プロローグ
羊飼いがいて たくさん羊を飼っていた。ある日その中の一匹が迷子になってしまった。羊飼いは他の羊をおき、その一匹を探しに出る。
―もし、みつけたらどんなに、喜ぶことだろう。
「ぜんっぜん見つかんない……!」
羊飼いの青年が叫ぶ。
「おい!おまえ、聞いたか?」
「な、なに!?」
「あっちの平原のほうで、デミ化した羊が一頭見つかったらしいんだ」
「えぇっ、それ、まさか……」
青年の名前はアベル。100頭の羊を飼う羊飼いだ。デミ化した羊を見かけたという男も、羊飼い。彼もたくさんの羊を飼っているが……。
「いや、おまえんちのじゃないだろ。おまえんちのは耳にタグ付けてるだろ?」
「あ、……うん、なかった?」
「なかった。……とおもう。俺もビビッてすぐ逃げちゃったから……」
アベルの家の羊には、すべて右耳に青いタグがついていて、そこにAと刺繍が入っている。その刺繍の下に、それぞれの個体の名前が入っているのだ。
「どうしよう……昨日の昼からアケオメが見当たらないんだよ……」
“アケオメ”というのはつい先日子羊を生んだばかりの母羊。生後一か月の“メェ”を残し、どこかへ行ってしまったのだという。
「アケオメがいなくなる前になんかあった?」
「俺がちょっと別の羊のケアしてたら、アケオメのいる方が急に騒がしくなったんだよ。で、見てみたら見慣れない羊がいて、うちの群れを虐めてたんだ」
「……それじゃねぇか?」
「……だと思うんだよな」
子連れの母羊は気が立っていることが多い。勇敢に立ち向かって、群れを襲った羊を深追いしたのだろう。
「母ちゃんがいないとこいつも大変だよ……」
なぁ、というと“メェ”が小さくメェエ、と鳴く。
「だいじょぶだよ、今A.R.O.Aに申請してきたから、すぐ来てくれるってさ」
「そっか……よかった、な、メェ……!?」
アベルが遙か西のほうに不穏な影を見つける。
「あ……アケオメ!?」
遙か西に見えたのは二頭の羊。一頭は見慣れた姿“アケオメ”もう一頭は……。
不穏なオーラをまき散らしながら前足を鳴らすデミ・ヒツジだった。
「アケオメ!敵う相手じゃない!帰ってこい!」
気が立っているアケオメにその言葉は届かない。
二頭は今まさに戦おうとしている。
アケオメはわが子と群れの仲間を守るため、デミ・ヒツジは破壊衝動の赴くまま。
「やめとけアベル!」
「でも、アケオメが……!」
その騒ぎにA.R.O.A職員の運転する軽トラで参上したウィンクルム。
羊を守り、羊を倒す戦いが始まる。
解説
目的:デミヒツジの退治及び“アケオメ”の保護
皆さんは、A.R.O.Aの要請でこの平原にたどり着いたところからスタートです。軽トラはアベルの傍で止まりますが、そこから動けません。羊へのアプローチは走るしかない!ということです。
ステージ詳細
・のっぱら。大平原!という感じです。拠点にアベルの持つゲル(移動式テント)がありますが、デミヒツジがいる場所はそこから500m地点。これ以上ゲルとゲルの傍の99匹の羊の群れに近づけないよう戦ってください。ゲルのほうに近づけてしまっては、ゲルと群れが崩壊します。
デミヒツジ詳細
・近くの豪農がはぐれた羊を放置→デミ化したよう。
凶暴な性格で、体当たりを繰り返します。毛は伸び放題、目つきもめちゃくちゃ悪い。やっつけてください。
アケオメ詳細
・生後一か月の子羊のママ。自分の仔とその仔が所属する群れを守るべく勇敢に立ち向かいます。デミヒツジはアケオメより強いので、殺されたり引きずられてデミ化してしまっては大変。一刻も早く引き離し、保護しましょう。
アベルの位置
・ゲルとデミヒツジの中間地点(約250m地点)にいます。彼は鎮静剤の矢を持っておりますので、連れて行ってアケオメを撃たせるといいでしょう。
・“メェ”はアベルと一緒にいます。母の鳴き声を聞いて駆け寄ろうとしますので、止めてあげてください。
*ヒント
・メェはアケオメに近寄らせないよう配慮。
・アケオメは相当気が立っていますので、デミヒツジとアケオメの戦闘にむやみに乱入すると怪我の恐れがあります、注意。アベルの矢は10m程度に近づけば命中しますので、そこまでアベルを安全に誘導してやってください。
・群れの99匹の羊はまだ騒動に気付いておりません。群れから100m地点まで戦闘が近づくと怯えて暴れる可能性がありますので、注意。基本的には牧羊犬の“コト”と“ブッキー”が押さえています。
ゲームマスターより
あけまして!おめでとうございます!
新年早々バリバリの戦闘ものでございます。
守り、戦う。
(メェを守る口実でもふるのもアリよ……)
いえ、守り、戦ってくださいまし!よろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
叶(桐華)
デミめーめーからアケオメと羊たちを守るよ! 僕と桐華は一先ず雌雄を決しようとしている二頭の方へ向かう デミの気をアケオメから逸らすのが第一目的 二頭が群れの方に近づかないよう誘導牽制するのが第二目的 僕の位置は二頭とアベル君やメェ達の間 近づきすぎてうっかり巻き込まれないよう、距離は念のため開け気味で待機 メェが保護してくれる子を振り切ってきちゃった場合の保険になれるように後ろも気を付けるよ アベル君が矢を放つ時は邪魔にならないように注意 アケオメを大人しくさせられたら、デミとアケオメの間に割り込んで保護 後は火力組の詠唱時間を稼げるよう、デミの近くでちょろちょろしてるよ 無事に片付けられたら羊の子もふりたいなー |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
矢を見て)その矢でアケオメを射るのですね? 急ぎましょう(手を取る ◆ 下車前にハイトランス 羊への汚染を防ぎアケオメ達を助けるためにも、急ぐぞ メェを栗花落に渡せたらアベルを引き、走る アケオメが俺達も敵だと勘違いしないよう接近は可能な限り静かに、だが急ぐ 嗅覚が鋭敏だから風下からが望ましい 射線上に行かないよう仲間へ接近方向を指示 「焦らず確実に当てて下さい」とアベルに言い残し、射撃に合せデミへ接近 デミが襲い掛かってきても羊の群とは異なる方向にするのも忘れない 雌は約60から80kg(重い)だから、チャーチまではアケオメ運搬を槍で守る チャーチに入ったらデミ足元を槍で薙ぎ払い、そして貫く! 「今だ、カナリアを!」 |
栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
一触即発だね…。 この子と群れは僕達が引き受けますから、貴方は彼らと行ってください ・状況把握後、直ぐにデミ側と群れ側でわかれて布陣 アケオメに向かうようアベルに促す メェをアケオメに近づけさせないよう抱きとめる ……お母さんとアベルさんが心配だよね… 大丈夫、みんなちゃんと帰ってくるよ… |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
アベルの大事な財産(羊)を護るのが俺達の任務だ。 早くアケオメの傍に行き、護るぜ。 現場に付いたらすぐトランスする。 アケオメの傍へスポーツLv5も使って走るぜ。 アケオメの傍にデミヒツジが居たら 盾で防御しつつ体当たりでデミヒツジを突き飛ばし、 アケオメから離れさせる。 アケオメからの体当たりは受け流しながら、アケオメをラキアのチャーチ内に誘導するぜ。 アベルさんの矢の射線を塞がないように注意しながらアケオメを抑えるぜ。 アベルさんの矢でアケオメが大人しくなったら、アケオメをチャーチ内に連れ込み安全を確保。他の人とも協力する。 アケオメには「よしよし、怖かったな」とにっこり笑って優しく撫でてやり、安心させる。 |
明智珠樹(千亞)
戦闘開始前にトランス。 真剣な表情で千亞にキスを。 ●行動 アキさんと、アベルさんを護衛しつつ射程範囲に移動。 デミ羊&アケオメに刺激与えないよう静かに。 鎮静剤投薬成功後、アケオメを保護。 可能であれば抱きかかえ、一人で難しければ千亞と共に、アケオメ連れ戦線を離れる。 ラキアさんの傍意識しつつ羊の群れ方面へ移動。 アケオメの意識あれば、暴れぬよう優しい声で落ち着かせる。 「大丈夫です、お子様や仲間を守る気持ちは私たちが引き継ぎます…!」 眠っている場合も起こさぬように大事に運ぶ。 デミ羊の動向に注意し、此方にきたら武器を向ける。 無事に群れ近くまで来れたら、群れにデミ羊が近寄らないよう戦闘態勢。 コトとブキにも感謝。 |
二台の軽トラックが、それぞれ草原の真ん中でドリフトをかけて止まる。大きな音が響いて、反動で激しく揺れた。二台に四人ずつと助手席にそれぞれ乗ったウィンクルムがガクン、と揺れた。運転席から職員が叫ぶ。
「ここだ!あっちにいるのがアベルさん。ボロで悪いね!頼んだよ!」
ひらりと荷台から飛び降り、セイリュー・グラシアは精霊、ラキア・ジェイドバインの手を引いて荷台から下した。
「滅せよ」
セイリューがラキアの頬に口づける。トランスの光が舞った瞬間、セイリューが駆けだした。かなり足の速いセイリューに続き、ラキアもその後ろを走った。
(一刻も早く、アケオメの近くに……!)
「さぁ行きましょう、千亞さん……!」
名を呼ばれ、精霊、千亞は神人の明智珠樹を振り返る。
珠樹が真剣な眼差しで千亞を見据えた。
(初トランス……、ちょっと、緊張する……)
千亞が軽く目を瞑った。頬に、柔らかい感触。
瞳をひらけば、二人の周りに不思議なオーラがふわりと舞う。
(……意外と、あっさり……)
その光景に千亞は小さく頷いた。
(……よし)
両者も、荷台から降りてデミヒツジの方へ駆け出す。
「無事に倒して、皆で羊さんもふりましょう!私はそんな千亞さんをもふります!」
キラッキラの笑顔で千亞にそう告げた珠樹に千亞はため息で返した。
(……このド阿呆)
別々のトラックの助手席から、それぞれ栗花落雨佳とその精霊、アルヴァード=ヴィスナ―が降りてくる。トラックの近くでおろおろとうろたえるアベルに近づき、雨佳は告げた。
「この子と群れは僕達が引き受けますから、貴方は彼らと行ってください」
アベルがしゃがんで抱いていたメェを引き取り、雨佳はそっと背中を押す。
アルヴァードが小さく舌打ちした。
「結構距離があるな……距離を詰めねぇと」
走り寄ってきたのは叶と桐華。二人は先行してデミヒツジとアケオメを引き離す作戦だ。
アベルが走ろうとしたとき、アルヴァードは制止した。
「今、護衛のが来る」
最後に荷台の上で精霊、ヴェルトール・ランスの頬に口づけたのはアキ・セイジ。
「コンタクト」
インスパイアスペルを唱えて唇を頬に寄せれば、トランスの光が舞う。
ランスの手の甲に文様が浮かび上がった。
静かに視線を合わせ、セイジはその手を取る。そして、流れるようにその手の甲に口づけた。より強い光があたりを包む。
セイジが、待ちに待ったハイトランス。
「長かった……。俺もやっと戦える」
絞り出すような、苦しそうな、けれどとても嬉しそうな声で彼はそうランスに告げる。
「……待たせてゴメンな」
ランスはその声に頷き、自分の手を乗せたセイジの手のひらをギュッと握った。
セイジの気持ちに報いるため、今、ランスはその手を引いてアベルの元へ。
待てと言われたアベルが顔を上げれば、そこにはハイトランスを完了したウィンクルムがいた。
「その矢でアケオメを射るのですね?急ぎましょう」
セイジがアベルの手を取る。アルヴァードも援護のため、それに続いた。トラックの近くに残されたのは、雨佳。
『メェェェ、メェ……』
メェが母親を呼んで寂しそうに鳴く。
よろよろとアケオメのほうに向かって歩こうとするメェを抱きとめて雨佳は優しく背中を撫でてやった。
「……お母さんとアベルさんが心配だよね」
メェは雨佳を見上げ、震える声で答えた。
「大丈夫、みんなちゃんと帰ってくるよ……」
そして、走っていったアルヴァードの背中を見守る。
大丈夫、きっと。
デミヒツジとアケオメがにらみ合う。メェの声にアケオメが耳をピクリと動かしたその瞬間を狙い、デミヒツジはアケオメの体に体当たりした。
「メェェェ!」
アケオメが勢いよく弾き飛ばされる。幸い急所は避けており、角も刺さってはいなかったので大事には至っていないようだが、彼女の怒りをあおるには十分だったようだ……。
そこに、真っ先に到着したセイリューとラキアが現れる。
アケオメが気を荒立て、前足をガツガツと鳴らした。デミヒツジはこの雌ヒツジをどう屠ってやろうかと目を光らせている。
助走をつけて、アケオメにぶつかろうとしたその時、その間にセイリューが盾を持って割り込んだ。鈍い音を立てて、デミヒツジがアケオメと反対方向にはじけ飛ぶ。
踏ん張ってはいたがなかなかの重量だ。セイリューは少しよろけて、アケオメの方を見た。
「メェ!」
そこをどけ、と言わんばかりの気迫だ。アケオメはセイリューのさらに向こう側のデミヒツジを睨み、臨戦態勢に入っている。
20mほど離れた場所で見守るラキアにセイリューは目配せした。ラキアは静かに頷き、『チャーチ』の発動準備をする。
そこへ、珠樹、千亞、セイジ、ランスのデミヒツジ討伐隊が現れた。アルヴァードも後方で『乙女の恋心Ⅱ』の詠唱を始めている。
セイリューがアケオメの気をひくためデミヒツジに背を向けた時。デミヒツジが勢いよく彼の背中目がけて突進してきた。
「セイリュー!」
ラキアが叫ぶ。
そこに、桐華が割り込んでセイリューの盾になった。どん、と鈍い音が響いたが、急所は避けている。少しよろめいたものの、上手く体制を立て直し、双剣を構えた。
「……桐華さん!」
「……大丈夫だ、あとは引き離す……っ」
彼が『エトワール』独特の動きを放つ。デミヒツジが突進しようとするのをひらり、ひらりとかわしながら、アケオメから引き離すように移動し始めた。
「ナイスフォロー!桐華!」
遠くから叶が叫ぶ。叶はこの戦線から少し離れた、メェ寄りの位置にいた。
「あっ」
一瞬の隙をついて、メェが雨佳の腕からすり抜ける。
『メェエェ!メェェ!』
母親が突き飛ばされたのを見て、いてもたっても居られなくなったのだろう。
「だめだよ、メェ……!」
雨佳が走って追いかけるも、この子羊の全速力、なかなか速い。
そこに、叶が立ちはだかった。
「メェ、危ないよ」
メェが走ってくる軌道上に待ち構え、その体を受け止める。
続いて、雨佳もその傍についた。
「叶さん、ありがとう」
「うん、……メェが無事でよかったね」
二人で顔を見合わせ、ほっと一息つく。メェは叶の腕の中で少しもがいた。
雨佳と叶、二人に取り押さえられメェは母の元へは走っていけない。不安げな顔で前方の戦いを見つめる。
「大丈夫。ちゃんと、お母さん、帰ってくるからね」
二人に励まされ、メェは小さく鳴いた。
桐華の動きにまんまと引き寄せられ、デミヒツジはアケオメから引き離されていく。
一方、アケオメはその憎き巨体の羊を仕留めるべくデミヒツジの方へ走り始めた。
セイリューがそれを止めるべく壁となる。
「……っ」
「セイリュー!」
ラキアが『チャーチ』を発動させた。
そちらへ誘導するよう指示を出すも……。
「メェェェ!メェェエエエエ!」
アケオメは猛り狂ってデミヒツジを追おうと、その進路を邪魔するセイリューに体当たりし続ける。
デミ化していないとはいえ成体の羊。その衝撃は戦闘慣れしていなければきつい物だったろう。
「っく、だめだ、こいつ、デミヒツジを倒そうと思ってるのか……」
チャーチ内で、アベルがおろおろと鎮静剤を手にうろたえる。
「アケオメ……無茶しやがって」
デミヒツジの興味、殺意の対象はとっくに桐華達に移っている。
けれど、アケオメはまだ諦めていなかったのだ。
セイリューの制止がなければ迂闊に攻撃できなかっただろう。
十分にアケオメからデミヒツジを引き離したころ、千亞の手裏剣がデミヒツジの死角から飛んできた。
トンッ、と音を立ててデミヒツジの足に刺さる。
体に当たった分はもこもこの毛皮に阻まれてその体には突き刺さらなかったらしい。
『ヴェエェ!』
デミヒツジが足の痛みを訴える。
その声にアケオメが一瞬ひるんだ。
「今です!」
チャーチ内部で珠樹が立ち上がり、アベルの手を引いた。セイジはそれを守るように続く。
射程内にアベルが入ると、セイリューがアケオメの首をパッと抱きかかえ、こちらに合図した。
「焦らず確実に当てて下さい」
セイジがそう言い残し、デミヒツジのほうに走り去っていく。
アベルはうなずき、鎮静剤を構え、セイリューに当たらぬよう、アケオメの尻側に鎮静剤を放った。
「メェェ……」
アケオメが大きく鳴く。メェが少したじろいだ。雨佳にギュッと抱きしめられ、駆け寄ることは許されないが。
「あたりましたね」
珠樹の確認に、アベルが頷く。
「ああ、即効性だから……」
次の瞬間、アケオメの脚が力を失い、その場にへたり込む。セイリューがこちらに向かって手を振った。
アケオメが倒れたのに気づき、デミヒツジがアケオメを見やる。その脚がアケオメに向いた。
(まずい……!)
桐華が回ろうとしたが、少し遅かった。セイリューとアケオメの元に、デミヒツジが駆け出す。
そのとき。
「……させない!」
千亞が放った手裏剣がデミヒツジの進行方向の地面に2,3刺さった。
詠唱を終えたアルヴァードが『乙女の恋心Ⅱ』を放つ。
焼けるような胸の痛みにデミヒツジが暴れ始めた。
セイリュー、珠樹の二人は引きずるようにしてアケオメをチャーチ内へ運ぶ。
「ッェエ!」
鎮静剤で眠っていたはずのアケオメが弱弱しく鳴いて頭を上げようとした。
「アケオメ!?うそだろ、あんな強い鎮静剤なのに……!」
アベルがもう一度鎮静剤を構えて立ち上がった。
そのとき、珠樹がアケオメを抱えて声をかける。
「大丈夫です、お子様や仲間を守る気持ちは私たちが引き継ぎます……!」
アケオメは人の言葉はもちろんわからない。うっすらと瞳をあけて珠樹を見つめた。
セイリューの真剣なまなざしも見える。
ふとデミヒツジのほうに目を向ければ、桐華とアルヴァード、セイジ、ランスが完全包囲していた。
これなら。
アケオメは、そのままゆっくりと瞳を閉じた。
その直後、詠唱を終えたランスの『お日様と散歩』が発動する。
その隙に、セイジは戦線から離れアケオメの元へと向かった。
デミヒツジの頭上から熱線が降り注ぐ。たまらず、デミヒツジは身じろぎをした。
その頭上に魔方陣がある限り、その熱から逃れることはできない。
逃れるには、術者に術を止めさせるか、術者から50mはなれるか。
デミヒツジの脳で予想できたのは前者のみだった。
術を解除させようと、次はランスに襲い掛かる。
チャーチ内にアケオメを避難させてしまえばこちらのものだ。
戦線からおよそ200m地点でメェを保護している雨佳と叶以外、チャーチめがけて走り出した。
それを追って、デミヒツジが突進してくる。一同、チャーチに入ったのを確認し、アルヴァードと桐華はさらにデミヒツジをひきつけた。
デミヒツジがチャーチに阻まれ、不思議そうな顔をする。
セイジが、その足元を狙いチャーチ内から槍を差し向けた。
そのまま、デミヒツジの足をその槍でなぎ払う。
そして、バランスを崩したその体を一突き。槍を引き抜くと、チャーチ内でセイジが叫んだ。
「今だ、カナリアを!」
詠唱を終えたランスが頷いてニッと笑った。
『カナリアの囀りⅡ』が発動する。デミヒツジの上部に発生したプラズマ球が勢いよくその体に落ちた。
大きな爆音と共に光がはじけ飛ぶ。その爆風は周囲12mほどに及ぶが、至近距離にいた彼らはチャーチに守られているからその衝撃は受けない。
やや遠くで見守っている叶と雨佳、アベルの友人は遠くでの爆発音にびくりと肩を震わせた。
デミヒツジは、すでに息をしていない。
チャーチを解き、叶達に合図した。メェと叶、雨佳が乗った軽トラックも徐行しながらやってくる。
到着したトラックにアケオメを乗せ、一同はアベルの他の羊が待つゲルのほうへと向かった。
牧羊犬のコトとブッキーが尻尾をぶんぶん振りながらアベルに近づく。
「お前たち、ありがとうな!」
今回、群れに戦闘を近づけさせなかったのはウィンクルム達の功績だが、群れがおかしなところへ行かなかったのはこの牧羊犬たちのおかげだ。
「どうもありがとうございます」
珠樹が頭をなでてやると、コトとブッキーは誇らしげに一声鳴いた。
トラックからアケオメとメェを降ろすと、メェが心配そうにアケオメの顔をなめる。
幸い、大きな怪我はない。体当たりの衝撃はあったが、切り傷等血が流れるような傷はないようだ。
ラキアがそっとアケオメに手をかざした。
「先々のデミ化の可能性を無くそう」
キュア・テラⅡの光がアケオメを包む。
先の争いで体内に取り込んだ瘴気がその体から消えていった。
「これでもう安心だね」
メェが嬉しそうに鳴いた。
「メェ!メェエ!」
アケオメがわが子の声に瞳を開く。
そして、まだ完全に鎮静剤の効能が切れていないのにゆらりと立ち上がり、あたりを見回した。
「大丈夫、悪いやつはもういないよ」
叶が微笑みかける。アケオメはもう一度念入りにあたりを見回し、そしてメェを見た。
「よしよし、怖かったな」
ぽんぽん、とセイリューの手がアケオメの頭を優しくなでる。
何度も体当たりしてしまった彼の手に、アケオメは申し訳なさそうに擦り寄った。
「メェ……」
「うん、大丈夫」
傍らで叶がはしゃぐ。
「いやー、よかった!みんな大きな怪我も鳴く、アケオメも無事で……」
「うん、メェはまだ生後一ヶ月なんだ。毛皮も柔らかくて気持ちいいんだよ。
もしよければ、触っていくかい?」
アベルのその魅力的な申し出に叶、珠樹、ランスは瞳を輝かせる。
「いいんですか!」
「うん」
叶がメェの頭をなでながら笑った。
「ふかふかだ~。桐華ももふる?」
桐華はげっそりとしながら大きく息を吐いた。
エトワールでデミヒツジを引き付けて動きっぱなしだったのと、体当たりの際に太ももの辺りに擦り傷ができている。
「……先にこれ、なんとかしてくれ」
ひざを指差すと叶があ、としゃがみこんだ。
「手当てが先だね。……お疲れ様、ありがとう」
彼の手がやさしく傷口に触れた。
ランスが大喜びで羊の群れに入っていく。
「もっふもふだな!よしよしよしー!」
もうどちらが羊かわからないくらいになりながら、もふもふの白い波に消えていくパートナーをみてセイジはふっと笑った。
羊も羊で、彼らが群れを守ったことをわかっているのだろうか。もふもふされるがままだ。
「すごい……見渡す限りもふもふだ……」
千亞がおそるおそる羊の背を撫でた。
「……」
千亞は耳と頭に違和を感じて振り返る。満面の笑みの珠樹がそこにいた。
「で、何してるの……ド変態は」
「千亞さんを、もふもふしていますっ」
輝かしいばかりの微笑みに千亞の額の青筋が増えた。
いろいろと珠樹が心配である。
「雨佳、大丈夫だったか」
アルヴァードに尋ねられ、雨佳は小首をかしげる。
「ん?ん、一回メェが走っていったときはびっくりしたけれど」
「あぁ」
「……こんなに小さくてもわかるんだね」
メェの頭を静かに撫でながら言うその目には、慈愛が宿っている。
怪我がなくてよかった。アルヴァードはほっと一息ついた。
そんな一同に感謝しながらアベルがつぶやく。
「よかったな、アケオメ、メェ」
二頭は嬉しそうにアベルに擦り寄った。
「メェ!」
「……今年も、良い年になりますように!」
依頼結果:大成功
MVP:
名前:セイリュー・グラシア 呼び名:セイリュー |
名前:ラキア・ジェイドバイン 呼び名:ラキア |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 難しい |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 多い |
リリース日 | 01月10日 |
出発日 | 01月17日 00:00 |
予定納品日 | 01月27日 |
参加者
- 叶(桐華)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- 栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 明智珠樹(千亞)
会議室
-
2015/01/16-23:59
プランは提出できてる。
うまくいきますように!
相談などなど、皆さん、お疲れさまでした。 -
2015/01/16-23:50
ま、しゅ、ま、ろー!(飛びついた)
アキ君ありがとうー(むぐむぐ)
アケオメもメェちゃんも、普通のめーめーさん達も無事に守れると良いねぇ。 -
2015/01/16-23:36
わぁ、ありがとうございます、アキさん…!
戦闘経験浅いため、提案大変助かります。
ラキアさん、そっと傍に寄るかもしれませんがよろしくお願いいたします、ふふ…!
-
2015/01/16-22:51
では遠慮なく。
ひとつだけ明智さんに提案が有るよ。
保護したアケオメをつれて退避するなら、ビショップであるラキアの傍が良いかもしれない。
(マシュマロもぐもぐ) -
2015/01/16-22:48
プランの提出は完了しいる。
成功を願って一息入れようか。
皿にマシュマロを乗せて置く)プレーンだよ。
サイコロ:加算*2でマシュマロの個数
【ダイスA(6面):4】【ダイスB(6面):2】 -
2015/01/16-22:47
私もプラン提出完了です。
足手まといにならぬよう、またデミ羊さん討伐に皆様が専念できるよう
アケオメさん保護、そして羊の群れに敵を近づけないよう頑張ります。
ギリギリまで変更できるかと思いますので、何かあらばぜひに…! -
2015/01/16-22:44
-
2015/01/16-21:21
一先ずプランだだーっと仕上げちゃいました。
んー、だいたいどんな場合でも動けるようにはしたつもりだけど、
なんかして欲しいことあったらまだ時間的に余裕あるし対応できると思うよー。
無事にデミめーめー倒せたら、僕も普通の羊さんもふもふしたいなぁって願望がじわっと滲んでる。
もうちょっと精査してまーす。 -
2015/01/16-21:20
-
2015/01/16-07:30
叶さん、まとめありがとうございます…!!大変わかりやすいです…!!
そして私と千亞さんの認識も問題ありません。
むしろありがとうございます。
アベルさんの鎮静剤投入後、アケオメさんを戦線から引き離し
アケオメさん&羊の群れにデミ羊を近づけないよう尽力いたします…!
-
2015/01/16-03:39
ん、漠然とした感じーってのも含めて一通り希望聞けたかな?
●デミ羊対処
ランス、アルヴァード、叶、桐華
●アベル誘導
セイジ
●メェ保護
雨佳
●群れ+アケオメ保護
千亞、明智、ラキア、セイリュー(叶、桐華)
ザーッとこんな感じ?
千亞君と明智君は、アケオメ含んだ群れ寄りの方に着くイメージで合ってるかな。
僕と桐華さんは、魔法使い組の詠唱補佐も兼ねて、デミ羊寄りで行動するつもりだから、羊対処の方に分けてみました。
んで、アベル君の誘導んとこ、出来ればラキアさんついてってもらえたら、より安全かなって思ってるんだけど、どうだろ
元々そのつもりだったら、余計な事言っちゃう感じでごめんね。
個人的な方は、桐華にはエトワールで回避率上げて、主にアケオメの攻撃避けるの頑張ろうかなと。
デミめーめーに攻撃する機会ありそうかな…ありそうならスタッカート…かな。MP鑑みてアルペジオⅡになるかも
エトワール優先にするから、攻撃は魔法使い組に任せた! -
2015/01/15-08:26
度々ごめんね。シノビの千亞だよ、よろしくね。
アベルさんの鎮静剤の矢って、大人しくなるだけかな?眠るのかな?
どっちにしろ、アケオメちゃんの保護も必要だよね。
僕もアキさんと共にアベルさん護衛に着いていき
アケオメちゃんの保護(可能であれば引き離し、他羊さん達の方へ)に着こうかな、と。
メェちゃん保護はそこまで人数割かなくてもいいかな?
明智もアケオメちゃん保護にさせようかな、とも…!!
うーん…何か動きについてあったら言ってやってね(ぺこ)
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2015/01/15-00:44
こんばんは。栗花落雨佳とアルヴァード・ヴィスナーです。皆さんよろしくお願いします。
僕はメェちゃんもふもふ…いえ、誘導、アルは遠距離からデミヒツジを狙って攻撃、アケオメからの注意を逸ら事に専念しようかと…。
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2015/01/15-00:36
こんばんは、明智珠樹です。
隣はシノビの千亞さんです。戦闘経験浅いですが精一杯頑張りますのでよろしくお願いいたします(ぺこり)
一番へっぽこな私はメェたんを抱っこして保護班かな、と。
千亞さんも桐華さん同じくデミが向かってこないよう抑える班、でしょうか。
ジョブスキル陽炎で分身して惑わせたり盾にできれば、と思いつつ…!
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2015/01/15-00:30
セイリュー・グラシアとライフビショップのラキアだ。
見知った顔ぶれで心強いぜ。
アケオメの怪我の回復・・とか漠然と考え中。 -
2015/01/15-00:25
わ。人集まったー!
良かった、人数揃えば、色々出来そうだよね。
お久しぶりーな人ばっかりだねぇ。改めて宜しくお願いしまーす。
んと、エンドウィザードさん二人いるし、最終的な火力はお任せして大丈夫かな。
一先ず希望聞ければ色々考えやすそうかなーと思うので、主張してくね。
桐華は前述通り、デミめーめーとアケオメの周りで群れに向かわないようにひらひら牧羊犬ごっこして貰うつもり。
僕もそっち側お手伝いに行くつもりだよー。
流石に割り込む勇気はないから、メェとアケオメの間に居ておいて、
メェが飛び込んでこないように障害になれたらなーって思ってる。 -
2015/01/15-00:15
アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしく。
今の所アベルを射程に保護誘導する予定だ。 -
2015/01/13-17:28
賑やかしといて誰かこないかなってのんびり待ってる叶と愉快な桐華さんだよー。
アベル君をどーにかこーにか安全に10M圏内まで引っ張る子と、
メェをもふもふ…じゃない、抱っこして保護する子と、
デミめーめーが群れの方に行かないように抑える子…?
一先ずは3グループくらいに分かれられたら色々やりやすそうかなって考えてる所です。
桐華はテンペストダンサーだから、めーめーとアケオメの周りでひらひらしつつ、
群れの方に行かないようにして貰おうかなって考え中だよ。なんか牧羊犬みたいだね。 -
2015/01/13-17:22