【悪夢】昏キ歓ビノ夢(あき缶 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●重要参考人
 ノースガルドのマントゥール教団施設にて、精霊を捕縛し傷を負わせた現行犯で捕らえられた女――ミモザ・アイリン。
 彼女が牢の中で昏睡状態にある、とA.R.O.A.に通報が入った。
 昏睡の理由は、彼女の傍らに転がっていたギフトボックスが如実に物語る。
 どうやって入手したのか全く不明だが、ミモザは『オルロックオーガ』によって夢に囚われ、石になる運命を得てしまったのだ。
 犯罪者だが、彼女はマントゥール教団について情報を持つ、重要参考人だ。
 死んでもらっては困るのである。
「オルロックオーガを倒し、ミモザを救ってくれ」
 それが、今回の依頼だった。

●拷問部屋
 神人が気づいた場所は、湿っぽく薄暗い部屋だった。石レンガが積み重なり、湿気と埃と黴と鉄の臭いが漂う。
 おそらくここは、古城の地下室。そして、周囲に並ぶのはおどろおどろしい、鉄の処女や棘のついた水車、何に使うかわからぬ昇降式の巨大な檻……。
 おおかた、イカれた城主が作った拷問部屋といったところか。
「目覚めたか」
 蝋燭の灯が、にやりと笑う貴族の男を浮かび上がらせる。
「ミモザ、この中に真実を持つものが居るはずだ。日付が変わるまでに吐かせろ。さもなくば……」
「私が死ぬっていうんでしょ、解っているわよ!」
 ピンヒールと革製のボンテージに身を包んだ青い髪の美女は、ひきつった笑みを浮かべ、乗馬用の鞭をヒュンと鳴らした。
 神人はようやく己の状況に気づく。
 枷が嵌められ、拘束されている――!
 仲間の神人は全員自由を奪われて、ミモザどころか貴族の男にも何もできそうにない。
(精霊が、いない……)
 ならば、希望はある。精霊がすぐに駆けつけて、救いだしてくれる。
 神人には直感的に分かっていた。
 貴族の男こそ、オルロックオーガである、と。

 精霊たちは長い長い螺旋階段を、ランタンの灯りを頼りに歩いていた。
 いつまでも階段が終わらない。
 階段の壁に備え付けられたガーゴイルが言う。

「この階段を終わらせるには、神人の最も愛する部分を告白せよ」

「求める扉を出すには、神人の最も厭う部分を告白せよ」

「扉を開くためには、神人と死別したお前がどうなるのか告白せよ」

「枷の鍵を得るためには、神人に拒絶されたお前がどうなるのか告白せよ」

 ――階段を登ったら、帰れるぞ。

 ガーゴイルは不思議なセリフで、精霊を脅した。 

解説

●成功条件:オルロックオーガを倒す
 オルロックオーガは貴族の男であり、一撃で死にます。
 オーガを倒さずに帰ると失敗し、ミモザは石になります。

●夢からの醒め方
 階段を登る=ミモザが石になり、オーガは逃亡しますが、ウィンクルムは生還します(失敗)
 オルロックオーガを倒す=ミモザが助かり、全員生還します(成功)

●告白
 精霊がそれぞれ下記の内容を告白すると、神人救出に近づいていきます。
 番号に対応する形でウィッシュプランに回答を記入してください。
 4問全てに精霊全員が回答しないと、諦めたとみなして階段を登るので、失敗です。

1,神人の一番好きな所
2,神人の一番嫌いな所
3,神人が死んでしまったら、どうなるか
4,神人に憎悪を向けられたら、どうなるか

●趣旨
 神人がミモザに拷問される描写が中心になります。
 ひどい目にあってほしくない場合は参加を控えてください。
 アクションプランはいたぶられた時の反応を書いてください。

 相談期間が短いので注意してくださいね。

ゲームマスターより

お世話になっております。あき缶でございます。
先日好評を頂いたので、ミモザ・アイリンの拷問第二弾。
神人にひどいことしたいだけのエピです!
どんなひどい目に合いそうなのかは、前作『昏キ歓ビノ罠』を御覧ください。
私の趣味満開!(いい笑顔)
それでもいいという方のみご参加ください。
「こんなひどい目にあうなんて!」という苦情は受け付けません。
自己責任でお願い申し上げます。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  ……くそ、覚悟はしてたがドンピシャかよ
落ち着け、精霊は……いないな
あいつらが辿り着くまで。耐えるしかない

未成年及び相方が未成年の奴に負担かけられるか
大人なんだ、少しは見栄張らせろ
ほら、いい声で鳴かせてみろよ……できるもんならな

眼鏡が壊れようが顔殴られようがいい、女じゃねえし……!?
や、めろ、腕だけは……!!
(明らかに狼狽してから後悔)

(あいつは。泣くんだろうか。
それとも怒るかな、「無茶するな」って)

……ったく、遅えぞ「騎士様」(精一杯笑ってみせ)
あ、待て馬鹿落ち着けそっちじゃない貴族の方……!
(飛びかける意識で必死に訴え)

……謝んなよ、よくやった
少し、休むわ……


信城いつき(レーゲン)
  レーゲン達が助けにくるまで、時間かせぎや脱出を試みる

神人のだれかが酷い目に遭いそうになったら
靴を片方脱いで、靴をミモザにぶつける
みんなに触るな……わわっ、俺にもだよっ!

レーゲン達精霊が助けにきてくれると信じてる
睨まれたって暴力ふるわれたって引かないよ。
絶対に来るよ

精霊達が来たら、男がオーガであることを叫んで伝える
そっちの怪しい格好の女性、鞭持ってるから注意して!

【救出後】
ちょちょっと!落ち着いて、まず枷はずして!

心配しないで、大丈夫だよ。来るって信じてたし
やっぱり触れられるならレーゲンがいいな(照れ笑い)
鞭とか爪とかこりごりだよ



ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
  仲間の神人も同じ状態で多少困惑
頼みの綱はサーシャ達か…早く、来い
「真実」を持つ者とは一体?
あの男の意図が読めない

戦闘服、半ズボン着用
蝋燭、水、爪、言葉責め有効
拘束具が外れないか引っ張って確認

基本唇噛み締めて声出さず堪える
気丈振る舞うが大分辛い
悪趣味な行為に反吐が出る
その手で触れるな、穢らわしい
俺達はウィンクルムだ、そう易々と折れるような奴はここにはいない

恐怖より苛立ちを覚える
終始オーガとミモザ睥睨
頬の傷に触れられたり更に抉られたら顔が歪む
子供扱いされたらかっとなる
胸ポケットからバンジーの押し花の栞が落下

精霊達が来たら貴族の男を指差す
今の自分の姿をサーシャにあまり見られたくないが素直に寄り掛かる



天原 秋乃(イチカ・ククル)
  今回のミモザは脅されているようだから同情の余地はある。
とはいえアーノとか、俺より年下の奴らを痛めつけているのは我慢できない。

自分が標的にされている時は、声をあげないように努める。
「……くッ」
声はださないつもりだけど、きっと顔にはでるだろうな…。

俺自身がどうこうされるよりも、みんなが痛めつけられている姿をみるほうが辛い。
「…やめろ……やめろって言ってるだろッ!!」

イチカ達が助けにきてくれたら反撃。
手加減はしない。

イチカの奴、笑ってるけどいつもと違う気がする。
怒っているんだろうか。ミモザ達に?…いや、俺に?
…こいつの考えてることはよくわからんが…
「……心配かけて悪かったな」
とりあえず謝っておく。


明智珠樹(千亞)
  ※未成年神人への攻撃が酷くなり過ぎたら気を引く

く、ふふ、ふははははは!
生温いですね、つまらないですよ!私にも刺激をください!
はは、あははははは!!

※何をされても笑い続ける明智
 その様子狂人の如き

さぁ私を可愛がってください苛めてくださいもっとください私に全てください
貴方のシタイこと全部ふははははは!

※痛くとも血が流れようとも狂い笑いを絶やさず

何を知りたいのです?真実?そんなこと私が知りたいですよ
いやむしろ真実なんて要らない、さぁ私に貴方の欲望をぶつけてください
気が済むまで生を愉しみましょう…!

※右目は白目が真っ赤に充血しておりややグロテスク
 少しでも相手に恐怖や気味悪さを感じさせれたら嬉しく…!



●階段を終わらせる問
 終わらない階段を五人の精霊がひたすらに降りる。
 階段を登れば帰れると、ガーゴイルは精霊に囁く。
「……ミモザを見捨てて登る手もあるけど」
 イチカ・ククルは呟く。だが、そんなことをしたらきっと彼の神人は怒るだろう。
 無事に戻ったとて天原 秋乃は、石になったミモザ・アイリンを悼むだろう。
 秋乃は、敵であっても情状を慮って情けをかける男だ。
(……まぁ、僕としてもミモザにはこないだのお返ししないといけないし)
 無意識に喉に手をやり、イチカは心のなかで呟いた。あの女には、さんざん『窒息ごっこ』で遊ばれたのだ。
 イチカの後ろのレーゲンは、もはや焦りすぎて無表情だ。凍りついた顔で足を動かし続ける。信城いつきに何かあったら、と思うと胸が潰れそうなのだ。
 そんなレーゲンの顔を痛ましげに千亞が見上げる。千亞は先日のミモザの事件を事前に調べておいた。ミモザは、なかなかの嗜虐趣味だ。彼のパートナーである明智珠樹をはじめとする神人達がどんな状況にあるかは分からないが、ミモザと一緒にいるのであれば、あまりいい待遇は受けていそうにない。
(珠樹……皆……大丈夫、だよな?)
 千亞のウサギの耳がへにょと垂れた。
「うー、悠長に降りている場合じゃないですよね……!!」
 焦れたようにイグニス=アルデバランは言い、普段より強くまるで地団駄のように石段を踏みつけた。
 大きな足音を聞き、先頭を歩くアレクサンドルは後ろを振り向いた。
「まったくだ。煩わしい」
 そして、周囲のガーゴイルを見回してアレクサンドルは尊大に言う。
「回りくどいこのやり方、気に食わないのだよ」
 すると、ガーゴイルは一斉に返した。

「この階段を終わらせるには、神人の最も愛する部分を告白せよ」

 アレクサンドルは眉をひそめた。
「敵の意図が図れない上におめおめと答えるのは癪なのだよ」
 しかし、答えなければ永遠に石の螺旋階段は続くだろう。
「致し方あるまい」
 とアレクサンドルは他の精霊を見回す。
 イグニスが大きく頷く。
 そしてガーゴイルを見上げ、はっきりと大きな声で問いに回答する。
「笑顔が可愛いです!」
「やっぱり笑顔だね」
 レーゲンも一二を争うように答えた。仮面のように動かなかったレーゲンの顔が綻ぶ。脳裏に浮かぶいつきの笑みが、レーゲンの押し潰されそうな心を一瞬でも救ったのだ。
 二人の回答を受け、ガーゴイルの頭上に二つ光が灯った。
 その変化を認め、アレクサンドルは一歩進み出る。
「我も答えよう。曇りなき眼で真っ直ぐ揺らがず我を見る所だよ」
 もう一つ、光が現れる。
「嫌だけどそうもいってられないかな」
 光が五つ灯れば階段が終わるのだろうと悟ったイチカは、不承不承口を開いた。
「全部好きだけど……強いてあげるなら目かな。あの目をみていると懐かしい気持ちになれる」
 驚いている間に、もう光が四つも灯ったことに千亞は慌て、
「えっ、えーと、えーとっ」
 と答えようとして、なかなか恥ずかしいことを聞かれていることに気づき、顔を真っ赤にした。
「や、……優しいところ……」
 羞恥のあまり、ぼそぼそっと答えたが、ガーゴイルは認識してくれたようだ。
 五つの光が灯り、一瞬まばゆく輝いて消える。
 すると不思議なことに階段の終着点がアレクサンドルの目の前に現れていた。
「……何もない……?」
 千亞が戸惑う。階段が終わった先は、広い広い薄暗い広間だったからだ。人の気配がない。呼ばずとも、ここには求めるものは何もないと分かる。
 すると、広間の壁に取り付けられたガーゴイルが声を発した。
「求める扉を出すには……」

 ヒュンヒュンと風を切り、ビシッビシッと厳しく鞭は男の肌を苛む。
「ぐっ……」
 両手をまとめて天井から吊り下がったフックに、まるで解体後の食肉よろしくひっかけられた初瀬=秀は、ミモザが振るう鞭を為す術なく受けていた。
 ミモザは初めこそ渋々だったが、鞭を振るうたびに『他人をいたぶる悦び』に酔っていったらしく、今では狂的な笑みを浮かべて腕を振っている。
「ほ、ら……。いい声で鳴かせてみろよ……できるもんならな」
 と全身痛々しいミミズ腫れを浮かび上がらせながらも、秀は強がってミモザを挑発する。
 ぎりぎりつま先が床につく高さで吊られているから、踏ん張って耐えることが出来ない。ギチギチと太い縄がきしんで、手首に擦過傷ができていく。
(くそ、覚悟はしてたがドンピシャかよ……)
 精霊が居ないなら、必ずこちらを見つけ出すはずだ。秀は、彼の『騎士様』を信じていた。だから耐えることが出来る。
「みんなに触るなっ……!!」
 いつきが叫んでいる。彼は大きな水車の側面に大の字に固定されていた。
(靴、投げつけたいのに……っ)
 手も足も一ミリたりとも動かせない状況に、いつきは歯噛みする。
「あら? 妙な正義感で、貴方が犠牲になりたいのかしらァ。お坊ちゃん」
 ミモザがぐるりと首を巡らせる。その壮絶な笑みに、いつきは無意識に悲鳴をあげた。
 ミモザがツカツカとヒールを鳴らして、いつきに近寄ろうとする。
「わわっ、俺にもだよっ!」
 と慌てるいつきに、ミモザはにっこり、いやにったりと笑った。
「その水車、おもしろいのよ? 回すとね、貴方の首から下を水につけることが出来るの。泣きわめく声がブクブクって水の中で揺らぐのって楽しいのよ? 噎せまくって、空気の美味しさと有り難さを痛感できるの。試してあげましょうか」
 いつきは、恐怖におののきながらも、気を確かに持とうと自分に言い聞かせる。
(絶対、レーゲンが来てくれる。引かないよ、引かないったら!)
「おい、これで終わりのつもりか? いい声一つ鞭で出せないのかよ」
 秀が声でミモザを引き戻す。
「私の鞭をバカにしたわね!」
 憤怒の表情でミモザが駆け戻り、ミモザは鞭を持ち替えた。棘が沢山ついた、茨のような鞭だ。
「お前には調教鞭じゃだめだわ。血を見ないと収まらない!」
 ビュッと茨鞭が唸る。秀の眼鏡が吹き飛び、彼の頬が切れる。
「ああっ」
 いつきが叫ぶが、秀は無理に微笑んでみせた。
 ――大人なんだ、少しは見栄張らせろ。
「女じゃねえし、どうってこと……」
「痛い助けてって叫んだら許してやるのに、意地っ張り男って損ねえ!」
 吊られた支点である腕めがけて飛んで行く鞭に、秀は顔色を変えた。
「止めろ、腕だけは……!!」
 
 ――秀様は、戦うのが怖い時ってありますか?
 ――何だよ急に。そりゃ怖いさ、料理人が腕やったら終わりだしな。

 ミモザはその狼狽を見逃さない。
「あははは、腕が嫌なの? じゃあ泣いてお願いしてくれたら、やめないことも無いわ!」
 高笑いしながら鞭を振るう。
 秀は逃げ場も避けようもなく自分の腕が血を流していくのを、呆然と見上げる。
(……あいつは、泣くんだろうか……)
 それとも、怒るだろうか……。

●扉を出現させる問
「求める扉を出すには、神人の最も厭う部分を告白せよ」

 ガーゴイルの次の問いに、精霊達は『求める扉』の向こうに神人がいることを悟る。
 ならば、答えるしか無い。先程は即答したイグニスやレーゲンが今度は考えこんでいる。
「嫌いな所なんて……」
 ならば、とアレクサンドルがガーゴイルを見据えて答える。
「危険を顧みない無鉄砲な所」
 また光が灯った。先ほどと同じ方法で扉が現れるのだろう。
「……今みたいに僕を一人にするところ」
 イチカの答える声はどこか空虚だった。
「珠樹が、珠樹自身に興味を持たないところ」
 千亞は、変態さでカモフラージュしているものの、どこか危うい神人を思い浮かべる。
 彼には過去の記憶が無い。無いというのに、記憶を取り戻そうという意志もない。それが千亞には心配だった。一見あけっぴろげなようなのに、千亞は珠樹のことをほとんど知らない……。例えば、彼の隠す右目、とか。
 ようやくレーゲンがひねり出した、いつきの嫌いなところは、苦手なレバニラ炒めを作るところだった。
 それでも、やはり嫌いと言い切れるところではないらしく、
「身体の気遣いしてくれてるんだろうし、色々味も工夫されてて美味しいけど」
 などとフォローをいれる。
 光はあとひとつ。全員の注目が集まる中、イグニスがポンと手を打った。
「あ、自己評価が低い! もっと自信持ってほしいです」
 秀様は素敵な方なのですから! とイグニスが喋り続ける中、堅牢な石扉が現れた。
 アレクサンドルがなんとか開けようとするも、びくともしない。とうとう彼が斧を振り上げようとした時、扉の上のガーゴイルが口を開いた。

 鞭で打たれ続ける秀を見かね、とうとう秋乃は叫んだ。
「止めろ! 止めろって言ってるだろッ!!」
 自分が傷つくより他人が傷つくほうが、辛い性分の男には、目の前で秀が血まみれになっていくのは耐え難かった。
(彼女は脅されているようだから同情の余地はあるけど)
 と秋乃は、この期に及んでミモザすら気遣うくらいの優しい男なのだ。
「……貴方は見覚えある子ね。だから、相方さんと同じようにしてあげたわ。嬉しい?」
 ミモザは秋乃を見て薄く笑った。
 秋乃は、右手右足、左手左足をまとめて枷を嵌められ、壁と鎖でつながる首輪を嵌められていた。以前、イチカがミモザから受けた仕打ちと同じだ。
「お・そ・ろ・い♪ ねっ!」
 ガッと素早く頭を蹴り飛ばされる。
「がはっ」
 不意すぎて、秋乃はたまらず床に這いそうになり……首輪で中空に縫い止められた。
 必死に不自由な手足で突っ張って、気道を確保しようと秋乃の体があがく。
「嬉しい?」
「……っ」
 眉をひそめ、秋乃は緑の瞳で、背を踏みつけてくるミモザを見上げた。
(イチカもこんな目にあったのか……)
 あの時、イチカは気絶していた。
(もっと早く……助けてやりたかった)
 不随意に口から垂れる唾液を不快に思いながら、秋乃はイチカのことを考えていた。

●扉を開かせる問
「扉を開くためには、神人と死別したお前がどうなるのか告白せよ」

 ガーゴイルの問いに一様に精霊は動揺した。仮定がひどい。
 イグニスは戸惑いながらも、口を開いた。
「寿命や病気なら思い出を胸にひっそり生きますが……。下手人がいた場合は容赦せず仕留めて後を追います」
 表情は真剣そのものだ。
「我もだ。他殺なら犯人を殺す……後を追うかどうかは別にしてだがね」
 アレクサンドルが即座に同意を示す。だがきっと、とアレクサンドルは神人の死を脳内で仮定してみる。今まで感じたことのない悔恨と悲哀の念を覚えて、アレクサンドルは苦笑する。
(だが、泣かないだろうな)
「は、花ぐらい手向けてやる、よ……」
 千亞の声は揺らいでいる。そっけない回答は強がりなのだ。
 イチカの回答はあっさりしたものだった。
「別にどうもしないよ。最期を看取ることさえできれば、僕はそれで満足」
 後を追う、という嘘を昔、秋乃に言ったことを思い出しながらも、イチカは至極正直に答える。
 レーゲンはひどく辛そうに声を絞り出した。
「あんな思い、するぐらいなら、一緒に逝くかもしれない」
 いつきが顕現した時に、同じようなことは経験した。もういやだ。
 レーゲンの返答が終わるなり、扉の鍵が崩れ落ちる。
 いざ、と扉を開こうとした精霊に、ガーゴイルは意地悪く言った。
「枷の鍵を得るためには、神人に拒絶されたお前がどうなるのか告白せよ」
「まだあるのですか……」
 イグニスは焦れたようにガーゴイルを睨んだ。

「真実を持つもの……なんて口実だな」
 ヴァレリアーノ・アレンスキーは、ただ悪戯にミモザが仲間たちをもてあそぶのを冷静に見ていた。後ろ手に縛られ、足は正座の形で腿と脛をひとまとめにされている縄を、なんとか解けないかと身じろいでいたが、そう簡単には抜けられそうにない。
(ただ俺達を甚振りたいだけだ。あの男にとっては、ミモザを食うまでの余興にすぎない)
「おまたせ、綺麗な男の子。貴方も放置されて寂しかったでしょ」
 ざっとヒールが砂を踏む音と共に、ミモザがヴァレリアーノの顎を掬い上げた。
 頬の傷を彼女の長い爪に刺され、ヴァレリアーノは顔を歪める。
「白くて綺麗な肌ね」
 と半ズボンから覗く真っ白な膝にミモザは得心したように頷く。
「俺達はウィンクルムだ、そう易々と折れるような奴はここにはいない」
「どうかしらね」
 少年の厳しい物言いもどこ吹く風で、ミモザは真っ赤な太い蝋燭を取り出した。
「映えそう、ね?」
 これみよがしに灯りのランタンから火を蝋燭に移す彼女に、
「その手で触れるな、穢らわしい」
 眉を寄せ、ヴァレリアーノはそう吐き捨てる。
「いい答えだわ。楽しめそうね」
 ミモザはヴァレリアーノの戦闘服に手をかけた。
 前開きの服を乱し、肌を晒そうと彼女の手は無遠慮に動く。するりと戦闘服の胸ポケットから栞が落ちたことには、誰も気づかなかった。
 ヴァレリアーノはそれでも平気そうに振る舞おうと努めるも、反吐が出そうな気分だった。
 ぽたり、とねっとりした灼熱が彼の雪のような肌に落ちていく――。

●枷の鍵を得る問
 最後の質問は、三つ目のそれと似て非なるものだった。
「枷の鍵を得るためには、神人に拒絶されたお前がどうなるのか告白せよ」

「えっ、そんな……どうしましょう」
 とオロオロするイグニスを横目に、
「拒絶か。感情はともあれ、それは間違いなく我だけの事を考え、見ていることになるな」
 アレクサンドルは頷くと、はっきりと答えた。
「全て享受した上で相手の思うが儘にさせる」
「なるほど。愛の反対は憎しみではなく無関心だそうですものね」
 イグニスは頷くと笑顔で言い放った。
「もう一度振り向かせる努力をします! 何度だって恋させてみせます!」
「強いなぁ。……俺は……珠樹の意に従う。去れと言われれば、去るさ」
 千亞は儚く微笑むと、答えた。
「僕のそばにいてくれるなら、嫌われようと好かれようとどうでもいい。秋乃に殺されるのもそれはそれで嬉しいことだよね」
 イチカはしれっと恐ろしいことを言ってのける。だがイチカは内心舌を出していた。
(正直に答えすぎた……。僕がこういう風に思ってる事、秋乃には知られたくないな)
「そうだね。私はずっといつきのことが好きだし、ずっとそばにいたいと思うよ。……悲しいけどね」
 レーゲンが切なく微笑むと、五つの光はそれぞれの眼前に飛来し、鍵となって落ちた。
 皆、とっさに鍵を掴む。
 鍵は得た、扉ももう錠前はない。
 ならば。
 頷きあった精霊達は扉を押し開けた――。

 精霊達が最後の問に答えている頃。
 ミモザは突き刺さるような笑い声に慄いていた。
「く、ふふ、ふははははは! 生温いですね、つまらないですよ! はは、あははははは!!」
 両手を広げる形に壁に縫い止められた珠樹は、身を捩らせて笑う。
「な、なによ、なによ……」
 初めての反応にミモザは大いに戸惑っていた。
 鞭を当てても、蹴っても、殴っても。
 珠樹は笑い続けるのだ。
「さぁまだまだ出来るでしょう!? 私を可愛がってください苛めてくださいもっとください私に全てください。貴方のシタイこと全部ふははははは!」
 一息に言い切り、珠樹は笑う。笑い続ける。
「なんなのよーっ!」
 バシッと彼女の手が珠樹の頬を張った。
 勢いで彼が隠していた右目があらわになる。それを見て、ミモザは息を呑んだ。
「なに、これ……」
 赤地に紫の目。白目が痛々しいほどに充血した目が、ミモザを真っ直ぐに見つめていた。
「あはははは」
 恐怖を覚えるミモザを珠樹が真顔で笑う。
「珠樹ーーーーッッ!!」
 その時、扉が開いた。怒涛のように精霊が飛び込んでくる。
「……ったく、遅えぞ『騎士様』」
 秀はホッとしたように力を抜いた。
「み、皆も……酷い傷……怪我……。よくも……よくもよくもぉぉぉ!!」
 千亞が半泣きで弾道ナイフをミモザに投げた。
「ひぃっ」
 怯えていた彼女はすんなりと床に転ぶ。
「お覚悟下さい?」
 イグニスが笑顔でミモザに霊錫を向けようとするが、
「あ、待て馬鹿落ち着け、そっちじゃない貴族の方……!」
 秀が必死に止めるので、思い直して貴族に攻撃しようとするも、既にオーガはアレクサンドルの斧の錆になっていた。
「我としては何度も殺したいところなのだがね」
 塵になって消えていくオルロック・オーガを、アレクサンドルは笑顔で見下ろす。
 行き場を失った魔力を散らしながら、イグニスはミモザに怒鳴った。
「く、起きたらビンタですからね貴女!」
 そして、秀を心配そうに見やる。
「大丈夫……じゃないですね。すみません、守れなくて」
 しょんぼりと謝るイグニスに、秀は首をゆるゆると振った。
「……謝んなよ、よくやった」
 だがもう、秀の体力は限界だったようで、崩れ落ちていく。それを抱きとめ、イグニスは優しく秀の耳に囁いた。
「一緒に帰りましょう?」
「おう。少し、休むわ……」
 じわじわと夢の世界が緩んでいく。
 アレクサンドルはヴァレリアーノの脇に落ちていた栞を拾い上げた。
 パンジーの押し花の栞だ。
 アレクサンドルはヴァレリアーノに上着をかけ、優しく抱きしめる。ヴァレリアーノも今日ばかりは素直に腕に収まった。
「生きてる……」
 と泣きそうになりながら何度も触れてくるレーゲンをなだめ、いつきは笑ってみせた。
「心配しないで、大丈夫だよ」
 イチカの笑顔を見ながら、秋乃はとりあえず、
「……心配かけて悪かったな」
 謝っておいた。
 笑顔のはずなのに、どうにもイチカが怒っている気がしたからだ。
(ミモザに怒ってるんじゃなくて、俺に怒ってる気がする……)
 秋乃はイチカの感情が読めず、困惑する。でも、どうせ秋乃が真意を聞いても、イチカはきっとはぐらかす。
 背伸びしてなんとか珠樹の手枷を外した千亞は、改めて珠樹の全身を眺め、青くなった。
「珠樹、怪我……それに、目、大丈夫かっ?」
 それを聞いて、珠樹は苦しげに微笑む。……できれば、見せたくなかった。
「千亞さん、すみません。この目は元からです。あまり綺麗じゃないので隠してました」
 と痺れて震える腕で再び隠そうとする珠樹に、そうはさせまいと千亞は抱きついた。
「馬鹿ッ!」
「千亞さん?」
「無理するな、馬鹿っ。そんなの気にするもんかっ」
 ぐりぐりと額を珠樹の胸にこすりつける兎テイルスを、珠樹は一瞬驚いたように見下ろしたが、優しく微笑んで彼の頭を撫でた。
「……ありがとうございます、千亞さん」

 世界が白い光に包まれて、生者を現し世に連れて行く――様々な感情ごと全部。



依頼結果:成功
MVP
名前:明智珠樹
呼び名:珠樹、ド変態
  名前:千亞
呼び名:千亞さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あき缶
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 恐怖
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 04月20日
出発日 04月26日 00:00
予定納品日 05月06日

参加者

会議室

  • [8]天原 秋乃

    2015/04/25-23:32 

  • [7]明智珠樹

    2015/04/25-23:20 

  • [6]信城いつき

    2015/04/24-22:38 

    レーゲン:
    (うろうろと周囲を落ち着き無くうろついていて、ふと挨拶すらしてなかった事に気づく)
    こんばんは、いつきの相棒のレーゲンだよ。挨拶が遅れてごめん。
    報告書を読んだら、ちょっと落ち着かなくなって。
    イチカも災難だったね……しかもこんどは神人達まで。早く助けに行きたいね。

    質問の答えもちゃんと考えておかないと
    ……しかしどうしよう、嫌いなところなんてないんだけど(まがお)

    『だめっ答えないと失敗だから!何でもいいから俺の嫌いなとこ考えてー!』
    どこからか幻聴が聞こえるので、真面目に考えるよ。

    とにかく、神人のみんなを少しでも早く助けだせるよう頑張るんで、みんなどうぞよろしく

  • [5]明智珠樹

    2015/04/23-23:02 

    千亞:
    改めて、こんにちは。明智珠樹の精霊の千亞だよ。
    アレクサンドルさん、またこうやってすぐにお会いできて嬉しいですっ(にこにこ)
    そして珠樹がご迷惑かけて申し訳ありませんでしたっ(ぺこぺこ)

    なかなか精霊だけでお話するなんてないから珍しいよね……って和んでる場合じゃないね
    (前回の報告書を拝読し)
    あ、あぁあ(青ざめ)あぁ、イチカさん大丈夫ですかっ、後遺症とかないですかっ(涙目)
    珠樹はともかく、秀さんやいつきくん、ヴァレリアーノくんや秋乃さんに何かあったら……
    早く助けに行きましょうッッ。頑張りますっ

    …質問…ほ、本当のこと…答えないとマズイ…ですよ…ね…
    い、いや、べ、別に嘘をつくつもりじゃないですけどっ(複雑な表情で)

  • アレクサンドル:
    アーノが捕えられている為、我が挨拶をしよう。
    シンクロサモナーのアレクサンドルだ。
    見知った面々で安心しているのだよ。
    千亞達とはこの間の花見以来かね。あの節は楽しませてもらった。
    他は久しいな、汝ら宜しく頼むのだよ。

    (同様に報告書を読み)
    想像以上に過激らしい。果たしてアーノが耐えられるのか心配ではあるが。
    …一発で済めばいいのだがね(微笑
    あと我も告白の回答洩れが無いように気をつけるのだよ。

  • [3]初瀬=秀

    2015/04/23-15:34 

    イグニス:
    何ということでしょう夢に入った瞬間にはぐれるとは!
    (はっ)わわ、申し訳ありませんエンドウィザードのイグニスです!
    イチカ様は引き続きよろしくお願いします、
    レーゲン様にアレクサンドル様、千亞様もよろしくお願いしますね!頑張りましょう!


    (イチカ様の発言を受けて報告書を読み直し)
    精霊にこれだけの痛手ということは神人の皆様だともっとひどいことになるのでは……
    ……秀様にもしもの事があった場合一発くらい殴っても許されますよね(ぼそっ)

  • [2]天原 秋乃

    2015/04/23-12:54 

    イチカ:

    やあやあ、イチカ・ククルだよ。秋乃が捕まっちゃってるから僕から挨拶させてもらうね。
    イグニス君は引き続きよろしくー。他のみんなはアドだと久しぶりだね。
    ミモザの拷問結構痛いし(思い出し遠い目になりつつ)…早く神人のみんなを助けてあげたいね。

  • [1]明智珠樹

    2015/04/23-12:47 


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