プラン
アクションプラン
俊・ブルックス (ネカット・グラキエス) (アルマ・グラキエス) |
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3 今日はいつになくテンション高いなネカ… って待て!はぐれるぞ! 仕方ない、走るか ゴリラかよ!? ネカ、はしゃぎ過ぎていつものキャラがどっか行ってるじゃねーか!? アルマもいちいち乗るなよっ!? てか、お前も弟の前だと全然キャラが違うな… どうでもいいけどドラミングの手はパーだ 7 夜にホテルに移動 ツイン部屋、エキストラベッド追加 魚メインの洋食コース 食事を終えて温泉へ と言ってもあんまり楽しめる雰囲気じゃなさそうだな…何だよ本題って? ああ、そのことか 確かに俺も気になってたからな 家を乗っ取ろうとしたってのは聞いた 俺が知りたいのは 何でそんなことしようと思ったのかと、そいつがまだ諦めていないのか、ネカやアルマに危害を加えるつもりなのか…だな 説明を聞き 教団と繋がってる可能性も考えたが… 何ていうか、それ 単にネカを危険な目にあわせたくないからAROAと手を切ろうとしたんじゃないか? いや、俺も付き合うさ 探すんだろ?兄貴を |
リザルトノベル
駐車場でシャトルバスから降りるとその先に『たぶろすパーク!』の正門が目に入る。
真っ先に入園したネカット・グラキエスは、キラキラした良い笑顔で後から降りてきた俊・ブルックスとアルマ・グラキエスを振り返ると、彼らを迎え入れるように両腕を広げて言った。
「ようこそたぶろすパークへ!」
「ようこそ、って、ネカの家じゃないんだから」
という俊のツッコミも聞かず、ネカットはうきうきとパークの奥を指さす。
「というわけで早速お目当ての所へ行きましょう」
「今日はいつになくテンション高いなネカ……」
「わーい!たーのしー!」
ネカットは舞うような軽い足取りで我先にと駆け出した。
「って待て!はぐれるぞ!」
言ったところでネカットは止まらない。
アルマはアルマで、腕組みをして満足げに頷いている。
「ネカがあんなに生き生きとして……」
眩しそうに目を細めるが、元の顔が厳ついだけに、知らない人が見たら怖い表情に違いない。
俊はひとつため息をつく。
「仕方ない、走るか」
俊はアスファルトを蹴ってネカットを追う。
その後ろを、保護者のような面持ちでアルマがついていった。
アザラシのプールの横を、レッサーパンダの橋の下を走り抜け。
「着きましたよ、ここが私のお目当て、ゴリラです!」
ネカットが指さす先には、ナックルウォーキングで悠然と歩く霊長類最大の動物。
「ゴリラかよ!?」
もっと珍しい動物とか、可愛らしい動物とかを想像していた俊は即座に突っ込む。
すると、その声に反応するようにゴリラはゆるりと立ち上がり、ボコボコボコ、と胸を叩いた。
ネカットは胸の前で両手を組み合わせ、うっとりとした表情でゴリラを見つめる。
「ほら見てください、力強いドラミングに優しい瞳」
「ネカ、はしゃぎ過ぎていつものキャラがどっか行ってるじゃねーか!?」
「どことなくアル兄様にも似ていらっしゃる……」
「む、そうか」
と、アルマは満更でもない顔。
「それ褒め言葉だったの!?」
突っ込む俊をよそに、アルマはぶわぁ、と両腕を広げると、力強く握られた拳で己の胸をボコボコ叩きドラミングの真似まで始める。
「フハハ、どうだネカ?似ているか?」
「アルマもいちいち乗るなよっ!?」
「すごーい!兄様上手です~!」
ネカットは嬉しそうに目を細めぱちぱちと拍手を送る。
ドラミングする兄とそれを喜ぶ弟(どちらもいい大人)。
なにこの光景……。
「てか、お前も弟の前だと全然キャラが違うな……」
誇らしげに胸を叩くアルマに俊は呆れたため息ひとつ。
そして。
「どうでもいいけどドラミングの手はパーだ」
告げると、アルマの動きがぴたりと止まる。
「……何だと!」
くわッと目を剥きこちらを見るので、俊は反射的に身構える。が。
「こうか!」
と、パーでドラミングをやり直すアルマに、がくりと脱力した。
「シュン物知りですねー。兄様ますますそっくりになりましたー」
ネカットはまたもや賞賛の拍手を送る。
「そしてシュンはツッコミが得意なフレンドなんですね!」
にっこりと笑顔を向けられ俊は強張った笑顔を返す。
フレンド?アルマと?
ツッコミが得意?突っ込まざるを得ない言動ばかりするのはネカットたちではないか。
アルマまでもがボケ側だったとは。ダブルボケにツッコミ続ける俊の気力と体力は果たして保つのだろうか。
動物園にはしばし、ゴリラとアルマのドラミング二重奏が響くのであった。
ゴリラだけではなく、ちゃんとペンギンもホッキョクグマもカバも堪能し、3人は動物園をあとにした。
そしてパシオンシーにあるセレブリティリゾートホテル、『リゾートパシオン』に着く頃には、空に薄闇が広がっていた。
予約したツインの部屋にはエキストラベッドを一つ追加して、3人で一緒に宿泊できるようにしてもらっている。
「私はシュンと一緒のベッドでも全然構わなかったんですけど」
ネカットの言葉に俊は咽せ、アルマは眉をピクリとさせる。
「いやいやいや!構うから、俺が!!」
「ならネカと俺が同じベッドで」
「アルマのサイズ的に無理!」
ツッコミが忙しくて、美しいオーシャンビューをゆったり楽しむ暇もない。
そうこうしているうちに食事の用意が整い、3人は食卓へ案内される。
ふわりと漂う食欲を唆る香りと見た目にも鮮やかな料理に、俊のツッコミ疲れも癒される。
「ほう」
アルマも感心したような声をあげ食卓につく。
「では、美味しいうちにいただきましょうか」
ネカットがフォークに手を伸ばす。
生ハムのブルスケッタを一口齧ると、俊の口から「うまっ」と素直な感想が溢れる。
ブルスケッタと共に並ぶのは、オリーブの風味豊かなタコのタプナード。
それらで空腹を和らげたところに、イカにムール貝、あさりをふんだんに使ったペスカトーレ。魚介の食べ応えもさることながらリングイネに魚介のエキスが染み込んで、一口食べれば次の一口が止まらない。
次に運ばれてきたのはこれまた魚介たっぷりのズッパディペッシェ。
メインはきのこソースを使った舌平目の白ワイン蒸し。
ふんわり蒸しあがった舌平目は一口噛むと口の中で解けていくようだ。
アルマはゴツゴツした指に似合わず器用にナイフとフォークを扱い上品にこれらを食している。
「景色に定評のあるホテルですが、お料理も美味しいですねぇ」
料理の一つ一つに感嘆の声をあげ眼を細めていたネカットだったが、メイン料理の皿が下がり、バニラとエスプレッソが互いに香るアッフォガートが運ばれてくる頃には、なぜか動物園で見せたような元気はなくなっていた。
神妙な顔つきで、熱いエスプレッソにじわじわと溶けてゆくバニラアイスにじっと視線を落とし、手にしたスプーンは握りしめたまま。
「……ネカ?」
思わず俊は呼びかける。
アルマは、ネカットの態度に心当たりがあるようで、何も言わずにバニラアイスの乗ったスプーンを口に運んでいる。
ハッとして顔を上げたネカットは、なんでもないというように笑顔を作って見せるが、こちらを見つめる俊の瞳が真剣だったから、笑って誤魔化せやしないということを直ぐに悟った。
ふっと軽く息をつくと、
「……お風呂入りましょうか、皆で」
と言い、それからは無言でアッフォガートを口に運んだ。
部屋毎に設えられた温泉は、海も星空も見える最高のロケーション。
(と言ってもあんまり楽しめる雰囲気じゃなさそうだな……)
俊は息を吐いて湯面に足を潜らせる。
湯船の中には、先に入っていたネカットが顎まで湯に浸かって縮こまっている。
隣に腰を下ろした俊に目もくれない。
「……」
俊も、どうしていいかわからず無言になってしまう。
波の音がやけに大きく聞こえる。
俊は所在無く星空を仰ぎ見た。
と、そこへ。
ざぶん!と、湯面を大きく揺らし、アルマが入ってくる。
立ち上る湯気も一瞬乱れる。
アルマは、ふーっ、と長い息を吐いた。
波打つ湯面が静けさを取り戻した頃、徐に口を開く。
「……さて、本題に入るか」
「何だよ本題って?」
ネカットかアルマ、どちらかが言葉を発するのを待ちわびていた俊が、飛びつくように聞き返す。
「レギオン兄上のことに決まっているだろう」
アルマは頭の上に乗せたタオルを押さえながら、俊に顔を向けた。
「ああ、そのことか」
俊の声のトーンが低くなる。
グラキエス家の事情は、俊も断片的ではあるが耳にしていた。
「確かに俺も気になってたからな」
「ネカも話すと決めたことであるしな、いい機会だ。まさか俺が貴様と遊ぶためだけに来たとでも思っていたのか」
アルマの言葉に、俊は肩を竦めてゆるりと首を振ってみせた。
「お話するの、さすがに緊張して昼はテンションが上がっちゃいました」
僅かに苦笑して、ネカットが口を開く。
俊とアルマはネカットをじっと見つめ、次の言葉を待った。
「何からお話しましょうか……」
ネカットが俊に視線だけ送る。
「家を乗っ取ろうとしたってのは聞いた。俺が知りたいのは何でそんなことしようと思ったのかと、そいつがまだ諦めていないのか、ネカやアルマに危害を加えるつもりなのか……だな」
言いながら、結局自分は知らないことだらけだということに、俊は改めて気付いた。
ネカットは、汗と湯気で濡れたブルネットの髪を搔きあげ口を開く。
「まずは乗っ取りのあらましから。グラキエス家は、先代つまりお祖父様のころからA.R.O.A.には協力的でした」
俊はふんふんと頷き、アルマはじっと目を瞑り腕を組んでそれを聞いている。
「それは父様の代でも変わらず。でもそれを変えようとしたのがレギ兄様です」
「変えようと……」
そのために、家を乗っ取ったというのか。
俊がネカットの言葉を反芻すれば、それを補足するようにアルマが話し始める。
「グラキエス家は代々精霊が後を継ぐのがしきたり。だが兄上は人間だった」
ネカットは揺れる湯面に視線を落とす。
俊は、まだ見ぬレギオン・グラキエスという人物を思い浮かべる。
由緒ある家系の長男でありながら、その由緒を継ぐことができない。彼の苦悩は相当なものであっただろう。
アルマは話を続けた。
「妹……ネカにとっては姉だが、あれも女ゆえ精霊ではないが。男として生まれながら精霊でない、しかも神人に顕現もしなかった兄上は、酷く疎外感を覚えていたのではないかと思ってな」
「……」
レギオンの苦悩と孤独は想像するに余りある。
そんな彼が、何を為し得ようとしているのか。
「だがこれだけは言える。兄上は絶対にネカを害するようなことはしない」
アルマはきっぱりと言い切った。それは、先ほどの俊の「ネカやアルマに危害を加えるつもりなのか」という疑問に対する答えでもあった。
けれど、危害を加えないなんて、どうして断言できるのか。そんな疑問が俊の胸に去来したが。
「あれは俺以上にブラコンだ」
かッと空を見据えアルマは言い放った。俊は、なるほど、と納得した。
アルマの説明を聞いて、俊の中で一つの推論が出来上がっていく。
「教団と繋がってる可能性も考えたが……」
「教団の線はないと思います。レギ兄様はオーガを毛嫌いしていましたし」
ネカットがぱっと顔をあげてすぐさま否定する。俊も、そうだろうな、と頷いた。
「何ていうか、それ。単にネカを危険な目にあわせたくないからA.R.O.A.と手を切ろうとしたんじゃないか?」
これを聞いて、ネカットは目をぱちくりさせる。今まで考えてもみなかった可能性。
だが、こうやって第三者の意見として聞いてみると、なんだかすとんと腑に落ちる。
アルマも、ふむ、と顎を撫でる。
「俺も色々と推測してみたが……案外俊の言う通りかもしれんな」
「……って……」
ネカットの口がぱかりと開いた。
「って何ですかー!その理由!」
ネカットがざばーっと体から湯を落としながら立ち上がる。
ネカットから勢いよく滴り落ちた湯が俊の顔にかかる。
そんな理由のために、散々引っ掻き回して……!
「だとしたらお門違いというもの。ネカは強くなった。それを兄上にも見せつけなければ」
アルマの言葉にネカットはコクコクと力強く頷く。
ネカットの様子に、やっと普段のネカットに戻ったみたいだ、と俊は安堵の笑みを漏らす。
そんな俊に、アルマは静かに告げる。
「家の問題だ、貴様は待っていても良いのだぞ?」
「いや、俺も付き合うさ」
俊は笑顔のまま、ネカットを見上げた。
「探すんだろ?兄貴を」
「そうです!絶対探しましょうね!」
ネカットはざばりと湯に浸かり直すと、俊の手を取った。
ネカットの活き活きとした瞳に、俊はなんだか嬉しくなった。
今日ここに、3人共通の目的が出来た。
レギオン・グラキエスを見つけ出し、ネカットの成長を、強さを見せつけてやるのだという、目的が。
決意を新たにした彼らを、瞬く星々が静かに見守っていた。
真っ先に入園したネカット・グラキエスは、キラキラした良い笑顔で後から降りてきた俊・ブルックスとアルマ・グラキエスを振り返ると、彼らを迎え入れるように両腕を広げて言った。
「ようこそたぶろすパークへ!」
「ようこそ、って、ネカの家じゃないんだから」
という俊のツッコミも聞かず、ネカットはうきうきとパークの奥を指さす。
「というわけで早速お目当ての所へ行きましょう」
「今日はいつになくテンション高いなネカ……」
「わーい!たーのしー!」
ネカットは舞うような軽い足取りで我先にと駆け出した。
「って待て!はぐれるぞ!」
言ったところでネカットは止まらない。
アルマはアルマで、腕組みをして満足げに頷いている。
「ネカがあんなに生き生きとして……」
眩しそうに目を細めるが、元の顔が厳ついだけに、知らない人が見たら怖い表情に違いない。
俊はひとつため息をつく。
「仕方ない、走るか」
俊はアスファルトを蹴ってネカットを追う。
その後ろを、保護者のような面持ちでアルマがついていった。
アザラシのプールの横を、レッサーパンダの橋の下を走り抜け。
「着きましたよ、ここが私のお目当て、ゴリラです!」
ネカットが指さす先には、ナックルウォーキングで悠然と歩く霊長類最大の動物。
「ゴリラかよ!?」
もっと珍しい動物とか、可愛らしい動物とかを想像していた俊は即座に突っ込む。
すると、その声に反応するようにゴリラはゆるりと立ち上がり、ボコボコボコ、と胸を叩いた。
ネカットは胸の前で両手を組み合わせ、うっとりとした表情でゴリラを見つめる。
「ほら見てください、力強いドラミングに優しい瞳」
「ネカ、はしゃぎ過ぎていつものキャラがどっか行ってるじゃねーか!?」
「どことなくアル兄様にも似ていらっしゃる……」
「む、そうか」
と、アルマは満更でもない顔。
「それ褒め言葉だったの!?」
突っ込む俊をよそに、アルマはぶわぁ、と両腕を広げると、力強く握られた拳で己の胸をボコボコ叩きドラミングの真似まで始める。
「フハハ、どうだネカ?似ているか?」
「アルマもいちいち乗るなよっ!?」
「すごーい!兄様上手です~!」
ネカットは嬉しそうに目を細めぱちぱちと拍手を送る。
ドラミングする兄とそれを喜ぶ弟(どちらもいい大人)。
なにこの光景……。
「てか、お前も弟の前だと全然キャラが違うな……」
誇らしげに胸を叩くアルマに俊は呆れたため息ひとつ。
そして。
「どうでもいいけどドラミングの手はパーだ」
告げると、アルマの動きがぴたりと止まる。
「……何だと!」
くわッと目を剥きこちらを見るので、俊は反射的に身構える。が。
「こうか!」
と、パーでドラミングをやり直すアルマに、がくりと脱力した。
「シュン物知りですねー。兄様ますますそっくりになりましたー」
ネカットはまたもや賞賛の拍手を送る。
「そしてシュンはツッコミが得意なフレンドなんですね!」
にっこりと笑顔を向けられ俊は強張った笑顔を返す。
フレンド?アルマと?
ツッコミが得意?突っ込まざるを得ない言動ばかりするのはネカットたちではないか。
アルマまでもがボケ側だったとは。ダブルボケにツッコミ続ける俊の気力と体力は果たして保つのだろうか。
動物園にはしばし、ゴリラとアルマのドラミング二重奏が響くのであった。
ゴリラだけではなく、ちゃんとペンギンもホッキョクグマもカバも堪能し、3人は動物園をあとにした。
そしてパシオンシーにあるセレブリティリゾートホテル、『リゾートパシオン』に着く頃には、空に薄闇が広がっていた。
予約したツインの部屋にはエキストラベッドを一つ追加して、3人で一緒に宿泊できるようにしてもらっている。
「私はシュンと一緒のベッドでも全然構わなかったんですけど」
ネカットの言葉に俊は咽せ、アルマは眉をピクリとさせる。
「いやいやいや!構うから、俺が!!」
「ならネカと俺が同じベッドで」
「アルマのサイズ的に無理!」
ツッコミが忙しくて、美しいオーシャンビューをゆったり楽しむ暇もない。
そうこうしているうちに食事の用意が整い、3人は食卓へ案内される。
ふわりと漂う食欲を唆る香りと見た目にも鮮やかな料理に、俊のツッコミ疲れも癒される。
「ほう」
アルマも感心したような声をあげ食卓につく。
「では、美味しいうちにいただきましょうか」
ネカットがフォークに手を伸ばす。
生ハムのブルスケッタを一口齧ると、俊の口から「うまっ」と素直な感想が溢れる。
ブルスケッタと共に並ぶのは、オリーブの風味豊かなタコのタプナード。
それらで空腹を和らげたところに、イカにムール貝、あさりをふんだんに使ったペスカトーレ。魚介の食べ応えもさることながらリングイネに魚介のエキスが染み込んで、一口食べれば次の一口が止まらない。
次に運ばれてきたのはこれまた魚介たっぷりのズッパディペッシェ。
メインはきのこソースを使った舌平目の白ワイン蒸し。
ふんわり蒸しあがった舌平目は一口噛むと口の中で解けていくようだ。
アルマはゴツゴツした指に似合わず器用にナイフとフォークを扱い上品にこれらを食している。
「景色に定評のあるホテルですが、お料理も美味しいですねぇ」
料理の一つ一つに感嘆の声をあげ眼を細めていたネカットだったが、メイン料理の皿が下がり、バニラとエスプレッソが互いに香るアッフォガートが運ばれてくる頃には、なぜか動物園で見せたような元気はなくなっていた。
神妙な顔つきで、熱いエスプレッソにじわじわと溶けてゆくバニラアイスにじっと視線を落とし、手にしたスプーンは握りしめたまま。
「……ネカ?」
思わず俊は呼びかける。
アルマは、ネカットの態度に心当たりがあるようで、何も言わずにバニラアイスの乗ったスプーンを口に運んでいる。
ハッとして顔を上げたネカットは、なんでもないというように笑顔を作って見せるが、こちらを見つめる俊の瞳が真剣だったから、笑って誤魔化せやしないということを直ぐに悟った。
ふっと軽く息をつくと、
「……お風呂入りましょうか、皆で」
と言い、それからは無言でアッフォガートを口に運んだ。
部屋毎に設えられた温泉は、海も星空も見える最高のロケーション。
(と言ってもあんまり楽しめる雰囲気じゃなさそうだな……)
俊は息を吐いて湯面に足を潜らせる。
湯船の中には、先に入っていたネカットが顎まで湯に浸かって縮こまっている。
隣に腰を下ろした俊に目もくれない。
「……」
俊も、どうしていいかわからず無言になってしまう。
波の音がやけに大きく聞こえる。
俊は所在無く星空を仰ぎ見た。
と、そこへ。
ざぶん!と、湯面を大きく揺らし、アルマが入ってくる。
立ち上る湯気も一瞬乱れる。
アルマは、ふーっ、と長い息を吐いた。
波打つ湯面が静けさを取り戻した頃、徐に口を開く。
「……さて、本題に入るか」
「何だよ本題って?」
ネカットかアルマ、どちらかが言葉を発するのを待ちわびていた俊が、飛びつくように聞き返す。
「レギオン兄上のことに決まっているだろう」
アルマは頭の上に乗せたタオルを押さえながら、俊に顔を向けた。
「ああ、そのことか」
俊の声のトーンが低くなる。
グラキエス家の事情は、俊も断片的ではあるが耳にしていた。
「確かに俺も気になってたからな」
「ネカも話すと決めたことであるしな、いい機会だ。まさか俺が貴様と遊ぶためだけに来たとでも思っていたのか」
アルマの言葉に、俊は肩を竦めてゆるりと首を振ってみせた。
「お話するの、さすがに緊張して昼はテンションが上がっちゃいました」
僅かに苦笑して、ネカットが口を開く。
俊とアルマはネカットをじっと見つめ、次の言葉を待った。
「何からお話しましょうか……」
ネカットが俊に視線だけ送る。
「家を乗っ取ろうとしたってのは聞いた。俺が知りたいのは何でそんなことしようと思ったのかと、そいつがまだ諦めていないのか、ネカやアルマに危害を加えるつもりなのか……だな」
言いながら、結局自分は知らないことだらけだということに、俊は改めて気付いた。
ネカットは、汗と湯気で濡れたブルネットの髪を搔きあげ口を開く。
「まずは乗っ取りのあらましから。グラキエス家は、先代つまりお祖父様のころからA.R.O.A.には協力的でした」
俊はふんふんと頷き、アルマはじっと目を瞑り腕を組んでそれを聞いている。
「それは父様の代でも変わらず。でもそれを変えようとしたのがレギ兄様です」
「変えようと……」
そのために、家を乗っ取ったというのか。
俊がネカットの言葉を反芻すれば、それを補足するようにアルマが話し始める。
「グラキエス家は代々精霊が後を継ぐのがしきたり。だが兄上は人間だった」
ネカットは揺れる湯面に視線を落とす。
俊は、まだ見ぬレギオン・グラキエスという人物を思い浮かべる。
由緒ある家系の長男でありながら、その由緒を継ぐことができない。彼の苦悩は相当なものであっただろう。
アルマは話を続けた。
「妹……ネカにとっては姉だが、あれも女ゆえ精霊ではないが。男として生まれながら精霊でない、しかも神人に顕現もしなかった兄上は、酷く疎外感を覚えていたのではないかと思ってな」
「……」
レギオンの苦悩と孤独は想像するに余りある。
そんな彼が、何を為し得ようとしているのか。
「だがこれだけは言える。兄上は絶対にネカを害するようなことはしない」
アルマはきっぱりと言い切った。それは、先ほどの俊の「ネカやアルマに危害を加えるつもりなのか」という疑問に対する答えでもあった。
けれど、危害を加えないなんて、どうして断言できるのか。そんな疑問が俊の胸に去来したが。
「あれは俺以上にブラコンだ」
かッと空を見据えアルマは言い放った。俊は、なるほど、と納得した。
アルマの説明を聞いて、俊の中で一つの推論が出来上がっていく。
「教団と繋がってる可能性も考えたが……」
「教団の線はないと思います。レギ兄様はオーガを毛嫌いしていましたし」
ネカットがぱっと顔をあげてすぐさま否定する。俊も、そうだろうな、と頷いた。
「何ていうか、それ。単にネカを危険な目にあわせたくないからA.R.O.A.と手を切ろうとしたんじゃないか?」
これを聞いて、ネカットは目をぱちくりさせる。今まで考えてもみなかった可能性。
だが、こうやって第三者の意見として聞いてみると、なんだかすとんと腑に落ちる。
アルマも、ふむ、と顎を撫でる。
「俺も色々と推測してみたが……案外俊の言う通りかもしれんな」
「……って……」
ネカットの口がぱかりと開いた。
「って何ですかー!その理由!」
ネカットがざばーっと体から湯を落としながら立ち上がる。
ネカットから勢いよく滴り落ちた湯が俊の顔にかかる。
そんな理由のために、散々引っ掻き回して……!
「だとしたらお門違いというもの。ネカは強くなった。それを兄上にも見せつけなければ」
アルマの言葉にネカットはコクコクと力強く頷く。
ネカットの様子に、やっと普段のネカットに戻ったみたいだ、と俊は安堵の笑みを漏らす。
そんな俊に、アルマは静かに告げる。
「家の問題だ、貴様は待っていても良いのだぞ?」
「いや、俺も付き合うさ」
俊は笑顔のまま、ネカットを見上げた。
「探すんだろ?兄貴を」
「そうです!絶対探しましょうね!」
ネカットはざばりと湯に浸かり直すと、俊の手を取った。
ネカットの活き活きとした瞳に、俊はなんだか嬉しくなった。
今日ここに、3人共通の目的が出来た。
レギオン・グラキエスを見つけ出し、ネカットの成長を、強さを見せつけてやるのだという、目的が。
決意を新たにした彼らを、瞬く星々が静かに見守っていた。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
リザルト筆記GM | 木口アキノ GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | なし |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2017年5月13日 |