(イラスト:藍太 IL


蒼崎 海十の『ウィンクルムだらけのサマードリーム!』
桂木京介 GM

プラン

アクションプラン

蒼崎 海十
(フィン・ブラーシュ)
12
フィンの呟きを聞いて、なら行こうと言ってみたものの…
怖いなんて口が裂けても言えない、格好悪い(幽霊系・お化け屋敷は苦手)
「は、はは。中々雰囲気がある所だよな、うん
さ、軽く中を見回っていこう」
震えてしまう足を何とか踏み出し
本当はフィンの手を思い切り掴んでおきたいけど、震えているのが伝わったら格好悪い
クソ、無駄に暗すぎだろ…!
フィンの手が俺の手を包んで…温かい。落ち着く

それにしても静かだな…って、何か聞こえなかったか?
フィンはどうしてそんなに落ち着いてるんだ…!
あれって幽霊…!?
固まって動けなくなった俺をフィンが連れて逃げてくれて

フィン、ごめん…俺、足手纏いだよな
無様に震えて…
まさか本当に幽霊が出るなんて…
いざという時は、俺を置いて逃げろ
フィンまで捕まって何かあったら…

…え?作り物?
幽霊も本物じゃない?
…本当だ

一気に赤面
な、なんだ、じゃあ折角だし楽しもう
…って、わー!やっぱり駄目だ、怖い!

リザルトノベル

 ニュース記事を拾い読みしていたフィン・ブラーシュは、マウスに置いた手を止めた。
「心霊スポットかぁ……ネタになりそうだなぁ」
 そうして、そろそろ伸びてきたな、というように一房の前髪を三本の指でつまんでいる。
 フィンがパソコンで目にしていたのは、いわゆるアングラ系のニュースサイトだった。フィンが目を止めた記事は、タブロス病棟と呼ばれる総合病院跡地について書いたものだ。
 とうの昔に閉鎖されたというのに、病棟は現在も解体されることなく、苔むした身をさらしているのだという。権利関係でもめたため、というのがこの放置の表向きの理由となっている。けれども実際は『出る』だからだというのがもっぱらの噂だ。……まあ、世間の噂の半分以上は嘘というのが相場だけれど。
 口にした以上の意図はフィンにはなかった。そういうところもあるのかと思った程度だ。
 このつぶやきを、隣のソファに寝転んだまま蒼崎 海十が耳にしていた。

「は、はは。なかなか雰囲気がある所だよな、うん」
 海十は後悔していた。
 あのとき反射的に、「取材するんだろ? なら行こう」と安請け合いしたことを。
 予想を上回る場所だった。もちろん悪い意味で。
 月明かりに照らされる柵は、錆だらけの上に傾いており、それを乗り越えた先の敷地には黒ずんだ雑草が茂っている。地面が中途半端にぬかるんでいるのも気持ちが悪かった。しかしなにより物騒なのが建物だ。屋根からは、ひしゃげたアンテナのようなものが何本も突き出ている。鉄格子の入った窓はまんべんなく割れており、かろうじて無事な窓があっても、濃いカビに覆われているという始末だ。クリーム色の塗装は半分以上剥げて、乾いた血の色をした地肌を露出させていた。
「予想以上だね」
 フィンは内心で笑みを浮かべていた。
 夜中ということもあって状態は満点だ。これだけ優良なスポットを、知らずにいたのが悔やまれる。
 それよりなにより、海十が見せているピュアすぎる反応がいい。
 以前、怪異の地として名高い某コンサートホールを訪れたときのことをフィンは思い出す。あのとき海十は「無理だ!」と叫ぶやフィンに抱きついてきたのだった。
 ――海十の反応可愛かったよなぁ。
 今回もそんな、幼子のような海十が鑑賞できそうだ。もちろん海十の手前、期待の表情は表に出さないが。
 崩れそうになる膝に力を込め、海十は決意とともに言う。
「さ、軽く中を見回っていこう」
 声にビブラートがかかるも、視線は前を向いている。
 そうして海十は震える足で、最初の一歩を踏み出したのだった。本当はフィンの手をつかんでおきたいのだが、震えが伝わったら格好悪いと思い我慢する。
 深い闇の中を進んだ。
 クソ、無駄に暗すぎだろ……!
 海十が最初に抱いた感想はこれだ。懐中電灯を用意してきたというのに、見通せる距離はごくわずか、壁がほんのり浮かび上がる程度でしかない。
「大丈夫?」
 海十の耳がとらえたのはフィンの柔らかい声だ。
「あ、うん……大丈夫、だと思う」
 ははは、と海十は笑った。
 無理してるな、とフィンは思う。ありったけの勇気を出して虚勢を張る、そんな海十の姿が愛おしくてたまらない。
 ――神様、俺って本当に駄目な奴かも……。
 罪の意識と快楽とは、ときとして一枚のコインの両面だ。怯える海十の可愛さにときめく、そんな背徳の甘味、禁断の果実をかじってしまった気にもなる。
「フィン……」
 海十の様子は、身をすくめる子鹿のようだ。
 このまま闇の中に海十を独り残し、そっとこの場を離れたらどうなるだろう――ついそんな、意地悪な思いつきがフィンに浮かんでいた。べそをかく海十を見ることができるだろうか。
 いけないよね、そんなの。
 けれどもフィンの中で主導権を握ったのは天使だった。怖いのをこらえて取材に協力してくれるという海十、そんな彼を裏切ってはいけない。
「フィン……?」
 自分を求める海十の声に、フィンは行動で応じた。
 ……温かい、と海十は思った。
 フィンが海十の手を、包み込むようにして握ったのだ。
「どうしたの? 急に?」
 俺べつに怖がってるわけじゃ、と口走りそうになるのを海十はこらえている。
 落ち着くよ、ありがとう――という感謝の言葉も、心中で唱えるにとどめた。
 静かなほほえみ、それだけを見せる。
 わかってる、というようにフィンはうなずいた。
「はぐれたら大変だからね」
「そうだな。暗いし」
 そう、暗いのが悪い。
 そういうことにしておこう。

 板張りの床は歩くたびに耳障りな音を立てていたのだが、やがてそれすら懐かしく思われるようになった。途中で靴の下は絨毯敷きとなったからだ。
「それにしても静かだな……」
 沈黙に耐えられなくなったように海十は言った。それを遮るように、
「――!」
 行く手のどこかから、女性の悲鳴のような声が聞こえた気がした。
 海十の肌はさっと粟立った。寒気がする。なのに額に汗が浮く。
「なにか聞こえなかったか!?」
「そう?」
 返すフィンの声には力がこもっていない。それもそのはず、フィンはこの状況を疑っていたのだ。
 これってもしかして……。
 これほどの廃墟が手つかずで放置されているのはやはりおかしい。さっきの、用意したような悲鳴も怪しすぎる。
「フィン! また聞こえた!」
 海十は身構えた。今度はラップ音めいたものが聞こえたのだ。ご丁寧にも『手術室』と書いた案内板がうっすらと浮かび上がっていた。
 ところが海十とは逆に、フィンはすっかり冷静になっていた。
 疑いようがない。
 アトラクションだね、とフィンは結論づけていた。なるほど、作り物と考えればすべてに合点がいく。
 なら経験上、どこでなにが驚かせにくるのか予測することはたやすかった。
「あれって幽霊……!?」
 海十が悲鳴のような声を上げた。眼前、手術室からなにか白いものが、すうっと飛び出して廊下に消えていったのだ。そのまま海十は、石化して動けなくなっている。
 ところがフィンは微笑を浮かべていた。
「海十、これはね……」
 けれどもフィンの言葉を海十の叫びがかき消している。
「フィン! フィン! 上から来る!」
 え、と見上げたフィンは目を丸くした。
 高い天井がカパっと開いて、逆さに吊されたゾンビめいたものがでろーんと垂れ下がってきたのだ。
 なるほどこれは意外な展開、スタッフさん本気だ、と、エンタテインメント根性豊かな仕掛け人に、フィンは拍手を送りたくなる。偽物ながらなかなか迫力もあった。
 吊られゾンビはずるずると垂れ下がってくる。ここは逃げるのがセオリーだろう。
 しかし海十には、セオリーがどうのという余裕は当然ない。なにか謎言語のようなものを口にしたがそれは、
「まさか本当にあんなものが出るなんて……!」
 という意味になるようだった。
「逃げよう」
 フィンはさっと腕を伸ばすと、海十を横抱きにして走り出した。さすがに軽々とはいかないものの、怯える姫君を抱いて逃走するシチュエーションなど滅多にないのだ。いくらでも走り続けられそうな気がした。
「フィン、ごめん……俺、足手まといだよな……」
 フィンは答えない。海十はさらに続ける。
「フィンまで捕まって何かあったら……いざというときは、俺を置いて逃げ……」
 きゅっと海十はフィンの襟首を握った。なんと可憐な――倒れ込みそうに幸せだったがフィンはあえて素っ気なく、
「しゃべらないで。舌噛むよ」
 とだけ言って足を速めた。
 前方から次々、クリーチャーが迫ってくる。血まみれの看護師、首なし医師、這いつくばるゾンビ患者……いずれも、最悪の夢でも見たことがないような造形だ。
 けれどそれをたくみにかわして、ついにフィンは出口にたどり着いたのだった。
「脱出できたね」
 告げると彼は海十を下ろし、そっと彼の唇に触れた。唇で。
「海十、俺が海十を置いて逃げるわけないでしょ?」
 と笑うと、海十の頬に紅みがさすのがわかった。
「それに、あれは作り物」
 ほら、とフィンは腕に巻き付いていた包帯を見せた。
「これだって血糊だよ」
 いわゆるお姫様だっこされていたこと、逃走劇、不意打ちのキス、そしてこの話……あまりの情報量に、しばし海十には頭を整理する時間が必要だった。
「本当……これ、赤すぎるよね。血の色じゃない……って!」
 数秒ののち、みるみる海十は赤面したのだった。
「全部ニセモノってこと!?」
「うん、お化け屋敷だね。手の込んだ」
「なんだそれなら早く言ってくれれば!」
 その場に崩れ落ちそうになったのは一瞬、すぐに海十はしゃんと背を起こしていた。
「ならせっかくだし、もう一回入って今度は楽しもう!」
 作り物とわかっていれば怖くない! どうせなら全部見てやろうじゃないか。

 それから数分もせぬうち海十は、
「わー! やっぱり駄目だ、怖い!」 
 と叫ぶことになる。




依頼結果:大成功

エピソード情報
リザルト筆記GM 桂木京介 GM 参加者一覧
プロローグ筆記GM なし
神人:蒼崎 海十
精霊:フィン・ブラーシュ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
対象神人 個別
ジャンル イベント
タイプ イベント
難易度 特殊
報酬 特殊
出発日 2017年5月13日

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