風やら。さして気にした様子もなく、それどころか楽しそうに笑顔を作る。
「親睦を深める為よ。ほら、絆を深く的な?」
あたしだってウィンクルムなんだから! と、本日二度目の言葉を言う。
だが、そんな言い分ではひろのに届かない。
(……いや、はなしてほしい)
心の中で要望を述べるが、それは当然ケネスには届かない。親睦を深める事と手を繋ぐ事、そこにどんな関係性があるというのか。ひろのには理解出来ない。
「ふん。よく言う」
ルシエロは引かないケネスへの無駄な牽制をやめ、ひろのの手を軽く引いて自身に寄せた。
その事でまたひろのがガチリと硬直しなおしたが、離す気は欠片もなかった。
「ところでさあ」
ルシエロの牽制や主張行動にもめげず、ケネスはまだひろのの手を掴んでいる。手は離さないまま、ひろのの頭上でルシエロに近づくように少し身を寄せる。
そして、ルシエロに問いかける。
「二人の雰囲気おかしくない?」
先程から気になっていた事。違和感。それを口にすれば、ルシエロは眉を少し寄せ、やや不機嫌な視線をケネスへ向けた。
「オマエに関係ないだろう」
「そうは言ってもねぇ」
硬直が解けてきたひろのは、しかし手を離してもらう事も出来ず、頭上で始まってしまった会話を止める事もできず、大人しく終わるのを待つべく様子見をすることにした。
(まだ全部見れてないんだけどな)
目の前の水槽を改めて見つめる。きらきらひらひら綺麗な魚。今自分の身に起きている事なんて忘れられそうだ。人、それを現実逃避と言う。
「オマエが気にする事じゃない」
「二人の様子が変わったら気になるもんなの。もっとさあ……」
現実から逃げ出そうとしていたひろのを連れ戻したのは、ケネスが言った一言だった。
「甘ったるい空気出てたじゃない」
ひろのは目を丸くする。
ルシエロは微かに眇める。
「あまったるい」
数秒の沈黙の後、思わず小声で鸚鵡返しをしてしまう。
言葉は頭に入ってきた。けれどそれが持つ意味が頭に上手く入ってこない。あまったるい、とは。それが持つ意味とは。
「で、何が言いたい」
まだ咀嚼できていないひろのを一瞥してから、ルシエロは繋いだ手の親指でヒロノの手の甲を撫でる。そっと、優しく、けれど何かを主張するように。
その指の動きに、ひろのはまたピクリと手を震わせる。そんな二人の様子を楽しむように、ケネスはにっこり笑みを浮かべた。
「拗れることでもあったのか聞きたいだけよ」
言いながらもルシエロから視線は逸らさない。おやつを待っている子供のように、決して引かない。
無言のままケネスを見ていたルシエロは、このままでは時間が過ぎるだけだと諦め、小さく息を吐き出した。
そして、口を開く。
「オレの想いをヒロノに告げた」
「!」
簡潔に告げられたその内容に、ひろのは顔に熱が集まるのを感じた。
「え。まだくっついてなかったの?」
「?!」
そして続いたケネスの声に驚愕した。
ひろのは驚きの中で頭を動かし始める。
どういうことだろう。今の発言は。さっきの『あまったるい』という言葉は。
自分とルシエロの関係など、ウィンクルム、という単語一つで説明がつく。その筈だ。
けれど、周りから見たら、そうではない、と。
自分は今どういう状況だろうかと振り返る。
一緒の家に住まわせてもらって、行動する時には頻繁に一緒にいて、触れる事も、触れられる事も、抱きしめられる事も、緊張や恥ずかしさはあっても、今となっては――。
もしかして、もしかしなくても、俗に言う『恋人』がとる行動とさしてかわりのない行動をとっているのではないか。それを周囲にも見られてきていたのではないか。
(……あれ、もしかして。外堀を埋められるっていうの、だったり?)
今更気づいてしまった積み上げた、いや、積み上げられた既成事実に頭がくらりと揺れた。
「そうか、外からはそう見えるか」
「ちょっと待った、本当にくっついてなかったの? うそぉ」
そんなひろのの状態に気付いているのかいないのか、二人はなおもひろのの頭上で会話を続けていた。
(頭の上で会話するの、やめてくれないかな)
気付いてしまった事実から目を逸らすように、そんなことを思う。それでも目を逸らしきれない。今この瞬間のこの状況がひろのの心臓には悪い。知らず羞恥で徐々に視線と顔が下へさがっていく。
「口説いている最中だ。邪魔をするなよ」
オマエにはやらんからな、と牽制を込めているルシエロの言葉が頭上から降ってくる。
「今のとこは好奇心だけ。安心して」
などと、先の事までは保証しない事を楽しそうにケネスが言っている。
(……なんで)
ひろのの頭の中で疑問符が踊る。
わからない。はずかしい? うれしい? もうしわけない? ほっとする? こわい?
……こわい。りかいできない。こわい。こわい。
ひろのにはルシエロにここまで好かれる理由が解らない。そして、解らないということが怖い。
どうすればいいのだろう。
自分がどうすればいいのか、どう思っているのか、どうしたいのか。
それもわからない。今は、まだ。
だけど――。
「ヒロノ、行くぞ。全部見たいんだろう?」
ケネスとの会話を終わらせたルシエロは、繋いだ手が離れないようにする為か、痛くない程度に繋いだ手に力を入れ、軽く引っ張り歩き出す。
手を引かれたひろのは歩き出しながら顔を上げ、ちらりとルシエロを見る。
視線が合う。甘く綺麗に微笑み見つめているルシエロと。
ひろのは胸が苦しくなるのを感じながら、小さく頷く。
「じゃ、見て回りましょ?」
ルシエロとは反対側の手を握りながら、ケネスも笑顔で言う。
二人の精霊に挟まれる形で、ひろのは水族館の中を歩いていく。
ケネスは笑顔のまま二人の様子を、いや、ひろのの様子を観察する。
(んー……前に言ってたひろのの話ってそれ系かも?)
ただ、あの時から時間が経っている。告白系の話だとして、今となってはその中身はなんだろうか。
傍から見れば恋人同士に見えた。そうでなくてもルシエロの執着はあからさまだし、ひろのだって自分とルシエロに対する態度も反応も違うのだ。
それでも、確かにひろのには、何かに困惑している様子もある。
(さて、どう立ち回ればいいか……)
ケネスは改めて二人に視線を向ける。
繋がれた手は、自分よりも強く結びついているように見えた。
そんな風にケネスに見られているとは気付いていないひろのは、ルシエロの事を、今の状況の事を考えていた。
(嫌われてないのは、わかってた。けど。こういうの、何が正解なんだろう)
理由を問いただせばいいのか、知らないまま自信を持てばいいのか、そうではなく自分の気持ちを伝えればいいのか。自分の気持ち? 自分の気持ちとはなんなのか。
わからない。こわい。
静かな青の空間に一人で溶けてしまいたい。けれどきっと華やかな赤がそれを許さないだろう。
ならば、きっと考えなければいけないのだ。
解らない感情も、怖いと感じる自分自身のことも、これからどうすればいいのかも。
深い海の底を泳ぎ進むように、ゆっくりとでも、確実に。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
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リザルト筆記GM | 青ネコ GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | なし |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2017年5月13日 |