タブロス・モールにて、シャルティはあれこれ手に取り、かごに入れ、棚に戻し、うーんと唸った。
「何にしようかしら」
　いっぱい買いすぎても食べられないだろうし、かといって少なくても味気ないし。
　タブロス・モールの食品コーナーは色々揃いすぎていて、逆に目移りしてしまう。
「別になんでも良くねぇ？」
　ふわ、と一つあくびをして精霊、グルナ・カリエンテは呟いた。
「何でも良くないから悩んでるんでしょ」
　もう、とシャルティは眉を顰める。そして、今しがた見つけたオードブルをひょいとかごの中に放り込んだ。
「とりあえず、必要になりそうなものを一通り揃えましょ」
　あとは、飲み物とデザートと、……それから、雰囲気を出す為にキャンドルなんかがあっても良いかもしれないわね。と、シャルティは売り場を離れる。
「はいはい……」
　あれこれ必要なものを見繕ってシャルティはぬかりなくクリスマスの準備を進めていく。
　その横で、グルナはこんなに買って大丈夫かなんて思いながら手袋に包まれた彼女の手を見つめていた。
　会計を済ませ、袋詰めが終わるとしれっとした顔でシャルティが告げる。
「……荷物持ちね？」
「えっ」
　ずい、としこたま買い込んだ袋を押し付けられる。
「お前……よく荷物持たせようと思うよな」
　はぁ、と小さくため息をついたグルナ。けれど、拒絶はしない。
　しぶしぶと言った表情だが、彼女の家に転がり込む形で住んでいるのだ。
　それ以上の文句は言わず、彼女が差し出した荷物を全て受け取って両手に持ち、彼女の後ろを歩いて行った。

　帰宅した二人は、買ってきた物をテーブルに並べてほっと一息つく。
　二人きりの、安全なパーティー……というか、食事会を楽しんだ後、シャルティは食器を片づけに行ったかと思いきや、するりと自分の部屋に引っ込んでしまった。
（ん……？　なんだよ、こんな日に、なんか用事でもあんのか？）
　てっきり食後は二人で過ごすものと思っていたグルナは、怪訝そうな表情で立ち上がる。
（じゃあ、俺も部屋に……）
　そう思って自分の部屋に向かおうとした時だった。
「……グルナ？」
　部屋から戻ったシャルティが、ちょうどグルナの真ん前に立つ。
「んあ？　なんだよ」
　いつも通りの返事を返すと、シャルティがずいと何かの包みを差し出した。　
「これ……」
「くれんのか……？」
　シャルティは、一度だけ、小さく頷く。
　その包みは、タブロス・モールの物とは違うとグルナにもはっきり分かった。
　綺麗な包装紙に、リボンをかけて、売り物に遜色ない出来のラッピングであったがシャルティの好みが出ている。
　オリジナルであることが伝わってきた。
「けど、これなんだ？」
　包みの中身が気になって、頭に浮かんだ疑問をそのまま口にするグルナにシャルティはさらりと切り返す。
「言わないわ。開けてみれば分かるし……」
　なんだか言うのも気恥ずかしいし。その一言は、胸に収めたまま。
「ふぅん……なら開けるぜ？」
　いつもの、適当なものを開けるときと同じく剥がすのはちょっと違うと思ったのだろうか、グルナは包装紙をテープの所からきちんと開いていく。
　その中から姿を現したのは。
「お……」
　上質な毛糸で編まれた、赤いマフラー。
　深い赤色はグルナをイメージしており、彼が身に着けるとしっくりなじむ色になっている。
　網目がきっちりと揃っており、まるでシャルティの性格を表しているようだった。
「あんた、寒がりでしょ。だからマフラーなんてどうかなぁ……なんて」
　手編みのマフラーをまじまじと見つめるグルナに、なんとなく気恥ずかしくなってシャルティはマフラーを贈った理由を付け足す。
「凝ってるな」
　グルナはご機嫌でマフラーを広げてみた。
　飾り編みがところどころに施されているが、男性が着用するという事を考えて甘くならないようにしっかりと考えてデザインされている。
　ふわふわとした感触を楽しむように指をうずめるグルナに、シャルティは視線を逸らす。
「な……なによ……悪い？」
「悪いわけねぇだろうが。あー、けど別にこそこそ編む必要ねぇだろ？」
　一緒に暮らしているのだから、『こそこそしなければ』マフラーを編んでいることは筒抜けになってしまう。
　つまり、シャルティはグルナのいない時間を狙ったり、眠る前に自分の部屋でこっそり編んだり、朝早く起きたりしてこのマフラーを完成に持って行ったのだろう。
　そう思うと、なんだかいじらしく思えてしまう。
「……あげる相手に見せてたら意味ないでしょ」
　いきなり渡して、驚いてほしかった。喜んでほしかったという意図の言葉に、グルナはわずかに言葉を詰まらせる。
「……ああ。まあ、そう、か」
　そして、ふっと微笑むとグルナはマフラーを軽く首に巻いてみた。
「……良い感じにできてる」
　長さも、幅も、厚みも、ちょうどいい。
　更に笑みを深めると、シャルティは満足げに笑い返した。
「そう、いい出来でしょ」
　編み物の腕には自信があったシャルティだが、面と向かって褒められるとやはり悪い気はしない。
　そして、シャルティは優しく笑って付け足した。
「……あんたはただの救いようのない戦闘狂だと思ってたわ」
「あ？」
　グルナは急に切り出された話題に顔を上げる。
「けど、そんな風に笑えるのね」
「なんだよ、つかそれどういう意味だ！？」
　一体自分はこの神人にどういう目で見られているんだとグルナは少し不機嫌そうに切り返す。
「あら、別に悪い意味で言ってるわけじゃないわ」
　クスクスと笑いながら席につくシャルティに、グルナは苦笑いを返す。
（まあ、俺も実際、お前のことはつんけんしたヤツ、って思ってたし。お互いさまってやつか……）
　第一印象は、お互いあまり良くなかったよな。と思いながら、グルナももう一度席に着いた。そして、徐に包みを取り出してシャルティに渡す。
「……ん」
「えっ？」
　いいから受け取れ、という仕草にシャルティは狼狽えながら手を伸ばす。
「……くれるの？」
　視線を合わせずに頷くグルナに、シャルティはありがとう、と告げて包みを受け取る。
「まさかあんたからもらえるなんて」
　嬉しくないわけがない。シャルティはほんの少しほおを緩ませた。
「良いだろ別に」
　わずかにグルナの頬が染まっている気がしたが、それはクリスマスのキャンドルの光のせいだろうか。
　まるで初めてプレゼントをもらったかのような顔をするシャルティに、グルナはふと気になり問いかける。
「そういえばお前は親からクリスマスプレゼント貰ったことあんの？」
　すると、いつもは強気な表情のシャルティが僅かに眉尻を下げて、少し困ったような表情で答えた。
「親からはもらわなかったわ。オーガから守ってもらう身だからプレゼントまでもらう気にはなれなかったのよ」
　ただでさえオーガに狙われる自分を守るためにあれこれしなくてはならない両親に負担をかけているのだから、プレゼントを頂戴なんて言える立場じゃないと思っていたし、親の負担を増やすことは絶対にしたくなかった。シャルティなりの気遣いが、そこにはあったのだ。
「ふぅん……結構気にしいだな、お前」
　何の気はない感じで、グルナは先ほどのオードブルの残りをつまみながらつぶやく。
「な、何よ……」
　なんか文句でもあるの、と眉を寄せるシャルティに、グルナはニヤリと口角を上げる。
「いや？　褒め言葉だぜ？」
「……え……？」
　そうやって、周りを気遣いながら生きることは、簡単ではない。
　つんけんしたやつ、という印象をグルナに与えていたシャルティだが、それ以上に他人を気遣う事が出来て、優しさを持っている女性なのだと、グルナはもう気付き始めていた。
　――そうでなければ、こんな素敵なプレゼントを用意したりはしないだろうし、なによりなんだかんだで自分と上手くウィンクルムをやっていられるはずもない。
「来年もよろしく」
　グルナの口から、自然とその言葉が零れた。
　シャルティは、今年一番かもしれないふわりとした優しい微笑みを返す。
「……そうね。来年もよろしく」
　お互いの事が、少しずつわかってきた気がする。
　決して派手ではないクリスマスだけれど、きっと、今日の事は忘れない……。

依頼結果：大成功

＞＞＞煉界のディスメソロジア
キャラクターコンバート！

＞＞＞ファンレターキャンペーン開催中！

＞＞＞チュートリアル漫画むーびー公開！

＞＞＞4thアニバーサリー！情報告知！