(イラスト:岬 IL


八神 伊万里の『神秘な遺跡には何があるの?』
白羽瀬 理宇 GM

プロローグ

 旧タブロス市街にある、『ウェディングハルモニア』には、地下へと繋がる道が秘匿されていた。
 演習の折、偶然に見付けられたものではあったが、その先には神秘的な鍾乳洞の遺跡が、静かに、穏やかに、何かを待ち詫びていた。



 A.R.O.A.が頻発する苛烈な戦いの中で、僅かでも休養をと考え、新たに今回発見された鍾乳洞の遺跡で休息を提案した。

「我々の調べた限りですと、この遺跡はかつて、ウィンクルムたちが結婚の儀を執り行っていた場所であることが分かっています」

 そういった神聖な場所だからこそ、愛を深め、休息になるのでは、と職員は続ける。

「多くを確認はしていませんが、非常に美しく、神秘的な遺跡です。
 また、中央付近に存在している石碑によりますと、この遺跡で愛を伝えると、より深い愛情に包まれるそうです」

「結婚の儀?」

 ウィンクルムが問う。

「はい。遺跡内には『夢想花』と呼ばれる花が咲いており、その花で作られたブーケをパートナーへと手渡し、
 想いのこもった言葉、愛の言葉を伝え、身体のどこかに口付けをする――と言ったものです。
 現代の結婚式などとはだいぶ違っていますが、あくまでも愛を深めるための儀式だと思ってください」

「とは言っても、遺跡で唐突にそんなこと、さすがにできないだろ」

 意を決して、それだけを行いにいくと言うのはなかなかに勇気がいる。
 しかし、職員はここぞとばかりに、この上ない良い笑顔を作った。

「ご心配には及びません。デートスポットは充実しています……!」

 熱がこもり始めたのは、気のせいだろうか。
 ウィンクルムの懸念をよそに、職員は話を続ける。

「まずは『せせらぎの洞窟湖』です。
 透明度の高い水が一番の見どころです。高い水温のおかげで水遊びもできますし、水辺で寛げる椅子も、大自然の粋な計らいで完備されています。

 次に、『夢想花の園』です。
 先ほども申し上げた通り、ブーケとしても使われる夢想花が生い茂っています。ぽかぽかと春の日差しのような花園でピクニックなど如何でしょう。

 次に、『エンゲージ・ボタルの洞窟』です。長いので蛍洞窟としましょう。
 せせらぎの洞窟湖から流れる川を小型船で移動しながら、星空の如きエンゲージ・ボタルと、『恋慕石柱』が連なる洞窟を見渡せます。

 どんどん行きましょう。

 次は『やすらぎの水中洞窟』です。  せせらぎの洞窟湖の水底に開いた洞窟で、ウィンクルムが潜る場合は道具不要、水濡れなく安心して潜ることができます。
 呼吸の心配も不要です。100ヤード先が見渡せる水中を探索なんて、素敵だと思います。

 続いて、『恋知り鳥の大穴』です。
 全長500m、幅30mほどもある大穴です。壁から生えた、色とりどりのクリスタルが見どころです。
 かなり高い場所から飛んでいただきますが、ウィンクルムがジャンプする場合、途中で一気に減速して着地に不安はありません。飛ぶ勇気だけです。

 まだまだありますよ。

 『恋慕石柱のプラネタリウム』です。恋慕石柱としましょう。長いものは略していくスタイルです。
 夢想花で自然形成された椅子から、恋慕石柱とエンゲージボタルの織り成す幻想的な景色を眺めることができます。
 ほかの場所よりも比較的暗くなっていますので、夜空を眺める気分が楽しめそうです。

 最後に、『時雨の愛唄』です。
 青い夢想花が咲き誇り、青の空間が広がる神秘的な空間です。
 恋慕石柱も青っぽく、鍾乳洞特有の、滴る水滴までもが青く輝く空間となっています。

 以上の、多彩なデートスポットをご用意しておりますから、唐突に、前触れもなく愛を叫び出すことはまずないと思ってください。
 そうなった場合は、どうぞ自己責任で……」

 語尾を濁した職員だったが、今回のデートスポットには相当の自信を持っているようだ。

「古のウィンクルムが執り行った婚礼の儀になぞらえながらの神秘的な遺跡を探索デート、なんていうのも乙だと思います」

 普段とは違った景色を眺めてのデート。
 二人の距離が近づきそうな、そんな予感がする。




プラン

アクションプラン

八神 伊万里
(アスカ・ベルウィレッジ)
(蒼龍・シンフェーア)

私達に結婚なんてまだ早すぎるし
この先三人での任務がないとも限らないし
今日は精霊達に少しでも仲良くしてほしいと思っ…たんだけど
…さっそくやらかしてるし
二人とも、これ以上喧嘩したら先に帰るからね!

夢想花の園を散策
喧嘩じゃないけどまた張り合ってるし…どうしよう
集めてもらった花を見て思いつく
アスカ君イメージの赤
そーちゃんの青
私の好きな色の紫
三色だけでブーケを作り二人の目の前に差し出す
赤と青を混ぜると紫になるよね
私も二人をつなぐこの色みたいになりたいの
無理に仲良くしろとは言わないけど…三人で協力して頑張っていきたい
二人とも大切なパートナーだから

誓いに嘘はないけど
いつかどちらかを選ぶ日が来るんだろうか…

リザルトノベル

●伊万里の気苦労
 ウェディングハルモニアから地下へと続く鍾乳洞の遺跡。
 この神秘的な遺跡では、かつてウィンクルム達が結婚の儀を行っていたという。
 八神 伊万里とパートナーの精霊であるアスカ・ベルウィレッジは、
 ウィンクルムとしての付き合いはそれなりに長くなっているものの、その関係はいまだ恋人というよりは家族。
 蒼龍・シンフェーアも幼馴染であり初恋の相手ではあるものの、その恋はあまりにも幼く可愛らしいものだった。
 実をいえば、蒼龍に対するほのかな恋心は今も消えてはいないが、その色合いはあまりにも淡い。
 更にいえば伊万里はまだ高校生である。
 しかも、クラス委員長を務めるようなとても真面目な生徒である。
 つまるところ、伊万里にとって結婚などというものは、まだまだ早すぎる話なのだ。
 それにも関わらず伊万里達が2人の精霊と共にこのような結婚に縁の深い遺跡を訪れているのには、訳があった。
 伊万里をめぐり鞘当てを繰り返しているアスカと蒼龍。
 その仲は、生憎と決して良いとはいえないものなのだ。
 とはいえウィンクルムである以上、3人で一緒に当たらねばならない任務が来ないとも限らない。
 そんな時、アスカと蒼龍の仲が険悪なままでは任務に支障をきたす可能性がある。
(だから今日は精霊達に少しでも仲良くしてほしいと思っ……たんだけど)
 前を歩くアスカと蒼龍から漏れ聞こえてくる会話を耳にして、伊万里はひとりため息をついた。

 一方、伊万里の頭痛の原因の片方であるアスカは、
 ウィンクルムとしての使命感をもって遺跡を訪れた伊万里と異なり、己の使命に燃えていた。
 何といってもこの遺跡はウィンクルムが結婚の儀を行っていた遺跡なのだ。
 つまり……
(結婚は無理でも伊万里に婚約を申し込むチャンス!)
 という訳だ。
 しかし世の中そう何もかもが都合よく運ぶものではない。
「なんでコイツまでいるんだよ!」
 アスカの不満気な視線の先にいるのはもちろん蒼龍だ。
 伊万里やアスカより少し年上の蒼龍は、飄々とアスカの視線を受け止め、軽く肩をすくめる。
「僕だって二人きりがよかったに決まってる」
 けれども3人で一緒に遊ぼうと誘ってきた伊万里の顔を立てるため、蒼龍はアスカの同行を妥協することにしたのだ。
「だから威嚇するのやめてくれないかな、泥棒猫君?」
 伊万里の心を最初に射止めたのは自分だと言外に主張する蒼龍。
「誰が泥棒猫だ!」
 その言葉に面白いように反応するアスカ。
 アスカとしては子供の頃の恋心や約束は、あくまで子供同士のもの。大事なのは今だという気持ちがある。
 ゆえに蒼龍が幼馴染面で伊万里に接近することや、アスカを泥棒猫呼ばわりすることに我慢がならないのだ。
 けれども悲しいかな、猫テイルスのアスカ。
 耳を立て、尾の毛を逆立てて蒼龍にくってかかる様は、猫が「ふしゃー!」と怒っているようにしか見えなかった。

(……さっそくやらかしてるし)
 泥棒か否かは別として怒った猫にしか見えないアスカと、しれっとした様子の蒼龍に伊万里は密かに頭を抱える。
「二人とも、これ以上喧嘩したら先に帰るからね!」
 伊万里の心境は、言い争いの最中の子供のようなものか、あるいはやんちゃな子供に手こずらされる母親のようなものか。
 伊万里にしてはやや子供じみた良い様ではあったが、伊万里とのデートを企む精霊達には効果抜群だったようだ。
「……まあ、伊万里がそう言うなら」
 と威嚇をやめるアスカ。蒼龍もその舌鋒を収め、その場は落ち着くかと思われたのもつかの間。
「でもまだアンタのこと認めたわけじゃないからな!」
 性懲りもなくタンカを切るのはアスカだった。
 蒼龍のほうも受けて立つ気配が満々である。
 伊万里の気苦労は、こんな神聖な遺跡の中でも尽きる気配を見せなかった。


●花を集める精霊達
 やがて彼らは遺跡の中でも夢想花の花園と呼ばれるエリアに到着した。
 この遺跡の中にしか咲かない夢想花という花が色とりどりに咲き乱れ、
 モザイク模様のじゅうたんのように遺跡の床を覆っている。
 元からの造りか、あるいは長い年月の中で崩れ落ちたのか、天井に空いた穴から温かな日差しが降り注ぎ
 この場所が地下にある遺構の中であることを忘れさせるほどに明るく、気持ちのよい場所であった。
 綺麗な場所だと感動に浸れたのもつかの間、アスカと蒼龍のバトルはこんな場所でもあっという間に勃発する。
「確かここで摘んだ花をブーケにするんだったよな」
 摘んだ夢想花でブーケをつくり、大切な想いを乗せた言葉と共にブーケを渡しくちづけを交わす。
 それがかつてこの遺跡の中で行われていた、ウィンクルムの結婚の儀である。
 たかがブーケといっても、とても神聖なものであるはずなのだが……。
「よし、どっちが伊万里の気に入る花を摘んでこられるか勝負だ!」
 アスカの思考回路を通過すると、それすらも蒼龍と張り合うネタになるらしい。
 一方の蒼龍もしれっと「勝負?受けて立つよ」と返すあたり、
 落ち着いて見える割に少年くさいのか、それともそれすらも伊万里への執着心故なのか。
「イマちゃんはブーケ作る係ね」
 そう言って蒼龍は伊万里の答えを待つこともなく、花集めに出てしまう。
 一心不乱に夢想花を集め始める精霊2人の姿に、伊万里は心底困ったようなため息をついた。
(喧嘩じゃないけどまた張り合ってるし……どうしよう)
 このままでは、アスカと蒼龍に仲良くしてもらいたいという当初の目的も丸つぶれだ。
 クラス委員長として学級をまとめることには慣れている伊万里だったが、この2人が相手では一筋縄ではいかない。
 思案を巡らせる伊万里の頬を、暖かく心地よい風がなぐさめるように撫でていった。

 しばらくすると、ついに持ちきれなくなったのか、両手いっぱいの夢想花を手にアスカが伊万里の元に駆け戻ってきた。
 その手の中にはアスカの瞳の色を連想させる、赤系の夢想花が集められている。
 アスカが戻った気配を感じたのだろう、程なくして戻ってきた蒼龍は両手いっぱいに青い花を抱えていた。
「さ、摘んできたよ。イマちゃんには青が似合うと思うんだよね」
 伊万里の前に立ち、両手いっぱいに集めてきた花をそれぞれに差し出す2人の精霊。
「どうだ!俺の花の方がいいよな?」
 と赤い花を抱えたアスカ。
「絶対に僕の花の方がいいよね?」
 と青い花を抱えた蒼龍。
 男は永遠の少年なのだとは誰の言葉だっただろうか。
 どう答えたものかと、赤と青、2つの花の束を見ていた伊万里は、ふとある方法を思いついた。


●橋渡しの色
 2人の精霊がそれぞれ両手いっぱいに持っている花を、伊万里が全て受け取ることは無理だ。
「アスカ君イメージの赤」
 アスカの手の中から一束、赤い夢想花を受け取る伊万里。
「そーちゃんの青」
 続いて伊万里は、蒼龍の手からも夢想花を一束受け取る。
 それから伊万里は、ちょうど自分の足元に咲いていた一房の紫色の夢想花を手に取った。
「私の好きな色の紫」
 赤と青と紫。
 伊万里の手にちょうど収まる量になった三色の花だけで、伊万里は手早くブーケをつくりあげる。
 出来上がったブーケを伊万里は2人の精霊達の前に差し出しながら言った。
「赤と青を混ぜると紫になるよね。私も二人をつなぐこの色みたいになりたいの」
 対照的な赤と青の花のだけで作ったブーケでは色の調和が取れずに、ちぐはぐな印象になってしまうだろう。
 しかしそこに赤と青を混ぜた色である紫の花が混ざることによって、色に調和が生まれているのだ。
 素朴な色合いながらも美しいブーケを前に語られる伊万里の言葉が、
 鞘当てに熱中していた男達に冷静さを取り戻させる。
 よく考えてみればアスカも蒼龍も、伊万里に渡すために集めた花の色は伊万里の好きな色ではなかった。
 その上、どちらが多く集められるかなどと張り合ったせいで、量だって伊万里にはあまりにも多い。
 伊万里を欲するあまり、伊万里が求めるものを完全に忘れてしまっていたのだ。
「無理に仲良くしろとは言わないけど、私は三人で協力して頑張っていきたい」
 叱られた子供のように肩を落とすアスカと蒼龍に伊万里は順に微笑みかけた。
「二人とも大切なパートナーだから」

「俺もつい熱くなりすぎた。なるべく喧嘩しないようにする」
 バツが悪そうに言うアスカ。
 蒼龍も降参というように軽く肩をすくめて言う。
「仕方ない、今回は引き分けだね」
 アスカか蒼龍を選ぶというよりは、今は両方をパートナーとして大切にしたいという伊万里の気持ち。
 蒼龍としては、それを無視してまで伊万里に自分の方を向かせようという思いは、今はまだない。
「無意味に険悪になるのはやめるよ。で・も!」
 手にしていた青い夢想花を足元に置いた蒼龍が、さっと手を伸ばし、伊万里の腰を抱き寄せる。
「イマちゃんは渡さないけどね!」
 驚く伊万里。
「って言ってるそばから!」
 アスカが面白いように目を剥いて怒り、まるで取りかえそうとでもするように伊万里の肩を抱き寄せた。
「俺の伊万里に触るな!」
 和解したかと思ったのもつかの間、また喧嘩をはじめるアスカと蒼龍。
 それでも、先程までよりは空気が柔らかくなったような、そんな気がした。


●それぞれの思い
 夢想花の花園での散策を楽しみ、帰路につく3人。
 蒼龍が先導し、伊万里がその後ろを歩き、アスカがしんがりとなって薄暗い遺跡の中を進んでいく。
 伊万里の背を追って歩きながら、アスカはふと夢想花の花園があった方を振り返った。
(誓いの言葉、言えなかった……)
 夢想花の花園でしたかった結婚の儀、あるいは婚約。残念ながらそれは叶うことはなかった。
 アスカが目指したいもの、それは伊万里の両親のようにいつまでも仲の良い夫婦の姿だ。
 オーガの襲撃により愛する家族を失ったアスカにとって、
 仲の良いあたたかな家庭への願いは、失った心の一部を埋めてくれる唯一の手段なのかもしれない。
 そうでなかったとしても、やっぱりアスカにとっては、伊万里と共に笑いあいながら過ごす未来は譲れないのだ。
(まだまだ先っぽいけど、絶対実現させてやる)
 振り返っているうちに先に進んでしまった伊万里の背を追いながら、アスカはそう心に誓った。

 一方、先頭を歩く蒼龍はというと、夢想花の花園で結婚や婚約が行われなかったことに安堵していた。
 ウィンクルム同士で結婚をした伊万里の両親に憧れるアスカとは違い、
 蒼龍は結婚という行為そのものに対し疑念を抱いているのである。
(結婚の絆が永遠なんて信じない。自分の力で繋ぎ止めておかなきゃいけないんだ)
 結婚すれば一生一緒にいられるというものではない。
 結婚したとしても、何かの理由で別々の道を歩き出し別れてしまう夫婦などたくさんいる。
 蒼龍がほしいのはそんな不確かな結婚という約束ではないのだ。
(だからたとえ拒絶されても離さない)
 伊万里は自分のもの。だから決して手放しはしない。
 そう決意する蒼龍の瞳には冷たい光が浮かんでいたが、後ろにいる伊万里とアスカはそれを目にすることはなかった。

「出口が見えてきたよ」
 蒼龍の言葉に視線を上げれば、遺跡の中からウェディングハルモニアへと出る階段が見える。
 アスカと蒼龍、2人に仲良くしてもらいたいと思い、この遺跡へとやってきた伊万里。
 多分、ほんの少しではあるものの効果はあったのだろう。
 その時にアスカと蒼龍に告げた、3人で協力したいという思いに嘘はない。
 どちらも大切なパートナーであることは疑いようのない事実なのだ。
(でも……)
 この遺跡の中で結婚の儀を行ってきたかつてのウィンクルム達のように、あるいは伊万里の両親のように。
 たった一人の相手と結ばれるために。
(いつかどちらかを選ぶ日が来るんだろうか)
 答えの出ない疑問を地中へと埋めて背を向けるように、伊万里は遺跡の外へと続く階段を駆け上がっていった。





依頼結果:大成功

エピソード情報
リザルト筆記GM 白羽瀬 理宇 GM 参加者一覧
プロローグ筆記GM 真崎 華凪 GM
神人:八神 伊万里
精霊:アスカ・ベルウィレッジ
精霊:蒼龍・シンフェーア
エピソードの種類 ハピネスエピソード
対象神人 個別
ジャンル イベント
タイプ イベント
難易度 特殊
報酬 特殊
出発日 2016年6月9日

開催中のイベント・キャンペーン

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