プロローグ
A.R.O.A.本部に苦情が寄せられる。
「聞いてくださいよ!公園にまで出たんですよ!あのおっきい岩石!」
「あたしたちせっかくいい雰囲気だったのに、おっきいゴーレムみたいなのにおっかけられて台無しよぉ」
それは関係を進展させようとしていたカップルたちだ。
遊園地や雰囲気の良いレストランなどなど、さまざまなデートスポットが通せんぼされて穴場とばかりに選んだデート場所の公園も、ついに閉鎖されたか。
「なんか小っちゃい子もいたんだけど、その子がまた頑固でおっかないのよね」
「風紀を乱すふしだらな奴らめって岩石に命令して出ていくまで追っかけてくるからねぇ」
ん?と女性職員は首をかしげた。
「もしかしたら、ウィンクルムを派遣すればいける……かも?」
そんなこんなで、『公園の通せんぼさんを説得してきてね』との依頼が出されたのであった。
*********
「まったく、けしからん輩ばかりです!」
腰に手を当て鼻息荒く童子は言った。
ここはタブロス郊外の公園。この季節は雪原がキラキラと美しい憩いの場である。
小春日和のこの日、公園のベンチでいちゃいちゃしていたカップルはみーんなこの子によって追い出されてしまった。
童子の名前は「氷雨(ひさめ)」
黒髪のおかっぱに雪の結晶の髪飾りが揺れる。
「ねぇ、塞の神」
身長2mほどの大きな土偶のような彼は大きくうなずいた。
「塞」
「ねっ」
どうやら、この塞の神でカップルを追い払っていたようだ。
塞の神は大きな体で氷雨の横にちょこなんとくっついている。
「長椅子での接吻、木の下で抱き合う、まったくふしだらな」
はぁー、とため息をつきながら氷雨はブランコに腰かける。
「……まあ、追い払えたのはいいけど、少し退屈ですね……」
「塞っ」
塞の神も頷く。
そんなとき、氷雨の目の端にこの公園に今まさに入ってこようとする。ウィンクルムのグループがうつった。
「はっ……あれは、精霊と神人からなるウィンクルム……っ」
「塞!」
手にはお弁当やバスケット。和気あいあいとしながらやってきた彼らに氷雨は眉をひそめる。
ぽかぽか陽気の真白な公園、今、氷雨の妨害劇が始まる……!?
解説
目的【氷雨と遊んであげよう!】
参加費:交通費やお弁当代など、全部で300Jrです。
公園ピクニックに持っていきたいものがある場合は、以下より貸し出しますのでお選びください。
★ピクニック遊具貸出
シャボン玉…100Jr
ゴムボール(当たっても痛くない)…200Jr
フリスビー…200Jr
ソリ(ボブスレータイプの一人乗り)…一台あたり200Jr
皆さんは公園に入ってきて、それぞれしたいことをしてください。
(お弁当を食べる、遊具で遊ぶ、あえていちゃつくなどなど)
氷雨ちゃんがこらー!と入ってきます。
氷雨ちゃんの妨害が来たら、参加メンバーみんなで氷雨ちゃんを巻き込んで遊んであげましょう!塞の神も、氷雨ちゃんが命令しなければ、氷雨ちゃんが楽しそうなら皆さんを追い出すことはしません。(仲間に入れてやると喜びます)
カップルは周りの空気を読まずいちゃいちゃするだけじゃないよってことを教えてあげましょう!
★公園詳細
ベンチとブランコと滑り台、あとは小山があります(ソリすべり用)
本当は遊びたいんだけど、塞の神とだけじゃ全然遊べない!あぁ退屈。by氷雨
*プランの書き方
氷雨に乱入されるまで何をしているか、乱入されてからは参加者みんなで結集して、氷雨と遊んであげてください。いろんな遊びをしたい!というのがあると思いますので、みんなで一つに絞ることはないです。(むしろ、氷雨はいろいろな遊びをしたいようです(この地上の遊びを知りませんのでね))けども、あんまり出しすぎると描写しきれなくなるのでご留意くださいませ。(掲示板での相談推奨)
交流型になっておりますが、もちろん、氷雨に”恋とはなんぞや”と理解させるのも目的ですので、適度にパートナーさんとの絆、愛情も見せつけてくださいね!
ゲームマスターより
雪原!で!キャッキャしちゃえばいいんでないの!?
ということで、みなさんのよきお兄さんお姉さんっぷりを発揮してください。
たまには童心にかえって遊ぶのもいいよね!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
☆心情 エミリオさん「物心ついた時には剣を握ってた」って笑ってた たけどどこか辛そうな表情を見て思ったの 彼には悲しい思いをした分楽しい思い出を沢山作ってほしいなって 皆との遊びやランチを楽しんでくれるといいな ☆公園で精霊とフリスビーで遊ぶ エミリオさん、キャッチするの上手だね~ 私がどんな方向に投げてもとっちゃうんだもの、すごいよ (仕事の話をする精霊に対し)こら!遊んでいる時に仕事の話をするのは禁止! そうそう、遊ぶ時はちゃんと遊ばないとね ☆氷雨達が来たら (氷雨達に)こんにちは、私達これから皆で「缶けり」と「だるまさんがころんだ」をしようと思ってるの 大勢で遊ぶと楽しいよ~よかったら貴女達も一緒に遊ぼうよっ |
リヴィエラ(ロジェ)
リヴィエラ: ※神人・精霊共にアドリブOK・神人は運動神経が悪く、精霊は良い ・前半 ロジェ様と公園へお出かけなんて嬉しい… (皆でランチを開始) まぁ、美味しそうなお弁当。あ、あの、はい…いただきます。 えっ、あの、はわわわ…こんな皆さまの前で… ・後半 氷雨様も塞の神様も、寂しいのではないかしら? 私達で遊んで差し上げませんか? (だるまさんがころんだで鬼になったらゆっくり数える。 鬼じゃなければバランスを崩して転びそうになる) (缶けりの最中、氷雨が鬼になったら間違えて解りやすい場所に隠れてしまう) 最後に氷雨を撫でながら 『恋する人がいる事は素敵な事、貴方は独りじゃない』と優しく歌を歌う(歌唱スキル2) |
水田 茉莉花(八月一日 智)
アドリブ歓迎 何で尻尾が見える幻覚が…ほづみさん、ホントーにマキナ? ハイハイ、分かりました!レンタルしましょ、ソリ 一台のソリを使って交互にそり遊びしてるけど… 意外と面白いのね、こういうソリって でも、目の前に人が飛び出してきたら避けらんないかも ま、いたとしてもちびっ子だろうし 保育のスキルでお説教よ! でも、遊びたそうなら様子を見て… あなたはどうしたいの?言わないとわかってもらえないわよ って、はっぱかけようかな 遊んでるときは、氷雨君がケガをしないように気をつけて ほづみさん、ケガしたの バカチビの場合はほっといても治るわよ! (悪態はつくが手当してやる) こんな人ですけど、料理は上z…ヘンな事言うなー!(殴) |
珠洲(ジオ)
公園なんて久しぶりです 童心に戻って楽しめればいいですね ああ、日の光が眩しい…(元引き篭もり と、年… 大丈夫です、分かっていますから… ジオくんも公園で遊んだりしていました? 私はジャングルジムが好きでしたね …まさか公園の話で世代を感じる事になるとは思いませんでした(うなだれ 氷雨さんが来たらみんなで一緒に遊びましょう 楽しかったって思って貰えれば嬉しいですね 小さい子でのようですし、多少は花を持たせてあげて… あ、あれ…?ジオくん? でも、こういう姿を見てると年相応に思えてきますね 楽しそうでよかった みんなでランチも楽しみです きっと一緒に食べれば美味しいですよね こんなに賑やかな食事は久しぶりで…楽しいです |
オーレリア・テンノージャ(カナメ・グッドフェロー)
◆動機 ふふふ、良い陽気ですねぇ こんな日は、そう、ピクニック。お外でランチでもしましょうか ◆持ち物 家から持参 水筒(温かい紅茶 水筒(冷茶 魔法瓶(スープ ピクニック用カセットコンロ(火を使える公園なら …小鍋でスープを暖めたりホットサンドメーカー用 サンドイッチの具とパン …定番からデザート用の各種果物とクリーム等も ※火が無理なら普通のサンドイッチに ◆行動 あら…氷雨さんというの?そう、お友達を探してたのね ええ、遊んでいらっしゃい。 私はこちらで、お弁当の準備をして見ていますよ 帰って来るまでにスープを温めましょう さぁ、皆でランチですね 好きな具を選んでサンドイッチしてね 一緒に作って食べると、更に美味しいでしょう? |
小春日和の陽気の中、ゆったりと公園に姿を見せたのは神人、オーレリア・テンノージャ。
「良い陽気ですねぇ」
そう言ってほほ笑む小柄で品のいい老婦人の横をスキップ交じりでやってくるのは、精霊、カナメ・グッドフェロー。彼はそのテイルス独特の耳をぴこぴこさせながら、オーレリアに笑いかけた。
「僕知ってるよ、オリィさんのバスケット、美味しいお菓子とパンで一杯だもんね」
オーレリアの手から、バスケットをひょいと受け取る。その中には、もちろん彼の好物がいっぱい。
「お婆ちゃんの荷物、僕持つよ!」
ありがとう、と微笑みかければ、カナメの鼻がひくひく動く。
「今日は何を持ってきたの?」
楽しみだなぁ、とカナメは笑いながら、木陰のベンチの方へ歩き出した。
「……むむ、おばあちゃまとおこちゃまですか」
お前もお子ちゃまだろうというツッコミがどこからか聞こえる気がするが、氷雨は腕組みをしてその二人を見送った。
「ウィンクルム、ですが、いちゃつくという様子もありませんし、見逃しましょう」
「塞」
塞の神も傍らで頷く。
公園の入り口で、銀の髪を高く結った女性、珠洲がまぶしそうに雪原を見た。
「公園なんて久しぶりです」
「晴れてよかったですね」
そういって目を細めるのはその精霊、ジオ。
「童心に戻って楽しめればいいですね。ああ、日の光が眩しい……」
もともとあまり外に出なかった珠洲にとってこの陽光と雪原の反射はかなりきついようで足もとをふらつかせる。
「だ、大丈夫ですか!?」
こくり、と頷いて見せれば、ほっとしたように彼は続ける。
「もう公園で遊ぶような年でもないですが、楽しめれば……」
何の気なしに言ったその言葉に珠洲の顔が曇った。
「と、年……」
幼く見える彼女だが、こう見えて20代半ばだ。コンプレックスにぐさりと突き刺さる。
「あ、すみません!そういう意味ではなく!」
ジオは慌てて弁明する。
「大丈夫です、分かっていますから……」
はは……と珠洲の唇から渇いた笑みが漏れる。そうも言ってられないとばかりに気を取り直し、珠洲はジャングルジムの方へ歩みを進めた。
「ジオくんも公園で遊んだりしていました?私はジャングルジムが好きでしたね」
これ、と指を差せば、ジオが小さく首を傾げる。
「うちの近所の公園は危ないからとかでどんどん撤去されまして、あまり遊具で遊んだ記憶が……」
ジャングルジムに今まさに足をかけんとしていた珠洲が硬直した。
がんっという効果音が聞こえるかと思うレベルで……。
そう、遊具の危険性からの撤去……危険性を指摘されていなかった世代……。
「……まさか公園の話で世代を感じる事になるとは思いませんでした」
「ゆ、……遊具で遊びましょう!」
話題を変えなくては!ジオの顔にほんの少しの焦りが浮かんでいた。
「うひゃっほおおおおおお!」
公園の小山を豪快に滑り降りる一台のソリ。その上にのっているのはマキナの青年、八月一日智だった。彼の神人である水田茉莉花はそれを眺めてぷっと吹き出す。
「……ほづみさん、ほんとにマキナ?」
テイルスでもないのに、尻尾が左右にブンブンちぎれんばかりに振れているように見える。よほど楽しいのだろう。
「次みずたまりの番な!」
ずいっとソリを渡せば、わかったわかったと笑って茉莉花が小山の上に上る。
そして、子供のころを思い出すようにそりに乗って滑り降りれば爽快な風が顔に吹き付ける。
「なっ!楽しいだろ」
「意外と面白いのね、こういうソリって」
顔を見合わせて笑い、二人で交互にソリ滑りを楽しんでいると……。
「こらーっ!」
着物の童子が駆けてきた。氷雨だ。
「二人で乗ってないからまだよいですが、そのいちゃいちゃっぷり!けしからんっ!です!」
氷雨が小山の前に躍り出る。小山の下で茉莉花を待っていた智が声を上げた。
「みずたまり、避けろぉ!」
「えっ!ああぁ!!」
塞の神が氷雨を抱き上げると同時に、茉莉花もソリと自らの体を横に倒し、寸でのところで交わした。そのまま塞の神に突っ込んでいたら大けがをしていただろう。
「ったく、オイちび!あっぶねーだろ!」
氷雨がムッとして反論した。
「ちびではないです、氷雨です!氷雨をちびとゆーならあなたもドチビです!」
「おれはちびじゃねぇ!成人してらぁ!」
氷雨相手に本気で怒れば、氷雨がほんの少しひるむ。
茉莉花は雪まみれになった衣服と髪を整え、氷雨の前にしゃがんだ。
「あのね、ああいうところに急に出てきたら危ないわよ」
視線を合わせそう伝えると、氷雨がびくっと肩をこわばらせた。
「公園って楽しく遊ぶところよ。お互い、怪我したらいやよね。だから、気を付けなさいね」
「……ご、ごめんなさい」
「ん、わかってくれたのね」
よしよし、と頭を撫でてやると、氷雨が少し頬を染めた。塞の神も申し訳なさそうに二人に頭を下げる。
「塞……」
さすがに大きな塞の神の頭は撫でられないけど。茉莉花は少し笑った。
「あっ」
氷雨が声を上げ、あさっての方向に走り出す。
「え!おい!まてちびっ!」
智が追いかける。その氷雨が見つけたのは……。
やや離れた場所でフリスビーで遊んでいたのはミサ・フルールとその精霊、エミリオ・シュトルツ。
「いくよー!エミリオさん!」
エミリオが頷く。ミサの投げたフリスビーを易々とキャッチして、振り返った。
「じゃあ、次は俺が投げるよ」
「うんっ!」
エミリオのフリスビーを、ミサが受け取る。ミサが取りやすいよう、綺麗にミサの手元へ飛んでいくフリスビー。ミサはさすが、とばかりに手を叩いた。
「エミリオさん、キャッチするの上手だね~」
エミリオに駆け寄れば、エミリオがにこりと微笑んだ。
良かった、この表情が見たかったのだ。
(エミリオさん「物心ついた時には剣を握ってた」って笑ってた……)
だからこそ、ミサはその辛そうな彼の思いを汲んで、そして少しでも癒したくてここへ連れてきたのだ。悲しい思い出を、これから楽しい思い出で埋め尽くすように。
「私がどんな方向に投げてもとっちゃうんだもの、すごいよ」
ミサがそう言って笑うと、エミリオは何の気なしに返した。
「飛び道具は昔仕事でよく使っていたからね。フリスビーって何だかチャクラムに似ていて、懐かしい感覚だな……」
ミサの唇がムッと尖る。そして、エミリオの顔を覗き込むようにその瞳を近づけた。
「こら!遊んでいる時に仕事の話をするのは禁止!」
(エミリオさん、また仕事のこと考えて……)
ビッと人差し指を突きつければエミリオが一瞬固まる。
その彼女の優しくて、けれど泣き出しそうな潤んだ瞳に胸が高鳴った。
互いの真剣な眼差し、少しの間のあと、互いにぷっと吹き出して微笑みあった。
「……ふっ、分かったよ、ちゃんと遊ぶよ」
もう一回投げるけどいい?と彼がミサに微笑みかける。
「そうそう、遊ぶ時はちゃんと遊ばないとね!」
そこに氷雨が乱入する。
「そんなに顔を近づけてっ!不埒ですよっ」
「!?」
小さなお客様の訪問にミサが目を丸める。そして、すぐに笑顔になった。
「私、ミサというの。あなたは?」
「ひ。ひさめ……」
やっぱり氷雨ちゃん、とミサは微笑む。
その背後から歩いてきたのはリヴィエラと、ロジェ。
(ロジェ様と公園にお出かけなんて嬉しい……)
にこにこ顔のリヴィエラを見て、ロジェがふっと微笑む。
(リヴィーの奴、料理が下手だからな……)
そう思っている彼の手にはお弁当の包み。手をつないでやってきた彼らを氷雨は見逃さなかった。
「あっ!ミサさん、すみませんっ。こらぁああー!」
ててて、と走り寄る。リヴィエラも驚いてその小さな襲撃者を見つめた。
「……もしかして」
この子が、氷雨様?
ロジェと顔を見合わせると、氷雨はむん!と腕組みをして叫んだ。
「手を!つないでいちゃいちゃとっ!いけませんっ」
リヴィエラがゆっくりと氷雨の顔を覗き込んだ。
「……どうしてですか?」
「へ?」
騒ぎを聞きつけ、珠洲とジオ、オーレリアとカナメも近くにやってくる。
リヴィエラがはた、としてロジェに耳打ちした。
「氷雨様も、塞の神様もさみしいんじゃないかしら……私たちで遊んで差し上げませんか?」
ロジェは仕方ないな、と優しく笑い、場に集結していた一同に目配せした。オーレリアが優しく語りかける。
「オーレリア・テンノージャと申します、改めてお名前を伺ってもよろしいかしら」
ゆったりとした口調に氷雨の緊張がほぐれる。
「はいっ、氷雨は、氷雨といいます!こっちは塞の神です!」
「塞っ」
塞の神も嬉しそうに頭を下げる。全員が氷雨に名前を告げると、氷雨はなんだか擽ったそうに笑った。
(なんだぁ、みんな優しい人たちです……)
使命も忘れかけ、ほんやら、と顔を緩める。
「氷雨さんというの……?お友達を探していたのね」
「!」
氷雨は友達を探していたわけではない。遊びに来たのではないのだ。
―地上の、ふしだらなカップルを制裁していらっしゃい。
頭の奥で甕星香々屋姫様の声が響く。
「えと、……」
氷雨は自分でも何がなんだかよくわからなくて。ふしだらってなんだろう?
「ちびはちびらしくおとなしく遊んでろ!」
くしゃ、と氷雨の頭を智が撫でる。
(……ちびとは、無礼なっ)
エミリオがしゃがみ込んで氷雨と視線を合わせた。
「……俺、公園での遊びをよく知らないんだ。俺達と一緒に遊んで教えてくれると嬉しいな」
その優しい声色に氷雨は心を開く。けれど。
「で、でも……遊び方が、わからないのです」
ふと智の目に塞の神から慌てて逃げ出したカップルが飲んでいたとみられる空き缶が飛び込んできた。
そこでミサが魅力的な提案をする。
「私達これから皆で“缶けり”と“だるまさんがころんだ”をしようと思ってるの」
それがなんなのか、氷雨にはよくわからない。ただ、何か楽しそう、ということは分かった。
「大勢で遊ぶと楽しいよ~よかったら貴女達も一緒に遊ぼうよっ」
「えと……」
もじもじとする氷雨に、茉莉花が一喝。
「あなたはどうしたいの?言わないとわかってもらえないわよ」
言葉で伝えることも大事、と彼女は言う。氷雨は意を決して頷いた。
「……遊びたいですっ」
珠洲とジオが笑顔になる。カナメも尻尾をぶんぶん振って飛び跳ねた。
「わーい!氷雨ちゃん、みんな、遊ぼう!」
良いよね?とオーレリアを振り返るとにっこり笑って促された。
「ええ、遊んでいらっしゃい。私はこちらでお弁当の準備をしていますよ」
「オリィさん、行ってきまーす!」
いこ!と、氷雨の手を取る。同じくらいの身長の氷雨はカナメの大きな瞳に吸いよせられるように走り出した。どうしていいのかおろおろする塞の神に、カナメは叫ぶ。
「塞の神様も仲間だよ!」
「!さっ。さーい!!」
嬉しそうな声が響いた。
だるまさんが転んだのルールを説明すると賢い氷雨は一回目の鬼を塞の神と指定する。
「塞の神はとても遅いのです。だから」
一同もそれでいいよ、と頷き、ゲームスタート。
「さーいーさーいーさーいー……」
後ろを向いて塞の神が「だるまさんが」の部分を読み上げる。
てててて、と近寄る一同。
「さーいーさーい!」
ころんだ!と言いたいらしい。一同はぴたりと止まった。
「さーいーさーいーさーいー……」
リヴィエラの足がちょっぴりもたついている。
「さーいさい!」
いきなり早く読んで塞の神が振り返るもんだから。リヴィエラと氷雨は雪に足を取られて前方へ……!?
「塞っ!?」
塞の神が駆け寄ろうとする。その前に、ロジェの腕が二人を抱きとめた。
「おい、二人共ケガはないか!?」
氷雨が衝撃を覚悟して顔を上げた先にはロジェの顔。怪我がないことがわかると優しく微笑んでくれた。
「頼むから心配させないでくれ」
「……ロジェ様、すみません」
無事ならいいんだ。と、二人の頭を撫でるロジェに、氷雨はほんの少し憧れを抱いた。
(いいなぁ……私にも、こうやって包み込んでくれるような……)
はっ。そんなことを考えている場合ではない。
「ありがとうございます」
氷雨は体制を立て直し、カナメの方を向いた。
「カナメさんも、動いてましたね」
塞の神が後ろを向いている間にダッシュをかました彼は、結構いい感じにぐらついている。しかも、耳もぴこぴこ、おはなもぴこぴこ。
「うー。じっとしてるのって苦手だよう。思わず耳がぴくぴくしちゃうんだもん」
眉毛をハの字にしてへへ、と笑う。氷雨も思わず笑ってしまった。
「では、リヴィエラさんとカナメさんと私で次は鬼をしましょうか」
すぐそばのベンチで子供たちの笑い声を聞きながら、オーレリアはゆったりと編み物をしつつ穏やかな時を感じていた。
缶けりの勝負は何度やっても氷雨とカナメが鬼になる。氷雨はあまり運動神経が良くないことと、カナメはぴこぴこ耳を動かしてしまうこと……。それでも二人はたくさん笑って楽しそうだった。
「じゃあ、次は缶けりですね!私は……鬼をやってみたいです!」
おお、と声が上がる。よりによって一番難しいのを選んだぞ。
「負けっぱなしでしたし、カナメさんも」
きゅっとカナメの服の裾を引っ張れば、カナメが頷いた。
じゃんけんで缶を蹴るのはジオに決まった。
「じゃあ、行きますよ」
(小さい子でのようですし、多少は花を持たせてあげて……)
珠洲がそう思い、微笑ましくその様を見ていると。
カンッ!……カラカーン……。
中々に豪快に飛ばしたものだ。
「隠れるよ~!」
ミサの声と共に、一同木の影や遊具の中に隠れていく。
(あ……あれ?)
珠洲の予想に反して。何事も手を抜かない性格のジオはその誠実さゆえ逆にシビアに戦いを挑んでいった。
「隠れるとこ……でもだれか見つかったときに助けやすいとこ!」
ここにも本気の男が一人。
「ほづみさん……」
茉莉花が苦笑する。
缶を拾って氷雨が戻ってきた。
「ふぅっ……?……!」
きょろきょろとして、氷雨は真っ先にロジェのマントの端を見つける。木陰から、見えているそれを指さし。
「そこの木の影、マントが見えてますロジェさんみつけましたっ」
にっと笑うと、ロジェも出てきて初めの位置に立つ。
「やれやれ、見つかってしまった。タスケテー」
棒読みのタスケテーに、リヴィエラがぴく、と動く。もともとうまく隠れられていなかったのが、更に見つけやすくなってしまった。
「あっ!リヴィエラさん、みっけ!です!」
「は、はわわわ……」
見つかってしまいました……とリヴィエラもロジェの横に並ぶ。
その二人を助けようと、智が動いた。そこを。
「!八月一日さん!みっけ!」
「ああああ!ちっくしょー!!見つかっちまったぁぁあ!」
全力で悔しがる彼にどこからか笑い声が聞こえる。隠れているメンバーからだ。
その隙に、ジオが躍り出た。
「助けます!」
カンッ!
また……豪快に。
「うわー!ジオさんはやいよぉ!」
カナメがぷぅと頬をふくらます。
それを見て、第二ラウンドだと隠れながら珠洲はジオのすぐそばで小さく笑った。
「あ、すみません、つい本気になってしまって……」
「楽しそうでよかった」
珠洲がそう笑いかけると、ジオは恥ずかしそうにうなずいた。その様子に珠洲は少しホッとする。
(こういう姿を見てると、年相応に思えてきますね……)
一しきり遊んで一息ついたところで、氷雨の小さなおなかの音が聞こえた。
「よしっ、飯にしようぜ飯!」
智の提案に、一同オーレリアの待つベンチに向かう。ベンチと、ピクニック用のテーブルが完備されたそこで、各々お弁当を広げた。
「おれ職場でインターネット放送の料理番組やるのよ。その放送で作る料理の試作品なんだ」
智は名刺を配りながら、何やらバスケットをごそごそやっている。
「へぇ、すごいね……」
今度見てみよっか、なんていいながらエミリオとミサも丁寧に名刺を受け取る。
智が取り出したのは……。
「ラップで簡単ロールサンドイッチとフリフリシーザーサラダ!」
初めて見る食べ物に、氷雨はわくわくを隠せない。ラップにくるんであるシーザードレッシングを渡され、くるくると回した。
「楊枝刺すと出るの」
ここ持ってて、といわれ、氷雨は言うとおりに持つ。ぷちん、と楊枝でつつけば、そこからドレッシングが出てきた。
「わぁ!」
チーズの香りが香ばしい。
「食べていいのですか?」
もちろん、と皆が頷けば、氷雨はリンゴのようなほっぺたを押さえ、目を瞬かせた。
「おいしい……!」
「ああ、そっちの卵焼きはみずたまり作」
智が差し出した卵を珠洲が一口。
「……美味しいですね!」
自然と笑顔がこぼれる。
「こっちのラップロールも美味しいです」
ジオが微笑むと、茉莉花が苦笑した。ほぼ同時に智と茉莉花が口を開く。
「こんな人ですけど、料理は上z……」
「んまいでしょ?……さすが俺の嫁」
「ヘンな事言うなー!」
どむ、と右ストレートが彼の胸に直撃。
「おうふっ」
和やかな笑いが巻き起こる。氷雨もなんだかおかしくて笑えてくる。
(お二人は仲がよろしいのですね……)
「あでで」
「なに、ほづみさん怪我したの」
さっきすりむいた―、なんていえばほっときゃ治るわよと悪態を付きつつも手当してやる。そんな二人を微笑ましいと感じた。
「まぁ、美味しそうなお弁当」
リヴィエラがお弁当に手を付けようとすると、ロジェがスッと箸を目の前に出す。
「ほら、口を開けろ。食べさせてやる」
「えっ、あの、はわわわ……こんな皆さまの前で……」
彼の目が恋人同士だろう?と言っている。観念してリヴィエラは口を開いた。
氷雨の頬がボンッと赤くなる。
(あわわ、あわわわわわ!なんて、はれんちなっ!?)
でも……。
(でも……?なんだろう、不思議と胸が暖かいのです)
「皆さん雪の中遊んでいらっしゃったから冷えてないかしら。スープはいかが?」
オーレリアが持参した魔法瓶の中から、優しい香りのスープが注がれる。
「わぁ、いただきます」
ミサが嬉しそうに温かいスープを口に運ぶ。
氷雨もスープを一口飲んで、ミサと顔を見合わせて笑った。
「好きな具を選んでサンドしてね。一緒に作って食べると更に美味しいでしょう?」
オーレリアが手渡したパンを、傍らでカナメが作っているのを氷雨は見よう見まねでサンドイッチに組み立てていく。
「チキンでしょ、ツナでしょ、ケチャップに……あっ生クリームと苺のもいいな!」
「甘いサンドイッチ、おいしいです!」
まるでケーキのようなサンドイッチに氷雨は目を輝かせる。カナメに作ってもらったサンドも食べて、ご機嫌だ。
(こんなに賑やかな食事は久しぶりで……楽しいです)
ひとりぼっちの期間が長かった珠洲は、なおさらに。
オーレリアが淹れた紅茶を飲みながら、エミリオはふと思った。
(……戦場に戻る度いつも思う、こういう何気ない日常がどれだけ大切かってことを)
彼の耳に破壊衝動を煽る不穏な声が響く。ずきん、と痛んだ。
軽く首を振り、振り払う。そしてミサと、そして一同を見つめ静かに小さな声で感謝した。
「……みんな有難う、本当に、ありがとう……」
一通りランチも終わり、一同が別れを告げて帰路につくとき、氷雨は何度も何度もありがとうと叫び手を振った。
(また、会えるかな)
ふ、と寂しそうな表情を最後に見せたのを、ロジェは見逃さなかったのだ。
「大丈夫だ氷雨、俺達はもう友達だろう? 寂しくなったら俺達を呼べ、いつでも来てやる」
見上げるとそこにはロジェとリヴィエラの笑顔。
優しく頭を撫でながらリヴィエラが歌った。
『恋する人がいる事は素敵な事、貴方は独りじゃない』
柔らかな歌声に、氷雨は心がほぅっと暖かくなる。
「……はい!ありがとうございます……!」
その後、氷雨は息せき切って甕星香々屋姫の元へ向かう。
「……ま!……さま!!」
「なんですか、慌ただしいですよ」
―恋って、素敵です、とってもあったかくて、やさしかったの!
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 01月11日 |
出発日 | 01月16日 00:00 |
予定納品日 | 01月26日 |
参加者
- ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
- リヴィエラ(ロジェ)
- 水田 茉莉花(八月一日 智)
- 珠洲(ジオ)
- オーレリア・テンノージャ(カナメ・グッドフェロー)
会議室
-
2015/01/15-20:42
わーい!ランチ♪
お茶とお菓子もすごく楽しみ!
八月一日さんとオーレリアさん、ありがとうございますっ
いよいよ明日出発だね。
わくわくしすぎて今日はすぐに眠れそうにないかも(えへへと笑う) -
2015/01/15-00:08
こんばんは。珠洲といいます。
パートナーはジオくんです。
よろしくお願いしますね。
公園で遊ぶなんて十数年ぶりでしょうか…。
どれだけ体力が持つかわかりませんが精一杯楽しめればいいなと思います。
私もその2つの遊びいいと思います。
氷雨さんも楽しんでいってくれるといいですね。
みんなでランチも素敵ですね。
ふふ、楽しみです。 -
2015/01/14-23:09
カナメ:
こんにちはー!えっと、カナメだよ!よろしくねー…っです!
僕も氷雨ちゃんと遊びたい遊びたいっ。
どうせならみんなでわいわいしたいから、ふたつのに賛成だよぅ。
あとオリィさんが…『たんぼ』?ってなぁに?
あ、オリィさんはおばーちゃんだから一緒に遊ばないってさ。
そのかわりご飯とお茶とお菓子用意してくれるって!
ぴくにっく、ぴくにっく♪ -
2015/01/14-16:08
フルールさん、リヴィエラさん、お久しぶり!
皆さんよろしくお願いします、水田茉莉花です!
うーん、あたしはのんびりランチしたいんだけどなー・・・
ほづみさんがそり見て、テイルスでもないのにしっぽ振ってるから
そり遊びしていると思う。
智:みんなでやる遊び、おれも大さんせーい♪
ってかさ、ランチもみんなでくわねぇ?
おれ、職場絡みで試作品いっぱい詰めたランチボックス持ってくるからさぁ♪ -
2015/01/14-08:38
ロジェ:
リヴィエラの精霊のロジェという。皆どうか宜しく。
俺もこいつが、公園で遊んだ事がないと言うので訪れてみたんだ。
ミサの言う、『缶けり』や『だるまさんがころんだ』
良いんじゃないか?(微笑みながら)
皆で遊べる遊びなら、氷雨も寂しがらないだろうしな。
リヴィエラ:
わくわく…(遊ぶ事しか頭にないらしい) -
2015/01/14-05:51
おはようございます、ミサ・フルールです。
初めての方は初めまして!
私のことは気楽にミサって呼んでね(にこ)
パートナーのエミリオさんが『公園で遊んだことが一度もない』って言うから私が子供の頃にどんなことして遊んでたか教えてあげたいなと思って公園に来たんだ。
んと、今回は最初は各自自由行動で、氷雨ちゃん達が来たら皆で一緒に遊ぶという流れでいいのかな。
皆は何して遊びたい?
私は『缶けり』や『だるまさんがころんだ』をしたいなと思ってるよ。 -
2015/01/14-05:42