T.F.C(あご マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「TFCってなんですか?」

 A.R.O.A.の受付嬢に聞かれ、俺は言葉を濁した。
若い女性に聞かせるには、何とも忍びない話だ。

「ファッションショーのようなものです。
ほら、女性には人気あるでしょう、T(タブロス)G(ガールズ)C(コレクション)。
あれの男性版と思っていただければ」

 はあ、とわかったようなわからないような、曖昧な返事を返しながら
受付嬢は俺の手から詳細チラシを受け取った。
そこには、ショーの開催場所、日時と
プロデューサーである俺の師の名前が載っている。

「とにかく、これを貼っておけばいいんですね、わかりました」

 そう言って、受付嬢は画鋲を取り出すと
そのチラシを待合室の掲示板へと貼りに行った。


受付嬢に礼を述べ、俺はA.R.O.A.を後にした。
これから事務所に戻って、備品の発注や会場の手配をしなければならない。

なぜこんなことになってしまったのか。
俺の記憶は、つい数日前に遡った。




「TFCをやろうと思うんじゃ」

「は?」

 突然、師から放たれた言葉に、俺は驚きを隠せなかった。
まず、TFCとはなんなのか。言葉の意味が既に分からない。
今は、春に開催する新しいファッションイベントの打ち合わせをしているのではなかったか。

「春の陽気、暖かな春風。
爽やかな新緑と、色とりどりの花々。
そして、新しい出会いと芽生える愛!
これを表現するには、もはや小細工は不要じゃ。
TFCこそ、春にもっとも相応しいと思わんかね」

「待ってください、TFCってなんですか」

 俺の疑問は意に介さず、師はどんどん話を進めていく。
この人、これでこの世界では
名の知れたイベントプロデューサーなのだからタチが悪い。

「モデルも、いつもの気取ったファッションモデルは使わんぞ!
もっと素朴で、親しみやすく、なおかつ愛に溢れたモデルを使うのだ!
たしか、ウィンクルム、とかいう、世界平和を信条とする団体があったのう?」

「ウィンクルムは対オーガ集団です師匠。」

「何でも構わん!その愛で世界を救うのじゃろ?
A.R.O.A.の受付でTFCのモデルの公募をしよう。
そして、晴れの舞台でその愛を体現してもらうのじゃ!
よし、君、早速TFCの会場を抑えてくれたまえ。
タブロス市内で一番大きな会場で頼むぞ!」

「待ってください師匠、TFCっていったいなんなんですか?」


 俺の言葉に、師匠がにやりと笑った。



「タブロス・ふんどし・コレクションじゃ」

解説

春のふんどし祭りです。
要するにふんどしファッションショーです。
櫻舞うステージの上で、思う存分ふんどし(春の新作)を自慢してください

●プラン
必須:ふんどしのデザイン
必須:ファッションショーに出る人(=ふんどしを身に着ける人。お一方のみもお二方もOK)
あとは、ふんどし姿を観衆に晒すにあたっての思い
ふんどし姿を晒している相棒への思いなんぞを書いていただければと思います。

ちなみに、材料費の寄付として500Jrいただきます。

ゲームマスターより

もう言葉はいらないですね。
お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)

  出る人:フィンと二人で

デザイン:越中ふんどし
黒。左下に桜
紫の紐

テーマ:スタイリッシュに颯爽と

ふんどしなんて普段の俺なら絶対に参加しないけど…
今回だけは違う

フィンは身体の傷を人に晒すのを極端に嫌がってる
俺も、同居してるのにその傷を見せて貰うのには時間が掛かった
『気持ちの良いものじゃないだろ?』
胸が傷んだ

そうは思わないと言っても、フィンには届かない

だから、TFCへ連れ出した
俺が率先して行けば、フィンは断れない
そういうとこ、変に俺に甘くて優しいから

フィンは嫌なのかもしれないけど、傷も含めて、フィンなんだ
自分を誇って欲しい

ほら、笑顔笑顔
普段ステージで歌ってる、魅せ方は得意だ
ターン決め観客席へウインク


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  (褌のファッションショーか。
何はともあれ、自分達の姿を観て、
お客さん達が幻滅しないか心配だ)

出来れば濃紺と白のフードパーカーを羽織って出場したい。
予めそれが出来るか係員に聞く。禁止されるなら脱ぐが。

褌は藍染を穿く、アイヌの紋様が白い大柄で入っている。
先端の長さは膝下7cmくらい。
「い、意気込み?」
お客さん達に見つめられつつ、深呼吸した後、淡々と答える。
「自分、肉体美も筋肉もありませんが……
観て楽しんで下さったら幸いです」

(このTFCのお客さん、年齢層どれくらいになるんだ?)
そう思いつつも、試しに片手を腰に当てたり、
片目をウィンクしながら、
お客さんの気を惹くようにポーズをとった。
(恥ずかしいな)


柳 大樹(クラウディオ)
  身に着けない

クロちゃん黒いから、白も良いかなって思ったけど。
白は透けるらしいから却下。
観客の人らはそんなのは求めてない、と思いたい。

髪色が明るいから、ちょっと褌が目立たないかもだけど。
(上から下までざっと確認
まあ、悪くはないかな。

おっと、クロちゃん。褌一枚だから。
それ外しな。(口布指差し

褌姿でもイケメンとか、精霊ってなんだろうね。

本当に羨ましい筋肉だよなあ。
無駄なくついてるって感じだし、脂肪何処だよって感じ。
傷も男の勲章って事で問題無いよね。

やらせといてなんだけど。
恥ずかしくはないのかねえ。(クラウで遊んでる自覚あり
普段のピタッとした服とどっちがマシなんだろ。

見えないお洒落ってやつじゃないの。


明智珠樹(千亞)
  ★褌着用

誰が呼んだか褌大使!明智珠樹、推参…!!(キリッ)
なんという素敵な催し…!
トキメキと興奮が止まりません、モデルに選ばれ光栄です、ふふ…!!

●動
春物ロングコートを身に纏い、華麗な身のこなし。
妖艶な笑み&モデル気分でウォーキング。

そしてバサッとコートを開く不審者スタイル。
誇らしげなド変態。

●デザイン
すみません、一つに選べませんでした…!

煌びやかな金ラメふんどし!
天使のような透け感ある白レースふんどし!
私のオススメは、肌色モザイク柄ふんどしです!

なんでも喜んで着用します、プリ尻披露します、ふふ!

●他
クラウさんや海十さん参加者様の褌美に惚れ惚れ。
念願の千亞褌に鼻血。
「生きてて…よかった…!」



「いやあ、よく来てくださった!」

 T.F.Cの張り紙を見て応募してきたウィンクルムは四組。
八人のウィンクルムと順繰りに握手していく師の傍らに控え、俺は彼らを観察した。
みな、思い思いの表情だ。
初めて訪れるデザイナーの仕事場に興味津々といった表情の者、
にこやかに師と握手を交わす者、不審そうな表情でパートナーを見ている者……
本当に、このイベントがふんどしファッションショーだと理解しているのだろうか。
ぱっと見、見目は良く、普段オーガとの戦闘も経験しているためか、
程よく筋肉もついていて、ふんどし映えはしそうだ。
だが、好き好んでふんどし姿を大衆の前に晒したい者がこんなにいるなんて、
俺にはどうにも理解しがたかった。
正直、こんなに参加者が集まるとも思っていなかったのだ。
だが、仕事だ。
丁度師の長い話が終わったのを見計らって、俺はウィンクルムたちを作業場へと案内する。

「では早速、こちらでデザインを考えましょう。
素材等必要なものは事務所の方で用意させていただきますので、
ウィンクルム様方はどうぞ自由にデザインされてください」

 それだけ伝えると、俺は茶を淹れるために給湯室へ向かった。



 フィン・ブラーシュはと机を挟んで向かい側の
蒼崎 海十がスケッチブックにデザインを考えているのを眺めていた。
海十に、ショーに出よう、と誘われて来てみれば、
まさかのふんどしファッションショーに、フィンは困惑していた。
「春のファッションショーなんだし、春らしさは外せないだろうな。
あとは、スタイリッシュに颯爽としたイメージで……」
 海十がさらさらとペンを走らせていくのを、フィンは半ば上の空で眺めていた。
できた、と声を上げ、海十の手が止まる。
「フィン、これ、どう思う」
 スケッチブックには、前垂れの左下に桜があしらわれた黒の越中ふんどしが描かれていた。
「ああ、うん、いいんじゃないか……随分やる気だね、海十」
 普段の海十であれば、恐らく参加するかどうかという選択肢にすら入らない催しだ。
しかし、今の海十はふんどしファッションショーにとても積極的に見えるのが
フィンはどうしても不思議でならなかった。
「ああ、まあな。ちょっと、やりたいことがあったんだ。
さ、次はフィンのふんどしのデザインだな」
 スケッチブックのページを繰って、海十はペンを握るとフィンをじっと見た。
参ったな、とフィンは思った。
フィンの体には、昔オーガと戦った際の古傷があちこちに残っている。
それをたくさんの人の前に晒しては、
せっかくの楽しいファッションショーに水を差すのではないかと思ったのだ。 
「ねえ、海十」
「なんだよ」
真剣な表情でスケッチブックとにらめっこしながら、顔も上げずに海十が返事をする。
「このショー、海十だけで参加してくれば……」
いいんじゃないか、と言おうとしたフィンの目の前で、海十の表情がみるみる曇っていく。
海十にそんな顔をされてしまったら、フィンは断れなくなってしまう。
俺が耐えればいいか、と諦め、いや、なんでもないよ、と言ったフィンに、
海十はちょっと微笑んでスケッチブックに視線を落とし、
フィンのふんどしの前垂れの右下に青い鳥を描き入れた。


……ふんどしのファッションショーか。
瑪瑙 瑠璃はスケッチブックを抱えて考える。
心配なのは、ふんどしのデザインや自分の気持ちではなく、
自分たちの姿を見て観客が幻滅しないか、ただそれだけだった。
他のファッションショーへの参加者たちと比べて
瑠璃はあまり筋肉がある方ではなかった。
「パーカーを着て出場してもいいのか?」
 茶を持ってきた男に聞けば、事務的な口調が、
下がふんどしであれば上は何を着用されても構いませんよ、と教えてくれた。
わかった、と返答すれば、男は一礼して部屋を出て行く。
とりあえず、パーカーを着て出ることは決定だ。
後はふんどしのデザインだが……
考え始めた瑠璃の目の前に、瑪瑙 珊瑚のスケッチブックが差し出された。
「瑠璃!わんぬふんどし、ちゃーやが?」
 尋ねられてスケッチブックに描かれたデザインを見れば、
色の塗りは多少荒いものの、紺に染められたふんどしに、
まるで水が流れるような、ちょっと不可思議な紋様が白で描かれている。
どこかで見たような気がして、瑠璃が考えていると
珊瑚が嬉しそうに教えてくれる。
「くれー、わんぬくにぬいーやんばーよ!」
 その珊瑚の得意げな笑顔に、なるほどと感心し、瑠璃もスケッチブックにペンを走らせる。
藍染のふんどしに白の大柄で、
故郷に古くから伝わる曲線を組み合わせたような力強い紋様を描いた瑠璃は
スケッチブックをそっと珊瑚に見せた。
「似てっべさ」
「んちゃ!たーちゅーやっさー」
 スケッチブックを見た珊瑚は、驚いたように声を上げ、嬉しそうに笑った。


柳 大樹は目の前にクラウを立たせて楽しげにスケッチブックに向かっていた。
「今回ばっかりは、色も塗らないと伝わらないよね」
 普段から絵を描くことが好きな大樹だが、色まで塗ることは稀だ。
しかし、今回は色を指定しなければデザインにはならない。
手元の色鉛筆を一本一本、立ったままのクラウに翳して似合う色を探していた。
「うーん、クロちゃん黒いから、白もいいかなって思ったけど。
 やっぱり、白は透けるらしいから却下」
 大樹はスケッチブックの端に白、NGと書き足した。
「観客の人らはたぶんそんなの求めてないでしょ」
だよね、とクラウに話を振れば、クラウはただ静かに頷いた。
 普通に考えれば、色黒なクラウには淡い色がいいと思うのだが、
以前聞いた淡い色のふんどしの心配事のことが気になった。
 結局、濃い色のふんどしを使うことに決め、鼻歌交じりにさらさらと色を塗っていく。
鉄紺色、白、薄い桃色。
クラウのストイックなイメージを壊さないようにしつつ、その肌に映える色を、と。
時々顔を上げ、クラウの姿をちょっと観察してから、
大樹はまたスケッチブックに視線を落とす。
それを何度か繰り返してから、大樹はできた!と声を上げる。
出来上がったスケッチブックをくるりと返してクラウの方に向け、見せる。
「どう?夜空をイメージしてみたんだよ。
 髪色が明るいから、ちょっとふんどしが目立たないかもだけど、
まあ、こんなものかな……ん、どうしたのクロちゃん」
何度かスケッチブックとクラウを見比べ、満足げに頷く。
何か言いたげなクラウの様子に大樹が気づき問いかけると、
クラウはゆっくりと口を開いた。
「大樹は、出ないのか」
「出ないよ」
「そうか……」
 じゃ、これ渡してくるね、と楽しげに部屋を出ていく大樹の背をクラウは黙って見送った。
……目立つことは好ましくないが、これもウィンクルムとしての務めだろうか。と
小さく胸の内で呟きながら。


「これは無理です!選べません!」
 ばん、と音を立てて明智珠樹は三種類のふんどしデザインが描かれたスケッチブックを
テーブルに叩きつけた。
側に居た千亞が、冷ややかな視線を珠樹に送る。
「なんだよ珠樹、うるさいよ」
「ああ千亞さん、その視線!ご褒美です!ついでにちょっと踏ん」
「うるさいから黙って」
 千亞は不機嫌だった。昨日から珠樹がふんどしがどうこうと煩かったのだ。
ろくすっぽ聞いていなかったが、クリスマスの件も踏まえ、
事前にふんどしのプレゼントはもう間に合ってるからなと断っておけば、違うと言う。
 ついて来ればパフェを奢ると巧みな口車に乗せられて来てみれば、
ふんどしファッションショーなるものへの参加登録をすでに済ませていた珠樹に
千亞は、よかったな珠樹、とドン引くことしかできなかった。
そこから逃げる間もなく話が進み、気づけばふんどしのデザインを考えるようにと
スケッチブックを手渡されていた。
 冗談じゃない、と千亞は胸の中で毒づく。
なんで僕が珠樹のふんどしのデザインを考えなきゃならないんだ、と
考えるふりをしてスケッチブックにパフェの絵を描いていると
部屋のドアがノックされ、男が入ってきた。手には白い紙を一枚携えている。
 こちらが、出演順リストになります、と、
事務的な口調で告げた男は、千亞に紙を手渡すと一礼して去って行った。
特に興味もなかったが、珠樹の出番くらい確認しておくかと、
ざっとリストに目を通した千亞は、信じられないものを見た。出演者の欄に、自分の名前があったのだ。
「……なんで」
千亞の声に、珠樹が顔を上げる。
「何で僕も出演側にいるんだ?」
「見たかったからです」
きっぱりと答えた珠樹を、千亞は初めて見る虫でもいるかのような目で見た。
「それで、勝手に応募したのかこのド変態!僕は出ないぞっ!」
 テーブルの下で、千亞は珠樹の脛を思い切り蹴り飛ばした。
「そんな!もう千亞さんのふんどしの準備もできてるんです!
皆ふんどしだから恥ずかしくありませんよ!」
「いやだ!」
 ぷい、と顔を背けた千亞に、珠樹は最終手段を使うことにした。
「……巨大パフェ」
 ぽつりと呟かれた言葉に、千亞の耳がピクリと反応したのを
珠樹は見逃さなかった。すかさず追撃する。
「巨大パフェを奢りますから!どうか!後生です!」
「し、しかたないな、そこまで言うなら出てやってもいい
今回だけだからな」
巨大パフェの前に、千亞はあっさりと陥落した。



各々のふんどしのデザインも決まり、
タブロスでも指折りのデザイナーの力を結集したT.F.Cがついに幕を開けた。
有名デザイナーの新たな挑戦ということで会場は満員となり
観客はファッションショーの始まりを、今か今かと待っている。
チケットは即日完売。
チケットを買えなかった人々は、早くも第二回目の開催を求めているらしい。
入り口前のタブロスふんどしコレクションオリジナルグッズを売るテントでは
帰りの時間帯に、ウィンクルムたちがそれぞれデザインした
オリジナルふんどしを販売する予定だということだ。

司会者の言葉とともに、デザイナーの挨拶を終え
いよいよ一同のふんどしのお披露目タイムが始まった。


海十は自分でデザインした黒い越中ふんどしを、再度確認する。
大丈夫、おかしいところだらけだが、おかしいところはない。
紫色の紐がアクセントになって、ふんどしの黒をより際立たせている。
ちらり、とフィンの方を見れば、
フィンは複雑な表情でふんどし姿になった自分を見下ろしていた。
ネイビーのふんどしの右下には青い鳥の刺繍。青い紐が、爽やかさを演出する。
その体に走る背中の大きな傷を始めとする、無数の傷。
その表情は、故郷を、兄を守れなかった無力さと
傷に視線が向けられるたびに感じる惨めさに苛まれていると雄弁に語っていた。
フィンは、その傷を人前に晒すのを極端に嫌がっている。
一緒に暮らしている海十すら、その傷を見せてもらうまでには随分な時間がかかった。
初めてその傷を見た時の、『気持ちの良いものじゃないだろ?』という言葉を思い出すたびに、
海十の胸は強く痛んだ。
そうは思わない、と伝えても、フィンは笑って首を振るばかりで
海十の気持ちはうまく伝わらない。
フィンは嫌なのかもしれないけど、傷も含めて全部が彼なんだと、
もっと自分を誇ってほしいと、うまく伝わらなくてずっと歯がゆい思いをしてきた海十は
T.F.Cの広告を見て、フィンの気持ちを変えるにはこれしかないと確信した。
傷を見せたくないフィンには、かなりの荒療治ではある。
結果によってはもしかしたら、より一層、心を閉ざしてしまうかもしれない。
それでも、海十はフィンの気持ちが前に向く方に賭けたかった。
自分が率先して参加すれば、変に自分に甘いフィンは断れないというのもわかっていた。
一つ深呼吸して、そっとフィンに歩み寄り、声をかけた。
「フィン、いくぞ」
 海十の言葉に、フィンが身を固くする。……抵抗があるのだろう。
「大丈夫だ、何かあっても、俺がサポートする」
 目を見て約束しそっと背中を押せば、フィンは漸くおそるおそる小さく一歩踏み出す。
その一歩は、小さくとも大きな一歩だ、と海十は思った。

ステージに上がると二人の目の前がぱっと開けた。
見渡す限りの客席を、老若男女様々な人が埋めており、
皆期待に満ちた目で、海十とフィンを見つめていた。

海十がランウェイを歩き出す。
さすがに、普段から舞台に上がることに慣れている彼は笑顔も、歩き方も、
手の動き一つ一つさえその風格を漂わせていた。
ランウェイの先まで歩き、華麗にターンを決めウインクをして端に寄った。
会場のあちこちから黄色い悲鳴があがった。
続いてフィンがランウェイを歩きだす。
道の先で、海十がフィンを待っていた。
今まで、この傷に向けられるのは憐みの視線ばかりだった。
だが、今日は違う。
憐れむ視線は無く、代わりに向けられるのは羨望と憧憬を含んだ狂喜の視線だった。
ランウェイの先、ターンをする前に一瞬躊躇し、フィンは足を止めた。
背には、一番大きな傷がある。
だが、海十が立ち止まる彼の背を押した。
フィンは、海十がこのショーにフィンを出した意図を唐突に理解した。
ああ、なんてことをするんだろう、と。
ふっと笑うと、フィンはくるりとターンする。
会場の観客はその凄味のある背中を見、どよめいた。
が、このショーはウィンクルムが登場するショーであることはわかっていた観客は、
すぐに盛り上がりを取り戻して、歩き去るフィンの背を大はしゃぎで見送った。
海十に手を引かれたフィンが、人当たりの良い笑顔で手を振ると、
会場のあちこちから、海十のウィンクに負けないくらいの黄色い悲鳴が上がった。
嫌な顔をしているものはいない、皆の笑顔が見えて、楽しい、とフィンは笑った。

ステージを下り、穏やかな笑顔で、ありがとう、と言うフィンに
海十はもう一度、背中をポンと叩いてやった。


「瑠璃、んじ!
くぬふんどしさ、尻がスース―すっぞ?でーじ気持ちいやさ!」
 珊瑚はさっさとふんどしを締め、
その上に薄い黄色のバスローブを羽織って鏡の前でくるくる回ったりして
その履き心地を確認している。
一方瑠璃は、股間を布で覆っただけという格好のあまりの心もとなさと恥ずかしさに、
パーカーの裾を引っ張って何とか隠せないかと模索していた。
そんな瑠璃に、珊瑚が笑いかけた。
「恥かさん?なんくるないさ!すぐ終わる終わる!」
そう言って、珊瑚は恥ずかしがる瑠璃を無理やり舞台の上へと連れ出した。

このT.F.Cのお客さん、年齢層どれくらいになるんだ、と
瑠璃は、ランウェイを歩き出す前に観客席を見回した。
見た限りでは、特定の年齢層が多いということはなさそうだ。
立ち止まった瑠璃が緊張していると思ったのか、司会者がマイクを向けて意気込みを尋ねてきた。
「い、意気込み?」
 ただランウェイを歩くだけなのに、意気込みも何も、とは思ったが
観客の期待を込めた視線に負け、どきどきしながら口を開いた。
「自分、肉体美も筋肉もありませんが……
観て楽しんでくださったらさいわ、」
「皆!楽しんでるか!オレも楽しんでるやさ!」
 自信なさそうに話す瑠璃の横から、珊瑚が大きな声でマイクを奪った。
恥ずかしがっていた瑠璃に、助け舟を出してくれたのだろう。
楽しそうな表情で、さらに言葉を続ける。
「見せてやるぜ!オレの肉体美!」
 そう叫び、珊瑚がばさりと薄い黄色のバスローブを脱ぎ捨て、
片手を腰に、片手を頭の後ろに添えたセクシーポーズを観客に披露すると
会場内の観客は一斉に笑いに包まれた。
そのまま、珊瑚は瑠璃とともにランウェイを歩き出した。
持ち前の明るい性格で、楽しげに手を振ったりする珊瑚の真似をして、
瑠璃もポーズを決めたり、ウィンクをしたりして観客にアピールする。
そのたび、観客から黄色い悲鳴が上がるのだが、瑠璃は恥ずかしくてそれどころではない。
なんとか早くランウェイを歩き終えて舞台裏に戻れるように、それだけを考えていた。

舞台裏へと戻って、すぐに瑠璃は服を着ようとロッカーへと向かったが、
一方、珊瑚は未だ楽しげにポーズを取ったりしている。
よっぽど、ふんどし姿が気に入ったようだ。
「でーじ楽しかったあああ……がっ!」
 急に響いた変な声に瑠璃が振り向くと、口が開いたままもがいている珊瑚が目に入った。
顎が外れた、瑠璃、助けて、と必死の視線で訴える珊瑚に、
瑠璃は溜息をついて、医療スタッフを呼んでやる。
スタッフの中に多少の心得があるものがいたようで、珊瑚の顎はすぐに治った。
「に、にふぇーど、瑠璃」
 珊瑚の言葉に、瑠璃はもう一度溜息を吐いた。


 大樹がデザインしたふんどしは、クラウによく似合っていた。
予定していた桜の花の他に桜の花弁も流すように配置したため、
クラウの凛とした雰囲気がより際立ち、
引き締まった筋肉と相まってまるで彫像のような美しさだった。
「まあ、悪くはないかな」
 クラウの姿をざっと確認し、大樹は呟いた。
悪くはないかな、と言いながらも口調は満足げだ。
クラウはデザインの良し悪しはよくわからないが、大樹が良いというのなら
きっと自分に合っているのだろうと思った。
「おっと、クロちゃん。ふんどし一枚だから。それ外しな」
 大樹が思いついたようにクラウの口を覆っている布を指すと、
クラウは特に躊躇する様子もなく、わかった、と従った。
司会者に出番ですよと声をかけられ、
いってくる、とだけ言うとクラウは表情を変えずに歩き出した。

一般市民にこの体を晒すのはどうなのだろうな、とステージを歩きながらクラウは思う。
クラウの体には、過去の任務や訓練で付いた細かな傷が広範囲に刻まれているため、
それを目にした観客の心情を慮ったのだろう。
だが、ステージ上から見る限り気分を害したりしたものはいないようだ。
皆楽しそうな笑顔を浮かべ、クラウに手を振ったり、声を上げたりして応援してくれている。
それに、大樹は止めるどころかどちらかと言えばファッションショーに出るよう促した。
大樹が何も言わぬのなら、問題は無いという事だろうか。
クラウは、考えながら大樹の指示通りランウェイを歩く。
本人としては特に工夫等は無く、ただ指示されたとおりに歩いているだけなのだが、
どうやらそれが堂々としていて物怖じしない、誠実そうな雰囲気を醸し出していたらしく、
会場からはほう……と熱い溜息が漏れた。

ふんどしでもイケメンとか、精霊ってなんだろうね、と
大樹は舞台裏でクラウの姿を見ながら思った。
本当に、羨ましい筋肉だよなあ、無駄なくついてるって感じだし、脂肪何処だよって感じ。
クラウの腕を眺めながら、自分の二の腕をつついた大樹は、はあ、と溜息を吐いた。ぷにっとした。
再度舞台の上のクラウを見れば、眩しいほどの照明に体の傷が浮かび上がる。
だが、それを観客が気にした様子はない。
……傷も男の勲章ってことで、問題ないよね。
大樹は、満足したように笑った。

クラウは指定された場所でくるりと向きを変えると、来た道を戻っていった。
クラウにはファッションショーというものが良くわからなかったし
なにより、ふんどし姿でそれを行うことの意味もわからなかった。
だが、デザインを考える大樹は楽しそうではあったので、それで良しとした。

やらせといてなんだけど、と
こちらに戻ってくるクラウを見ながら、大樹はさらに考える。
恥ずかしくはないのかねぇ。
……完全に、クラウで遊んでいる。その自覚は、大樹本人にもあった。
普段のピタッとした服と、どっちがマシなんだろ。
と考えているうちに、クラウがランウェイを歩き終え、拍手を送られながら舞台から降りてきた。

「クロちゃん、お疲れ様。ふんどし似合ってたよ」
「そうか」
 とりあえず、と大きめのバスタオルを肩からかけてやる。
そんな大樹にクラウは、歩いている最中に思いついたある疑問を口にした。
「ところで、普段見えぬところを飾ってどうするのだ」
「さあね、見えないお洒落、ってやつじゃないの」
 大樹が答えると、クラウは首を傾げた。


「ふ、ふふふ……誰が呼んだかふんどし大使!明智珠樹、推参……!!
なんという素敵な催し!トキメキと興奮と涎が止まりません!
大樹さんのふんどし姿を見られなかったのが悔やまれる……ッ!」
「うん、とりあえず涎は拭いて」
舞台裏で春物のロングコートを羽織り、
各チームのふんどし美を眺めて惚れ惚れしていた珠樹は既に瞳を爛々と輝かせていた。
とめどなく溢れる涎を千亞から受け取ったティッシュで拭きとって、
ふと、千亞の姿を見下ろした。

色白の肌に、はっきりと映える黒のふんどし。
ひらひらと揺れる見えそうで見えない魅惑の前垂れには
夜桜をイメージした桜の花弁が描かれていた。
心もとなげに揺れる白い耳と、伏せられた睫毛。
華奢な上半身を覆う衣類は何もなく、薄い肩が恥ずかしそうに竦められ……

 眼 福 。

この至上の喜びを表すのに、相応しい言葉が見つからない。
言葉を失った珠樹は、その場に平伏すと声を殺して喜びに打ち震えた。
「生きてて……よかった……!
 ああっ、ここからの眺めも美しい!後光が差している……!」
「うわっ、汚っ……血を拭けド変態!
……まあ、褒めてくれるのは嬉しいけど」
 念願の、念願の千亞さんのふんどし姿、と
涙と鼻血を流しながら下から舐めるように見上げてくる珠樹に、
千亞は眉を顰め、ティッシュを箱ごとぶつけた。
その姿を見た司会者が、遠慮がちに、あの、準備はよろしいでしょうか、と声をかける。

「なんでお前はコート着たままなんだよ」
 春物のコートに身を包んだままランウェイの手前に立つ珠樹に
自分だけふんどし姿の千亞は不満げだ。
「ふふ、ご心配なく。このコートは、私のふんどしを輝かせるための
謂わば小道具のようなものです」
「……そう」
 得意げに話す珠樹に、千亞は結局、
珠樹がどんなふんどしを選んだのか知らないことに気が付いた。
スケッチブックには三種類のデザイン画があったはずなのだ。
確か、と千亞は記憶を手繰った。
……確か、趣味の悪い金ピカラメのふんどしと、
公然猥褻で捕まりそうなスケスケ白レースのふんどし、それから……
そこまで考えたところで司会者に名前を呼ばれ、千亞と珠樹はランウェイに上がった。

これは水着、これは水着、と心の中で自分に言い聞かせながら
千亞は顔を真っ赤にしながらも、背筋を伸ばしてランウェイを進む。
ふんどし一枚の恰好は、顔から火が出るほど恥ずかしかったが、
会場のあちこちから聞こえる、かわいいー!と言う言葉は素直に嬉しく
笑顔で手を振って声援に応えた。
ランウェイの先で可愛らしくターンをして端に避ければ、
次は珠樹が観客の声援の中を歩いてきた。相変わらず、コートを羽織っている。
観客にコートを疑問を持ちはしたものの、
黙っていれば見目の良い珠樹に妖艶な笑みを向けられ熱狂的な歓声を上げた。
そう、黙っていれば、だ。
歓声をクールに受け流しランウェイの端まで辿りついた珠樹は
洗練された滑らかな動きで華麗にコートの前をばさりと肌蹴た。

コートの下に現れたのは引き締まった素肌と、
その股間を覆う肌色のモザイク模様のふんどし。
確かに春の装いではある。だが、この時期のその恰好は、完全に春の不審者のそれだ。
千亞は血の気が引くのを感じた。
珠樹が華麗にターンを決めれば、ぷりてぃーなお尻が翻ったコートの裾からチラリと見える。
幸いなことに、観客たちはすぐにふんどしの柄に気が付いてくれ、
中にはその発想力に拍手するものまで現れた。
が、一名、その珠樹のふんどしに怒りを露わにした者がいた。千亞だ。
「この……このド変態!」
千亞はわなわなと拳を震わせると
珠樹のコートの襟首を引っ掴んで引きずるようにランウェイを引き返していった。
これじゃあ、僕の神人がド変態だとタブロス中に言って回ったのと同じだ、と
千亞は絶望の叫びを必死に胸の中に押し込んだ。

そんな中、T.F.Cの観客たちは二人のやり取りすらもショーの一環、
ある種のコントのようなものだと勝手に解釈して、
大爆笑しながらいつまでも鳴り止まない拍手をウィンクルムたちに贈り続けたのだった。





 とんだ思い違いをしていたようだ。
ウィンクルムたちの着替えを運びながら、俺は昨日までの自分を恥じた。
正直な所、いくら我が師のイベントと言えど、ふんどしファッションショーなど
大赤字に違いないと思ったのだ。参加するウィンクルムたちも災難だと。
だが、蓋を開けてみればどうだ。
ウィンクルム一同は実にうまくイベントを盛り上げ、
イベントは開催中だというのに、既に彼らが着用していたふんどしが欲しいと
一般販売予定の問い合わせが殺到しているという。
何より、彼らのふんどしにかける熱い思いに俺はいたく感動した。
あの布一枚が秘めた無限の可能性。師とウィンクルムたちはそれに気が付いていた。
気づけなかった自分は、なんと未熟なのだろう!
ウィンクルムたちの、ふんどしを思う気持ち。
ファッションショーを見に来た観客の、楽しそうな笑顔。
そして、師の誰よりも優れた先見の明。
俺は脱帽した。今の俺では、師には逆立ちしたって敵わないと強く思い知ったのだ。

悔しい、と思った。

誰よりも立派なふんどしデザイナーになろう、
そしていつか自分の手で、今日のような素晴らしいふんどしイベントを開催しようと
俺は固く決意した。



依頼結果:成功
MVP
名前:明智珠樹
呼び名:珠樹、ド変態
  名前:千亞
呼び名:千亞さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あご
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月04日
出発日 04月10日 00:00
予定納品日 04月20日

参加者

会議室

  • [9]蒼崎 海十

    2015/04/09-23:42 

  • [8]蒼崎 海十

    2015/04/09-23:42 

    賑やかになりましたね。
    皆さんのファッション(ふんどしとは言いたくない神人心←)楽しみです…!

    あらためまして、宜しくお願いします!

  • [7]瑪瑙 瑠璃

    2015/04/09-19:36 

    珊瑚:
    海十!大樹!珠樹!
    珊瑚やさ!ゆたしく、な!(※よろしく! )
    褌って、尻がスースーするんだけど、これでいいんだよな?な?

    瑠璃:
    早い話、珊瑚がどうしても付けたかったので参加しました。
    自分も……多分出ます(※言葉を濁すように)

  • [6]瑪瑙 瑠璃

    2015/04/09-19:27 

  • [5]明智珠樹

    2015/04/09-12:09 

  • [4]蒼崎 海十

    2015/04/08-00:32 

  • [3]蒼崎 海十

    2015/04/08-00:32 

    蒼崎海十です。
    今回、ちょっと理由があって参加を決めました。
    …は、恥ずかしくなんかはないです。皆さんもいらっしゃいますしね!(自分に言い聞かせ←

    やるからには真剣です。
    頑張りましょう(拳ぐっ

  • [2]明智珠樹

    2015/04/08-00:10 

    こんばんは、貴方の明智珠樹です。

    ふふふ素敵祭りに乾杯!
    るららーん、たのしみですねーふふーー(歓喜の舞)


    千亞
    「もうやだこんな神人」

  • [1]柳 大樹

    2015/04/07-07:17 

    大樹(以下大)「……」
    クラウディオ(以下ク)「……」
    大「これはね、参加しなきゃ駄目だろって思った」
    ク「……」
    大「クロちゃんが」
    ク「私か」
    大「うん」(きっぱり

    大「ってことで、柳大樹とクラウディオでーす。よろしく」


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