プラン
アクションプラン
柳 大樹 (クラウディオ) (アルベリヒ・V・エーベルハルト) |
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「折角だし、それぞれ行きたいとこ行ってみる?」(二人に聞く 言うと思った。(クラウに対し 12: おー、いい眺め。 「こっからでもライトアップされてるの見えるわ」 「いや、あっちの森の方」(指で示す あ、このムニエル美味い。 1:大樹希望先 「白いのもよかったけど、青い方が好きだなあ」 って。「あれ? クロちゃん、先生は」見えないけど。 あー……。「何してんの、先生」(近づき屈む 「抜けないのね」(溜息を吐き立ち上がる 「クロちゃん、手伝って」 ここ、後でスタッフに伝えとかなきゃ。 11: すげぇよく見える。(星が 「そういやさあ。二人で暮らし始めてどう?」 「クロちゃんとこ、無いに等しいからね。それより、ちゃんと食べてる? こいつ」(クラウを顎で示す ならいいけど。(再び星を眺める 「帰ったら、クロちゃんちでケーキでも食べようか」(見上げたまま呟く 「残すよりいいと思うんだけど」 一気に食べるのがいいのに。「はいはい、わかりました」 |
リザルトノベル
「折角だし、それぞれ行きたいとこ行ってみる?」
柳 大樹の問い掛けに、クラウディオは瞬きし、アルベリヒ・V・エーベルハルトは顎に手を当てた。
「構わないよ。クラウディオ君はどうかね?」
アルベリヒが笑顔で頷いてクラウディオを見れば、彼は平常通り、余り顔の筋肉を使わない表情で一つ頷く。
「問題無い。だが、何処でも良い」
(言うと思った)
大樹はその答えに半眼になった。
アルベリヒは、そんな大樹とクラウディオを交互に見遣って、少し首を傾ける。
(やはり、此方も問題があるようだね)
大樹の表情に困惑している気配のクラウディオに、アルベリヒは僅かに瞳を細めた。
普段クラウディオの口元を覆う口布は、早々と大樹の手によって没収されている。
在り方に問題のある二人がこうして一緒に居て、己が新たにパートナーとなった事への意味を、考えずには居られない。
(私は大樹の護衛だ)
クラウディオは、物言いたげに見て来る大樹から、無意識に視線を外した。
(何を求められているのか、わからない)
大樹とクラウディオの間に沈黙が落ちる。
「まずは私の行きたい所でもいいかね?」
アルベリヒが右手を上げて主張すれば、
「そうしよっか」
大樹がうんと頷き、クラウディオもまた無言のまま頷いた。
三人が訪れたのは、ホワイト・ヒルにあるレストランだった。
「良い景色を見ながらゆったり食事というのも、良いと思ったのだよ」
窓際のテーブル席に案内され、大樹と向かい合って、アルベリヒとクラウディオが並んで座った。
「確かにいい眺めだね、ここ」
アルベルトの眺める窓の外を見遣り、大樹は眼前に広がるホワイト・ヒルの夜景に瞬きする。
降り積もる雪と、人工的な光のコントラスト──温かな人の営みである町の明かりを雪が照り返し、幻想的な景色を作り出していた。
二人が夜景を見ている間、クラウディオは軽く視線を一巡りさせ、店内を眺めている。
店の出入り口は一ヵ所。厨房へ続く扉が奥に。いざとなれば、窓からでも脱出は出来るだろう。
「何を頼むとしようか?」
アルベリヒがメニューを広げる。
「クリスマスの特別コースでいいんじゃない?」
大樹が、メニューの一番上に書かれている文字を指差した。
「うん、クリスマスっぽくていいね。クラウディオ君はどうする?」
「では、私も同じもので」
クラウディオが頷くと同時、アルベリヒは片手を上げてウェイターを呼び寄せた。
まず最初に、食前酒のシャンパンが運ばれてくる。
透明感のある黄金色が満ちたグラスを手に、大樹はクラウディオとアルベリヒを見た。
「乾杯しとく?」
「そうだね」
アルベリヒがグラスを上げれば、クラウディオもグラスを手に取る。
『乾杯』
カチンとグラス同士が触れ合う澄んだ音。
「うん、美味しい」
少し辛口な味わいに、フローラルの香りが広がって、大樹はその味わいに頬を緩ませた。
続いて、前菜が運ばれてくる。
白身魚のカルパッチョにホワイトヴァルサミコのジュレと香草を合わせたものは、見た目もクリスマスカラーで美しい。
「甘酸っぱいジュレが魚に合うね」
「普通にサラダに掛けても美味しそう」
クラウディオは二人の感想を聞きながら、ナイフとフォークを動かす。
次に運ばれて来たのは、オマールエビとフルーツのサラダ仕立て。
それから、シェフお勧めの本日のスープ、ヴィシソワーズ。
「うん、エビが甘いね。スープもコクがあって……なのにさらっとした口当たりで美味しいよ」
「なんというか、やさしい味?」
アルベリヒと大樹は頷き合い、クラウディオは無言でスープを飲み干した。
スープが無くなると、牛肉のグリルと鮭のムニエルが運ばれてくる。
牛肉のグリルは、肉厚なステーキに、スパイスが効いた少し酸味のある赤ワインソースが絡んだ絶品だ。
バターの香りが香ばしい鮭のムニエルは、皮はパリッとした仕上がりだが、身はジューシーでこちらも実に美味しい。
「あ、このムニエル美味い……」
一言大樹がそう発したのを最後に、大樹とアルベリヒは思わず無言で、クラウディオも良く噛んで味わった。
メイン料理を食べ終えると、デザートに、イチゴのムースとバニラアイスクリームが並んだ。
優しい甘さに和めば、食後のコーヒーがやってくる。
「美味しかったね」
アルベリヒがにっこりと微笑んで、大樹はうんと頷いた。
「食事も美味しく、景色も良い。デート先には良い店だ」
アルベリヒは、コーヒーカップを手に窓の外を見る。
舞い落ちる雪が、キラキラと光って見えた。
(もっとも、私達の関係はそういったものではないがね)
「こっからでもライトアップされてるの見えるわ」
コーヒーを一口飲んで大樹がそう言ったのに、アルベリヒは瞬きする。
「見るのは街中の方だったかね?」
彼には何が見えているのか──その視線の先を追えば、大樹は緩く首を振って指差した。
「いや、あっちの森の方」
クラウディオの視線も、大樹の指差す方を見た。
古代の森の中には、飾られたメリーツリーがある。そこには、あの時、大樹に貰った手紙もある筈だ。
「ああ、綺麗だね」
アルベリヒが瞳を細める。
──綺麗?
コーヒーカップに視線を戻し、クラウディオは心で呟いた。
(二人が言う景色は、色付きの灯りで照らしている。と思うだけだ)
そう思う己にも何の違和感も感じない。
ただ、大樹の手紙があるあの場所は、少しだけ特別に見えたような気がした。
霧氷となったスノーウッドの森の木々が、様々な色の光に照らされ輝いている。
「夜なのに、昼より眩しいくらいだね」
大樹は青い光のイルミネーションに瞳を細めた。
ここは、『スターライト・スノウ』と呼ばれるスノーウッドの森にあるイルミネーションスポットだ。
雪と氷に覆われた一面の銀世界を、人工の明かりが煌びやかに照らし出している。
「白いのもよかったけど、青い方が好きだなあ」
白い息を吐き出しながら、大樹は青の世界を見つめた。
大樹が今立って居る場所は、青い光のイルミネーションで統一され、透明な青がキラキラと輝いている。
ここに辿り着く前、白色の光のイルミネーションで統一された場所もあった事を思い出しながら、大樹は瞳を細めた。
(大樹は青を好む)
クラウディオは無言で、景色を眺める大樹を見つめる。
青い光が、大樹の薄茶色の柔らかそうな髪も照らし染めていた。
辺りは静寂に包まれていて、時折、雪が葉や枝から落ちる音、互いの息遣い以外に音は聞こえない。
暫くその静けさに身を任せていて、大樹は一つ瞬きした。
居るべき人が、近くに居ない──。
「あれ?」
アルベリヒは、白い息が空気に溶けるのを見ながら、頭上を見上げていた。
見事な霧氷の数々は、自然の芸術品だ。
(流石に雪深い地域なだけに、霧氷も大きく見応えがある)
ライトアップされた霧氷は、ここならではの光景と言えるだろう。ただ──。
(問題は寒いという一点につきる)
しんしんと染み込む寒さに、アルベリヒは身体を震わせる。
「クロちゃん、先生は?」
大樹はクラウディオに尋ねながら、周囲を見渡す。見える範囲に彼の姿は無かった。
「……」
クラウディオがひたと大樹を見た。こちらだとでも言うように手招きする。
「クロちゃん、先生の居場所、分かるの?」
(気配は読みづらいが、探せる程度だ)
クラウディオが視線を巡らせた先を一緒に見て、大樹は髪を掻き上げた。
(あー……)
脱力して歩いていく大樹の背中をクラウディオも追う。
「何してんの、先生」
そこに辿り着くと、大樹は屈んで彼を見下ろした。
「おや」
(気づかれてしまった)
見下ろされて、アルベリヒが目を丸くしてから笑う。
「空洞を踏み抜いたらしい」
「抜けないのね」
「そのようだね」
アルベリヒが大きく頷くと、大樹は溜息を吐き、立ち上がった。クラウディオを振り返る。
「クロちゃん、手伝って」
アルベリヒは、木の根元辺りで氷を踏み抜き、膝上まで埋没していた。
大樹とクラウディオは協力して、両脇からアルベリヒを引っ張り助け出す。
「助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。怪我はない? 先生」
「大丈夫だよ」
大樹は安堵の一息を吐き出した。
(ここ、後でスタッフに伝えとかなきゃ)
携帯端末を取り出すと、大樹は現場の写真と位置とを記録したのだった。
次に、三人は幻想的なイルミネーションの森を抜け、スノーウッドの森の最深部『古代の森』へと進んだ。
古代の森は、更にひんやりとした澄んだ空気に満たされている。
木々の間の少し開けた場所で、天体観測を行う手筈になっていた。
クラウディオは、注意深く辺りを観察する。
辺りには静かな木々。
開けた空には眩いばかりの星が輝き、真夜中だというのに互いの顔が見えるくらいには明るい。
(これだけの明るさなら、大樹の行動に支障は出ないだろう)
大樹が、『クロちゃんの希望がないなら、俺が決める』と言い出した時は、一体何処に行くのだろうかと思ったが……。
(この場所は、悪くない)
掴めそうな位置に、星がある。
「取り敢えず、ここでいいよね」
大樹はそう言うと、丁度良い大きさの木の切り株へと腰を下ろした。
切り株は三つある。大樹を挟むようにして、クラウディオとアルベリヒも切り株に座る。
「これは圧倒される星空だね」
アルベリヒの言葉に、大樹も夜空を見上げた。
(すげぇよく見える)
そっと手を伸ばす。
届かないと分かっていても、触れられそうな──そんな星の瞬き。
それは、そう──何だか、記憶に残るカラフルな紙テープと紙吹雪に似てる。
去年のクリスマスに、クラウディオの部屋で鳴らした、あのキラキラなクラッカー。
「そういやさあ。二人で暮らし始めてどう?」
大樹はクラウディオと、そしてアルベリヒを見た。
あの殺風景な個性の無い部屋が、今はどうなっているのか興味が湧いた。
「何がだ?」
意味が分からないと、クラウディオが大樹を見返す。
「クロちゃんとこ、何も無いに等しいからね。先生、不自由してないかなって」
「物の少なさに驚いたけれど。必要なものは逐次買っているから、支障はないよ」
アルベリヒが朗らかに答えた。
(必要なものはある。物が増える事に問題は無いが……)
クラウディオの脳裏に、去年のクリスマスの光景が浮かぶ。
大樹が買ってきたクッションと、大樹と鳴らしたクラッカー。
大樹のものが、部屋に彩りを与える事が……嬉しかった。
でも今は?
少しずつ、アルベリヒの私物等が増えて行っているあの部屋には、言いようのない違和感を感じている。
それが何故なのかは、靄が掛かったかのようにはっきりとしないけれど。
「それより、ちゃんと食べてる? こいつ」
大樹が顎でクラウディオを示し、アルベリヒに尋ねた。
「私が作っているからね。三食きちんと食べているとも」
アルベリヒは心配無用とばかりに胸を張った。
(以前は知らないがね)
アルベリヒは思い出す。初めて彼の家で冷蔵庫を開けた時、本当にここで彼が生活しているのか疑問に思った事を。
「そっか」
ならいいけど。
大樹は、視線を夜空へと戻した。
赤、青、白──星々が連なって賑やかな冬の星座を作り出している。
クラウディオは星を見上げる大樹の横顔を見て、その視線を追うように星を見た。
大樹が見ている星は、どれだろうか。
星の数が多過ぎて判別できない──クラウディオの視線は大樹に戻る。
(ふむ)
そんな二人の様子を、アルベリヒは静かに見つめていた。
「帰ったら、クロちゃんちでケーキでも食べようか」
星を見上げたまま、大樹がそう言った。
「時期が外れる分、安くケーキが買えるだろうね」
アルベルヒがうんうんと頷くと、クラウディオがゆっくりと口を開く。
「問題無いが、以前のように残った分を全て食べるのは推奨しない」
クラウディオの言葉に、大樹は瞬きした。
「残すよりいいと思うんだけど」
「直径15cm程を、一切れ分以外だ」
「一番小さいサイズかね」
アルベルヒがクラウディオの言ったサイズを両手で描いて見せる。
(一気に食べるのがいいのに)
大樹はふっと息を吐き出す。
「はいはい、わかりました」
両手を頬に添えて半眼になる大樹に、アルベルヒは笑った。
「せめて紅茶を飲みながら、ゆっくり食べて体の負担を減らすんだよ?」
紅茶と人数分のカップは確かあった筈だと言いながら、アルベルヒは去年の二人へと思いを馳せた。
歪で危うい二人が、どのように過ごしてきたのか。
そして、これからどう変わっていくのか。
二人の傍で見守る事が、今の己に出来る事──そう、あの星のように。
夜空の星々が、見上げる三人を静かに照らし出していた。
柳 大樹の問い掛けに、クラウディオは瞬きし、アルベリヒ・V・エーベルハルトは顎に手を当てた。
「構わないよ。クラウディオ君はどうかね?」
アルベリヒが笑顔で頷いてクラウディオを見れば、彼は平常通り、余り顔の筋肉を使わない表情で一つ頷く。
「問題無い。だが、何処でも良い」
(言うと思った)
大樹はその答えに半眼になった。
アルベリヒは、そんな大樹とクラウディオを交互に見遣って、少し首を傾ける。
(やはり、此方も問題があるようだね)
大樹の表情に困惑している気配のクラウディオに、アルベリヒは僅かに瞳を細めた。
普段クラウディオの口元を覆う口布は、早々と大樹の手によって没収されている。
在り方に問題のある二人がこうして一緒に居て、己が新たにパートナーとなった事への意味を、考えずには居られない。
(私は大樹の護衛だ)
クラウディオは、物言いたげに見て来る大樹から、無意識に視線を外した。
(何を求められているのか、わからない)
大樹とクラウディオの間に沈黙が落ちる。
「まずは私の行きたい所でもいいかね?」
アルベリヒが右手を上げて主張すれば、
「そうしよっか」
大樹がうんと頷き、クラウディオもまた無言のまま頷いた。
三人が訪れたのは、ホワイト・ヒルにあるレストランだった。
「良い景色を見ながらゆったり食事というのも、良いと思ったのだよ」
窓際のテーブル席に案内され、大樹と向かい合って、アルベリヒとクラウディオが並んで座った。
「確かにいい眺めだね、ここ」
アルベルトの眺める窓の外を見遣り、大樹は眼前に広がるホワイト・ヒルの夜景に瞬きする。
降り積もる雪と、人工的な光のコントラスト──温かな人の営みである町の明かりを雪が照り返し、幻想的な景色を作り出していた。
二人が夜景を見ている間、クラウディオは軽く視線を一巡りさせ、店内を眺めている。
店の出入り口は一ヵ所。厨房へ続く扉が奥に。いざとなれば、窓からでも脱出は出来るだろう。
「何を頼むとしようか?」
アルベリヒがメニューを広げる。
「クリスマスの特別コースでいいんじゃない?」
大樹が、メニューの一番上に書かれている文字を指差した。
「うん、クリスマスっぽくていいね。クラウディオ君はどうする?」
「では、私も同じもので」
クラウディオが頷くと同時、アルベリヒは片手を上げてウェイターを呼び寄せた。
まず最初に、食前酒のシャンパンが運ばれてくる。
透明感のある黄金色が満ちたグラスを手に、大樹はクラウディオとアルベリヒを見た。
「乾杯しとく?」
「そうだね」
アルベリヒがグラスを上げれば、クラウディオもグラスを手に取る。
『乾杯』
カチンとグラス同士が触れ合う澄んだ音。
「うん、美味しい」
少し辛口な味わいに、フローラルの香りが広がって、大樹はその味わいに頬を緩ませた。
続いて、前菜が運ばれてくる。
白身魚のカルパッチョにホワイトヴァルサミコのジュレと香草を合わせたものは、見た目もクリスマスカラーで美しい。
「甘酸っぱいジュレが魚に合うね」
「普通にサラダに掛けても美味しそう」
クラウディオは二人の感想を聞きながら、ナイフとフォークを動かす。
次に運ばれて来たのは、オマールエビとフルーツのサラダ仕立て。
それから、シェフお勧めの本日のスープ、ヴィシソワーズ。
「うん、エビが甘いね。スープもコクがあって……なのにさらっとした口当たりで美味しいよ」
「なんというか、やさしい味?」
アルベリヒと大樹は頷き合い、クラウディオは無言でスープを飲み干した。
スープが無くなると、牛肉のグリルと鮭のムニエルが運ばれてくる。
牛肉のグリルは、肉厚なステーキに、スパイスが効いた少し酸味のある赤ワインソースが絡んだ絶品だ。
バターの香りが香ばしい鮭のムニエルは、皮はパリッとした仕上がりだが、身はジューシーでこちらも実に美味しい。
「あ、このムニエル美味い……」
一言大樹がそう発したのを最後に、大樹とアルベリヒは思わず無言で、クラウディオも良く噛んで味わった。
メイン料理を食べ終えると、デザートに、イチゴのムースとバニラアイスクリームが並んだ。
優しい甘さに和めば、食後のコーヒーがやってくる。
「美味しかったね」
アルベリヒがにっこりと微笑んで、大樹はうんと頷いた。
「食事も美味しく、景色も良い。デート先には良い店だ」
アルベリヒは、コーヒーカップを手に窓の外を見る。
舞い落ちる雪が、キラキラと光って見えた。
(もっとも、私達の関係はそういったものではないがね)
「こっからでもライトアップされてるの見えるわ」
コーヒーを一口飲んで大樹がそう言ったのに、アルベリヒは瞬きする。
「見るのは街中の方だったかね?」
彼には何が見えているのか──その視線の先を追えば、大樹は緩く首を振って指差した。
「いや、あっちの森の方」
クラウディオの視線も、大樹の指差す方を見た。
古代の森の中には、飾られたメリーツリーがある。そこには、あの時、大樹に貰った手紙もある筈だ。
「ああ、綺麗だね」
アルベリヒが瞳を細める。
──綺麗?
コーヒーカップに視線を戻し、クラウディオは心で呟いた。
(二人が言う景色は、色付きの灯りで照らしている。と思うだけだ)
そう思う己にも何の違和感も感じない。
ただ、大樹の手紙があるあの場所は、少しだけ特別に見えたような気がした。
霧氷となったスノーウッドの森の木々が、様々な色の光に照らされ輝いている。
「夜なのに、昼より眩しいくらいだね」
大樹は青い光のイルミネーションに瞳を細めた。
ここは、『スターライト・スノウ』と呼ばれるスノーウッドの森にあるイルミネーションスポットだ。
雪と氷に覆われた一面の銀世界を、人工の明かりが煌びやかに照らし出している。
「白いのもよかったけど、青い方が好きだなあ」
白い息を吐き出しながら、大樹は青の世界を見つめた。
大樹が今立って居る場所は、青い光のイルミネーションで統一され、透明な青がキラキラと輝いている。
ここに辿り着く前、白色の光のイルミネーションで統一された場所もあった事を思い出しながら、大樹は瞳を細めた。
(大樹は青を好む)
クラウディオは無言で、景色を眺める大樹を見つめる。
青い光が、大樹の薄茶色の柔らかそうな髪も照らし染めていた。
辺りは静寂に包まれていて、時折、雪が葉や枝から落ちる音、互いの息遣い以外に音は聞こえない。
暫くその静けさに身を任せていて、大樹は一つ瞬きした。
居るべき人が、近くに居ない──。
「あれ?」
アルベリヒは、白い息が空気に溶けるのを見ながら、頭上を見上げていた。
見事な霧氷の数々は、自然の芸術品だ。
(流石に雪深い地域なだけに、霧氷も大きく見応えがある)
ライトアップされた霧氷は、ここならではの光景と言えるだろう。ただ──。
(問題は寒いという一点につきる)
しんしんと染み込む寒さに、アルベリヒは身体を震わせる。
「クロちゃん、先生は?」
大樹はクラウディオに尋ねながら、周囲を見渡す。見える範囲に彼の姿は無かった。
「……」
クラウディオがひたと大樹を見た。こちらだとでも言うように手招きする。
「クロちゃん、先生の居場所、分かるの?」
(気配は読みづらいが、探せる程度だ)
クラウディオが視線を巡らせた先を一緒に見て、大樹は髪を掻き上げた。
(あー……)
脱力して歩いていく大樹の背中をクラウディオも追う。
「何してんの、先生」
そこに辿り着くと、大樹は屈んで彼を見下ろした。
「おや」
(気づかれてしまった)
見下ろされて、アルベリヒが目を丸くしてから笑う。
「空洞を踏み抜いたらしい」
「抜けないのね」
「そのようだね」
アルベリヒが大きく頷くと、大樹は溜息を吐き、立ち上がった。クラウディオを振り返る。
「クロちゃん、手伝って」
アルベリヒは、木の根元辺りで氷を踏み抜き、膝上まで埋没していた。
大樹とクラウディオは協力して、両脇からアルベリヒを引っ張り助け出す。
「助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。怪我はない? 先生」
「大丈夫だよ」
大樹は安堵の一息を吐き出した。
(ここ、後でスタッフに伝えとかなきゃ)
携帯端末を取り出すと、大樹は現場の写真と位置とを記録したのだった。
次に、三人は幻想的なイルミネーションの森を抜け、スノーウッドの森の最深部『古代の森』へと進んだ。
古代の森は、更にひんやりとした澄んだ空気に満たされている。
木々の間の少し開けた場所で、天体観測を行う手筈になっていた。
クラウディオは、注意深く辺りを観察する。
辺りには静かな木々。
開けた空には眩いばかりの星が輝き、真夜中だというのに互いの顔が見えるくらいには明るい。
(これだけの明るさなら、大樹の行動に支障は出ないだろう)
大樹が、『クロちゃんの希望がないなら、俺が決める』と言い出した時は、一体何処に行くのだろうかと思ったが……。
(この場所は、悪くない)
掴めそうな位置に、星がある。
「取り敢えず、ここでいいよね」
大樹はそう言うと、丁度良い大きさの木の切り株へと腰を下ろした。
切り株は三つある。大樹を挟むようにして、クラウディオとアルベリヒも切り株に座る。
「これは圧倒される星空だね」
アルベリヒの言葉に、大樹も夜空を見上げた。
(すげぇよく見える)
そっと手を伸ばす。
届かないと分かっていても、触れられそうな──そんな星の瞬き。
それは、そう──何だか、記憶に残るカラフルな紙テープと紙吹雪に似てる。
去年のクリスマスに、クラウディオの部屋で鳴らした、あのキラキラなクラッカー。
「そういやさあ。二人で暮らし始めてどう?」
大樹はクラウディオと、そしてアルベリヒを見た。
あの殺風景な個性の無い部屋が、今はどうなっているのか興味が湧いた。
「何がだ?」
意味が分からないと、クラウディオが大樹を見返す。
「クロちゃんとこ、何も無いに等しいからね。先生、不自由してないかなって」
「物の少なさに驚いたけれど。必要なものは逐次買っているから、支障はないよ」
アルベリヒが朗らかに答えた。
(必要なものはある。物が増える事に問題は無いが……)
クラウディオの脳裏に、去年のクリスマスの光景が浮かぶ。
大樹が買ってきたクッションと、大樹と鳴らしたクラッカー。
大樹のものが、部屋に彩りを与える事が……嬉しかった。
でも今は?
少しずつ、アルベリヒの私物等が増えて行っているあの部屋には、言いようのない違和感を感じている。
それが何故なのかは、靄が掛かったかのようにはっきりとしないけれど。
「それより、ちゃんと食べてる? こいつ」
大樹が顎でクラウディオを示し、アルベリヒに尋ねた。
「私が作っているからね。三食きちんと食べているとも」
アルベリヒは心配無用とばかりに胸を張った。
(以前は知らないがね)
アルベリヒは思い出す。初めて彼の家で冷蔵庫を開けた時、本当にここで彼が生活しているのか疑問に思った事を。
「そっか」
ならいいけど。
大樹は、視線を夜空へと戻した。
赤、青、白──星々が連なって賑やかな冬の星座を作り出している。
クラウディオは星を見上げる大樹の横顔を見て、その視線を追うように星を見た。
大樹が見ている星は、どれだろうか。
星の数が多過ぎて判別できない──クラウディオの視線は大樹に戻る。
(ふむ)
そんな二人の様子を、アルベリヒは静かに見つめていた。
「帰ったら、クロちゃんちでケーキでも食べようか」
星を見上げたまま、大樹がそう言った。
「時期が外れる分、安くケーキが買えるだろうね」
アルベルヒがうんうんと頷くと、クラウディオがゆっくりと口を開く。
「問題無いが、以前のように残った分を全て食べるのは推奨しない」
クラウディオの言葉に、大樹は瞬きした。
「残すよりいいと思うんだけど」
「直径15cm程を、一切れ分以外だ」
「一番小さいサイズかね」
アルベルヒがクラウディオの言ったサイズを両手で描いて見せる。
(一気に食べるのがいいのに)
大樹はふっと息を吐き出す。
「はいはい、わかりました」
両手を頬に添えて半眼になる大樹に、アルベルヒは笑った。
「せめて紅茶を飲みながら、ゆっくり食べて体の負担を減らすんだよ?」
紅茶と人数分のカップは確かあった筈だと言いながら、アルベルヒは去年の二人へと思いを馳せた。
歪で危うい二人が、どのように過ごしてきたのか。
そして、これからどう変わっていくのか。
二人の傍で見守る事が、今の己に出来る事──そう、あの星のように。
夜空の星々が、見上げる三人を静かに照らし出していた。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
リザルト筆記GM | 雪花菜 凛 GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | なし |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2016年12月18日 |