わたしのたからもの。(錘里 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 誰にでも、趣味の一つ二つはあるものである。
 そう、誰にでも。
 例えば、オーガ信仰のちょっぴり過激な面も見せるマントゥール教団の一員にだって。
「うふふっ」
 にこにこと嬉しそうな笑みを称えながら、一人の女がページをめくる。
 見た目的には情報誌的な。
 額面通りの意味で薄い本を。
「はぁ……やっぱり萌える……『とある少女』さんのウィンクルム本、どれもこれも美味しいわぁ……」
 見た目的には(略)が、彼女の傍らには幾つも積まれている。
 表紙の絵柄はまちまち。だけれど印字された著者名的なそれは全部同じ。
 要するに『とある少女』は小説サークルだ。
 弱小俺得グッズから大手小説サークルに大躍進を遂げた事を、知っていたり知らなかったりは今ではどうでもいい話で。
 ともかくこの女教団員。すっかり『とある少女』の虜なのである。
「教団員なのにウィンクルム推しなんて、ばれたらお咎めものかしら……でもいいわよね、二次元萌え。二次元萌え」
 うふふっ、と再び嬉しそうな声をあげて、積み上げている本から一冊、手に取ろうとしたところで。
 窓の外に居たデミ・ゴブリンと目が合った。
 今日は小春日和で暖かいわー。なんて窓を開けっぱなしにしていたのがいけなかった。
 ついでに、邪眼のオーブ的な物を貰ってわいわい喜んでデミさんおいでませーなんてはしゃいでたのもいけなかった。
 悪戯好きのゴブリンが、きぃきぃ声をあげながら部屋へ押し入り、彼女の傍らの本を根こそぎ抱えて逃亡したのだ。
「あっ! ちょ、待ちなさ……だめ、やめて、それは本気でだめええぇ!」
 ばれたらやばい。それ以前に、それは私の宝物。
 オーブを持って行けばいい事も忘れて、女教団員は慌ててデミ・ゴブリンを追いかけるのであった。


「うっ、ううっ、私の、私のたからものを、取り返してくださいぃ……」
 そして何をトチ狂ったか、A.R.O.A.に駆け込んだ。
 自力でどうにもならなかったのと、他の教団員に相談できなかったのとで。
 勿論自分がマントゥール教団の一員であることは伏せたまま。受付の女性は、あまりに悲壮感漂う彼女の様子に同情を浮かべていた。
「落ち着いてください。すぐにウィンクルムを派遣いたしますので、詳しい状況を教えていただけますか?」
「うぅ……あの、私の大切な本が、デミ・ゴブリンに取られてしまったんです……」
「本ですか……傷つきやすい物ですね、慎重に扱ってもらうようお願いしますね」
「是非、ぜひ……!」
「ちなみに、参考までに、どんな本でしょうか」
「えっ、あ、あの……その……見た目で言ったら、じょ、情報誌みたいな感じの……」
 言葉を濁らせた女に、職員はピンと来たようだ。
「薄い本ですか」
「薄い本です」
「サークルは」
「『とある少女』さんです」
「傷一つ付けずに取り戻してみせましょう」
「宜しくお願い致します……!」
 職員と教団員の間で、何かが通じ合った。

解説

目的:デミ・ゴブリンから薄い本を取り戻す事
大成功条件は本が無傷である事です
今の所、強奪してみたはいいものの文字の羅列で早々に飽きて放置したため、本は無事です。
なお、ゴブリンの討伐は成功条件に含まれません。

敵:デミ・ゴブリン×5
全部魔法使いです。杖を装備しているので敵からの物理ダメージは0になります。

場所:戦闘になりそうな場所は森の中の洞窟・および洞窟前
デミ・ゴブリンと薄い本は洞窟内ですが、何らかの手段で誘き寄せる事は難しくないでしょう

NPCに関して:
女教団員さんの素性に関しては触れないであげて下さい
まだ特に何もしてないので、知りようがありません
職員さんがとても協力的なので、任務に際して欲しい物があれば言ってみれば余程のものじゃない限り出してくれると思います
両名ともリザルト登場予定はありません

ゲームマスターより

まさかの教団員さんからの依頼
解説にもありますが乙女心からの依頼ですので触れないであげて下さいね。
触れられてても無かった事になります。

デミ・ゴブリンが魔法使い(意味深)とかそんなことはないよ?

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  食べ物を洞窟正面の少し離れた、すぐに分かる位置に設置
洞窟傍で皆隠れた状態でデコイを使い敵を誘き出す
敵が食べ物・囮に気をとられてる隙に本保護組が洞窟内に

ハイトランスジェミニし
おっさん達敵抑え組は敵が洞窟に戻らないよう
洞窟を背に敵と戦う
倒せれば一番いいが敵が逃げたら追わない
本の無事優先
運び手が足らない場合本を持つ

前衛
攻撃しつつ魔守のオーブで近くの仲間や本を守る


魔法使いの後は妖精ね…ん、おっさん今何か言った?
(不思議な電波受信)

悪戯が過ぎたわね
大事な本、返して貰うわよ!

(本を見て過去エピ39の薄い本を思い出し)まさか、ね

無事に取り戻せてよかった!依頼主も喜んでくれるわね♪
帰りも気をつけていきましょ



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  貴重本…か
何が何でも無傷で取り戻そう

◆大急ぎで準備
職員に被害届時の話を聞き”奪った敵の数”と”抱えて逃げた”をPC情報化
*本の量を推理
*服装から魔術師だと推理出来れば幸い

タオル、和紙、フェルト袋、スーツケース、パンフ用意

◆現場
オーガナノーカで洞窟全容と敵偵察
メモ紙に簡易地図描き

入口で焼肉でも焼いて臭いで誘き出す

敵があらかた出たと判断したら洞窟内へ
*敵が本を持ってたら「その本の回収は任せた」

ケースを抱えてこっそり入り本を回収したい
・電灯ON
・気付かれたら強行突入

◆本
タオルで拭い⇒本の間に挟んだ和紙で湿気取り⇒フェルトで衝撃保護し⇒ケース格納

「読むのは本部で陰干しした後だ」
*読むと真っ白になるがw



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  人間より本の方に興味持つなんて、変わったオーガだな。
余程持ち主が凄く良い物見ているように見えたのか。
持ち主さんが長割れてなくて何よりだけど!
オレ達はその大事な本を最優先で確保、を担当する。

オーガ・ナノーカで洞窟の中を偵察し情報は皆で共有。オーガ担当組が敵を引きつけている間に隙を見てオレ達は洞窟の中に行く。
ライトで照らし視界を確保。
本の傍に残っている敵がいた場合はビーフジャーキーを掲げて見せる。
食べ物で釣り本から敵を離すぜ。
ラキアのチャーチで安全確保出来たら本を丈夫なカバンに詰めよう。盗られた本を全部詰めたら、速やかに撤退だ。
・・ラキア、何か頬が赤いぞ?どうかした?
え、何でもない?ならいいけど?



アイオライト・セプテンバー(白露)
  道具:お弁当、キャリーカート、シーツ
「パパ、お弁当にたこさんウィンナ入れて♪」
「アイ、これは私たちのお昼じゃないんですが…」

デミ・ゴブリンが魔法使いみたいだし、あたしも星の杖持ってきたの
魔法少女っぽいでしょ。で、マスコットはナノーカ
絶対デミよりあたしのがかわいいもんっ←わかってない

洞窟の近くで、お弁当食べたり(白露「実際に食べなくても…」アイ「リアリティのためだもんmgmg」)歌ったり踊ったりしたら、デミが出てきてくれないかなあ
デミが出てきたら、トランス
デミは他の人に任せて、パパと一緒に洞窟へこっそり
別れ道は、シーツをちょっと破って目印にする
魔法少女の御本はどこかなあ?←やっぱりわかってない


天原 秋乃(イチカ・ククル)
  まず、洞窟の内部を「オーガ・ナノーカ」で偵察
洞窟内部にいるゴブリンの数を把握して、その後でゴブリンを洞窟外に誘き寄せる
食べ物の匂いとか、鳴りものの類で誘き寄せられるといいんだが…

ゴブリンの誘き寄せに成功したら、本の保護は他の皆に任せて洞窟入り口前でゴブリン退治
洞窟を背に立って、ゴブリン達が再度洞窟に侵入しないようにする
戦闘時は中~遠距離を保って、目くらましを狙いつつ弓で牽制攻撃

もし、本保護組が戻ってくる前にゴブリンを退治できたら俺達も保護組を追って洞窟内部へ
本の運び出しを手伝う

…それにしても、依頼人の本ってどういう類のものなんだ?
職員の人情報誌がどうとか言ってたっけ…情報誌…?


●準備の程は如何でしょう
 装備よーし。
 運搬道具よーし。
 お弁当よーし。
「パパ、お弁当にたこさんウィンナ入ってる?」
「アイ、これは私たちのお昼じゃないんですが……」
 パパこと白露お手製のお弁当を上機嫌にぶらぶらさせながら、アイオライト・セプテンバーは洞窟までの道を行く。
 敵は魔法使いのゴブリンだと言う事で、アイオライトもまた、魔法少女的な星の可愛い杖を持ち、アヒル特務隊オーガ・ナノーカをマスコットキャラとして連れている。
 だがこの星の力が宿りし杖、魔法(物理)用であることを明言しておこう。しかもなかなか攻撃力が高い事を。
 意気揚々と進むアイオライトを微笑ましく見守りながら、セイリュー・グラシアは持ってきたビーフジャーキーをちらりと覗き見る。
「……つまみ食いしちゃだめだよ?」
「分かってるって!」
 いざという時用なんだからね、と言いたげなラキア・ジェイドバインの小さな一言に、ぱっ、と食材をしまい込んだセイリュー。
 と、そんな彼の鼻腔を擽るいい香りが。
「焼肉……」
 じゅるり。思わず涎も垂れそうなヴェルトール・ランスにつまみ食い禁止の視線を送りながら、アキ・セイジは重々と焼き肉を焼き始めていた。
「職員さんも太っ腹ねぇ」
「是が非でも取り戻して来いって感じだったしな……」
 魔法使いのデミ・ゴブリンが居ると言う洞窟を見つつ、スウィンとイルドはあれもこれもと何でもかんでも取り揃えてくれた職員を思い起こす。
 多分あれ、経費じゃない。ポケットマネー。
 送り出す笑顔がどこか鬼気迫っていた気もする……なんてぼんやり考えながら、天原 秋乃は洞窟内へとアヒル特務隊偵察要員、オーガ・ナノーカを放った。
「食べ物の匂いで上手く誘き寄せられたらいいんだけどなー」
「鳴り物も用意してくれてるし、大丈夫だと思うけどね……」
 アヒル特務隊陽動要員、オ・トーリ・デコイのぜんまいをきりきりと巻いているスウィンをちらと見やったイチカ・ククルの期待に応えようとしてか、放たれたアヒルはがぁがぁと喧しく鳴き始めた。
「よーし、あたしも!」
 気合を入れたアイオライトは、良い匂いのお弁当をもぐもぐ。
「……アイ? 実際に食べなくても……」
「リアリティのためだもん!」
「食べながら喋っちゃいけません」
 良く判らない理屈にはアイオライトなりの拘りがあるのだろうとさておいて、お行儀悪いとだけ窘める白露。
 素直に頷き、もぐもぐごくん。小腹が満たされたところで、すっくと立ち上がったアイオライトはがぁがぁ&じゅうじゅうという効果音をBGM代わりに歌いだす。
 ホワイトラヴァーズフルセットのふりふり衣装にうさ耳代わりのクロスがしゃらり。
 星の杖が何だか煌めいて見える……と、白露はある種の悟りに至った心地でアイオライトを見つめていた。
 パパ、あたし可愛い?
 うんうん、可愛いですよ。
 しゃらっと振り返ったアイオライトと白露の間で、そんな視線のやり取りが交わされたような気がする。
 微笑ましさ漂う光景を物陰から見守っていた秋乃が、不意に声を上げた。
「ゴブリンが向って来てるぞ」
 アヒルから送られてくる映像には、暗いけど確かに幾つかの影が映っていた。きぃきぃ鳴いている声は、ゴブリンのものだ。
 それからさほどの間を置かず、洞窟からゴブリンが飛び出してくるのを見つけ、アイオライトはそそくさと後退し、白露の庇護下に戻る。
「ニク……!」
 欲求に忠実なゴブリンたちが、我先にと囮の餌に飛びつく。
 その後ろをがぁがぁとアヒルが鳴いてうろついているが、気にされていない。一緒に並べると、そちらの効果はちょっと薄くなってしまったようだ。
 ともあれ上手く釣り出しに成功した。ひ、ふ、み、とゴブリンの数を数えて、スウィンは武器を構えてイルドを見る。
「よし、五体いるわね、イルド、行くわよ!」
 ――燃え上がれ炎。
 爆ぜるような赤い炎は、頬から手の甲へ、返される口付けで、イルドとスウィンに等しく力を与える。
「良し、俺達も。――力よ集え」
「本の保護は、お任せするね」
 纏う色は、燃えるような、それでいながら暖かさを残した橙。
 確かめるように握った武器を一振りして後駆け出すイチカを視線で追いつつ、秋乃はクリアレインを構えた。
 弧を描く煌めきを見上げ、眩さに目のくらんだゴブリン目掛け、本来の輝きを取り戻した黒き月を振るうスウィン。
「悪戯が過ぎたわね。大事な本、返して貰うわよ!」
「こいつらを倒す依頼じゃねーが『デミ』ゴブリンだしな」
 相手がオーガにまつわる存在であるとなれば、容赦をする理由は、イルドにはない。
「倒せるもんは倒す!」
「こっちの戦闘に巻き込まれて本がズタボロ……なんてことになるかもだしね」
 目的の為には、容赦は不要。判断したイチカの双剣は、迷いなく踊る。
「皆が戻ってくる前に倒しちゃわないと、だね」
 ちらと見やれば、洞窟内に移動する仲間たちの姿が見える。
 万が一があってはいけない。足を止め、あわよくば倒すため、四人は洞窟を背にする位置取りに心がけながら、ゴブリンと対峙した。

●(意味深)
 洞窟内を、セイジとセイリューの放つ第二第三のアヒルが先行する。
 相変わらず暗くて画像は正確ではないが、照らされているライトの灯りが時折過って見える。
 カメラの向きに合わせて照らしてみれば、狭い道が続くようだが、どうやら一本道の造りらしいことが見て取れた。
「複雑怪奇な造りでは無いようで、一安心だな」
「じゃあ、シーツ千切って歩かなくても大丈夫そう?」
 分かれ道でもあれば、目印にシーツの端を千切って歩くつもりだったアイオライトだが、その必要はなさそうである。
 とはいえ、万が一敵が残っていては大事だと、慎重に進んで行った一行のライトが、やがて洞窟の突当りを照らし出す。
「行き止まりって事は……」
 セイリューが壁から床へとライトをずらせば、辺りに散らばった本が照らされる。
 そこは、少し広くなった空間。洞窟はゴブリンたちの棲家かと思っていたランスだが、生活感が滲んでいるわけでもなく……どちらかと言えば、遊び場の装い。人の子供が作る秘密基地のようだと、感じた。
 敵も居ないようだが、抑え組から逃げ出して戻ってくる可能性もゼロではない。後ろを警戒している白露から大丈夫という報告を受けつつ、ラキアは散らばった本を踏まないように注意しながらもなるべく中心に歩み出ると、チャーチを展開した。
 安全を確保して、早速本の回収を始める一行。
「人間より本の方狙うなんて、変わってるよな」
 余程、持ち主が凄く良い物見ているように見えたのだろうか。思いつつも、ぱっと見た感じでは職員に言われたとおり、情報誌のようにしか見えなくて、ついつい首を傾げる。
 『とある少女』の既刊が概ね簡素な表紙である事は、ある意味では不幸中の幸いだった。人に頼んでも気取られない!
 軽く埃を払っては、広げた鞄に手際よく本を詰め込んでいくセイリューの傍らでは、セイジが手に取った本の汚れを拭っている。
 濡れたり汚れたりでべたべたになってしまったような物はないが、出来れば無傷で、と言われているのだ。念には念を、である。
「貴重な本のようだからな、大切に扱わないと……」
 文庫本のようなサイズもあって、中身も文章のようだが、やたら薄いのは何故だろう。
 この薄さの中にどれほど重要な情報が詰まっているのか。興味は尽きない。
 思いつつも、ページの間に和紙を挟んで湿気取り。
「手際いいなー。ところで、どんな本なんだ?」
 セイジが和紙を挟んだ物を順にフェルトで包んではケースに詰めていくランスの素朴な疑問。
 気になるのはもっともだが、一先ずは保護が優先である。
「読むのは本部に帰って陰干ししてからだ!」
「えっ」
「え?」
 読みたい欲求を振り払うようなセイジの返答に、驚いたような声が聞こえた気がしたが、振り返っても誰と目が合う事も無かった。
 と、言うのも、赤くなった頬をぺちぺちしながら咄嗟に視線を逸らしたラキアが、その声の主だったために。
「ラキア? どうしたんだ。なんか、顔赤いみたいだけど?」
「え、何でもないよ?」
「何でもない? ならいいけど……」
 パートナーを慮りつつも、返された否定に素直に作業に戻ったセイリュー。
 そんな彼からも、やっぱり視線を逸らしつつ、ラキアは手元の本をまじまじと見た。
(魔法使いのゴブリンが興味を示すんだから、魔道書みたいなものかと思ったのに……)
 思わずちらっと覗き見しちゃった内容は、思ってた物とは違っていた。
 何がどうとは言わないが、思っていた物とは全然違っていた!
 見ない方がいいものだ。うんうんと頷いて、ラキアは作業に勤しんだ。
 そんな彼を、横目に見つつ。手元の本を、ちらりと見つつ。
(……禍々しいオーラを発しているような気がするのは、気のせいですよね、気のせい)
 自らに言い聞かせ、白露は千切る必要のなかったシーツで本を幾つか纏めてくるみ、キャリーケースに仕舞っていく。
 その後ろで、アイオライトがぴょんぴょこしながら白露の作業を見守っている。
「魔法少女の脚本どこかなー。綺麗なご本、あたしも読みたいなー」
「他人様の本を勝手に漁っちゃ駄目ですよ」
 建前である。
 とてもいいことを言いながらも、アイオライトには見せてはいけないものだと言う本能的な確信が白露には有った。
「多分これ、魔法少女と関係ありませんから」
「えー、そうなの?」
 なぁんだ、と肩を落としながら、本を白露に手渡す作業を手伝い始めたアイオライトに、ほっと息を吐いて。
 黙々と作業を終え、改めて荷物の量を確認してみたら、結構大量だった。
「後はこれを本部に持って帰るだけだな。無事に帰ったら、焼肉食べに行こうぜ」
 もしも本を抱えた敵が居たら交換用に、と思っていたパンフレットをぱらりと広げ、タブロス市内のランチのお店、なんて情報を横目に見つつ、ランスがスーツケースをころりと押す。
 不要っぽいジャーキーをもぐもぐしつつ、セイリューもラキアと手分けして鞄を抱えた。
「外の方は無事に終わったかな?」
「本が巻き込まれないように、気を付けて戻りましょうね」
 無論、そんな心配には及ばないだろうとは、思っていたけれど。
 それよりも、ずっしりとしたキャリーケースは、俗に言う幸せの重みという奴なのだろうが、白露にとっては色んな意味で重たい荷物に感じる事の方が重大であった

 保護班が洞窟の外へと向かいだした頃。
 きぃきぃと鳴きながら――あるいは泣きながら――群れているゴブリンに、イルドは全身を使った横薙ぎを叩き込み、両断する。
 ゴブリンも果敢に魔法を唱え対抗してくるが、石の雨を降らす術も、行動阻害程度で特に大きなダメージにはなっていない。
 勿論、当たればそれなりに痛いけど。
「わ、大丈夫秋乃?」
 自身の背後でばらばらと石の降る音と小さな声とを聞き留めたイチカが振り返れば、頭をさする秋乃の姿。
「いてて……イチカ、逃げる気ないっぽいし、早く終わらせよう」
「そうだね」
 目晦ましは、もはや不要か。魔法の詠唱をし始めた敵を狙い、素早く振りぬいた双剣で切り伏せるイチカ。
 最後の一体になった所でようやく慌てたゴブリンだが、もう、遅かった。
「悪く思わないで頂戴ね」
 逃げる敵がいれば深追いはしないつもりだった。けれど、力の差を目の当たりにしてなお向かってくるなら、ここで倒してしまうのが理想。
 イルドと分け合った力で以て、デミ・ゴブリンの群れに止めを刺したスウィンは、よし、と小さく息を吐いてから、倒したゴブリンの数を確かめる。
「魔法使いの後は妖精ね……」
「何言ってんだおっさん?」
「ん、おっさん今何か言った?」
 謎の呟きはどこからか来た不思議な電波の模様。
 魔法使い(意味深)だったかもしれないゴブリンさん達は、妖精になる前に召されましたが。
 ともかく五体とも此方できちんと倒せた。保護班の方に敵が残っていないかが気がかりではあったが、戦闘をしている様子はないようだ。
「本の量が多いのかな。俺達も手伝いに行こうか」
「そう……あ、その必要はなさそうだよ?」
 秋乃の提案に同意を返しかけたイチカが、洞窟から戻ってくる保護班の姿を捉える。
 結構な大荷物の様子である。ゴブリンたち、なかなかパワフルであった。それ以上に依頼人の女性、なかなかに収集家なのかもしれない。
「ゴブリンは倒したんだな」
「お疲れ様、こっちも無事に回収出来たぜ」
 回収物を示してみせるセイジとランスに、スウィンはケースの中身に思いを馳せる。
 『とある少女』のサークル主は、稀有な経緯で知った顔の少女である。
 その彼女と初めて対峙したのが、夏祭りの、曰くつきの本を入手した時で……。
(……まさか、ね)
 まさかまさか、あれが混じってるなんてことはあるまい。あれは砂になって消えたのだ。うん、大丈夫。
 なんにせよ、無事に取り返したのである。
「依頼人さんも喜んでくれるわよね♪」
 帰り道も気を付けて。ウィンクルム達は警戒を続けながら、本部へと帰還した。

●おまけのはなし
 本は無事に回収できた。その報告に、A.R.O.A.の職員と実はマントゥール教団員な依頼人の女は、手を取り合って喜んだ。
 机の上に置かれる本を確かめて咽び泣く女の喜びようが若干異様ではあるが、喜んでもらえているのなら何よりである。
「何だか丁寧に仕舞ってくれているのね……」
 シーツやらフェルトやらで包まれているのを見て、さすがウィンクルムと感嘆した女性職員。
 依頼人に至っては、拝み始める始末だった。
「後は本部で陰干しにしようかと……」
 だが、セイジのその一言に、ひっ、と息をのんだ。
「け、結構です!」
 全力の拒絶に目を点にしつつ、でも、と食い下がる。
「洞窟にあったわけだし……」
「じ、じじ自分でしますから!」
「そうよ、そうそう。管理も自分でやってこそ! ね!」
 キャリーケースや鞄を抱えて、職員に追い立てられるまま逃げるように去ってしまった女を、セイジはぽかんとした顔で見つめていた。
「……読んでみたかったんだけどな……」
「結局、何だったんだろうな……」
 残念そうに呟いたセイジと共に、ランスも首を傾げていたが、肩を竦めたイチカは、緩く零れた笑みを手で隠しつつ、ぽつり、告げる。
「依頼人さんの本の事は……まあなんとなく予想はつくんだけど、そっとしておいてあげたほうがいいと思うよ?」
「? 職員の人、情報誌って言ってなかったか?」
「まぁ、うん、そっとしといてあげよう?」
 セイジらと同様に首を傾げる秋乃に、イチカは誤魔化すようにへらりと笑う。
 俗に言う薄い本と遭遇経験のあるイルドとスウィンは、何処か何かを察したような悟り顔になっているし、遠い目をしていた白露もまた、袖を引くアイオライトに何でもないと微笑みかける。
「あれ、ラキア、やっぱり顔赤くないか?」
「気のせい」
「うーん? そうかぁ?」
 視線を逸らすラキアを覗き込んではまた背けられを繰り返すセイリュー。
 何だか謎の多い仕事だと、彼は首をひねる。
 乙女の宝物。その中身は、チラ見しちゃったラキアだけが知るのであった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:スウィン
呼び名:スウィン、おっさん
  名前:イルド
呼び名:イルド、若者

 

名前:天原 秋乃
呼び名:秋乃、あきのん
  名前:イチカ・ククル
呼び名:イチカ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 冒険
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 03月13日
出発日 03月20日 00:00
予定納品日 03月30日

参加者

会議室

  • プラン書けた!
    ウマく行く事を祈っている!
    (ブッセもぐもぐもぐ

    相談とかいろいろ、皆さんお疲れさまでした。

  • [23]スウィン

    2015/03/19-23:17 

    なるほど。おっさんも自分で心配しすぎとは思ってるのよね(苦笑)
    まあプランも書けたしこのままいくわ。一応ぎりぎりまで修正可能よ。
    皆お疲れ様。無事に成功するといいわね!

  • [22]アキ・セイジ

    2015/03/19-23:14 

    最大でゆうぱっく80サイズダンボール1つ程度かなとは思うけどな。
    なにしろ1サークルの本だから。

    おっと、俺もプランは出せているよ。(ブッセもぐもぐ

    ダイスA:コーヒーブッセの数

    【ダイスA(10面):3】

  • って、肝心のこと書き忘れた。プラン提出したよーー♪


  • >本の量
    「傍らの本を根こそぎ抱えて」って本文にあるのと、
    『薄い本が薄いわけなままがない! 厚く積み上げてこその薄い本だから!』という後ろの人の訳の分からない主張で(笑)
    意外と多いかも、とか思っちゃって。
    でも、どんな御本があるのかなーーwkwk

  • [19]アキ・セイジ

    2015/03/19-22:29 

    >洞窟の規模について
    分かれ道があるような複雑な洞窟の場合、入口で美味しそうな臭いをさせても奥まで届かない。
    その場合奥から俺達が追い出す必要が有る。
    しかし、”誘き寄せる”ことが可能であるという注釈がある。
    そこから考えるに、それほど複雑怪奇な構造では無いらしい。
    分かれ道が無いか、あっても短い洞窟だと推察するよ(笑


    >本の量について
    PL情報では有るが、本は「ゴブリン最大五匹が抱えて持ち運べる程度の量」だよ。
    ガイドの書き方が”ゴフリン達”ではなく”ゴブリン”と単数形になっていることから、もしかしたら運び出したのは一匹かもしれない。
    そうなるとさらに量は減る。

  • 食べ物りょーかいっ♪
    食べ物はできれば美味しそうな匂いのするのがいいよねー。
    お肉とか?

    天原さんもありがとう。
    そんじゃあ、本運び出す方行ってみるね
    ナノーカでとりあえず偵察して、ある程度、数の目星付けるとかいいと思う

    スウィンさん、詳しい流れありがとう。
    洞窟は別れ道で目印ね、はーい。
    目印はなんか考えてみるよー

  • [17]スウィン

    2015/03/19-19:35 

    道が分かれてた場合、保護組が目印残してたら抑え組が合流しやすいかも。
    それとも抑え組がそこで偵察アヒル使うか。

    戦闘ではおっさんもイルドも前衛予定よ。

  • [16]スウィン

    2015/03/19-18:32 

    天原が抑えの方にまわってくれて助かるわ。
    アイちゃんもアイテム申請ありがとう、よろしくね。食べ物もお願いしていい?
    デコイいいわね、鳴き声も出すし。じゃあ流れとしてはこんな感じ?

    キャリーカート・布・食べ物等を用意→食べ物・デコイで敵を洞窟外に誘き寄せる→
    保護組が本確保のため洞窟内へ。中にも敵がいるかもしれないから注意→
    抑え組は外の敵が洞窟に入らないよう、洞窟を背にして敵と戦う。
    倒せると一番いいけど本の保護が最優先だから、敵が逃げたら追わない方がよさそうかしら→
    抑え組の戦闘終了の方が早ければ洞窟内へ。
    でも道が分かれてたら、すれ違わないようにそこで待機がいいかね。
    保護組が戻るのが早ければ、合流してそのまま帰還。

  • [15]天原 秋乃

    2015/03/19-17:35 

    む、すまん脱字が……

  • [14]天原 秋乃

    2015/03/19-14:26 

    アイオライトは、そのまま本保護でいいんじゃないかな。
    本の総量わからないし、運び手が多いほうがいいと思う。

    流れはアイオライのそれで問題ないと思う。
    念のため、アヒル使って偵察してみようか?

  • ゴブリンの方が人出多いほうがいっかな?
    じゃあ、あたしもゴブリンの方に回るけど。

    >ゴブリンを誘き出す方法
    あたしも「食べ物」とか「賑やかにする」とかぐらいしか思い付かないや。
    天岩戸方式っつーか(謎
    大雑把な流れだと、ゴブリンを誘き寄せて洞窟から離したら(で、それから戦闘?)、その間に保護組が本を確保するってかんじでいいのかな。

  • [12]天原 秋乃

    2015/03/19-00:08 

    保護組偏ってるかなって思うから、俺とイチカはゴブリンの抑えのほうにまわるな。

    ゴブリンを誘き出す方法だが、今のところ食べ物くらいしか思いつかないなあ…。
    あとは鳴りものとか?

  • オレ達も本かな。
    具体的な部分は今から考える。

  • あとは毛布とかシーツとかみたいな、でっかい布もあるといいかなー。
    万が一のことがあっても、本を包んじゃえば、ちょっとの汚れとかぐらいは防げると思うし。
    じゃ、アイテム申請はいいだしっぺのあたしがするよ。

    ええっと、ゴブリンはどうやって洞窟の外に誘き寄せる?
    やっぱり食べ物が無難かなあ。
    もう一つ二つ手段用意しといたほうがいいかなあ、とりあえずデコイはあるけど

  • [9]アキ・セイジ

    2015/03/18-23:21 

    俺は本にいく。
    うまく分担できたら良いな。

  • [8]天原 秋乃

    2015/03/18-03:08 

    二手に分かれるなら俺は本保護のほうかな。
    でも、イチカは戦闘にいかせたほうがいいか…?
    まあ、こだわりはないしどちらでもかまわないぜ。

    本の運搬にキャリーカートってのはアリだと思う。

  • [7]スウィン

    2015/03/17-20:06 

    二手に分かれるならおっさんは敵組希望かねぇ。でもどっちでもいいわよ。

    「幾つも積まれている」とか書いてあるけど、本の量や重さは分からないわね~。
    出発前に聞いてみるとか。
    何かに入れるのよさそうね。森や洞窟だから、キャリーカートと台車だったら
    持って運ぶ事もできるキャリーカートがいいかしら?

  • どもどもーっ♪
    ふふふスタンプたのしいよーー♪(←おまえは所詮ぱんつだ

    やっぱり天原さんの言ってくれたようなかんじで、二手に分かれたほうが無難かなーって思う
    その場合、あたしとパパは薄い本組がいいなあ
    でも、別にこだわらないから、チェンジもいけるよー

    あと、戦闘には必要ないと思うけど、帰り道で運ぶためにキャリーカートか台車借りられたらいいなって
    御本、どれぐらいの重さだろ?

  • [5]天原 秋乃

    2015/03/17-01:14 

    天原秋乃とイチカだ。今回もよろしく頼む。
    それにしてもスタンプいいよなあ…並んでるの見てると俺も欲しくなったよ。

    >ゴブリン
    倒しても倒さなくても俺としてはどっちでもかまわないんだが、とりあえず依頼主の本が無事ってのが最優先だよな。
    敵の攻撃もそうだが、俺達の攻撃でうっかり本が…なんてこともあるかもしれないし、本の奪還を優先して動く奴とゴブリンを抑える(退治する)奴とにわかれたほうがいいかな…?

  • [4]スウィン

    2015/03/16-22:02 

    スウィンとイルドよ、よろしく!今回のメンバーは ハードブレイカー1 テンペストダンサー1
    ライフビショップ1 プレストガンナー1 エンドウィザード1 ね。

    敵の討伐は成功条件に含まれないらしいけど、おっさんはできれば退治したいと思ってるわ。
    倒さない場合は、使った事ないけど
    【印籠「公方」(土下座+5・ゴブリンに効果)】が使えないかな~とか。
    敵の魔法とかで本がボロボロにならないようにしなくちゃね。
    もし戦闘場所が本の近くになった場合はチャーチが役立ちそう?
    今何となく考えてるのは

    ・敵を食べ物の匂い等で誘き寄せる→そのまま戦うと敵が洞窟に逃げ込みそう
    ・敵と洞窟入り口の間に入って、チャーチや人壁で入り口を塞ぎつつ戦う
    →入り口の大きさや、敵が全部外に出てくるかが不明。
    もし5匹外に出ても、「全部で5匹」というのが多分PL情報だからPCにはそれが全部か分からない?
    ・誘き寄せた敵はそのままにして洞窟に侵入。本の無事を確保して改めて敵退治
    →洞窟内の敵に見付かる可能性。本の護衛を置く場合、戦闘場所と離れると護衛が地味に。

    う~ん、皆のいい案を待ってるわ!

  • [1]アキ・セイジ

    2015/03/16-00:15 


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