プロローグ
「どうしてこうなった」
目の前にはこれでもかと言うほど並べられた、日持ちのする豪勢な新年の料理、つまりはお節料理の数々。さらに山盛りのお餅、酒、お菓子。
猿に似た毛むくじゃらの妖怪は、ポツリと困惑の声を漏らした。
「というわけで、異獣主催の新年会にいらっしゃいませんか?」
紅月ノ神社から来た妖狐の青年は、微笑みながらA.R.O.A.の受付職員に言った。
―――異獣。
見かけだけで言えば、毛むくじゃらで大きな猿のよう。食べ物を与えてくれた者の荷物を運び、運び終えると風のように消える、そんな妖怪だ。
実はずっと長い間、人間との関係がこじれて姿を見せなくなっていたのだが、夏頃にウィンクルム達の働きで関係は修復され、昔のように人間と交流をとるようになったのだ。
……いや、昔以上の交流をとる羽目になったのだ。
久しぶりの異獣に人間達が気を遣ったのかテンションあがったのかなんなのか、この数日で「いきつけの料亭に最高食材を持ち込んで作らせた、食べるといい」「今まで正月料理食べれなかっただろう、ほら持ってけ」「うお、マジで異獣だよパネェ、おいこれ食う? 食う?」と言っては、やたらとお節とかお餅とかお酒とかお菓子とかを異獣に『お供え』していったらしい。
返すわけにもいかず、捨てるのも心苦しく、かといって食べきれる量でもなく、困り果てた異獣は妖狐にどうにかしてくれと頼み込んだ。
その結果が、この誘いである。
「……はぁ、ありがたいお誘いですけど、妖怪の皆さんでやってもいいんじゃないんですか?」
純粋に疑問に思って訊ねれば、妖狐は微笑みを少し曇らせて答える。
「実はね、人間の食べ物をそのまま食べれる妖怪ってそう多くはないんですよ」
妖怪の生態は人のそれとは違う。
食べ物を一切必要としないものもいれば、目に見えぬ手で触れられぬものが主食のものもいる。人間の食べ物を食べるとしても、特定の食べ物が毒となるものもいる。
人が作った人の食べ物、それを分け合うならば妖怪よりも人の方が良いのだ。
「まぁ、要はただの宴会ですよ。場所は紅月ノ神社が所有してる建物の一つをお貸ししますから、お時間のある方は是非」
「わかりました。ウィンクルムに伝えておきます」
「お願いします。あ、異獣以外にも多少妖怪がお邪魔すると思いますが、せいぜい心を読まれる位ですのでお気になさらず」
「わかりました…………え?」
新年早々、不思議な宴会に足を踏み入れる事になりそうだ。
解説
お正月に異獣主催の新年会を楽しんで下さい。
基本的にはただの飲み会、食事会です。
あるのは
・おせち料理、
・お餅
・お煎餅や干し芋、等の乾きもののお菓子
・果物(蜜柑、林檎)
・酒(日本酒、芋焼酎、麦焼酎、甘酒、白酒、梅酒)
・お茶(緑茶、梅昆布茶)
となっております。
足りないという事はありませんので、お好きなだけ召し上がってください。
酒が多い? 気のせいですよ。
会場は火鉢で温めてはいますが、少し肌寒いようです。
二人でしっとり楽しむもよし、妖怪達と騒ぐのもよし、仲間と盛り上がるもよし。
お好きなようにお過ごしください。
●妖怪
新年会には妖怪も紛れ込んでいます。中でも厄介なのが『覚』と『天邪鬼』です。
異獣
・食べ物を貰う代わりに荷物を運ぶ妖怪
・あまり喋らないが、食に関しては別
・色々食べてきたから舌が肥えてる
覚
・心を読む妖怪
・心を読んでどんどん口にし、相手を疲れさせて支配したがる
・予期せぬ事をすると驚いて逃げる
天邪鬼
・心を読む妖怪
・読んだ心の正反対の事を言い、ひたすらからかって遊びたがる
・褒め称えたり口説いたりすると恥ずかしくて逃げる
●妖狐プレゼンツ特別オプション
正月に相応しい着物がレンタルで着られます。他にもオプションがあります。希望がありましたらプランに書いてください。
・着物一式 300Jr
・綿入り半纏 50Jr
・どてら 50Jr
・和装じゃ無理、毛皮持ってこい 500Jr
・寒いんだよ、炬燵持ってこい 1000Jr
ゲームマスターより
年が明けたら宴会といきましょう。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
人数分の半纏(8枚)を申請 ったく寒がりどもめこれでも着てろー(配布) まずは異獣にあいさつだな よう、久しぶり。覚えてるか? まあ一献……お前酒飲めるのか……? 久々の人間との交流になるわけか ま、そのうち慣れるだろうよ 何かあったら妖怪にでも頼んで連絡くれよ、すぐ向かうから ……で、お前その子はどっから連れてきたイグニス…… 「本当は精霊と一緒にいたいんだろ?離れるのが怖いんだろう?」 ……っ!?(思わず持っていた湯呑を落とし) あ、やべ割っちまった……くそ、どこいったあいつ…… なんだよイグニス、顔が赤い?酒のせいだろ! (自覚していなかった。しないように目を逸らしていた。 これが、本心?) 反則だろうあいつら……! |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
新年会…? (慣れてはきたけど初めましてだと緊張して楽しめないかも。いや僕はいい。話題に乗れるだろうか) わ!?わかった歩くから!(タイガが居るなら何とかなるか) 明けましておめでとうございます (ウィンクルムは知り合いでよかった) あ。(虎のぬいぐるみ出し)この子を取った時の。久しぶり偶然だね ■炬燵。大樹のとくっつける。少食。でも大勢で新年会の料理は初めてで温かい気持ちに 十分食べてる(でも受け取り) お酒は飲めない分、お酌でもしましょうか。好きなの取りますよ あ。そうだ19歳になる(なった)んだった 大樹も?親近感わくね …気持ちだけで十分だよ。いつも感謝してるから (今日ここでの思い出をもらえたのも全部) |
柳 大樹(クラウディオ)
炬燵。 着物一式。クロちゃんの分も。 んで、毛皮。 何の毛皮が来るのかなー。 炬燵はセラフィム達とくっつける。 他の人も妖怪も炬燵一緒でもおっけー。宴会だし。 酒で暖まれないなら他ので暖まるしかないじゃない? 5月になったら俺も飲めるのに。 フライングは……。はいはい、駄目だよね。 わかってるって。 栗きんとん食べたい。 他にも食べるよ?お菓子だけで宴会過ごす気ないし。 覚に、天邪鬼ねえ。 クロちゃんがくそ真面目だなって思ってるのは本当だし。 ちょっとは認めてきたのがバレたところで特に問題は……。 筋肉羨ましいは知らなくて良い。 忘れろ。(クラウディオを威圧 ……全然筋肉つかないんだよ。 流石にあんたの鍛錬にはついてけねーから。 |
ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
明けましておめでとう…今年もよろしく頼む。 正月をこんな風に過ごすのは初めてだからちょっと緊張してる。まぁ飲み会だと思えばそうでもないんだろうが。 皆で楽しめればいいな。 「着物」を着るのも初めてだからな…どこか変な所はないだろうか…。 これがおせちか…いろいろ種類もあるし美味い…(もぐもぐ) 酒はそうだな…日本酒で。 …いや日本酒は飲んだことはある。どっかの飲み会だったかで飲んで美味かったからな。 (ほろ酔い)こんな風に暖かい感じで過ごすっていうのはなかったからな…憧れてはいたんだ…ローレンツが来てからはいろいろ願いはかなったよ。俺は一緒に飯食うだけでも結構幸せなんだ。ローレンツ…今年もよろしく頼むぜ。 |
■いざや参らん、宴の席へ
「新年会……?」
パートナーの『火山 タイガ』が持ってきた話に、『セラフィム・ロイス』は難色を示した。
(人に会うのも慣れてはきたけど、初めましてだと緊張して楽しめないかも。いや僕はいい。話題に乗れるだろうか)
暗い気持ちに傾きかけるセラフィムを知ってか知らずか、タイガは既に興奮気味の笑顔でセラフィムの手を掴んでぐいぐいと歩き出す。
「新年会に食い放題だぜ! いくっきゃねー!!」
「わ!? わかった歩くから!」
よっしゃ! と喜ぶパートナーを見て、セラフィムは小さく笑む。
(タイガが居るなら何とかなるか)
心の中でそう思いながら、自分の意思で歩き出した。
さて、新年会会場には一足先に到着しているウィンクルムもいた。
それは『ロキ・メティス』と『ローレンツ・クーデルベル』、そして『柳 大樹』と『クラウディオ』だ。
「『着物』を着るのも初めてだからな……どこか変な所はないだろうか……」
妖狐に着付けてもらったロキは、腕を上げ下げしながら確認する。
搗色の御召で木蘭のつづれ角帯を締めたロキは、一通りの確認を終えると肌寒さを感じてぶるりと震えた。
「ロキー、着物だけじゃ寒いんでどてらも用意しといたよー」
そのまさに震えた瞬間、ローレンツがひょこりと着替えの間から顔を出す。
銀鼠の御召で漆黒のつづれ角帯、そして手には木賊色のどてら。まずまずの冬の格好だ。
「着物なんて俺すげー久しぶり。この窮屈な感じが着物って感じだよね!」
どてらを着込みながら言うローレンツに反応したのは、ロキではなく着替えの間から出てきた大樹だ。
「あー、わかる。ゆったりしてんのに動けない感じだよね、着物って」
大樹は黒地に組紐文様の御召で雪色の角帯、続けて出てきたクラウディオは灰白色の御召で、黒地に黄色の花と赤い狛犬の刺繍が施された角帯。
「動きにくくしてどうしろというのか……」
似合っているのにも拘らず愚痴を零すクラウディオだが、護衛対象の大樹が「せっかくの宴会。しかも正月。あるなら着るべき」と押し付けた事を考えると、着替える事はできなかった。
支度も整い、会場は宴会の空気に変わっていく。
色々な妖怪がうろうろし出した頃、セラフィムとタイガ、そして『初瀬=秀』と『イグニス=アルデバラン』が到着した。
「おー! すっげー入り具合」
タイガがひょこりと会場を覗き込んでいる間に、セラフィムは知った顔のウィンクルム達を見つけ、知り合いでよかったと安堵しながら新年の挨拶をする。
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう……今年もよろしく頼む」
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますねー」
ロキとローレンツも挨拶を返す。そのままセラフィムは大樹と秀のもとへと挨拶にまわる。それを見ながらロキは小さく息を吐いた。
「どうかしたか?」
「いや、正月をこんな風に過ごすのは初めてだからちょっと緊張してる。まぁ飲み会だと思えばそうでもないんだろうが」
挨拶を交わすウィンクルム達だけではない。既に酒が入った様子の妖怪達もいる大宴会だ。
「皆で楽しめればいいな」
言いながら、全員で会場に入った。
■酒と馳走を召し上がれ
「よう、久しぶり。覚えてるか?」
会場の隅で、選別したであろう食べ物に囲まれていたのは、主催である異獣。
秀が声をかけると、のそりと立ち上がり「いつぞやは世話になった」と頭を下げた。
「異獣さんもお元気そうで何よりですね! わー食べ物たくさん! 異獣さん人気者ですね!」
「物珍しいだけだろうよ。人はわからん。こんなにわからん生き物だっただろうか」
覚めた物言いだが、顔はゆるりと笑んでいる。決して酒だけの力によるものではないだろう。
「久々の人間との交流になるわけか。ま、そのうち慣れるだろうよ」
「だといい。こんな事が何度もあると腹が壊れる」
言いながらも、異獣は伊達巻を一つまみ、美味しそうに咀嚼する。その様子に秀とイグニスも安心する。
「何かあったら妖怪にでも頼んで連絡くれよ、すぐ向かうから」
「要らん世話だよ、人間」
「抜かせ、早速こうして助けを呼んだくせに」
「まぁな」
くくっと喉で笑う異獣に、秀も同じように笑う。
イグニスが周りの料理を眺めて「確かに食べきるのは大変そうですよね」と言うと、異獣が「あっちにまだある」と会場の隅を指差す。確かにそこには、大きな一枚板の卓上に、所狭しと料理が置かれていた。
「では、折角ですし悪くなる前にいただきます!」
イグニスは「秀様、先に行ってますね!」と料理へ向かって行く。それにタイガとロキとローレンツも続いた。
見送ってから、秀はそれじゃあ、と近くの酒瓶を手に取る。
「まあ一献……お前酒飲めるのか……?」
「飲める。好きだ」
宴会が始まる。
「炬燵も借りてみた。んで、毛皮も」
何の毛皮かと妖狐に訊ねれば「世の中には知らない方がいいこともありますよ」と笑顔で言われた。
「手触りいいね」
「うん、しかもあったかい」
本当にこれ何なんだろう? 大樹はセラフィムと首を傾げる。その間に、クラウディオが炬燵を設置していく。大樹だけでなく、セラフィム達も炬燵を借りたので、それをくっつける形だ。
クラウディオは、毛皮と戯れている大樹達に意識を割きつつ、周囲の参加している妖怪を視認する。
(事前情報に誤りは無いようだ。心を読むだけなら、特に危険な事はないだろう)
人に害を為すような妖怪がいないならば、この場は比較的安全だろう。そう判断しながら「これでいいか?」と二人に尋ねた。
「あ、任せ切りにしちゃった……!」
「気にしない気にしない、くっつけただけなんだし」
「特に労力でもなかった。しかし、毛皮に炬燵もなんて」
毛皮に包まれたまま早速炬燵に入り込む大樹に言う。
「酒で温まれないなら他ので温まるしかないじゃない?」
はー、ぬくい。と幸せそうな返事が来て、クラウディオは小さく息を吐きながら、セラフィムはクスリと笑いながら炬燵に入った。
そこへ、諸々のご馳走を持ってきた仲間が戻ってきた。
「炬燵まで……ったく、寒がりどもめ、これでも着てろー」
呆れた様子で全員に半纏を配るのは秀。
「俺達どてら借りちゃったからいいよ」
ローレンツが遠慮するが、ロキは既に使っていた。どてらを着込み、半纏を前身に羽織り、そして炬燵にお邪魔する。
「完璧だ」
ぬくぬくを満喫しているロキに、「ああうん、ロキがいいならそれでいいや」と同じ格好になった。
炬燵の上にはご馳走が並ぶ。おせちにお菓子に果物に、そして忘れちゃならない大人の飲み物。
「これがおせちか……」
目を輝かせるロキに、ローレンツは青磁の銘々皿と箸を渡す。
「ロキ、ほら小皿使って」
「いろいろ種類もあるし」
渡された箸で気になるものを皿にのせていく。そして、まずは艶やかにとろりと輝く、黒豆を一つ。
「美味い……」
もぐもぐと堪能しているロキの向かいには、同じようにお煮しめをもぐもぐと堪能しているセラフィム。
「うっめーっ! セラももっと食え」
そしてセラフィムの横隣には、色々な味の餅を食べながらすすめてくるタイガだ。
「十分食べてる」
苦笑しながらも、セラフィムはあんころ餅ののった皿を受け取る。
「やっぱ冬といったら炬燵にみかん。あと出来ればお汁粉だよなー。家の炬燵は戦場でさ。うるせーしゆっくりできねぇんだ」
幸せー、とくつろぐタイガに、セラフィムは自分の心も温かく満たされているのを感じる。
大勢で新年会の料理だなんて、初めての経験だ。
ドキドキして、だけどタイガの笑顔にほっとして、そして仲間達との会話が楽しい。
「お酌でもしましょうか。好きなの取りますよ」
前にいるロキに尋ねれば、セラフィムの側に並ぶ瓶を見る。
「酒はそうだな……日本酒で」
「日本酒も初めて?」
おせちが初めてならば、とローレンツが聞けば「いや日本酒は飲んだことはある」との答えが返ってきた。
「どっかの飲み会だったかで飲んで美味かったからな」
「……ふぅん」
「ローレンツさんも飲む?」
大樹が手持ち無沙汰そうなローレンツに声をかける。
「あ、お酒? じゃあ俺は梅酒ください」
底の浅い大口のグラスに、カラリとロックアイスを二つ。そこへ大樹は琥珀色の梅酒を注ぐ。
「5月になったら俺も飲めるのに」
酌をしながら呟いて、ちらりとクラウディオを見る。
「フライングは……」
「それは駄目だろう。未成年の飲酒は禁止されている。法だけではない、まだ体が出来上がっていないのだから、今飲んだら大樹の体にも負担が……」
「はいはい、駄目だよね。わかってるって」
そんな二人のやりとりをセラフィムはクスリと笑いながら見ている。
「クラウディオは、お酒は?」
セラフィムに問われれば、至極真面目な顔での返答がくる。
「私は飲まない。飲めなくは無いが、アルコールを摂取すると思考が鈍る。大樹の護衛に支障が出てはいけない」
「あのさぁ、クロちゃん。今日宴会なんだけど」
「任務の遂行はいついかなる時であろうと当然の事だ」
「……ああそう」
諦めたように、大樹の口調が更に棒読みになる。それがおかしくて、ロキもローレンツもセラフィムも、クスクスとくすぐったい笑いが止まらない。
■良き年となりますよう
「あ。そうだ19歳になったんだった」
ふと、大樹を見ていて自分の年を思い出す。そういえばつい先日同じ年になったのだ。
これに驚いたのは大樹、よりもパートナーであるタイガだ。
「誕生日なのか!? セラ!!」
「そうだよ」
「おー、19歳仲間いえー」
「親近感わくね」
パチリと緩いハイタッチをする二人の横で、タイガはあわあわと身の回りのものを探る。持ってきた荷物、ポケットの中、けれど何処にも誕生日プレゼントに相応しいものはない。
(何か、何か送りたいんだけどな)
ぐるぐると思考を駆け巡らせてもいいアイディアが浮かんでこない。
(俺! を送っても、駄目だと思うし、何よりセラが喜ぶモノっ……!)
「っ浮かばねぇ!」
思わず口をついて出た叫びに、セラフィムは察して苦笑する。
「……気持ちだけで十分だよ。いつも感謝してるから」
(今日ここでの思い出をもらえたのも全部)
いつだってタイガなのだ。その優しさで自分を包み、その行動力で自分を外へ連れ出す。新しい場所を見せてくれる。一緒に行ってくれる。
(もしも願うなら、また今日みたいに手を引っ張って欲しいなって……)
「?!」
セラフィムが思ったまさにその瞬間、タイガが炬燵の中でぎゅうっとセラフィムの手を握った。
「俺はもっとなっ。もっと…セラを喜ばせてーの!」
真っ直ぐな眼差しセラフィムの心に強く響いた。
(もう、これ以上ないくらい、嬉しいっていうのに……)
セラフィムの頬が熱くなる。感謝の気持ちと一緒に溢れ出てくるこの思いは何だろう。
今、タイガは間違いなく、セラフィムの世界を動かしている。
くいっと何杯目かのお猪口を空にすると、ロキの頬は花のように色づいた。そして笑顔でおせちのかずのこをつまむ。
「……去年一緒に過ごして気付いたけど、ロキはほんと美味しいもの食べる時は幸せそうだよね」
「何だ、駄目か?」
「ダメとかじゃなくて、それでいいと思うよ」
だけど、気付いてるだろうか。いいや、きっと気付いているのは、ロキを見ている自分だけだろう。
(ご飯食べてるの時のロキってすごく幸せそうなんだけど、どこか寂しそうでもあるんだ)
その寂しさは何処から来るものなんだろう。教えてくれないだろうか。そして、俺ではその寂しさは消せないだろうか。
ローレンツがそんな事をぼんやり考えていると、ロキがコツリと自分のお猪口にローレンツのグラスをぶつけた
「こんな風に温かい感じで過ごすっていうのはなかったからな……憧れてはいたんだ……ローレンツが来てからはいろいろ願いはかなったよ」
少し浮ついた口調は、ほのかに酔っているせいだろう。しかし、酔っているからこそ、ロキの素直な思いが出る。
「俺は一緒に飯食うだけでも結構幸せなんだ。ローレンツ……今年もよろしく頼むぜ」
ロキが微笑み、ローレンツも微笑み返す、
「……俺もさ、誰かと一緒に過ごすのって久しぶりだったから楽しかったよ。誰かと食べるご飯は最強だ。だからね、今年もよろしくね」
誰かと一緒に、これからもご飯を食べたい。いや、誰か、ではない。
(ロキは俺以外でも大丈夫だろうけど俺は)
他の誰でもない、ロキ・メティスと一緒がいい。
人が多ければ料理が減るのも速い。
もう少し食べたいと大樹とクラウディオ、そしてイグニスが料理を取りにいった。
その途中、イグニスが少年にぶつかる。
人のように見える。しかし、人らしくない。
「あれ、妖怪さんですか?」
そういえばここには妖怪が紛れ込んでいるのだ。いや、妖怪の方が多いかもしれない。そう思って尋ねると、少年はこくりと頷いた。
「どれが一番美味しかった?」
一番、といわれて、イグニスは咄嗟に秀が普段作る料理を思い浮かべてしまった。だが、質問が違う。ここに並ぶ料理の中で、だ。
「どれもおいしいですよ、食べます―――」
か? と続けるはずが、少年のにたぁ、という笑顔と吐き出された言葉で止まってしまった。
「ああ、お前神人の事『大っ嫌い』だろう!」
イグニスだけでなく、側にいた大樹もクラウディオも驚いて少年を見る。
「……おおおすごい! 噂の天邪鬼さんですね!?」
すぐにイグニスが少年の招待に気付く。それで大樹とクラウディオも思い出す。
「そういや紛れてるんだっけ。覚に、天邪鬼ねえ。あ、栗きんとん食べたい」
害は無し、と判断した二人は、はしゃぐイグニスに対応を任せて、料理を選んでいく。
「大樹、もっとバランスよく……」
「他にも食べるよ? お菓子だけで宴会過ごす気ないし。クロちゃんそれも取って」
例えば、この少年が自分の心を読んだとして、それで何が困るだろう。
(クロちゃんがくそ真面目だなって思ってるのは本当だし。ちょっとは認めてきたのがバレたところで特に問題は……)
「そうかそうか、お前クラウディオの筋肉が全然『羨ましくない』のか」
その声は、大樹の思考を停止させた。
イグニスが面白いでしょう、と少年を抱えて笑顔でこっちを向いている。少年はニヤニヤと笑っている。
数秒固まってからギッとクラウディオを睨めつけて威圧する。
「忘れろ」
しかし、クラウディオに大樹の威圧など効かない。
「筋肉?」
「いいから忘れろ」
もうここまではっきりばれてたら忘れようもないだろうが、大樹は未練がましく忘れろと繰り返す。
認めたとか、嫌いじゃないとか、そういう事ならばれても恥ずかしくも何ともなかったのに。よりにもよって気にしてるポイントとは。筋肉羨ましいなんて、そんな事は知られなくていい。
「気になるのなら、共に鍛えるか?」
しかしノーデリカシーのクラウディオは更に突っ込む。
どうしてくれよう、この自称護衛。守るべき相手の心を護ってない。
「……全然筋肉つかないんだよ。流石にあんたの鍛錬にはついてけねーから」
口調を荒らして答える大樹に、クラウディオはふと、出会ったばかりの頃を思い出した。最初の頃の大樹はとても口調が荒れていた。今ではそんな荒れた口調ではなくなったのに。
(また口調が荒れたな)
クラウディオはどうした事かと首を捻る。
荒れた口調が最近出なくなった理由が、クラウディオを認め出したからだとは、もうこの関係を投げやりに思ってはいないからだとは、わからず。
とりあえずはと、大樹の為に栗きんとんを多めに取った。
目の前で大樹とクラウディオの空気がちょっと変わった事に気付いたものの、仲がいいからこその気恥ずかしさだと判断したイグニスは、抱えた少年を高い高いするようにして褒めた。
「わーほんとに正反対だーすごいすごい! 初めてですこんなの! すごい! 皆にも教えたい! すごいすごい!」
イグニスの言葉は心からの賞賛だった。
だが、その賞賛は天邪鬼には死ぬほど恥ずかしいものだった。
「ちょっと秀様にも紹介しましょう……あれ?」
一旦下ろされた天邪鬼は、もう耐えられないと人ごみへさっと逃げた。
「あれ、どっかいっちゃった?」
天邪鬼が走り去った方を覗いてみると、そこにはさっきと同じような少年がいた。
「あ、いたいた、行きましょう!」
少年の腕を掴み案内する。少年はきょとんとして着いていく。
ちなみに、大樹は「他の人も恥ずかしい思いをすればいいよね」と連れて行く事に大賛成だったようだ。
「あ―――!!」
炬燵に戻れば、真っ先に反応したのはタイガ。
「お前! 夏祭りの時、射的で負けた奴だろ!」
タイガの言葉でセラフィムも思い出す。そして自分の荷物の中から夏祭りの時に射的で取った虎のぬいぐるみを出す。
「この子を取った時の。久しぶり偶然だね」
「ああ!」
「こんな所で会えるなんて思わなかったぜ。また勝負でもすっか?」
「こら、タイガ」
どうやらセラフィムとタイガは夏に会った事があるようだ。
少年は二人に向けて不適に笑う。
「へっへん、もう年が明けたからまた人の心を暴いてやるぜ」
「またお前はー!」
「相変わらずだね」
談笑を始める三人は微笑ましい。微笑ましいが、しかし。
「……で、お前その子はどっから連れてきたイグニス……」
未成年を拉致とか法律的にも社会的にも色々アウトだ。そんな思いで秀が訊けば、イグニスは少年の頭を撫でながら褒める。
「秀様この子すごいんですよ、なんと心を―――」
「お前、『本当は精霊と一緒にいたい』と思ってるだろう。『離れるのが怖い』と思ってるだろう」
「……っ!?」
イグニスの言葉を遮って紡がれた声は、秀を酷く動揺させ、持っていた湯呑を落としてしまう。
予期せぬ音にビクリと体を飛び上がらせて、少年は慌ててその場から逃げ出した。
「え!? あ、逃げちゃった!」
「……あ、やべ割っちまった……くそ、どこいったあいつ……」
皆が割れた湯呑を片付けようと動き出す中、イグニスだけが立ちすくんでいた。
だって、今の発言は。
(天邪鬼さんということは、今の秀様の思ってたことって嘘……)
『一緒にいたい』『離れるのが怖い』その逆は、つまり。
泣きそうに心が締め付けられたイグニスは、縋るように秀を見て、そこで異変に気付く。
「あれ?」
「なんだよイグニス」
答える秀は割れた湯呑の欠片を拾うのに集中しているのか、イグニスの方を見ようとしない。イグニスから見えるのは横顔どころか斜め後ろの輪郭と耳くらいだ。
それでも、そこからでもわかるほど。
「秀様顔赤いですよ?」
言われた秀は一瞬動きを止め、けれどすぐに動き出す。
「顔が赤い? 酒のせいだろ!」
言い捨てて欠片集めに集中する。いや、集中している振りをしていた。
自覚していなかった。しないように目を逸らしていた。
いつのまにか心地よくなっていた関係。それでも、いつか手を放す日が来るのだと、その時まで一緒にいられればそれで満足だと、そう思っていたのに。思っていた筈なのに。
―――『本当は精霊と一緒にいたい』と思ってるだろう。『離れるのが怖い』と思ってるだろう
(これが、本心?)
「反則だろうあいつら……!」
秀の反応をじっと見ていたイグニスは、その小さな呟きも聞き逃さなかった。
(……もしかして、途中で入れ替わった? さっきのは覚さん? ということは……)
紡がれた言葉の意味に気付いて、イグニスは満面の笑みになるのを止める事が出来ない。
後でセラフィムとタイガに確認を取ろう。そう思いながらも、イグニスは確信していた。さっきの言葉が秀の本心だと。
(いつか、秀様の口から……)
そんな事を願いながら、イグニスは「秀様、かわりの湯呑持ってきましょうかー?」と元気に声をかけた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:初瀬=秀 呼び名:秀様 |
名前:イグニス=アルデバラン 呼び名:イグニス |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 青ネコ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月29日 |
出発日 | 01月05日 00:00 |
予定納品日 | 01月15日 |
参加者
会議室
-
2015/01/03-20:35
>セラフィム
ん。じゃあ、セラフィムって呼ばせて貰うよ。
>炬燵
そいじゃくっつけるねー。
俺も他にも人が来るのはおっけーだよ。宴会だし。
後はそうだなー。毛皮も気になるから一つ頼んでみようかな。
どんな毛皮が出てくるか気になるし。
ほら、俺って好奇心旺盛だからさ。
クラウディオ「……」 -
2015/01/03-18:14
僕らは覚たちと縁があったからね。・・・心の声読める妖怪はやっかいだけど
依頼じゃないなら穏やかに過ごせそうだし(多分)
(初瀬の心遣いがすごくてっ)
>大樹
タイガ『おう!頼むつもりだぜ~。くっつけるのもいいな、了解だ!
あっとできるかわかんねーけど、他の奴らもウエルカムって書いとくっ』
そうだ、僕1月4日で19歳になるんだった・・・(今気づいた)
大樹と一緒なんだね。ああ、呼び捨てで構わない
・・・・・・・・言ってしまえばあまり敬語や「さん付け」は苦手だしね。言われるのは -
2015/01/02-14:26
明けましておめでとう…。
ロキとローレンツだよろしく頼む。
俺もローレンツも成人済みだからな…酒を飲ませてもらうと思う
新年から醜態をさらさない用にはしたいが。
どてらも温かそうだな…。 -
2015/01/02-14:04
あけましておめでとう。初瀬とイグニスだ。よろしくな。
立派な成人なんで遠慮なく飲酒させてもらうぜ。
前後不覚になるほどは酔わないからその辺は安心してくれ。
夏頃の縁もあることだし、とりあえずは異獣の様子見だな。
……いやまあ、風邪引かれるよりはいいか……
(一応人数分の半纏でも頼もうかと思ってる) -
2015/01/02-13:19
ん?
タイガくんも炬燵頼むの?
なら、小さい炬燵ならくっつけて一緒にまったりとかどうかな。
よく見れば、セラフィムさんて俺と同年なんだね。
セラフィムって呼んでもいい? -
2015/01/01-23:38
:タイガ
よっす!俺、タイガと相棒のセラだ!よろしく頼むぜ!
俺らも未成年だー。あと2年たてばなあ~。
大樹、よく言った!男だな!俺も炬燵たのもうかと思ってた
これでぬくぬくで過ごせーー・・・ってあれ・・・?
一組に一炬燵の大きさかな、これ。だったら俺らも頼むか
もし共同でつかえて、入れてもらえるなら、半分もちてーけど・・・んー
とりあえず仮プランで書いてみっかー
あっと、カルタとか遊び道具もダメもとで持っててみるぞー
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2015/01/01-18:25
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2015/01/01-18:14
やっほー。(右手をひらひらを振る
柳大樹でーす。
皆さん、よろしく。
まだ未成年だからアルコール摂取できないのが残念だよ。
えーと、火鉢しかないのか。
よし。ここはいっそ炬燵頼むわ、俺。