出石 香奈の『ウィンクルムだらけのサマードリーム!』
瀬田一稀 GM

プラン

アクションプラン

出石 香奈
(レムレース・エーヴィヒカイト)
10
豪華客船なんて、祝勝会以来ね
そう何度も乗れるものじゃないし、今日は思い切り満喫しましょ
ドレスで正装し髪はアップに
ところでレム…なんだか落ち着かないみたいだけど、何かあった?
それとも何か隠し事かしら
まあいいわ、デッキに出てみない?
きっと星が綺麗よ

婚約、の言葉に感激し涙ぐむ
その言葉、ずっと待ってた
痺れを切らしていっそのこと自分から言おうかと思ってたの
ええもちろん、あたしでよければ喜んで

こちらこそ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします
指輪をはめようとして気付く
サイズがきつい…

そんなに落ち込まないで?
毎日バイクの整備してたら指がごつくなるのも仕方ないし
でもこれは返せないの
サイズ直しなら、二人で行きましょう
それまではあたしが預かっておくから
ネックレスを外しチェーンに指輪を通して付け直す
ほら、これで肌身離さず身につけておけるわ

答える代わりに静かに目を閉じる
本当に嬉しい
この人があたしに永遠をくれる

リザルトノベル

 黒いストレートの髪は、アップにしてすっきりと。
 ドレスはスレンダーラインのオフショルダー。スカートの正面には、膝上十センチほどまでスリットが入っている。
 それにネックレスをつけて、寒さ対策のショールを羽織れば、今日の装いの完成だ。

 ゴールドビーチから出発したクルーザー『リツィーパシオン』は、穏やかな夜の海を、ゆっくりと進んでいた。
 海面は暗く、客室の窓から見えるのは、パシオンシーの光だけ。
 そのあまりの静けさに、ここが世界から隔絶された場所ではないか、と錯覚してしまいそうになる。
 (それもいいかもしれない――)
 出石 香奈は、後ろで衣装を整えているらしい、レムレース・エーヴィヒカイトの背中に、視線を向けた。
 真面目で優しい彼と二人ならば、どこに行くにも不安はない。
(レムもそう思ってくれているかしら)
 広い背中を見つめていると、不意にレムレースが振り返った。
 黒い瞳をぱちりと瞬き、驚いた表情で、香奈を見る。
「どうかしたか」
「いいえ?」
 短く答え、香奈はすぐに微笑を浮かべた。
「豪華客船なんて、祝勝会以来ね。そう何度も乗れるものじゃないし、今日は思い切り満喫しましょ」
 言いながら、レムレースと初めて『恋人同士』になった夜のことを思い出す。
 豪華客船『ラピスラズリ・プリンセス』で過ごした一夜は、期限付きのお遊びだった。
 でも、今は――。
 考え、香奈はゆるく首を振る。
(なんだか、レムのことばかり考えてる……。きっとレムが、タキシードなんて着ているせいね)
 似合わないわけではない。むしろ、似合いすぎるほど、似合っている。
 ただそれが、かえって違うものを連想させているのも、確かなのだ。
 だがレムレースは、自身の胸に手をあてて、ぼんやりしたり、きょろきょろしたり。
「レム……なんだか落ち着かないみたいだけど、何かあった? それとも何か隠し事かしら」
 答えやすいように、明るい口調で尋ねれば、レムレースは、びくりとあからさまに、肩を跳ねさせた。
「そ、そうだな…」
「えっ?」
「いや、別に何も隠していないぞ」
(って。明らかにおかしいわよ)
 思っても、本当に? と再度問うことを、香奈はしない。
 今、彼とここにいること。それが何より嬉しいし、彼は自分に害をなすようなことはしないと、知っているからだ。
「まあいいわ、デッキに出てみない? きっと星が綺麗よ」
 言いながら香奈は、階上へ上がる階段へと向かっていった。

 レムレースはあっさりと納得してくれた香奈に、内心で安堵の息をついた。
 彼女の後ろを歩きながら、胸ポケットに入っている小箱の上に、そっと手を置く。
(こんなものを準備してしまったが……香奈はこれを、受け取ってくれるだろうか)
 先日、濃紺のドレスを纏った香奈に告げたのは、依頼に従った別れの言葉だった。
 でも、あの台詞――『未来の香奈の心に、永遠に存在していきたい』というのは、本来、共に歩むための望みなのだ。
 それを実現させたくて、少々急ぎ過ぎたかもしれない。
(でも香奈は、本番が遠のくというジンクスを、吹き飛ばしてくれるのを信じている、と言っていた……。だったら、きっと早すぎるということはないだろう)
 そう思うのに、不安と緊張がなかなか消えてくれないことに、困惑しているのだけれど。

 デッキでは、満天の星が二人を迎えてくれた。
 闇を彩るひとつひとつの光は小さいが、集まればどんな輝きよりも、美しい。
 その空を見上げ、香奈はほうっと息を吐いた。
「まるで、あの日の夜みたい」
(あの日の夜……)
 天を見つめる香奈を、レムレースは見つめる。
 海の上、満天の星と来れば、今日の他にはあの一夜。
 豪華客船『ラピスラズリ・プリンセス』で過ごしたときのことだろう。
 あの日レムレースは香奈に、『俺の伴侶になって欲しい』と告げた。
 そして、戯れにも関わらず照れた香奈に、「恋人なら」という返事を貰ったのだ。
 でも、今ならば――。

「香奈」
 呼ばれ、香奈はレムレースに顔を向けた。
 今日は様子が違う。
 そう思っていた彼が、香奈を見つめている。
 視線が絡むも、互いに口は閉ざしたまま。
 波の音だけを聞いた数秒後、レムレースは、ゆっくりと唇を動かした。
「以前にも豪華客船で言ったことがあったが、もう一度言う。香奈、俺の伴侶になって欲しい」
 香奈は目をみはった。
 心臓がぎゅっと掴まれたように苦しくて、呼吸が止まりそうになる。
「あの時は一日だけのものだったが今回は違う。お前と一生を共にしたい。正式な婚約をかわして欲しいんだ」
 まっすぐに伝えられた告白の『婚約』の言葉に、胸が、目元が、熱くなった。
「その言葉、ずっと待ってた」
 香奈は、涙目のまま、ふふと笑う。
「痺れを切らしていっそのこと自分から言おうかと思ってたの」
「それは……待たせて悪かった」
 ここで謝罪をするのが、いかにも誠実な彼らしい。
 レムレースは、胸ポケットから小箱を取り出した。
「嫌でなければ、この指輪を受け取ってくれ」
「ええもちろん、あたしでよければ喜んで」
 香奈の返事と笑顔に、レムレースがほっと胸をなでおろすのがわかる。
「必ず幸せにする。これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
 豪華客船のデッキで向かいあい、二人はお互いに頭を下げた。
 いかにも改まったその状況が、照れくさくて、嬉しくて、でもおかしくて。
 くすくすと笑いだした香奈に、レムレースが指輪を差し出す。
「…つけてみてくれないか」
「ええ」
「きっと似合うと……」
「……あれ?」
「何!?」
 
 レムレースは、瞠目した。
 香奈の左手薬指、その第二関節の部分で、指輪が動かなくなってしまった……のである。

「本当にすまない……。サプライズで用意したかったのだが」
 がっくりとうなだれるレムレース。
(まさかサイズを間違えるなど……これではサプライズの意味がないではないか)
 香奈が、そんな彼の肩を、とんとん、と叩いてくれる。
「そんなに落ち込まないで? 毎日バイクの整備してたら指がごつくなるのも仕方ないし」
「そう言ってもらえると本当に助かる」
 顔を上げ、香奈の手をとって。
 レムレースは慈しむように、それを撫ぜた。
 自身よりも細い指は、たしかに、前より少しだけ、節ばっているかもしれない。
 でもこれは、香奈が毎日熱心に、仕事に取り組んでいる証でもある……。
「職人の手だな。そういう所も好ましく思う」
 思ったままを言えば、目の前には、美しい微笑。
「ふふ、ありがとう」
 だが、許してもらったからと言って、このままというわけにはいかないだろう。
「直してもらうから、指輪を一旦返し……」
 言いながらレムレースは、香奈の指の途中で止まったままの指輪を、抜き取ろうとした。
 しかし香奈は。
「でもこれは返せないの」
 手のひらをぎゅっと握り、少しだけ早口で告げる。
「サイズ直しなら、二人で行きましょう。それまではあたしが預かっておくから」

 ネックレスを外し、チェーンに指輪を通して、首につけ直すと。
 胸元のあいたドレスの肌の上、たった今贈ったばかりのリングが揺れる。
「ほら、これで肌身離さず身につけておけるわ」
 香奈のこういう所が、本当に好きだとレムレースは思う。
 誰よりも大切にしたくて、愛しくて。
 そして何より、触れあいたい。
「香奈……」
 吐息にのせて、小さく呼んだ。
「三度目の口付けを、してもいいだろうか」

 香奈がはっと、息を飲む。

 一度目は、事故だった。
 触れた唇の感触もわからないほどのわずかな触れあいに、動揺して、困惑した。
(たぶん、キスが初めてだったレムも)

 二度目は、香奈が奪った。
 おかしな薬の解毒剤を飲ませるための、強引な口付けは、ただただ、夢中で、必死で。
(でも、三度目の約束をした)

 そして、今日が三度目。
 約束通り。でも、二人が望んでするのは、初めて。
 ……香奈はゆっくりと、目を閉じた。

 レムレースの手が、紅潮した香奈の頬を、優しく包み込む。
 唇に吐息を感じ、彼がすぐ近くまで、顔を寄せているのがわかった。
 ――互いの呼吸を、想いを飲み込んで、二人の唇が重なり合う。
(……本当に嬉しい。この人があたしに永遠をくれる)

 病めるときも、健やかなるときも。
 相手が傍にいても、いなくても。
 想い続ける愛は、永遠。
 自分達はきっと、これから長い時間をかけて、それを証明していくのだろう。
 香奈はそう、確信していた。
 ……もちろん、レムレースも。




依頼結果:大成功

エピソード情報
リザルト筆記GM 瀬田一稀 GM 参加者一覧
プロローグ筆記GM なし
神人:出石 香奈
精霊:レムレース・エーヴィヒカイト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
対象神人 個別
ジャンル イベント
タイプ イベント
難易度 特殊
報酬 特殊
出発日 2017年5月13日

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