ノックアウト☆煩悩!(寿ゆかり マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「除夜の鐘?」
 ショートヘアの受付嬢が聞き返す。
「そうっ。ちょっと変わったお寺があってね……」
 うわさ好きの女子の会話。大体いつもこんなもんだろう。
「除夜の鐘を鳴らすときって、今年の厄払い!来年もいい年になりますように!ってかんじじゃん?」
「うんうん」
「ま、本来煩悩を振り払え!ってやつらしいんだけど」
 くるくるとペンを回しながらボブヘアの受付嬢が言う。

「なんと。二人でその鐘を突きに行くと、想ったことが相手に伝わっちゃうらしいよぉ~!」
 ロングヘアの受付嬢がおののいた。
「えぇー!?やばくない!?それ、やばくない!?」
「やばいよねぇー!?でも、噂程度だし?」
「超気になるー!」
 キャッキャし始めた。女三人寄ればなんとかってやつだ。
「ねね、それ、ウィンクルムの皆さんにたしかめてもらおーよ!」
「あんたねー、そうやって……ウィンクルムさんは実験台のなんでも屋さんじゃないんだよ!?」
 ショートヘアの受付嬢がロングヘアの娘に裏手ツッコミを入れる。
「でもさでもさ、交通費とかはほら!いつもお世話になってるしちょっとこっちで何割か負担してー」
 女子の噂好きというのは加速するもの。誰にも止められない。
「OK!あたしが広告作る!」
 ボブヘアの受付嬢が広告を打った。

******
『年越し!除夜の鐘ならしに行きませんか?
 参加費:お一組さま200Jr(シャトルバス運行)
 鐘をつく際のマナー:静かに、今年一年を振り返りながら
           振り払いたい邪念や克服したいこと、
           感謝していることや来年への抱負を思い浮かべましょう

                 暖かいお汁粉・甘酒のご用意も(各100Jr)』

解説

目的:「除夜の鐘で煩悩を振り払え!」
参加費:お二人で200Jr(交通費です)
会場にお汁粉と甘酒(各100Jr)も用意して御座いますので、
鐘を鳴らし終わったらご賞味いただくのも良いですね。
お賽銭も金額を明記頂けましたら描写します。

*ウィンクルム達には、「思ったことが相手に筒抜けになる」ことは知れていません!
 ですので、えー!?こいつこんなこと思ってたん!?というようなことが起こりえますね!
それを追及するもしないも皆様次第。不思議な鐘は気まぐれなので、あまり過激な内容となりますと伝わらないこともございます。ご了承ください。
*鐘をつくのは一人一回です。つまり、お二方各一回ずつ。お二方考えていることが互いにわかっちゃうよ、ということです。隅々まで知れる、というよりは断片的に伝わる。と思ってくださるといいかも。(あんまり長い内容だと端折られちゃいます。鐘の力はそんなに強くないもんで……)
*日頃のパートナーへの感謝、一年こんなことあったなーなんて振り返り、
 来年もよろしくね!という心。鐘を鳴らすとき、どんなことを考えますか?
 プランに、神人さん、精霊さんの思っていることを書いてしまいましょう。
 (公序良俗に反しない程度に)あ、お賽銭の金額は伝わりやすさには影響なしです。
 暖かな心を楽しみにしております。(もちろん、煩悩だっていいぜ!)



ゲームマスターより

煩悩の数?108!?足りない、足りないぜぇー!と叫ぶ寿です。
来年も、皆様にとって良いお年になりますように。
願いを込めて、鐘を鳴らしましょう!
ちなみに煩悩=108ってちゃんと意味があるんですってね。むつかしい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

木之下若葉(アクア・グレイ)

  ん。そう、除夜の鐘
俺も知っているだけで実際行った事は無いから
良い機会だと思ってね

アクアと並んで夜道を歩く
ん。そうだね。でも毎日が濃いから
早いんだけれど遅いみたいな不思議な感覚もあるや

今年一年に感謝をして
来年への願いを込めて鐘を鳴らす
『無病息災』
アクアも自分も怪我無く元気で居られるのが一番だよね

アクアの番だよ、と見ていたんだけれど
ん?これってアクアの考えている事なのかな
何となくそんな気がしたのだけれど、どうなんだろう

お賽銭を投げてからお汁粉を手渡し夜空を見上げる
何気なく手を伸ばして触れたものはアクアの髪で
それが何だか当たり前になってしまった自分が居て

アクア、来年と言わず一緒に居られるよ。きっとね



羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
  バスで眠り込んだ相手を揺り起こし、お寺の中へ
目は覚めてきた?そっち側に寝癖が付いてるよ
近付いた顔に一瞬の逡巡、そっと指先伸ばして乱れた髪を梳き

お汁粉と甘酒は後にして鐘鳴らしへ並ぼうか
孤児院以外で年を越すのは何年ぶりだろう?
間近で聞く鐘の音は厳かで、身が引き締まる思いがするなぁって

鐘を前に一度手を合わせ
【この手で大切な人達を守る為に、俺はもっと色々な事を知りたい】
オーガやギルティの事、AROAの事
己の無知さを何も行動出来ない理由にしたくない

二人分の賽銭(100Jr)を入れ穏やかな日常に感謝を
明けましておめでとう、今年も宜しくお願いします
…一年の終わりと始まりを貴方と過ごせて良かった(ぽつりと呟き



スウィン(イルド)
  煩悩を振り払う…煩悩…何かしら?惰眠?
寒いと眠くなっちゃうわ…ダメダメしゃきっと!

今年一年にあった事
遊びでは、夏に水鉄砲で遊んだけど、泳がなかったわねぇ
まだちょっと遠いけど、来年の夏は一緒に泳ぎたいわ
依頼では、おっさん達も結構強くなったわよね
守ってもらう事が多かったけど
ハイトランスを覚えたし、もう守られるばっかりじゃない
イルドがおっさんを守りたいって思ってくれてる事は知ってるけど
おっさんだって同じ気持ちなのよ。守らせてね
…来年もよろしくね、大事なパートナーさん

(イルドの考えが伝わってきてぱちくり)
ちょっと変わった鐘だったって事かしら?
(追求せずにこっと笑って)
「…お汁粉食べに行きましょうか?」


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  御節も作ったし飾付けも昨日済ませた
あとは年越しソバを茹でて…

え?除夜の鐘?AROAが何故?(疑念
そうだな。偶には良いよな(エプロン外し

◆突き
一打一打丁寧に突きたい

まさか男を好きになるとは思ってもなかったよ
けどホモじゃないから!
たまたまランスが男だっただけだから
…って煩悩になるのかこれも(いかんいかん

ランスが大学に合格しますように
…これじゃ願掛けだよ(汗
なんでこんなに顔がチラつくんだよ(汗

無心になれ俺⇒以降無心

◆伝わってきたら
だったら良いなっていう俺の願望なのだろうか
…悪い気はしないけどさ

む?)
ランス、ツマミグイしちゃダメだろ
お見通しなのだよ

★甘酒でほかほか

*賽銭はランスの合格祈願も兼ねて千Jr



鳥飼(鴉)
  一度ついてみたかったんです。
鴉さんは、やっぱりこういうのは嫌いですか?
ごめんなさい。僕の我侭で。
ふふ、ありがとうございます。(気遣われたのがわかりお礼

僕からやりますね。
『鴉さんには助けられてばかりです。来年は僕も鴉さんを助けれるように頑張ります』
わわ、流石に響きます。

鴉さん、どうしたんですか?
鐘に何かあるんでしょうか。(首を傾げ
『怪我が無ければ良い』……鴉さんの気持ち。
まだ心配してくれてたんですね。

ふふ、僕って信用ないですか?(心配が嬉しく楽しそうに笑う
的外れでも、僕が今嬉しいのは確かですし。
だって、心配してくれたのは本当ですよね?(にっこり

(鴉さんは優しいです)
甘酒を貰って来ますね。(2人分



 “不思議な力を持つ鐘”の寺に、一組のウィンクルムがやってきた。
「ジョヤノカネ、ですか?」
 小さく首を傾げて神人を見上げたのが精霊のアクア・グレイ。神人の木之下若葉は頷いて答えた。
「ん。そう、除夜の鐘」
「話には聞いた事がありますが実際参加するのは初めてです」
 アクアは期待に胸を弾ませながらキョロキョロと鐘を探す。
「俺も知っているだけで実際行った事は無いから、良い機会だと思ってね」
 にっこりと笑う若葉の唇から、白い吐息が漏れた。
「わあ!息が真っ白です」
 アクアがそう言って自分もふう、と息を吹けば、同じように真っ白な吐息。
「季節の巡りは、本当にあっというまですね」
 ふわ、と舞う粉雪がアクアの頬にかかり、すぐに消えてゆく。
「ん。そうだね」
 夜空を見上げて若葉が小さくこぼす。
「でも毎日が濃いから、早いんだけれど遅いみたいな不思議な感覚もあるや」
 アクアがうんうん、と頷いた。
「ふふ、それも解ります!毎日がぎゅっとしてますものね」
 ウィンクルムとしての任務をこなす日々、他愛ない日常、大切なパートナーとして過ごす穏やかな時間、どの要素をとっても、濃いものばかりだといわんばかりに。
 鐘の前の列に並び、順番が巡ってくる。若葉から鳴らす、ということで、アクアはやりかたを学ぼうと真剣な瞳でそれを見守った。
 ごぉん、と重く、澄んだ音が冬の空にこだまする。
『無病息災』
「……?」
 アクアの耳に、何か聞こえたような気がした。
『アクアも自分も怪我無く元気で居られるのが一番だよね』
 聞きなれた優しい声が聞こえたような。……その声の主は鐘を突きおわって手を合わせ、こちらに向き直ったところなのだけれど。
(すごくワカバさんらしい内容……それに僕の事も考えてくれるってくすぐったい気がします)
 少し照れながらアクアが前に歩み出る。
「アクアの番だよ」
 若葉が促すと、アクアも鐘の前に進み出る。
『来年もワカバさんと一緒に過ごせますように』
 若葉と同じ鐘の音に合わせ、アクアの思いが若葉に伝わる。
 アクアを待っている若葉はふとアクアに向き直った。
(ん?これってアクアの考えている事なのかな……?)
 何となくそんな気がしたのだけれど、どうなんだろう。
『これも煩悩でしょうか?』
 んー、と困ったように笑いながら合掌し、一礼するアクアが目に飛び込んでくる。
(……やっぱり、そうかな?)
 アクアに気付かれないよう、若葉は小さく笑って。
 並んで賽銭箱にお賽銭を投げいれ、列に並んでお汁粉を受け取る。
「はい」
 寒さに真っ赤になったほっぺたのアクアが若葉の手からお汁粉を受け取り、ふぅ、と息
を吹きかけて一口。
「あったかいです……。ワカバさんも、どうぞ」
 受け取って一口。あつあつのお汁粉を飲んだ後の呼気と、真冬の夜の寒さの温度差で二
人の眼前に真っ白い雲が一瞬出来てすぐに消える。
 澄み切った冬の星空を見上げれば、深い藍色に銀の星々が無数にちりばめられている
町の喧騒から離れたこの場所はそれが本当に際立つ。綺麗だ。そんな風に思いながら若葉
がふと手を伸ばした先にあるのは……。
「……ふふ」
 アクアの髪で。柔らかな彼の髪を撫でるのが、当たり前になっていて。
それを受け入れて微笑むアクアもまた、若葉の日常の一つとなっていた。
(……暖かいです……)
 撫でられることにほわりとした幸福感を感じて、アクアは自然と笑顔になる。
「アクア、来年と言わず一緒に居られるよ。きっとね」
 そっと瞳を覗き込んで伝えれば、もう年をまたぐ頃。
「今年も宜しくお願い致します、ワカバさん!」
 とびきりの笑顔で二人は新年を迎えた。

「本当に催し物が好きですね、主殿は」
 小さくため息をつきながらやってきたのは精霊の鴉。その横でにこにこしているのはその神人の鳥飼だ。
「一度ついてみたかったんです」
 見るからにウキウキしているのがわかる。
「鴉さんは、やっぱりこういうのは嫌いですか?」
 ふと不安げな顔でこちらを見る鳥飼に鴉は答える。
「一人で過ごす方が好きでして」
「ごめんなさい。僕の我侭で」
 その謝罪に、鴉は目を逸らしぽつりと答えた。
「……嫌なら、まず最初に断っていますよ」
 どうにも、居心地が悪い。
「ふふ、ありがとうございます」
 そんな風に笑って礼を言われては、……どうにも、むず痒い感覚が走る。
(……ああ、やはり苦手なタイプだ)
 鐘の前に到着すれば、鳥飼はまず自分から、と鐘の前に歩み出て一礼。
「僕からやりますね」
 鴉が頷くと、綱を持って豪快に鐘を突く。
 ごぉおん、と低く、重々しい鐘の音が響く。それと同時に……。
『……僕も、鴉さんを助けれるように……』
 鴉の耳に、鳥飼の声がとぎれとぎれに聞こえた。
(鴉さんには助けられてばかりです。来年は僕も鴉さんを助けれるように頑張ります)
「わわ、流石に響きます」
 自分で鳴らしながら鳥飼はその音の大きさに少し照れくさそうに鴉の元へ戻ってくる。
(これは……、もしやこの鐘の効果ですか)
 鴉は思案顔でその声を分析し、額を押さえて小さくため息をついた。
「主殿は、まだそのような……」
 小さな声でつぶやく鴉に鳥飼は不思議そうにその顔を覗き込んだ。
「鴉さん、どうしたんですか?」
「いえ、何でもありません」
 あ、と鴉は付け足す。
「そうですね、職員に謀られたと言ったところでしょうか。私が鐘をつけば、主殿もわかります」
 鐘になにかあるんでしょうか?と首を傾げる鳥飼をよそに、鴉は鐘の前にずいと進み出て控えめにその鐘を鳴らした。
(……どこまで伝わるのやら)
『……と契約する物好きな主殿に、これ以上の怪我が無ければ良い』
 低い鐘の音と共に鴉の願いが神だけではなく鳥飼に伝わる。
(……鴉さんの気持ち)
 鳥飼はふと胸がいっぱいになる。
「まだ心配してくれてたんですね」
 戻ってきた鴉に嬉しそうにそう伝えると、鴉はふいと視線を逸らした。
「お互い、怪我はない方がいいでしょう」
「ふふ、僕って信用ないですか?」
 心配してもらったことに上機嫌でとても楽しそうに笑う鳥飼の様子は、鴉にとって好ましいものではなく。
「勝手に喜ばれませんよう。“主殿を”心配している、というか……」
「的外れでも、僕が今嬉しいのは確かですし……だって、心配してくれたのは本当ですよね?」
 屈託のない笑み、すべてを肯定的にとらえる姿勢、全てが……。
(……やはり、苦手だ)
「一部だけで判断してよろしいので?」
 鴉は胡散臭い笑みを浮かべ、鳥飼の瞳を覗き込んだ。そして、更にその口角を釣り上げる。
「いつか、その思考に足元を掬われますよ」
 そしてじっと瞳を見つめ続ければ、鳥飼がまたにっこりと笑う。そして、何も言わず頷いた。
(鴉さんは、優しいです)
「甘酒を貰ってきますね」
 寒いでしょう、と鳥飼が鴉から離れる。そして、数分と経たずに二人分の甘酒を持って戻った。
「はい」
 優しく手渡されたそれは、暖かく。甘い香りが鼻腔を擽る。
「……ありがとう、ございます」
 受け取って、ふと思うことは。
(……そんな人の手をとったのは、私か)

「煩悩を振り払う……煩悩……何かしら?惰眠?」
 夜道を精霊と並んで歩きながら鐘へと向かうのは神人、スウィン。
 煩悩がいまいちなんだかよくわからず、考えればあれもこれも煩悩なのではないかという気すらしてくる。
「おっさん大丈夫か。なんか船こいでないか?」
 そんなスウィンの足もとを心配しながら歩くのが精霊、イルド。
「寒いと眠くなっちゃうわ……ダメダメしゃきっと!」
 神様の御前にでるんだからねぇ~、なんて言いながらスウィンが笑う。
 係員に、今年あったことや克服したいこと、来年の抱負を胸に鐘を鳴らしてください、なんて言われて、スウィンは少し考え込んだ。
(遊びでは、夏に水鉄砲で遊んだけど、泳がなかったわねぇ……まだちょっと遠いけど、来年の夏は一緒に泳ぎたいわ)
 合掌し、頭を下げながらそんなことを思い出し、来年こそは、と意気込む。
(依頼では、おっさん達も結構強くなったわよね。守ってもらう事が多かったけど……)
 その傍らで、イルドも合掌し、頭を下げながらこの一年を思い浮かべていた。
(今までの依頼、うまくいったやつばかりじゃなかった。サルーン村ではオーガは倒したがウィンクルムを名乗っていた怪しい二人を逃がした)
 反省が、多い。イルドは考えながら唇をかみしめる。
(氷の牙退治では、真冬の川に落とされた挙句逃がした)
 その失敗は、一体誰のせいだ?そう考え、更にイルドは眉間にしわを寄せた。
(俺は体は鍛えてるが頭を使う事は苦手だ。おっさんがフォローはしてくれるが……)
 ちらり、と横を見やるとまだ目を閉じて祈るスウィンの姿がある。
(いつかそのせいでおっさんを守りきれない事があるかもしれない)
 ふと顔を上げ、先に鐘を鳴らすはずのスウィンを見てイルドは苦笑いした。
「おっさんまだならさねーのかよ」
 随分いっぱい願い事してんのな?と微笑むと、スウィンがすっと顔を上げ、鐘を鳴らした。
 澄み渡る冬の寒気に、重く鐘の音が響く。
 続けて、イルドも同じように鐘を鳴らした。
 その時。
(ハイトランスを覚えたし、もう守られるばっかりじゃない)
『……がおっさんを守りたいって思ってくれてる事は知ってるけど、おっさんだって同じ気持ちなのよ。守らせてね。……来年もよろしくね、大事なパートナーさん』
 鐘の音に合わさって聞きなれた“おっさん”の声がイルドの耳に伝わる。
『いつかそのせいでおっさんを守りきれない事があるかもしれない。
 ……それは避けねーとな……俺が、スウィンを守る』
 同じように、スウィンの耳にもイルドの声が聞こえた。
 瞬間、イルドの頬がじんわり赤く染まる。
(今の……っ、今の、おっさんのっ……スウィンの、声……ッ)
 その思いが嬉しくて、胸がきゅっと締め付けられる。……と、同時に……。
「……」
 スウィンが傍らで目をぱちくりさせている。
(ちょーっと変わった鐘だった、って事かしら?)
 もちろん、こちらだって嬉しくて胸が温かくなる。
 イルドは自分の思いもダイレクトに伝わってしまったのかという気恥ずかしさでこの寒さの中でもはっきりと頬が熱かった。
「……お汁粉食べに行きましょうか?」
 追求せず、にこっとわらったスウィンに、今日はからかわないんだな、とありがたく思いながらイルドは照れくさそうに答えた。
「……おう」
 なにやら気恥ずかしいけれど、来年も傍でこうやって甘いものを食べたり、任務をこなして。そうやって過ごしていけたら。

「ほら、もう着くよ」
 バスの中で眠ってしまった精霊、ラセルタ=ブラドッツを揺り起こし、神人、羽瀬川千代は寺の前に降り立つ。
「余所の車内で転寝したのは初めてだ」
 寝不足なの?という問いにラセルタは小さく首を横に振る。
「寝不足ではない、千代の隣は気が抜けて眠くなる」
 小さく笑って千代はラセルタの髪の異変に気付いた。
「目は覚めてきた?そっち側に寝癖が付いてるよ」
 む、と直そうと己の手を見るとそこには手袋。外すのを億劫に思い、彼は少し身をかがめた。近づいてきた顔に一瞬の躊躇を見せたが、千代は指先を伸ばしその銀色の髪を直してやった。
「はい」
「ん」
 鐘の列に並びながら、ぽつりとラセルタが呟く。
「鐘の響く静かな年越しも悪くないものだ」
「孤児院以外で年を越すのは何年ぶりだろう?」
 千代が小さく笑ったのをラセルタは見逃さなかった。
「間近で聞く鐘の音は厳かで、身が引き締まる思いがするなぁって」
 ね?とラセルタの顔を覗き込む千代に、ラセルタは上機嫌で鼻を鳴らした。
「……今年は俺様と過ごす時間を優先させたと、そういう事だな?」
 先ほどまでの眠気はどこへやら。
(まあ、そういうことになるけどね)
 千代は口にこそ出さないが、ふふ、と笑って鐘の前で手を合わせる。
「じゃあ、俺から」
 ラセルタが頷くと、千代は静かに、けれど強く鐘を突いた。
『この手で大切な人達を守る為に、俺はもっと色々な事を知りたい』
 ラセルタの心に、そのまま千代の言葉も響く。
『オーガやギルティの事、A.R.O.A.の事、己の無知さを何も行動出来ない理由にしたくない』
 静かに、けれど確かな思いは厳かな鐘の音とまじりあい、ラセルタに深く深く響く。
(変化を恐れる癖に、あくまで自分の意思で前へ進む道を選ぶのだな)
 その聞こえてきた願いは明らかに千代のものであると確信し、ラセルタは続いて鐘を鳴らした。
『もっと俺様を頼れ。千代の大切なものも共に守り抜いてやりたい』
 深く、重く、美しい鐘の音と共にラセルタの願いが千代に伝う。
(……!?え、これは……)
 聞こえた願いの声はラセルタのもの。聞きなれたその声と自信に満ちた声色。
 嬉しいけれど、気恥ずかしいような。伝えようにも伝えられないもどかしさに千代は戸惑い、ラセルタの瞳を見やった。自信ありげな笑みがそこにある。その笑みと共に頷かれ、不思議な安心感に心が満たされていった。
 そのあとは、賽銭箱に二人分の賽銭を投げ入れる。それは、穏やかな日常や些細なことへの感謝の気持ち。時計の針が12時を指し、日付が変わったときに千代がしっかりと頭を下げた。ラセルタも、む、と頷き軽く会釈する。
「明けましておめでとう、今年も宜しくお願いします」
 その言葉に、付け足すように小さく。
「……一年の終わりと始まりを貴方と過ごせて良かった」
 蚊の鳴くようなその声に、ラセルタは瞳を瞬かせる。そして、寒さに冷たくなった千代の頬を手のひらで両側からはさみこんだ。そのまま、額を近づけ、一言。
「千代、よく聞こえなかった。もう一度言え」
 あまりの近さに、千代は慌てふためく。反して愉しそうに笑うラセルタをむっとして見つめ、返した。
「……聞こえていたんでしょう」

 コトコトと筑前煮の煮える音がする。テーブルの上には綺麗に盛り付けられた御節。ドアの前にも注連飾り。これぞ正月、と言わんばかりの料理の準備を着々と進めていくのは神人のアキ・セイジ。
「あとは年越しソバを茹でて……」
 鍋に水を張ろうとしたその時、精霊のヴェルトール・ランスが一枚のチラシをセイジに突きつけた。
「え?除夜の鐘?A.R.O.A.が何故?」
 少しの懸念が頭をよぎる。
「いいじゃん、たまにはさ」
 ニッと笑ったランスの顔に流されるように頷いてしまう。
「そうだな。偶には良いよな」
 エプロンを外しながらそう答えれば、ランスはやった!とウキウキしながらセイジの支度を待った。……つまみぐいしながら。
 数の子を一口。……うまい。
 彼がコートを羽織る間に、好物の鶏焼もぱくり。……うまい!
「ランス、いくぞ」
「んむっ。おー!」
 お口に入ったおいしい御節を飲み込んで、ランスはセイジと一緒に寺へと向かうのであった。
 ところ変わって。
 鐘の前でセイジは少し考え込む。順番が回ってきて、手を合わせ、頭を下げて思うことは……。
(まさか男を好きになるとは思ってもなかったよ、けど、××じゃないから!たまたまランスが男だっただけだから)
 そんなことを思いながら、一度鐘を突く。重厚な音と共に、それもすべてランスに伝わった。
『……って煩悩になるのかこれも』
 いかんいかんと首を横に振るのを、ランスは笑いをこらえてみていた。
『ランスが大学に合格しますように……これじゃ願掛けだよ』
 セイジの欲張りな願望にセイジ自身冷や汗を垂らす。
(なんでこんなに顔がチラつくんだよ)
 何を思っても、ランスのことばかり。
『無心になれ俺!』
「……ん?」
 先ほどまでランスに聞こえてきた声がぴたりとやんだ。ダダ漏れの感情が止まったのだ。
 ニヤニヤしながら、ランスが交代で鐘の前に歩み出て、頭を下げる。
『御節美味かったし明日が楽しみだぜ』
 鐘を突きながら、そんなことを考える。
 セイジのこめかみがぴくっと動いた。
(やっぱり、ツマミグイしていたな……)
 響く鐘の音を聞きながら、ランスは願う。
『煩悩全部払ったらツマンナイから一寸だけ残そう。セイジの煩悩は特に残ってくれてもいいぜ』
 その声がセイジに伝わる。セイジは慌ててランスの方を見やった。
 ……この鐘……!?
『俺達出会えてよかったと思うしそーゆーのは払っちゃいかんの』
 いたずらっぽい、けれど真剣な願いに、セイジは胸の奥が少し暖かくなるのを感じた。
 嬉しいような、恥ずかしいような。
(だったら良いなっていう俺の願望なのだろうか……悪い気はしないけどさ)
 そこで、セイジはあることに気付く。
(今、御節美味いって言ったよな……?)
 鐘の列からそれて、合格祈願の賽銭を二人で賽銭箱に入れた後、セイジは言及した。
「ランス、ツマミグイしちゃダメだろ。お見通しなのだよ」
「んっ。そこも聞いてたのか。……っていうか、たまたま好きになったの、俺だったんだ~?」
 ニヤニヤしながら念を押すと、セイジは頬を染めてぷいとそっぽを向く。
「な、なんのことだ?」
「え~?全部聞こえてましたけど?」
「……っ」
 何も言えずに赤くなるセイジをつんつんとつつきながら、ランスは笑った。
「っくし」
 小さなくしゃみに、セイジが問いかける。
「寒くないか?甘酒でも飲むか」
「ん!」
 寒さで鼻を赤くしながら二人で飲む甘酒は、いつも以上に甘かったような。
「出会えてよかったっていうのは、俺も……同意だよ」
 照れくさそうなセイジの笑いと共に、二人の新年は始まった。

―余談だが。
「今度から正直に言えよ」
 あの受付嬢三人娘は、苦笑交じりのセイジに鐘の効果のほどを聞き、ニヤニヤしながら二人の背中を見守ったのだとか……。

「マジで伝わっちゃうんだね!」
「ね!」




依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月29日
出発日 01月03日 00:00
予定納品日 01月13日

参加者

会議室

  • [5]アキ・セイジ

    2015/01/02-11:49 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。
    背後がネオチしないようにたたき起こす予定。

  • [4]羽瀬川 千代

    2015/01/02-01:47 

  • [3]スウィン

    2015/01/02-00:05 

  • [2]木之下若葉

    2015/01/01-22:46 

  • [1]鳥飼

    2015/01/01-08:47 

    鳥飼です。
    皆さん、よろしくお願いします。

    除夜の鐘をつくのは初めてなので。
    ちょっと楽しみです。


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